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クロマグロに関する報道の内外格差の検証:クロマグロは増えていて、安くなるのか?

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太平洋クロマグロを管理する国際機関WCPFCのレポートのドラフトが公開されました。例によって、例のごとく、国内外で報道の方向が180度違います。

太平洋マグロ、規制継続なら20年で3・6倍に
読売新聞(2013年1月10日09時22分) 

http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20130109-OYT1T00226.htm

日本近海を含む太平洋産のクロマグロ(親魚)が、2030年までに最大で10年の3・6倍に増える可能性があるとの予測を、漁業管理機関「中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)」の科学委員会が8日公表した。
日本で消費されるクロマグロのうち、太平洋産は約7割を占めている。資源量の増加は、将来的な価格下落につながる可能性もあり、日本にとっては朗報といえそうだ。

web魚拓

太平洋のクロマグロは2030年に3・6倍に 国際委員会が予測、現行水準で規制続けば
産経新聞(2013.1.10 18:34)  

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/130110/biz13011018360038-n1.htm

中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)の科学委員会が、太平洋クロマグロの漁獲規制が現行と同水準で続けば、2030年には親魚の資源量が10年水準の約3・6倍に増える可能性があると予測したことが10日、分かった。

日本で消費されるクロマグロの7割弱は太平洋クロマグロ。資源量が増えて漁獲規制が緩和されると、価格下落につながる可能性がある。

科学委員会は8日公表した報告書で、10年の親魚の量が2万3千トン弱と歴史的な低水準にあると指摘した。

web魚拓

どちらも同じような「増えるよ、安くなるかもね」という大変に楽観的な論調。産経新聞が現在の資源量が低いことにさらっと触れているが、読売にはそれすら無い。

一方、同じ報告書を元にした海外発のニュースはこんなかんじ。

太平洋クロマグロの資源量急減、漁獲規制が不十分-環境団体
ブルームバーグ(2013/01/09 13:42 JST)

http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MGCAA86KLVS001.html

太平洋クロマグロの資源量は過剰な漁獲が影響し、漁獲しなかった場合の水準を96.4%下回っているとピュー環境グループが指摘した。

詳しくはリンク先を全文読んでほしいのですが、全く違う論調です。実はこれ同じ報告書を元にしているのだから、驚きですね。どこを抜き出すかによって、読み手に全く異なる印象を与えることができるのです。

 

実際に、報告書を見てみよう

ソースによって内容が大きく違う場合は、一次情報に当たるのが鉄則。ということで、報道の元となった報告書の中身を見てみよう。公開文書ですので、こちらからダウンロードできます。

http://isc.ac.affrc.go.jp/pdf/Stock_assessment/Final_Assessment_Summary_PBF.pdf

英語だし、専門用語が多いので、要点となる部分を説明します。

太平洋クロマグロの資源状態については、3ページ目の 4. Status of Stockに重要な記述があります。

Although no target or limit reference points have been established for the Pacific bluefin tuna stock under the auspices of the WCPFC and IATTC, the current F (average 2007-2009) is above all target and limit biological reference points (BRPs) commonly used by fisheries managers (Table 2), and the ratio of SSB in 2010 relative to unfished SSB is low (Table 3).

地域漁業管理機関WCPFC・IATTCは、太平洋クロマグロ資源の管理目標となる指標を何も示していないのだが、現状の漁獲圧(2007-2009の平均)は一般的に利用される管理指標のすべてを上回っており(Table 2)、漁獲が無かった場合と比較した産卵親魚量(SSB)も減少している(Table 3)。

少しでも専門知識があれば、これを読んだだけで「こりゃ駄目だ」とわかります。それぐらいダメダメなのです。どこがどう駄目かを、3つのポイントに絞って説明しましょう。

1)管理目標を設定していない

目標の設定は資源管理の大前提です。「資源をどういう状態に維持します」という目標があって、「ではどうする?」という議論ができる。

たとえば、大西洋の水産資源を管理するための機関であるICESは、資源量を目標値(Bpa)以上に、漁獲圧を目標値(Fpa)以下にするという明確な方針がある。資源量が目標値を下回った場合、および、漁獲死亡が目標値を上回った場合には、速やかに漁獲圧を削減する。このように、維持すべき目標があって、初めて、迅速な管理措置がとれるのです。「太平洋クロマグロには、管理目標すらない」というのは、管理が体をなしていないことの証です。

