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水産外交を国益の観点から考える
背景となる情報を集めていけば、日本政府の主張は、矛盾に満ちていることがわかる。資源は危機的であり、現在の漁獲を支えることはできない。ワシントン条約を阻止すれば、これからもマグロを食べられるという主張はウソ。また、ICCATの管理下で、不正漁獲が蔓延している現状がある。不正漁獲は、ますます取り締まれなくなる方向に進んでいるのだから、すでに破綻しているICCATの枠組みで十分という日本政府の主張は説得力がない。そのことは、主張している本人も承知だろう。そもそも持続的枠組みを模索する国が、不正漁獲の元締めのリビアと組むわけないだろうに。
日本政府は、ワシントン条約さえ阻止できればそれでよいと判断し、無理を承知で駄々をこねたのだろう。そのこと自体を責めるつもりはない。外交の場では、嘘も必要だ。問題は、その嘘が日本の国益につながるかどうかである。
今回の締約国会議では、次の5つの可能性があった。付属書I(留保する、しない),付属書II(留保する、しない)、ワシントン条約では規制をしない。それぞれ、どんな感じかをまとめると次のようになる。
付属書I留保
日本漁船は地中海で操業を続行する。ワシントン条約に留保したリビアなどから、黒いマグロが日本にくる。EUの正規漁業は止まるので、不正漁業と日本漁船の天下になり、短期的には美味しい思いができる。当然、漁獲規制は、有名無実になり、資源は消滅。欧米で、日本製品不買運動が広まる。
付属書I留保せず
ほぼ全ての漁業が停止するが、資源は守られる。
付属書II 日本留保
日本漁船とEUの正規漁獲が中心になるが、日本は黒いマグロも買えるので、不正漁業も生き残る。漁獲枠は守られず資源は減少。欧米で、日本製品不買運動が広まる。
付属書II 日本留保せず
日本とEUの正規漁獲のみ生き残る。漁獲枠は、守られ、資源は徐々に回復。輸入も維持できる。
ワシントン条約の規制がなし
不正漁獲が蔓延し、漁業が消滅。ワシントン条約の枠組みを破壊した黒幕として、後ろ指を指される。
当初は、タイセイヨウクロマグロは、付属書Iになると思われていた。日本政府は、付属書Iなら留保をすると明言していた(留保というのは、ワシントン条約を無視して、国際取引を続けるという宣言)。漁業関係の利得、すなわち上の表の青色の部分だけを見れば、留保をした方が得になる。しかし、留保をすると漁業以外の産業に深刻なダメージを与えてしまう。「留保をすれば、確実に日本製品不買運動は起こるだろうね。特に欧州はひどいことになるんじゃないか」というのが欧米人の共通認識。漁業は、日本のGNPの1%にも満たないマイナーな産業。そのマイナーな産業のなかで、タイセイヨウクロマグロなんて、量にしても、金額にしても、ほんの一部分であり、日本経済からすれば、耳くそみたいなスケール。しかも、食料安全保障とは無縁の贅沢品であり、その上、タイセイヨウクロマグロは、資源としては、ほぼ終わっている。禁漁に近い規制をするか、獲り尽くすかの2択しかない。
水産庁は、大西洋クロマグロをあと2~3年輸入して食べ尽くす権利と引き替えに、輸出産業に大打撃を与えようとしていた。「火中の栗を拾う」なんて、生やさしい物ではない。ガソリンを頭からかぶって、火事の家の中に、栗の皮を拾いに行くレベルの愚行である。輸出産業で働いている人間は、一揆を起こしても良いレベルのむちゃくちゃだ。日本国民が、そうなることを納得ずくで、留保に賛成するのであれば、俺は何も言う気はない。「国の経済を傾けてでも、最後の最後までタイセイヨウクロマグロを食べる」という決意があるなら、ある意味、立派なものだ。でも、そんな議論は、日本国内では、一切無かったはずだ。
ワシントン条約の対応は、国際課という部署が担当している。日本の遠洋漁業は、マグロぐらいしか残っていない。マグロ漁業の消滅は、すなわち、国際課の存在意義の消滅なわけで、彼らとしてはマグロ漁船を是が非でも残したい。国際課は、留保をすれば、日本製品不買運動が起こることは、当然知っていたはずだ。日本国民が将来負うことになる負担は隠したままで、「食文化のために、欧米の資源囲い込みと闘う」などと称して、世論を誘導したのである。
俺が、主張したかったのは、国策を決めるに当たって、背景と国益に関する議論が完全に抜け落ちていたと言うこと。
1.タイセイヨウクロマグロは激減しており、すでに資源として利用できる状態にはない
2.地中海では漁獲枠よりも多い不正漁獲が存在し、ICCATもそれを認めている
3.不正漁獲されたマグロのほとんどは日本で消費された
