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研究 Archive
海に放出された放射性物質の行方を考える
- 2011-04-12 (火)
- 放射能
海に廃棄された放射性物質には、大きく2つの経路が考えられます。
1)外向きの海流に取り込まれて、遠ざかっていく
2)沿岸流に取り込まれ、沿岸沿いをじわじわ広がる
1)外向きの海流
放射性物質を含む海水が、外向きの海流に取り込まれると、太平洋の真ん中へと流されていきます。その過程で周りの海水と混ざって、どんどん薄まっていきます。この外側の流れに相当する部分を、JAMSTECが、30Km沖合で計測しています。30km離れた時点で、すでに排水の基準値を下回っているので、このまま移流・拡散していくと、いずれは生物に影響がない(軽微な)濃度まで薄まるでしょう。それに希釈に要する時間は、拡散係数と初期濃度によって決まります。
2)沿岸流
放射性物質を含む海水が、外側の流れに乗らずに、沿岸を滞留する場合、沿岸をゆっくりと移動します。排水が続けば、放射性物質は、じわじわと周りにしみ出していきます。この場合、沈降した放射性物質が底質にトラップされたり、海草類に取り込まれたりして、汚染が長期化する可能性があります。また、周りの海水と温度が違う水塊を形成した場合には、長期間濃度を維持したまま、移動する可能性もあります。
まとめ
現状では、海の生態系にどの程度の影響があるかは不明です。ます、廃棄された放射性物質の総量がわかりません。また、廃棄された放射性物質のうち、どの程度が沿岸に留まり、どの程度が沖合に流出したかもわかっていません。
まずは、流出を止めることです。流出さえ止まれば、外洋の放射性物質が薄まって、検出できなくなるのは時間の問題でしょう。一方、沿岸域は、汚染が長期化する可能性があります。どの程度の範囲が汚染されたかは現状ではわかりません。
イギリスのセラフィールドの核兵器再生工場から、大量の放射性物質が海に廃棄されました。これらの放射性物質は今も土壌からも、魚や貝からも検出されています。こう言ったことが、福島沿岸でも起こっているかどうかを調べるために、流出が止まった後に、大規模な沿岸生態系の調査が必要です。
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放射性セシウムの海洋汚染が人体に及ぼす影響を数理モデルで試算してみた
福島原発から、放射性のセシウムが海水に漏れ出しています。その濃度は、基準値の350倍にも達しているようです。このまま放射性物質の漏洩が続くと、魚が汚染されて、それを食べた人間が被曝する危険性があります。汚染された魚を食べ続けると、どの程度の被曝を受けるのかを、単純なモデルで、乱暴に計算してみました。
データ・モデル
パラメータの値や、計算内容は、このワークシートを参照して下さい。
魚のセシウム137の生物学的半減期 50[日](ソース)
1日経過後のセシウムの残留率:0.5^(1/50)=0.986
毎日、1.4%ぐらいのセシウムが、体の外に出て行く。
生物濃縮係数 50(環境の50倍まで濃縮される)(ソース)
体に取り込む量は、海水のセシウム濃度X [Bq/L]に比例すると仮定し、その係数をdとする。魚の体内のセシウムの濃度が、環境濃度Xの50倍になったときに、摂取量と排出量が釣り合うことになる。よって、次式から、dを求めることができる。
体内に取り込む量=排出する量
d*X=(1-0.986)*50*X
d=(1-0.986)*50=0.688
n日目の魚の汚染F(n) [Bq/L]は、次の式で表現できる。
F(n+1)=F(n)*0.986+d*X(n)
F(0)=0
日本人は、平均すると1日にちに82.3gの水産物を食べる(ソース)ので、魚を食べることによる人間の被曝量 H(n) [Bq]は次式になる。
H(n)=0.0823*F(n)
Cs137の内部被曝[Bq]をすっかりおなじみのシーベルトに換算することができるようだ。Bq/SVの変換係数は1.3*10^-8(ソース)なので、1日の被曝量をSVに換算すると次のようになる。(注意:内部被曝と外部被曝は、単純に変換できないという意見もあるようです)
dSV(n)=1.3*10^-8*H(n)
シミュレーション
汚染シナリオ:最初の1年は1000Bq/Lの環境。1年過ぎたら、水が綺麗になる。
魚の汚染
魚の汚染は最初は早いが、汚染が進むにつれて、増加が鈍り、環境の50倍程度の濃度に収束する。汚染が収まった後は、50日に半分の割合で減少していく。
人間の被曝量
