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大本営発表

水産庁のNZレポートを徹底検証する その8

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レポートの右半分にもツッコミをいれてみよう。

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NZでは、ほとんどの魚種で資源評価が行われていない?

ほとんどの魚種で資源評価が行われていないということだが、資源評価の結果は、ここにある。そのままだと全体像がわかりづらいので表にまとめてみた。94魚種、176系群の記載があるが、そのうち、資源状態が不明な者は98資源。約半数が不明であった。約半数は資源評価をしているのに、「ほとんど資源評価がおこなわれていない」というのは、不適切だろう。

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水産庁のNZレポートを徹底検証する その7

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http://www.jfa.maff.go.jp/suisin/yuusiki/dai5kai/siryo_18.pdfのP8

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なんか、まともに読めないんですけど・・・

○TACの推定値は毎年変わるがTACを変更しようとすると苦情や訴訟が提起されるため、基本的にTACが変更されることは少ない

これはITQ導入当初(86-89年)の話だね。ここにも書いたように、NZは最初は絶対量で漁獲枠を配分していた。TACを減らすときは、漁獲枠を漁業者から買い取るつもりだったんだけど、漁業が儲かることがわかった漁業者は政府に漁獲枠を売らなくなってしまった。困ったNZ政府は強引に漁獲枠を下げようとして訴訟になって負けたのだ。1990年にNZ政府は法改正を行い、漁獲枠をTACCに対する比率で設定することにした。90年以降は、政府の裁量で自由にTACCを変化させるようになった。で、実際に必要な場合には漁獲枠をちゃんと削減している。今年もHOKIやOrange RoughlhyのTACCが削減したが、NZ政府関係者に確認したところ、訴訟は起きていないという話だ。

訴訟によって、漁獲枠が変えられなかったのは過去の話であり、この問題はすでに解決済みなのだ。

○ITQは、経済政策としては成功したが、資源管理としては機能していない。

NZは混獲種も含めてITQを導入しているので、資源評価ができていない(していない)種も多い。情報が少ない非漁業対象種にも予防原則から、漁獲枠を設定しているのである。漁業対象種以外に漁獲枠がないほとんどの国に比べれば、非常に進歩的だ。資源評価ができている種については、85%がMSY水準以上という評価が得られている。ほとんどの資源は持続的に有効利用できる水準に維持されているのである。NZは、もっとも厳格な資源管理としている国の一つです。一方、日本は何もしていないに等しいレベル。NZの資源管理も100%ではないが、少なくとも日本とは比較にならないぐらいちゃんとしている。

NZは環境保護団体が強いから、世界最高水準の保護をしていても、国内では漁業省は厳しい非難にさらされている。こういう外圧があるから、高いスタンダードを維持できるという側面もあるだろう。日本のNGOも頑張ってほしいものだ。

○漁獲量が割当量を超過した場合に賦課される罰金は、浜値等よりも低くなることがあり、結果として過剰漁獲を誘発。

これも解決済みの問題。漁獲量が割当量を超過した場合にはDeemed Valueという罰金を払うことになる。いくつかの魚種でDeemed Valueが浜値よりも安く設定されており、モラルの低い漁業者が漁獲枠を無視して水揚げをして利益を上げた。ただ、これはDeemde Valueが導入された初年度のみであり、翌年にはこの穴はふさがれた。NZ政府は、Deemed Valueの設定には細心の注意を払っており、現在もDeemed Valueが乱獲を誘発するようなレベルに設定されている魚種はない。

解決済みの問題をあたかも現在進行中のように見せかけている。情報が古いのか、故意の印象操作なのかは不明だが、もうちょっとまともな資料を使ってほしいと思う。また、このレベルの資料にはツッコミを入れられるような有識者でなければ、集めて議論をさせる意味がないだろう。