これらの事実を積み重ねれば、ワシントン条約に留保をすれば、欧米で不買運動が起こることは容易に想像できる。冷え込んでいる日本の景気をさらに押し下げ、輸出産業に大打撃を与えるわけだ。この当然予想される結果が知らされていなかった。俺には、水産庁は、国益よりも、自分の縄張りを優先したように見える。そのためにEUという仮想的を作って、メディアをつかって大本営発表をした。メディ アは、断片的に正しい情報を混ぜたかもしれないが、それと明らかに矛盾する水産庁の政策に対して無批判であった。情報を使って、水産庁の方向性が正しいか どうかを検証しなかった。情報を集めた上で、国益の観点から政策分析を行い、権力を監視するのがメディアの本来の役目を放棄した。こんな突っ込みどころ満載の外交を、ロジカルに批判をするメディアは皆無であった。これでも、メディアは正しい情報を伝えて、国民はきちんと納得をした上で、水産庁の政策を支持したと言えるのだろうか。
タイセイヨウクロマグロ資源には死亡フラグが立ってしまったけれど、今回のワシントン条約は、付属書Iにならなくて本当に良かった。付属書Iに留保をして、日本が単独で矢面に立っていたら、タイセイヨウクロマグロ漁業とは比較にならない、大きなものを失っていた。まあ、ラッキーだったんじゃないでしょうか。
水産庁は、水産物の安定供給とか、資源の持続性なんて、重要視していない。日本近海に生息する太平洋クロマグロは、日本漁船によって、0歳、1歳と言った未成熟な段階でほとんど漁獲されている。産卵場での巻き網操業は野放しだ。日本漁船の乱獲を抑制すれば、日本のEEZで十分なクロマグロが捕れるのである。水産庁は、日本沿岸での太平洋クロマグロの乱獲を、何一つ取り締まるどころか、漁業者の乱獲の権利を守るために、必死の努力をしている。地球の裏側の資源を乱獲するために国際的な努力をするのではなく、自国の資源を持続的に利用すべきである。
(予告)次の記事では日本漁船による、日本のEEZ内でのクロマグロの乱獲について紹介します。
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ワシントン条約の勝者は中国とリビアで、敗者は日本と持続的漁業
- 2010-03-22 (月)
- マグロ輸出規制
前回の記事は予想以上の反響で驚いた。書いてみるものだとおもった。「不正漁獲の話しはちゃんと新聞に載っていた」という書き込みをいただいたのだが、俺も新聞は気をつけてみていたけれど、不正漁獲についてまともに書いた記事は見つからなかった。「隠した」という表現は言い過ぎかもしれないが、きちんと伝えていなかったとは思う。不正漁獲の蔓延が、ICCAT不信の根幹にある以上、不正漁獲の実態を知った上で、それにどう対処していくかを、考えないといけない。その判断材料になるレベルの報道があったなら、「ワシントン条約断固阻止」という世論一色にはならなかっただろう。
不正漁獲の背景
クロマグロ激減の要因は、2000年ぐらいに、日本の商社が、地中海にもちこんだ、畜養である。畜養の手順は、だいたい、こんな感じ。
1)産卵場で待ちかまえて、産卵群を巻き網で一網打尽にする
2)網の中でマグロを生かしたまま曳航し、いけすに入れる
3)数ヶ月間餌を与えて、脂をつけてから、日本に出荷する
産卵期のマグロは身がやせていて、そのままでは市場価値がない。畜養が普及し、産卵期のマグロの市場価値が上がると、急激に産卵場での漁獲が増えた。遵法意識の低いラテン諸国は、漁獲枠を無視して、畜養マグロを増産した。それを、日本の商社が購入し、安い値段で国内に流通させたのである。その結果、それまで貴重だったトロの値段が一気に下がり、回転寿司でもトロを見かけるようになった。
(3/24追記 一般的な一皿100円~200円の回転寿司のトロは、メバチかなにかでしょう。オセアニア・地中海で畜養が盛んになってからは、単価の高い高級回転寿司店では、畜養クロマグロおよび畜養ミナミマグロのトロも回っています。割合としてはミナミマグロが多いです。)
ICCATの管理下で、なぜ不正漁獲が蔓延したのか?
産卵場で一網打尽操業をした結果、地中海産卵群はあっという間に減少した。危機感を抱いたEUは、これを押さえ込みにかかった。EU圏内では、減少したクロマグロの消費は厳しい非難にさらされている。しかし、資源のことなど何も考えず、値段が安ければ幾らでも食べる日本という市場があるかぎり、畜養マグロは作っただけ売れてしまう。また、不正な畜養の拠点が、スペイン・イタリアから、トルコ、リビアへと法の網が緩い国へ移動したことで、ますますEU内でのコントロールがきかなくなった。ニッチもさっちもいかなくなって、ワシントン条約で取り締まろうとしたのである。もちろん、管理組織ICCATだって、手をこまねいていたわけではない。出来る限りのことはしたけれども、十分な成果を上げることは出来なかったのである。そのあたりの経緯は、次の2つの文書を見て欲しい。
基本となる国際条約に海洋法第64条というのがありますが、見て頂きたいのは、国際管理の基本となる条項ですら単に協力の義務だけです。沿岸国の主権的権利は他の魚種と同様に認められていて、沿岸国は捕る、捕らせる権利を持っています。ただ自分達だけでは管理も完璧に出来ないため協力しなければなりません。ただ協力をしなさいと書いてあるだけなのです。協力をする為の機関として、地域漁業管理機関を作りなさいという事です。
2)三宅眞氏(ICCATの元事務局次長) 「過剰な漁獲能力の削減急務」
(マグロの中で資源状態が悪いと言われているのは?)