5万Bq/kgの魚が、市場にでる可能性はまず無いと思うけれど、汚染された海域の魚を何も考えずに食べ続けるた場合の被曝量を試算してみた。一年半後にはほぼ頭打ちになり、だいたい20mSV程度の被曝になる。もちろん、汚染の濃度や期間が変われば、この数値は大きく変わってくるので、あくまで参考ですよ。「このパラメータやシナリオでは甘い」という人は、エクセル形式でダウンロードして、いろいろいじってみて下さい。
ちなみに、国の基準値の500Bq/kgの魚を、平均的な日本人の摂取量だけ食べつづけると、0.2mSV/yearの被曝になります。
被曝量の安全性は、こういった情報を参考にして、判断してください。
http://www.bbc.co.uk/news/health-12722435
パラメータやモデルに間違いがありましたら、コメント等で指摘していただけると助かります。
4/3追記
誤解無きように書いておきますと、このモデルは、将来の影響を予言するのが目的ではありません。今後の海の汚染がどの程度まで進むかは、現状では全くわかりません。
計算の結果としてでてくる値よりも、むしろ、定性的な挙動に着目してください。海水の汚染が終わってから、何年も魚の汚染が高止まりすることはありません。一度汚染された海域の魚は、半永久的に食べられないという訳ではないのです。一方で、「セシウムは魚に蓄積されないので、汚染にさらされても問題が無い」というのも誤りであることがわかります。ひとたびレベルが上がれば、数ヶ月は影響が残ります。汚染が収まって半年経ってから、魚を食べ始めれば、水産物経由の被曝はかなりの部分防げます。そういうことを感覚的にイメージする道具として、使ってもらえると、ありがたいです。
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水産物に関連する放射能測定データの所在
JAMSTEC白鳳丸の沖合30kmの計測データ(文科省)
http://www.mext.go.jp/a_menu/saigaijohou/syousai/1304148.htm
東京電力の沿岸海水データ
福島第一原子力発電所付近の海水からの放射性物質の検出について(第七報)
http://www.tepco.co.jp/cc/press/11032704-j.html
福島第一原子力発電所付近の海水からの放射性物質の検出について(第6報)
http://www.tepco.co.jp/cc/press/11032602-j.html
水産物の調査(水産庁)
福島県内での原発事故にかかる我が国水産物の検査(輸出業者の方へ)
農林水産庁のポータルサイト
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文科省の福島沖(30km)の海洋調査の結果がでました
文科省の福島沖の海水の調査結果が出ました。
調査は、沖合30kmの8定点で行われ、それぞれ次のような値が出ています。
ヨウ素-131
今回計測された放射性ヨウ素-131は、24.9-76.8Bq/Lでした。国の排水の安全基準値40Bq/Lより高い値が3点で観測されました。東京の金町浄水場のヨウ素が210Bq/kgですから、半分以下の水準です。東電が計測した排水口付近の値は、5066Bq/Lですから、二桁ほど薄まっています。また、ヨウ素-131は半減期が8日と短いので、この程度の濃度で推移するならば、大規模、長期的な汚染の心配はなさそうです。
セシウム-137
福島沖30kmの8定点のセシウムは11.2-24.1Bq/Lでした。国の安全基準(90Bq/L)を大きく下回っています。こちらも東電が計測した排水口付近の値(1484Bq/L)よりも二桁ほど値が小さくなっています。半減期が30年と長いセシウム137の値が基準値以下に希釈されていることは、朗報と言えるでしょう。
今回の調査結果は、ドイツのチューネン研究所の「福島から、海洋に入った放射性物質は、短い期間で検出できないレベルに希釈される」という予想に合致します。沖合に流出する放射性物質の濃度が、現在の水準にとどまれば、外洋に長期的な汚染をもたらすことはなさそうです。1回の調査で、判断を下すのは早計ですから、今後の経過を注意深く見守りたいとおもいます。
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チェルノブイリ事故の魚類への影響
Chernobyl’s Legacy: Health, Environmental and Socio-Economic Impacts
IAEAのチェルノブイリの環境影響評価のレポートの中から、魚類に関係する部分のみを和訳(P26-27)しました。
水圏生態系はどの程度汚染されたか?(How contaminated are the aquatic systems?)