我々、日本人は、NZの漁業関係者が、これらの問題を解決していったプロセスに着目し、そこから自己改革の重要性を学ぶべきだろう。

水産庁のNZレポートを徹底検証する その5

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漁船の減少

ITQの導入以降、NZの漁船数は4割減少した。
減少の大半は10m未満の小型船である。
一方、40m以上の中型船・大型船の数は倍増していいるので、漁業者の減少は1割であった。
漁船の総トン数は、むしろ増えているかもしれない。

日本の漁船数は3割減少である。
特に大型の漁船ほど、減少率が大きいことがわかる。

NZ
 

<10m
10~40m
40-70m
70m>
total
1988 2137 1060 123 88 3408
2001 940 880 190 166 2176
日本
 

<5t
5-200t
200-500t
500t>
total
1988 131948 28822 1378 57 162205
2001 94976 25037 807 12 120832

NZの漁船数の減少は、漁業の衰退ではなく、大型化・効率化という産業構造の変化である。
ITQ導入当時は、沿岸資源が乱獲により疲弊していたので、
小型漁船の減少はITQが理由とはいえないだろう。
何もしなければ小型船はもっと減っていたはずだ。

一方、日本の漁船は全てのサイズクラスで減少しているが、
特に、大型船ほど減少率が激しい。
日本の漁船の減少は、産業の衰退、弱体化の表れである。
また、日本の小型漁船の減少率が低いのは、
年金生活の60歳以上の人間が漁業にとどまっているからである。
企業だったらとっくに倒産しているような状態である。

漁民であるか否かにかかわらず、経済活動の一環として割当てに対する投資が行われており、割当ての集中が継続

割り当ての集中があるのは事実。また、外部からの投資もある。

トップ10企業による漁獲枠の保持率
 1987:   67%
 1999:   82%

そもそも、ニュージーランドは、政策的にこの方向を目指していたのだ。
ニュージーランドをはじめとする多くの漁業国は、大企業かを国策として進めている。
世界の水産市場で勝負するためには、効率的な経営戦略が要求されるからだ。
大企業化のスケールメリットと、漁獲枠取引の自由化による外部資金調達によって、
国際競争力を高めようという戦略なのだ。

NZの割り当ての集中や、外部からの投資は、制度設計によるものである。
日本はこれらを望まないのであれば、そうならないITQの制度設計をすればよい。
漁獲枠保有の上限を下げるだとか、地域(漁協)に譲渡不可能な枠を一定量を配分しするとか、
いくらでもやり方はあるはずだ。

水産庁のNZレポートを徹底検証する その4

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漁業者数、漁船数ともに減少

水産庁&御用学者は、「ITQをやると漁業者が激減する」と脅しをかけている。
でも、ITQで実際にどの程度漁業者が減ったという具体的なデータは示さない。
「漁業者の数はかなり減少したということでございます」とあたかも資源管理によって漁業者が減ったかのように説明しているが、
実際にITQの導入でNZの漁業者がどれぐらい減ったのかを見てみよう。

下の図は、NZがITQを導入した1986年から2000までの漁業者数を比較すると、
日本が4割減少でNZは1割減少。ITQを導入していない日本の方が明らかに減っているんですが・・・
Image0903012.png

もう一つ、おもしろいデータを示しておこう。
漁業に携わっているのは漁業者だけではない。
加工もまた、漁業による雇用である。
NZの漁業者と加工業者の合計はこんな感じ。
加工も含めれば、NZ漁業の雇用は増えているのだ。

Image0903011.png

人間の漁獲能力が自然の生産力を遙かに超えている現状では、
魚を捕る人間はそれほど必要ではない。
過剰な漁業者は、資源を持続的に利用していく際のリスクでしかないのだ。
漁業を成長させる鍵は、自然の生産力をいかに高く売るかである。
上の図からわかるように、NZの漁業は全体の雇用を増やすと同時に、
過剰な漁獲分野から、必要な加工分野へと労働者が移動することで、
「多く獲る漁業」から、「高く売る漁業」へと、産業構造が変化した。
資源管理は、単に魚を守るというレベルの話ではない。
ITQは漁業者のインセンティブ(動機付け)を変え、
持続的な産業構造への自己改変を可能にするのだ。