2) 現状の漁獲圧は一般的に利用される管理指標のすべてを上回っている

乱獲には、乱獲行為と乱獲状態という2つの形態がある。

乱獲行為: 非持続的な漁獲圧をかけること
乱獲状態: 生物の生産力が損なわれる状態まで資源を減らしてしまうこと

肥満にたとえると、カロリーのとりすぎが乱獲行為。健康に害がでるほど太ってしまうことが乱獲状態ということになる。カロリーを取り過ぎたからといって、必ずしもすぐに肥満になるとは限りません。乱獲行為と乱獲状態は分けて考える必要があります。漁業資源の管理の場合は、漁獲圧を強くしすぎない(乱獲行為の回避)、産卵親魚を減らしすぎない(乱獲状態の回避)、という2点が重要です。

乱獲状態の指標には、いろいろな考え方があるのですが、一般的なものを並べてみるとTable 2のようになります。

FmaxやFmedなどが、一般的に利用されている管理指標です。表の数値はこれらの管理指標と現在の漁獲圧の比を表しています。値が1よりも小さいということは、現在の漁獲圧が管理指標よりも大きいことを意味します。太平洋クロマグロの場合は、一般的に利用されいている管理指標を上回っているので、乱獲状態にあると言えます。管理指標にもいろいろあるのだけど、一般的にはF0.1, F30%, F40%が採用されます。たとえば、F30%のところには0.35という数字があります。これはF30%という管理指標を採用するなら、漁獲圧を現在の35%まで削減する必要があることを意味します。

Table2のなかで、注目してほしいのがFmedです。Fmedというのは、過去の平均的な条件で資源が平衡状態になる漁獲圧なので、現状の漁獲圧がFmedを上回っているということは、過去の平均的な環境のもとで、資源は減少することを意味します

3) 現在の産卵親魚量は、漁獲が無かった時代の3.6%まで減っている

クロマグロがどのぐらい減っているのかというのは、最後のページのTable 3をみるとわかります。

この表の右から2番目のDepletion Ratioというのが、漁獲が無い時代の親の量と2010年の親の量の比です。Run1からRun20まであるのは、シミュレーションの設定による違い。 自然死亡など、正確な値がよくわからないパラメータがたくさんあるので、様々な可能性を検討するために、20のシナリオを作って、シミュレーションをしているのです。20のシナリオの中で、現時点で一番もっともらしいと考えられているのが、ベースケースのRun2です。この場合、資源量は未開発時の3.6%まで減少していることになります。どんなに楽観的なシナリオでも5.4%、悲観的なシナリオだと2.1%まで減っているのです。

一般的な水産資源管理では、産卵親魚量は、未開発時の40%から50%を維持すべきと言われています。その水準を下回ったら漁獲規制を厳しくして、未開発時の20%を下回ったら禁漁にするというのが一般的な考え方です。10%を下回ったら、資源崩壊と見なされます。太平洋クロマグロの場合は、其れを遙かに下回る資源状態で、Fmedを上回る漁獲圧をかけているのだから、あまりにも非常識かつ無責任です。

2030年までに3.6倍に増えるとか言ってますけど、3.6%が3.6倍に増えても、未開発時の13%です。「資源が乱獲状態を脱した」というには、未開発時の40%程度まで回復させる必要があります。今からちゃんと漁獲規制をしたとしても、俺が生きている間にそこまでたどり着けるかどうか・・・。

そもそも、乱獲されていない資源は、短期的に3.6倍には増えません。未開発時の40%までしか減らしていなければ、禁漁をしたところで2.5倍にしか増えないのですから。

日本のメディアは、なぜこのレポートを元に、楽観的な報道をできるのか?

レポートの内容を見ていくと、太平洋クロマグロの悲惨な状態がわかると思います。このレポートをみてもため息しか出ませんでした。レポートでも、資源は乱獲されているという明記されています。

このレポートをもとに「クロマグロが、3.6倍に増える。安くなるかも!」という記事を書ける日本のメディアはなんなんでしょうね。救いようが無いことに、業界紙を含む国内メディアの大半が、足並みをそろえて、同じ論調の報道をしました。「3.6倍に増える可能性が示された」というのは嘘では無いのですが、前提となる悲観的な情報を取り除いて、その部分だけを楽観的に伝えるのは、世論操作と言っても良いと思います。消費者が資源の減少について知らされないまま、持続性を無視した消費活動を続けていけば、食卓から魚が減っていくのはやむを得ないと思います。

