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世界銀行レポート FISH TO 2030:世界の漁業は成長し、日本漁業のみが縮小する

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世界銀行が、「2030年までの漁業と養殖業の見通し」についてのレポートを公開しました(プレスリリース)。この102ページからなるレポートは、IMPACTというモデルを使って、2030年までの世界の天然魚・養殖魚の生産・消費・貿易を予測したものです。世界の漁業と日本の漁業の未来を考える上でなかなかおもしろい資料なので、キーとなる図表を引用しながら、読み解いていきます。このエントリの図は、ことわりがないかぎり、このレポートからの引用です。
カバー

 PDFをこちらからダウンロードできます。


世界と日本の漁業生産の動向(過去から現在まで)

下のFIGURE 1.2は、1984-2009年の世界の食用水産物の生産量を示した図です。一番下から上がってきている線が養殖魚(Farmed)、真ん中の横ばいの線が天然魚(Wild)、一番上の濃い線がそれらの合計(Total)です。天然の生産は横ばいだけれども、養殖の生産の増加することで、水産物全体の生産量は増加を続けています

多くの水産資源が持続性の限界近くまで利用されている現状では、今後も天然魚の生産に大幅な伸びは期待でき無いでしょう。一方、養殖はコンスタントに成長を続けています。養殖魚の餌として、天然魚由来の魚粉が利用されるケースが多いのですが、なぜ天然魚の漁獲が増えないのに、養殖魚の生産が伸びているのでしょうか。一つの理由は餌をやらないでよい粗放的な養殖の存在です。たとえば、海藻は光合成をするし、牡蠣などは餌をやらなくても水中のプランクトンをこしとって成長します。また、餌をやる魚にしても、より少ない餌で魚を成長させることが出来るようになってきました。そういったわけで、2000-2008年の間に、魚粉の生産が12%減少したにも関わらず、世界の養殖生産は63%増加しました。

キャプチャ01

下の図は、日本の漁獲統計を使って、上と同じものを作ったものです。日本の養殖生産は低空飛行で横ばい。天然魚の生産は激減です。こちらの記事でも書いたように、世界のトレンドと日本のトレンドはリンクしておらず、「養殖生産が急激に伸びている」というの世界全体の傾向は、日本には当てはまりません

キャプチャ02

 


 国と地域別の漁業生産と貿易収支

国と地域で見ていきましょう。Figure2.8が天然の生産量、Figure 2.10が養殖の生産量です。上の薄い棒線が2008年の実測データ。下の濃い棒線がIMPACTモデルの予測値です。誤差はあるものの、IMPACTモデルの値は現実とそれほど乖離が無いことがわかります。

実測データ(2008 Data)に着目しましょう。天然の漁獲量は中国がトップ。ラテンアメリカ(LAC)、東南アジア(SEA)、欧州中央アジア(ECA)が続きます。日本は、1980年代には、現在の東南アジアと同じぐらいの漁獲量があったのですが、今は見る影もありません。

養殖生産は、中国がダントツの一位です。まさに桁違いと言って良いでしょう。中国の養殖生産を牽引しているのが淡水魚の養殖です。中国では草食性の淡水魚を大量に生産しています。池に自生する藻を食べて成長するので、人間が餌をやる必要が無く、環境への負荷が少ないことから、エコな養殖業として注目されています。

天然魚の生産量養殖生産量


水産物の貿易

Figure 2.14は、輸出と輸入の差を表したものです。プラスが輸出超過の国と地域、マイナスが輸入超過の国と地域を示しています。上の薄い緑の棒が2006年の実測データ。濃い緑がIMPACTモデルの予測値です。先ほど同様に薄い緑の実測値に注目します。

ざっとまとめると、以下の2つのグループに分けることができます。

輸出超過の国と地域: ラテンアメリカ(LAC)、中国(CHN)、東南アジア(SEA)
輸入超過の国と地域: 欧州中央アジア(ECA)、北米(NAM)、日本(JAP)

ここから、途上国の水産物を、先進国が消費しているという図式を見て取ることができます。日本では、「中国が世界の魚を食べ尽くしている」と広く信じられているのだけど、中国は最大の輸出超過国です。自らが生産する以上の水産物を消費しているのは、欧州、北米、日本です

03

 


  2030年の漁業生産はどうなるのか?(2030までの将来予測)

このレポートの核心部分である将来予測について見てみよう。figure 3.1は漁業生産の実測値(実線)およびIMPACTモデルの予測値(点線)を示しています。天然魚の生産は今後も横ばい、養殖は順調に増加して、天然の生産を凌駕するというのが、IMPACTモデルの予測です。ちょっと楽観的という気もしますが、現在の世界の水産業の成長具合を考えるとこんなものかもしれません。

漁業生産の過去の変動と将来予測


 国と地域別の生産量と成長率の予測

こちらの表には、国と地域べつの生産量の予測があります。注目して欲しいのは一番右の%CHANGEです。これは2010年から2030年の間に、漁業生産が何パーセント変化するかという予測値です。世界平均では23.6%の増加で、増加の割合は、国や地域によって異なっています。マイナス成長の国と地域は日本(-9.0%)のみです。このことからも、日本漁業の衰退は,世界の中でも特異的であるかと言うことがわかります。

キャプチャ04


 まとめ(日本漁業に明日はあるか?)