チェルノブイリ由来の放射性物質によって、原発付近、および、ヨーロッパの多くの場所で、表層水の放射能レベルが上昇した。初期の上昇は、川や湖の表層への、放射性核種の直接的な堆積によるもので、短命の核種(ヨウ素131)が主であった。事故後、数週間の間の、キエフ貯水池の高い放射能レベルの飲料水が懸念材料である。
数週間後には、希釈、物理崩壊、貯水池の土壌への吸収によって、水中の放射能レベルは、急激に減少した。底質層は、放射性物質の重要な長期的な貯蔵庫である。
魚類の放射性核種の摂取は、非常に早かった。しかし、物理崩壊によって、放射能活性はすぐに減少した。最も影響を受けた領域、および、スカンジナビアやドイツのような遠くの湖で、水中の食物連鎖によるセシウム137の生物濃縮が、有意な放射性物質の濃縮をもたらした。降下量が少なかったことと、生物濃縮が低いことから、魚類のストロンチウム90のレベルは、セシウム137と比較して人体への影響は軽微であった。ストロンチウム90が食用になる筋肉ではなく、骨に集積することも理由の一つだろう。
長期的には、寿命が長いセシウム137とストロンチウム90の土壌からの流出が、今日まで続いている(以前よりもかなり低い水準)。今日では、表層水、および、魚類の放射性物質の密度は低い(p26の図6を参照)。それにより、表層水による灌漑が、害悪を及ぼすとは考えられていない。
川や開放形の河川や貯水池での、セシウム137とストロンチウム90の密度は現在は低いものの、ベラルーシ、ロシア、ウクライナの外部への流出がない「閉鎖的」な湖のいくつかでは、数十年経過した現在も、セシウム137で汚染されたままである。たとえば、閉鎖的なロシアのKozhanovskoe湖の隣に住む人々の、セシウム137の摂取は、主に魚類の消費によるものである。
黒海およびバルト海は、チェルノブイリから遠く離れていることと、これらの系の希釈によって、海水の放射性物質の濃度は、淡水系よりも大分低い。水中の放射性核種のレベルが低い上に、海洋生物相でのセシウム137の生物濃縮が低いため、海産魚のセシウム137を気にする必要は無い。
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福島の汚染された海水はどこに行く?