乱獲を放置している日本では、漁業生産は下り坂だから、
加工・流通も、漁業者と同じかそれ以上に減少している。
何もしなければ、10年後には流通業者は半分以下になりそうな勢いである。

日本の漁業者は60歳以上が大半で、50代が「若手」という浜もある。
沖合い漁船の乗組員は、インドネシア研修生に置き換わっている。
沿岸も沖合も、新規加入が途絶えて、縮小再生産にすらなっていないのである。
ITQを入れようが何をしようが今後も確実に漁業者は減る。
このまま何もしなければ、あっという間に半分以下になるだろう。

資源管理をしなければ、漁業は産業として成り立たず、雇用が減少する。
漁業者を減らすためにもっとも有効な手段は、資源管理をしないことだ。
逆に、漁業者の減少を食い止めるために必要なことは、
適切な資源管理による漁業生産額の安定である。
そのためにITQが有効な手段であると言うことはNZの事例からも明らかである。

「漁業者の数はかなり減少したということでございます」などと印象操作をせずに、
日本漁業の危機的状況を認めた上で、漁業の雇用を増加させたNZから謙虚に学ぶべきである。

水産庁のNZレポートを徹底検証する その3

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木島資源管理推進室長
まず、一つ目に、漁獲量を迅速かつ正確に測るためにはたくさんのコストがかかりますよということでございます。これについては、右下の枠を見ていただきたいのですが、仮にまずは水揚げ港に人を張り付けましょうということを考えてた場合に、2種漁港、3種漁港の約600港に人を張り付ける、さらにニュージーランド、オーストラリアがしているような漁船に人を乗せましょうとのことを考えた場合には、今、ミナミマグロでやっているように清水と同じようなことをやった場合には、港の張り付け分が約140億円、それから船に人を乗せるといった場合には、約300億円と合計で少なくとも約440億円もの費用がかかりますよと。
http://www.jfa.maff.go.jp/suisin/yuusiki/dai5kai/giziroku_05.pdf のP11

このように、水産庁サイドはIQを入れると金がかかるぞと脅しているわけだが、
300億円というのは全くのデタラメだ。
少なくともニュージーランドと同じことをやったらこんな金額にはならないですよと。

このときに示していた資料は、
http://www.jfa.maff.go.jp/suisin/yuusiki/dai5kai/siryo_18.pdf のP15だろう。

右下にTAC漁業の漁船数の一覧表がある。

Image0903018.png

大臣許可漁業の漁船では、小型のイカつり船が3100隻と群を抜いている。
これらの大半は10トン以下の小型船であり、監視員が乗船するスペースは無い。
これらの小型イカ釣り漁船をのぞけば、大臣許可漁船は700隻に過ぎない。
NZと同じ運用をするなら、監視員は全体の10%で70隻となる。
下の水産庁試算の3808隻の部分が70隻に減るので、
全体の額は546000千円(=29702400/3808*70)となる。

Image0903017.png

NZと同じように監視員を乗船させると300億円かかるというのは、全くの嘘だ。
NZとおなじ運用をするなら、乗船監視員の経費は5億円程度である、
また、この費用はNZでは業界の自己負担である。

ITQをやりたくないから、法外な予算をふっかけたのだろうが、
その前提があまりにもお粗末である。
こんなでたらめが、通るはず無いだろうに・・・

水産庁のNZレポートを徹底検証する その2

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水産庁のレポートはことごとくデタラメなんだが、どこがデタラメかを具体的に見てみよう。

