Home > 研究 Archive

研究 Archive

食の安全はどのようにして失われたか

[`evernote` not found]

赤福、不二家、雪印、ミートホープなどの事件によって、
食の安全に対する信頼が揺らいでいる。
生産者サイドは消費者の信頼を取り戻そうと必死になっているが無理だろう。
パンドラの箱は空いてしまったので、知らないで安心という状態には戻れない。

ミートホープの偽装肉事件では、
経営者は「半額セールで(冷凍食品を)喜んで買う消費者にも問題がある」と逆ギレし、
「この値段でまともな肉を出せるわけ無い」といなおった。
これに対して、他の食品生産者はミートホープにおおむね同情的だった。
「ミートホープがやったことは許されることではないが、気持ちはわかる」
明日は我が身、他人ごとではないのだろう。

一方、消費者にとってそんなことは寝耳に水だ。
「表示を信じて、安心して買っていたのに、、、」となる。
店に並んでいるものは、最低限の安全水準をクリアしていると疑わない。
だから、値札だけ見て、安心しきって買っていたのである。
消費者にとっては、ミートホープのような偽装は、背信行為に見えるだろう。
ただ、食品業界をそういう方向に導いたのは責任の一端は消費者にもある。

消費者の選択基準が、見た目と値段しかないなら、
それ以外の要素は極力排除されるのは当然のことである。
食料生産の現場は「見た目を維持しながらコストダウンをする」という競争に晒されている。
まず、大手スーパーなどの小売りが値段を決める。
値段は上がらないが、経費は上がっていくなかで、
損失は生産、加工、流通が飲むことになる。
ギリギリもしくは限界を超えたようなコストを要求されている食料生産の現場から、
見た目と値段に影響を与えない要素が失われていく。
添加物による見た目のごまかしは、もちろんのこと、
安全基準に抵触するようなコストダウンの誘惑もあるだろう。
このような背景があれば、ミートホープへの生産者サイドの同情的な態度はよくわかる。
「いけないことだというのはわかるが、そうでもしないとやっていけない」
食料生産の現場は、そこまで追い込まれているのだ。

食料生産と消費者の関係は、悪循環である。
思考停止して、安全を信じる消費者は、容赦なく買いたたく。
小売りが間にはいることで、一方的に値段をつけられてしまう。
生産者サイドは、無理難題を押しつけられても、飲まざるを得ない。
生産者サイドの悲鳴は、消費者には届かない。
ギリギリまでコストを削減した結果として、安全性や味が失われていく。
卵、牛乳、肉、野菜、魚など、本来の味がしない食材があふれている。

コスト削減の結果、不正ぎりぎりのところまで追い詰められる生産者、
安かろう悪かろうといった食べ物を知らずのうちに食べさせられる消費者、
この両者にとって、不幸な事態である。
食料生産の現場と、消費者が切り離されている限り、この悪循環は続くだろう。
いずれ、そういう食品しか製造できなくなっていくだろう。

食の安全が砂上の楼閣であることは、想像力を働かせればわかるはずだ。
外食産業で働いている人間の多くは「この店でだけは食べたくない」という感想を持つ。
内情を知ったら食欲が無くなるような店が少なくないのだ。
消費者と距離が近い外食産業だって、壁一枚隔てればこんな感じなのだから、
消費者との距離が更に遠い製造、加工、流通がどうなっているかは推して知るべしだ。

ぼろが出たところを「例外」と切り捨てて、
社会的制裁といわんばかりにバッシングしても、問題は何一つ解決しない。
食の安全が失われている現状を変えない限り、幾ら安全宣言をしても無駄だろう。
消費者はいくらなんでもそこまでバカではないし、情報を隠すにも限界がある。

鯨食非難の原因は、食品に対する無知と想像力の欠如

[`evernote` not found]

オーストラリアの「クジラ食べるのは野蛮な行為」という偏見の根底には、
人種差別と言うよりは、自分たちが食べているものに対する無知があると思う。
それは、豪州人のみならず、我々日本人にも当てはまる現代病である。

我々はスーパーマーケットでパックに詰められた加工済みの肉を買う。
その肉がどのようなプロセスで生産されたかを消費者は知らない。
だから、肉を食べるときに罪悪感を感じることはない。
それは、想像力の欠如である。
生産に関する情報は完全に遮断されている。
それは、罪悪感を感じたくない消費者と、
食べる側の罪悪感を払拭して売り上げを伸ばしたい生産者の双方にメリットがある。
消費社会において、食品生産の現場に関する想像力は退化する一方である。