11:32に追加情報があります。13:24にさらに追加をしました。最後まで、目を通して下さい。
最終的な影響は、大規模なモニタリング調査をしないとわかりません。このページは私個人が現時点までに知り得た情報をまとめたものであり、政府がしっかりとした調査結果を公開するまでの参考程度でお願いします。
原発近くの海水から放射性物質が検出されました。
福島原発近く海水から放射性物質 最大で基準の126倍
東日本大震災で被害を受けた福島第一原発近くの海水から、最大で安全基準の126倍にあたる濃度の放射性物質が検出されたことを、東京電力が22日未明の記者会見で明らかにした。漁業への影響などを評価するため、今後も調査を続けるという。東電によると、21日午後2時半に放水口付近で0.5リットルの海水を採取して調べたところ、ヨウ素131が原子炉等規制法が定める基準の126.7倍、検出された。この水を1年間、毎日飲み続けると、一般人の年間限度の126.7倍にあたる放射線を被曝(ひばく)することになる。このほかセシウム134が基準の24.8倍、セシウム137が16.5倍検出された。
http://www.asahi.com/national/update/0322/TKY201103210384.html
まず重要な点は、サンプルが放水口付近(南100m)ということです。今まさに漏れ出てくる放射性物質を風下で計測しているような状態でしょう。周辺の海水を代表できる値ではないということに注意が必要です。
つぎに、この放射性物質を含んだ海水が、どこに行くかを考えてみましょう。
3/15-3/21の平均海水温の衛星写真です(NOAA1週間合成)。黄緑の領域が黒潮系の海水、青の部分が親潮系の海水です。両者は温度が違うので、混ざりません。犬吠沖で親潮と黒潮がぶつかり、蛇行しながら外に流れていく様子がわかります。福島の原発付近の海水は親潮系で、きわめて流れが速い場所ですので、北に行くことはありませんこのあたりの流れは複雑で、北東方面(三陸沖)に抜ける場合もあるようです(3/25訂正)。親潮にのれば急速に南下し、黒潮にぶつかって、アリューシャン方面に抜けていきます。
福島沖は、親潮と黒潮がぶつかって、太平洋に流れ出す、水道のじゃ口のようなところです。放射性物質が、海底に固定されずに、海水と一緒に流れていけば、福島→犬吠沖→アリューシャンという経路で日本から遠ざかります。流れていく過程で放射性物質の粒子は北太平洋全域に素早く希釈されると思われます。
広く希釈されるというのは、長期的に見た話。実際には、局地的な流れがあるので、短期的には注意が必要との指摘もあります。温度が異なる排水が、水塊を形成したばあいには、放射性物質の密度が局所的に維持されることも考えられます。いずれにしても福島近辺、および、下流に当たる海域では、しばらくは注意が必要です。
ウンコがベルトコンベアーにのって運ばれている状況をイメージしてください。ウンコのにおいが広がるよりも早く、ベルトコンベアーが流れていけば、強い臭いは残りませんよね?ウンコのにおいは、ベルトコンベアー周辺に広く薄く分布するはずです。
逆に言うと、今回の放射性物質の漏洩は、北太平洋全域に広く影響を及ぼすことになるのですが、そこまで広がってしまえば影響は軽微です。排水口付近で基準値の24倍ですから、太平洋全域に薄まれば無視できる水準になります。現状では福島原発から流出した放射性物質の量がわかっていませんが、今回の事故で、太平洋の魚が汚染で食べられなくなると言う話ではなさそうです。
以上は、放射性物質が海流とともに流れて大規模に拡散するシナリオです。微粒子など混濁体に付着して、沿岸流に一定期間漂うケースや、海底に付着して流されないで残るケースも考えられます。こういった局所的な汚染がどの程度残るかは現段階ではわかりません。局所的な汚染については、沿岸砂州と砂浜のモニタリングで状況を把握することになるでしょう。福島から犬吠崎までは、今後の環境モニタリングが重要になります。
11:32追加情報
先ほど、ツイッターにて、2009年に大型クラゲが犬吠崎をこえて移動したことを教えていただきました。@mtoyokawさん、ありがとうございます。
下の図は、2009年の大型クラゲの出現時期と移動経路を示したものです。
http://www.fra.affrc.go.jp/kurage/h21/h21kurage.pdf
