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漁業国益論 (2)

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漁業者の利益と国民全体の利益(国益)が乖離したときに、
水産庁は、国益よりも、むしろ、漁業者の利益を選択した。
たしかに、漁業者も国民ではあり、漁業者の利益は国益と言えないこともない。
「漁業者も国民だからサポートするのは当たり前」という理屈であれば、
漁業者からの税収入でやりくりできる規模の予算にすべきである。
産業規模から言えば、経済産業省 食糧部 水産課 ぐらいが妥当だろう。
GNPの0.4%に過ぎない産業に不相応な予算をつかう以上は、
漁業者以外のの国民にサービスを提供する義務があるはずだ。
こういう視点が、漁業者にも行政にも欠けていると思う。

公海漁業が下火になるのは明らかなので、
漁業を維持するには沿岸資源を大切にする以外の方向性はなかったはずだ。
本来であれば、この時点で資源管理を始めなくてはならなかった。
しかし、漁業者はそんなものは望んでいなかった。
漁業者は、「もっと獲りたい、もっと獲らせろ」と要求する。
水産庁は、漁業者の期待に応えるべく、様々な施策を行った。
漁業者と水産庁は、のび太-ドラえもん関係になっていく。
のび太の要求に応えるために、全国に栽培漁業センターを建てたりした。
ドラえもんが大盤振る舞いを続ける背景には、
右肩上がりの税収入という国内事情があった。
「どうやって、税金を消化するか?」という時代が到来したのだ。

水産庁の援護射撃は、主に設備投資の促進による漁獲効率の向上と、
種苗放流による生産力の底上げであった。
これらの援護射撃は、漁業者からは歓迎されたが、
長期的には漁業が行き詰まる原因となった。
すでに、漁獲は飽和状態で、漁場もどんどん縮小していくなかで、
漁獲効率を向上させたらどうなるかは、一目瞭然だろう。
資源が減少して、獲るものがなくなるのは時間の問題だ。
過剰漁獲量は真綿でクビを締め付けるように漁業経営を圧迫した。
借金がある以上、資源が悪化したとしても、漁業を辞めるわけにはいかない。
こうして、資源・漁業は悪循環の坂道を転がり落ちていった。
また、作り育てる漁業への過度の期待が、
限られた自然の生産力を大切にする意識を低くしたことも否めない。

水産庁の援護射撃は空しく、日本の漁業生産(マイワシを除く)は下り坂。
でも、こうなることは少し考えればわかったはずだ。
すでに世界中で漁獲能力の過剰が問題になっていた。
また、政府による補助金が過剰漁獲問題を深刻化させることは広く知られていた。
例えば、70年代に海底油田が発見されて財政が潤ったノルウェーは、
漁業に気前よく税金をつぎ込んだ。
その結果、漁獲能力が急増し、70年代後半に北海ニシンをほぼ崩壊させてしまった。
補助金→過剰な漁獲能力→乱獲 という事例は枚挙に暇が無い。
構造的にそうなって、当然なのだ。
世界では、補助金=悪 というのが常識であり、
国の漁業政策は、どうやって漁業への過剰投資を抑えるかが主要課題となっていた。
世界的に見ても、生産性が高いのは、漁獲努力量の抑制に成功した漁業のみである。

さて、日本の場合は、そのままズルズルと補助を続けて、現在に至る。
海外の失敗から学ぶことなく、失敗が約束されたレールの上を走り続けた。
借金をして漁獲能力を向上させても、資源が低迷して獲るものがない。
それでも、漁業者は借金を返さないと行けないので、
値段が付かない小型魚を根こそぎ獲り、単価の低さを量でカバーしようとした。
そんなことをするから、魚価は下がるし、ますます資源は減少するのだ。
その結果が、借金漬け、資源枯渇、魚価低迷という現在の三重苦だ。
切り札の種苗放流も、金ばかりかかって、効果は焼け石に水だった。
漁業が存続しているのは、日本近海の生産力の高さに依るところが大きいが、
それもいつまでもつことやら。

