クロマグロの交渉決裂の本質

2026年7月14日に、クロマグロの漁獲規制について議論をするWCPFCの北小委員会(NC22)にて、合意が得られず、漁獲枠設定についても、漁獲枠を決めるルールについても合意ができなかった。

厳密には、クロマグロをめぐる実質的な交渉は、NC22に先立って開かれた第11回IATTC・WCPFC北小委員会合同作業部会(JWG11)で行われた。NC22はその結果を受け取る位置づけである。JWG11では長期漁獲戦略について合意できず、管理手続の導入は2028年以降に持ち越された。

これまでは、クロマグロが危機的な状況にあるという認識が各国で共有されていた。まずは資源を回復させなければならないという共通目標があったため、各国は同じ方向を向くことができた。そのなかでは、日本が自国に有利な条件を求めても、ある程度は曖昧なまま合意する余地があった。

しかし、クロマグロ資源が回復し、増加した漁獲枠をどのように配分するかという段階に入ったことで、交渉の性質は変わった。各国は資源回復という共通目標よりも、自国の取り分を増やすことを優先するようになったので、足並みが乱れたのだ。今回の決裂は、交渉が資源回復をめぐる協調から、回復の利益をめぐる配分交渉へと移行したことを示している。


① 東太平洋と西太平洋の対立

増枠を東西にどう配分するか

最大の争点は、資源回復によって増える漁獲枠を、東太平洋と西太平洋の間でどう配分するかであった。

日本は、現行の影響比率である「西82:東18」を基本的に維持するHCR17を支持した。これに対し、米国とメキシコは、将来的に「西70:東30」へ近づけるHCR18を支持した。

最終局面では、メキシコが初年度から「西75:東25」とするよう求めたと日本側は説明している。日本は、82:18から一年で75:25へ変更するのは急激で、沿岸漁業には受け入れられないと反発した。

西太平洋側は、現在の配分には産卵場、EEZ、海岸線、漁業者数、歴史的漁獲実績が反映されていると主張する。これに対し、東太平洋側は、過去の配分を固定せず、資源回復後の増加分を東側にもより多く配分すべきだと主張した。

表面上は漁獲制御ルールの選択であるが、実質は、回復した資源の増加分を東西のどちらが取得するかという配分交渉であった。

東西間では、小型魚枠を大型魚枠へ振り替える換算制度も争点となった。メキシコは、西太平洋だけに制度があるのは不公平だとして廃止を求めたが、日本と韓国は、係数を見直しつつ制度を維持すべきだと主張した。

また、日本と韓国は、米国の遊漁による死亡量も管理対象に明確に含めるよう求めた。

このような分断対立は今回の会議で突然生じたものではない。少なくとも2024年のIATTC・WCPFC北小委員会合同作業部会では、東部太平洋各国の歴史的漁獲を踏まえ、東西の配分比率そのものを見直すという主張がなされている。

② 東太平洋内の対立

メキシコの商業漁業と米国の商業・遊漁

今回、メキシコと米国が正面から対立したわけではない。両国は東太平洋の取り分を増やすHCR18を支持し、東西対立では同じ側に立った。

ただし、東太平洋の枠が拡大すれば、その枠をメキシコと米国の間でどう分けるかという問題が生じる。

メキシコ漁業の中心は、自国EEZ内のまき網漁業である。2025年の商業漁獲量は6,108トンで、単年上限の6,296トンに近い。メキシコは、自国が東太平洋で大量に漁獲し、全まき網船にオブザーバーと監督官を配置していることを強調した。東側の増加分は、実際に漁獲し管理しているメキシコに多く配分されるべきだという論理である。

一方、米国では商業漁業に加えて遊漁の比重が大きい。米国は日次や航海当たりの制限を設けているが、商業漁業と同様の総量上限は設けていない。日本と韓国は、この遊漁による死亡量や管理の実効性を問題視した。

今後は、東側の増加分をメキシコの商業まき網、米国の商業漁業、米国の遊漁にどう配分するかが争点となる。また、未消化枠の繰越率や、漁獲実績と沿岸国の権利をどう評価するかも問題になる。