日本では、以下のように広く信じられてきました。

「日本の漁業は世界の最先端」
「日本の養殖技術は世界一」
「先進国では漁業の衰退は当たり前」
「世界の魚を中国が食べ尽くしている」

これらはどれも誤りであり、データを見ればそうで無いことは一目瞭然です。正しくは、以下の通りなのです。

「日本の漁業は一人負け」
「日本の養殖業は世界でも希な衰退産業」
「漁業が衰退しているのは日本ぐらい」
「中国は最大の水産物輸出国」

当ブログでは、「世界では漁業は成長産業。日本の一人負け」と言い続けてきました。客観的に見るとそう言わざるを得ないのです。では「日本の漁業に未来は無いか」というと、そうではありません。日本の漁業が衰退しているのは、漁業のやり方が悪いのです。もちろん、今の延長線上には明るい未来は無いのですが、漁業のやり方を変えることで未来を変えていくことは可能です。最も成功している漁業国の一つであるノルウェーの政策を参考に、日本漁業の問題点を一つずつ潰していけば、日本の漁業が成長する余地はまだまだあります。具体的にいうと、「資源管理」と「マーケティング」の2つを徹底することです。次世代を産む魚をちゃんと残した上で、限られた漁獲の価値を伸ばすことです。当たり前のような話ですが、日本の漁業はこれらができていないのです。

日本は、これまで自国の漁業の構造的な問題に向き合ってきませんでした。その代わりに、「クジラが悪い」、「中国が悪い」と外部に責任転嫁してきたのです。日本人は、中国の漁業に対して非常に悪い印象を持っています。 「中国漁船は、魚がいれば根こそぎ獲ってしまう」 「中国人は、持続性を無視して、世界中の水産物を食べ尽くす」 と言うのが一般的なイメージでしょう。前者に関しては、その通りだと思います。しかし、それは日本の漁師も全く同じです(参考)。中国漁船の乱獲を他人事のように非難するだけでは無く、自国の問題としても認識する必要があります。後者に関しては、的外れもいいところです。水産物に関して言うと、中国は輸入よりも輸出の方が多いのです。つまり自給率が100%を超えているのです。このレポートのベースケースでは、2030年になっても、中国は水産物の輸出国のままです。近年、中国人の水産物の消費量が増加しているとはいえ、一人あたりの消費量は日本の半分程度です(Figure 2.12)。「世界中の水産物を食べ尽くす」という非難は、一人あたりの水産物輸入量が一番多い日本にこそ当てはまるのでは無いでしょうか。

「中国を非難して、自国の問題について思考停止する」という態度をとり続ければ、日本の漁業はますます衰退し、中国を含む海外の漁業への依存度が高まることになります。この流れを断ち切るには、「日本の漁業が一人負けである」という厳しい現実を認めた上で、「日本の漁業が衰退しているのは、日本の国内問題である」という認識を持たなければなりません。

一人あたりの食用水産物消費量

書評:スウェーデンは放射能汚染からどう社会を守っているのか

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実践マニュアル スウェーデンは放射能汚染からどう社会を守っているのか
実践マニュアル スウェーデンは放射能汚染からどう社会を守っているのか

アマゾンは品切れだけど、他の店には在庫があるみたいです。出版元から確認できます→こちら

チェルノブイリ事故を経験したスウェーデンは、どのような放射線防護をしているのかは気になるところだ。本書は、スウェーデン防衛研究所を中心に、農業庁、農業大学、食品庁、放射線安全庁が協力して作成した「プロジェクト・どのように放射能汚染から食料を守るか」(1997~2000年)の報告書の翻訳であり、オリジナルのスウェーデン語の報告書はここ

結論から言うと、超お勧め。放射能の基礎知識から、防護の考えまで、一通り網羅されており、ものすごく勉強になった。ICRPのドキュメントよりもずっと読みやすくて、今まで読んだ中では、一般人に最もお勧めできる。残念ながら、アマゾンは在庫が切れているけど、待っていれば、入荷すると思う。

内部被曝関連の情報が多かったのが、嬉しい。また、食品への移行係数などの情報もあるので、消費者のみ成らず、生産者も読んでおくと良いだろう。

特に重要だと思う部分を抜粋した。より詳しく知りたい人は、本書を手にとってもらいたい。

1章 チェルノブイリ事故からの警鐘

チェルノブイリ事故の当時、スウェーデンではどのような混乱した状況にあったかを読み取ることができる。事前警告・警報システムや汚染対策を迅速に実施できる防災組織が機能しなかったという反省にたち、組織の役割分担などを見直している。3節 の「情報提供の重要性」には、次のように書かれている。

  • 行政当局は、ときに、国民に不安をあたえることを危惧して、情報発信を躊躇する場合があります。しかし、各種の研究報告によれば、通常、情報発信によってパニックの発生を恐れる根拠は無く、むしろ、多くの場合、十分に情報が得られないことが大きな不安を呼び起こすのです。とりわけ、情報の意図的な隠蔽は、行政当局に対する信頼を致命的に低下させかねません。
  • 行政当局が十分な理由を説明することなく新しい通達を出したり、基準値を変更したりすれば、人々は混乱してしまいます。

まさに、日本政府の対応そのものではないだろうか。過去の他国の失敗に学んでいれば、ここまで致命的に信頼を失うことは無かっただろう。また、十分な説明無く、食品の基準値を370Bq/kgから、500Bq/kgへ引き上げた。この引き上げによって、不信と混乱を招いたのだが、それだけの価値があったかどうかは検証すべきだろう。