Comments:4

県職員 06-09-28 (木) 8:45

当ブログで毎日勉強させて頂いております。環境アセスメントのあり方も見直さないといけませんね。瀬戸内海でクルマエビの種苗放流を始めたのは,埋立の免罪符のようなものであったという事も良く聞かれます。漁業者さえOKすれば簡単に埋立ができる天下の悪法公有水面埋立法に絶対反対です。漁業者を補償金まみれにしてしまった,開発側の罪は重い。もちろん漁師の獲りすぎを仕方ないと言っているわけではありません。それはそれこれはこれです。沿岸では,種籾もすくなけりゃ,田んぼも無い。

田舎漁師 06-09-28 (木) 16:51

 初めて書き込ませてもらいます。
 私は瀬戸内、広島の島で漁師をしている者です。
 ある人の紹介で当ブログを読むようになり、国家レベルの話題なので私のような田舎漁師には理解できないところもありますが、大変勉強になることや「そうだ!そのとおり!」と共感することもあり、読ませてもらっています。
 私も、県職員さん同様に漁業にそんなに税金が投入されているとは思いませんでした。
ですが、直接私等漁師に恩恵があると思われるのは保険の補助と低利融資と種苗放流くらいで、金額の多くは県職員さんが書いておられたような土木事業費に使われていて漁業者は“ダシ”に使われているだけのような気がしています。
それに、勝川さんの説によると、放流は効果が無いし、融資は借金まみれの元だから現実的には漁師には恩恵は無く、そのことに寄って美味しい思いをしている団体のためにあるみたいで、これも“ダシ”に使われていると言うことになります。
 
 上の県職員さんが書かれている「埋め立てと補償金」に関しては行政の怠慢だと私は思います。
 瀬戸内の漁師は補償金まみれになっているかのように思われていますが、補償金をもらっているのはほとんどが都市部の漁業者で、島嶼部は“開発”そのものが無いのだから補償金はもらえません。
 広島県のある地域では数十年前から埋め立てが始まり、そこでは1回の埋め立てで行政は補償金とその埋め立ての外側に新たに漁業権を設定してやり、数年後にまたその設定海面を埋め立てするために補償金と漁業権を設定する。と云うことの繰り返しを数十年と行っています。
この件は木更津や水島のように補償金を受け取った者は漁業を止めさせておけば、無駄な公金を使わずに済むと思われるのに、県はそんなことをせずにいました。
 それで、ここの漁師はどうしているかというと、自分達の地先はお金に換えて島嶼部の漁場で漁をしています。(昔はパ○ンコ三昧だったと聞いています)
 このようなことがいたるところであり、数年前も呉市で埋め立てがあり、関係漁協には2期に分けて1人数千万円補償したそうです。その上、新たな漁業権も出していると聞いています。
 この補償金をもらった漁協の漁師はそれまでは確かに地先周辺での漁が主でしたが、補償金で船を整備して今まで漁をしていなかった島嶼部で漁をするようになっています。
 こうなると、島嶼部の漁師は困ります。
 埋め立てで補償金をもらうのなら漁業を止めさせるか、せめて新たな地先漁業権は出さないくらいのことはして欲しいと思っています。
 そうすると、補償金まみれの漁業者はなくなると思います。
 
 途中から愚痴のようになり申し訳ありません。

匿名で甘えさせてもらっているヒト 06-09-29 (金) 0:17

税金を十数億円(もっと多かったかな?)投資して造った増殖場の効果調査を請け負ったことがあります・・・随分,昔のコトですが・・・

『資源の豊富な場所に,何故,増殖場を造成するのだろう?』と始める前に思いました。そして,仕事をし始めると,その施設には『資源を増殖(発生)させるor維持する』効果が無いことがほぼ明らかになりました。あるのは,囲集効果くらいだったかな・・・

行政担当者に話を聞くと『地元の要望』とのコト。漁師に話を聞くと『無駄なもん,こんな所に作りやがって,邪魔でしょうがねぇ』
・・・どこか変でしょ・・・

でも,私も本当に『効果がない』と自分で納得できるまでは,施設の効果に対して疑問符を投げかけるような報告書はかけませんでした・・・最終年度の報告書にはちゃっかり,『だめー!』みたいに書いちゃったけどね♪・・・

