この連載では、陸上養殖をさまざまな角度から見てきた。富士山麓のプロキシマーは、飼育成績が良好でも資金が尽きかけている。国内の大型計画は、まだ商業生産を示していない。世界でも、サーモンを成魚まで育てる大規模なRAS(閉鎖循環式陸上養殖)で、安定して利益を出している企業はまだない。それでも政府は、陸上養殖を成長戦略の柱に据えようとしている。
最終回となる今回は、日本の水産業の中で陸上養殖をどのように位置づけて、発展させるべきかを考察する。
まず、前提を確認しておきたい。世界では養殖が急速に伸びている。2022年には、水産動物の生産量で養殖が初めて漁業を上回った[1]。世界の養殖は、2000年以降、年率およそ5%で成長している[2]。
一方、日本の養殖の生産量は減少傾向にある。海面養殖業の収獲量は、1994年の約134万トンをピークに、長期的な減少が続いている。近年も、2021年の約93万トンから2024年には約80万トンまで減った。2025年は約83万トンと前年を上回ったが、減少傾向は変わっていない[3]。ハマチやマダイでは、全国的な生産過剰を背景に、産地間の競争が激しくなっている[4]。
世界で伸びている産業が、なぜ日本では減っているのか。そして、その中で陸上養殖はどう位置づけるべきなのか。本稿の答えは、「天然資源と海面養殖という二つの土台を固めることが先だ」というものだ。
土台① 天然資源――養殖を支え、食料を確実に増やす
養殖は、天然資源から切り離された産業ではない。
多くの養殖では、天然の魚からつくる魚粉や魚油を餌に使う。世界で獲れた水産動物のうち、食用以外に回る分の多くは、こうした魚粉や魚油の原料だ[5]。日本のブリ養殖は、種苗のほとんどを天然の稚魚(モジャコ)に頼っている[6]。天然資源が痩せれば、養殖も痩せる。
そして天然資源の管理は、食料の安定供給を立て直すための、実績のある手段でもある。
資源管理には、世界中に成功例がある。科学的な資源評価に基づいて漁獲を管理している地域では、資源状態は良好で、漁業から安定した収益が得られている。一方、管理が未発達な地域では、漁獲の強さが平均で3倍、資源量は半分にとどまる[7]。米国では、2000年以降に51の資源が乱獲の状態から回復した[8]。
資源管理に必要なのは、巨大な設備ではない。科学的な資源評価に基づく漁獲規制と、その規制を守らせる仕組みだ。手法はすでに確立している。資源の回復には時間がかかり、海洋環境の影響も受ける。それでも、過剰な漁獲を抑えれば、海の生産力を食料に変えられる。輸入に頼らず自国の海から食料を得るという意味で、食料安全保障の土台そのものである。
陸上養殖の施設がいくつできても、天然資源の管理をおろそかにしたままでは、食料の安定供給は実現しない。
土台② 海面養殖――稼ぎながら技術を蓄える
養殖で利益を出しやすいのは、陸上より海面だ。初期投資が小さく、水の入れ替えは自然が担い、水の循環や水温調整に使う電力も抑えやすい。
ただし、養殖には陸上の施設が力を発揮する工程もある。親魚の育種、卵から稚魚までの種苗生産、そして海に出す前の中間育成だ。ここは、水温や水質を管理できる陸上のほうが向いている。
この組み合わせで世界を制したのが、ノルウェーだ。
ノルウェーも、かつては小規模な個人経営が中心だった。養殖免許は、1人1つしか持てなかった[9]。1991年、販売組織の破綻や養殖業者の倒産が相次ぐなかで、こうした所有規制が撤廃された。企業が複数の免許を持てるようになり、業界の再編が進んだ[10]。免許1つから始め、世界有数のサーモン養殖企業に育った会社もある[11]。
海面養殖で稼ぐ大企業が育ったことで、育種や餌、稚魚生産への投資が可能になった。陸上の大型施設で稚魚を大きく育ててから海に移す方法も、その一つだ。海で過ごす期間が短くなれば、寄生虫や病気による死亡が減る。大手がこうした施設に巨額を投じ、死亡率が地域平均の半分以下になった例も報告されている[12]。陸上での育成には追加の費用がかかるが、海での死亡や寄生虫対策の費用を減らせれば、それを上回る利益が得られる可能性がある[13]。
第3回で見た北欧のRAS産業は、こうして育った。稼ぐ海面養殖という確実な顧客がいたから、施設を建て、運転し、失敗を積み重ねながら技術を蓄えることができた。
日本はどうか。海面養殖は、本来は利益を出しやすいはずなのに、産業として伸びていない。その背景には制度の問題がある。2018年の漁業法改正で、企業に養殖の漁業権を直接免許する道は開けたが、実際の運用は都道府県に任されている[14]。小規模な経営体がそれぞれ単独で、育種や種苗生産に投資し続けるのは難しい。経営の集約に加え、共同投資や専門企業との連携によって、産業全体で技術を蓄える仕組みが要る。
一方、陸上養殖には漁業権が要らず、対象となる陸上養殖は、許可ではなく都道府県への届出制だ[15]。商社などの大資本が陸上養殖に向かう背景には、消費地への近さや水温管理など、さまざまな理由があるだろう。漁業権という壁がないことも、その一つと考えられる。本来なら海面で生産した方が有利な場合でも、海に参入しにくい制度や運用が、資本を陸上に向かわせていないか。検証が必要だ。
