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漁業国益論 (3)

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現在は、フード・セキュリティーという観点から、国益が論じられている。
自国で安全で美味しい食料を安定供給するのが国益だと言うのだ。
確かに、食料の安定供給は国としての生命線であり、
多くの納税者はそのために税金が遣われることに異論はないだろう。
だが、水産物の安定供給の最大の障害は、現在の「根こそぎ獲る漁業」だろう。
そして、すでに経営的になりたっていない乱獲漁業を支えているのが税金なのだ。
この事態を株主であるところの納税者は納得するのだろうか。

設備投資を促す補助金
設備投資を促す補助金は、短期的には漁獲量を増加させるが、
長期的には資源の枯渇を招いた。
漁業者は、借金を返済するために、
枯渇した資源に強い漁獲圧をかけざるをえない状況に追い込まれた。

つくり育てる漁業
種苗放流の成果はごく一部の種にとどまり、
魚類では、ほとんど成果を上げていない。
種苗生産の成功例であるヒラメだって、種苗の生産には成功したが、
資源や漁獲量の増加には結びつかなかった。

休漁補償金
資源回復計画の一環として、漁師に休漁をしてもらう代償として、
漁に出られなかった日の費用を税金で保証する制度がある。
これは、資源管理と言うよりは、過剰な漁獲能力の温存である。
例えば、大中まき網という、沖合に大量の魚が居ることを前提とした漁法がある。
マイワシバブルで、拡張した漁獲能力の大部分が未だに残っている。
この過剰な漁獲努力量が、90年代にマサバが増加しようとする芽を2回とも摘んだのだ。
休漁補償金が大中まきに遣われているのだが、
税金をつかってまで、大中まきを温存する理由が俺には全くわからない。
少なくともあと10年は今の船数が必要になるような資源量にはならないだろう。
安易な休漁保証は、資源の回復の芽をつむだけだ。

設備投資の補助金も、休漁保証金も、
漁獲努力量を増やしたり、肥大化した努力量を維持する効果がある。
これらの補助金は、その場しのぎの代償として漁業の寿命を削ってしまう。
補助金で、漁獲努力量を膨張させ続ける限り、
日本の漁業に明日はないだろう。
日本の漁業の補助金に関しては、国際的な圧力が強まっており、
実は存続のピンチだったりする。
このあたりについての情報も近いうちにまとめたい。

なぜ、水産庁の施策は漁業を行き詰まらせるのか?
「日本近海に魚がいない」というのが漁業の行き詰まりの本質だ。
その背後には、
「自然の生産力の限界を超えた漁獲能力」という根本的な問題がある。
資源の生産力と比べて、過大な漁獲能力を維持している限り、
漁業が立ちゆかなくなるのは時間の問題だ。
どんなに資源管理を頑張っても、少し歯車が狂えば、そこで終わり。
現在の水産行政は、過剰漁獲能力という根本的な問題に取り組んでいない。
その代わり、漁業者の目先の問題を解決するために奔走している。
これでは、漁業が悪循環で滅びるのは時間の問題だ。

漁業者は、根本的な問題解決よりは、目先の対処療法を望む。
漁業者に根本的な問題解決を求めるのは酷だろう。
すでに尻に火がついている人間に、
火事の問題を分析して、再発を防止する策を練る余裕はない。
漁業者が、尻の火を消すために必死になるのは、仕方がないだろう。
だれだって、そうなるはずだ。

行政には、長期的な視野から、産業の発展を考える義務がある。
尻に火がついた漁業者にあめ玉を配るだけが仕事ではない。
産業に内在する根本的な問題を解決するためにリーダーシップを発揮して欲しい。
それこそが、国益だろう。

Comments:14

ユウラ 06-09-29 (金) 12:44

3つの保証金について、ちょうど、昨日調べていました。
僕の考えとしては休漁保証金以外は今となては必要ないと感じます。

今以上漁獲圧をあげてもそれによって漁獲量が増えるほどの資源量は残っていませんし、種苗放流の効果がないことは以前のお話で理解したからです。

休漁補償については上記の2つに比べると、まだ必要ではないかと思います。
今の漁業者が借金を返すために漁を続けるというならば、それを抑えるために、国が補償をしてもいいのではと・・・。

もちろん、これは今の補償制度よりもさらに金額が必要になってくるわけで、僕の「理想論」なわけですが・・。

国がリーダーシップを取って、自然淘汰の少ない漁業者の管理をいかに行っていくかが重要ですね。そして、淘汰された漁業者の補償に、補助金を出すべきではないでしょうか??