そういった想像力が欠如した中で、
豪州では、クジラに関してのみ、生産現場のショッキングな情報が流された。
それが出来たのは、彼らの国に捕鯨産業が無いからである。
ショッキングな情報に対する豪州人のリアクションはリテラシーによって異なる。
脳髄反射的に野蛮な日本人を攻撃する人間もいれば、
その背後にある問題を捉えた上で「でも牛も豚もそうだよね」と考える人間も大勢いる。
前者がYoutube、後者が新聞とメディアを棲み分けているのも面白い。

豪州人の想像力の欠如に対して、とやかく言う資格は日本人にはない。
日本でも、食品生産の現場に関する想像力は欠如している。
例えば、トンカツ屋のメニューにかわいい豚のイラストが描いてあって、
「このかわいい動物を食べてるんだよな」とげんなりしたことがある。
「この店は無神経だ」と思う反面、「それが事実だと受け止めた上で、
豚に感謝をして食べないといけない」とも思った。
そのイラストを採用した店の側には、
かわいい豚のイラストと調理された豚肉をつなぐ想像力が無い。
俺にしても、その瞬間に少し嫌な気分になっただけで、
普段は何も考えずに、食べているだけだ。 

庭で飼っていた鶏を締めて食べるといった経験を、我々の多くはしていない。
手の中で必死にもがく生き物を殺した経験など、殆どの人が無いだろう。
一方、我々の食を支えるために、毎日、どれだけの動物がもがきながら殺されているか。
我々は自分の手で生き物を殺さないという特権を、金で買っている。
自分の手を汚す代わりに、金を払って、代わりに殺してもらっているだけである。
それによって、道義的な道義的な罪悪感を感じずに済んでいる。

想像力の欠如は、クジラに関しても同様だ。
たしかに、クジラに感謝する鯨塚のようなものはあるし、
昔の日本人は食べ物に対する感謝の感覚を持っていたのだろう。
その感覚を現代の日本人は失いつつある。
明治以前は殆どの日本人はクジラを口にしていなかった。
日本人の多くがクジラを口にしたのは食糧難の時代であり、
文化というよりは栄養的なものが背景にあった。
自分自身が給食でクジラ肉を食べるときにも、
その他の肉と同様にその生産過程には無関心であった。
現在は、クジラが希少価値ゆえに有り難がられているだけで、
スーパーに普通に並ぶようになったら、他の食材と同じように、
ただ、買ってきて食べるだけのものになるだろう。

Youtube 白豪主義オーストラリアと反捕鯨

[`evernote` not found]

日本人が作った豪州の反捕鯨を非難するビデオが話題になっている。

http://www.youtube.com/watch?v=e8lvep0-Ii0

このビデオは、とても良くできている。
全体の構成も、素材の選び方も、間のとり方まで上手だ。
日本の職人は質が高いねぇ。
でもって、youtubeのコメント欄が2ch化してて笑った。

豪州の新聞もこのビデオのことを取り上げている。
http://www.news.com.au/story/0,23599,23014405-421,00.html
こちらのコメントの方が質が高い。

Has anyone seen how pigs, cows, chickens, etc are being slaughtered? Given that whales are not an endangered species, why is whaling any different from slaughtering of any other types of animals for food? Check out the youtube clip which shows how pigs are slaughtered. Maybe we should ban pork as well? And beef? And chicken? And lamb? http://www.youtube.com/watch?v=IJTBNz5UeTc

Posted by: Adrian of Sydney 2:23pm January 07, 2008
Comment 349 of 424

こういうコメントを見ると、このビデオが一定の効果をあげていることがわかる。
豪州人向けの反捕鯨プロパガンダに日本人がつっこみを入れる。
それを豪州人が見て、いろいろと議論をしている。
なかなか面白い時代になったものだ。
クジラは聖なる動物だから守れと言うコメントは少数派で、
「まあ、俺たちもチキンもポークも食べるしな」という意見が多い。
反捕鯨陣営のプロパガンダは過激だけど、ここのコメントを読む限り、
十分に落としどころを探っていけそうな雰囲気がある。

豪州が日本の調査捕鯨に厳しく反対するのは人種差別と言うよりは、
自分たちの庭(と彼らが思っている)の南氷洋で獲ってるからだろう。
ノルウェーと同じように自国の沿岸で獲るのなら、
ノルウェーの捕鯨と同じように生暖かい反応になるんじゃないか?