資源が危険な状態にあるのは大西洋のクロマグロとミナミマグロです。(クロマグロの資源管理がうまくいかないのは。)
クロマグロの失敗の理由は、地中海周辺の漁業国が規制を守らなかった為です。1990年代から地中海を含む東大西洋では漁獲量割当制、最小サイズなどを決め、規制をしていますが、それが守られて来なかったのです。もし各国が割当を守っていれば、今のような状態には決してなっていません。(地中海の国々はなぜ守らないのですか。)
私は、独特の地中海文化の影響が大きいと思っています。例えば、多くの地中海国では表面経済と地下経済があるように、本音と建前が違うダブルスタンダードが当たり前です。表の規制があっても、実際にはそれを守らなければいけないと思っている人が非常に少ない。それを悪いと言っているのではありません。それも文化のひとつです。そういう世界があるという前提でそれに対応した措置をとらないといけません。(ICCATなどRFMOの管理の能力に限界があるのでしょうか)
管理能力が無いというより、科学者が管理方法を示しても、それを委員会で決める上で限界があります。多数決や全会一致などによる決定は、各国の利害に左右されてしまう。これはどうしようもない。(RFMOの資源管理で漁業先進国とこれから漁業を発展させたい途上国の問題もあると聞きますが)
途上国が自国民の漁業を本気で発展させようとしているならば、先進国は積極的に支援する責任があります。しかし、今の途上国のマグロ漁業参入の多くは、途上国に与えられる権利をうまく利用しようとする先進国によるものです。いわばこの問題は、漁業先進国と途上国の対立ではなく、漁業先進国本国プロパーと先進国による外国資本の対立で、先進国の問題が大きいです。途上国も入漁権を売れば儲かるので、途上国の権利は譲らない。これもマグロが国際的な貿易対象ビジネスとなったために生じた悪循環です。
これらの文書から、地域管理機関が違法漁業に頭を悩まされている現状がわかるだろう。遵法意識が低いラテン諸国に漁獲規制を守らせるのは難しい。その上、途上国の権利を利用して、非持続的な漁業を続けようという動きが活発化している。現にリビアは「先進国が資源を枯渇させたのだから、我々は規制に従う必要はない」とワシントン条約の締約国会議でも、啖呵を切ったばかり。EU圏内での締め付けが強まれば、リビアでの畜養がふえるだろう。それに対して、ICCATにできることは、せいぜいリビアの漁獲枠を減らすことぐらい。最初から、「先進国の身勝手な漁獲枠は守らない」と宣言している国に対しては、牽制にもならない。ワシントン条約に危機感を感じた日本は、不正なマグロを水際で阻止する体制を整えようとしている。水産庁は、去年から、がんばって取り締まりをしており、すでに水際で何隻か止めたという話を小耳にはさんでいる。しかし、日本が買わなければ、不正マグロは中国その他に行くだけだろう。90年代ならまだしも、今更、日本単独で輸入を規制しても、効果はしれている。
(3/24追記 中国の消費についてもふれておきます。現在は中国のマグロの消費量はそれほど多くありません。今、クロマグロが減少している責任は、中国ではなく、日本にあります。ただ、現在すでに地中海のイケスには不正に漁獲された大量の魚が入っていますので、日本が買わなくても、世界のどこかに、確実に出荷されます。その候補としては、購買力、市場の大きさ、モラルの低さから、中国が有力です。さらに、中国を経由して加工品として、黒いマグロが日本に入ってくる可能性は大いにあります。しかし、不正畜養ビジネスが、中国マーケット向けの産業として長期的に成り立つかは微妙です。現在のコスト・価格だと、難しいかもしれません。日本単独で、黒いマグロの輸入を規制しても、それなりに効果があるかもしれません。とりあえず、日本は出来る限りのことをやることが大切です。)
ICCATの弱点は、ワシントン条約付属書IIで補完できた
地域管理組織には、遵法意識の低い加盟国への強制力がないという致命的な欠点がある。ICCATのような組織で、不正漁獲が蔓延する地中海のクロマグロを管理するのは、難しいのである。「ICCATで管理をするから大丈夫」という日本の主張が、いかに非現実的であるかは、日本代表の宮原さんが一番よくわかっているはずだ。ICCATの致命的な欠点を補いながら、漁業を続けるための選択肢が、実はあった。ワシントン条約の付属書IIである。付属書IIに掲載されれば、管理機関(ICCAT)の認定書のない野生動物は国際取引が出来なくなる。リビアが仮にICCATから脱退しようとも、日本も中国も黒いマグロは買えないのである。ワシントン条約は、自国での消費を制限しないのだが、畜養マグロの市場は、地中海にはほとんど無い。ここまで政治問題にしたら、EU内でのクロマグロ消費は絶対に伸びないし、リビアの国内消費では元が取れない。結局、ICCATの漁獲枠内で正規に獲った魚を日本に輸出するしか無くなる。
日本では、ワシントン条約=漁業の消滅として報じられているが、必ずしもそうではない。ワシントン条約の付属書IIには、地域管理機関の抜け道になりやすい不正な国際取引を防ぐ機能がある。一方で、ワシントン条約では規制できない漁業国内の消費は、地域管理機関が責任を持つ必要がある。ワシントン条約付属書IIと地域管理機関は、お互いの弱点を補完しあう関係にあり、「ワシントン条約とICCATのどちらで管理すべきか」という議論は、そもそも根底から間違えている。
本気で、不正漁獲を押さえ込もうと思ったら、現在のICCATの限界に直面する。その限界を補うには、付属書IIが必要だったのだ。豪州やフランスなど一部の漁業国が、付属書IIを強く圧していたのは、そういう背景がある。付属書IIであれば、ICCATの管理下で漁獲されたという証明書があれば自由に輸出できるので、ルールを守る国にとっては、大きな負担ではない。現状では、強制力をもった輸出規制はワシントン条約しかないのだが、日本はリビアと組んで、締約国会議をグダグダにしてしまった。日本政府は何のために、誰と戦っているのだろうか?
まとめ
1)これまで
EUから、正規漁獲も不正漁獲も、ほとんどが、日本に来ていた。
2)ICCATのみで管理
EUが締め付けを厳しくした結果、地中海の畜養はリビアへ移りつつある。日本が輸入の監視を厳しくすれば、不正マグロは、中国に行くだろう。リビア→中国という、ICCATの枠組みで規制が難しい魚の流れが増える。結果として、資源は減少を続け、漁業の消滅は時間の問題。
3)ワシントン条約付属書IIが採択される
不正なマグロの国際取引が難しくなる。正規の漁獲枠で獲られたEUのマグロは、今まで通り、日本に来るだろう。ICCATの漁獲枠は守られるので、資源も回復に向かう可能性が高い。日本は、今後も持続的にタイセイヨウクロマグロを輸入できたかもしれない。
4)ワシントン条約付属書Iが採択される
全ての国際取引が許されないので、EU圏内で細々と伝統的な消費のみがのこるだろう。
日本はどうすべきであったか?
