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研究 Archive

全漁連に対する考察

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■2008/ 3/13

《お知らせ》水産業改革高木委員会「提言」に対する考察についてのリンクを追加しました。
http://www.zengyoren.or.jp/oshirase/pdf/kousatsu.pdf

「ついに、全漁連からの反論が出た」と、思いきや、反論になってないです。さすがにこれを反論とは呼べなかったようで、「考察」などと名付けているが、あなた方は当事者なんだから、悠長に考察している場合じゃないでしょう。この文書の日付は2007年7月となっているんだが、PDFの作成は2008年3月12日。全漁連のサイトからリンクが張られたのは3月13日。8ヶ月間、何をやってたんだろうね。

さて、肝心の内容なんだが、髙木委員提言に関する考察というより、「マルクス経済学者による自由経済への怨嗟の声」みたいな感じ。髙木委員提言に対して、「自由競争」、「弱者切り捨て」といったレッテルを貼って批判をしているんだけど、「では、漁業はどうするの?」というビジョンがまるでない。こういう人たちが「困った困った」と口では言いながら、何のアクションも起こさずに漁業を衰退させ続けているのだ。

全漁連という組織の本質がよくわかるのはこの一文だ。

私達は、日本漁業の困難の原因は、漁業経営コストの上昇、輸入水産物の増加、低価格志向を含む消費者の需用の変容といった客観的事情にもとづいていること、したがってそれに対する対処策は、悪化した客観条件に対処しうるだけの明確で強力な漁業政策の確立でなければならないと考えている。

「漁業が衰退した原因は、すべて外部な要因で、俺たちは悪くない!」という、実にわかりやすい主張である。「明確で強力な漁業政策」の具体的な内容は何も書かれていない。全漁連の日頃の行動から察するに、「補助金をもっと増やせ」ということだろう。全漁連という組織の特色は、責任転嫁・他力本願である。

漁業を取り巻く環境が悪いという発想が全漁連の限界を物語っている。漁業を取り巻く情勢はドラスティックに変化をしてきたし、今後も変化をし続けるだろう。日本だけが変わったわけではなく、世界の漁業が刻一刻と変化しているのである。この情勢の変化に対して、漁業の側が対応していく必要がある。

ノルウェーの漁業をみれば、漁業の衰退を外部要因のせいにできないことがわかる。ノルウェーの人件費は日本の比ではなく高いが、ノルウェー漁業は輸出金額を順調に伸ばしている。輸送にコストをかけた上で、全漁連が魚の値段が安いと主張する日本市場にも食い込んでいる。日本の魚が安いのは、「サイズが小さい・大きなサイズが安定供給できない」という生産者側の責任も大きい。そういうことを全部棚に上げて、すべて周りが悪いと決めつけて、自らは何も変わろうとしないから日本の漁業関係者(役人・研究者も含む)はダメなのだ。

衰退する日本漁業と、利益を伸ばし続けるノルウェー漁業の最大の違いは、漁業を取り巻く情勢の変化に対する姿勢の違いである。IBMを再建した辣腕CEOのガートナーの言葉に「もっとも強い種が生き残るのではなく、変化にもっとも対応した種が生き残る」というのがある。”It is not the strongest of the species that survive, but the one most responsive to change. “
変化を新しいビジネスチャンスと捉えて、痛みを伴ったとしても変化をし続けたノルウェー漁業と、変化はすべて忌むべきもので、漁業は変わる必要がないとして、何もしなかった日本漁業。時間の経過とともに、両者の差が広がるのは、自明の理であろう。

漁業に限らず、すべての産業を取り巻く状況は、刻一刻と変化をする。日本の漁業が衰退したのは、漁業を取り巻く状況が変わったからではない。状況の変化を悪と決めつけて、対応する努力を怠ったことが、漁業衰退の原因である。要するに、対応を怠った漁業者自身の責任である。

圧力団体である全漁連はことある毎に補助金を要求して、漁業者を目先の困難から救ってきた。結果として、産業は変わる機会を失い、競争力を失っていった。非効率になった漁業を支えるために、ますます補助金が必要になり、補助金依存体質のためますます漁業が非効率になるという悪循環だ。そのなれの果てが、利益を出せずに、自然を破壊する漁業である。
右肩下がりで生産金額が減少している日本の漁業を維持するためには、右肩上がりの補助金が必要になるが、それは非現実的であろう。仮に右肩上がりの補助金が得られたとしても、漁業は遠からず消滅するだろう。漁業で利益を出せず補助金で生活している人間は、漁業者ではなく、失業者なのだ。