産経新聞にツッコミを入れつつ、まぐろ養殖業について、まじめに語ってみた

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「近大マグロ」庶民の味になるか 天然と遜色なし「ほとんど区別がつきません」
産経新聞 12月23日(日)12時0分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121223-00000513-san-bus_all

養殖業を否定する気は無いし、マグロ養殖が持続的な産業として、発展してほしいと思っている。マグロ養殖業の現状について、正しく知ってもらうために、情報を整理してみよう。

1)タイトルと記事の内容が一致していない

「庶民の味になるか」というタイトルなのに、本文には、安くなる要素が示されていない。むしろ、高止まりするという内容ばかり。産経新聞的にはどっちだと言いたいのだろうか。

  • ブランドの知名度も上がっており、意外と高値のままかもしれない!?
  • 脂の乗り具合もきわめて良いことから高級」とされ、高値で取引される。
  • 業界関係者は「有名になってきたことで取引が活発化すれば、値段は意外と安くならないかも」と推測する。

新聞の報道記事で、タイトルと本文の内容が逆というのは、いただけないですね。

2)天然と養殖の味が違う

気になる養殖クロマグロの味だが、「天然のマグロと食べ比べましたが、遜色(そんしょく)は全くなく、ほとんど区別がつきませんでした」とサントリーHDの担当者は打ち明ける。クロマグロの体長は大きなもので3メートルを超え、重さは400キロにもおよぶ。脂の乗り具合もきわめて良いことから高級」とされ、高値で取引される。

運動不足でメタボな養殖マグロと、常に運動をしている天然マグロは、味的には別物です。天然ものでも、脂ののりは時期によって大きく異なります。境港のクロマグロは産卵場で産卵群を漁獲するので、脂が抜けている。冬に北で獲れるマグロは、腹の部分を中心に一部に脂がのるが、ほとんどが赤み。もともとトロは、ほんの一部だからこそ、珍重されてきたのです。それに対して、畜養は運動不足な状況で、餌を多く与えるので、腹ばかりか背中までトロのようになる。

脂の量: 養殖>>>天然(冬)>天然(産卵期)

 天然よりも脂が多いから養殖はダメかというと、そうではありません。脂が多い方が日本市場で価値が出るから、わざわざそういう育て方をしているわけです。養殖マグロの脂の多さは商品価値なわけです。ただ、味や食感が違うので「遜色が無い」というは無理があるように思います。むしろ、脂がたっぷりと言うことをアピールすれば良いだけの話だと思うのですが。

俺の個人的な感想としては、養殖マグロが天然とはべつものだけど、なかなか美味しいと思う。「養殖マグロはイワシ臭い」と言う人もいるけど、俺はそう感じたことはないな。養殖マグロのトロは脂が多すぎて苦手なのだけど、赤身の部分はほどよい脂で美味しいと思います。技術革新があるので、味は年々向上しているので、今後が楽しみです。

養殖は天然とは、良くも悪くも別物。養殖は天然と比べて様々なコストがかかるのだから、養殖ならではのメリットを明らかにして、差別化をする必要があるわけです。

養殖のメリットとしてはこんな感じ。

1) 時期を選べる(多少しけても出荷できる)
2) 処理の最適化
3) 脂ののりを調整できる

在庫管理とQCが出来ると言うことです。安定供給が重要な取引先からは重宝されるでしょう。

養殖マグロの水揚げを見学したことがあるのですが、なかなか面白いですよ。いつもと同じように餌やるのだけど、餌の中に針をしこんだものを混ぜておく。マグロが針を食べたら、糸を通して針に電気をびりっと流して、感電したマグロを釣り上げる。マグロが気絶しているうちに、神経抜きをして、えらわたを抜いて、氷漬けしてしまう。この作業はほんの一瞬。泳いでいたと思ったら、次の瞬間には処理されてしまうのだから、鮮度は抜群です。天然はなかなかこういう風にはいかない。一本釣りは、釣ってから、船に上がるまで、長時間、魚と格闘をする。その間に、魚は疲れるし、必死で泳ぐから体温が上がる。築地のまぐろ屋いわく、大間のマグロは半分ぐらい焼けているらしい。当たり外れがあるわけだ。また、船によっては魚を冷やし込むスペースが無いので、そのまま船の脇にぶら下げて港に帰ったりする。巻き網の処理はさらに遅くなる。網みの中で大暴れした後、一昼夜かけて港まで帰る。それから慌てて、処理をする。境港のマグロは、港に着く頃はすでに冷凍できる状態では無い。

