Home

勝川俊雄公式サイト

動画で見るノルウェー漁業 その1

[`evernote` not found]

期中改定で資源回復の芽を摘みそうなマサバ太平洋系群は、
今日の会議で、期中改定の内容が確定するはずなんだが、どうなったんだろう。
マサバ太平洋系群の資源評価票には、肝心なパラメータが記載されていないし、
試算が出来ない状況です。

まあ、マサバについては、状況が確定してから、バッチリ書くことにして、
取りあえずは、ノルウェーの話をしていきましょう。

日本の水産関係者がノルウェーに視察に行くっていうのは、ありふれた話で、
文字としての情報はそれなりにあると思う。
ただ、自分の目で見ると、「ああ、これは日本とは雲泥の差だ」と強く実感をした。
水揚げから冷凍に至るプロセスの一つ一つが魚のクオリティーを保つことに配慮されている。
サバの水揚げから、冷蔵までの一部始終をビデオ撮影してきたので、
動画によって現地で体感した衝撃の一部だけでも伝われば幸いです。
動画を見るには、「続きを読む」をクリックしてください

鯨害獣論について考えた

[`evernote` not found]

なにかと議論の対象となる鯨害獣論についても、考察をしてみよう。

「鯨が魚を大量に食べているから、鯨は害獣であり駆除すべきである」
というのが、鯨害獣論である。
クジラ害獣論は、国内の捕鯨推進派、特に漁業関係者からは大歓迎をされた。
彼らは元々捕鯨に賛成をしていた人たちであり、
彼らから歓迎されたところで捕鯨再開に向けて何の進展もない。

「持続的利用ならOKだと思うけど、日本に獲らせて大丈夫なの?」と
心配している人たちが世界中に居るわけだが、彼らは、
「こいつらは最後の一頭まで駆除という名目で獲り尽くすのではないだろうか?」
とますます不安になったに違いない。

さらに問題なのは、生態系モデルをつかって、クジラ害獣論を主張したことだ。
多少なりとも種間関係を含むモデルを扱った人間なら、
生態系モデルがいかに厄介な代物かを知っているだろう。
パラメータの設定によって、直感と逆の結果も簡単に出てくるのである。
生態系モデルのような大規模なものだと、数字の上では何でも起こりうる。
生態系の中にはほとんど情報がない生物が数多くいる。
商業利用される魚の量すらまともに推定できないのに、
漁業の対象とならない種なんて、情報がほとんど無いのである。
結局、こういう種は適当なパラメータを入れざるを得ないのだが、
この部分をどうするかで、最終的な結果は変わってしまうのである。
パラメータをいじれば、クジラがいることで生態系が安定するという結論だって導けるだろう。

生態系モデルを使い出したら最後、不確実性を巡る泥沼に足を踏み入れることになる。
こうなれば、「アレがわからない、これがわからない、だから調べましょう」と言って、
いくらでも時間を稼ぐことが可能になる。
それが如何に無益かは、新管理方式(New Mamangement Procedure)ので経験済みだろう。
以前提案されたNMPは、ベストな個体数推定値を元に、漁獲枠を決定する方式であった。
科学者委員会では、何がベストな個体数推定値かで揉めて、結局は漁獲枠を出せなかったのである。
個体数を推定する場合にも、様々な不確実性があり、計算の設定を一意的に決めることは出来ない。
日本はできるだけ個体数が増えるような設定を探し、英米はできるだけ個体数が減るような設定を探した。
こういうことをやれば、同じデータを使っても、でてくる結果には大きな差が出てくる。
双方が譲らなければ、何も決まらないのである。
この膠着状態を何とかしようということで、調査データを入力すれば漁獲枠が計算できる方式に変更された。
これが改訂管理方式(Revised Management Procedure)である。
せっかく科学者グループがRMPを完成させて、科学的に漁獲枠を計算できる状況になったのに、
生態系モデルを持ち出せば、もとのグダグダに逆戻りしてしまう。

俺としては、クジラが害獣であるか否かを議論するつもりは全くない。
クジラが害獣かどうかは、科学的には「わからない」というのが正解であろう。
生態系モデルを使ったからと言って白黒は付かないのである。
ただ、生態系モデルの結果を日本から持ち出すのはチョンボだと思う。