個別割当制度で優良漁業を守れ

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漁業全体の長期的な利益を増やすという観点からは、
小さい魚を多く獲って安く売る漁業より、
大きな魚を少なく獲って高く売る漁業の方が望ましい。
現在の日本漁業は早い者勝ちの自由競争であり、
他の漁業者よりも早く、根こそぎ獲る漁業しか生き残れない。
資源管理をしないということは、
不合理漁獲をする漁業を優遇することに他ならないのだ。

大分県の例でも、状態を放置しておけば、巻き網の乱獲が進行し、
関サバ漁業は消滅する可能性が高い。
1尾5000円で十分に卵を産んだ大型個体を獲る漁業が淘汰され、
1尾10円で未成熟魚を中国に売る漁業が生き残る。
それが、現在の日本の漁業システムの当然の帰着なのだ。

関サバ漁業が淘汰されるような制度では、日本漁業に明日はない。
日本人が高い金を出してでも食べたいと思うような良質な魚を
安定供給できるようなシステムに作り替える必要がある。

まず、TACをABCまで下げるのは、資源管理として当然だ。
でも、それだけでは関サバ漁業は生き残れない。
オリンピック制度では、スタートダッシュで獲りまくれる巻き網が漁獲枠を独り占めするだけだろう。
漁業者間の競争によって、漁期が短縮し、漁業の利益は限りなく減少していく。
漁獲枠を厳格にしたところで、オリンピック制度では資源は守れても漁業は守れない。
このことは、米国、カナダの失敗から明らかだろう。

過剰な早獲り競争を抑制するには、個別割当方式(IQ・ITQ)しかないだろう。
IQは、予め漁獲枠を個々の漁業者・漁船に割り振っておく制度である。
関サバ漁業者と巻き網漁業者にそれぞれ漁獲枠を予め配分しておくことで、
双方の漁獲量を保証することが出来る。
それぞれの漁業者は与えられた枠内での、利益の最大化を目指すことが出来る。

まとめ
漁業から持続的に利益を得るためには、
資源の再生産への影響を少なくしつつ高い利益を上げるのが望ましい。
関サバ漁業は、極めて理想的な漁業と言える。
しかし、現在の無管理状態では、不合理漁獲に淘汰されてしまう。
持続的に利益を上げられる漁業を守り、育てるためには、
IQやITQのような権利ベースの漁獲枠配分システムの導入が必要である。

サバ産地、ノルウェーを千葉県産に

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表示ミス:サバ産地、ノルウェーを千葉県産に--神奈川・小田原の水産会社
 神奈川県小田原市の水産物加工会社「イチコー」が、製造したサバの干物のパック商品について、「ノルウェー産」を「千葉県産」と表示していたことが分かった。小宮社長は「ノルウェー産のサバは千葉県産に比べ二倍以上も仕入れ値が高い。高いサバを損をしてまで売るわけがない」と産地偽装を否定。千葉県産と思って買った消費者には「本当に申し訳ない」と話している。
http://mainichi.jp/life/food/news/20080311dde041040003000c.html
http://www.kanaloco.jp/localnews/entry/entryxiiimar0803253/

サバに関しては、ノルウェー産を千葉産と偽る理由はどこにもないので、これは本当のうっかりミスと思われます。2枚380円でノルウェーのサバを売ったら、大赤字だろうし。この値段でノルウェー産のサバを買えた消費者はむしろラッキー。この加工は、高価な原料を安い値段で売ってしまった上に、新聞で偽装と叩かれて、踏んだり蹴ったりだな。疲労したアルバイトを深夜まで働かせたツケは高くついたと言うことでしょうか。

グランドデザインから、国内組と国際組の違いを説明してみる

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日本の水産政策のグランドデザインは次の2点である。

1)公海に日本漁業の縄張りを確保する
2)縄張り内からより多くの漁獲量を得られるように漁業者をサポートする。

1)と2)がセットになって、戦後の日本漁業の生産が伸びていった。魚を乱獲しながら、外へ外へと広がっていく、焼き畑漁業である。焼き畑漁業の前提条件として、新漁場や未開発資源を常に開拓する必要がある。1)を国際組が、2)を国内組が担当していたのだが、どちらも破綻すべくして破綻してしまった。そもそもの基本戦略が時代に即していなかったのである。