日本は、豪州・フランスと連携して、付属書IIを目指すべきだったというのが俺の意見。日本が積極的に付属書IIを目指せば、多くの保護団体はサポートしたと思う。「規制は必要だけど、付属書Iは勘弁してほしい」という多くの漁業国の支持もえられただろう。持続的な漁業に対して、リーダーシップを発揮した上で、日本への輸入を維持することが出来た。にもかかわらず、「ICCATのみで十分」という馬鹿な主張をしてしまった。おかげで、タイセイヨウクロマグロを日本が独占している現状は遠からず失われるだろう。今回の勝者は、不正畜養ビジネスで一山当てようというリビアと、安い値段で黒いマグロを買いたたける中国であり、敗者は日本の消費者と持続的な漁業だろう。極東ブログは、「外交の勝利というなら、結果として日本の背後でうまく動いた中国のほうではなかったか」と指摘しているが、その通りだと思う。
http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2010/03/post-a665.html
こういった背景をふまえた上で、極東ブログで紹介されていた読売新聞の記事を読んでみると、実に味わい深いです。
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20100320-OYT1T00117.htm
否決の流れを作ったのはリビアだった。18日の第1委員会では、リビアの代表が同国の最高指導者カダフィ氏ばりに、「(マグロの国際取引禁止は)先進国 による陰謀だ!」と声高に主張し、途上国の反欧米の心情に訴えた。さらに、議論の打ち切りと即時採決を提案し、急転直下、否決へとつながった。
実は今年2月末、水産庁の宮原正典審議官が極秘裏にリビアを訪問し、締約国会議でのクロマグロ禁輸反対に支持を求めていた。日本の説得工作で、当初関心が低かったリビアから、最終的には「日本支持」の言質を引き出すのに成功した。
次の文書は宮原さんの昔のお言葉です。こういうことを言ってくれる宮原さんには、期待をしていたので、とても残念です。
もう一つはなかなか難しい問題ですが、途上国の漁業の発展です。途上国は漁業でこれからも発展していく権利がある。今確かに資源が悪くなったけれども、それは先進国が勝手に獲りまくって資源を悪くしたのだから、そのつけを途上国にまわすのは不当だ、資源が悪くなったのはあなた達のせいであり早く直してくれ、その代わり俺たちは自分達の漁業をやる、公海でも獲らしてもらいます、漁船も造らしてもらいます、と主張しています。特に強く主張しているのは、大西洋ではラテン諸国とアフリカ諸国、太平洋では島諸国です。
この途上国の権利をうまく利用しようとしている者がまたいるわけです。それは当然ですね。台湾は今虐められていますから、じゃあ途上国の名前で漁船を増やす分は怒られまい。さっきのFOC です、途上国に逃げ込む事を考え出しています。とんでもないという事で、それを止めにかかっているわけですが、途上国は、俺たちが漁業発展するのに台湾はわざわざお金を出して助けてくれている、そういういいヤツなのに何でお前は台湾を虐めるんだ、と食って掛かってくるんです。とんでもない、台湾と組んだらお前も一生の終わりだから止めろ、と幾ら言ってもお金の方が強くてどうしてもそっちにむく、そういう人達を含めた国際会議なのです。これは大変面倒くさいわけです。ここから線を引いて台湾だけを隔離して、お前だけは絶対どこに逃げても駄目と出来れば良いのですが、そこはまた、しづらい所です。
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ワシントン条約の報道において、日本のメディアは国民に何を隠したか
日本メディアは、ドーハ締約国会議をどのように伝えたか
今回のクロマグロのワシントン条約に関して、日本の報道は、「欧米の資源囲い込みの陰謀から、日本の食文化を守らなくてはならない。水産庁がんばれ!!」という論調一色であった。とくに、読売の社説は、水産庁の主張をそのままコピペしたような感じだ。
「食文化守られた」 マグロ禁輸否決で市場関係者や消費者(中日新聞)
http://www.chunichi.co.jp/article/national/news/CK2010031902000226.html
マグロを食べる日本の文化が守られた-。マグロの入手困難や、価格高騰を懸念していた東海地方の市場関係者や消費者からは安堵(あんど)の声が上がった。クロマグロ規制 全面禁輸はあまりに強引だ(3月16日付・読売社説)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20100315-OYT1T01323.htm?from=y10
日々の食卓にのぼるマグロを、いきなりジュゴンやパンダと同じ絶滅危惧種にするのは強引すぎる。
日本は、禁輸採択の場合、受け入れを留保して漁を続ける方針だ。欧米の資源囲い込みを防ぐには、やむを得ない選択だろう。
日本のメディアは国民に何を伝えなかったか(隠したか?)