素早く適切な処理ができるかどうかは、味に大きく関わってくる。まともな処理をされていない天然よりも、ちゃんとした処理がされている養殖の方が、外れは少ない。そのあたりのメリットを出していくと良いと思う。養殖マグロも、天然とは別の価値をもつブランドを築いてほしいし、そうでなければ産業として残れないだろう。

あと、「クロマグロの体長は大きなもので3メートルを超え、重さは400キロにもおよぶ」というのは、天然の話です。養殖クロマグロは30kgぐらいで出荷されます。このサイズを超えると卵を持つようになるので、成長が悪くなるから、非効率だからです。

3)養殖はえさ代がかかるので、庶民の味にはなり得ない

1kgのマグロをつくるのに、20kgのイワシ・サバが必要。これらの餌は1kgが70円として、えさ代だけで1400円になる。必要経費はそれだけでは無い。マグロ養殖の場合は、設備投資、人件費、種苗代など諸々込みで、2500円ぐらいが損益分岐点と言われている。養殖は、網ごと津波で流されたり、病気などのリスクがあるので、キロ3500円では売りたい。現状よりも安くなると経営的に厳しいのである。実は、現状ではマグロ養殖は余り儲かるとは言えない。だいたいがトントンで、経営体によっては赤字だろう。将来的に技術が確立されてくるとコストが下がって、回収できるとふんで、先行投資をしているのである。

値段がどんどん安くなって、庶民の味になったらどうなるだろうか。マダイとハマチの養殖が、現在どうなっているかを見ればわかる。マダイとハマチ(ブリ)は、養殖技術が70年代に確立されて、急激に広がった。その結果、高級魚であったマダイとハマチの値段が安くなった。「めでたしめでたし」というと、そうでは無い。生産現場はかなり末期的な状況だ。

マイワシの不漁と魚粉の国際価格の上昇によって、えさ代が原価の8割以上になってしまった。これに設備投資やワクチン代、種苗代などと入れると、つくる前から赤字確定の場合もあります。マダイやハマチの養殖業者は零細が多いので、夏頃にはえさ代がショートするわけです。そこで、スーパーマーケットに安く前金で販売して、冬場までのえさ代に充てるというような状況になっています。スーパーのために、ただ働きをしているようなものですね。マダイ、ブリの養殖業者はばたばた倒産しています。獲る漁業よりも、むしろ、養殖業の方が経営体の減少率が大きいのです。漁業経営体全体が23/5%減る間に、ブリ養殖業者は34.7%、マダイ養殖業者は40.1%も減っています。

http://nria.fra.affrc.go.jp/kenkyu/sekai/2_3_2.html

獲る漁業は、船を出さないと経費はかからないのですが、養殖は設備投資をしているので、魚をつくらないわけにはいかない。でも、今の餌代と魚価では、つくっても赤字が確定的。結果として、体力が無いところから淘汰されているという状況。養殖マグロの場合も、1kg2500円を割るとこのような事態になります。マグロ養殖業が産業として生き残るには、キロ単価2500円+αを死守する必要があるのです。1kg 2500円ということは、100gで250円。売値は原価の3倍程度になるので、店に並ぶのは、100gで750円ということですね。利益を出すにはもっと高く売らないと駄目。つまり、マグロ養殖業が産業として成り立つためには、豚肉や鶏肉のような値段にはならないのです。

4)天然の方が安い場合も多い

24年1月には東京・築地の中央卸売市場で、269キロの青森県大間産のクロマグロが、築地では過去最高値となる5649万円で競り落とされた。1キロあたり21万円。仮に握りずし1貫(2個)分の価格を計算すると、「赤身で1万円以上、大トロで2万~3万円」(市場関係者)で、庶民が気軽に食べられるものではない。

これに対し、今回の料理店では「養殖クロマグロの頭の先から尾ひれまで、あらゆる部位を食材として活用し、少しでもお値打ちな料金で提供したい」(近大担当)。客単価は、昼食時で1千円前後、夕食時で3500~6千円を想定しており、いずれも大阪・梅田付近では平均的な価格となる。

