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世界の漁業 Archive

Hoki Story その3

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資源状態

東と西を合計した親漁量はこんな感じ。ここ20年程度、減少が続いているが、これは資源管理が機能していなかったからではない。この資源は、1970年代はほとんど利用されていなかった。NZ政府は、未開発時の資源量を100%とした場合の40-50%の水準をMSY水準と定義している。NZ政府は、図中に赤で示したMSY水準まで徐々に資源を減らした後に、その水準を維持するつもりだったのだ。アンラッキーなことに、資源がMSY水準に近づいた1995年以降、卵の生き残りが悪い年が続き、予想以上に資源が減少してしまった。

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新規加入量の時系列はこんな感じ。1995年から2000年まで、新規加入が低調であった。資源量がMSY水準に近づいてきたので、そろそろブレーキをかけようとしたら、資源の生産力が減少し、MSY水準を下回ってしまったのだ。

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漁獲量

漁獲量(緑線)とTACC(*)の時系列はこんな感じになる。1985から2000まで、15年かけて、じわじわとMSY水準まで、資源を減少させた。MSY水準に達した後は、すぐにTACCを削減し漁獲にブレーキをかけている。ただ、残念なことに1995-2000の間の加入の失敗により、漁獲枠を削減した後も資源は減ってしまった。そこで、よりきつくブレーキを踏んだのである。現在は資源が回復に向かっていることから、漁獲枠を徐々に増やしていくフェーズに入っている。政府は13万トンまで増やそうとしたのだが、業界は猛反発。MSY水準に回復するまでは、漁獲枠を控えめにすべきであると、漁業者が主張をしたのだ。結局、政府は当初の予定よりも1万トン少ない12万トンの漁獲枠にした。最新の情報では、今年度は資源の更なる回復が確認されたことから、政府は1万トンの増枠を提案し、業界もこれを受け入れる見通しとのこと。

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トロール調査

チャタムライズでは、調査船によるトロール調査が行われ、Hoki, Warehou, Ling, Black oreoなどの底魚の資源量を調査している。

ステーションはこんなかんじ。海区を水深や底質の生態特性で層別化した上で、全体図を把握できるようにデザインされている。

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トロール調査によって推定されたHoki(+3)の資源量はこんな感じ。低めで安定はしているが、NZとしてはもう一段階回復させたいようだ。

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トロール調査で得られたHokiの分布の時系列はこんな感じ。再近年は、底は脱したが、90年代と比較すると低水準である。

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音響調査

NZ政府は、精力的に音響調査を行い、資源の把握に努めている。毎年、Hokiの産卵期には、短期間のうちに複数回のスナップショットを獲っている。
計量魚探を使って、定線を走るとこんな絵が描ける。

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魚探の反応の中から、Hokiと思われるものを抜き出し、Hokiの反射強度(ターゲットストレングス)をつかって、資源量を推定する。この作業を全ての定線で行うと、1枚のスナップショットができる。NZ政府は、産卵期をすべてカバーできるように、毎年5~7枚のスナップショットを作成している。たとえば、2006年はこんなかんじ。

The 2006 acoustic survey of spawning hoki abundance in Cook Strait was carried out on Kaharoa from 19 July to 29 August 2006. Seven snapshots were completed, with good coverage of the spawning season.

この時期のクック海峡はいつでも大荒れで、「300トンの船が、木の葉のように波に翻弄される」とのこと。そういう状況で、1ヶ月半に7回のスナッ プショットをとるのは、立派である。

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複数のスナップショットを組み合わせて、産卵場に来遊した親魚の量をブートストラップで推定をするとこんな感じになる。

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重要資源であり、資源的にも注意が必要なHokiに対しては、出し惜しみをせずに精力的に調査をしている。NZの漁業省の予算は非常に限られている。また、業界の負担が重いだけに、無駄な出費は厳しく批判される。調査計画も(良い意味で)流動的であり、必要な場所に、重点的に投資をしていることがわかる。

で、本当のところはどうなのか?