 1970年の段階で、日本の漁業は世界に広がっており、これ以上の拡張は望めなかった。沿岸国の排他的利用は時代の流れであり、日本の外交力では世界的な流れを逆行できるはずがない。また、貿易摩擦が取りざたされた時代には、自動車や半導体のために漁業を犠牲にするという国としての政治判断もあった。国内外の逆風の中で、国際組にできることは、撤退を遅らせることのみであり、その観点からは良い仕事をしたと思う。
 本来であれば、国際組が時間稼ぎをしている間に、国内組は資源管理を徹底して、自国の資源と漁業を立て直すべきであった。ちょうどこの時期に神風が吹き、マイワシが増えた。マイワシでなんとか凌ぎながら日本沿岸の回復を図ることは可能だったはずだ。しかし、実際には、マイワシが増えたからといって、安易に漁船規模を拡張して、自らの首を絞めた。国際組が時間を稼いだ間に、乱獲で資源を枯渇させ、後に残ったのは借金と過剰な漁獲努力量だけ。これでは、幾ら時間を稼いでも、何の意味もなかった。そもそもグランドデザインの時点で、破綻していたのである。捕鯨を見ればわかるように、水産庁は未だにこの破綻したグランドデザインにしがみつき、漁業を衰退させているのである。

 研究においても、グランドデザインに従って、国際組と国内組は全く違うミッションの下にあった。

 国際組の役割は、国際会議において、日本に有利な結果を通すことである。そのような会議においては、参加者全てがデータを共有するのが前提である。データが同じである以上、解析手法で優劣が問われることになる。統計解析においては最新の手法が、モデル解析においては、出来るだけ多くの要素が入った複雑なモデルが良いとされた。国際組の戦場は、米ソ軍拡競争のように複雑化の一途を辿ったのである。こういった軍拡競争は勝者を産まず、資源の有効利用にも繋がらなかったが、泥沼の中からOMという新しい考え方が産まれたのだが、その当たりの経緯は、このブログでも前に書いたので省略。http://kaiseki.ori.u-tokyo.ac.jp/~katukawa/blog/study/490om/でも読んでくれ。

 国内組は、日本の漁業にブレーキをかけるような研究は御法度だった。ちょっと調べれば「獲りすぎ」という結果が出てくるに決まっているので、日本では漁業に直接関係する研究はほとんどできなかった。資源研究者には、国際組に入って帝国軍人として大本営の命令通りに闘うか、国内組として仮想資源の仮想的な話をするかの選択肢しかなかったのである。その一方で、漁獲を続けるための理由付けを助ける研究は大いに奨励された。例えば、「海洋環境と資源変動の関連を調べて、資源が減った理由を海洋環境から説明しよう」という研究には多額の予算が付いた。「魚が減ったのは海洋環境のせいだから、人間は悪くない!」と居直るのに使えるからだろう。また、純粋な意味での生物学・生態学も、乱獲問題に触れない限り、自由であった。

 国内では、魚自体や、魚と海洋環境の関係を対象とした研究は進んだが、漁業に関してはアンタッチャブルであった。その状況を変えたのがTAC制度である。資源評価を外部に公開でやることになったのだが、前述のような事情で、漁業の影響を評価できるような人材は国内には殆ど居なかった。しょうがないから、別の専門分野の研究者に資源評価をやらせているのである。無茶なことをさせるものだと思うが、人材が居ないのだから仕方がない。人材育成については、大学の責任もある。国内の資源評価に関して言うと、担当者がそれぞれ手探りでやっているというのが実情だろう。苦しい台所ながら、頑張っていると思う。

国際組の研究は統計学・シミュレーション解析に偏っており、国内組の研究は魚の生態・海洋環境と資源変動の関係に偏っている。お互いに無いものをもっているのだ。国内の資源評価の質を高めていくためには、国際組を活用しない手はないだろう。上手くはまれば、良い関係になると思う。ただ、国際組のスキルは縄張り争いで喧嘩に勝つための道具であって、より合理的な資源管理をするための道具ではないことに注意が必要だ。決まった大きさの土俵があって初めて相撲の技術は意味をなすように、同じデータを使って正しさを競い合うという前提があって初めて意味をなす技術も多い。複雑すぎる統計手法は国内では不要だろう。そもそも厳密な議論をするほどの情報の精度ではないし、国内資源に関しては、データをとりに行くことも可能だからだ。最近年の資源量の推定に関しては、VPAのチューニングを頑張るより、音響調査などの漁獲統計と独立した資源評価をした方が良いだろう。国際組の財産の中で特に重要だと思うのはOMに関連する部分だ。日本でも資源管理をまじめにやることになれば、OM的なアプローチは必要になるから、準備をしておいて欲しいものだ。