2章 放射線と放射性下降物

ここは、放射能に関する一般的な説明。計算をするとこういう数値になるとは書いてある。けれども、「この程度なら無視できる」とか、「~よりも少ない(から、大丈夫だ)」というような、書き手の意見を押し付けるような表現が無い点が良い。驚いたのが、P54-56の食品の検査に関する記述。酪農農家の24人に1人の割合で災害対策名簿に登録してあって、災害の際はその一部から、牧草と牛乳の調査はするようだが、他は無いみたい。

  • 放射性物質が降下した直後に放射線被曝をもたらす恐れのある食品は、牛乳のほかに放射能が付着した葉物野菜があげられます。葉物野菜に関してもサンプルを採取し測定するプログラムを整備すれば、放射能汚染の対策や被曝線量の推計を行う上で、役に立つでしょうが、測定費用が高くつく割りに、被曝線量の抑制にも余り繋がらないと考えられるため、実際にそれを行う根拠は乏しいとされています。
  • 食肉用の家畜から、サンプルを採取し測定するための特別プログラムも、同じような理由から、国のレベルでは整備されていません。
  • 国レベルの測定準備体制には、販売用の食品に含まれる放射能の測定は含まれていません。商品の放射能検査は、業界や食品加工企業が自らの責任で行うべきだからです。

「コストに見合わないから、牧草と牛乳以外は測りません。売り物は勝手に測ってね」というのは、日本で許されるとは思えないのだが、スウェーデン市民はどのような反応をしているのだろうか。

3章 放射性降下物の影響

主に、動物、農作物への移行や、ほこりや外部被曝の説明。

4章 基準値と対策  ~食品からの内部被曝を防ぐ有効な対策

食品基準値の変遷が書いてある。

  • 1986年のチェルノブイリ事故後、個人がこの事故のために食品を通じて受ける被曝線量の増加分が年間1ミリシーベルトを越えないようにすることを目標としました。ただし、特定の状況に限り、事故後1年間は、最高五ミリシーベルトまでの被曝も容認するとしました。そして、食品庁はこの目標を達成するために、市場に流通する全ての食品に対するセシウム137の基準値を300ベクレル/kgと定めました。
  • この後、スウェーデン人が一般的に少量しか食べないと判断された食品については、1987年に基準値が1500ベクレル/kgに引き上げられました。野生の動物やトナカイの肉とその加工品、野生のベリー類とキノコ類、淡水魚、そして、ナッツです。しかし、この引き上げは各方面から抗議を受けることとなり、その結果、特に食品庁などの行政当局は情報提供に尽力せざるを得なくなりました。
  • 基準値引き上げの背景には、スウェーデンで行われた食品購買調査があります。この調査の結果、平均的なスウェーデン人が市販の食品から摂取する放射性セシウムが、1日当たりせいぜい約30ベクレルでしかないことが明らかになりました。つまり、放射線防護庁が定めた目標に比べると、相当低い値だったのです。

放射性物質を除去する方法についても細かい記述がある。

家庭における汚染対策についてのアドバイスでは、「市場に流通している食品を除選する必要はほとんどない」としつつ、自家栽培をしている場合については「実践的なアドバイスが必要となる」と指摘している。

最後に「戦略的行動が必要」であり、一般的な原則として次を挙げている。

  • 現行法や国際的な取り決めに反した対策は行わない
  • 急性の深刻な健康被害を防ぐために、あらゆる努力を行う
  • 対策は正当性のあるものでなければならない
  • 講じる対策は、なるべく良い効果をもたらすように最適化する
  • 対策の柔軟性が成約されたり、今後の行動が成約されることは出来るだけ避けるべき
  • 経済的に費用が高くなりすぎない限り、農作物・畜産物は生産段階で汚染対策を行う
  • 一般的に大規模な投資の必要がない汚染対策を実行すべき

 まとめ

基準値や検査については、「えー、こんなんで良いの?」と思う部分もあるが、情報公開やコミュニケーションの重要性については頷ける点が多かった。いろんな意味で参考になるとおもうので、一人でも多くの人に読んで欲しいです。

食品の基準値の見直しについて

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厚生労働省は、食品の放射能の暫定基準値を見直すようだ。新聞記事で新しい方針についての記述があった。

食品の放射能規制:新基準、海外より厳しく 現行の値「緩い」は誤解 改定後はより子供に配慮

Q 新しい規制値はどうなるのですか。
A 年間被ばく限度が5ミリシーベルトではなく、1ミリシーベルトに決められます。その根拠として、小宮山洋子厚労相はコーデックス委員会の1ミリシーベルトを挙げています。規制値は間違いなく、いま以上に厳しくなります。