勝川 06-09-29 (金) 17:21

>国がリーダーシップを取って、
>自然淘汰の少ない漁業者の管理をいかに行っていくかが重要ですね。
>そして、淘汰された漁業者の補償に、
>補助金を出すべきではないでしょうか??
「漁業者減らない、魚はいない」という現状を考えると、
そういう方向性しか無いと思います。
資源の生産力にあった水準まで、
リストラをしないと共倒れになるでしょう。
そのためにTAE制度が導入されたはずなのですが、
情報が全く出てこないのが気がかりです。

joe2 06-09-30 (土) 14:54

初めまして

水産流通に携わっています。

>国がリーダーシップを取って、
>自然淘汰の少ない漁業者の管理をいかに行っていくかが重要ですね。

私の知っている範囲でいうと、漁業就労者は自然に減少していくようです。
後継者がいない漁家がかなり多いと聞きますよ。
ある農水省の方が、ある浜を訪れたとき、その浜の衛生環境が余りに悪いので漁師たちに助言をしたら「自分たちの代で終わりなんだからつべこべいうな」と怒られた、と私に話してくれました。
私がよく利用する浜の漁師の平均年齢は65歳くらい・・
あと5年もすると獲る人は半分以下になる、と聞きました。

田舎漁師 06-09-30 (土) 21:04

>私がよく利用する浜の漁師の平均年齢は65歳くらい・・
>あと5年もすると獲る人は半分以下になる、と聞きました。
 
 私の周りも高齢者ばかりになっていて、ある地域では60歳以下は数えるほどしかいなくて、やはりそこの漁師が後10年もすれば漁師はいなくなると言って半ば自嘲ぎみに笑っていました。
 私が住んでいる島全体でも30代以下の漁師は牡蠣養殖関係を除けば20人もいないと思います(人口2.5万の島で)
 勝川さんは漁業者の無秩序操業を批判されているけれど、そうならざるをえないところも理解して欲しいです。
 確かに、少し待てば美味しくなる魚とか、どうにもならないような稚魚のようなのを獲るのは論外なことだけど、1kg~2kgの黒鯛が50円/kgだったり、ハモが100円/kgではどうしても量で賄おうとするしかないと思います。
それに、市値がそんなに安いのに小売では3倍~5倍以上の値で売られているのを見れば、売れないのは流通の問題と思いたくもなるのでは?
 周囲のほとんどの漁師は蓄えもなく、借金の返済のためにあくせく働いているようなものです。
それを見ている子供等はそんな辛い仕事はしたくないと後継しないのだと思います。
 ただ、補償金のある漁協では後継者が他よりも多いです。
 ある地域では多額の補償金が入るからと、中古の船と漁業許可を取得して子供に与えているところもあるらしいです。
 そうすると船と許可があるだけで遊んで暮らせるだけの補償金が入るみたいで、当の名義人は漁もせずに遊びほうけていると噂になっていました。
 
 
 サワラの件ですが、私はサワラ漁の許可を持っていないので詳しくはわかりません。
 ここ数年サゴシをみる機会が多くなり、釣りでも全く釣れなかったのが年に1本か2本釣れるようになったので、もしかしたら増えているのかもしれません。
 しかし、種苗放流や漁獲規制をいくらやっても密漁が横行するし、放流や受精卵放流をしていても、その場所で稚魚の餌となるシラス漁が行われているのであまり効果が無いと私は思っています。
 増えているのは日本海側山陰のことでは?

joe2 06-10-01 (日) 6:00

田舎漁師さんのご意見に同感です。水産流通現をどの分野が牛耳っているのか、どのような取引をしているのか、資源減少の状況で無秩序な販売をしてはいないか考えてみる必要があります。