産経の記事のおかしなところは、築地の初セリという例外中の例外のような価格を引き合いにして、近大マグロの割安感を引き出していることだ。1キロ21万円のマグロなんて、誰も食べないよ。すしざんまいも、別に初セリのマグロで利益を出そうとは思っていないので、「初競り 大間産まぐろ 中トロ」だって、1貫 312円で店に並べていたのです。1キロ21万円はマグロの価値では無くて、広告費だから。初セリのマグロを落とせば全国ネットでテレビ取材されて、店の露出になる。たったの5千万円で、NHKから民放までゴールデンタイムに放送してくれるのだから、えらく効率が良いのです。こういう法外な値段がつくのは、メディアが取材をする築地の初セリの1番良いマグロ1本だけ。普通は、大間の本マグロだってキロ1万円とかそれぐらいですよ。この辺の仕組みはメディア関係者なら知っているはずなんだけど。

では、養殖マグロの市場の評価はどんなもんでしょうか。クロマグロの養殖と天然のキロ単価(産地)を図示したのがこの図になる。

養殖まぐろの産地価格(漁業情報サービスセンター)

天然は冬に価格が高いですね。12月から3月ぐらいの脂ののったマグロは実に旨いです。一方、7~8月は天然の相場が急落します。これは、産卵場のやせたマグロを巻き網で集中漁獲しているためです。養殖マグロは1年を通して、価格が安定していますが、市場の評価としては、天然の低ランクと同程度というところでしょうか。注目して欲しいのは、7月、8月には天然の方が養殖よりも安くなっている点です。大量漁獲される産卵期の巻き網のクロマグロは、1kg1200円ぐらいまで落ちるので、養殖の半値ですね。同じく巻き網で漁獲される未成魚(ヨコワ)は1kg500円ですから、養殖マグロの1/5ぐらいの値段なわけです。餌代を考慮すると、こういう値段のクロマグロとは太刀打ちできません。

つまり、天然は高いけど、養殖は安いというような単純な構図ではないのです。天然はピンキリに対して、養殖は品質が安定しているのが特徴です。

築地の初セリ(広告費)>>>>>>冬の一本釣り・延縄のマグロ>普通の天然マグロ>養殖マグロ>境港の巻き網マグロ>巻き網のヨコワ

養殖よりも安い天然はいくらでも存在するのです。例外中の例外である築地の初セリを引き合いに出して、「近大マグロは安い」というのはあまりにも無理がある話。そもそも、養殖マグロは、天然と比較しても、それなりの値段で売らないと利益が出ないわけです。

5)場所の制約があるので、養殖の生産量は増やせない

一般人が誤解しやすいポイントなんだけど、養殖って、いくらでも魚を作れるわけじゃ無いのです。養殖をするにはそれに適した場所が必要。

マグロ養殖.net http://www.yousyokugyojyou.net/index4.htm

ここにマグロ養殖場の地図がある。太平洋側は三重が、日本海は隠岐が北限。これより水温が低くなると、魚の成長が遅くなって、採算がとれないのだ。三重の経営体は、巻き網漁船が、兼業でマグロの養殖もやっている。自前で餌が確保できるという経営上の強みがあるから、この水温でも何とかなっているみたい。餌を外から買ってくる方式だと厳しいのでは無いかな。

水温が暖かくて、マグロ用の大きな生け簀を浮かべられて、それなりに深い湾というのはそう多くない。マグロの養殖適地は、企業の争奪戦でほぼすべてが埋まっている。ということは現状の1万トンから、養殖マグロの生産量を増やす余地は無いのである。日本人が消費するマグロ40万トンのうち、クロマグロ(太平洋・大西洋)は4万トンに過ぎない。日本の養殖で生産できるのはそのうちの1万トンが上限。もちろん、陸上養殖や沖合沈下型養殖といった技術が場所の制約を軽くする可能性はある。これらの技術は、大量生産の目処は立っていないし、生産コストがかかるので、現状以上に割高になるのは避けられない。養殖で安くいくらでも生産できるという甘い話は無い。

まとめ

「養殖による大量生産で本当にクロマグロが手の届く価格になるまでにはもう少し時間がかかるかもしれない」とあるけど、具体的にどういう生産体制になってどこまで値段がさがるのか、まるでビジョンが見えない。どれだけ技術革新をしたところで、漁場の制約や餌のことを考えると、養殖クロマグロを安価にいくらでも食べられる日は、未来永劫こないだろう。養殖技術が完成の域に達しているマダイやハマチはどうなったかというと、現在は採算がとれずに縮小している。