「漁獲枠は下げておくにこしたことはないのだが、あわてて漁獲枠を半減するような状態なのかなぁ」というのが、俺の率直な感想。資源が本当に減っているのかに関しては、NZ国内でも議論が分かれている。たとえば、西の産卵群を狙った漁業では、過去最高の漁獲を記録したことから、「Hokiは減っていない」としゅちょうする漁業関係者もいる。産卵群は資源量が少なくなるとそれだけ中央に密集する傾向がある。産卵群狙いの漁業で過去最高のCPUEが記録されたとしても、資源が多いとは限らない。漁業とは独立したトロール調査と、魚探調査によって、産卵場も生育上をしっかりとおさえているので、NZの資源評価の信頼度は高い。

NZの漁業関係者の一部には、Hokiの漁獲枠をもっと増やすべきだという意見もある。しかし、政府と業界の「我慢をして、MSY水準まで素早く回復させよう」という声が勝ったのである。NZの業界は、俺よりも持続性に対する意識が高いと言うことだね。「ある指標を見れば資源は減っていないように見えるが、別の指標で見ると資源が減っているように見える」、というのはよくあること。というか、ほとんどの 資源評価はこういう感じになる。自信をもって高水準と言い切れるのは、80年代のマイワシや、現在のサンマのような、超高水準資源のみだ。逆に、スケトウ ダラ日本海北部系群のように、どこから見ても駄目になったら、資源としては手遅れな場合が多い。資源を持続的に利用するには、玉虫色の状態で、漁獲にブ レーキを踏む必要がある。NZ政府と業界は、悲観的なシナリオを想定しても資源が回復するような漁獲枠を設定した。これはとてもすばらしいことである。

Hokiの漁獲枠の削減は、資源の減少を漁獲枠が追従しているのではない。資源を良好な状態に保つために、政策的に漁獲にブレーキをかけているのである。 網をひけば、いくらでも獲れる状態で、最重要魚種の漁獲枠を厳しく削減するというのは、なかなかできることではない。この漁獲枠の減少こそ、NZの資源管理システムQMSが機能している証に他ならないのだ。ここまで迅速に思い切った行動をとれる国は、そう無いだろう。俺が思うに、NZとノルウェーぐらいではないだろうか。Hokiの漁獲枠が削減されたことをもって、「NZのQMSは資 源管理として機能していない」など主張をする、日本の有識者の不見識にはあきれてしまう。彼らは管理された漁業というものを知らないのだ。まともな漁獲規制がない日本では、漁獲量の減少は資源の減少を意味する。日本で漁獲枠が削減されるのは、資源が減少して、がんばっても獲れなくなってからである。日本の常識に照らし合わせて、「Hokiの漁獲枠の削減→NZの資源管理は機能していない」と考えたのだろうが、あまりに浅はかである。データを見ればわかるように、Hokiは獲り尽くされたのではない。NZは壊滅的な減少を回避するために予防的に漁獲枠を半減させているのである。日本の漁業関係者には、魚がまだ捕れる状態で漁獲枠を減らす国があるなど想像もつかないの だ。

結論

Hokiの情報をまとめてみるとこんな感じ。

  1. 網を引けばいくらでも魚が捕れる
  2. 獲れば獲るだけ、高く売れる
  3. いくつかの指標では、資源が減っていないようにみえる
  4. 資源量としては、MSY水準をわずかに下回った状態

NZ政府の対応はこんな感じ

  1. MSY水準に達した2年後には漁獲枠を削減
  2. その削減では不十分と見るや、すぐに漁獲枠を半減
  3. 資源の回復を確認しながら、徐々に漁獲枠を増枠中

NZの業界の反応

  1. もっと獲っても良いという意見もあるが、慎重派が主流
  2. MSY水準への回復が確認できるまで、漁獲枠を控えめにすべきという意見
  3. 政府の増枠に難色を示し、低めの漁獲枠を採択させる

Hoki Story その2

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まずは、Hokiの生態について、簡単に説明しよう。俺の手元には、NZのホキレポートがある。280ページで、凄い分量だ。漁獲の情報、漁獲の体長・年齢組成、CPUE、トロール調査、ぎょたん調査と、内容もてんこ盛り。ネットにもそれに近い情報があるので、関心があるひとは目を通してほしい。
http://fpcs.fish.govt.nz/science/documents/%5C2008%20FARs%5C08_62_FAR.pdf

