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ノルウェー

資源管理をすると漁業は滅びるか?

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今まで見てきたように、TACの配分方式によって、漁業の方向性は変わってくる。
逆に言うと、現在の漁業の抱える問題点を明らかにした上で、
適切な方式を採用しなくてはならない。
不適切な配分方式を採用すれば、資源は守れても漁業は破綻する。
薬を間違えれば、治療どころか逆効果になるのと同じことだ。

資源管理をすると、魚を守る代償に漁業がつぶれてしまうと言う人がいる。
行政、漁業者、および、勉強不足の研究者だ。
確かにそういった実例はあるものの、そのほとんどが北米に集中している。
北米で用いられてきた資源管理こそが、フリーアクセスのダービー制度なのだ。

北米の資源管理の失敗原因は明白だ。
すでに過剰な努力量が存在する中で、ダービー制度に固執したからである。
すでにぱんぱんに空気が入った風船を小さくしたら、破裂するに決まっている。
空気を抜くための仕組みが必要なのだ。
米国に必要な管理制度は、ITQ(もしくはノルウェーのような譲渡付きIQ)である。

Vanishing Species: Saving The Fish, Sacrificing The Fisherman
Susan R. Playfair
Univ Pr of New England (2005/04)

この本は、ブログのコメント欄で教えてもらったのだけど読み応えがあった。
タイトル通り、資源管理の犠牲として苦しむ漁業者のルポです。
ダービー制度で漁獲枠を制限された米国の漁業者が、
なすすべもなく苦しんでいく様が、克明に示されている。
悲惨の一言に尽きる。

ただ、この本を読んで、「資源管理=漁業の崩壊」と結論づけないで欲しい。
資源管理は漁業に良くないという論調の多くは米国の失敗例に基づいているのだが、
米国の失敗の原因は、ダービー制度固有の悲劇なのだ。
適切な管理手法があるにもかかわらず、それを採用しなかったのが根本原因である。
医療ミスによって、患者が死んでしまったからといって、
医学には害しかないという結論にはならない。

そんなに心配なら、ITQの譲渡に制限すれば良いんジャマイカ?

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ITQ制度には次のような効果が期待できる
1)過剰な(無い方がよい)漁獲能力を削減できる
2)収益性の高い経営体に漁獲枠を集めることで、漁業の経済性が向上する

一方で、ITQによる弊害を心配する声も根強い。彼らの描く未来像は、こんな感じだ。

より利益を出せる経営体によるITQの買収が進み、漁獲枠の寡占化を引き起こす。
「漁業者は漁獲枠を売ることが出来るが、漁獲枠を買うことができるのは企業だけ」という事態になる。
大企業化した漁船は、大きな港のみに水揚げをするようになり、地方の港、加工は衰退する。
漁獲枠を寡占した経営者が、従業員に漁業をさせながら、利益だけを得る。
漁村は寂れ、漁業者の小作化が進むことになる。

要するに、古き良き漁業が、利益至上主義の経済行為となってしまうことを心配しているのだ。
確かに、ITQにはそのような側面があることは否定できない。
漁業を投機対象にすることには社会的な懸念があるだろう。
(まあ、今の日本漁業の生産性では、投機の対象外であり、それよりはマシだと思うが・・・)
譲渡を制限することで、この問題はある程度回避可能である。
漁獲枠の所有は漁業従事者に限ることにすれば、漁業の小作化は回避できる。

経済的効率と社会的平等のどちらを重視するかによって、譲渡に対する制限が決まってくる。
経済的効率を重視して、譲渡の制限を少なくしているのが、ニュージーランドとアイスランド。
社会的平等を重視して、譲渡を厳しく制限しているのが、ノルウェーである。

● ニュージーランドのITQ制度

ITQは、TACCに対する割合で設定されている。
例えば、1%の漁獲枠を持っている人間は、商業漁獲枠が100万トンであれば1万トン、
100トンであれば1トンの漁獲が可能となる。
一つの経営体が所有できる漁獲枠には10%~45%の上限が設けられている。
ニュージーランドのITQ制度は、独占の弊害が出ない範囲で、最大限に譲渡を許容している。
寡占化の弊害よりも、経済的な最適化を重視しようという考え方だ。

