- 2009-04-06 (月) 16:28
- ニュージーランド | 水産庁のNZレポート | 研究 | 資源管理反対派
NZでは、資源が悪化しているものが多い
水産庁は、NZでは資源が悪化しているものが多いと指摘しているが、これは事実に反している。NZの資源評価の結果は下の表のようになる。NZでは、資源がMSY水準よりも上かどうかで、資源状態を判断している。いくつかのカテゴリーがあるのだが、MSY以上とMSY未満で、ざっくり分けてみよう。
状態 | Condition | 数(176) |
不明 | Unknown | 98 |
OK | Yes1 | 21 |
ほとんど利用されず | Yes2 | 7 |
たぶんOK | Probably | 16 |
OKだとおもう | Possibly | 14 |
たぶんNO | Probablynot | 4 |
NO | No | 16 |
資源評価が行われている資源に関しては、MSY水準以上が58系群に対して、MSY水準未満が20系群という結果であった。資源評価している系群の 75%はMSY水準以上が維持できている。75%という数字は、世界的に見ても立派なものだ。「資源評価が行われている主要魚種についても資源が悪化しているものが多い」という水産庁レポートは事実誤認である。
「不明というのは、定量的な解析をしていないだけで、持続的に利用されていないことを意味するものではない。定量的な資源評価が出来ない場合も、様々な指 標を用いて、漁業の健全性を評価出来るように取り組んでいる」のである。NZは生態系管理の一貫として、漁獲ターゲット以外も資源管理の対象としている。 その大部分は生態的な情報がほとんど無い。これらの種に関しては、予防的アプローチに基づき漁獲量に上限を設けて、混獲抑制のインセンティブを与えてい る。また、漁獲量・CPUEなどのトレンドをモニターし、問題がありそうなら、調査を行うようだ。NZの漁業省は、日本よりも二桁小さい予算で、本当に良 くやっていると思う。
日本との比較
日本で良く引き合いに出されるのは、水研センターの資源動向調査だ。
ここで、低位とか、高位とか言うのは、過去15年の漁獲量の相対的なトレンドである。すでに乱獲が進行した90年代から、多くの資源の漁獲量が減少傾向であることを示している。MSY水準(資源の持続的に有効利用できる資源水準)を基準としているNZの資源評価は、資源が持続的に有効利用されているかどうかが一目でわかる。一方、日本の評価は資源が減ればそれだけ基準も下がってしまう。日本の「中位」資源は、90年代から、あまり減っていないと言うだけの話であり、有効利用されているかどうかは、基準年の資源量次第と言うことになる。資源評価の質に関して言うと、資源管理のパフォーマンスが一目でわかるNZの方が格段に上である。
また、漁獲量が減っていないからといって、資源が増加したとは限らない点にも注意が必要である。漁船の能力は年々向上している。漁探やソナーは年々、高性能化し、低水準の魚をこうりつてきに漁獲できるようになっている。漁労技術の革新によって、漁船の漁獲能力は、毎年、向上する。これをTechnological capacity creepとよぶ。(日本語訳はないとおもうが、「技術革新による漁獲努力量の漸増」というニュアンス)。Technological capacity creepは、大体、年間3%程度と言われている。15年で、漁獲能力は1.55倍に増える計算になる。これらの補正をいれると、この評価はさらに下方修正される。
結論
NZの資源のほとんどは、MSY水準以上に維持されている。世界的に見ても、極めて乱獲が少ないと言える。資源が悪化しているのは、むしろ日本の方である。
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