この資料は基データに近い情報も多く含まれており、一般人には理解できない部分もあるだろうが、かなりしっかりとした評価をしているのは理解できるとおもう。

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Hoki Story その1

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まずはNZの漁業の大まかな動向を抑えておこう。NZでは、漁業は輸出産業である。輸出金額の推移を見れば、国内の漁業生産を把握できる。

輸出金額は、2000年の1400m$から、2007年の1200m$に減少をしたが、その減少はHokiの減少と一致する。NZの輸出金額は、Hokiをのぞけばほぼ横ばい。2000年には、Hokiがダントツで1位であったのが、2007年には3位まで落ち込んでいる。Hokiは、NZの漁業生産金額に影響を与えるような重要な資源なのだ。

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http://www.fish.govt.nz/en-nz/SOF/ExportEarning.htm?DataDomain=SpeciesGroup&DataCount=10&ChartStyle=Line&text=short

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水産庁のNZレポートを徹底検証する その10

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NZの資源管理システムとて、完璧ではない。今回はMSY水準を下回った25%の資源の内容をみてみよう。

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水産庁のNZレポートを徹底検証する その9

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NZでは、資源が悪化しているものが多い

水産庁は、NZでは資源が悪化しているものが多いと指摘しているが、これは事実に反している。NZの資源評価の結果は下の表のようになる。NZでは、資源がMSY水準よりも上かどうかで、資源状態を判断している。いくつかのカテゴリーがあるのだが、MSY以上とMSY未満で、ざっくり分けてみよう。

状態 Condition 数(176)
不明 Unknown 98
OK Yes1 21
ほとんど利用されず Yes2 7
たぶんOK Probably 16
OKだとおもう Possibly 14
たぶんNO Probablynot 4
NO No 16

資源評価が行われている資源に関しては、MSY水準以上が58系群に対して、MSY水準未満が20系群という結果であった。資源評価している系群の 75%はMSY水準以上が維持できている。75%という数字は、世界的に見ても立派なものだ。「資源評価が行われている主要魚種についても資源が悪化しているものが多い」という水産庁レポートは事実誤認である。

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水産庁のNZレポートを徹底検証する その8

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レポートの右半分にもツッコミをいれてみよう。

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NZでは、ほとんどの魚種で資源評価が行われていない?

ほとんどの魚種で資源評価が行われていないということだが、資源評価の結果は、ここにある。そのままだと全体像がわかりづらいので表にまとめてみた。94魚種、176系群の記載があるが、そのうち、資源状態が不明な者は98資源。約半数が不明であった。約半数は資源評価をしているのに、「ほとんど資源評価がおこなわれていない」というのは、不適切だろう。

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水産庁のNZレポートを徹底検証する その7

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http://www.jfa.maff.go.jp/suisin/yuusiki/dai5kai/siryo_18.pdfのP8

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なんか、まともに読めないんですけど・・・

○TACの推定値は毎年変わるがTACを変更しようとすると苦情や訴訟が提起されるため、基本的にTACが変更されることは少ない

これはITQ導入当初(86-89年)の話だね。ここにも書いたように、NZは最初は絶対量で漁獲枠を配分していた。TACを減らすときは、漁獲枠を漁業者から買い取るつもりだったんだけど、漁業が儲かることがわかった漁業者は政府に漁獲枠を売らなくなってしまった。困ったNZ政府は強引に漁獲枠を下げようとして訴訟になって負けたのだ。1990年にNZ政府は法改正を行い、漁獲枠をTACCに対する比率で設定することにした。90年以降は、政府の裁量で自由にTACCを変化させるようになった。で、実際に必要な場合には漁獲枠をちゃんと削減している。今年もHOKIやOrange RoughlhyのTACCが削減したが、NZ政府関係者に確認したところ、訴訟は起きていないという話だ。

訴訟によって、漁獲枠が変えられなかったのは過去の話であり、この問題はすでに解決済みなのだ。

○ITQは、経済政策としては成功したが、資源管理としては機能していない。

NZは混獲種も含めてITQを導入しているので、資源評価ができていない(していない)種も多い。情報が少ない非漁業対象種にも予防原則から、漁獲枠を設定しているのである。漁業対象種以外に漁獲枠がないほとんどの国に比べれば、非常に進歩的だ。資源評価ができている種については、85%がMSY水準以上という評価が得られている。ほとんどの資源は持続的に有効利用できる水準に維持されているのである。NZは、もっとも厳格な資源管理としている国の一つです。一方、日本は何もしていないに等しいレベル。NZの資源管理も100%ではないが、少なくとも日本とは比較にならないぐらいちゃんとしている。