漁業省400人のうち約180人が監視員で、大型の漁船には1人ずつ監視員が同乗。

NZに監視員が多いのは確かなんだが、大型漁船には一人ずつ監視員が乗船というのは嘘。現在のNZには70m以上が170隻、10-70mが1070隻存在するので、大型漁船に一人ずつ監視員を常駐するのは、そもそも不可能だ。NZ漁業省に問い合わせたところ、遠洋漁業の大型船の監視員のカバー率は20%程度であり、大型船全体でも10%程度とのこと。 監視員は、必要な漁業に優先的に配置される。過去に違法があった船、投棄の疑いがある船(同じような操業をしている船と比べて、 漁獲組成が大きく異なる船)、海鳥・海獣の混獲のリスクがある漁業が対象になる。問題がありそうな船、将来問題になりそうな漁業に、重点配置をしているのだ。

NZでは、監視員の費用は業界が負担しているのが重要な点だろう。NZでは、「漁業者が、操業を遵守していることを証明する義務を負う」という考え方だ。日本の水産庁は、4000隻の漁船(大半が10トン未満の小型イカつり船)すべてに税金で監視員を配備するとか寝言を言っているが、非常識すぎて頭が痛くなってくる。 監視員は教育・維持に金がかかるから、まずは、コスト対効果の高いVMS(衛星による漁船監視システム)の導入をすべきである。 VMSは機材がUS$1000-US$5800で、ランニングコストも1日US$1-US$5しかからない。まずはVMSを導入し、それでも不十分な場合には、業界自己負担で漁業者負担で監視員を乗船させるというのが、ものの順序だろう。主な漁業国はVMSをすでに導入済みであり、未だに何もしていないのは日本ぐらいじゃないかな。VMSのVの字も出てこないことからも、水産庁の監視員4000人計画の目的は、漁業の監視ではなく、予算のつり上げであることがよくわかる。

現在、指定港以外の水揚げ防止等をはかるため、VMSや監視カメラの船上設置を検討

NZでは、1994年からVMSを導入していますが? すでに28mよりも大型の船には100%VMSが導入されている。小型の船にも搭載可能な安価なVMSの導入が進められており、 近い将来、全ての船に導入することになっている。VMS以外にも、軍の早期警戒管制機(AWACS機)による漁船の監視なども行われている。AWACSのデータを見せてもらったが、漁船の位置が手に取るようにわかるのはびっくり。軍事機密と言うことで、資料は貰えなかったけど、すごいものですよ。 NZでは、VMSの導入も受益者負担が徹底されている。NZ政府が漁業者から金を集めて、VMSのシステムを開発し、 28m以上の船には有無を言わさずにVMSを購入させた。「政府は、俺たちの金で開発したシステムを、高い値段で売りつけるんだ」と、一部の漁業者は腹を立てているようだ。

虚偽報告や投棄が存在

どこの国にでも、虚偽報告や投棄は多かれ少なかれ存在するだろう。NZでも虚偽報告や投棄はゼロではないだろうが、日本と比較にならないぐらい少ない。 NZでは、漁獲物の海上投棄を一切認めていない。たとえ、商業価値がない魚でも網にかかった以上は持ち帰るのがルールである。 漁業が非対象種に与える影響を評価するためである。NZでは、全ての投棄は違法であり、投棄は非常に厳しいペナルティーの対象となる。軽微な違反で$5000(25万円)、普通の違反で500万円、最大で1250万円の罰金、および、魚、漁船、漁獲枠の没収、刑務所行きまである。

NZでは、漁獲枠保持者が漁船を雇って操業をさせる場合も多い。雇われ漁船が違法操業をすると、漁獲枠保持者にも漁獲枠の没収を含むペナルティーがある。漁業会社は、漁船を雇うときには、その漁船がルールを遵守するかどうかを厳しくチェックする。スポンサーの目が光っていれば、雇われ漁船もうかつなことはできない。 組織的に投棄をしていたら、明らかに漁獲組成が他の漁船とは違ってくるはずだ。

投棄の疑いがある船には、監視員が乗船し、操業を確認する。NZ政府は、監視員がいる場合と、いない場合の漁獲組成の差に着目する。いてもいなくても、同じように獲れていれば、投棄はないものと判断される。監視員がいるときには、小さい魚も大量に捕れるのに、監視員がいない場合には大きな魚しか獲れないといった明瞭な差がある場合は、監視員の乗船頻度をふやして、原因を徹底的に調査する。