俺個人の意見としては、人種差別の部分は削って、
オーストラリアの動物殺害とクジラ資源の持続性に絞った方が良かったと思う。
たしかに、一部の反捕鯨運動の背後には人種差別意識はあると思う。
だからといって、そこを徹底的に突くのは戦術として上手くない。
人種差別意識というのは長い世代をかけて、徐々に溶かしていくべき部類の問題だろう。
クジラなんかとは比較にならないぐらい根深い問題だ。
より根深くて、解決に時間がかかりそうな問題と結びつけるのは下策だろう。

個人が作ったビデオが大きな影響力を持つ時代になった。
こういうのは、面白いのでどんどんやってもらいたいものだ。
お互いに接点が増えれば、徐々に雪解けに向かっていくのではないだろうか?

次のTAC魚種は、ずばり、これだ!

  • 2008-01-09 (水)
  • ITQ
[`evernote` not found]

規制改革会議から出された今年の宿題に「TAC対象魚種の拡大の検討」というのがある。
水産庁もいろいろ忙しくて大変だろうから、宿題を手伝ってあげよう。

評価票に漁獲量の記載があった79系群の漁獲量をどんどん足していくと、次ような図になる。

Image200801091.png

最初の立ち上がりは急だが、20を超えた当たりからほぼ頭打ちになっている。
上位20系群で260万トンに対して、全79系群で280万トンである。
21位から79位までを足しても20万トンにしかならない。
確かに、日本沿岸の水産資源の種類は多いが、漁獲量として重要な種は限定的である。
日本沿岸が南北に長く、黒潮・親潮が混ざる複雑な海洋環境だから、地域によって魚が違う。
結果として、地域色豊かな海洋生態系がはぐくまれ、地域色豊かな多様な食文化が生まれたのである。
利用している魚の種類は多いけれど、漁獲量として重要なものは限られているのである。

2005年の漁獲量の上位20のランキングは、つぎのようになる。

魚種
系群
2005漁獲量
合計
1 サンマ 太平洋北西部系群 469479 469479
2 カタクチイワシ 太平洋系群 250974 720453
3 マサバ 太平洋系群 226493 946946
4 スルメイカ 秋季発生系群 223640 1170586
5 マサバ 対馬暖流系群 207000 1377586
6 マアジ 対馬暖流系群 183000 1560586
7 スルメイカ 冬季発生系群 178213 1738799
8 ゴマサバ 太平洋系群 160000 1898799
9 スケトウダラ 太平洋系群 159868 2058667
10 ホッケ 道北系群 121769 2180436
11 ゴマサバ 東シナ海系群 86000 2266436
12 カタクチイワシ 対馬暖流系群 74143 2340579
13 カタクチイワシ 瀬戸内海系群 57100 2397679
14 ブリ 55591 2453270
15 マアジ 太平洋系群 48000 2501270
16 マダラ 太平洋北部系群 26604 2527874
17 スケトウダラ 日本海北部系群 25910 2553784
18 マイワシ 太平洋系群 24877 2578661
19 ウルメイワシ 対馬暖流系群 20240 2598901
20 イカナゴ類 宗谷海峡 19777 2618678

上位20種の中でTAC対象資源を青で塗ってみた。
なんだかんだ言って、重要資源は既に資源管理の対象になっているのである。
誰が選んだか知らないが、TAC魚種というのはなかなかよく考えられている。
ただ、その管理の内容に問題が大ありだ。
TAC対象種の数を増やすよりも、現在のTAC制度をまともな資源管理に改良していくのが先決だろう。

TAC対象ではないのは、カタクチ、ホッケ、ブリ、マダラ、ウルメ、イカナゴがランキングした。
これらも将来的にはTACの対象にした方が良いとは思うが、難点も多い。
カタクチイワシは、単価がべらぼうにやすくて、漁業としての重要度は低い。
また、ホッケは親は岩場に入ってしまうので、まとまってとれるのは未成魚だけ。
親はつりでしかとれないので、資源量の推定が非常に難しい。
未成魚だけをみて資源全体を把握するのは至難の業である。
ただ、難しいからといって、放置しておいて良いわけではない。
カタクチイワシは最近減少が顕著であり、要注意資源になりつつある。
日本海のスケトウダラの崩壊が確実な北海道では、ホッケに崩壊フラグが立っており、
ホッケの管理体制を整えるのが急務である。
十分な情報が無いのはわかるけど、関係者で知恵を絞って何とかしないとまずい。