あるシンポジウムで、俺が生態系モデルが白黒をつけるツールとしては役に立たないと話したところ、
クジラ害獣論の元となる計算をした岡村さんから、
「世界の流れからして、日本としても生態系モデルは無視できない」というようなコメントをもらった。
俺としても、生態系モデルを無視して良いと思っているわけではない。
反捕鯨陣営が泥沼に持ち込む目的で、生態系モデルを持ち出してくる可能性はある。
現にYodzisなどは、そういう論文を書いているのだから、
日本としても、それに対する防御策を練っておく必要があるだろう。
「パラメータの設定によって結果が大きく変わるから、生態系モデルは信用ならない。
だから、単一種で頑健なRMPをつかいましょう」と言えるように準備しておくべきなのだ。
日本として必要なことは、生態系モデルの泥沼に引きずり込まれないような防御策であって、
自ら生態系モデルをつかって何かを主張することではないのである。

プロレスには飽きただよ

[`evernote` not found]

日本は商業捕鯨再開を本気で目指しているとは思えない。
米国の反対を押し切って、商業捕鯨を再開するというのであれば、
捕鯨国のアイスランド、ノルウェーと共同戦線を張る必要がある。
下関までは、日本はこの路線を目指していると思っていた。
その後の、グダグダな展開をみると、どうもそうではないようだ。
日本は鯨肉の輸入をしないことで、同盟関係を破棄しようとしている。
逆に、強硬路線はとらないということであれば、
捕鯨再開は国際世論の変化を待ってからと言うことになる。
国際世論の変化を促すためにも、
風当たりの強い調査捕鯨を続けるべきではない。
ホエールウォッチングのシンボルであるザトウクジラをわざわざ公海で獲って、
反捕鯨陣営を挑発するのは百害あって一利無しだろう。

日本は、捕鯨陣営からも、反捕鯨陣営からも、孤立しつつある。
こういう中でのIWC脱退の示唆は、1933年の国際連盟脱退を彷彿させる。
何のビジョンもないまま、その場しのぎを繰り返し、打つ手が無くなると、自暴自棄。
大本営は、今も昔も行動パターンが同じである。

今の日本のやりかたでは100年たっても捕鯨再開は無理だろう。
日本の行動は、捕鯨再開という目的からは非合理的である。
捕鯨再開は建前であって、本音は別だろう。
IWCで米国と派手に喧嘩をして、国内での捕鯨への世論を高めつつ、
調査捕鯨利権を確保したいのだろう。
俺には、そういう風にしか見えない。
これを邪推だというなら、日本の捕鯨関係者は、
どのようにして商業捕鯨を再開するかというビジョンを示すべきである。
そのためにどれぐらいの時間とお金がかかるかも、併せて示すべきである。
説明責任を一切果たしていない以上、邪推されても仕方がない。

俺個人としては、捕鯨自体には大賛成である。
クジラは持続的に利用可能な資源であり、利用しないのは勿体ない。
だからといって、日本の捕鯨関係者を応援する気には、到底なれない。
やるならちゃんとした戦略に基づいて、真面目にやるべきだし、
やる気がないなら止めるべきである。

日本の捕鯨運動はポーズだけのプロレスである。
捕鯨を再開したノルウェー、アイスランドに比べて、なんと情けないことか。
プロレスとガチンコの見分けも付かずに、
何のリテラシーもなく捕鯨陣営を応援をし続ける人々にも失望している。
ポーズをポーズと見抜けずに、踊らされる人間に支えられて、プロレスは続くだろう。

商業捕鯨再開への基本戦略

[`evernote` not found]

この記事には赤字の部分に誤りがあります。正しくは
http://kaiseki.ori.u-tokyo.ac.jp/~katukawa/blog/2007/11/post_244.html
をご覧ください

日本の基本戦略は、IWCおよび米国との関係をどうするかによって決まる。

1)ノルウェー・アイスランドと共にアメリカ様の許可が無くとも商業捕鯨を復活させる
    →南氷洋調査捕鯨を犠牲にしてでも鯨肉を輸入をすべき
2)アメリカ様にはたてつかずに、IWC,CITESの決定に従い、世論の変化を待つ
    →南氷洋調査捕鯨とIWC多数派工作は即刻止めるべき
3)IWCを脱退して、沿岸捕鯨で細々とやっていく
    →南氷洋調査捕鯨とIWC多数派工作にかかる経費は不要になる