Q 新たな規制値の特徴は?
A 規制対象の食品区分が▽飲料水▽牛乳▽一般食品▽乳児用食品の四つになります。被ばく限度の評価にあたっては、年齢層を「1歳未満」「1~6歳」「7~12歳」「13~18歳」「19歳以上」の五つに分け、その最も厳しい数値を全年齢に適用して新規制値とする方針です。さらに、乳児用食品は大人とは別の規制値を設けます。食品安全委員会の「子供はより影響を受けやすい」という答申に従ったものです。新規制値が今の5分の1~10分の1ほどになれば、世界でも相当に厳しい規制値となります。

http://mainichi.jp/life/food/news/20111219ddm013100039000c.html

良い機会なので、食品の基準値についての私見をまとめてみよう。

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水産物の放射性セシウム汚染の地理的な広がり

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先日、魚のセシウムの汚染が1960年代と比較して桁違いというデータを示しました。高濃度に汚染された魚は福島周辺に集中しています。日本全国の水産物が一律に汚染されているわけではありません。賢く選んで、内部被曝を避けつつ、素敵な魚食ライフをエンジョイするために、産地別の汚染度をまとめてみました。

水産庁のサイトにある海産生物の計測データを県別に分類すると次のようになります。

 

500Bq/kgが国の暫定基準値。その10分の1の50Bq/kgが俺推奨基準値なんだけど、内部被曝を1mSv/yに抑えようとすると、このぐらいが目安になります。福島、茨城を避ければ、国の暫定基準の1/10まで内部被曝のレベルを下げることが出来るということですね。

県ごとの平均と最大値(Bq/kg)をまとめるとこんな感じになります。

平均 最大値 データ数
福島県 878.0 14400 57
茨城県 55.1 1374 191
千葉県 4.4 33 59
宮城県 1.3 5.2 11
神奈川県 1.1 9.3 20
東京都 0.0 0 3

現在、福島県沿岸では操業が行われていません。茨城産の魚だけ食べていても、国の基準値は大幅に下回ります。余所の産地の魚もまぜて食べれば、平均値は50Bq/kgよりも大幅に下げることが可能です。ということで、何も考えずに、魚を食べてもそれほど問題ないと俺は思う。気をつけたいのは、外れ値のような高い汚染の魚を食べないこと。高い値が出ている産地は福島・茨城、魚種は、コウナゴ、シラス、ワカメ、ひじき、アラメなどに、(今のところ)限られている。検査データを横目で見ながら、こういう魚種については、産地を選べば問題ないのかな、と個人的には思っています。海産魚については、捕食魚の値が、これからどう動くかが気がかりです。

海産魚をどう食べるか?(私案)

1)国の暫定基準500Bq/kgを平均で超えなければよい人 → 店にあるものは、迷わず何でも食ってよし

2)内部被曝をICRPの公衆被曝水準程度には抑えたい人 → 福島、茨城を避ければよし

3)保守的にECRRで行くぜ、という人 → 福島、茨城、千葉を避ければ、ドイツ放射線防護協会が提言する乳児、子ども、青少年に対する安全基準(食品・飲料全般)である4Bq/kgは達成できそう

産地を選べば、ECRR基準でも、十分にいけそうですよ!

淡水魚は要注意!

淡水魚は広範囲で高い値が出ていますから、注意が必要です。地上に落ちたセシウムは、雨に流されて、湖や川に行きます。淡水魚は海産魚よりも栄養塩をため込みやすい性質を持っています。チェルノブイリの事故でも、海産魚よりも、淡水魚の汚染が顕著でした。

日本でも下の図の赤い星で示した北塩原村で、セシウムが780Bq/kgのワカサギが見つかっています。群馬大早川先生の地図で青い線の部分ですから、かなり広い範囲で、基準値を上回る淡水魚が存在する可能性があります。

過去50年の水産物のストロンチウムのトレンド

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全体の傾向

昨日紹介したデータベースを使って、ストロンチウムの濃度を調べてみました。311以降は、水産物からストロンチウムを検査した事例がないので、311より前の長期データを整理しただけです。今後は水産物のストロンチウムの調査を強化するようですから、データの蓄積に期待しましょう。

データベースには、1964-2008までのデータがありました。各年の平均値(Sr-90 Bq/kg)を対数軸で表現するとこんな感じになります。セシウムと同様に、指数関数的な減少傾向を示していますが、汚染濃度がセシウムより低くなっています。また、セシウムと異なり、1986年のチェルノブイリの事故の影響をグラフから読み取ることが出来ません。「ストロンチウムはセシウムほど長距離飛ばない」、「原発事故ではストロンチウムの割合が少ない」といわれていますが、それを支持する結果です。

 

分類群ごとの違い

分類群による違いを見たのが次の図です。他の生物と比較して、淡水魚の値が高くなっています。次に藻類で、魚類(海産)は低ようです。淡水魚と海産魚は、Sr-90の濃度に100倍の差があります。福島近辺の淡水魚を食べるときには、注意が必要です。安全性が確認できるまで、子供にはあたえないことを、強くお勧めします。

 

計測部位による違い

海産魚の計測部位別に図示すると次のようになります。可食部というのは、頭・骨・内蔵を抜いた状態と思われます。おそらく肉も同じでしょう。部位が空白のデータもあったのですが、値から察するに全体と同じような感じです。

 

骨抜き(可食部・肉)と骨あり(全体・空白)でグループわけしてみると明瞭な違いが見られます。骨を取り除くことで、Sr-90を7~8割除去できるようです。逆に言うと、身にも2~3割は含まれるということでもあります。

 

減少率について

指数曲線を当てはめてみると、減少率は年間約10%、半減期は6.5年と推定されました。Sr-90の半減期は28.8年ですから、それよりもずいぶんと早いペースで減っていることになります。おそらく、海水の希釈効果でバックグラウンドの濃度が下がっているものと思われます。

そもそも内部被曝の限界を上げる必要があったのか?

