- 2009-12-15 (火) 11:17
- 資源管理の歴史
なぜ入口管理は機能しないのか? その1の続きです
入口管理の失敗の歴史を振り返ってみよう。入り口管理は、一般的に、ライセンス制度→エフォートコントロール→テクニカル・コントロールの順番に進んでいく。そして、結局は思ったような効果が得られず、出口規制が導入されることになるのである。
1)ライセンス制度の導入(Limited Entry)
1960年代ぐらいから、漁業国の多くは、自由参入による過剰な漁獲圧を防ぐことを目的に、ライセンス制度の導入を始めた。ライセンスを持たない人間は、漁業から排除された。ライセンス制度によって、漁業者の数を制限することが可能になった。しかし、そもそも、漁業者が多すぎた上に、個々の漁業者が漁獲能力を増強させたために、ライセンス制度のみでは、何の抑制効果も得られなかった。
2)エフォート・コントロール
次のステップとして、出漁日数等のエフォート・コントロールが導入された。しかし、これらの取り組みはほとんど機能しなかった。絶え間ない技術革新によって、漁船の能力が飛躍的に向上したからである。出漁時間・日数が限られると、漁業者は短期間により多くの魚を漁獲をするために、設備投資を行う。早どり競争が激化し、結果として、漁獲能力がさらに押し上げられる。
漁船の性能は日進月歩である。出漁隻数や、出漁日数を制限したところで、個々の漁船の能力が急激に進化すれば、元の黙阿弥である。漁船の能力は、船の大き さ、エンジンの馬力、漁具の種類、魚群探知機などの電子機器、漁労長の能力など様々な要因に左右される。新しい漁具漁法の開発によって、漁船の漁獲能力は 年々向上している。これをTechnology Creepと呼ぶ。豪州で漁船の漁獲能力の増加を定量化したところ、年間3~5%程度であった。最近はソナーの登場によって、漁獲能力が一気に跳ね上がっ た。
例えば、マグロの一本釣りで有名な大間では、マグロの漁獲量は安定しているのだが、ソナーをつけた船が釣果を伸ばす一方で、ソナーが無い船はほとんど 釣ることが出来ない状態が続いている。大間に来遊するマグロの群れは年々減少しているのだが、低水準資源を効率的に漁獲するテクノロジーの進化によって、 漁獲量を維持しているのである。
3)テクニカル・コントロール
そこで、漁船のサイズ、エンジン、漁具、漁法、など漁獲努力量に影響を与える要因を細かく規制するテクニカル・コントロールが導入することになった。しかし、これも十分な効果を上げることが出来なかった。漁業者はルールの下で、漁獲を増やすように工夫をするからである。
以前は、漁船を見ればその国の規制がわかると言われていた。欧州は船の長さを制限したので、コロコロと丸い船体になった(写真)。一方、日本はトン数を制限したので、居住空間を極限まで切り詰めている。結果として、日本の漁船は、船室の屋根が、腰の高さまでしか無い場合も多い。漁業者は常に規制の影響を最小にするように工夫をする。その結果、規制は当初考えられていたような効果を得ることが出来ない。また、規制に適応するために無駄なコストがかかる。船体を丸くすれば燃費が悪くなるし、住居スペースが狭くなれば、労働環境が悪くなる。思ったような効果が得られないばかりか、漁業の生産性を損なうことになる。
テクニカル・コントロールは、効果がない割に、規制を守らせるのが難しいという問題もある。日本では、漁船のエンジンの馬力や、集魚灯の光量に規制を設けているが、あまり遵守されていないのが実情である。漁船の検査が終われば、エンジンを載せ替えたり、不正はいくらでも出来る。入り口規制で、漁獲圧をコントロールしようという試みは、終わることのないイタチごっこであった。
テクニカルコントロールは、徒競走を障害物競走にしたようなものであった。障害物の数を増やしたところで、漁業は障害に対して適応し、漁獲を増やしていく。漁業者に余計なコストを課すだけで資源は守れなかったのである。
1960年代、1970年代は、世界の漁業管理の中心は、入口規制であった。しかし、入口規制は、漁業者のより多く獲りたいという欲求の前には無力であった。食材をローファットに変えたところで、食べる量が増えていけば、ダイエットには成らないのである。量を規制するしかないというのが、世界の共通認識となっている。出口規制で総量をコントロールした上で、混獲を減らすためにテクニカルコントロールを併用するというのが、今日では一般的なアプローチである。
もちろん、全てのものには例外がある。欧州では、出漁日数を漁船べつに割り振るIEQ(Individual Effort Quota)が成功を収めている例もある。ただ、この方法が機能するのは、EUがITQを選んだ理由でも書いたように、努力量と漁獲量が強い相関を持つ場合、すなわち、船や漁具の規格化が可能な小規模な漁業に限定されるでしょう。また、そういう漁業でも、ソナーのような道具が入ると、努力量当たりの漁獲量が跳ね上がることはあり得る話なので、漁獲量のモニターは必要でしょうね。
つぎは、出口管理のことを書きます(つづく)
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