このような,沿岸に造る人工施設や,種苗放流事業は,何のために,誰もためにあるのか?・・・
漁業者が『ダシ』に使われていると思わざるを得ないですね,私も・・・
今,受益者負担という大義名分によって,漁業者から負担金をとるようになってきています。
放流直後に遊漁者によって釣られてしまう種苗も多いのですよ・・・だから,放流時期と場所は極秘扱いになったりして(笑・・・えない)。大量に釣ってきた人工種苗(放流直後)を地元市場に持ってきて『買ってくれないか』と言う,恐るべき遊漁者もいるから,ホント笑えません。さらに,成長した魚も遊漁者は釣りますが,夜中に発電機を使ってライトを煌々と照らし(あたかも集魚灯のように),数百匹もの魚を釣っていく遊漁者もいたりして(漁師がそれをやったら,違反ですけどね),彼らの一部には,釣った魚を知り合いの漁師経由で市場に『出荷』もしている者もいると聞いています。
しかし,彼らから直接負担金をとる制度はありません。

とにかく,漁業は厳しい状況にあります(比較的資源の豊かな前浜を持つところでさえ)。だから,必要以上に漁師にお金を使わせるな!,と私は言いたいです!!!

氏は漁業に税金使いすぎ,と言っていますが(真意がどこにあるかはちょっと脇においておくとして),漁業者以上に遊漁者や,それ以上に土建屋サン達の存在が大きいのでは,って言うか,そっちの方がでかいかも・・・まぁ,沖合いと沿岸も違いもあるのかもしれませんが・・・

なお,保証金が何の解決にもならないことには,私も同感です。
仮に,何らかの解決に使えるというのであれば,それは『退職金』的な使い方だけなのではないでしょうか? 『田舎漁師』さんが紹介された,『もらったけど,またやって,またもらう』,みたいなのは,まるで,天下りを繰り返すみたいで,いただけませんね。

ユウラさんへ
ご要望,ありがとうございます。
しかし,私は貴君のアドレスが探せなかったし,それ以前に,『匿名』で書かせてもらっているので,氏が迷惑に思われないのならば,このブログで話をしませう。
情報の共有という意味でも,有意義なのではないでしょうか?
私の知る範囲でしたら,何でも書かせてもらいます・・・怠け者だから,できるかなぁ(笑)

勝川 06-09-29 (金) 17:10

県職員さん
>環境アセスメントのあり方も見直さないといけませんね。
確かに環境アワスメントは、機能しているとは言い難いですね。
開発側が金を出すのだから、
スポンサーに都合が悪い結果がでるわけない。
ただ、アセスをしている人も、いろいろと悩ましいようですよ。

田舎漁師さん
確かに、現状では漁業も農業も「ダシ」ですね。
水産業を長期的に発展させるためには、
どういう施策をすればよいかを具体的に提示していくことで、
風向きを少しでも変えていきたいと思います。

補償金については、貴重な情報をありがとうございました。
数千万ですか。すごいですね。
公共事業の予算からすれば、誤差みたいな額だとしても、
そういうばらまき方をしたら、確実に地域産業は廃れますね。

話は変わりますが、瀬戸内のサワラは増えてますか?
水産庁が資源回復計画でサワラが増えたと大々的に宣伝をしているので、
本当に回復計画で増えたのかどうかを検証したいと思っています。
種苗放流以外に、サワラの漁獲規制などはあるのでしょうか?

匿名で甘えさせてもらっているヒトさん
>行政担当者に話を聞くと『地元の要望』とのコト。
>漁師に話を聞くと『無駄なもん,こんな所に作りやがって,邪魔でしょうがねぇ』
>・・・どこか変でしょ・・・
笑えるけど、笑えない話ですね。
この手のは、全国にいくらでもありそうだな。

>氏は漁業に税金使いすぎ,と言っていますが
>(真意がどこにあるかはちょっと脇においておくとして)
使い道につきますね。
今みたいな使い方しかできないなら、何もしない方がマシという意味。

>なお,保証金が何の解決にもならないことには,私も同感です。
>仮に,何らかの解決に使えるというのであれば,
>それは『退職金』的な使い方だけなのではないでしょうか?
補助金で採算がとれない漁業を延命させて、
資源をより減少させるケースが多いように思う。
あと、田舎漁師さんがご指摘の通り、
退場すると見せかけて、ちゃっかり残るケースもありますね。
漁業権を放棄して、補償金を受け取ったはずなのに、
漁業を続けているという話は、東京湾でも聞きますね。
あと、時化で漁に出られない日を休漁日に充てて、
休漁補償だけゲットしていたという話も聞きます。

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