陸上養殖シリーズ① 陸上養殖は「金のなる木」ではなく「茨の道」――プロキシマーの苦戦が示すもの

最近、陸上養殖に対する期待感が高まりつつある。
「海で魚が獲れなくても、陸で育てれば食べ続けられそう」
「天然魚を獲らず、海を汚さずに生産できるなら望ましい」
「日本の技術を生かして、新しい産業や地域の仕事が生まれそう」
そんな期待を耳にする機会が増えた。海に面していない場所でも魚を育てられ、天候や海況にも左右されにくい。高級魚を安定的に生産できれば、有望なビジネスになりそうに見える。地方創生の手段として検討する自治体も多く、国の成長戦略にも位置づけられている。しかし、陸上養殖は確実な利益が約束された事業ではない。むしろ、成功すれば大きいが失敗のリスクも大きい、野心的な試みだ。

海面養殖は、波が穏やかで、水温や水質が魚に合う海域でしか営めない。その養殖適地という制約を取り払えれば、食料生産に新しい道が開ける。当たれば、得られるものは大きい。しかし、魚を育てることと、利益を出すことの間には大きな隔たりがある。その道は、茨の道だ。

静岡県小山町でアトランティックサーモンの陸上養殖を手がけるプロキシマー・シーフード(本社ノルウェー、オスロ証券取引所の新興市場に上場)は2026年10月27日、利用可能な資金が10月末に枯渇する見通しだと発表した[1]。

同社は主要な関係者と追加の資金調達を協議しているが、解決策が見つかる保証はないとしている。同じ発表で、転換社債の利払いを見送ったこと、ノルウェー本社の借入金について返済の猶予を求めることも明らかにした[1]。

本稿執筆時点で、倒産や操業停止が決まったわけではない[1]。しかし、事業の継続に向けて極めて厳しい局面にあることは間違いない。

プロキシマーに何が起きたのか。そして、この事例から陸上養殖の事業性について何が見えてくるのだろうか。

富士山麓の大型施設

プロキシマーは、富士山の麓に大規模な陸上養殖施設を建設し、アトランティックサーモンを「フジアトランティックサーモン(Fuji Atlantic Salmon)」のブランドで販売している[1]。

採用しているのは、水を浄化して繰り返し使う閉鎖循環式陸上養殖だ。水温や水質を管理しながら、屋内の水槽で魚を育てる。

2024年9月に初出荷を迎え[2]、国内の消費地に近い場所で新鮮なサーモンを生産する事業として注目を集めてきた。

ところが、出荷を始めてから約2年で、資金繰りが行き詰まる状況になった。

同社によると、ここ数カ月の売上が想定を下回ったことに加え、販売代金の支払条件が変わったことで、営業活動による資金の流れが計画を大きく下回ったという[1]。支払条件が具体的にどのように変更されたかは公表されていない。

魚が育っていても、現金は足りなくなる

養殖では、魚を育てている間も支出が続く。

餌を購入し、従業員に給料を払い、水を循環させるための電気を使う。施設の維持や修繕にも費用がかかる。借入金があれば、利払いと返済も必要になる。

一方、収入が入るのは魚を出荷した後だ。魚が水槽の中で育っていても、その時点では餌代や電気代の支払いに使える現金にはならない。

予定より出荷が遅れたり、魚が小さく販売価格が下がったりすれば、必要な収入が入ってくるまでの期間が長くなる。その間の支出を賄うためには、余裕のある運転資金が必要だ。

プロキシマーでは2026年前半、出荷する魚の大きさが、高く売れる目安の3キロに届かなかった。4~6月には、大きな魚を水槽に残して育てるため、あえて小さな魚を先に出荷する判断もしている[3]。その結果、年間の出荷量見通しは2度引き下げられた[4]。さらに7~9月には、魚についた土臭さ(ジオスミン)を抜く期間が長くなり、予定していた出荷の一部が10~12月にずれ込んだ[5]。

象徴的なのは資金調達のタイミングだ。同社は8月、1億ノルウェークローネ(約17億円)の転換社債を発行している[4]。それからわずか2カ月で、手元資金が尽きる見通しになった。

魚の生育が順調でも、予定どおりに出荷し、代金を回収できなければ、経営は苦しくなる。養殖業では、この時間差を埋める資金が欠かせない。

生産は改善しているが、利益は別の話

プロキシマーの発表を見ると、明るい材料もある。

2026年7~9月の平均販売単価は、前の四半期から1割ほど上がった。比較的高く売れる3キロ以上の魚の割合も、35%から45%に増えている[5]。一方で、出荷量は前の四半期から1割余り減った[5]。

同社は、近いうちに「営業EBITDA」が黒字になると見込んでいる[1]。EBITDAとは、利息や税金、設備の減価償却などを差し引く前の利益に近い指標だ。「営業EBITDA」はそこに会社独自の調整を加えたもので、決算書上のEBITDAとは一致しない。4~6月期は、決算上のEBITDAの赤字が営業EBITDAの赤字の約3倍だった[6]。

しかも、EBITDAが黒字になれば設備投資を回収できるというわけではない。

大きな施設を建設するには、多額の資金が必要になる。事業を続けるには、日々の餌代や電気代に加え、設備の更新費用を確保し、借入金の利息や元本も支払っていかなければならない。プロキシマーの日本法人は、日本の銀行団から88億円の協調融資を受けており、その返済期限の延長を銀行側と調整している段階だ[1]。

まず日々の事業で現金を生み出し、さらに設備投資や金融負担を賄えるか。そこまで見て、初めて事業が持続するかを判断できる。

生産量が計画を下回ると、1キロ当たりの負担が重くなる

大規模な陸上養殖施設では、建物、水槽、ろ過装置、水を循環させるポンプなどに大きな投資が必要になる。

これらの設備は、魚の生産量が少なくても必要だ。そのため、施設を維持する費用や人件費などを、計画より少ない出荷量で負担することになると、魚1キロ当たりのコストが上がる。