9/30に福島沖で観察されたクラゲは、2ヶ月後には和歌山まで達しています。10 月に関東近海で黒潮が離岸していたために(黒潮は移動するのです)、千葉まで輸送された大型クラゲは黒潮内側域にまで拡がり、神奈川・静岡で大量出現となったそうです。このクラゲは全て黄海から流れてきたものであり、黒潮系に進入した後で増えたわけではありません。放射性物質の多くは外洋に流れ出るとは思いますが、海洋条件次第では、クラゲと同様に、沿岸流によって、南下する可能性はあります。黒潮系(犬吠崎以南)は、親潮系と比較すればリスクが低いとはいえ、手放しで安心を出来る状況ではありません。数ヶ月の間は、モニタリング結果に注意をする必要があります。
13:24 追加情報
クラゲが犬吠崎を越えた2009年の9月22-30日の海流の図です。黒潮が大きく離岸して、親潮系の水が千葉沿岸を南下しています。2009年の秋には、この青の矢印の海流に乗って、クラゲが南下したと思われます。黒潮がこの状態なら、沿岸を伝って串本(和歌山県)まで、クラゲが漂流するのもうなずけます。
(ソース:海上保安庁 海洋速報海流図)http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KANKYO/KAIYO/qboc/2009cal/cu0/qboc2009183cu0.html
2011年3月10-17日の黒潮は次のようになっています。幸いなことに、外房にかなり接近しています(ラッキー!)。放射性物質の流入が収まるまで、このまま黒潮が外房沿岸近くを流れてくれれば、福島の水が大量に南下することはなさそうです。
(ソース:海上保安庁 海洋速報海流図)http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KANKYO/KAIYO/qboc/2011cal/cu0/qboc2011052cu0.html
黒潮は動くときは数日で動くので、今後も注意が必要です。最新の情報は海上保安庁海洋情報部で確認できます。最近の海流の変化のアニメーションがわかりやすいです。
最終的な影響は、大規模なモニタリング調査をしないとわかりません。このページは私個人が現時点までに知り得た情報をまとめたものであり、政府がしっかりとした調査結果を公開するまでの参考程度でお願いします。
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ドイツの研究所が、「福島原発から、海に入った放射性物質は、短い期間で、検出できないレベルに希釈される」と考察
4/2追記 このドイツの研究機関の分析は、放射性物質の漏洩が短期小規模で終わるという日本政府の初期の発表に基づいています。現在は状況が大きく変わったことを留意した上で、読んでください。
興味深い記事が中国のサイトに掲載されました。
「ドイツの漁業環境の放射能汚染観測を担当しているチューネン研究所はこのほど、日本の福島第一原発から漏洩した放射能は魚類などの海洋生物に長期的な汚染をもたらさないと発表しました」
http://japanese.cri.cn/881/2011/03/20/162s172309.htm<
元の記事はこちらだということをツイッターで教えてもらいました。
Japan: Zur möglichen Kontamination von Fischen und Meerwasserpflanzen
Google翻訳で、ドイツ語を英語に直したものを、私が日本語に翻訳したのが下の文章です。(2011 3/21 17:39 update)
ここ数時間、福島の原発から、大きな変化は伝わってきません。危機的な状況をコントロールしようと、努力が続けられています。現場を指揮する組織(東電)からは、これまでに放出された放射性物質の種類や量に関する情報が提供されていません。
IAEAはそのため、官庁が計測した (behördlich gemessen) 日本の放射性物質に関する情報を照会しました。それらのデータが利用可能になるまでは、一般論としては、引き続き揮発性の放射性物質が放出されることが考えられます。放射性物質としては、放射性核種を含むセシウム134(半減期2年)とセシウム137(30年の半減期)、およびヨウ素131(半減期8日)が含まれます。
消費者にとっては長寿命のセシウム同位体が問題で、ヨウ素131は数週間で検出できなくなります。
