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EUがITQを選んだ理由

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今月から、ペルーのアンチョビーにITQが導入された。ペルーも要チェックですよ。

さて、欧州も共通漁業政策を見直して、ITQの導入を明記。ITQに向けて大きく舵を切った。このことは、業界紙、一般紙で取り上げられたので、目にした読者も多いだろう。

EU内部でどういう議論があったかを紹介しよう。

EUは共通漁業施策の見直しについて、議論を重ねてきた。
An analysis of existing Rights Based Management (RBM) instruments in Member States and on setting up best practices in the EU
http://ec.europa.eu/fisheries/documentation/studies/rbm/index_en.htm

彼らが重視したのはケーススタディーだ。EU圏内ではITQを含む様々な資源管理が行われている。どの管理方法が機能しているかを比較したレポートがつい先日でた。
http://ec.europa.eu/fisheries/publications/studies/rbm_2009_part1.pdf
http://ec.europa.eu/fisheries/publications/studies/rbm_2009_part2.pdf

このレポートで、一番重要なのは、それぞれの権利のQualityの評価だろう。権利の質(Q-Value)は、資源管理が機能する上で必要な、以下の4つの要素で評価される。

• Exclusivity: this requires appropriate monitoring and enforcement systems.
• Security an effective legal system is required to ensure rights and the title to
those rights are secure.
• Validity: This refers to the effective period to which the rights holder can
expect to retain title to the rights. Longer validity helps to bolster the holder’s
trust in the capacity of the system to respond to his/her long-term concerns.
• Transferability: Transfer of rights from one holder to another requires
ownership registries plus the rules and means to make them function.

Q-Valueが高い管理システムほど、漁業者が自らの権利を利用して、資源を合理的に利用できる。ただ、実際にその権利を適切に行使するかどうかは、また別のファクターがからむので、Q-Valueが高ければ必ず資源管理が成功するというものではない。ただ、Q-Valueが低ければ、まず間違いなく管理は失敗するだろう。

管理制度別のQ-Valueを比較したのが、↓の図です。

img09050103

CQというのは、Community Catch Quotaで、漁協のようなコミュニティーに漁獲枠を与える方式。これは玉石混淆だ(日本の沿岸と同じ!)。LLというのはライセンス&努力量規制。これが機能しないことは明白。IEとITEは、個別努力量割当で、それぞれの船の努力量に上限を設ける方法。IEは譲渡無しで、ITEは譲渡あり。IQは譲渡がない個別漁獲枠、ITQは譲渡可能な個別漁獲枠。TURFはTerritorial Use Rights in Fisheries。地域が永続的な漁業権を持っているような場合である。EUでは伝統的にTURFを使ってきたが、現在は沿岸の根付き資源(ほとんどの場合、貝)のみに使われている。移動性の生物は多くの地域が共有することになり、TURFでは利害の調整がうまくいかないために、現在は他の管理スキームに移行しているのだ。TURFで移動性資源の管理が難しいことは、日本の漁業管理が破綻している現状をみればわかるだろう。

P4に必要な資源管理に関する考察がある。

  • 漁獲枠を取り切るのに十分な努力量が無い場合は、漁獲枠は共有(オリンピック方式)でも良い
  • 漁獲枠を巡る競争がある場合、漁獲枠を個別配分する必要がある
  • 努力量が過剰な場合、ITQによって漁船規模の適正化を図る必要がある

image0905012

実際問題として、人間の努力量が足りない有用資源はほとんど無いだろう。日本の場合は、適正な漁業者は今の15%という試算もある。EUも相当な過剰努力量の状態にある。TURFで管理できている沿岸の貝をのぞけば、ほとんどの漁業はITQの導入が望ましいと言うことになるだろう。

また、それぞれの管理システムが機能する条件もまとめられているが、納得いく結論だ。

  • TURFは根付き資源のみ機能する
  • Effort Quotaは、努力量と漁獲量が強い相関を持つ場合のみ機能する
  • ライセンス制は、ほとんど機能しない
  • コミュニティー・ライトは、コミュニティー次第

欧州、北米、南米と、世界の漁業はITQに着実に向かいつつある。世界の漁業国は、どうやってITQを導入するかをテーマに議論を重ねている。彼らがなぜITQを選ぶのかというと、ITQが理論的に優れているだけでなく、実際に機能しているからに他ならない。利用者が顔が見える範囲に限定されているならTURFも良いかもしれないが、そうでない大半の資源に対してはITQしか、まともな選択肢がないのが現実なのだ。

Comments:1

沿岸漁業の一漁師 09-05-01 (金) 21:25

>日本の場合は、適正な漁業者は今の15%という試算もある。

補償金事案が発生する地域を中心に『名ばかり漁師』が多いということもありますし。

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