ニュージーランドのように、漁業は経済行為と割り切ることが日本で出来るはずがない。
ただ、今のような非効率的な漁業システムを多額の税金を投入して支えていくのも無理だろう。
幾ら漁業者に補助金をばらまいたところで、漁業を支える資源がもたないことは明白だ。
そこで参考になるのがノルウェーのITQ(もしくは、譲渡可能IQ)制度だ。

● ノルウェーのITQ(もしくは譲渡可能なIQ)制度

高木委員への反論材料として水産庁が「ノルウェーの漁業と漁業政策」という資料をまとめている。
これを読めば、ノルウェーの漁業政策がいかに合理的かが一目瞭然なのだが、
いまのところ水産庁のサイトにアップされているのを発見できない。
これをネタに、いろいろと書きたいことがあるから、早くアップして欲しいものだ。

ノルウェーでは、漁獲枠を船に割り振っている。
IVQ(Individual Vessel Quota)というシステムだ。
これによって、漁業者間の早取り競争を回避している。
また、制限付きの漁獲枠の譲渡を認めることで、過剰漁獲能力の削減にも成功している。
ノルウェーで許容されている譲渡は以下の3つである。

UQS(Unit Quota System)
2隻の漁船を所有する漁業者が、一方の漁船を漁業から撤退させる場合、
当該漁船を売却する場合には13年間、スクラップにする場合には18年間、
創業を継続する漁船により2席分の割当量を漁獲できる制度。

SQS(Structual Quota System)
2004年より沿岸漁業を対象に導入。
2005年からは、沖合・遠洋漁業の対象(UQSから移行)。
同種の許可を受けた2隻以上の漁船を所有する会社が、
1隻を漁業から撤退される場合(撤退する漁船のスクラップ処分が要件)、
当該漁船が受けてた漁獲割り当てを、操業を継続する同社の漁船にうつすことが出来る制度。

QES(Quota Exchange System)
2004年より沿岸漁業を対象に導入。
2人の漁業者が協力して操業する場合に、特定の期間に限り、
1隻の漁船により二入の行啓の割当量を漁獲できる制度。

ノルウェーでは、沿岸漁業から、大規模漁業までこれらの譲渡制度が完備されている。
その結果として、過剰な漁獲能力の削減をすることができた。

現在の人間の漁獲能力は生物の生産力を遙かに凌駕している。
例えば、かつてのアラスカのオヒョウ漁は1年間の割り当てを24時間で消化していた。
このような状態では、のこりの364日間は漁船が遊んでいることになる。
漁船を維持するには莫大なコストがかかるので、それだけ無駄が生じることになる。
二人の船主が共同で操業をすることにして、1隻を廃船にすれば、船の維持費は半分で済む。
船を減らして、漁獲枠を集めれば、それだけ手取りは増えるのである。
もちろん、共同経営をするかどうかは、個人の自由である。
貧乏でも船の主でありたい経営者は、そのまま漁業を続ければよい。
ノルウェーの場合は、多くの漁業者は経済性を高める道を選んだのである。

この譲渡制度の素晴らしいところは、
借金漬けの赤字経営体が、漁獲枠を譲渡して漁業から撤退できることだ。
日本の漁業は、かつて右肩上がりであった。
儲けがでても税金でとられてしまうので、漁業の利益は設備投資に回すのが常識だった。
それどころか、漁業者は借金をしてでも設備投資をしてきたし、国もどんどん融資をした。
この拡張主義の漁業は、右肩上がりで漁業生産が伸びることが前提であった。
しかし、70年代に入って、EEZが設定されて漁場が狭くなると、漁業生産が減少に転じる。
資源が減ったとしても、漁船を維持するために漁獲量を確保しなくてはならない。
借金をして設備投資をしてしまったので、「魚が捕れないから辞めます」という選択肢はない。
借金を抱えて撤退もままならない経営体が、赤字を減らすために獲って獲って獲りまくる。
その結果、資源が枯渇すれば、健全な経営体はどんどん減っていく。
借金漬けの赤字経営体は、補助金による水産振興という誤った漁業政策のツケである。
小サバを初めとする小型個体の乱獲は、どう見ても経済的な価値を産み出さない。
将来の収入減を考えたら、明らかな赤字である。そんなことは、獲っている人間は百も承知だろう。
現在の日本の漁業制度では、これらの債務超過の経営体には他の選択肢は無いのである。
漁獲量を減らせば、即破産→夜逃げコンボが待っていたら、獲るしか無いだろう。
今の漁業政策を続ける限り、この問題は解決しない。それどころか、酷くなる一方だろう。