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ICRPが定める公衆被曝限界は1年間に1mSvとなっています。3/29日に、緊急事態だからと言うことで、この被曝限界を大幅に超えた暫定基準値が設定されました。ヨウ素2mSv/年、セシウム5mSv/年ですから、ICRPの被曝限界を大幅に上回ることになります。ICRPの基準である1mSv/年を遵守しようとすると、食品の基準値にはどの程度の値になるかが、次の文書に書いてあります。

緊急時における食品の放射能測定マニュアル  (平成14年3月)

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001558e-img/2r98520000015cfn.pdf

このPDFは測定法のマニュアルなんですが、通常時の基準の考え方がわかりやすく説明されています。

事故後 1 ヶ月以降 1 年間での食物摂取による被ばくを実効線量で1mSv/年とする。これを放射性セシウムについて、牛乳・乳製品、野菜類、穀類及び肉・卵・魚・その他の 4 食品群にそれぞれ 0.1 mSv/年を割り当てると、各食品群の Cs(セシウム)-137 濃度はそれぞれ 20、50、50、50(Bq/kg,L)以上となる。

基準値の考え方を解説

目的: 食物摂取による内部被曝を1年間で1mSvに抑える

内部被曝の大半を占めるであろうセシウム137について、牛乳・乳製品、野菜類、穀類及び肉・卵・魚・その他の 4 食品群にそれぞれ 0.1 mSv/年を割り当てる

それぞれの食品群の消費量から、年間の被曝を0.1mSvに抑えるための上限の Cs-137 濃度が計算できる

食品群 基準値
牛乳・乳製品 20Bq/L
野菜類 50Bq/kg
穀類 50Bq/kg
肉・卵・魚・その他 50Bq/kg

このマニュアルは、ICRPが定める公衆被曝限界1mSvに準拠したものになっています。ICRPの公衆被曝限界は、外部被曝を含むので、内部被曝のみで1mSvというのは厳密に言えばアウトです。

現在の暫定基準値は、ここに示された値の10倍に相当します。現在はこれらの食品群ごとにセシウムのみで1mSvの許容水準が割り振られています。さらに、食品安全委員会は、将来的には内部被曝の許容量を倍に増やすことを提案していますが、その場合の基準値は、実に20倍になります。

では、もともとの基準は、実行不可能なのでしょうか。私はそうは思いません。水産物でセシウム(134+137)が50Bq/kgを超えるのは、茨城県と福島県の海産魚(の一部)と関東全域の淡水魚ぐらいです(例外は北海道のカラフトマス1例のみ)。これらを避ければ、十分に達成可能な目標なのです。

福島と茨城の漁獲量は全国の約9%です。漁獲量の中で、大きなウェイトを占めている、大中巻き網とサンマ棒うけ網は、福島周辺海域で操業が限定されません。これらの漁業をのぞくと、日本の漁獲量の3%です。日本の水産物の自給率は半分程度です。我々の食卓に上る水産物の1.5%を止めれば、以前の目標も十分に達成可能なのです。今後、汚染がどれぐらい広がるか、どれぐらい蓄積するかや、回遊魚がどうなるかと言った不確実なファクターはありますが、基準を10倍に上げなければならないような状況だとは思いません。安易に基準値を上げる前に、ICRPが定める公衆被曝限度1mSv守るべく最大限の努力をすべきです。1mSvという限度がどうしても守れない場合にも、少しでも1mSvに近づける努力が必要と考えます。

参考資料

水産庁資料より、セシウムが50Bq/kgを超えるデータを抜粋)

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水産物の放射能汚染から身を守るために、消費者が知っておくべきこと

  • 2011-05-01 (日)
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水産物の放射能汚染が現実のものとなってしまいました。我々の生活に関わることなのに、公的機関や研究者は「安全・安心」と繰り返すだけで、現状がどうなっているかという情報が圧倒的に不足しています。これまでの知見&常識で言える範囲の情報をまとめてみました。現在の情報不足と、その結果の混乱を解消する一助になれば幸いです。

今回のように、大量の高濃度汚染水が、一度に海に流されるのは、これまで例が無いことですから、影響の予測は困難ですから、ここに書いてあることも、鵜呑みにせず、あくまで情報の一つとして活用してください。また、可能な限り、情報源へのリンクを張りましたので、リンク先を確認することをおすすめします。

海に放出された放射性物質はどこに向かうのか?

福島原発からは、大量の放射性物質が海洋投棄されました。海洋に排出された放射性物質の中で、量が多いのはヨウ素とセシウムです。これらは水溶性なので、水に溶けて、海流と一緒に移動します。放射性物質の移動パターンは大きく2つに分けられます。

  1. 外向きの流れに取り込まれ、外洋へと向かいます
  2. 沿岸流に取り込まれ、沿岸伝いに拡散していきます

 

1)外向きの海流

放射性物質を含む海水が、外向きの海流に取り込まれると、太平洋の真ん中へと流されていきます。その過程で周りの海水と混ざって、どんどん 薄まっていきます。福島の原子力発電所の海水がどのように移動するかを文科省のJAMSTECがシミュレーションをしています。

http://www.mext.go.jp/a_menu/saigaijohou/syousai/1304938.htm

発電所前の海水の濃度の実測値を参考に排出された放射能濃度のシナリオを作ります。高濃度汚染水の排出を抑えた4月9日以降、低い値が続いています。

 