選択肢は少ないはずなのに、日本の捕鯨陣営の戦略は全く見えてこない。
捕鯨陣営の建前(ポーズ)としては1)であるが、実際には鯨肉を禁輸して、
ノルウェー・アイスランドのはしごを外してしまった。

ノルウェーとアイスランドは、IWCの商業捕鯨モラトリアムを留保しているので、
IWCの枠内でも捕鯨をする権利があるわけだ。
日本およびノルウェーはCITESのミンククジラを留保しているので、
取引をすること自体は可能である。
IWCにしても、CITESにせよ、会議としては禁止されていることを、
抜け道を利用して行うわけである程度の非難は覚悟すべきだろう。
ただし、留保という制度が加盟国の正当な権利であると考えると、
鯨肉「販売」によって成り立っている「調査」捕鯨よりはマシだろう。
まあ、50歩100歩というのは間違いない。

日本は国として、鯨肉を輸入をするという姿勢を2006年には示していたわけだ。
一端は輸入に合意 しておいて、相手が捕鯨を再開してから、
はしごを外すのは国としての姿勢に問題があるだろう。
やる気がないなら、先方にもそう言っておけばよいのに。
日本の捕鯨陣営は口先だけで、これらの捕鯨国と共闘していく覚悟があるようには到底思えない。
日本の捕鯨陣営は捕鯨国による新たな商業捕鯨の復活を目指していないのだろう。

一方で、日本は国際的な協調性を重視しているわけでもない。
調査捕鯨に対する国際的な風当たりは、ノルウェー・アイスランドの商業捕鯨の比ではない。
調査と称して、これら両国の商業捕鯨の倍も獲っていれば、当然だろう。
「自衛隊は軍隊ではありません」みたいな詭弁が通用するのは日本人だけである。
国際世論を無視した調査捕鯨が、結果として世界の反捕鯨運動を支えている。
反捕鯨運動はアンチ巨人みたいなものと考えるとわかりやすい。
アンチ巨人は巨人というブランドがあって初めて成り立つわけだ。
日本のプロ野球がメジャーのファームのようになってしまった現状では、
巨人軍というブランドは失墜し、わざわざアンチ巨人をしようという人間は絶滅危惧だ。
それと同じで、日本が反対するから、反捕鯨がパフォーマンスとしての価値をもつ。
世界の反捕鯨運動を支えているのは日本の捕鯨運動、特に調査捕鯨である。
日本がごり押しすればするほど、自然保護団体も米国も集金できて勢いづくわけだ。
日本が「もう公海で捕鯨なんてやんねーよ、バーカ、バーカ」といって引っ込めば、
反捕鯨活動に対する旨みはほとんど無くなり、関心もなくなるだろう。
アメリカ様の心変わりを待つなら、そちらの方が早道だ。
米国が捕鯨容認に回ってから、調査を再開した方が結果として早道だ。

IWCもCITESも米国に支配されているわけで、
これらの枠組みの中で捕鯨を再開するにはグレーゾーンを使う以外にない。
グレーゾーンをつかってでも、早期の商業捕鯨再開を目指すならば、
ノルウェー・アイスランドの鯨肉を輸入して、捕鯨をビジネスの軌道に乗せる必要がある。
一方、グレーゾーンを使わないと言うことであれば、米国の雪解けを待たなければならない。
「調査」捕鯨を強行して、反捕鯨陣営に燃料を投入し続けるようなマネは止めるべきだろう。

俺個人としては、ノルウェーアイスランドと組んで、商業捕鯨の枠組みを再構築して欲しいと思う。
アイスランドはまだ完全に撤退を決めたわけではない。
http://news21.2ch.net/test/read.cgi/bizplus/1191919991/27n-
ノルウェーも日本の態度を見極めるために、漁業大臣が来日する。
今が、これらの捕鯨国に明確なシグナルを送るラストチャンスであろう。