北洋シンポ

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北洋シンポの発表をアップしました。
ライブではなく、スタジオライブです。

今回もマサバを例に日本の乱獲をDISしているのですが、
「沿岸は沖合と別物だから、分けて話をしてくれ」というコメントがつきました。
本当に、沿岸漁業はここで指摘しているような過剰競争&乱獲とは無縁なのでしょうか?
俺には、沿岸も沖合も50歩100歩にしか見えないのですが・・・

水政審はTACへの説明責任を果たしてください

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水政審でTAC制度の見直しをするらしいのだが、コメントを聞くと水産庁の従来の主張を繰り返しているだけだ。水政審はTAC制度が批判を受けている理由が理解できていないのだろう。

資源研究者が、水産生物の持続的な利用のための漁獲量の閾値(ABC)を毎年計算している。それを元に、実際の漁獲枠(TAC)が設定されることになっている。本来は漁獲枠(TAC)は持続性の範囲(ABC以下)でなければならないのだが、日本ではABCを大きく上回る漁獲枠が慢性的に設定されている。そして、そのような乱獲とも思われるTACが許容されている根拠が示されていない。さらに、いくつかの魚種でTACを大幅に超過する漁獲が野放しにされている。TAC制度が批判されている点を箇条書きすると次のようになる。

  1. ABCを大幅に上回るTACが慢性的に設定されている
  2. TACの値を設定する根拠が全く示されていない
  3. TACを超える漁獲が野放しであり、資源管理としての実効性がない。

残念ながら、水政審は、これらの問題に真摯に対応するつもりはなさそうである。

 資源管理分科会の櫻本和美分科会長(東京海洋大教授)も現在のTAC制度について「早急に見直しを行い、制度を改善する必要がある」との見解を示した。「従来の日本の管理方式とは異なるものの、システムとしては洗練されたものとなってきた」としながら、一方で「不満がないとは言えない。TACが資源管理に有効に機能していないとの批判が出ており、資源管理分科会としてもこれを真摯に受け止め、説明責任を果たす必要がある」と強調した。

実際の漁業への影響力がないABCのあら探しをしている暇があったら、実際に管理で使われているTACに対する説明責任を果たしていただきたい。 水政審には、TACの設定根拠を明らかにした上で、ABCよりもTACの方が妥当であることを説明する責任がある。きちんと筋を通した上でABCを無視するなら、文句を言うつもりはない。水政審は、自らが承認したTACの根拠を示さずに、ABCのあら探しをしているだけでは論外である。

 具体的には、TACがABCより大きく設定されている批判に対しては①漁場形成などの関係からTAC達成率の低い魚種に対しては、ABC=TAC達成のためには「ABC÷TAC達成率=TACとすることが必要」(すなわち、TACはABCより大きく設定しなければならない。ただ過去のデータから妥当性を検討すべき)と説明。

漁場形成が変化しても漁獲量をTAC以下に抑える漁獲枠配分システムを作れば良いだけの話であり、漁場形成を口実に安易にTACの水増しをすべきではない。「ただ過去のデータから妥当性を検討すべき」という部分もぶっ飛んでいる。ABCを超えるTACを設定しておきながら、その妥当性は検証してないってことだよね。無責任にもほどがある。

加えて②ABCの定義の問題として、唯一のABCの値があたかも絶対的なものと解釈されている。TACがABCより大きいことがすぐ乱獲であると一般に理解されるが、ABCはあくまでも人間が定義するもので、研究者間でも合意が得られていない。合意できるABCの再定義が必要。

「ABCを少し超えた」というレベルではなく、倍や3倍は当たり前なんだから、明らかに乱獲である。マイワシのTACなんか現存量を超えていたのだ。こういった漁獲枠の妥当性に対する水政審の見解をお聞きしたいですね。 ABCが絶対に正しいとはおもわないけど、マイワシのTACは絶対に間違えていると思う。

 研究者の合意が得られてないと言うが、合意していない研究者って誰だろう。俺が知っている範囲で、ABCに文句を言っているのは、自称研究者の天下り役人ぐらいなんだが。TACと違って、ABCは公開の会議で議論の上、承認されている。納得いかない研究者がいるのなら、ブロック会議で意義を唱えれば良いだけの話である。