クロマグロ養殖の課題は、採算度外視で公的資金を垂れ流してやってきた事業を、黒字ベースにすることだろう。規模を拡大してスケールメリットでコストを抑えるというのは、養殖適地が限られているので難しい。量で勝負というのは、構造的に出来ないのだから、質で勝負するしか無い。現在の8千~1万トンの生産を維持するには、生産コストに見合った価格で販売することが必須。天然と差別化できるものをつくって、その価値をきちんと消費者に伝える努力が必要だろう。

Gordon Ramsayがサメを追う

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The Cove風味の潜入ドラマになっている。画像の説得力はすごいね。
無管理なサメ漁業への風当たりは今後も強まるだろう。アジアでひとくくりにされて、日本も完全に同類だと思われているわけで、何とかしないとまずいです。

日本のサメ漁は、どうして非難されているの?

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今回のサメキャンペーンでは、いろいろな論点がごちゃ混ぜになっている。気仙沼のサメ漁に対する非難も、人によって言っていることが、だいぶん違う。いったい、何が問題視されているかを整理してみよう。

1)種・生態系の持続性に関する問題

  • ヨシキリザメは準絶滅危惧種→絶滅のおそれ
  • 高次捕食者は海洋生態系で重要な役割→獲るべきではない

2)倫理的な問題

  • ヒレだけ獲って体を捨てるのはよくない
    • 生きたままヒレを獲られて、もがき苦しむサメが気の毒
    • もったいない
  • サメのようなすばらしい生物を殺すなんて、可哀想!!

サメ漁非難の根拠は、資源・生態系の持続性に対する問題と、倫理的な問題の2つに分類できる。自然保護キャンペーンは、持続性と倫理の問題を並べて広げてくる場合が多いのだけど、論点をきちっと分けた上で、議論をしないといけない。

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ガーディアンが気仙沼のサメ漁業を非難している件について

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英国紙ガーディアンが気仙沼のサメ漁業を叩いている件についてわかる範囲で情報をまとめます。

http://www.guardian.co.uk/environment/2011/feb/11/shark-fishing-in-japan

気仙沼のサメの水揚げの80%はヨシキリザメ(blue shark)です。

このサメは、気仙沼周辺に多くいるというわけではなく、マグロ延縄船の混獲で多く漁獲されます。マグロを捕ろうとしたら、サメが獲れるというわけです。以前は、ヒレを切って、胴体を捨てていたのですが、現在は、ヒレだけでなく胴体も持って帰るように水産庁が指導をしていますが、実際、どの程度の船がルールを守っているかは不明です。未だにヒレだけのサメもあるみたいです。

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公的資金でまき網船を大型化する計画が進行中です

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読者からの投稿です。

大中型まき網漁船の大型化について
水産庁は、漁業構造改革プロジェクトにより大中型まき網漁船の大型代船建造に次々補助金をつぎ込んでおります。西日本の沖合で操業できる大中型まき網漁 船の網船を水産庁自身が135トンに制限しているにもかかわらず、境港の大中型まき網漁船について境港の関係者のみで合意が図られたとして250トンまで 大型化するのに補助金を入れようとしています。近隣の関係県、沿岸漁業者には一切相談なしです。この国の水産資源を回復するためには、実稼働している大中 型まき網漁船に対し補償金を出して減船した上でIQ制などアウトプットを規制する施策を導入すべきであるにもかかわらず、日水系など大資本の漁業に対し補 助金を出して大型代船の建造を支援し漁獲能力を増す愚策を行うことにやるせない思いです。これらの動きをなんとか止めることはできないでしょうか。

裏をとったところ、確かに、このような計画が進んでいます。

マイワシ、サバ、アジなど、西日本で大型のまき網で獲るような魚はことごとく枯渇しています。唯一の金づるの、クロマグロも今年はほとんど獲れなかったのだから、少しは反省していると思いきや、大きさが倍の新船を作るとは何を考えているのだか。