NZは環境保護団体が強いから、世界最高水準の保護をしていても、国内では漁業省は厳しい非難にさらされている。こういう外圧があるから、高いスタンダードを維持できるという側面もあるだろう。日本のNGOも頑張ってほしいものだ。

○漁獲量が割当量を超過した場合に賦課される罰金は、浜値等よりも低くなることがあり、結果として過剰漁獲を誘発。

これも解決済みの問題。漁獲量が割当量を超過した場合にはDeemed Valueという罰金を払うことになる。いくつかの魚種でDeemed Valueが浜値よりも安く設定されており、モラルの低い漁業者が漁獲枠を無視して水揚げをして利益を上げた。ただ、これはDeemde Valueが導入された初年度のみであり、翌年にはこの穴はふさがれた。NZ政府は、Deemed Valueの設定には細心の注意を払っており、現在もDeemed Valueが乱獲を誘発するようなレベルに設定されている魚種はない。

解決済みの問題をあたかも現在進行中のように見せかけている。情報が古いのか、故意の印象操作なのかは不明だが、もうちょっとまともな資料を使ってほしいと思う。また、このレベルの資料にはツッコミを入れられるような有識者でなければ、集めて議論をさせる意味がないだろう。

我々、日本人は、NZの漁業関係者が、これらの問題を解決していったプロセスに着目し、そこから自己改革の重要性を学ぶべきだろう。

水産庁のNZレポートを徹底検証する その6

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漁村への影響 漁業のみに依存した村は少なく、漁村への影響は考慮せず

漁業に依存した村は存在し、そのいくつかは衰退している。 ウェリントンの北部の漁村は消滅したとか、 そういう話はちゃんと調べればいくつも出てくる。 これは日本の沿岸漁業にとって重要な問題なので、 きちんと論じておく必要があるだろう。 まず、バックグラウンドとして、ITQを導入した当時のNZの状況をおさえておこう。

戦後のニュージーランドは、イギリスを主な貿易相手国とする農産物輸出国として発展し、世界に先駆け高福祉国家となる。しかし、1970年代にイギリスがECの一員としてヨーロッパ市場と結びつきが強まり、ニュージーランドは伝統的農産物市場を失い経済状況は悪化した。さらに、オイルショックが追い打ちをかけた。国民党政権は農業補助政策を維持する一方、鉱工業開発政策を開始するなど財政政策を行うもいずれも失敗し、財政状態はさらに悪化した。 wikipedia

政府による統制経済・補助金行政によって、国の財政が悪化し、80年代には首が回らなくなった。 その結果、国として、補助金行政からの方向転換を余儀なくされたのである。

NZの沿岸漁業は、そもそも生産性が低く、補助金に依存していた。 国が財政破綻した時点で、経済的に成り立たない漁村の運命は決まったのである。 これらの漁村の衰退は、ITQの導入よりむしろ補助金行政の終焉に起因する。