これらの汚染水がどのように流れていくかをシミュレーションしたのが、次の図です。

5/1には、福島沖にセシウムが広がっています。放射性セシウムの基準値は90Bq/Lですから、灰色と水色の境目の線は、海水中のセシウムの濃度が9.0Bq/Lになります。海産魚は、環境の100倍ぐらい放射性セシウムを濃縮しますから、魚の汚染は900Bq/kgまで進行することになります。魚の暫定基準値は500Bq/kgですから、この値を超えます。海水の汚染が基準値の10%以下であっても、そこに生息する魚から基準値を超える汚染が検出される可能性があります。海水の放射性物質の計測では、検出限界が10Bq/Lぐらいですから、海水から放射性物質が検出されなくても、魚の汚染が暫定基準値を上回る可能性はあります。水産物の安全性を知るには、海水の汚染を計測するだけでなく、魚の汚染を直接確認する必要があります。

現在、福島沖に対流しているセシウムが、今後は沖に流されていきます。JAMSTECは6/15までのシミュレーション結果を公開しています。5/31の時点での予測はこんな感じです。三陸方面と茨城方面の2つの経路があります。この間で、どこを通るかは、現時点では確定していません。幅広い可能性があると言うことです。ヨウ素は半減期が短いので、この時点で検出不可能になります。魚に取り込まれた放射性ヨウ素も減少しますので、ヨウ素のリスクは大幅に減ります。

6/15になると、セシウムが広域に拡散し、薄まっていきます。水色の領域は、0.9-9.0Bq/Lです。濃縮が100倍として、魚の体内の濃度は90-900Bq/kg程度ですから、完全には安心できないのですが、この先の汚染は少ないと思います。新たに汚染が蓄積することよりも、すでに生態系に取り込まれた放射性物質が食物連鎖を通して、移動をしていくプロセスに注意が必要です。

福島周辺海域は、親潮と黒潮のぶつかり方によって、海流の方向が大きく変わります。シミュレーションの予測の精度は高いとは言えません。5/1以降の結果は、目安程度と考えて下さい。福島と隣接する県が汚染水の通り道となる可能性があります。福島、宮城、茨城の周辺海域は、しばらくは注意が必要です。

 

海域と安全性に関する考察

福島周辺の冷たい水は黒潮の温かい水と混ざりませんので、黒潮が大きく離岸しない限り、犬吠崎よりも南に汚染水が進入するのは難しいと思われます。外向きの流れに取り込まれた放射性物質は、親潮にぶつかって南下した後、黒潮にぶつかって太平洋の真ん中に押し出されます。下の図は、文科省JAMSTECの予測図の一つです。図のオレンジの点線の上が親潮系、下が黒潮系の海水なのですが、汚染水が黒潮系の流れに進入できず横に流されていくのがわかります。南下してくる汚染水に対して、黒潮が壁のように立ちはだかっているのです。点線より上の親潮系は、海流次第で、汚染水の通り道になり得ます。一方、黒潮系の水が汚染水を跳ね返します。ということで、点線の上と下とで、汚染リスクが大きく違うのです。

 

親潮系(茨城以北)→要注意?

  • 汚染水の通り道になる可能性がある
  • 暫定基準値を上回る魚(いかなご)が発見されている→食物連鎖の懸念

黒潮系(千葉以南)→しばらく安心か?

  • 汚染水の通り道になる可能性が低い
  • 暫定基準値を上回る魚が発見されていない

福島、茨城、宮城は、汚染水の通過経路となる可能性があります。今後、魚の汚染が進行する可能性があります。現在のモニタリング体制では、これらの海域の水産物の安全性を事前に確認することはできません。茨城海域では、以前に検査例が無かったマアジやスズキなどが、見切り発車的に出荷されてしまいました。現時点で安全が確認できているとは思いません。

海水の汚染が収まるであろう6月中旬から、大規模な調査を行って、魚の汚染状況を把握すべきです。その上で、基準値を下回っていることを確認した上で、これらの海域で漁業を再開するのがよいと思います。

 

2)沿岸流 (沿岸の局所的汚染)

放射性物質を含む海水の一部は、外側の流れに乗らずに、沿岸に滞留します。ゆっくりと希釈されながら、沿岸を漂います。大気から陸上に落ちた放射性物質が、雨に流されて、河川から海へ流れ出してきます。原発近傍の沿岸地域では、放射性物質が海底の砂や、海草類に取り込まれて、汚染が長期化する可能性があります。

1970年代に英国のセラフィールド核兵器再処理工場から、大量の放射性物質が海洋投棄されました。30年以上経った現在も、セラフィールド周辺15kmの海底からは、プルトニウムやセシウムなどの放射性物質が蓄積されています。これらが、魚や貝などに取り込まれています。福島原発付近の生態系調査はほとんど行われていません。海底の汚染状況をモニタリングして、汚染状況を把握する必要があるでしょう。茨城や、宮城など汚染水が通過するだけの場所は、長期的な土壌の汚染はないとおもいます。