チェルノブイリ事故後25年にわたる北海とバルト海の魚の放射能データを、当研究所(the Johann Heinrich von Thünen Institute)の研究員が解析したところ、北海のような灌流の激しい海では、放射性物質は比較的素早く希釈されることがわかりました。たとえば、チェルノブイリ事故があった1986年以降、北海では、海水からも、魚からも、セシウム137の濃度が急激に薄まりました。事故の翌年には、チェルノブイリ由来のセシウムは検出不可能になりました。北海の魚と海水に現在残っているセシウム-137は、1950年代、1960年代の核兵器実験に由来する潜在的な汚染(background contamination)によるものです。ドイツの海水の計測は、連邦海事水路庁(BSH)が行っています。
これらの情報と、今まで得られた太平洋の情報を総合すると、福島の汚染された冷却水や大気から、海洋に入った放射性物質は、非常に短い期間で、検出できないレベルに希釈されると予想できます。
当研究所の科学者は、日本の状況を監視して、新しいイベントに対して、迅速に対応することができるように、万全の備えをしています。
以上です。
三瓶愼一先生(慶應義塾大学,ドイツ語学)に添削していただきました。ありがとうございます。初期の私の和訳は、この記事の下につけてありますが、やや不正確な点がありました。
中国のニュースサイトは、「日本が発表したデータに基づき」と書いていますが、これは誤りです。正しくは「現状ではデータがないので、IAEA経由で日本のデータが公開されるのを待っている」ようです。
海洋中の放射性物質は、急速に希釈されて、すぐに検出できなくなるという内容は、非常に勇気づけられるものです。また、半減期が長いセシウムの生態濃縮が気になっていたのですが、魚の中からも、すぐに検出できなくなったというのは朗報です。
生物濃縮については、コメント欄をご覧ください。
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シーシェパードが急成長した原因は、日本の失策
朝日新聞にシーシェパードが初めて登場したのは1987年。その後20年間は、ごく希にメディアに登場するに過ぎなかった。過激なパフォーマンスにもかかわらず、数年前まで、鳴かず飛ばずだったのだ。シーシェパードはゴムボートから瓶を投げたり、停泊中の捕鯨船にいたずらをするぐらいの、しょぼい集団であり、支持者はそう多くなかった。しかし、シーシェパードの活動は、2008年から、突然活発化する。わずか4年後には、大きな船を複数所有し、日本の調査捕鯨を実力阻止してしまった。
1987 | 1 | アイスランドで停泊中の捕鯨船を襲撃 |
1988 | 1 | ロシアのクジラ救出に対するポール・ワトソンのコメント |
1992 | 1 | 日本イカ流し網を妨害 |
1994 | 1 | ノルウェーで停泊中の捕鯨船を襲撃 |
2003 | 2 | 太地町のクジラ漁妨害 |
2004 | 0 | |
2005 | 0 | |
2006 | 0 | |
2007 | 1 | 日本のザトウクジラ捕獲宣言 |
2008 | 52 | 捕鯨船への相次ぐ攻撃 |
2009 | 18 | |
2010 | 88 | |
2011 | 20 |
ここ数年のシーシェパードの装備の充実には目を見張るものがある。2007年12月には、スコットランドの漁業監視船を中古で購入し、さらに、2010年には、中古の捕鯨船を購入する羽振りの良さだ。
今は、ヘリコプターも持っているので、ひとたび発見されたら、逃げ切るのは困難だろう。
切っ掛けはザトウクジラ
シーシェパードの急成長の要因は、水産庁のザトウクジラ捕獲宣言だ。豪州やNZのホエールウォッチング愛好家は、南氷洋のザトウクジラを個体識別して、名前をつけて、愛でている。水産庁は、2007年から、南氷洋のザトウクジラを50頭捕獲すると宣言して、南半球の反捕鯨運動の火に油を注いだのである。豪州は「誰が、日本の捕鯨船に殺されるの?」と半ばパニック状態になってしまった。日本でも、釧路のラッコのくーちゃんが大人気であった。もし、地球の反対から、釧路沖にラッコを捕る船がわざわざやってきたら、釧路のくーちゃんファンは、どう思うだろうか。