もし、ノルウェーのような個別漁獲枠譲渡制度が完備していたらどうだろうか。
船自体に価値が無くとも、船に付随する漁獲枠には借金をチャラにする価値は生じる。
債務超過の経営体は漁獲枠ごと船を売却して、借金を清算して、漁業から撤退できるのだ。
漁獲枠を譲渡した船を確実にスクラップ処分する制度があれば、過剰漁獲能力の整理は進むだろう。
漁獲枠譲渡制度は、去る漁業者にも、残る漁業者にも、メリットがある。
こういう制度を整えた上で、漁獲枠を絞っていく必要があるのだ。

今の状態で、漁獲枠の総量を絞っても、漁業は成り立たないだろう。
中の空気はそのままで風船を小さくするようなものであり、風船が破裂するだけだ。
早急に空気が抜ける道を整えてた上で、漁獲枠の総量を絞っていくべきだろう。
日本漁業に残された時間はそれほど無い。

「ノルウェーはITQじゃない」という反論をゲットしました

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http://www.jfa.maff.go.jp/syogaikoku.pdf

水産庁は、高木委員提言に対する反論のための資料をまとめているようです。
「高木委員が褒めた海外の資源管理だって、実は上手くいっていないじゃないか」と言いたいようだ。
完璧な資源管理など存在しないわけで、どこの国でも多かれ少なかれ問題を抱えているのは事実だ。
他国の資源管理のあら探しをして、日本では資源管理が出来ない理由を並べて、
それで終わりにはしないで欲しいですね。
高木委員提言への反論としては、他国の漁業制度の長所・短所を整理した上で、
他国の漁業制度よりも日本の方が優れていると示す必要がある。
「日本には日本独自の資源管理があり、それは欧米の管理よりも機能している」という反論を期待してます。

このレポートで特に気になる記述は、これ。

ノルウェーではITQが実施されている、といわれることがあるが、ノルウェー政府に確認したところ、「ノルウェーでは、クォーターは船舶に付随しており、クォーターだけ独立して委譲することは出来ないので、これはITQ制度ではない」との回答を得ている。

俺もみなと新聞の連載で、「ノルウェーはITQによって努力量の削減に成功した」と書いたので、
この点についてはきちんと説明をする責任があるだろう。

漁獲枠を決めて、出口規制をする場合には、次の3つの方法がある

ダービー(オリンピック)方式
全体の漁獲枠のみ決めて、その枠に達するまで早い者勝ちで漁獲

IQ方式
個々の漁業者に予め漁獲枠を割り振ることで、無駄な早捕り競争を排除する

ITQ方式
個々の漁業者が与えられた枠を他の漁業者に譲渡・販売することで、経済的最適化を図る

IQとITQの違いは、個々の経営体に割り振られた漁獲枠が譲渡可能かどうかなんだけど、
ニュージーランドやアイスランドは、自由に漁獲枠を売買できるITQ制度を実施している。
ノルウェーでも、漁獲枠の譲渡は可能だが、ニュージーランドやアイスランドと比べると制限がある。
ノルウェーの漁業制度は、例外的な譲渡を認めるIQ制度とみることもできるし、
譲渡の制限されたITQ制度と見なすこともできる。
ノルウェーの漁業制度がITQかどうかというのは、白に近い灰色か、黒に近い灰色かという議論であろう。