ランキングには入らなかった系群でも、漁獲枠で管理すべきものはいくつかある。
ロシアが大量に利用しているイトヒキダラ 太平洋系群は早急に管理を始めるべきである。
沿岸国の権利をしっかりと主張して、守るべきものは守らないといけない。
ベニズワイやアカガレイなどの底もの重要種も管理をした方がよいだろう。
この辺を重点的に検討してください>中の人


過去の最大漁獲量をつかって、同じような図をかいてみた。

Image200801092.png

こちらも20系群で頭打ち傾向が顕著である。
歴史的にみても重要種は限られているのである。
こちらの上位20位は次の通り。

魚種
系群
Max
合計
1 マイワシ 太平洋系群 2915763 2915763
2 マサバ 太平洋系群 1474434 4390197
3 マイワシ 対馬暖流系群 1283914 5674111
4 マサバ 対馬暖流系群 821000 6495111
5 サンマ 太平洋北西部系群 469479 6964590
6 カタクチイワシ 太平洋系群 415437 7380027
7 スルメイカ 冬季発生系群 379422 7759449
8 スルメイカ 秋季発生系群 317385 8076834
9 スケトウダラ 太平洋系群 294765 8371599
10 スケトウダラ オホーツク海南部 279135 8650734
11 マアジ 対馬暖流系群 277000 8927734
12 ホッケ 道北系群 205086 9132820
13 スケトウダラ 日本海北部系群 162898 9295718
14 ゴマサバ 太平洋系群 160000 9455718
15 カタクチイワシ 瀬戸内海系群 149900 9605618
16 カタクチイワシ 対馬暖流系群 128250 9733868
17 ゴマサバ 東シナ海系群 116000 9849868
18 スケトウダラ 根室海峡 111406 9961274
19 マアジ 太平洋系群 83000 10044274
20 ムロアジ類 東シナ海 80698 10124972


トップ4はマイワシとマサバが独占だが、どちらも巻き網に乱獲されて激減中。
巻き網はとても効率的に小さい魚からとれてしまう漁法だから、
日本のように補助金をばらまくだけで、まともな漁獲規制をしなければ必ずこうなる。
巻き網業界が困るのは自業自得なんだけど、
他の沿岸漁業者や加工や流通や消費者にとって、迷惑この上なしだ。

サンマは業界が強いので、巻き網に魚をとらせていない。
これがサンマ豊漁の秘訣だろう。
また、小型魚を投棄する選別機の使用を止めた英断も、資源に良い影響を与えたはずだ。
ただ、資源状態が良くなっても、それが収入につながっていない現状がある。
鮮魚にこだわらずに利益が出るような取り方を模索して欲しい。
工夫次第で、いろいろなやり方があると思う。

ここにかかれていないものとしては、ニシンの100万トンというものあるんだが、
完全に今は昔の夢物語になってしまった。
マサバ、マイワシをニシンの二の舞にしてはいけない。

我が国の資源評価の現状を知るために

[`evernote` not found]

水産庁が水研センターに委託している事業で資源評価票の作成というのがある。
日本の主要な魚種について、資源状態を調査してまとめたものだ。
現在は44魚種85系群と大所帯になっている。
そのうちの8魚種19系群がTACによる管理の対象となっている。
詳しくはここを見て欲しい。http://abchan.job.affrc.go.jp/

評価票によって、日本の漁獲のどの程度がカバーできているのだろうか?
たぶん、誰も計算していないので、自分でやることにしたのだが、実に大変。
さきほど、ようやく集計が終わりました。俺の正月を返せ。

評価票の守備範囲は、魚類、エビ類、カニ類、イカ類であり、
海藻や貝などは評価票の守備範囲外なので、これらは除外した数値を集計した。
それを図にまとめるとこんな感じ。
赤線が魚類、エビ類、カニ類、イカ類の合計漁獲量を漁業・養殖業生産統計年報から抜粋したもの。
青線が評価票に漁獲量の記載があった79系群の合計値
オレンジ線がTAC魚種の漁獲量の合計値だ。

Image0801061.png

1060年代の評価票カバー率が低いのは、評価票に漁獲量が記載されていないためだ。
1977年に国の統計制度が大幅に整備されたので、その前後で情報の質が違う。
だから、1976年以前の情報は評価票では用いない場合が多いのである。
80年代になると、TAC魚種に関してはほぼ漁獲統計が出そろうことになる。