県職員 06-10-02 (月) 9:29

水産関係者が集まるある集まりの席で,魚がいるのに,漁師がいない(あるいは獲ってない)浜ってありますと聞いてみたところ,それほどお金にならない限定された種を除いては,魚がいるのに漁師がいない(獲っていない)浜はないようでした。海での余剰生産はやはりあまり無いようです。
市場流通の機能は確かに問題がありますが,一定の機能も果たしています。市場流通機能に全てを委ねないというのであれば,生産者である漁業者も消費者ニーズを適確に掴んで販売戦略を立てていかないと,情報やコネクションを持つ仲買や卸売りの人たちには勝てないのではないでしょうか。(勝つ必要はなく,隙間に入り込んでいくという手もありますが)
厳しい世の中ですが,利益を得るためには,海の上ではなく,陸の上で勝負をしていく方向に進んで行かざるを得ないようです。
輸入水産物は,将来的には,欧米中国などの需要が高まっているので,国際的に買い負けるようになり,国内販売価格は次第に値を上げていくという予測もなされているようですが,一方で価格の上昇は’魚離れ’に向かう危険性もあるのではないでしょうか。
田舎漁師さんへ:我々のような県の職員をうまく使ってやって下さい。
その一 魚がいない→漁師もいない→水産水産関係職員もいらない
その二 魚が増える→漁師がもうかる→水産関係職員頑張る
多くのまじめな水産職員はその二を目指しています。
漁業補償金は依存性の高い薬物のようなものです。以前にも書き込みましたが,漁業者だけの意見で,海に中で何でもできてしまうずさんな環境行政は絶対許せません。また,海面や海底が国のものだという考えに基づいて,海砂採取あたりで使用料やら,許可料を取っているくせに,まったく管理をしない土木の連中も許せません。権利を主張するなら,義務を果たせというところでしょう。
青島刑事と室井管理官の「踊る大捜査線」ではありませんが。現場を変えるためには,物がわかる人にえらくなってもらいましょう。

勝川 06-10-02 (月) 23:54

joe2さん、初めまして。
>「自分たちの代で終わりなんだからつべこべいうな」と怒られた
こういうことが通るなら、国として漁業を支える名分が無くなりますね。

経営が成り立っていない漁家は後継者が居ませんが、
経営がうまくいっている浜では後継者に事欠きません。
魚がいない→経営破綻→後継者不足
という構図がありそうです。

田舎漁師さん
>1kg~2kgの黒鯛が50円/kgだったり、
>ハモが100円/kgではどうしても量で賄おうとするしかないと思います。
浜値がそこまで安いとは驚きです。

>それに、市値がそんなに安いのに小売では3倍~5倍以上の値で売られているのを見れば、
>売れないのは流通の問題と思いたくもなるのでは?
流通に関しても問題が多そうですね。
消費者までの段階が多いから、構造的にコストがかかるという話は聞きます。
どうにもならないものなのでしょうか?
水産に関しては、産業の土台となる資源は殆ど無視され、
次の土台となる漁業は軽視される傾向があります。
根っこを大事にしない産業は衰退しても仕方がないですね。

>増えているのは日本海側山陰のことでは?
瀬戸内海のサワラが増えたというキャンペーンをやってるんですよ。
例えば、こことか。
http://www.fra.affrc.go.jp/seika/
評価票ダイジェスト版だと、瀬戸内のサワラは低位減少傾向になっているし、
本当に増えているのか気になっているのです。
今年度のサワラの資源評価票が公開されたら、じっくりと検証します。

県職員さん
獲れるものがあれば、みんなが殺到しますから、
未開発資源なんて、無いですよね。
経営が破綻した漁師が、魚を獲り尽くして、漁業自体が消えていく。
これを放置しておいてはダメなんです。
健全な経営体のみを残して、漁業者を減らすことで、
産業として生き残る。生き残りさえすれば、復活は可能です。

>輸入水産物は,将来的には,欧米中国などの需要が高まっているので,
>国際的に買い負けるようになり,
>国内販売価格は次第に値を上げていくという予測もなされているようですが,
>一方で価格の上昇は’魚離れ’に向かう危険性もあるのではないでしょうか。
需要は増える一方ですから、買い負けは今後も広がると思いますよ。

