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水産庁のNZレポートを徹底検証する その6


漁村への影響 漁業のみに依存した村は少なく、漁村への影響は考慮せず

漁業に依存した村は存在し、そのいくつかは衰退している。 ウェリントンの北部の漁村は消滅したとか、 そういう話はちゃんと調べればいくつも出てくる。 これは日本の沿岸漁業にとって重要な問題なので、 きちんと論じておく必要があるだろう。 まず、バックグラウンドとして、ITQを導入した当時のNZの状況をおさえておこう。

戦後のニュージーランドは、イギリスを主な貿易相手国とする農産物輸出国として発展し、世界に先駆け高福祉国家となる。しかし、1970年代にイギリスがECの一員としてヨーロッパ市場と結びつきが強まり、ニュージーランドは伝統的農産物市場を失い経済状況は悪化した。さらに、オイルショックが追い打ちをかけた。国民党政権は農業補助政策を維持する一方、鉱工業開発政策を開始するなど財政政策を行うもいずれも失敗し、財政状態はさらに悪化した。 wikipedia

政府による統制経済・補助金行政によって、国の財政が悪化し、80年代には首が回らなくなった。 その結果、国として、補助金行政からの方向転換を余儀なくされたのである。

NZの沿岸漁業は、そもそも生産性が低く、補助金に依存していた。 国が財政破綻した時点で、経済的に成り立たない漁村の運命は決まったのである。 これらの漁村の衰退は、ITQの導入よりむしろ補助金行政の終焉に起因する。

NZでは、ITQの導入に際して、漁獲枠を実績配分した。 今後はオークションに切り替えるようだが、今まで基本的に過去数年の実績ベースで配分してきた。NZの多くの資源を回復させて、それに伴い商業漁獲枠(TACC)が増加した。 NZの漁獲枠は、TACCに対する比率で設定されているので、 TACCの増加に応じて、個々の漁業者の漁獲枠は増加をしたはずだ。 ITQによって、小規模漁業者の権利が剥奪されたという考えは誤りである。 小規模漁業者にも、そこで漁業を続ける権利もあったし、漁獲枠も与えられていた。 にもかかわらず、いくつかの漁村は消滅したのである。 ITQによって小さな漁村がつぶれたのではなく、漁業者が移動をしたのである。いくらITQでもあまりに非経済な漁村を救うことは出来ないのだ。 NZでは国内に魚の需要はあまりない。 国際市場で価値を上げることが、資源の有効利用につながるのである。 交通の便が悪い小規模漁村に水揚げしても、魚に経済価値はつかない。 限られた自然の生産力を、経済的に有効利用するには、 むしろ、空港や加工場へのアクセスが良い場所に水揚げすべきである。 たとえば、サンフォード社の魚市場は、オークランド中央部から車で10分ほどの場所にあり、 空港へのアクセスも良い。この魚市場は、小規模漁業者からも魚を買い取っている。 こういう場所に水揚げすれば、安い国内価格ではなく、適正な国際価格で買い取ってもらえる。 労働力の移動が起こるのは当然だろう。 遠隔地で水揚げされた魚は、移動のコストがかかるので、必然的に地産地消になる。 人が生きていくには、魚以外のものも必要だ。 漁業しか産業がないような場所で、地産地消しかできない漁村は、 輸入だけをする国のようなもので、経済的に成り立たない。 遠隔地の漁村で地産地消というのは、構造的に破綻しているのだ。

例外は、観光地など、地元での水産物消費で外貨が稼げる場合のみだろう。 遠隔地地産地消漁業は経済的に成り立たず、維持するには、公的資金が必要になる。 その価値はどこにあるのだろうか? 地産地消の漁村を維持したところで、外部の人間には何のリターンもない。 むろん、国益上重要な漁村も存在する。離島の漁村は、国防上、実に重要である。 これらの漁村を維持するための離島政策をNZ政府はきちんと実施している。 NZを代表する離島としては、チャタム島がある。 この島は、アワビの名産地で、毎年、シーズンになると大勢の漁業者が飛行機に乗ってやってくる。 この島の漁獲枠は、公的機関が運営していて、漁業の収益は地方自治体に入る。 漁業からの税収で、学校や病院を建てることができたそうである。 離島の魚の利益が、その地域に入る仕組みをつくることで、地域経済を維持しているのだ。 地域コミュニティーを維持する手段として、漁獲枠を地域に与えるのは有効であろう。 では、日本の離島はどうかというと、まるで駄目。 小松さんがいろいろと計算していたのだけど、日本のEEZの8割は離島の存在による。 しかし、離島に水揚げされる水産物はごくわずかに過ぎない。 離島によって得たEEZの漁獲のほとんどは本州の港に水揚げされ、離島の経済に全く寄与しない。 俺には、今の日本の漁業システムが、遠隔地の漁村の維持に適切だとは思わない。 声が大きな地域に、場当たり的にあめ玉を配っているだけじゃないか。 「漁村の存在」を理由に、資源管理に反対する人間は多いのだが、 肝心な「漁村をどのように維持するか」という戦略は皆無であり、 本気で漁村のことを考えているとは思えない。 NZの経験は、実に示唆に富むものである。 まず、漁業の経済性を向上させ、持続的に利益が出せるようにする。 その上で、国益上重要な地域を特定し、その地域を漁業で維持できるような仕組みを導入する。 実に、合理的ではないか。 米国もITQの導入を進めているが、管理システムのなかで「地域への配分」というのが、 かなりのウェイトをしめるものになりそうだ。後だしジャンケンだけに、米国はよく研究している。

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