80年代以降に、評価票で漁獲のどの程度をカバーできるかを図示してみた。

Image0801063.png

TAC魚種によって、全漁獲の6割から、4割5分程度がカバーできている。
96年から98年までにカバー率が大幅に下がったのは、マサバ(太平洋&対馬)の減少が主な要因である。
赤線と青線の間が、TAC魚種以外の評価票がカバーする割合である。
TAC対象種以外は、90年代以降に徐々に統計が整備されてきたものが多く、
TAC対象種以外のカバー率はじりじりと増加している。
評価票によって、全体の約7割がカバーされていることになる。

新聞記事 自壊するマサバ漁業

[`evernote` not found]

みなと新聞12月21日の記事をおいておきますね。

勝川俊雄の最新の記事をいち早く読めるのは、みなと新聞です。
購読申し込みはこちらから。
http://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/

 

Image200712226.jpg

PDFはこちらから(2.3MB)

ニュータイプの研究者を目指して

[`evernote` not found]

自分のことを少し振り返ってみよう。
キャリアのスタート地点においては、パラダイス鎖国系研究者だった。
日本漁業のことはさておき、資源管理の理論的な研究を進めていこうと思っていた。
国内資源がどうしようもない状態だということを知るにしたがい、
楽しくパラダイス鎖国をしている場合じゃないなと思うようになった。
それで、漁業者や行政に対して、お小言を言い始めたのだが、
彼らとの接点を持つにしたがって言うだけ無駄だと思うようになった。
石田丸事件とか、釧路キャッスルホテルの乱だとか、いろいろな経緯があり、
漁業者と行政に任せていたら、漁業に未来はないと確信するに至った。

しかし、漁業者も行政も、都合の悪いことには聞く耳を持っていない状況で、
研究者に何ができるだろう?
研究者は、漁業に対して直接的な力は持ち得ない。
学者として、いくら偉くなってもそれは変わらない。
某審議会だって、漁業に何の影響力も無いではないか。
審議会に潜り込んだとしても、現状に異議をとなえたら、お役御免になるだけだろう。
学者としての肩書きは学内政治の世界では大切なのかもしれないけど、
その権力はしょせん大学内限定である。

「漁業の役に立たないとしたら、何のために研究をしてるんだろう?」
と悩んだ上でたどりついた答えは、
「水産関係者を変えることはできないなら、それ以外を変えれば良い」
ということ。

マスメディアをつかって、漁業の現状を一般人に知ってもらうことにした。
一般人の意識を変えてしまえば、漁業関係者も変わらざるを得なくなるはずだ。
風車を逆に回すには、風の向きを変えればよいという実に簡単な話である。

Image200712213.png


こういう経緯で、マスメディアを積極的に利用することにした。
その第一弾は、朝日新聞のマイワシの記事だ。
記事が出る過程で、納得がいかないこともあったが、とりあえずは記事が出た。
記事が出てから、その影響力というものを痛感することになった。
メディアを通すと水産庁のコメントが得られるというのが大きな進歩だった。
今までは何をきいても「社会経済的な考慮からこうなっている」の一点張りだったのが、
新聞取材だとなんらかの説明をせざるを得ないようである。
まあ、資源量を上回る漁獲枠を設定することに対してまともな説明などできるはずがないのだが、
まともな説明ができないということが、何よりの答えである。
日本の水産政策のお粗末さの一端が読者にも伝わっただろう。
こういうことを繰り返していけば、水産政策への疑問の目が向くことになり、
今までのような乱獲を放置したまま補助金をばらまくのは難しくなる。
結果として、漁業も良い方向に進むだろう。

一般人に訴えかけるという方法は、
回り道のようにみえて、実は一番の近道だったように思う。
ただ、平坦な道ではないことは確かである。
この道を進んでいったら、どうなるかは正直わからない。
今まで誰もやってなかったから。
今のところは、どこからも苦情は来ていない。
むしろ、もっとこういう話をして欲しいという応援はたくさんきた。
情報に対する需要は確実にある。

大きな枠組みでとらえると、自分が選んだ道というのは、
民主主義国家における専門家としての使命のような気がしてきた。
大学の業務をこなし、論文を書く。そういう職業として業務はもちろん重要である。
その一方で、専門知識を社会に還元するという重要な使命も果たさなければならない。

現在は、漁業に関しては、漁業関係者に都合がよい情報しか流れていない。
現状が悲惨であるという情報が無ければ、現状維持で良いと思ってしまうだろう。
消費者が魚の値段にしか興味がないのは当然のことなのだ。
情報を流してこそ、民意の質は上がっていくはずだ。
メディアと協力して、この状況を打破しなくてはならない。

サイエンス以前の問題に対して、研究者は何をすべきか?