茨の道を目指さないというのであれば、「調査」捕鯨は止めるべきだろう。
公海での調査捕鯨がある限り、米国の世論は捕鯨容認へとは向かわない。
米国が反対する限り、IWCはもとよりCITESは絶対に動かない。
「国際社会の合意が無い限り、外には獲りに行きません」という態度を明確にした上で、
IWCを一時的に脱退して沿岸捕鯨で一定量を国内供給するのが良いだろう。
牛肉の生産には水が大量に必要になる。
長期的には水資源の問題で牛肉の生産は減るだろう。
代替はクジラぐらいしか見あたらない。
日本が調査捕鯨によって、反捕鯨陣営に燃料を投入し続けない限り、
クジラを利用しようという方向に世界が動くのは時間の問題だと思う。

強硬路線にせよ、雪解け路線にせよ、最大の障害は調査捕鯨である。
日本が調査捕鯨利権にこだわる限り、時計の針は永久に止まったままだろう。
そもそも、商業捕鯨再開のための調査捕鯨だったはずであり、まさに本末転倒である。
日本は基本的な戦略を国際社会に対して明確にした上で、
商業捕鯨再開という大きな目的のために、調査捕鯨を中止する英断が必要だろう。

「調査」捕鯨に明日はあるか?

[`evernote` not found]

調査捕鯨は、副産物である鯨肉をうることで費用を捻出している。
大まかに言って、鯨肉販売の利益が50億円で、国からの補助が10億ぐらいかな。
調査捕鯨の資金を捻出するために、鯨肉の価格は非常に高く設定されている。
1kg2~3千円という価格設定のせいで、供給は非常に限定的である。
調査捕鯨の量は増やしたけど、その分値段を下げないと売れないようで、
やっぱり鯨研は火の車という話である。

この状況でノルウェー、アイスランドの鯨肉が安価で入ってきたらどうなるだろう。
ノルウェーなら、赤身が1kgがたったの600円である。
この値段なら、外食、中食を問わず、至る所に鯨肉が顔を出すだろう。
300円の鯨竜田丼だって、登場するかも知れない。
新しい食の選択肢がぐっと増えて、俺のような貧乏人の食生活が少し豊かになるだろう。
その代わり、べらぼうな値段を付けている日本の調査捕鯨の副産物は不良在庫となり、
調査捕鯨は資金的に成り立たなくなるだろう。
この捕鯨利権の問題こそが、いったんは合意した鯨肉の輸入を阻んでいる最大の要因だろう。

米国が反対するのはわかりきっていたわけで、それが理由で変節したわけではないだろう。
また、北大西洋の鯨肉には水銀やPCBの汚染が取りざたされているが、眉唾である。
確かに脂身には汚染物質がたまりやすいが、
アイスランドが輸出しようとしていたのは、汚染が少ない赤身である。
日本近海で獲られている小型鯨類の脂身よりよほど安全であろう。
ノルウェー・アイスランドの安全基準に不備があるなら、
日本から基準を示して対応してもらえば良いだけの話である。
そういう要求を日本側が出したという話は聞いたことがないので、変節理由はここでもないだろう
汚染の実態に関しては、専門分野ではないので、なんともわからんとですたい。
こんど宮崎先生にお目に掛かる機会があったら、その辺を質問してみよう。

今現在、高い金を出して鯨肉をありがたがって食っているのは、中高年のノスタルジーであろう。
値段の価値があるかというと、正直微妙というか価値は無いと思う。
料理の盛り合わせに1品入ってくるようなクジラ肉が美味しかった試しがない。
俺がまた行きたいと思ったのは、札幌の「おばんざい くじら亭」ぐらいだろうか。
今のままでは、鯨食の裾野は広がっていかずに、じり貧だろう。
鯨肉にノスタルジーを感じる世代がいなくなれば、それで終わりである。
これでは文化とは呼べないだろう。
日常的に食べてこそ文化であり、調査捕鯨では鯨食文化は守れない。
逆に日本人が日常的に食べれるほど獲ったら、どう見ても調査ではないだろう。

商業捕鯨を再開するための最短ルート

[`evernote` not found]