ヨーロッパのサバ漁業

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ノルウェーのニシンとサバがMSC申請

-Two Norwegian fisheries have applied to be assessed for certification under the Marine Stewardship Council’s (MSC) standard for sustainable and well-managed fisheries. If successful the Norwegian Spring spawning herring fishery and Norwegian North East Atlantic mackerel fishery will be to display the distinctive blue MSC eco-label on their catch.
“Recently an initiative was taken by the Norwegian Fishing Industry to undergo a full assessment of both Atlanto-Scandic fisheries for herring and mackerel to be caught by Norwegian fishermen in the forthcoming season.
The aim of the assessment is to have these fisheries certified under the MSC- standard,” says Knut Torgnes, Sales Director of Norges Sildesalgslag.
http://www.sildelaget.no/ShowArticle.aspx?idx=ENGNyhetsartiklerActive&ArticleId=23334

Knutさんは、Bergenでノルウェーのオークション・システムについて説明してくれた浮魚漁業組合の人だな。ニシンとサバでMSC申請とは、ノルウェーも頑張ってますね。MSC申請をするような漁業がどういう管理をされているか、興味がある人も多いだろうから、ヨーロッパのサバ漁業資源について簡単にまとめてみた。(26分 22MB )

小サバの乱獲で、加工業者が廃業の危機らしい

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2/15日には、「サバ水揚げ減少に悲鳴、静岡加工連など水産庁に陳情」という記事があった。マサバの未成魚を中国に輸出しているために、産卵場である銚子以南のマサバ漁業はほぼ壊滅。静岡の加工業者、産地出荷業者、関連業者は打撃を受け「廃業する業者が増えている」というのだ。サバの未成魚を海外に投げ売りしてきた当然の結果である。

漁業で生活しているのは魚を捕る人だけではない。加工する人、流通する人、小売り業者、そして、消費者までが漁業というシステムに取り込まれている。漁業システム全体の利益を増やすのが、国の水産政策のあるべき姿だとおもう。しかし、水産庁のやっていることは、全く逆だ。未成魚を乱獲している一部の漁業者が、あぶく銭を手にする一方で、その他の漁業関係者は廃業に追い込まれているのだ。もし、未成魚を中国に投げ売りする代わりに、十分な大きさで漁獲をすれば、加工・流通・小売り業者は皆利益を得ることが出来る。

0歳1歳で獲っているサバを、3歳4歳で待って獲れば、500g-700gの国内で需要が高いサイズになる。3年間に個体数は3割に減少するが、体重が3.3倍になるので、全体の漁獲量としては変わらない。180gのサバと600gのサバでは浜値はまるで違う。加工されてスーパーに並べば、1尾300円、場合によっては500円にもなる。仮に300円としても3尾で900円の経済利益になる。この利益を漁業者と後方(流通・加工)で分けることになる。 ざっくり計算しても、国内の経済効果は10倍になる。さらに、素性のたしかな、国産の美味しいマサバの供給量が増えれば、消費者も大喜びだ。

体重
個体数
重量
漁業売上
後方売上
合計
小サバ
180g
10尾
1800g
90円
0円
90円
中サバ
600g
3尾
1800g
250円
650円
900円

海の生産力は限られている以上、そこからいかに利益を引き出すかが重要になる。獲る技術よりも、経済価値を加える技術が重要なのだ。 高く売れる魚を持続的に漁獲し、価値をつけて売ることが、儲かる漁業の条件だ。世界で有数の利益率の高さを誇るノルウェー漁業は、殆ど付加価値をつけてない。加工技術がないので、丸のまま冷凍で売るしかできないのだ。日本には、魚食の知恵と加工技術がある。、ノルウェーのような魚の獲り方をして、日本独自の加工をして売れば、ノルウェー漁業に必ず勝てる。しかし、一部漁業者の乱獲のせいで、せっかくの加工技術を活かすことが出来ないばかりか、加工技術自体が失われようとしている。 取り返しのつかない事態が進行中だ。

納税者が小サバと中サバのどちらの獲り方を望んでいるかは、議論の余地がないだろう。日本のサバを未成魚で乱獲して、中国に投げ売りして欲しいと思う日本人などいないだろう。素性のたしかな国産魚を日本人向けに安定供給することこそ、国益である。そのために、産業規模に比べて不相応な予算が水産業に割かれているのである。