[`evernote` not found]

さて、サイエンス以前の問題を抱えている場合、研究者はどうすべきだろうか?

使われもしない資源管理手法を改良していれば十分か?
まあ、管理手法を改良すること自体は悪いことではないが、
それだけで社会的役割を果たしたとは言えないだろう。

資源評価が無視されていることに対して、社会の合意は得られていない。
多くの日本人は、日本の資源は科学的な根拠に基づいて、それなりに管理されていると考えている。
まさか、ひどい乱獲が放置・黙認されているとは思っていないのである。
科学的なアセスメントを無視して、水産庁が乱獲を公認していることを知らない。
自分たちの税金によって、乱獲が維持されているとは夢にも思ってないだろう。

以上の事柄を社会に知らしめることが専門家の役目である。
これらを理解した上で、世論が現状の漁業政策を認めたならば、
そこで我々の役目は終わりである。
この国には水産資源学など必要がないということだろう。
一般人の魚に対する関心の高さをみれば、そうはならないだろう。

RMPを無視する本会議に抗議して議長を辞めたハモンドの行動は、
研究者として正しい。真摯な態度である。
この状況に対して何も言わないというのは、納税者に対する裏切り行為であり、
漁業者・行政にへつらって、甘い数字を出すなど言語道断だ。
「行政や漁業者に無視されちゃったよぅ」と泣き言を言う前に、
社会に対して、現状を伝える努力をすること。

魚介類の貿易高が急増/八戸港

[`evernote` not found]


 八戸港の魚介類貿易の主要品目は輸出がサバ、輸入はイカ。それぞれ総数量の五割以上を占めている。

 サバの輸出は、二〇〇四年の九十一トンから〇五は千三百二十四トンと飛躍的に増加。豊漁だった〇六年は九千二百十五トンに増え、今年も十月末現在で六千九百五十五トンと、高水準を維持している。水産関係者によると、国際的な魚食ニーズの高まりを反映し、主に魚体の小さいサバが缶詰などの加工原魚として中国やアフリカへ輸出されているという。
http://www.toonippo.co.jp/news_too/nto2007/20071214133619.asp

やれやれ。
せっかく卓越年休群が発生しても途上国に投げ売りするだけ。
日本のサバは中国・アフリカへ行き、日本の食卓にはノルウェーのサバが並ぶ。
この現状は変わりそうにないですね。

こういう漁業をなくさない限り、水産物の自給率はあがるはずがない。

Mathematica6.0が素敵すぎる件について

[`evernote` not found]

今日は本郷まで、Mathematicaのセミナーに行ってきた。
Mathematicaを10年以上、メインで使い続けているので、
今更かなぁという気もしたのだが、参加してみた。

俺的に一番の不満は、シミュレーションの結果を他人に見せづらいこと。
そもそもMathematicaをもっている人なんて、あんまり居ないし、
強引に買わせるにはちょっとお値段が高い。

ウェブ上で遊べた方が面白いので、Javaを使ったりもしたのでした。
http://kaiseki1.ori.u-tokyo.ac.jp/~katukawa/blog/blosxom.cgi/study/article/suketoudara.html
この場合もJavaが入ってないと、みれないとかいう問題もあったりした。

今回のバージョンアップで、この問題点がすべて解消。
予想を上回るすてきな機能てんこ盛りで、もうメロメロの骨抜きですよ。

具体的にどういうことかというと、Manipulateという機能が出来た。
Manipulateコマンドを作ると、あっという間にコントロールボックス付きのオブジェクトがつくれる。
これがExportコマンドで、あっという間にフラッシュファイルになる。
でもって、これをあっという間にウェブにも、パワーポイントにも張れてしまうのだ。
うーん、スーパークール。

Home > 研究 Archive

Search
Feeds
Meta
Twitter
アクセス
  • オンライン: 5
  • 今日: 1373(ユニーク: 497)
  • 昨日: 1096
  • トータル: 9381603

from 18 Mar. 2009

Return to page top