日本が商業捕鯨を再開するには、
多くの国が捕鯨をやりたいと思うような状況を作ればよい。
それが現状では唯一の方法である。
幸いなことに、アングロサクソン以外ではクジラ原理主義は少数である。
世界のマジョリティーは「絶滅のおそれがあるならモラトリアムにすべきだが、
持続的に利用できるならほどほどに食べても良いだろう」と思っている。
このマジョリティーを味方につければ、捕鯨再開への道は開けるはずだ。

アングロサクソン以外の反捕鯨国が、なぜ捕鯨に反対かを考えてみよう。
反捕鯨には、生態系に配慮をしているというポーズができるというメリットがある。
一方で、今は、ほとんどの国が捕鯨に経済的なメリットを感じていない。
「まあ、反捕鯨をしておくか、そっちの方がかっこいいし」という程度の反対だろう。
もし、捕鯨はビジネスとして儲かるということになれば、
そこに参入したいと思う国は山ほど出てくるだろう。

捕鯨が儲かる産業であるということを示せば、
IWCの勢力図はひっくり返り商業捕鯨再開への道は開ける。
逆に、捕鯨が儲からないとなれば、わざわざ捕鯨に賛成する国は無くなるだろう。
今は、ほとんどの国が捕鯨で儲けられるとは思っていない。
そういう状況で金をばらまいて多数派工作をするより、捕鯨が銭になると示すことが重要なのだ

そのための千載一遇のチャンスが到来した。
アイスランドとノルウェーの商業捕鯨再開である。
これらの2国は商業捕鯨モラトリアムを留保しているので合法的に捕鯨ができる。
日本がアイスランドとノルウェーから鯨肉を輸入しても、誰も文句は言えないのである。
日本がノルウェー、アイスランドから鯨肉を買いまくれば、
絶対に他の国も捕鯨容認・賛成に回るだろう。
そうなればIWCでのモラトリアムの廃止は時間の問題である。
現在、世界中で崩壊の危機に瀕しているマグロも、
20年まえまでは、日本人だけがありがたがっていたのである。
他の国では、スポーツフィッシングか缶詰ぐらいしか用途がない安い魚だった。
日本人が買い続けたことで、世界の国が競って獲るようになった。
鯨でだって、同じことがおこるはずである。

アイスランド・ノルウェーの商業捕鯨は、日本をターゲットにしている。
「鯨食は日本の文化で、日本には需要がある」と常々日本が主張していたから、
アイスランドは一部の国の強硬な反対を押し切って捕鯨を再開したのである。
にもかかわらず、日本は門戸を閉じて鯨肉を輸入しなかった。
アイスランドからしてみれば、はしごを外された格好である。
結果として、アイスランドは捕鯨から撤退した。
いっこうに市場を開放しない日本に業を煮やして、
もうすぐ、ノルウェーの漁業大臣が来日するらしい。
もし、アイスランドと同じようにノルウェーまで撤退したら、
「商業捕鯨は金にならない→反捕鯨でイメージアップをした方がよい」
というメッセージを世界中に送ることになる。
ノルウェー、アイスランドは、捕鯨のノウハウもある漁業国である。
そういう国でさえ商業捕鯨から撤退してしまったら、
新規に捕鯨を始めようという国などでてくるはずがない。

せっかく、棚ぼたで商業捕鯨への扉を開くビッグチャンス到来なのだが、
日本はマーケットを閉じることでその道を自ら閉ざそうとしている。
なぜ、日本は合法的な商業捕鯨で獲られた鯨肉を輸入しないのだろうか?

時には捕鯨の話をしようか その1

[`evernote` not found]

捕鯨に対しては多種多様な考え方がある。
クジラは漁業の邪魔をするから駆除すべきだと思っている人もいれば、
クジラは人間の友達だから食べるなんてとんでもないと考える人もいる。
捕鯨運動および反捕鯨運動の両者は、形而上学(宗教)の域に達しており、
話し合うだけ時間の無駄だろう。
IWC総会では、双方が自らの主張を繰り返すだけで全く議論がかみ合っていない。

IWCでいくら議論を重ねたところで、
英米豪が「ごめんなさい、捕鯨をしても良いです」なんて言うわけない。
RMPができる前は「捕鯨には科学的根拠が無い」とか言っておいて、
いざ科学者委員が捕鯨可能という結論を出したとたんに、
あれこれ難癖をつけて科学者委員会の助言を無視をするのである。
最初に結論ありきで、都合がよいときだけ「科学的な根拠」を盾にとり、
都合が悪くなすとさくっと無視する。
水産庁が国内のTAC制度でやっていることと同じである。