福島原発周辺の海底土の汚染について

5/3に、福島原発から10km北の小高区沖合い3km地点の海底土の汚染が報告されました。セシウム137が1400Bq/Kgですから、すでにセラフィールドの1980年代の値に匹敵します。今後は、河川を通じて、陸上に落ちたセシウムが沿岸域に流出してくるので、汚染の長期化が懸念されます。また、現在は、ヨウ素とセシウムのみ計測されています。プルトニウム、アメリシウム、ストロンチウムなど他の核種の調査が必要です。

http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu11_j/images/110503m.pdf

 

放射性物質の核種について

放射性物質には、ヨウ素やセシウムなど、様々な種類があります。それぞれ、挙動が違います。

ヨウ素131

ヨウ素は原発事故では大量に発生します。今回の事故でも、ヨウ素が大量に放出されました。ヨウ素は半減期が8日と短いのが特徴です。8日ごとに半分になっていくので、3ヶ月で2000分の1に減少します。新たな流出が収まれば、比較的早期に収まります。

人の体内での挙動

甲状腺に溜まりやすく、小児甲状腺癌の原因になります。事故後、3ヶ月程度は、特に小さい子供に対しては、ヨウ素に注意が必要です。詳しくはリンク先を読んでください。http://tnakagawa.exblog.jp/15214535/

セシウム137

福島原発2号機から、高濃度のセシウムを含む汚染水が流出しており、今後の影響が懸念されます。放射性のセシウムは、半減期が30年と長く、環境汚染が長期化する傾向が見られます。1980年代に、イギリスのセラフィールドの核兵器再生工場から、大量の放射性セシウムが海に廃棄されました。90年代以降、新たな廃棄がほとんど無いにもかかわらず、現在も周辺の魚から、セシウムが検出されています。海底が汚染されたことが原因と考えられています。

人の体内での挙動

セシウムは特定の部位には蓄積されずに、筋肉にまんべんなく分布するようです。詳しくはリンク先を読んでください。http://tnakagawa.exblog.jp/15214540/

ストロンチウム90

ヨウ素やセシウムよりも検査が難しいために、海洋での分布状況は全くの未知数です。ストロンチウムはセシウムと同じく水溶性の物質で、海水中でも同じような挙動をしめします。セシウムが存在する場所には、ストロンチウムも存在するといわれています(link)。

ストロンチウムは魚の体内でも、骨に多く分布します。骨のストロンチウムの密度は、筋肉の50倍にもなるという報告も得られています。ストロンチウムが気になる場合は、骨を除去することである程度の自衛が可能です。詳しくはリンク先を読んでください。http://tnakagawa.exblog.jp/15214540/

人の体内での挙動

ストロンチウムは、カルシウムと似た性質を持ちます。人体に取り込まれると、大部分はそのまま排泄されるのですが、一部が骨に蓄積されます。ひとたび骨に取り込まれると、なかなか外には排出されません。骨が成長中の成長期の子供は、ストロンチウムを取り込まれやすいので、特に注意が必要です。

 

プルトニウム

プルトニウムがどの程度出たかは全く解っていません。プルトニウムの検出には、微量のα線を計測しなくてはならないので、技術的にも時間的にも困難です。海洋では、プルトニウムの調査は行われていません。

セラフィールド再処理工場でもプルトニウムが大量に排出され、現在も周辺住民の内部被爆の主要因となっています。もし、大量に放出されいたなら、相当やっかいなことになりそうです。海洋汚染の主要なソースである二号機は、プルトニウムを含むMox燃料ではないのが救いではあります。

それぞれの各種がどのような生物に、どの程度取り込まれるのかを詳しく知りたい人は、リンク先の海産生物の濃縮係数一覧表をご覧ください。

http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/09/09010402/05.gif

 

生態系における放射性物質の濃縮について

海洋に放出された放射性物質は、プランクトンや魚に取り込まれます。その後、放射性物質は食物連鎖を通じて、海洋生態系を循環します。生物の種類によって、放射性物質の取り込みやすさが異なります。それぞれの生物が、放射性物質を体内に蓄積するかは、濃縮係数というパラメータで表現されます。

濃縮係数=生物の体内の放射性物質の濃度/環境の海水中の濃度

IAEAのレポートに、様々な水生生物の濃縮係数の一覧表があります(リンク)。海洋の生態系汚染の主役の放射性セシウムの濃縮係数は以下の通りです。たとえば、植物プランクトンの濃縮係数は20ですから、海水中のセシウムが10Bq/Lなら、植物プランクトンの体内はその20倍の200Bq/Kgに汚染されます。植物プランクトンから、海産ほ乳類まで、食物段階が上がるほど高くなる傾向があります。イカ・タコは、食物段階のわりに、放射性セシウムを蓄積しづらいようです。

イカタコ 9
植物プランクトン 20
動物プランクトン 40
藻類 50
エビカニ 50
貝類 60
100
イルカ 300
海獣(トド) 400

IAEA のレポート http://www-pub.iaea.org/MTCD/publications/PDF/TRS422_web.pdf

食物連鎖を通じた放射性セシウムの移動(捕食者への時間遅れの汚染蓄積)

チェルノブイリ事故で汚染されたキエフの貯水湖では、餌となる小型魚(上)のセシウムの値は事故の後すぐに上がったのですが、捕食魚(下)のセシウムの値は翌年になって跳ね上がりました。食物連鎖を通じて、上位捕食者に時間遅れで放射性物質が伝わったのです。Chernobyl’s Legacy: Health, Environmental and Socio-Economic Impacts