情緒的な論調で、消費への危機感を煽る一方で、欧米の世論を保全に向かわせた次の3つの事実を、日本のマスメディアは、国民に知らせなかった。
1.タイセイヨウクロマグロは激減しており、すでに、現在の漁獲を支えられる状態にない
2.ICCATの規制は守られておらず、漁獲枠よりも多い不正漁獲が存在する。ICCATもそのことを認めている
3.不正漁獲されたマグロのほとんどは日本で消費されており、以前から問題になっていた。
タイセイヨウクロマグロの資源状態については、ここにまとめた。資源は危機的に減少しているというのはICCATの研究者の一致した見解である。日本の報道は、インターネットで公開されているICCATの資源評価について一切ふれずに「絶滅危惧ではない」という日本の政府関係者のコメントを垂れ流すのみ。FAOの専門委員会では、日本政府が派遣した一人をのぞいて全員がワシントン条約で規制をするのに十分な証拠があると認めたのである。国民が公平な判断をするためには、こちらの声も紹介すべきである。南アフリカにはButterworthという研究者がいる。IWCでは一貫して、捕鯨の肩を持ち、英米からは「日本より」と批判されることが多かった人物である。彼ですら、マグロの規制には賛成したのである。
日本政府はICCATの有効性を声高に主張したのに対して、欧米はICCATの規制には懐疑的であった。ICCATのレポートを見れば、どちらが正しいかは明らかだ。漁獲を15000t以下にすべきという科学者の勧告を無視して、2007年に29500tのTACを設定。報告された漁獲枠は34514tだが、実際には61000tの漁獲があったとICCAT自身が認めているのである。
これらの黒いマグロの温床となっているのは畜養である。産卵群をまとめて漁獲して、いけすにいれて、太らせてから日本に出荷する畜養が、地中海で広まっている(実は日本のクロマグロの養殖もほとんどが畜養なのだが、メディアはそのこともふれない)。漁獲枠が3万トンに対して、地中海の畜養イケスのキャパシティーは、6万トンといわれている。そもそも、漁獲枠など守る気がないのである。不正漁獲はマフィアのビジネスになっている。EUでの規制強化を見越して、リビアに黒い畜養の拠点が移動しつつある。もちろん、リビアの畜養に投資をしているのは、先進国の資本である。EU内ではクロマグロの消費は厳しい社会的圧力にさらされており、レストランがテロの標的になりかねない勢いである。そこまでしても、リビアで作って、日本が買うという仕組みが出来たので、EUでの規制強化では対応できない。そこで、今回のワシントン条約と言うことになったのだが、リビアと日本が勝ってしまった。「先進国が減らしたものを、俺たちが我慢するのはおかしい。俺たちにも獲る権利がある」と主張するリビアがICCATの勧告に従うはずがない。ICCATで厳しい枠をつけても、リビア→日本という黒いホットラインがある限り、不正漁獲はなくならない。ICCATの枠組みで、資源管理が出来るという日本の主張は、明らかに無理がある
現在、畜養クロマグロは在庫が余っている。不況によって、値段を下げても、売れないのである。こういう状況で、冷凍の在庫が1年以上ある。絶滅の心配をされるほど減っている魚を、在庫が余るぐらい買いあさる必要があるのだろうか。すぐに食べないなら、海に泳がしておけばよい。そうすれば、勝手に成長して、卵を産んでくれるのに。日本商社の乱買が資源枯渇に拍車をかけているのだが、これだって、日本メディアにかかれば「しばらくは食卓への影響はあまりないので安心です」となるのだから、物は言い様である。
「ワシントン条約を妨害したから、日本の食文化が守られた」という、日本メディアの報道は事実に反している。タイセイヨウクロマグロは、持続性を考えれば、ほぼ禁漁に近い措置が必要になる水準まで減っている。ICCATがまともに規制をすれば、ほぼ禁漁になるし、今のままとり続ければ数年で魚は消えるだろう(絶滅ではなく、商業漁獲が成り立たなくなると言う意味)。どのみち、現在の水準で輸入はできない。大西洋のマグロを日本が大量消費をしている現状は、すでに破綻しているのである。今後、クロマグロの供給が減少するのは確実だが、その原因は、ワシントン条約でも、中国の消費でもなく、まともに漁獲規制ができないICCATと日本人による乱買と乱食である。
それにしても、危機感を煽るようなデタラメな表現が目立つ。読売新聞は「日々の食卓にのぼるマグロ」と表現しているが、タイセイヨウクロマグロは日々の食卓に上るような魚ではない。毎日、クロマグロを食べているのは、高給取りの読売新聞社の社員ぐらいだろう。また、「大西洋のマグロは減っていないのに、ヨーロッパが資源囲い込みのために騒いでいる」というなら、読売新聞はマグロが減っていないという証拠を出すべきである。ICCATの科学委員会もFAOもデタラメだというつもりだろうか。
いまだに大本営発表の日本メディアとそれに踊らされる国民
「資源はどうなのか」、「ICCATの管理体制はどうなのか」というのは、ワシントン条約での規制の妥当性を考える上で、必要な判断材料である。最初に、こういう情報を、正確に伝えるのが、本来のメディアの役割である。少し調べれば、幾らだって情報はでてくる。俺自身も、いくつかのメディアの取材に対して、「こういう資料があります。国民にとって重要な判断材 料になるので、紹介してください」と教えたにも関わらず、すべて無視された。海外メディア経由であれば、幾らでも情報は手に入った。知らなかったとは考えづらい。日本のメディアは、判断材料を国民に隠した上で、情緒的な表現で煽って、予め決められた結論へと誘導したのである。
日本の消費者は、地中海のマグロ漁業の現実を理解した上で、なおかつ、「ワシントン条約の規制は欧米の保護団体のジャパンバッシングであり、規制ができなくて良かっ た」と心の底から言えるだろうか。ほとんどの人は、そう思わないだろう。むしろ、「本当に規制は不要なのか?」とか、「日本のマグロ輸入はこれで良いの か?」という疑問を持つはずだ。これらの事実を報道すれば、「欧米の理不尽な仕打ちに対する日本が被害者」という、水産庁に都合の良いストーリーが成り立たな くなる。情緒的な報道を繰り返して、水産庁の望む政策を支持するように世論を誘導してきたのである。