日本はIWCで多数派工作をして、捕鯨再開を目指しているようだが、
この線での勝利は望み薄である。
IWCは外交と国際政治力の場所であり、完全に英米が主導権を握っている。
外交力で圧倒的に劣る日本が、そこで勝つのは至難の業である。
下関では惜しいところまで行ったかもしれないが、そこが限界だろう。
向こうが本気で危機感を感じた場合、
政治力を駆使して日本のキーマンを外すことだって可能なのである。

IWCの中でいくらがんばっても、事態は動きそうにない。
追い詰められた日本代表団は、IWC脱退を示唆する発言をした。
IWCは、仮にも国際条約である。
「都合が悪いから脱退して好き勝手やりますよ」なんてことをしたら、
どれほど国際的な非難にさらされるかわからない。
日本は貿易でもっているような国であり、国際協調と信用が重要なのだ。
どうみても、IWC脱退は国益全体からはマイナスである。
IWCを脱退して商業捕鯨を再開するというのは、
日本にとってあり得ない選択であり、脅しにもならない。
むしろ、「もう打つ手がありません」と自ら白状しているようなものだ。

確かに、IWCという枠の中だけで物事を見ていると、事態の打開は難しいだろう。
しかし、実は、今まさに、商業捕鯨再開の決定的なチャンスが到来している。
にもかかわらず、千載一遇のチャンスを逃してしまいそうである。

失敗を認めることが最大の防御

[`evernote` not found]

我々はスケトウダラ日本海北部系群を守ることに失敗した。
しかし、その失敗の原因を追及し、対策を講じることで、次のステップへと進みつつある。
1998年級群の過大推定という苦い経験から、漁業とは独立な若齢魚の調査を充実させた。
これによって、漁獲開始までに、年級群の大まかな量が把握できるようになった。
また、資源が減少しきってから漁獲にブレーキをかけるだけの力は我々研究者にはないことも判明した。
そこで、資源が減りきる前に警鐘を鳴らせるように、合意形成のあり方を見直している。
日本海北部系群と同じ失敗は繰り返さないように全力を尽くしている。

我々の資源評価の歴史は、まだ始まったばかりであり、資源評価のノウハウはほとんどない。
今後も、様々な失敗をすることは避けられないだろう。
その失敗と真摯に向き合うことで、資源評価を磨いていくしかないのだ。
1)失敗を認める
2)失敗の原因を特定する
3)同じ失敗を繰り返さないように対策を講じる

この1から3のステップを、外部にオープンに行うことが組織防衛の最良の手段である。

一連の不祥事で様々な企業が袋だたきにあっているが、
国民は不祥事よりも、それを隠してごまかそうとしたことに憤っている。
たとえば、どんな企業であれ、製造業ならリコールはあり得る話である。
ある会社が製品をリコールしたからと言って、バッシングをされたりはしない。
リコールすべきことを知りながら、それを隠して、ごまかそうとした場合に、袋だたきにされるのだ。

資源評価も同じことである。
科学には限界があり、我々が常に正しい資源評価をできるわけではない。
それは、少し考えれば誰にでもわかることであり、
専門家が失敗を認めて、それに向き合っていく姿勢を示せば、有権者の理解は得られるだろう
未だに、失敗を認めたら権威が失われると勘違いしている専門家がいるのは、失笑ものである。
確かに専門家の権威を前面に出して、素人の目をごまかすことは可能ではあるが、
見る人が見れば、この手の嘘は一目瞭然なのだ。
高度な専門知識を持った人間がつっこみを入れだしたら、たちまち窮地に立たされ、逃げ場はない。
このことを、一部の人間は痛いほど実感しているはずである。

去年、ブロック会議が揉めたのも、このあたりの思想の違いが根底にある。
管理課は失敗については一切書かないことで、外部からの批判の芽を摘もうとした。
失敗を隠蔽すれば、数年は安泰かもしれないが、ばれたときにただではすまされない。
腹を切るのは水研の担当者だろうから、管理課的には知ったこっちゃ無いのかもしれない。
また、失敗をうやむやにし続ければ、太平洋系群でも日本海北部系群と同じ過ちを繰り返すだろう。
一方、俺は、失敗についてきちんと認めて、対策を明記することで、批判の芽を摘もうとした。
失敗と向き合うプロセスをしっかりと公開していくことで、
資源評価が改善されるばかりでなく、社会の批判からも守られるのである。