NZの不法投棄への対策は、世界でもっとも厳しい部類に入る。一方、日本はどうだろうか。投棄自体を禁止していないので、海に捨て放題だ。まともな規制がないので、「不法投棄」はないだろう。そもそも、国として管理責任を放棄しているのだから、「無法地帯に違法は存在しない」のである。自らの無為を棚に上げて、NZ漁業のことを「虚偽報告や投棄が存在」などと、わざわざ指摘する面の皮の厚さは賞賛に値する。

NZのITQは資源管理として機能していない? その3

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2) Do you have any alternative idea other than ITQ?

There are some specific elements that I think need to be in any system.  These include:

a) A public process for considering the areas that should remain unfished and for avoidance of and protection of these and vulnerable marine ecosystems as per the UN General Assembly resolutions on the impacts of damaging fishing techniques;
b) A presumption of closed to fishing until open after due consideration of ecosystem values and that the opening to fishing should consider fishing impacts and methods, areas, vulnerabilities and sustainability considerations;
c) Management within an ecosystem based framework;
d) Strong institutions and processes for environmental and stock assessment, with commissioning and conduct of research open to public discussion and review and independent of the fishing industry;
e) Minimum stock rules that do not allow stocks to fall below agreed benchmarks.  With our stocks they are often less than 30% of Bmsy, often much less, and it is a battle to get fisheries closed.  Some of our Orange roughy stocks have been allowed to decline to 7% and 3% before there has been closure.
f) Provisions for the protection of bycatch and incidental mortality.
g) Public good science available to interested community groups and support for their involvement in decision making.
h) Some form of clawback or retirement of quota if any quota management system is instituted.

There are many other provisions.

質問2) ITQ以外にどのような管理方法がありますか?

ITQにかぎらず、どのようなシステムにでも次の要素が必要でしょう。

a) 漁業の生態系破壊に関する国連総会決議に則り、大衆参加の下で、傷つきやすい海洋生態系を保全するために、漁業を禁止にする保護区を検討すべきです。
b) 漁業を当面中止して、生態系の価値について熟慮をする。漁獲の影響、方法、漁区、(生態系の)傷つきやすさ、持続性について十分に考慮した上で、漁業を再開する。
c) 生態系ベースの枠組みで管理を行う
d) 環境および資源評価を行う強力な組織、プロセスが必要。漁業から独立した議論・レビューを促すために、大衆への公開を前提に、調査を遂行する。
e) (それ以下だと禁漁になる)最低資源量は、MSY水準の30%と決まっているが、この水準は多くの魚種にとって低すぎる上に、漁業を閉鎖するための交渉に時間がかかります。オレンジラフィーの資源では、漁業閉鎖の前に7%や3%に減少したものもあります。
f) 混獲と水揚げされない漁獲死亡(ゴーストフィッシングとか)に対する規制
g) 科学的な知見を関心をもつコミュニティーグループに公開し、彼らが意志決定に加わることを促進する
h) 漁獲枠による資源管理を行う場合、何らかの形で漁獲枠を回収できるようにするか、漁獲枠利用権に有効期限をもうけておくべきです。

これ以外にも多くの規定が必要でしょう。

NZは、エコ系の人間が大変な力を持っている。Cathさんは、その典型だろう。
彼らが要求するのは、漁業の影響を受けない大規模保護区と、
生態系に対する十分な考慮ができるまで、漁業を一時中断することである。
こういった価値観にたてば、NZのQMSなど不十分にもほどがあるとなるわけだ。
俺的には、既存の漁業を続けながら、生態系への考慮を高めていく方が良いと思う。
これは価値観の違いであり、どちらがより長期的な利益にかなうかをみていくべきだろう。