日本にとって、都合が悪い情報をすべて隠蔽して、情緒的な表現で煽っている日本のメディアと、そのメディアに踊らされて、日本中が「鬼畜英米に、勝った」とお祭り騒ぎ。未だに、大本営発表で世論が簡単にコントロールできてしまう日本という国に、危機感を感じる。
追記(2010 3/27)
この記事は極めて舌足らずですので、次の記事も読んだうえで、この問題について考えていただけると幸いです。
もう一つ、知っていただきたいのは、日本のクロマグロ資源の現状です。日本近海のマグロ資源には漁獲枠がなく、地中海以上に無秩序な状態です。未成魚を捕りひかえれば、大西洋から輸入している分は補えます。地球の反対の減少したマグロを捕る権利を主張するまえに、自国の資源管理にきちんと取り組むべきではないでしょうか。
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モナコの敗因を分析する
敗因 その1 妥協を拒んだ結果、漁業国の反発を招いた
ワシントン条約の付属書Iは商取引全面禁止。付属書IIは書類があれば輸出可能となっている。モナコは、付属書Iでの規制を要求して、妥協を拒みつづけた。そのせいで、「保全は必要だけど、いきなり禁止はちょっと・・・」という漁業国が相次いで脱落した。
2009-09-25の記事ではこう書いた
フランスが「いきなり付属書Iはあれだから、付属書IIからでいいんじゃね?」という妥協案を出したのを、英独が「この軟弱者!」と切って捨てた時点で、 EUは分裂の可能性ありと見ていたが、否決されたようですね。
大西洋クロマグロは、西系群(メキシコ湾)と東系群(地中海)に別れている。付属書IIならまだしも、付属書Iが飛び火すると、自国の漁業がつぶれてしまうので、クロマグロ・ミナミマグロ漁業を抱えているカナダ、メキシコ、豪州も、今回のモナコ提案には、神経質になっていた。付属書IIでの合意を目指していれば、これらの国の賛同は得られただろう。また、付属書IIであれば、フランスの賛成は早期に得られていたはずで、EUは早い段階で一枚岩になり外向きに政治力を発揮できた。漁業国の国内事情への配慮が欠けたのが、大きな敗因である。
敗因 その2 漁業とは無関係な国の支持を得られなかった
漁業とは無関係の国を味方につけるノウハウを、日本はIWCを通じて持っている。今回はそのスキルが遺憾なく発揮された。IWCでは、欧米諸国も日本に負けじと激しく票とりをして、常に日本の動きを封じてきたのだが、今回は、欧州は内部分裂をして、その調整にエネルギーの大半を使うことになった。米国も、規制反対の商務省と規制賛成のNOAAが内部で激しく対立し、国として付属書Iの姿勢を打ち出したのが締約国会議の10日前。EUに至っては、付属書Iの合意を得られたのは締約国会議の3日前だ。欧米が内部調整に手間取る間に、日本は首尾一貫して外交工作を重ねてリードをした。
とはいえ、ここまで大きな差がつくことを事前に予想していた人間は、ほとんどいないだろう。水産庁自身も驚いているに違いない。これまでワシントン条約の締約国会議は、ほぼFAO専門委員会の決定通りになってきたという歴史がある。FAOの専門委員会は、大西洋クロマグロをワシントン条約で規制する必要性を認めたのだから、今回も普通に考えれば、規制になるはずだった。そう読んだからこそ、フランスもスペインも、自国の漁業者の反発を承知で、モナコ提案に同意したのである。減少は明らかだし、科学者(FAO)と当事者(EU)のコンセンサスも最終的には得られた。アラブ、アフリカなどの直接利害に絡まない国は、普通に考えれば規制に賛成するだろうと、多くの人間は思っていた。いくら日本がトロパーティーをやったところで、票の流れは限定的だと見られていた。ところが、そうではなかったんだね。アフリカの票を得るに当たって、中国の協力が大きかったと言われている。サメのリスティングを妨害したい中国と、マグロのリスティングを妨害したい日本の思惑が合致したと言うこと。マグロに関しては、畜養が地中海アフリカ側にも飛び火している。「おまえらが減らしておいて、勝手に取引停止にするな」というのが、アフリカサイドの言い分。これも、心情的には理解できる。
今回の結果は、科学的なコンセンサスを重視して、保全を優先するという風潮は、欧米の一部の国にとどまることを示した。大西洋クロマグロは、「今すぐ規制しなければ、いつ規制をするのか?」という感じなのだが、大差で規制は否決されてしまった。ワシントン条約という枠組みでは、高い経済価値をもつ、広域分布種の保全は難しいことを示したと言えるだろう。
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大西洋クロマグロは本当に減っているのか?
- 2010-03-19 (金)
- マグロ輸出規制
大西洋クロマグロは本当に減っているのか?
ワシントン条約でクロマグロを規制しようという動きは、1992年にさかのぼる。また、タイセイヨウクロマグロは、1996年からレッドリストに載っている。それから、すでに10年以上が経過している。乱獲を抑制するための時間は、十分にあったはずだ。にもかかわらず、地中海での乱獲は放置され、資源は悪化の一途をたどっている。次の図は国際管理機関ICCATのレポート(http://www.iccat.int/Documents/SCRS/ExecSum/BFT_EN.pdf)からの引用である。run6とrun7はそれぞれ、シミュレーションの設定が違うのだけど、どちらにしても減少トレンドに変わりはない。
地中海の産卵群は、現在も急速に減少している。欧州のWWFは、地中海諸国の畜養備蓄数を詳細に調べ上げて、現在の漁獲が続くと産卵群は2012年にはほぼ消滅するというレポートを発表した。このWWFのレポートは専門家・業界の間でも、かなり信頼されている。
専門家の間では、ワシントン条約での規制をすべきというコンセンサスが、すでにできあがっていた。FAOの専門委員会でも、規制に反対したのは、日本政府が派遣した研究者のみ。IWCでは、一貫して日本の捕鯨に好意的な態度をとっていた海外の研究者も、ワシントン条約の規制には賛成をした。それだけ、大西洋クロマグロの資源状態は悪いのである。「ジャパンバッシング」、「日本狙い撃ち」などと勘違いしている人も多いが、どうみても何らかの規制が必要な状況だろう。
管理機関ICCATに任せておけば安心なのか?
