世界の漁業管理ティア表をつくってみた

資源管理ティア表 世界の漁業
主要漁業国の資源管理ティア表(Ver. 2026)

漁業管理の「ティア表」とは?

主要な漁業国を、資源管理の実効性に応じてSからDまでの5段階に分類した。世界の漁業管理がどこまで進んでいるか、日本がどこに位置するかを、ひと目で示すためである。

判定軸は、管理の仕組みが実際に機能しているか

機能する資源管理では、次の四つの要素が切れ目なくつながっている。

  1. 科学的上限:資源評価に基づき、獲ってよい量、またはそれに相当する努力量の上限を決める。
  2. 利用配分:上限を漁業者、船、地域などに配分する。配分がなければ、早獲り競争になりやすい。
  3. 漁獲把握:誰が、いつ、どれだけ獲ったかを、電子報告や陸揚げ時の確認によって把握する。
  4. 超過時の是正:上限を超えれば漁期を閉じ、超過分を翌年の枠から差し引く。

四つの要素は順につながり、最後の是正が次の年の上限と配分に反映される。この循環のどこか一つでも欠ければ、管理は機能しない。上限があっても漁獲を把握できなければ超過に気付けず、把握できても是正しなければ超過は繰り返される。したがって、管理の評価は四要素の平均ではなく、最も弱い要素によって決まる。

ティア表

資源管理ティア表

主要漁業国の資源管理ティア表(Ver. 2026)

ティア 判定の目安 主な国・地域
S 実効的 四要素が一体で機能している ノルウェー、アイスランド、フェロー諸島、ニュージーランド、オーストラリア、米国
A 中核は機能 主要資源ではループが閉じ、周縁の資源や部門に穴がある EU北海諸国、英国、カナダ、ペルー、南アフリカ、チリ、アルゼンチン、ロシア、ナミビア
B 拘束力が弱い TACなどの枠組みはあるが、上限が実際の漁獲を十分に縛っていない EU地中海諸国、日本、韓国、台湾、タイ、モロッコ、ウルグアイ、グリーンランド
C 取組不十分 許可制、禁漁期、漁具規制が中心で、広範な資源評価と漁獲上限がない 中国、ブラジル、メキシコ、トルコ、インドネシア、フィリピン、ベトナム、マレーシア、インド、バングラデシュ、パキスタン、スリランカ、ミャンマー、エクアドル、コロンビア、ベネズエラ、ガーナ、セネガル、ナイジェリア、モーリタニア
D 未発達 継続的な評価、管理、執行の体制が形成されていない ソマリア、イエメン、リビア、ハイチ、ギニアビサウ

この分類は、2026年時点の筆者の判断である。

各ティアの特徴

ティアS:科学的上限が実際の漁獲を制約する国。 科学的助言が漁獲上限に基本的に反映され、超過は制度として是正される。米国では、年間漁獲上限と超過時の是正措置が法律で義務付けられている。ニュージーランドやアイスランドでは、個別譲渡性割当(ITQ)によって利用配分を定め、陸揚げ時の計量で漁獲を把握する。

もっとも、国内管理が機能していても、国際管理は別である。ノルウェー、アイスランド、フェロー諸島は、サバやニシンなどの共有資源について、関係国が設定した枠の合計が科学的助言を上回る問題を抱えている。

ティアA:中核は機能するが、周縁に穴がある国。 ペルーでは、アンチョベータを調査に基づく漁獲枠、船舶別割当、稚魚が多い海域の即時閉鎖で管理している。一方、イカや零細漁業の管理は手薄である。カナダは太平洋の底魚で厳格な監視を行う一方、大西洋のタラでは資源回復に苦戦が続く。ナミビアは制度を整備しているが、2019年には漁獲枠の配分をめぐる大規模な汚職が発覚した。

ティアB:枠組みはあるが、上限が漁獲を十分に縛っていない国。 TACなどの道具は導入されているが、科学的助言より高い上限、対象資源の少なさ、漁獲把握の遅れのいずれかによって、管理の中核が弱い。

ティアC:取組はあるが、資源量に応じた漁獲抑制が広く定着していない国。 許可制や禁漁期が管理の中心であり、資源評価に基づく漁獲上限は限定的である。零細漁業の比重が大きく、漁獲統計自体が不十分な国もある。

ティアD:管理の基盤が未発達な国。 紛争や行政能力の不足により、資源評価、漁獲統計、監視、執行といった管理の前提が成り立っていない。

日本はなぜBなのか

日本では、三つの問題が重なっている。

  • 科学的助言と漁獲上限が結び付いている資源は、まだ一部に限られる。
  • 上限が実際の漁獲より大きく、漁獲を制約していない魚種が多い。
  • 漁獲、陸揚げ、販売の記録を照合し、不正や超過を予防・発見する一貫した体制が不十分である。

このため、資源が減少したときに、漁獲へ確実にブレーキをかけられない。これが日本をティアBに置いた理由である。制度の形はティアAの国々に近付いたが、資源制約を優先する運用は十分に伴っていない。上限設定には、科学的助言だけでなく、既存漁業者の移行への配慮が強く働いている。

科学的助言に沿って上限を定め、漁獲量を迅速かつ検証可能な形で把握し、超過を是正できるようになれば、日本はティアAへ移行できる。

まとめ

漁業管理の良し悪しは、制度があるかどうかでは決まらない。科学的上限、利用配分、漁獲把握、超過時の是正が適切に設計されて、実効性を持った運用がなされているかどうかで決まる。

多くの国は、制度の導入と実効性の間で足踏みしている。日本もその一つだ。ただし、どこでループが開いているかが分かれば、次に何をすべきかも見えてくる。この表が、その議論の出発点になればと思う。

この表を読むときの注意

国単位の分類である。 共有資源の管理や遠洋漁船の行動は、この表に十分には表れない。

国内でも差が大きい。 米国の商業漁業と遊漁、カナダの太平洋と大西洋のように、同じ国でも漁業や資源によって管理の質は大きく異なる。

資源状態の評価ではない。 制度と資源状態には関係があるが、一致はしない場合もある。

評価は変化する。 インドネシアは2023年に漁獲枠に基づく管理を導入し、中国もTACの試行を進めている。これらが定着すれば、ティアBに移行する。この表は、2026年時点のスナップショットである。

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