土台を欠いた陸上養殖は難しい
二つの土台は、陸上養殖を支えるものでもある。天然資源は餌の原料になり、稼げる海面養殖は、種苗や中間育成を買う確かな顧客になる。その土台をおろそかにしたまま、陸上養殖だけで利益を出すのは難しい。北欧が先行するサーモンではなおさらだ。しかも、土台を固めてもなお、陸上養殖で利益を出すのは容易ではない。
米国の養殖経済学者エングルは、RASの経済性を整理した論考で、RASの失敗率はかなり高いと指摘している[16]。集約的な方式であるため、判断の誤りや事故を吸収する余地がほとんどない。採算は施設の規模だけでは決まらない。設備と人をどれだけ効率よく使い、水槽の容積当たりにどれだけ出荷できるかが大きく効く。そのためには、事業の範囲や規模、魚種、売り先を見極める経営者と、日々の判断を誤らない現場の管理者が要る。また、新規参入で供給が増えれば価格が下がるため、割増価格を前提にした計画は危ういとも述べている。
本来は利益を出しやすい海面養殖ですら、日本は産業として伸ばせていない。その国が、大規模なサーモンのRASという、世界でもまだ採算が実証されていない分野で利益の出る仕組みをつくり、それを世界に広められるとは考えにくい。
資源管理という基礎問題も解けていないのに、大規模RASという難しい応用問題で世界一を目指そうとしている。日本の成長戦略は、そう見える。
もちろん、日本にも勝機はある。生のサーモンを大量に食べる大消費地が近くにあることだ。新鮮な生のサーモンを届けられれば、輸入品より高く売れる可能性がある。ただし、大型施設が一斉に稼働して国内の供給が増えれば、その割増価格も続くとは限らない。
ただし、この利点は日本という場所に結びついたものだ。第3回で見たように、海外の企業も日本に施設を建てて同じ利点を使える。反対に、日本の消費地に近いという強みは、海外に持ち出せない。地域の優位性で戦っているかぎり、海外に輸出できるような競争力のあるシステムにはならないだろう。
政府の成長戦略は、陸上養殖の技術やシステムを海外に展開することを掲げている。しかし、土台を欠いたままでは、その前提が成り立たない。第4回で見たように、官民投資の見込み額の根拠も示されていない。足場を固めないまま数字を積み上げ、公的資金を投じれば産業が育つと考えているように見える。このままでは、公的資金の無駄遣いに終わる公算が高い。
進むべき道――①と②を固め、②を支える陸上養殖を
RASは、採算がまだ見えない新技術だ。こうした技術に挑むのは、リスクを自ら負う民間の役割である。挑戦者を応援するのはよい。しかし国が、事業が軌道に乗り、大規模化が進み、日本が世界で大きなシェアを取ることを前提に政策を組むべきではない。ましてや、当面は食料安全保障の軸にはなり得ない。国が力を注ぐべきなのは、やれば成果が出ることが分かっている漁獲規制と、海面養殖の効率化である。
順番ははっきりしている。まず、天然資源の管理と海面養殖の立て直しをしっかりとやる。そして、海面養殖を支える形で、陸上養殖の技術開発を進める。
エングルも、利益を出しているRASの例として、サーモンの稚魚生産や、池での養殖と組み合わせた稚魚の育成を挙げている[16]。そして、陸上の農業が温室や水耕栽培に広がっても、それは露地の農業を補うものであって、置き換えるものではなかったと述べ、RASも同じだという。
陸上養殖は、天然資源や海面養殖に代わる食料生産の柱にはならない。海の生産を補う役割でこそ、力を発揮する。
海面養殖を支える陸上養殖とは、例えば次のようなものだ。
- 天然種苗に頼らない養殖:ブリの人工種苗は、国内ではまだわずかしか使われていない[17]。陸上で人工種苗を量産できれば、天然の稚魚を獲らずに済み、天然資源の守りにもなる。国も、2050年までに人工種苗の比率を100%にする目標を掲げている[6]。
- 輸出で価格を高める:輸出先として有望なEUでは、天然の稚魚の採捕に頼らない人工種苗で育てた魚が求められるとされる[17]。生産過剰で価格が伸びない国内市場から抜け出す道になる。
- 海での危険を減らす:赤潮の時期を避けて、大きく育てた種苗を海に入れる研究が進んでいる[18]。高水温や赤潮で海の環境が厳しくなるほど、陸上での育成の価値は高まる。
- 出荷時期をずらす:陸上で親魚の産卵時期を調整し、品薄になる時期に出荷する取り組みもある[19]。
ここで生きるのが、日本の本当の強みだ。日本には、幅広い水温帯と穏やかな内湾を持つ恵まれた漁場がある。マダイやブリなど、温水性の海産魚の種苗生産には長い実績があり、ゲノム編集で可食部を増やしたマダイは、世界で初めて販売されたゲノム編集の動物食品とされる[20]。ノルウェーがフィヨルドを生かしたように、日本は自分たちの海と魚で勝負すればよい。
陸上で食用魚を育てる事業にも、役割はある。ただし、施設をつくれば儲かるという単純なものではない。大規模なRASで食用魚を育て、利益を上げている例は、米国のBlue Ridge Aquacultureなどごく限られる。同社は、ティラピアを活魚として販売している[16]。