管理機関ICCATは、これまで科学者の提言をことごとく無視してきた。2006年の会合では、科学者が1万5000トンの漁獲枠を勧告したのに対して、ICCATが設定した漁獲枠は3万トン。実際の漁獲量は、漁獲枠を遙かに上回る5万~6万トンと推定されている。不正漁獲については、ICCAT自体が認めているのである。にもかかわらず、10年以上も何ら実効性のある手段を執ってこなかった。保全の必要性が叫ばれてから20年近く経過しても、資源状態は悪化する一方であった。こういった歴史を振り返れば、「ICCATの枠組みで管理は十分」という日本の主張に疑問の声が上がるのは当然だろう。
ICCATの管理能力の欠如に危機感を募らせた保護団体は、2008年からワシントン条約での規制を求める大規模なキャンペーンを開始した。国際世論が規制強化に傾くなかで、ICCATは去年の9月になって、ようやく科学者の勧告する水準まで漁獲枠を削減した。保護団体が、本気で拳を振り上げたのを見て、あわてて行動を起こしたのである。ICCATが設定した2010年の漁獲枠は13500トン。不正漁獲込みで6万トン程度といわれている現在の漁獲量を1/4に削減する必要がある。これまで、漁獲の削減に対して全く無力であったICCATがこのように厳しい規制をきちんと守らせることができるとは思えない。
こういう状況で、良く規制を阻止したものだと思う。本当に驚いた。今後は、その外交力を、地中海諸国に規制を守らせるような方向で発揮してもらいたいものである。
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北海道沿岸漁業者とのミーティング その4
- 2010-03-19 (金)
- 太平洋系群
スケトウダラ太平洋系群は資源管理ができる唯一の大規模資源
日本のTAC制度で、強制力があるのは、スケトウダラとサンマのみ。サンマは公海資源の出荷規制なので、実質的にまともな漁獲枠があるのはスケトウダラのみと考えて良いだろう。スケトウダラは4系群あるのだが、そのうち2つ(オホーツク、根室)は主群がロシアにある資源なので、日本単独での漁獲枠の設定自体に意味があるか疑問である。日本のEEZに主群がある2つの資源のうち、日本海北部系群は過剰な漁獲枠によって激減してしまった。資源が悪くなる前に、適切な漁獲枠が設定できたのは、スケトウダラ太平洋系群のみ。この漁業は、国内で唯一の、出口規制で管理されている大規模資源なのである。この資源を利用しているのは、北海道の沖底と、沿岸漁業者のみ。沖底と沿岸はあまり仲がよろしくないのだが、それぞれの漁獲枠は予め分けられている。沖底と沿岸の内部では、ある程度の調整は可能である。俺が繰り返し主張してきた、漁業を生産的にするための次の2つの条件が満たされているのである。
- 漁獲枠を資源の生産力に対して適切な水準に下げる
- 漁獲枠を内部調整が出来る単位まで配分する
なんと、スケトウダラ太平洋系群は、個別漁獲枠制度の条件がそろっているのだ。
漁業はどう変わるのか
漁獲枠がしっかりとしていれば、資源量は安定する。また、漁獲枠が限られていれば、漁師は、市場の需要がある、価値のある魚を狙って捕るようになる。安定 して質の良い魚が水揚げあされれば、需要は必ず増える。結果として、値段はあがり、ブランドも確立できる。管理の実績を積み上げた先には、MSCのエコラ ベルも見えてくる。欧州の白身市場は韓国とは比較にならないぐらい単価が高い。将来的には、ここを狙いたい。数十年スケールで、安定して利益が出る産業に なれば、後継者問題も自ずと解決するだろう。
そのために必要なことは産官学がそれぞれの役割を果たすことだ。
- 研究者の役割:資源の生産性に応じた漁獲枠を勧告する
- 行政の役割 :研究者が設定した漁獲枠を沖合と沿岸に配分 し、きちんと守らせる
- 業界の役割:与えられた漁獲枠から得られる利益を増やし、ここの漁業者の生活が成り立つように配分する
スケトウダラ太平洋系群では、それ ぞれが自らの役割を果たし始めている。歯車がかみ合えば、必ず漁業は利益を生むようになる。
漁獲枠のせいで、魚がいるのに捕れないというのは、漁業者にとってはつらいことだろう。サバ類のように、資源状態が最悪なのに、業界の要求通りいくらでも漁獲枠が水増しされている魚種もあるのに、自分たちだけ漁獲枠で漁業を制限されて不公平だと感じるだろう。しかし、本当に恵まれているのは、北海道のほうである。太平洋のサバ漁業など、自分で食い扶持を破壊しているようなものである。資源管理をしなければ、資源が維持できないのだから、漁獲枠はあった方が良い。国際的にみても実際に、利益を出している漁業国は、資源管理に熱心な国ばかり。アラスカのスケトウダラ漁業は、個別枠が導入されてから、収益が急増した。スケトウダラ・バブルと言っても良いような状況にある。太平洋系群でも、同じように利益を伸ばしていけるはずである。沖合底引きは、すでに資源管理への適応を進めている。漁獲枠を内部で調整し、経済的に有効利用する仕組みを作っている。漁獲枠を守った上で、利益をのばし、新船を建造しているのだから、たいしたものである。こういう風に利益が出るようになったのは、漁獲枠が設定されてからである。加工業者との縦の連携も強化されているようである。このあたりの話は、今度じっくり聞きに行くつもりだ。
教育が成功の鍵