誤った経営判断で企業が傾くのは自業自得ですが、それによって、多額の税金が失われます。それ以上に深刻なことは、資源枯渇によって、日本海の離島での生活が成り立たなくなることです。対馬、壱岐、見島、隠岐といった日本海の離島の主要産業は漁業です。クロマグロをはじめとする水産資源を枯渇させて、数少ない産業を破壊すれば、離島に人が住めなくなる。そこで生活している人がいる限り、そうそう韓国人は入ってこれません。日本海の離島が無人島になれば、竹島のように実効占拠されるのは時間の問題でしょう。

離島に人が住んで、生計を立てていけることが、国防の要なのです。戦闘機やイージス艦が幾らあっても、竹島の実効支配は防げませんでした。日本海の国境を守るには、防衛費よりも、漁業管理が重要なのです。この境港漁業構造改革プロジェクトは、単なる税金の無駄遣いにとどまらず、離島の生活を破壊し、将来の領土問題を引き起こす可能性が高いです。このような補助金は納税者にとって百害あって一利なしといえるでしょう。

この手の計画は、内輪で固めた評価委員会をアリバイ的に開き、形式的な検討した後に、すぐに実行に移されるケースが多いです。波崎地区のような問題が多い計画であっても、評価委員は素通しです。すでにレールは引かれているはずなので、時間的にも、これを止めるのは、難しいですね。

資源管理は何も進んでいないのに、構造改革と称して漁船を大きくするのは、国益を損なう、誤った判断です。この計画の最終的な権限をもっている水産庁長官には、なんとしても、思いとどまって欲しいと思います。

韓国漁船は、クロマグロの産卵群を獲れません

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「水産庁がクロマグロの産卵場での操業を規制しても、韓国が獲るから意味がない」と考える人もいるようですが、韓国はクロマグロの産卵場で産卵群を漁獲していないし、今後も獲れないでしょう。

韓国漁船の違法操業問題ですが、ほとんどがEEZの縁辺部での小競り合いです。夜中に漁具を仕込んで、次の日の夜中に漁具を回収というのが基本であり、必然的に、刺し網やカニカゴなど、さっと放置して、素早く回収できる待ち漁具が主流になります。

クロマグロで問題になっている大型巻き網の場合、4~5隻で船団を組みます。まず、マグロの群れを見つけて、産卵行動で浮き上がってくるまで、ソナーを使って長時間追跡する必要があります。産卵行動で浮き上がってきたところを巻くのですが、網を入れてから、上げるまで、1回の操業に2時間はかかります。産卵場は、日本のEEZのど真ん中です。日本中の大型巻き網船団が、狭い海域でマグロの群れを奪い合っているところに、韓国の船団がノコノコ入って、暢気に操業できるはずがないのです。

韓国ではマグロをほとんど食べません。韓国で売っても値段がつかないので、獲れたマグロは全てを日本に出してきます。水産庁はこれらのマグロを水際で抑えて、どの船が何処で獲ったものか、全て確認しているのですが、産卵場での操業は確認していないようです。私が確認した範囲でも、産卵期に、産卵場で獲られたと思われるマグロは、日本には入ってきていないです。

韓国のヨコワ漁獲はたったの千トン。ヨコワだけ見ても日本の何分の1かであり、今のところは誤差のようなものですが、増加傾向にあるのは事実。今後の増加を抑える必要があります。そのために、日本がやるべきことは、資源管理を国内外で進めることです。日本海の産卵群は日本漁船しか獲っていないし、そもそも海外船はアクセスできないのだから、日本国内の規制でも十分効果があります。日本が自国の漁船に規制をした上で、米国と協調して、国際的な管理の枠組みを大平洋でも作るべきです。そうすれば、増加傾向にある韓国のヨコワ漁を押さえ込めます。

資源管理を進めようという世界的な流れを止めることはできません。そこに上手に乗っかって、自国に有利なルールを作ることが、長い目で見て国益につながります。

クロマグロの日本海産卵群は壊滅的

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日本近海のクロマグロの産卵場は日本海と沖縄の2カ所といわれている。2004年から、境港の大型巻き網船団が、日本海の産卵場に集まった成魚を一網打尽にしている。マグロは冬に餌を食べているときは広域に分布するので、まとめて獲るのは難しい。しかし、夏に産卵場に集まったときは容易に獲れてしまうのである。大西洋クロマグロ、ミナミマグロは、日本への畜養向けに産卵群をまき網で漁獲するようになって、資源は10年持たなかった。太平洋クロマグロも同じ運命をたどると見られていた。