個人的には厳密な意味でノルウェーの漁業政策がITQかIQかという問題には興味はない。
ノルウェーの漁業政策で、譲渡可能性がどのように運用され、どういう効果をもたらしたかの方が重要である。
ノルウェーでは、条件付きにせよ漁獲枠を譲渡可能にしたことで、
税金の支出を抑えながら、過剰努力量の削減に成功した。
譲渡可能性は重要なポイントであり、単なるIQ制度とは雲泥の違いである。
過剰な漁獲努力量の削減が日本漁業の重要な課題であり、
譲渡可能性の部分を参考にしないといけないのだ。

次回以降、
1)ノルウェーでは、どのような譲渡が認められているのか。
2)譲渡可能性によってどのような管理効果を得たのか
3)なぜ、日本はノルウェーの方法を参考にすべきなのか
を検証しよう。

ノルウェーの漁業管理は世界一らしい

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 ノルウェー水産物輸出審議会のプレスリリースで面白い記事を発見

英国王立国際問題研究所(通称:チャタムハウス、本部:ロンドン)はこのたび、『責任ある漁業への取り組みに関する調査』の結果、ノルウェーが世界でもっとも優れた漁業管理を行っているとするレポートを発表しました。
3年にわたって実施された同調査では、国連食糧農業機関(FAO)*が定める『責任ある漁業のための行動規範』の第7 条、「漁業管理」の遵守が評価されました。対象となったのは世界の総漁獲高の96%を占めるノルウェー、日本、中国などの53カ国です。調査では「水産資源の管理目標」、「正確な管理を実施するための仕組み」、「管理の実現に向けた予防措置の実施」の3分野で規範遵守への意思が評価され、「水産資源・船舶・漁具の管理と規制」、「社会と経済に対する責任の果たされ方」、「水産資源のモニタリング・管理・監督の徹底」の3分野で規範遵守の達成度が評価されました。ノルウェーに次いで高い評価を受けたのはアメリカ、カナダ、オーストラリアです。日本は第9位でした。

ノルウェーの1位とオーストラリアの4位は良いとして、
アメリカの2位は微妙だなあ。
3位に資源が枯渇しているカナダは無いだろう。
そこはかとなくアングロサクソンびいきですね。
どうみてもアイスランドの方がこれらの国より上だと思うが、
アイスランドのアの字もないのはThe Cod Warsの恨みですか?
日本が第9位というのもアレだな。
いったい、どういう採点基準か激しく気になるので、
元ネタを探したけど見あたらない。
英国王立国際問題研究所といえば、これだと思うんだけど、
http://www.chathamhouse.org.uk/
お目当ての文書が見あたらないずら。
どなたか、元ネタを知っている方はご一報ください。

マサバ貿易戦線異常あり

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近年、世界のマサバ市場に変化が起こっている。

下の図はノルウェーから日本に輸出されたサバの重量だ。
saba26.png

1990-2004まで15万トン程度で安定して輸入されてきたのが、
ここ2年間で激減しているのがわかる。
2006年は5万トンを割っており、今年度もさらに低下しそうな見通しだ。

何でこんなに減ったかというと、値段が上がったからだ。
saba27.png
Kgあたり130円程度であった単価が、2005年から倍以上に跳ね上がっている。

値段が上昇したのは、日本以外の国もノルウェーのサバを輸入しだしたからだ。
90年代はほぼ全てが日本に輸出されていたのが、最近は中国や東欧諸国への輸出が増えている。
いわゆる買い負け現象である。
下の図はノルウェーの輸出統計。

saba25.png

日本と中国の輸出が半減しているのに対して、ウクライナとロシアの輸出が急激に増加している。
つまり、日本と中国がウクライナとロシアに買い負けているのだ。

サバの貿易をまとめると次のようになる。
1990年から2004年までは、ノルウェーから日本に年間15万トンのサバが安定して輸出されていた。
saba23.png

それが2006になると次のように様変わりをしている。
saba24.png
日本に流れていたサバが、中国や欧州に輸出されるようになった。
その一方で、日本のサバが大量に安い値段で中国・アフリカに輸出されている。

おいしいサバ鮨を食べたい

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連日、サバのことばかり考えていたら、サバを無性に食べたくなったので、今日の昼ご飯はこれ。

saba21.jpg

ノルウェー産でした。

saba22.jpg

ノルウェーのサバは、サバ鮨にするには脂っこすぎる。
最初の2きれはおいしく感じたが、終盤、少しつらかったです。
サバと酢飯の間にショウガや大葉を入れて、すっきりとした食感にしようという工夫は見られたのだが、
どうにもこうにもサバの脂が多すぎる。
やっぱり、ノルウェーのサバは塩焼きが合うと思う。
サバ鮨に関しては、日本のしまったサバの方が絶対に合うと思うのだが、
一定の品質のものを安定供給できるからノルウェー産になってしまうのだろうか?