つまり、東太平洋内の対立は今回は潜在的なものにとどまったが、東側の枠が増えれば表面化する可能性が高い。

③ 西太平洋内の対立

日本中心の既存配分を維持するか

西太平洋内部で最も明確だったのは、日本と韓国の対立である。

韓国は、現在の国別枠が主に2002~2004年の漁獲実績に基づいており、その後の資源分布や漁業構造の変化を反映していないと主張した。既存枠に一律の増加率を掛ければ、もともとの配分が大きい日本が増加分の多くを取得し、格差がさらに拡大する。

韓国は妥協案として、既存枠には手を付けず、今後増える大型魚枠を日本、韓国、台湾で等分することを提案した。また、2028年までに、歴史的漁獲量だけでなく、現在の資源分布、沿岸国の権利、管理への貢献も含めて配分を見直すよう求めた。

日本は、現行配分には広いEEZ、主要産卵場、長い海岸線、多数の沿岸漁業者、歴史的漁獲実績が反映されており、不公平ではないと反論した。また、韓国のまき網漁獲は以前は混獲と説明されており、後から対象漁業化したことを理由に大幅な再配分を認めるべきではないと主張した。

韓国は、約10年前からクロマグロを対象とする管理漁業に移行し、漁船や定置網の削減も行ってきたと反論した。さらに、資源分布の変化によって自国沿岸で避けられない漁獲が増えているのに、国別枠が固定されていることを問題視した。

両国の対立は配分だけではない。韓国は、日本の定置網での放流数の信頼性を追及した。日本は、再捕獲や生存魚の計数が難しく、推定値の信頼性が低いと認めた。一方、日本は、韓国で大量のクロマグロが投棄され、家畜飼料に回された事案や、遊漁管理を問題にした。

西太平洋内では、歴史的実績を既得権として維持するのか、現在の資源分布や管理負担を反映して再配分するのかが争われている。その背景には、各国の漁獲、放流、投棄データに対する相互不信もある。

三つの対立軸

今回の対立は、次の三層に整理できる。

  • 東西対立:太平洋全体の増加枠を、西太平洋と東太平洋の間でどう分けるか
  • 東太平洋内部:メキシコの商業漁業と、米国の商業・遊漁にどう分けるか
  • 西太平洋内部:日本中心の歴史的配分を維持するか、韓国や台湾へ増加分を再配分するか

今回の決裂を直接引き起こしたのは、第一の東西配分問題である。しかし、その背後では、東西それぞれの内部でも配分対立が進んでいる。

したがって、東西比率について妥協が成立しても、それで問題が解決するわけではない。次には、それぞれの地域内で、誰が増加分を得るのかという対立が表面化する。

今後の展望

メキシコ交渉について

水産庁は、メキシコが突然のめない要求を出してきたとして非難している。しかし、交渉フェーズが変わり、①~③のような対立構図が浮上している以上、こうした事態は当然想定しておくべきだった。

今回の決裂によって、太平洋クロマグロの国際交渉は新しい段階に入ったといえる。漁獲枠は各国の経済的利益に直結するため、どの国も自国の取り分を最大化しようとする。相手に一方的に譲歩するインセンティブは乏しい。

これまで日本は、自国に不利な配分問題を正面から議論せず、従来の比率を事実上の前提として交渉を進めることができた。しかし今回、メキシコは、その前提を受け入れず、合意そのものを拒んだ。これは、日本に都合の悪い論点を曖昧にしたまま、自国に有利な形で合意をまとめるという交渉手法が、もはや通用しなくなったことを示している。

日本が自国の権益を守るには、交渉方針の転換が必要だ。具体的には、他国間の分断を利用しつつ、自国の利益を確保するという、より高度な交渉スタンスへの切り替えが求められる。

韓国との定置網問題について

日本は、韓国の定置網における小型魚の水揚げを非難した。これに対し韓国からは、日本側の定置網における混獲死亡モニタリングの不備を指摘された。

同じ定置網を持つ国同士であるため、互いの弱点は把握しているだろう。しかし、国際会議でこうした対立的な議論を繰り広げることは、定置網を持たない他国を利するだけである。交渉戦略そのものの見直しが必要だ。

 

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