日本がすでにCathさんのaからhの提言を実行しているなら、Cathさんの言葉を引用し、
今更NZの資源管理から学ぶことなどないといってもよいだろう。
しかし、日本には生態系への配慮はおろか、まともな資源管理制度がないのが実情だ。
NZのQMSでも不満のCathさんに、日本のTAC制度を紹介したら、卒倒しかねない。
水産庁には、Cathさんの言葉を引用し「NZの資源管理は機能していない」と主張する資格はない。

また、Cathさんは、QMSをやめて漁業者任せにすればよいと言う意見の持ち主ではない。
寿命が長く、低水準な資源には、現状よりも厳しい漁獲枠の削減が必要だと考えている。
また、本来は国民の財産である水産物の利用権を漁業者に永続的に与えるのではなく、
短期的なリースによって、レンタル費用を回収し、国民に還元すべきという意見のようだ。
(この件に関してはNZ全体で議論が続いている)

俺個人としては、Cathさんの意見には賛成しかねる部分も多い。
しかし、彼のような人物は必要だ。
Cathさんのような勢力が、業界と綱引きをすることで、NZの漁業はよりよい方向に向かうだろう。
出来レースのぐだぐだ検討会で、権力者が予め決めたコースを進むより、よほど良い。
NZ漁業と日本漁業の根本的な違いはここだろう。

Cathさんの主張については、次の文献をよむとよくわかるだろう。

Wallace, Cath and Barry Weeber. (2005) The devil and the deep sea – economics, institutions and incentives: the theory and the New Zealand quota management experience in the deep sea. Shotton, Ross ed (2005) Deep Sea 2003 : Conference on the Governance and Management of Deep-sea Fisheries, Part 1: Conference Reports, Queenstown, New Zealand, 1-5 December 2003.  FAO Fisheries Proceedings. No 3/1. Rome, FOA.2005. 718p. ISBN 92-5-105402-9, 511-543

http://www.fao.org/docrep/009/a0210e/a0210e0s.htm

NZの資源管理のことを知らない人間を集めて、
NZの資源管理の悪い点だけを意図的に集めた資料をくばり、
「だから、ITQをやめましょう」という結論を導く。
こんな茶番を税金を使ってやっているのだから、あきれてしまう。

NZのITQは資源管理として機能していない? その1

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ITQをやりたくない水産庁は、NZの資源管理の悪い点だけを抜き出したレポートをつくり、
資源管理をやらない口実の一つとして利用した。
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このPDFの8ページ

ノルウェー、NZ、アイスランドは、資源管理の成功例として取り上げられることが多く、
完璧ではないが、他よりは、うまくいっているというのが一般的な認識であり、
どこからも相手にされていない日本のTAC制度よりは100倍マシだろう。

NZのことを「資源管理としては機能していない」と言い切る根拠は何なのかと質問したところ、
「CathさんというNZ人がそういってたよ」という回答を得た。

こういう時は本人に聞くのがてっとり早くて、確実なので、
水産庁のレポートを英訳したものを送りつけて、いろいろと質問をしてみました。

Cathさんは、環境への意識が高い人のようで、「今のNZのやり方では生ぬるい。
もっと環境のことも考えて、しっかりと規制をすべきである」という意見のようです。

本人の了解をいただいたので、私の質問(太字)とそれに対するCathさんの回答を公開します。

1a) Do you think NZ government should stop QMS.
It needs significant design, and there are some strong lessons on what not to do from the New Zealand experience. 
Provision of “property rights” has strengthened the say of fishing companies in the public debate and has diminished the standing of public interest voices.  As larger fishing companies have gobbled up the smaller operators, we now have a few hugely powerful and wealthy fishing companies that provide a lot of money to political parties to get their way and use their financial and hence legal might to oppose any Ministers who try to institute controls over the catch limits or other sustainability measures.  The politics of control have become much harder now that the private property rights are well specified but the public entitlements to sustainability remain less well specified.
One vital element is to carefully specify the rights of the community to a healthy environment, to provide incentives to consider the impacts of fishing, to internalise the externalities and to strengthen the say of communities over the decision making processes for setting catches and other sustainability measures.  An ecosystem based management regime and recognition of the non-harvest values of fish in the ecosystem is required.