>現場を変えるためには,
>物がわかる人にえらくなってもらいましょう。
偉い人がかわっても、状況は変わらない気がしますね。
水産基本計画は全く機能していなくても、危機感ゼロですから・・・

joe2 06-10-04 (水) 11:26

>経営が成り立っていない漁家は後継者が居ませんが、
>経営がうまくいっている浜では後継者に事欠きません。
>魚がいない→経営破綻→後継者不足
>という構図がありそうです。

慣れていないので>をつける場所が間違っているかもしれません。
この浜は、水産物がないと理由で後継者がいないのではありませんよ。

勝川 06-10-07 (土) 22:17

それでは、どういう理由で後継者がいないのですか?
漁業自体に魅力が無くなったということであれば、
大問題ですね。

田舎漁師 06-10-08 (日) 21:52

 私はjoe2さんの例についてはわかりませんが、

>漁業自体に魅力が無くなったということであれば、

と云う事も一因しているとおもいます。
 イメージ、安定、収入など後継となる世代には漁業よりもっと魅力に映るものがあるのでは?
 上にも書きましたが、魚価の低迷で魚を獲っても獲っても豊漁(乱獲)貧乏のような状態では継ぐ気にはならないのでは無いでしょうか? 

joe2 06-10-11 (水) 11:58

すみません
暫くお邪魔していませんので返事できませんでした。

田舎漁師さんのご意見に重複するかもしれません。

若い人たちは収入と労働内容が見合わないと感じているんです。
つまり魅力がない、ということです。

魚価低迷は、流通の「買い叩き」から来ていると私は思います。

田舎漁師 06-10-11 (水) 21:05

 私の知り合いで(その人は山陰の人)身内に漁業者がいないのに漁師になった人がいます。
 と言っても最初は釣船(遊魚船)から初めて今では遊、漁どちらもしていますが。
 その人が漁師になったいきさつのようなことを聞くと、釣り好きが高じてなったとの事でした。
 彼のように魅力(彼の場合は釣りかな?)を見出せる者は就労するだろうけれど、そうでないと・・
 今の状態じゃぁ親世代も後継を押し付けるのも躊躇うのでは?
 
 そうそう、バブルが弾けたころの一時期には脱サラして漁をしていた人がけっこういました。
でも、その人達は今はどうしているのやら。

joe2 06-10-12 (木) 9:00

買い叩きの現状について書いてみたいのですが、かなり勇気がいります。大雑把にかくと、末端で水産品を販売する力がなくなっている(シロート化している)のに利益を追求するものだから仕入れ価格をどんどん引き下げざるを得なくなっていることが大きな原因だと思います。
また、中間業者は末端から取引リスクを押し付けられここでも買い叩きがおこります。
資源減少のなか、浜価格が下落するのはこうした理由です。
放っておくと自然に水産業は全体的に衰退しますので無駄な支出と思われるお金をださなければ資源は回復していくんではないでしょうか?
ちなみに私は私の子供に無理して後を継がせない気持ちでいます。

勝川 06-10-13 (金) 1:48

田舎漁師さん
都会で会社に扱き使われるより、
大自然を相手にする方が良いと思う人は少なくないでしょう。
ただ、ずっと漁業をしてきた人でも経営が厳しい状況で、
素人同然の人間が漁業を始めても、
すぐに淘汰されそうな気がします。

joe2さん
自分の業界の問題点を指摘するのは、勇気が要りますね。
私も、このブログを書くにあたり、いろいろと覚悟が必要でした。
流通に関しては問題はありそうでも、よくわからない部分が多いので、
説明していただけると、とても有り難いです。

シロート化については、下記のブログに面白い記事がありました。
http://blog.goo.ne.jp/ryokichimaru/e/5f45d258d17c2f0fc7532c0b408f7c5b

>放っておくと自然に水産業は全体的に衰退しますので
>無駄な支出と思われるお金をださなければ
>資源は回復していくんではないでしょうか?
すでに漁師の数はコンスタントに減っていますが、
漁獲率が年々あがっている資源が多いんです。
資源が回復するかどうかは、実際に漁師が減ってみないと、
何とも言えないですね。
個人的には全く楽観視していません。

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