ノルウェー産のサバ鮨は1000円だったが、隣にあった関サバのサバ鮨は2000円でした。
国産もない訳じゃないんだけど、高すぎて手が出ないですな。

ノルウェーに日本のサバ市場を奪われた理由

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日本のサバ市場は、完全にノルウェーに奪われたのだが、これには理由がある。

ノルウェーは、石油などの豊富な資源を持っているけれど、
エネルギー資源が無くなるのは時間の問題である。
そこで、国を挙げて、持続的な産業を育てようと考えた。
その一つの柱が漁業だった。
先日、このプロジェクトに関わった人から話を聞く機会があったのだが、とても勉強になった。
プロジェクトの根底には、合理的かつ、大局的な戦略があるのだ。

限りある生物資源を持続的に有効利用するためには、
一番高く売れる場所に、一番高く売れるものを計画的に出荷すべきである。
ノルウェーは、(当時は)世界で最も魚を高く買う日本人をターゲットに、
欧州ではあまり消費されていなかったサバを輸出することにした。
ノルウェーのサバ漁業は、最初から日本のサバ市場に最適化されているのだ。
サバの漁獲が日本人が好んで食べるサイズに集中しているのは、そういう訳。
日本市場での価値を高めるために、ポンプで漁獲をし、良い品質で輸出をする体制を整えた。

ノルウェーは、国を挙げて、日本のサバ市場を取りに来た。
そして、日本のサバ市場は、完全にもっていかれてしまった。
日本のサバ市場を巡る競争は、グランドデザインの部分で勝負は決まっていた。
日本市場に最適化されたノルウェー漁業と、行き当たりばったりの日本漁業の差は、
漁業者個人の努力でどうこうというレベルではない。
日本漁業は、負けるべくして、負けたのだ。

日本の漁業関係者は、ノルウェーに自国市場を奪われた理由を真剣に考える必要がある。

日本も、限られた生物資源の生産力を持続的に有効利用するためのグランドデザインを持たなくてはならない。
サバだったら、サバ漁業全体を長期的,総合的に見わたした構想を練るべきである。
獲る前に「どの大きさで獲って、どこに売るのが一番儲かるのか?」という視点を持たないといけない。
とにかく獲れるものを早い者勝ちで獲って、その後で「どうやって売ろう?」と悩んでいる現状が続く限り、
日本漁業は衰退の一途だろう。

儲かる漁業はどっちかな?

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サバの漁獲物の年齢組成を比較してみよう。

saba14.png

ノルウェーは、ICES各区IVのデータ
http://www.ices.dk/marineworld/fishmap/ices/pdf/mackerel.pdf

2歳以上が生鮮用として高価になるのだが、
ノルウェーは2歳以上が81%に対し、日本はたったの13%。
日本人が食べるサバの生産はノルウェー頼みなのだ。

獲り方を変えれば、魚の値段は上がる

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1992、1996、2003と3回の当たり年があった。
にもかかわらず、未成魚の乱獲で資源増加の芽を摘んでしまい、
マサバ太平洋系群の資源量は今も地を這うような低水準だ。

普通に考えたら、大きくしてから獲った方が儲かるような気がするが、
なんで、未成魚で獲りきってしまうのだろう?
マサバの未成魚はそれほど儲かるものなのだろうか?