チェルノブイリの事故後で、日本近海の表層海水の汚染のピークは1月後、スズキの汚染のピークは半年後、マダラの汚染のピークは9ヶ月後でした。(海生研ニュース No.95 p7より引用)。

福島周辺海域では、植物プランクトンを食べるコウナゴがすでに高いレベルで汚染されています。コウナゴは多くの魚の餌になりますから、今後は生態系内での放射性物質の移動に注意する必要があります。現段階で、汚染が検出されなかったとしても、将来の安全は確保できません。

下の図は茨城のヒラメから検出されたセシウム(Bq/kg)です。生態系に取り込まれたセシウムが徐々にヒラメに蓄積されつつあるようです。チェルノブイリの時と同じことがおこるなら、今後も高次捕食者に汚染が蓄積されていき、半年~1年後にピークになるでしょう。継続的に汚染状況を確認し、汚染がどこまで進むのかを見極める必要があります。

汚染からの回復

魚が放射性セシウムで汚染されたからといって、その魚を未来永劫食べられなくなるわけではありません。チェルノブイリの湖でも、被食魚は事故後2年、捕食魚は事故7年後で、日本の暫定基準値(500Bq/Kg)よりも低い値まで汚染が減少しました。海産魚は、淡水魚よりも、放射性物質の減少が早いと考えられています。その理由は、湖は閉鎖系なので、水中の放射性物質の濃度が下がりづらいことと、淡水魚は浸透圧調節のために、カリウムやセシウムなどのイオンを体内に取り込むのに対して、海産魚は体内の浸透圧調節のために、カリウムやセシウムなどのイオンを積極的に排出するからです。チェルノブイリの事故で、日本近海の海産魚の放射性セシウムの濃度が上昇しました。事故以前の濃度レベルに回復するのに要した時間は、スズキで1.7年,マダラでは2.5年でした(海生研ニュース No.95)。

海産魚の場合、水槽実験では、体内の放射性セシウムの濃度が半分に減るのに50日かかることが解っています。たとえば、基準値の倍のレベルまで汚染された場合には、(餌がクリーンであれば)基準値まで下がるには50日程度かかるいうことです。福島のイカナゴからは、14000ベクレルという高濃度のセシウム汚染が観察されています。基準値の28倍ですから、半減期が50日として計算をすると、1年せずに暫定基準値よりも下がることになります。詳しくは、こちらの説明をご覧ください。排泄の速度は魚の種や、代謝コンディション、餌の汚染度合いなど、様々なファクターが聞いてきますから、あくまで目安程度です。

水産庁の公式見解では、「たとえ放射性セシウムが魚の体内に入っても蓄積しません」となっていますが、楽観的過ぎると思います。放射性セシウムは魚を含む生物に蓄積されて、数ヶ月から数年のオーダーで生態系に残ることが、野外調査および水槽実験から知られています。くれぐれもご注意ください。

ポイント

  • 海水の汚染の流出を食い止めるのが重要→安全性の議論ができるのは、汚染の進行が止まってから
  • 魚は環境の100倍の濃度にセシウムを濃縮する→海水からセシウムが不検出でも安心できない
  • 放射性物質は、食物連鎖を通して循環する→食物連鎖を通じた移動に注意
  • 海水魚に蓄積されたセシウムが半分になるのに50日かかる→数ヶ月~数年オーダーで汚染は残る
  • 汚染の度合いから、浄化に必要な時間の予測は可能

以上を踏まえて、水産物とどうつきあうかという私案をまとめてみました。参考にどうぞ。

海洋の生態系汚染に関するドキュメント

セラフィールド再処理工場周辺の環境汚染のレポート。数少ない放射性物質の海洋への大規模流出の事例。事後調査がなされているので、福島周辺海域の今後の推移を予測する上で参考になる。
http://www.sellafieldsites.com/UserFiles/File/Monitoring%20Our%20Environment%202008.pdf

Nature News「汚染が直ちに海洋生物に害を与えることはないだろうが、寿命が長い同位体は食物連鎖を通事で集積されると考えられており、魚類や海産ほ乳類の死亡を増加させる可能性がある」 と指摘しています。 http://www.nature.com/news/2011/110412/full/472145a.html

National Geographic「放射能汚染水、海洋生態系への影響は?」:  生態系への影響は未知数としながらも、複数の専門家が生物濃縮の可能性を指摘。
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20110404001&expand#title

National Geographic「鳥に現れた異常、チェルノブイリと動物」こんなことが海で起こらなければよいのだけど。
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=2011042603&expand#title

ノルウェーの湖のマス(Brown trout, Atctic char)のセシウムは、チェルノブイリの翌年には1600Bq/Kgに上がり、日本の安全基準の500Bq/kgに下がるまで4年ぐらいかかっている。 http://www.springerlink.com/content/t4000nkp678h0753/

ノルウェーバレンツ海における、セシウム137の生物濃縮に関する論文。オキアミなどの動物プランクトンは海水の10倍、ネズミイルカは海水の165倍に生物濃縮される。この論文のFig.2はとてもわかりやすい。 http://bit.ly/e5r837

北極海に廃棄された核物質の生物濃縮に関する論文(PDFを落とせます)。Table2に、様々な生物の、核種毎の濃縮係数の一覧表がある。 http://bit.ly/i6Z7Np

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