俺は北海道ブロックの資源評価が、自らの失敗を率直に認めた上で、
原因と対策についてオープンに話し合えるような場であって欲しいと願っている。
まだまだ不十分な点は多いが、全体としては良い方向に向かっていると思うし、
その中で自分が重要な役割を果たせたことを誇りに思う。

ただ、一つお小言を言わせてもらうと、
俺は水試が出してくる「ここだけの丸秘情報」というのが、実に気に食わない。
資料に残せないような情報でABCを決めたら、部外者に説明しようがないじゃないか。
後で、資源評価の結果が問題になったときに、説明責任が果たせなければ、
ボコボコにたたかれても仕方がないだろう。
安全のために、資源評価票に書けないような情報は使わない方が良い。
資源評価に必要な情報であれば、公開できるように手を尽くしてほしい。
それが、資源評価の信頼を高めて、自らを守る最良の方法なのである。

何でも隠しておけば安心という時代は終わった。
これからは、オープンにしておくことが最大の防御なのである。
このことを水産業界の人間は全然わかっていない。
今のまま何でも隠しておけば安心と思っていると、
社会保険庁のように袋だたきにされる日がやがて来るだろう。
Xデーはそう遠くないよ。

スケトウダラの未来のために その7

[`evernote` not found]

俺はトキの保全は、何がやりたいのか全然わからない。
日本のトキは、とっくに絶滅しているのに、
中国から輸入してきたトキに人工繁殖までしているわけだ。
既に絶滅したトキをミイラみたいな状態で維持するために莫大な金が投資されている。
その一方で、ほとんど顧みられることなく、多くの種が絶滅に瀕している。
すでに絶滅したトキよりも、まだ絶滅していない生物の保全が大切だと思う。
トキの絶滅を教訓に、次なる種の絶滅を防ぐ方が大切だろう。

資源管理もそれと同じ。
日本海北部系群は、もうどうすることもできないので、
スケトウダラの太平洋系群へと俺の関心は移っている。
この資源は、今がまさに勝負所だと思う。

これが太平洋系群の資源量。90年代中頃からコンスタントに減少している。
image07110201.png

RPSは低水準で安定している。
現在の漁獲圧は、90年代前半なら問題ないのだが、90年代後半以降の水準では資源を維持できない。
近年のRPSで資源を維持できる見合った水準まで、早急に漁獲圧を減らす必要がある。
image07110202.png

RPS(卵の生残率)が低迷し、漁獲圧がそれに対応できず、資源がズルズル減っている。
この状況は、日本海北部系群の10年前と酷似している。
この資源は今がまさに勝負所であり、これから5年の間に行く末が決まると思う。

この資源のBlimitとしては、過去最低の親魚量154000トンが設定されている。
現在、Blimitに徐々に近づきつつあり、
10%の確率で2013年度にはBlimitを下回るというシミュレーション結果が得られている。
絶対に、絶対に、このBlimitは死守しなくてはならない。

そのためには、Blimitまで達したら、abcをどこまで減らすかを研究者で決めておき、
予め漁業者に周知しないといけない

そうすることで、Blimitに近づいた時点で、漁業者に注意を促すことが出来る。
北海道の関係者であれば、Blimitに達してから「どうしましょう?」では、お話にならないことは、
日本海北部系群の経験から痛いほどわかっているはずである。
資源量推定値がBlimitを下回ったら、何があろうともABCを予告通り削減する。