利益を出すには、二つの条件が要る。一つは、天然魚や海面養殖では代わりにくいニッチを占め、他社が簡単には参入できない障壁を築くことだ。活魚や、寄生虫リスクの管理を価値にできる生食用の魚がその候補になる。もう一つは、生産だけでなく、輸送や販路まで含めて利益を出す仕組みをつくることだ。陸上で育てただけでは、高く売れるとは限らない。
こうした事業は、国内市場の高価格帯を狙うものだ。
天然資源には、自然の生産力という明確な上限がある。海面養殖にも、養殖適地と環境収容力という上限がある。二つの土台を生かし切って、それでも生産を増やしたいときに、大量生産で海の魚を補うような陸上養殖が現実的な選択肢になる。ノルウェーも、海面で稼ぐ産業を育て、海での拡大に環境面の制約が強まってから、陸上の大型施設に向かった。日本がその段階に立つのは、まだ先だ。
結び――茨の道に挑む前に、足元を固める
閉鎖循環式の陸上養殖は、海面の養殖適地という制約を取り払う野心的な挑戦だ。当たれば大きい。その可能性を否定するつもりはない。しかし、それはリスクを負えるベンチャーが挑むべき茨の道である。天然資源と海面養殖という二つの土台を固めないまま、陸上養殖だけを国家の成長戦略の柱に据えても、産業は育たない。
政府は、漁獲規制や区画漁業権といった業界との摩擦を生む問題には手を付けず、新しい技術を持ち上げることで、対策を講じているように見せかけてきた。栽培漁業も完全養殖も、これがあれば漁業が一変するという期待を背に、多額の公的資金が投じられてきた。しかし、いずれも水産業の救世主にはなっていない。期待の賞味期限が切れれば、何が実現し、何が障害だったのかを検証しないまま、次の新技術に飛びつく。陸上養殖も、同じ道をたどりかねない。
日本は、このような不毛な現実逃避を、いつまで続けるのだろうか。
まず、天然資源を科学的に管理し、食料の確実な土台をつくる。次に、制度を整えて海面養殖を稼げる産業に立て直す。その海面養殖を支える形で、陸上での種苗生産や育種、中間育成の技術を磨く。そうして積み重ねた技術と経験が、いずれ漁場が足りなくなったときに、本格的な陸上養殖を支える力になる。
遠回りに見えて、これが最も確実な道だ。ノルウェーがそうであったように。
参考文献
- FAO, “FAO Report: Global fisheries and aquaculture production reaches a new record high”, 2024年
- FAO, “New aquaculture record offers way for ending hunger without harming marine environment: FAO Fisheries Chief”, 2024年
- 農林水産省、「令和7年漁業・養殖業生産統計」、2026年5月29日
- 香川県、「漁業生産の動向」、2025年
- Hatchery International, “FAO SOFIA 2024: Global aquaculture production reaches a new record high”
- 熊本県水産研究センター、「ブリの種苗生産について」
- Hilborn, R. et al., “Effective fisheries management instrumental in improving fish stock status”, PNAS 117(4): 2218–2224, 2020年
- NOAA Fisheries, “Status of Stocks 2024”
- Salmon Business, ノルウェーの養殖免許と所有規制の歴史
- Maritime Studies, ノルウェーの養殖免許制度
- Agriculture XPRT, “SalMar ASA”
- Undercurrent News, “Global salmon industry dodges downturn thanks to RAS post-smolt”, 2024年9月
- The Fish Site, “Study assesses optimal weights for smolt transfer”
- imidas、漁業法改定の解説
- 静岡県、「陸上養殖業の届出制について」
- Engle, C.R., “The economics of recirculating aquaculture systems”, Journal of the World Aquaculture Society 54(4): 782–785, 2023年
- 大分県農林水産研究指導センター、「輸出用ブリ養殖推進事業」
- 水産研究・教育機構、早期ブリ人工種苗の開発、2013年
- 大分県農林水産研究指導センター、「人工種苗による出荷端境期のブリ安定出荷体制の確立」、令和4年度
- Fish Farming Expert, “First gene-edited fish goes on sale in Japan”, 2021年

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