それまで、日本が調査捕鯨で獲っているミンククジラは、資源も豊富で、ホエールウォッチングの対象でもなかった。「ミンククジラを守れ」では、寄付金は集まらなかったのだ。日本がザトウクジラ捕獲宣言をしたおかげで、寄付金がいくらでもあつまるようになった。ザトウに手を出したら、こうなるのは、ちょっと考えればわかる話なのに。日本のザトウクジラ捕獲宣言によって、豪州・NZにおけるシーシェパードの集金力は一気に跳ね上がり、2007-2008の調査から、妨害工作が大規模化したのである。水産庁は「近年、シーシェパードの妨害が活発化して・・・」と言っているけど、その原因を作ったのは日本なのだ。
シーシェパードの活動の活発化の背景には、日本政府の失策がある。シーシェパードが怪しからんと思う人間は、その怪しからん団体が、何で大型船をバンバン買えるのか考えてほしい。ザトウ捕獲宣言をして、シーシェパードに寄付金があつまる状況をつくったのは、他ならぬ水産庁だ。今回、南氷洋から撤退するにあたり、「シーシェパードの妨害のせいで撤退する」とわざわざ世界中に宣言して、シーシェパードに捕鯨阻止という大金星をあたえてしまった。日本の国益を考えれば、「船の調子が悪くて」とか、「国内の都合で」とか、別の理由を準備すべきだろう。どこまでシーシェパードの発展に寄与すれば気が済むのだろうか。
日本がシーシェパードを育てたせいで、これから世界中の漁業者が彼らのテロに晒されるだろう。申し訳ない気持ちで一杯だ。
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北洋サケマス漁業について
- 2011-03-05 (土)
- 研究
露への資金提供、4社以外で違法操業見つからず
水産庁は4日、4社以外で同EEZ内でサケ・マス漁などを行う43隻を調査したところ違法操業は見つからず、調査を継続すると発表した。
操業日誌や市場が発行した伝票の提出を求めたが、金品提供を明らかにした漁船はなく、過去に違反が判明し た4隻を除き、漁獲超過も確認できなかった。また、調査では、「保存していない」などとして伝票を提出しない漁船が続出したほか、調査への協力を拒んだ漁 船もあった。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110304-OYT1T00973.htm
操業日誌に漁獲超過の痕跡が無いのは当然だ。漁獲枠の超過を馬鹿正直に操業日誌に記録して、わざわざ証拠を残す漁業者がいるはずがない。過去に立ち入り検査で違反が判明した船だって、操業日誌はつじつまを合わせていたはずだ。操業日誌の確認など、やっても無駄なことは、やる前からわかっている。
このニュースの重要な点は、伝票の提出を求めた点である。伝票は取り引き相手があるので、漁業者単独で、魚種や数量を虚偽記載するのは難しい。伝票の方が、確実に漁獲の実態を反映しているから、提出できないのだろう。
豊進丸の違法操業
数年前に、ロシアに拿捕された豊進丸の場合は、単価の高いベニザケをシロザケと偽って、隠していた。私が書いた本文より、コメントの方が内容があるので、そっちを中心に読んでください。
裁判記録によると、「ロシアEEZで操業していた豊進丸(割当量:シロザケ85.2トン、ベニザケ85.7トン、ほか)は、6月1日にロシア側から臨検を 受け、45トンのベニザケのうち20トンをシロザケとして記録・報告していたために拿捕された。捜査の結果、ベニザケはシロザケの覆いの下に隠匿され、船 舶日報の虚偽報告、意図的な虚偽の漁獲量情報の提供、意図的な操業日誌不実記載などが判明した。」となっている。
日本政府は、国際海洋法裁判所の公判において、「豊進丸の違反は、操業を許可された2種類の魚について操業記録を不正確に書いたこと以外の何物でもな い。違反の重大性は比較的限られたものである。参考までに申し上げると、日本政府はこの種の違反を悪質性の低いものとして取り扱っており、他の殆どの国々 も同じ扱いをしていると思う。」と、如何にも「IUUに優しい国」日本の取締りがグローバルスタンダードであるかのように証言している。
これに対し、ロシア側は「今回の違反事件は(単なる操業日誌の記入ミスではなく)、船長が綿密に証拠隠蔽を企てた、詐欺と事実歪曲による高度の計画的犯行である。」と、犯行の核心をつく厳しい証言で切り返している。