マサバの年齢別の体重はこんな感じ。
資源評価票に数値が記載されていなかったので、90年代のデータを引っ張り出してきた。
(図だけじゃなくて、数値も載せてください>担当者殿)
saba08.png

サバは大きさによって、名称と用途が違う。
200g以下は、ジャミと呼ばれて、飼料になる。
200~400gは、塩干し・節・缶詰になる。
400~600gは、生鮮、しめさば、フィーレになる。
600g以上の大サバは、生鮮の高級品だ。

年齢別の個体の値段はこんな感じになる。
小サバは1尾3円だが、6歳になれば1尾1000円になる。
saba09.png

 

マサバをどういう段階で利用しているかを見てみよう。
2000から2005年の漁獲量を年齢別にまとめると、次のようになる。
saba10.png


飼料・缶詰にしかならない小さいサイズで獲りすぎて、
値段が上がってくる3歳以上は殆ど居ないのだ。

さて、漁獲個体数に個体単価をかけると、年齢別の漁業収益を計算できる。
漁獲尾数と漁業収益を基準化して比較してみよう。
saba11.png

0歳は漁獲尾数はべらぼうだが、収益には殆ど結びついていない。
一方、尾数としては少ない大型個体が収益の大きな割合を占めている。

たとえ、天の恵みで、小サバが大量に発生しても、
食用として需要があるサイズになる前に獲られてしまう。
「サバが豊漁」なはずなのに、スーパーの鮮魚コーナーは
ノルウェー産のサバに席巻されている理由はここにある。
日本の漁業者は、生鮮用として価値が上がるまでの数年を待てないで、
飼料にしかならないような小型のサバを我先にと獲ってしまう。
結果として、消費者が高く買う大型個体は国内では供給できない。
魚離れ?冗談じゃない。
漁業者が乱獲で資源をつぶした結果として、消費者には輸入品に頼らざるを得ないのだ。

また、サバは2歳で一部が成熟し、完全に成熟するのは3歳からだ。
ということで、0歳、1歳で大半を獲り尽くしてしまう漁業をしている限り、
永遠に資源量は低水準のままだ。

ノルウェーのセミナーの感想

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いろんな意味で、圧倒された。
日本漁業とのコントラストはすさまじいね。
まさに、勝ち組と負け組って感じ。
生産、流通、消費、行政、と全てに於いて、違いを思い知らされた。
俺は、話を聞いているうちに、だんだん、ブルーになってしまった。

最初に水研センターの人が日本の資源管理の説明をした。
資源管理型漁業とTAC制度の枠組みの話をして、成功事例がハタハタとズワイガニ。
どっちの事例も国とは関係ないじゃん。
国が乱獲抑制のための努力をしないから、
民が努力をして資源管理をしなくてはいけないという日本の寒い事情に涙が出た。

ノルウェーは、いかに自分たちの漁業が持続的であるかを繰り返し強調していた。
世界的に見れば、「持続的」であることは経済的に強みになる。
生態系に対する意識が高い人々は、持続的に獲られた魚を高くても食べる。
さらに、流通にしてみても、持続的に供給できる漁業と取引をしたがるだろう。
また、水産物を高く売るための努力も余念がない。
まず、品質管理が徹底している。
品質の問題が発見されても、必ずすべてをオープンにするという。
こういう制度なら、消費者は安心だ。
また、このセミナーも大使館が日本の水産会社を招いて、
ノルウェーの水産物のプロモーションをする会だったようだ。
国を挙げて、水産物の輸出をバックアップ体制が整っている。

一方、日本の漁業関係者は、非持続的な漁業には完全スルーで、
消費者が魚を買わないのが悪いと言わんばかりだ。
つーか、ノルウェーの輸出が伸びて居るんだから、
やりようによっては、魚の消費は伸びることは明らかだろう。

日本の消費者は、持続性に対して鈍感だ。
持続的な漁業で獲られた魚は、日本では高く売れるだろうか?
そもそも、消費者はそんなことを考えて買い物をしないだろう。
値段と品質。それだけだ。
資源の枯渇に関する報道でも、消費者は値段が上がることしか心配していない。

日本漁業は自分たちの問題点をしっかりと認識した上で、
ノルウェーのような資源管理先進国から学ばないといけない。
そのためには、まず、俺が学ばないといけない。
そんなことを痛感するセミナーであった。

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