- 2007-01-08 (月) 0:14
- 研究
俺が尊敬するHilborn博士が最近書いたエッセイがいろいろと話題になっているので、
ここでも紹介しよう。
Hilborn R. (2006) Faith-based Fisheries. Fisheries 31(11) 554-555
ここからpdfを落とすことが出来るので、つべこべ言わずに原文を読むべし。
http://web.fisheries.org/main/images/stories/afs/3111.pdf
要約
最近10年の間に、漁業は悪という先入観に基づく論文が、
NatureやScienceといった著名な雑誌に掲載されるようになった。
漁業が生態系に壊滅的なダメージを与えているという結論がはじめにありきで、
その結果に至るロジックには飛躍や我田引水が多く見られる。
NatureやScienceといったジャーナルは、科学的な妥当性よりもむしろ、メッセージ性によって
掲載する論文を決めているようである。カナダのMyersは世界のマグロが9割以上減少したという論文をNature誌で発表し、
世界的な反響を呼んだ。
Myers RA, Worm B. 2003. Rapid worldwide
depletion of predatory fish communities. Nature. 423:280?283.
http://www.fisherieswatch.org/docs/261.pdf
Myersは日本の延縄のCPUE(1000針あたりの漁獲尾数)データを元に、
マグロ資源は9割以上減少したと主張したのだが、
延縄のCPUEは資源量の指標として使えないことがわかっている。Walters(2003), Hampton et al.(2005), Poracheck (2006)など、
Myersの論文を批判する内容の論文がすでに発表されている。
これらの論文は、マグロの減少や管理の必要性は認めつつも、
Myersらの恣意的なデータ選択や、我田引水な結論を批判している。問題点を整理すると次のようになる
1)いくつかのジャーナルは、センセーショナルなメッセージ性を優先して論文を選ぶ
2)対象となる漁業を知らない査読者が、欠点だらけの論文を通してしまう
3)科学的な反論は、水産の専門誌にしか掲載されないので、間違った情報が一人歩きする。非科学的な論文は却下できるように、査読プロセスを再構築する必要がある。
どんなにキャッチーなメッセージ性をもっていても、
検証可能な仮説と証明に不備がある論文は却下しなくてはならない。
そのためには、データと問題を熟知した査読者を選ぶ必要があるだろう。
俺の雑感
さすがは、Hilborn。実に、論点が明確で説得力がある。
広範なフィールドを扱う雑誌にアンチ漁業的な論文が増えてきて、
なんとなく困ったことになりそうだと思っていたところに、
じつにわかりやすく問題を説明してくれた。
たったの2ページなんだから、原文を読まないと駄目だろう。
延縄のCPUEは60年代に8割程度下がっているが、
その後も60年代の倍以上の漁獲を今日まで続けている。
Myersが主張するように、延縄のCPUEが資源量を反映していて、
60年代に8割も減ったなら、世界中のマグロはとっくに絶滅しているだろう。
60年代の漁獲は、延縄に掛かりやすい局所集団を激減させた可能性は高いが、
マグロ全体を8割も減らしたとは言えない。
このあたりは魚住さんの本に詳しく書いてあるので、ぜひ読んで欲しい。
成山堂書店
確かにマグロの多くは乱獲されて、資源回復の必要があるだろう。
ただし、資源の有効利用の観点から減らしすぎているのであって、
種として絶滅するような状況にはないことは明白である。
にもかかわらず、IUCNはクロマグロを絶滅のおそれが最も高い種として指定している。
これは、IUCNの絶滅危惧の指標が科学的な絶滅リスク評価よりも
むしろFaith-basedな価値基準に基づいている証拠であろう。
政治的な思惑から、絶滅のおそれがないものを絶滅危惧種として登録するような団体は信用できない。
また、Myersの論文のように、非合理的なロジックで漁業を非難するのも論外だろう。
生態系保全という目的が正しければ、どんな手段でも正当化されるというものではない。
マグロが獲りすぎだということを科学的にきちんと示す方法はいくらでもあるはずだ。
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