NZでは、ITQの導入に際して、漁獲枠を実績配分した。 今後はオークションに切り替えるようだが、今まで基本的に過去数年の実績ベースで配分してきた。NZの多くの資源を回復させて、それに伴い商業漁獲枠(TACC)が増加した。 NZの漁獲枠は、TACCに対する比率で設定されているので、 TACCの増加に応じて、個々の漁業者の漁獲枠は増加をしたはずだ。 ITQによって、小規模漁業者の権利が剥奪されたという考えは誤りである。 小規模漁業者にも、そこで漁業を続ける権利もあったし、漁獲枠も与えられていた。 にもかかわらず、いくつかの漁村は消滅したのである。 ITQによって小さな漁村がつぶれたのではなく、漁業者が移動をしたのである。いくらITQでもあまりに非経済な漁村を救うことは出来ないのだ。 NZでは国内に魚の需要はあまりない。 国際市場で価値を上げることが、資源の有効利用につながるのである。 交通の便が悪い小規模漁村に水揚げしても、魚に経済価値はつかない。 限られた自然の生産力を、経済的に有効利用するには、 むしろ、空港や加工場へのアクセスが良い場所に水揚げすべきである。 たとえば、サンフォード社の魚市場は、オークランド中央部から車で10分ほどの場所にあり、 空港へのアクセスも良い。この魚市場は、小規模漁業者からも魚を買い取っている。 こういう場所に水揚げすれば、安い国内価格ではなく、適正な国際価格で買い取ってもらえる。 労働力の移動が起こるのは当然だろう。 遠隔地で水揚げされた魚は、移動のコストがかかるので、必然的に地産地消になる。 人が生きていくには、魚以外のものも必要だ。 漁業しか産業がないような場所で、地産地消しかできない漁村は、 輸入だけをする国のようなもので、経済的に成り立たない。 遠隔地の漁村で地産地消というのは、構造的に破綻しているのだ。

例外は、観光地など、地元での水産物消費で外貨が稼げる場合のみだろう。 遠隔地地産地消漁業は経済的に成り立たず、維持するには、公的資金が必要になる。 その価値はどこにあるのだろうか? 地産地消の漁村を維持したところで、外部の人間には何のリターンもない。 むろん、国益上重要な漁村も存在する。離島の漁村は、国防上、実に重要である。 これらの漁村を維持するための離島政策をNZ政府はきちんと実施している。 NZを代表する離島としては、チャタム島がある。 この島は、アワビの名産地で、毎年、シーズンになると大勢の漁業者が飛行機に乗ってやってくる。 この島の漁獲枠は、公的機関が運営していて、漁業の収益は地方自治体に入る。 漁業からの税収で、学校や病院を建てることができたそうである。 離島の魚の利益が、その地域に入る仕組みをつくることで、地域経済を維持しているのだ。 地域コミュニティーを維持する手段として、漁獲枠を地域に与えるのは有効であろう。 では、日本の離島はどうかというと、まるで駄目。 小松さんがいろいろと計算していたのだけど、日本のEEZの8割は離島の存在による。 しかし、離島に水揚げされる水産物はごくわずかに過ぎない。 離島によって得たEEZの漁獲のほとんどは本州の港に水揚げされ、離島の経済に全く寄与しない。 俺には、今の日本の漁業システムが、遠隔地の漁村の維持に適切だとは思わない。 声が大きな地域に、場当たり的にあめ玉を配っているだけじゃないか。 「漁村の存在」を理由に、資源管理に反対する人間は多いのだが、 肝心な「漁村をどのように維持するか」という戦略は皆無であり、 本気で漁村のことを考えているとは思えない。 NZの経験は、実に示唆に富むものである。 まず、漁業の経済性を向上させ、持続的に利益が出せるようにする。 その上で、国益上重要な地域を特定し、その地域を漁業で維持できるような仕組みを導入する。 実に、合理的ではないか。 米国もITQの導入を進めているが、管理システムのなかで「地域への配分」というのが、 かなりのウェイトをしめるものになりそうだ。後だしジャンケンだけに、米国はよく研究している。

水産庁のNZレポートを徹底検証する その5

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漁船の減少

ITQの導入以降、NZの漁船数は4割減少した。
減少の大半は10m未満の小型船である。
一方、40m以上の中型船・大型船の数は倍増していいるので、漁業者の減少は1割であった。
漁船の総トン数は、むしろ増えているかもしれない。

日本の漁船数は3割減少である。
特に大型の漁船ほど、減少率が大きいことがわかる。

NZ
 

<10m
10~40m
40-70m
70m>
total
1988 2137 1060 123 88 3408
2001 940 880 190 166 2176
日本
 

<5t
5-200t
200-500t
500t>
total
1988 131948 28822 1378 57 162205
2001 94976 25037 807 12 120832

NZの漁船数の減少は、漁業の衰退ではなく、大型化・効率化という産業構造の変化である。
ITQ導入当時は、沿岸資源が乱獲により疲弊していたので、
小型漁船の減少はITQが理由とはいえないだろう。
何もしなければ小型船はもっと減っていたはずだ。