にもかかわらず、水産庁は小サバの輸出事業を税金で進めているのである。小サバを輸出している漁業者は軒並み赤字で、補助金で支えられている状態だ。「マサバ太平洋系群回復計画」と称して、未成熟なサバを乱獲するための油代を税金から払っているのである。中国で小サバをPRする事業まで国がやっているのだから、至れり尽くせりだ。赤字を垂れ流しながら、資源を徹底的に痛めつける漁業を保護して、金の卵である水産資源と貴重な加工技術を荒廃させている。それを「回復計画」などと呼ぶのは、ブラックジョークだろう。本当にマサバを回復させたいなら、未成魚の漁獲は禁止すべきだし、それが出来ないなら補助金をばらまくのを辞めるべきだ。

水産庁のやっていることは、自分たちと関係の深い一部の漁業者の短期的利益のために、国の食料供給の未来を奪おうとしているようにしか見えない。 水産学の専門家として、自国の漁業がこんな有様であることに対して、恥ずかしい限りである。専門家の一人として、静岡の加工業者さん達には、申し訳ない気持ちで一杯だ。未来の世代が美味しくて安全な日本のサバを食べ続けられるように出来ることをやるしかない。しかし、時間はあまり残されていない。 90年代以降、マサバ太平洋系群の生産力は非常に高かった。92年,96年,04年,07年と15年間で4回も卓越年級群が発生した。乱獲のせいで全く資源回復には結びつかなかった。マサバの高い生産力は餌のカタクチイワシが豊富だったからだと考えられている。そのカタクチイワシが減っているのだから、しゃれにならない。上の記事と同じ2/15のみなと新聞に、「カタクチイワシ、水揚げ、かつて無い少なさ」との記事があった。これは実にやばいサインだ。マサバを0歳から獲りまくっている現状で、加入の失敗が続けば、あっという間に資源崩壊だろう。浮魚は自然変動するから、幾ら獲っても構わないという珍説が日本ではまかり通っているが、そんなことはない。実際に、北海のサバ資源は80年代に乱獲で消滅しているのだし、北海道のニシンだってほぼ壊滅している。このままだと、マサバが沿岸性のローカル資源になってしまうかもしれないということで、俺は焦っておるのです。

中国で加工の冷凍サバから「ジクロルボス」だってさ

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餃子ネタはすでにおなかいっぱいなのだが、今度はサバだそうだ。食品衛生法の基準はかなりマージンがあるので、食べたら病院送りとかそういう話ではない。ただ、薬品のリスク管理ができていないのは明らかだろう。

中国で加工の冷凍サバから「ジクロルボス」…52品目を回収

 香川県さぬき市の水産物製造販売会社「香西物産」は18日、中国の工場で加工された業務用の冷凍サバ「炙(あぶり)トロ〆鯖(しめさば)スライス」(200グラム)の切り身から、有機リン系殺虫剤「ジクロルボス」が、食品衛生法の基準の14倍にあたる0・14ppm検出され、同工場が加工した冷凍サバ商品52品目の自主回収を始めたと発表した。
香西物産は昨年3月から中国・山東省の加工工場2か所に、デンマーク産サバの加工を委託していた。
(2008年2月18日20時42分  読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080218-OYT1T00505.htm?from=main2

中国を経由して、日本に入ってくる水産物は多い。なんと言っても人件費が安いからね。ノルウェーから中国に行くサバのほとんどは、中国で加工されて最終的には日本に出荷される。日本の加工の空洞化は深刻な問題だ。漁業者はなんだかんだで保護されているが、加工業者に対する支援は何もない。魚は全般的に捕りすぎなんだから、漁業者ばかりを保護しても漁獲量が減るのが早くなるだけだ。ヨーロッパのサバは、品質も良いし安定供給できるだろうけど、彼らは日本向けの加工はできない。国内の加工が衰退すれば、ここでも中国に依存することになる。食の安全を守るためには、小型魚の乱獲をする一部漁業者への補助金を打ち切って、代わりに加工業者を保護するべきだろう。

平成19年度全国資源管理推進会議

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今日は、平成19年度全国資源管理推進会議というのがあるみたいですね。
http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/kanri/080212.html

「マサバ太平洋系群資源回復計画について」とか、「マリン・エコラベル・ジャパン(MELジャパン)の概要と展望」とか、興味深い演題が並んでおります。

新鮮なネタをたっぷりと仕入れて来ますね。

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