質問1a)NZ政府はQMSを止めるべきだと思いますか?

やり方を大幅に変える必要はあるでしょう。また、反面教師として学ぶべき点も多いです。

ITQによって所有権を与えたことで、公的な議論での漁業会社の発言力が強まり、一般人の声が弱まっています。より大きな漁業会社が、小さな経営体を統合し、いくつかの巨大な漁業会社が誕生しました。彼らは大量の資金を支持政党に与えています。財力、すなわち政治力を行使して、漁獲枠や他の持続的な手法をコントロールしようとする大臣に反対してきました。漁獲枠の所有権が確立されたことによって、政治的な介入は難しくなりました。その一方で、公共の持続性に対する権利は、未だに確立されていません。

健全な環境への、コミュニティー(一般国民)の権利をきめ細かく定め、現在は考慮されていない外部負荷をしっかりと考慮し、漁獲枠の決定などの持続性に関わる意志決定へのコミュニティーの発言力を強化すべきです。生態系ベースの管理システムの確立と、取り残した魚の価値の認識が必要でしょう。

まだまだ続く

日本のTAC制度はオリンピック制度ですらありません

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みなと新聞で読んだんだけど、TAC制度等の検討に係る有識者懇談会が、「日本はオリンピック制度ではない」と主張しているようである。珍しく正しいことを主張していて驚いた。

オリンピック制度とは、持続性の観点から漁獲枠を決定し、それを早い者勝ちで奪い合う資源管理方法である。一方、日本は、持続性を無視した漁獲枠を設定し、漁獲量が漁獲枠に近づいたら、漁獲枠が増えていく「青天井システム」を採用している。漁獲枠など有名無実であり、なんら漁獲量の抑制効果がないのだから、オリンピック制度ではなく、無管理と呼ぶのが正解だろう。

米国やカナダは馬鹿正直にオリンピック制度を行い、過剰な漁船を抱えたまま、漁期を短縮させた。漁期が1週間とか、3日とかになってしまったのだ。漁期が極端に短くなろうとも、魚を残す努力をしたのだから大したものだ。日本の場合は、低水準で減少している資源にも、漁獲にブレーキを全くかけていない。たとえば、スケトウダラ日本海北部系群。資源がこんなに減っているのに、漁獲割合はむしろ上がっている。管理されている資源なら、あり得ない話である。まともな漁業国なら、もっと早くに漁獲量を絞っているし、ここまで減ったら漁獲枠はゼロだよ。今年は、ABCが現状維持の4.6千トンに対して、TACが1万8千トンだから、お話にもなりやしない。こんなに減らしてしまったんだから、資源回復を最優先すべきであり、現状維持でABCを出す研究者にも問題がある。まあ、そんな問題は霞んでしまうほど、水産庁が設定したTACは非常識だけど・・・
2010-04.png

オリンピック制度は漁獲枠を巡る競争である。
一方、日本の漁業者は、実質的な漁獲枠が無い中で、魚を奪い合っている
オリンピック制度と日本のTAC制度の間には、スポーツと戦争ぐらいの差がある。
日本のTAC制度をオリンピック方式と呼んだら、まじめにオリンピック方式を実施してきた国に失礼だ。

某財団法人の学生さんへ

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次のようなコメントをいただいた。

一言。
メディアに出て、それを張り付けて喜んでいるのはちょっと…良い印象を受けません。
小松さん、勝川先生は机上。
それに反対する先生方は現場。
一学生から見るとこんな印象を受けます。

現状認識の違いは、活動しているフィールドの違いでは?
勝川先生のおっしゃることは理解できるですが、漁村文化などといった視点を欠いているのではないでしょうか?
現状、現場、漁村で暮らす人々の生活を無視した、机上の政策論争のように思います。
互いを非難し否定しあっているなんて、ばかみたいです。学生でももう少しまともに話し合えるのではないですか?
今後は現状認識を確認していくというお話があったようなので、そういうところから協力して水産業のためになる政策が生み出されることを期待しております。