一方、日本の漁船は全てのサイズクラスで減少しているが、
特に、大型船ほど減少率が激しい。
日本の漁船の減少は、産業の衰退、弱体化の表れである。
また、日本の小型漁船の減少率が低いのは、
年金生活の60歳以上の人間が漁業にとどまっているからである。
企業だったらとっくに倒産しているような状態である。

漁民であるか否かにかかわらず、経済活動の一環として割当てに対する投資が行われており、割当ての集中が継続

割り当ての集中があるのは事実。また、外部からの投資もある。

トップ10企業による漁獲枠の保持率
 1987:   67%
 1999:   82%

そもそも、ニュージーランドは、政策的にこの方向を目指していたのだ。
ニュージーランドをはじめとする多くの漁業国は、大企業かを国策として進めている。
世界の水産市場で勝負するためには、効率的な経営戦略が要求されるからだ。
大企業化のスケールメリットと、漁獲枠取引の自由化による外部資金調達によって、
国際競争力を高めようという戦略なのだ。

NZの割り当ての集中や、外部からの投資は、制度設計によるものである。
日本はこれらを望まないのであれば、そうならないITQの制度設計をすればよい。
漁獲枠保有の上限を下げるだとか、地域(漁協)に譲渡不可能な枠を一定量を配分しするとか、
いくらでもやり方はあるはずだ。

水産庁のNZレポートを徹底検証する その4

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漁業者数、漁船数ともに減少

水産庁&御用学者は、「ITQをやると漁業者が激減する」と脅しをかけている。
でも、ITQで実際にどの程度漁業者が減ったという具体的なデータは示さない。
「漁業者の数はかなり減少したということでございます」とあたかも資源管理によって漁業者が減ったかのように説明しているが、
実際にITQの導入でNZの漁業者がどれぐらい減ったのかを見てみよう。

下の図は、NZがITQを導入した1986年から2000までの漁業者数を比較すると、
日本が4割減少でNZは1割減少。ITQを導入していない日本の方が明らかに減っているんですが・・・
Image0903012.png

もう一つ、おもしろいデータを示しておこう。
漁業に携わっているのは漁業者だけではない。
加工もまた、漁業による雇用である。
NZの漁業者と加工業者の合計はこんな感じ。
加工も含めれば、NZ漁業の雇用は増えているのだ。

Image0903011.png

人間の漁獲能力が自然の生産力を遙かに超えている現状では、
魚を捕る人間はそれほど必要ではない。
過剰な漁業者は、資源を持続的に利用していく際のリスクでしかないのだ。
漁業を成長させる鍵は、自然の生産力をいかに高く売るかである。
上の図からわかるように、NZの漁業は全体の雇用を増やすと同時に、
過剰な漁獲分野から、必要な加工分野へと労働者が移動することで、
「多く獲る漁業」から、「高く売る漁業」へと、産業構造が変化した。
資源管理は、単に魚を守るというレベルの話ではない。
ITQは漁業者のインセンティブ(動機付け)を変え、
持続的な産業構造への自己改変を可能にするのだ。

乱獲を放置している日本では、漁業生産は下り坂だから、
加工・流通も、漁業者と同じかそれ以上に減少している。
何もしなければ、10年後には流通業者は半分以下になりそうな勢いである。

日本の漁業者は60歳以上が大半で、50代が「若手」という浜もある。
沖合い漁船の乗組員は、インドネシア研修生に置き換わっている。
沿岸も沖合も、新規加入が途絶えて、縮小再生産にすらなっていないのである。
ITQを入れようが何をしようが今後も確実に漁業者は減る。
このまま何もしなければ、あっという間に半分以下になるだろう。

資源管理をしなければ、漁業は産業として成り立たず、雇用が減少する。
漁業者を減らすためにもっとも有効な手段は、資源管理をしないことだ。
逆に、漁業者の減少を食い止めるために必要なことは、
適切な資源管理による漁業生産額の安定である。
そのためにITQが有効な手段であると言うことはNZの事例からも明らかである。

「漁業者の数はかなり減少したということでございます」などと印象操作をせずに、
日本漁業の危機的状況を認めた上で、漁業の雇用を増加させたNZから謙虚に学ぶべきである。

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