これら日ロ両国の証言を受けた裁判の判決では、これは一切報道されなかったが、「ITLOSは、豊進丸の船長が犯した違反を、単に些細な違反や純粋な技 術的ミスであるなどとは考えるべきではないとの見解にある。正確な報告が要求される漁獲量のモニタリングは、海洋生物資源の管理において最も重要な手段の 一つである。そのようなモニタリングを実施することは、単にロシア連邦の権利としてではなく、適切な保存及び管理措置を通じてEEZの生物資源が過剰漁獲 による危機に晒されないことを確保するための海洋法条約第61条第2項の規定も考慮されるべきである。」と、IUUに優しい日本の立場を断罪し、レポート システムの重要性を指摘しつつ、資源管理に対する背信行為を厳しく非難している。
日本政府は「軽微な違反」と主張しているが、国際海洋裁判所は、「違法操業に甘い日本政府の姿勢は、国連海洋法条約に反する」と一刀両断している。このことは、日本のメディアは一切、伝えなかった。「ロシアが漁船の乗組員を不当に拘束している」と人道上の問題ばかりを報道したのだが、実際には、日本人漁業者は拘束されていなかったのである。そのことも、伝えなかった。国連海洋法条約は日本の領海でも適用されるので、自国漁業についても、漁獲量のモニタリングを正確に行う義務が生じているが、水産庁はこれを無視し続けている。
北洋漁業の実態については、此方が参考になります。
揺れる北海道サケ・マス漁 社会新報道内版1993/1/15
http://www.kotoni.net/kadowaki/kado/suisan/sakemasu.htm
サケ・マス漁にはボタンのかけ違いという発端が確かにあった。そして国や道の担当者は不正な状態を事務的に引き継ぎ、海上保安庁は政策がらみのことに手を出さなかった。それに加えて不正をチェックすべきジャーナリズムが見て見ぬふりをしてきたのである。
私は今回逮捕された漁業者を大上段から非難することなど到底できない。罪人は漁業者ではあるが罪人をつくったのは行政であり、保安庁であり、ジャーナリズムだと思っている。しかし一番の悪人がだれだったのかといえば、特定できそうもない。
不幸だったのは日ソ交渉が国家と国家とのぶつかり合い、だまし合いに終始し、本来最も重要なはずのサケ・マス資源論争がねじ曲げられてしまったことである。サケ・マスだけでなく、日本の遠洋漁業ではおしなべて資源論争がねじ曲げられてきたと言えよう。
ここに書かれていることは良くわかる。だからといって、現状を放置しておいて良いわけではない。「漁獲枠?ごまかせば良いよ」という、いい加減なことは、日本国内でしか通用しない。ロシアの取り締まりが強化されているし、国際的にも不正には厳罰が当たり前の時代になっている。重要なのは、これから、どうするかということ。
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いつ頃から、誰が「魚離れ」と言い出したか
- 2011-03-03 (木)
- 研究
朝日新聞を使って、いつ頃から、誰が「魚離れ」と言い出したかを調べてみた。
1976年 若い女性は魚離れ 料理は苦手、鮮度にも関心薄い おさかな普及協会調査
1978年 消費者に“魚離れ”52年度200カイリ時代初の漁業白書_漁業白書
1981年 魚離れ一段と 値上がりの分析不十分 漁業白書_漁業白書
1984年 魚離れ防止へ農水省がPR_水産業
朝日新聞に最初に魚離れが登場したのは1976年。
紙面には、
「魚が好き」やっと半数
一匹買わずに切り身で
魚屋よりスーパーが好き
という見出しが躍っている。実に、34年前の記事なんだけど、昨日の記事と言っても通用しそうだ。ちなみに、この「おさかな普及協会」というのは、大手水産と荷受け59社が作ったそうだ。
1978年から、水産庁が漁業白書で魚離れキャンペーンを開始する。当時は魚の値段が上がって、肉との価格差が無くなったことから、魚の消費の低下が懸念されていたので、販促をしたのだろう。その後もバブルによって、日本人一人当たり1年間の水産物消費量(KG)は増加を続けた。
2001年から、消費が落ちているのは、世界的な魚の値上がりで、輸入が減少のが理由。こちらは構造的なので、今後も魚の消費量は下がるだろう。ただ、これは、消費ではなく供給の問題。日本の消費者が魚を避けているのではなく、世界の魚が日本から離れているのだ。
急速に進行しているのは、「日本人の魚離れ」ではなく、「魚の日本離れ」
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