ご迷惑なら削除してください

会場にきた人なら、おわかりだろうが、勉強会に学生はほとんどいなかった。
少数の学生はいずれも、顔を見知った人間ばかり。
「小松さん、勝川先生」って、何で話をしていない小松さんが出てくるのだろうか。
どうも不自然に思ってIPを調べてみた、某財団法人からのアクセスでした。
月給80万円のご高齢の学生さんですね。
ネットには匿名性はありませんので、
職場からの書き込みは100%身元が割れると考えてください。
当ブログへの書き込みは匿名でもかまいませんので、
次からは学生などと名乗らずに、ある水産庁OBとでも名乗ってください。

内容については、真摯に受け止めるべき点もあると思うので、返事を書きます。

机上の空論だというなら、どのあたりが非現実的かを示してください。
また、漁村文化、現状、現場、漁村で暮らす人々の生活を考慮するとどうなるのでしょうか。
漁業者が喜ぶから、好きなだけ獲らせてあげましょうでは、
資源は減少し、値崩れによって利益は出ません。
それを30年続けてきて、漁業は悪くなるだけではありませんか。

>現状、現場、漁村で暮らす人々の生活を無視した、机上の政策論争のように思います。
>互いを非難し否定しあっているなんて、ばかみたいです。
>学生でももう少しまともに話し合えるのではないですか?

この指摘はもっともだと思います。本当に馬鹿みたいです。
漁業者、加工業者に話を聴くと、「行政官も研究者も漁業の現場のことは何もわかっていない」と言います。
現場から離れたもの同士が、互いを非難し否定しあっても仕方がありませんね。

また、私だって、最初から、水産庁の批判をしていたわけではありません。
今と同じようなことを、何年もソフトに主張してきました。でも、何も変わりませんでした。
数人の鼻がきく行政官が「言い訳」の準備をしただけです。
北海道の日本海側のスケトウダラが減少し、全く歯止めがかかっていません。
ニシンに続き、スケトウダラも崩壊したら、北海道の日本海側は危機的な状況になります。
マイワシは史上最低水準でなお強い漁獲にさらされているし、
サバの回復の芽をつみ、日本市場はノルウェーサバに席巻されています。
漁業者も、行政も、研究者も、徐々に変化をしていますが、現状ではあまりにも遅すぎます。
こういう状況で私に残された選択肢は外圧となり、変わらざるを得ない状況を作ることのみでした。

水産という閉鎖社会のなかで、一研究者が、役所や業界団体を批判するのは、容易なことではありません。
おもしろ半分にできることではなく、将来のキャリアを投げ出す覚悟でやってきました。
欧米のように、行政官が研究者の意見を尊重していれば、こんなことはしないですんだのです。
批判される側にはおもしろくないと思いますが、仕方がないことです。

ただ、予想以上に発言の影響が大きくなってしまったので、様々な弊害も出てきています。
私の目的は、漁業を破壊することではなく、漁業を改善することですので、
今後は方向転換を図っていこうと考えています。

>今後は現状認識を確認していくというお話があったようなので、
>そういうところから協力して水産業のためになる政策が生み出されることを期待しております。

「水産業のためになる政策が生み出されること」というのは、全く同感です。
そのためには、漁業者、行政官、研究者が、漁業の問題点やその対策を、
自由に議論をできる場ができるとよいですね。

現実に苦しんでいる漁業関係者がたくさんいます。
どうやったら、漁業の危機的状況を打開できるかという観点から、アドバイスをいただければ、
取り入れられるところは取り入れて、真摯に対応していきたいと思います。

あと、メディア利用ですが、個別漁獲枠の説明にはテレビの動画が一番わかりやすいので使いました。
ただ、最後の水産庁の部分は余計でしたね。配慮を欠いていたかもしれません。

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from 18 Mar. 2009

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