プロキシマーも、2026年の出荷量見通しを引き下げてきた。当初は年間3,500~4,000トンとしていたが、5月に3,000~3,400トン、8月には約3,000トンへと修正している[4]。

同社の2026年4~6月期の平均販売単価は1キロ当たり64クローネだったのに対し、同社が公表したEBITDAベースのコストは81クローネだった[7]。売れば売るほど赤字が出る水準だ。しかもこれは、減価償却費や金融費用まで含めた完全な原価ではない。

同社自身の試算でも、3キロ以上の魚の価格水準で、1キロ当たりのEBITDAが黒字になるのは、年間出荷量が4,500トンを超えてからだ[3]。今年の見通しは、その3分の2にとどまる。

生産量を増やして1キロ当たりのコストを下げたい。しかし、増産が計画どおりに進むまでの間も、施設を動かし続ける資金が必要になる。大型の設備投資を伴う養殖事業が抱える難しさだ。

陸上養殖のメリットにも価格がある

もちろん、陸上養殖には大きな可能性がある。最大の魅力は、海面の養殖適地という制約から自由になれることだ。

海況や悪天候の影響を受けにくく、水質や水温を調整できる。消費地の近くに施設を設ければ、輸送距離を短くできる場合もある。海への魚の逃出や、周辺環境への影響を抑えやすいという利点もある。

ただし、こうした利点を得るには費用がかかる。

海面養殖では自然の海水が担っている水の交換を、閉鎖循環式ではポンプやろ過装置によって行う。水温の調整が必要な場所では、冷却や加温にもエネルギーを使う。水質の異常や設備の故障に対応する技術者も必要だ。

カナダ水産海洋省が2010年にまとめた検討でも、閉鎖循環式は餌の効率や水温の安定、環境管理の面で優れる一方、設備費、エネルギー費、人件費の負担が収益性を大きく左右すると指摘されている。結論は、採算は際どく、海面のいけす養殖よりリスクが高いというものだった[8]。15年以上前の分析だが、その構図は今回の事例にもそのまま当てはまる。

世界を見渡しても、サーモンを成魚まで育てる大型の陸上施設で、設備費や金利まで賄えている例はまだない。世界の状況は、本シリーズの第3回で詳しく見る。

輸入サーモンに比べて輸送費を抑えられたとしても、それ以上に設備や運転に費用がかかれば、利益は残らない。国内産や鮮度の良さに高い価格がついたとしても、その価格が長期にわたって維持される保証はない。

「育てられる」と「もうかる」は違う

陸上養殖の計画では、「この魚を育てることに成功した」「これだけの大きさになった」という話が注目されやすい。

それ自体は大切な成果だ。実際、プロキシマーの飼育成績は良好で、4~6月期の生残率は約99%、最高等級の割合も99%を超えていた[9]。それでも資金は尽きかけている。事業として評価するには、その先の数字が必要になる。

  • 年間に計画どおりの量を、安定して出荷できるか
  • 餌代、電気代、人件費などを含めた1キロ当たりの費用はいくらか
  • その費用を上回る価格で、継続して販売できるか
  • 設備の減価償却や更新、借入金の返済まで賄えるか
  • 生産や販売が計画どおりに進まない場合に、どれだけ耐えられるか

魚種、立地、水やエネルギーの条件、販売先によって、事業の採算は変わる。陸上養殖にも、条件が合えば成立する事業はあるだろう。

ただ、「高級魚を陸上で育てれば高く売れる」という発想だけで利益が生まれるほど、養殖業は甘くない。

プロキシマーの事例だけで、陸上養殖全体の将来を判断することはできない。一方で、大規模な施設を建設し、良好な成績で実際にサーモンを出荷している事業でも、資金繰りに行き詰まることがある。その現実は、これから参入を考える企業や、事業を支援する自治体も直視する必要がある。

陸上養殖は、当たれば大きいが、茨の道でもある。挑戦する価値はある。ただし、参入する企業も支援する自治体も、誰が、どのような条件で、いつから、いくら利益を出せるのかを、冷静に確かめる必要がある。

本稿は、全5回の陸上養殖シリーズの第1回である。次回は、三重、千葉、富山など国内で進む大型の陸上養殖事業が、どこまで進んでいるのかを見ていく。

参考文献

  1. Proximar Seafood AS, “Update on liquidity, financing and strategic review”, 2026年10月27日(取引所開示)
  2. Proximar Seafood AS, “Q2 2026: Strong biological performance and positive growth outlook”, 2026年8月28日(取引所開示)
  3. Investing.com, “Proximar Q2 2026 slides: harvest strategy shifts, profitability path emerges”, 2026年8月
  4. We Are Aquaculture, “Proximar cuts 2026 harvest guidance as fish weights improve”, 2026年8月
  5. Proximar Seafood AS, “Production Update: Improved growth rates and positive development in price achievement”, 2026年10月7日(取引所開示)
  6. Investing.com, “Proximar Seafood AS Earnings Call Summary for Q2/2026”, 2026年8月
  7. Salmon Business, “Proximar: cuts harvest guidance as salmon continues to sell below cost”, 2026年8月28日
  8. Fisheries and Oceans Canada, Feasibility Study of Closed-Containment Options for the British Columbia Aquaculture Industry, 2010年
  9. Salmon Business, “Proximar: smaller fish weigh on second-quarter prices”, 2026年7月

※円換算は、開示[1]の「88億円=約5億2,500万クローネ」の比率(1クローネ≒約17円)による。

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