2004年以降の境港の漁獲量をまとめると次のようになる。35kg以上を成熟、それ以下を未成熟として作図をした。なお、2008年以降は、体重のデータを隠すようになったので、2008年以降は業者の聞き取りなどで個人的に集めたデータを元に分類をした。

成熟(35kgup) 未成熟 全体
2004 1145 558 1,703
2005 2940 45 2,985
2006 1747.3 30.7 1,778
2007 1205.7 772.3 1,978
2008 1086.3 1142.7 2,229
2009 553.1 330.8 883.9
2010 227.1 365.4 592.5

図の青の部分が産卵場で獲られた成熟群、赤の部分は日本海北部漁場(能登から新潟にかけて)で獲られた未成漁である。操業が本格化した翌年から、産卵群は直線的に減っていることがわかる。6年間で7%に落ち込んでしまった。2007年から、北の方の未成漁にも手を出している。海に残しておけば、来年から産卵群に加わる群れを、根こそぎ獲っているのである。今年は、6月から漁が始まって、ほぼ2週間で未成漁の群れを獲り尽くしてしまった。

クロマグロは年によって、卵の生き残りが大きく変動することが知られている。特定の年齢を取り出してみれば、多いか少ないかは、環境変動に依存する部分が大きい。しかし、産卵群は数十年の親魚がストックされているのだから、1年、2年の卵の生き残りではそう大きく変わらない。寿命が長いクロマグロの産卵群が上の図のように直線的に減少するのは、自然現象で説明できない。産卵場でのまき網による乱獲が原因と見るのが自然だろう。

現在、日本近海のクロマグロ漁業には、何ら規制がない。漁獲枠もなければ、漁獲最小サイズも無い。早い者勝ちの獲りたい放題である。これがどれほど無駄かは、以前の記事を参照して欲しい。水産庁(の一部の人)は、規制に向けて動き出している。業界の反発が大きく、調整は難航しているようである。

テレビ朝日がクロマグロについて取材をしました。サンデーフロンティアという番組で、テレ朝系列で8/8の朝10時から、放映される予定です。関心がある方は、是非、見てください。

ヨコワの成長乱獲について

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今年も巻き網による日本海クロマグロの漁獲が始まりました

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日本海の巻き網のクロマグロ操業が6/1からスタートした。ことしも、胃が痛む、憂鬱なシーズンが幕開けだ。

西日本有数の漁業基地・鳥取県境港市の境漁港に1日、今季初めてクロマグロが水揚げされた。境港の水産業は景気低迷に伴う魚価安で苦境にあるが、例年より一足早いマグロシーズンの到来に浜は久々に活気付いた。
http://www.nnn.co.jp/news/100602/20100602039.html

大洋A&F(東京)所属の「第21たいよう丸」が能登半島沖で捕獲したクロマグロ約30トン。現地レポートによると、1200本で30tとのこと。平均重要は25kgで、もちろん、未成魚だ。この1200本を、今すぐに獲らずに、7歳まで待って、1本釣りで獲るとどうなるか試算すると次のようになる。

計算の詳細

たいよう丸の利益は次のように計算できる。

1500円×25kg×1200本=4500万円

7歳魚は、体重が97kgで 1kg当たりの単価が5000円。25Kgは3歳魚と思われる。3歳から7歳までの歩留まり(天然環境での生き残り)は57%。4年後に獲った場合の利益はつぎのようになる。

500円×97kg×(1200×0.57)本=33174万円

たいよう丸が、目先の4500万円を得た代償として、未来の漁業全体の利益が2億9千万円、失われたわけです。また、4歳から成熟をするので、7歳までに4回産卵できました。資源の再生産に大きく寄与したはずです。また、大きくしてから獲れば、漁獲量も30トンから、66トンに増えるので、消費者にも利益があります。

成長乱獲

このように、水産資源が成長するまえの、非経済な状態で漁獲することを、成長乱獲と呼んでいます。紛う方無き乱獲なのです。成長乱獲で、漁業の経済規模を小さくすることで、流通業者は大打撃です。市場の手数料は5%です。4500万円の手数料はたったの225万円です。大きくしてから獲れば、手数料は1659万円です。こういう魚を右から左に流していれば、市場が廃れていくのも時間の問題でしょう。未成魚を獲って、獲って、獲りまくる漁業をしていれば、漁業の雇用が無くなるのは当然でしょう。

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from 18 Mar. 2009

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