資源量には、過小推定の可能性ばかりでなく、過大推定の危険性もあるので、
資源評価の不確実性を理由に先延ばしは許されない。

Blimitを防衛ラインと位置づけて、そこで頑張るのは当然のことであるが、
ベストを尽くしたとしてもBlimitを下回っても漁獲にブレーキがかからずに、
資源がズルズル減っていく可能性はある。だから、それに対する備えも必要だ。
今のうちにBbanも決めておき、Bbanまで資源量推定値が下がったら、
必ずABC=0にすると宣言すべきである。
Bbanは、我々の管理能力が無い場合の保険として必要なのである。
今までBlimit以下に減らしたことは無いわけで、Blimit以下になったとき時に資源がどうなるかはわからない。
よって、Bbanを科学的見地から一意的に決めることは不可能である。
ただ、資源が減らしすぎると増加能力が失われて、元の水準に回復しない事例が多数知られている以上、
ずるずると減らさないための閾値は必要である。

現在、俺が太平洋系群に対して、要求していることは以下の3つ。
1) Blimit以下になったら、ABCをどこまで削減するかを予め決めておくこと
2) 資源の減少に歯止めがかからない場合を想定し、予めBban決めておくこと
3) 水研、水試で1)および2)に対して合意形成をした上で、漁業者に周知すること

Blimitが近づいている現状では、残された時間はわずかであることを、肝に銘じて欲しい。

シンポジウムのお知らせ

[`evernote` not found]

今年はこんなシンポがあります。
OMをつかった管理方式というオタクなテーマで、
マニアが集う「奥の細道」的にディープな集まりになりそうですね。
普通の人がぶらりと来て面白いかは疑問ですが・・・

————————————————–

シミュレーションを用いた水産資源の管理
―不確実性への挑戦―

日時:平成19年11月28日(水)10:00~16:40
場所:東京大学海洋研究所 講堂
      〒164-8639 東京都中野区南台1-15-1     TEL 03-5351-6342
コンビーナー:平松一彦(東京大学海洋研究所・資源解析分野) TEL 03-5351-6494
              khiramatsu@ori.u-tokyo.ac.jp

プログラム
 10:00~10:50 オペレーティングモデルを用いた管理方式開発の現状
                   平松一彦(東京大学海洋研究所)

 10:50~11:40 ミナミマグロの管理方式の開発
                   黒田啓行(水産総合研究センター・遠洋水産研究所)

       昼食(11:40~13:00)

 13:00~13:50 小型鯨類の管理方法の検討
                   岡村 寛(水産総合研究センター・遠洋水産研究所)

 13:50~14:40 スルメイカ秋季発生系群のABC算定規則の検討
                   櫻田玲子(東京大学海洋研究所)

       休憩(14:40~15:00)

 15:00~15:50 マサバ太平洋系群の資源評価と管理方策の検討
                   渡邊千夏子(水産総合研究センター・中央水産研究所)

 15:50~16:40 管理規則の事前合意
                   勝川俊雄(東京大学海洋研究所)

 16:40 閉会 

————————————————–

現在の資源管理は、毎年、どうしようどうしようと悩む泥縄スタイルです。
泥縄スタイルだと、資源が減ってしまうとどうしようもない。
管理に一貫性を持たせて、適切なアドバイスをするためには、
「資源がこういう状態になったらABCをこうする」というルールが必要なのです。
これが管理方式です。

管理方式は、不確実性が大きく、政治的圧力が強い資源の利用には欠かすことが出来ません。
実際、IWCやマグロの管理などは管理方式を利用するのが一般的です。
平松さん、黒田さん、岡村さんは、もろに国際資源管理の舞台で活躍してきた人たちです。
彼らの知識を国内の資源管理にも活用していく必要があるでしょう。
国内の事例に関しては未だに検討事項みたいですが、まだ、しばらく時間がかかるかな。

俺は例によって最後ですな。
俺の後の人は話しづらいだろから、妥当な判断ですね(笑
事後的にズルズルと目標を下方修正する現在の資源評価をDISして、
管理方式に事前合意をすることの重要性を熱く語ります。
でもって、複雑なモデルに基づいて最適化された制御ルールよりも、
シンプルなルールの方が良いんじゃないかという話をするつもりです。
もちろん、シミュレーションによって、そのルールが機能するかどうかを見極めるのは当然ですね。

今、この講演の要旨を書いています。
いろいろと話すべきことが多くて、悩ましいですなぁ。

Home

Search
Feeds
Meta
Twitter
アクセス
  • オンライン: 0
  • 今日: 194(ユニーク: 65)
  • 昨日: 434
  • トータル: 9482542

from 18 Mar. 2009

Return to page top