太平洋系群を利用する沿岸漁業は、広範囲に及んでおり、内部の調整は沖底と比べると遙かに難しい。時間がかかるのは当然である。日本では、漁獲枠の管理の歴史がないので、資源管理は「収入が減少するいやなこと」というマイナスなイメージが強い。しかし、実際には、漁業者がこれからも生活をしていくためには必要不可欠なのである。現在の北海道漁業は、変化の時期を迎えている。運を天に任せて、獲れるだけ獲る漁業から、需要が高い魚を計画的に獲る漁業へと変化が徐々に進みつつある。もちろん、変化には常に痛みが伴うのだが、この痛みを和らげるために必要なものが教育である。北海道の漁業はどのような段階にあるのか、今後、どのような方向に進まなくてはならないのか、そして、その結果として、漁業はどのような姿になるのか。これらに対して明確なビジョンをしめすことで、漁業者の感じる痛みを軽減し、変化を促進することができる。海外には、ノルウェーやアラスカのように、この痛みを乗り越えて漁業を改革した国が多数存在する。こういった事例を学ぶことで、自分たちがどこに向かっているかを理解することができるだろう。
沿岸漁業者に、資源管理の話を直接して欲しいという依頼があったが、二つ返事でOKをした。資源管理の意味を教えるのは、我々専門家の仕事であり、日本国内でそれをできる人材はほとんどいない以上、俺がやるしかない。「資源管理で持続的に儲かる漁業」というイメージが浸透すれば、北海道は必ず生まれ変わる。噴火湾周辺のプランクトンの生産量は極めて高いので、親をしっかりと残した上で、効率的な獲り方をすれば、収益は必ず上がる。スケトウダラ太平洋系群は、日本漁業のありかたを変えるきっかけになるだろう。現場の情報と、資源管理の理論がかみ合って、具体的なビジョンを出していくことで、漁業を生産的な方向に導くことができる。漁業者のリーダーと資源管理の専門家が、漁業を持続的・生産的にするという共通の目的をもって、建設的・前向きな話ができたということは、とても意味がある。次に繋がる有意義な会合だったと思います。
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北海道沿岸漁業者とのミーティング その2
過剰な漁獲枠は沿岸漁業のためにならない
スケトウダラ日本海北部系群は、90年代から卓越が発生せずに、資源がじりじりと減少していた。そのような状況で1998年に待望の卓越年級群が発生した。1998年級の資源量を大幅に過大推定した結果、過剰な漁獲枠が設定されていた。沖底は広範囲を自由に操業できるので、卓越年級群であった1998年級を2歳、3歳といった未成熟な段階でほぼ獲り切ってしまった。ふたを開けてみれば、心待ちにしていた卓越年級群が沿岸漁業の漁場である産卵場に戻ってくることは無かったのである。減少期に生まれた唯一の卓越年級群を未成熟のうちに獲り切ったことで、この資源は壊滅的に減少してしまった。
詳しい経緯は過去ログをみてください
http://katukawa.com/category/study/species/suke/page/3
http://katukawa.com/category/study/species/suke/page/4
この失敗から学ぶべき点は2つある。
1)不確実な段階で漁獲枠を増やすのは危険
現在の漁船は、沿岸も沖合もすこぶる性能がよい。多少、魚が多くても、獲ろうと思えば、獲り切れてしまうのだ。資源評価が不確実な段階で、スケトウダラの漁獲枠を増やすと、資源の持続性の観点から賛成できない。研究者は、魚が獲れるからといって、すぐに漁獲枠を増やさなかった。日本海北部系群を減らしてしまった苦い経験から、慎重にならざるを得ないのである。
2)過剰な漁獲枠設定によって、沿岸の既得権が失われる
漁獲枠が過剰だと、沿岸はTACを消化できない。その一方で、沖底は未成魚を獲ってつじつまを合わせることができる。沖底は過剰な漁獲枠を未成魚で埋めたが、沿岸は過剰な漁獲枠を消化できなかった。結果として、沿岸の未消化枠が取り上げられて、沖底に配分されてしまった。沖底と沿岸の漁獲枠の比率は、昔は5:5だったのが、現在は6:4ぐらいになっている。漁獲枠を増やせば、沿岸漁業の既得権を沖底に譲り渡す結果になるのである。
ただ、こうなるのは、水産庁の漁獲枠配分方法に問題がある。この点については以前から指摘をしてきた。スケトウダラ日本海北部系群の漁獲枠を沿岸が消化できなかった理由は、漁獲枠が過剰だったからである。資源評価を下方修正した後も、水産庁がABCを無視して、過剰な漁獲枠を設定し続けている。結果として、沿岸は漁獲枠を消化できずに、既得権を失い続けている。資源量に対して適切な漁獲枠を設定し、それでも消化できなかったのなら、未消化枠の有効利用について議論をしても良いだろう。明らかに過剰に設定された枠を消化できなかったからといって、未来永劫その権利を取り上げるのは、おかしな話である。乱獲をした漁業者の枠が増えて、乱獲しなかった(できなかった)漁業者の枠が減るなどという話は聞いたことがない。こういうおかしな実績主義によって、「与えられた漁獲枠はなんとしても消化しないといけない」という強迫観念を漁業者に植え付けている。
TAC制度の問題点
水産庁は、持続性を無視した漁獲枠を設定しておきながら、未消化枠は取り上げる。漁業者は既得権を守るために過剰な枠を埋めねばならず、結果として乱獲を推進している状態である。改善案
未消化枠を取り上げるのはやめるべき。豊富な資源に限り、未消化漁獲枠の一部を翌年に持ち越せるような仕組みを導入する。たとえば、ニュージーランドでは、年間漁獲枠の10%を上限として、未消化の漁獲枠を翌年に持ち越すことができる。そういう仕組みがあれば、無理に獲らなくなるだろうし、漁獲が遅れれば、それだけ資源にも漁業にも良い影響がある。
沿岸が無理して獲らなくても良いような、制度設計を考える必要がありますね。
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北海道沿岸漁業者とのミーティング
音響ミーティングの翌日に、道漁連幹部と北海道の組合長3人と会合をした。内容は、スケトウダラ太平洋系群の資源管理に関する事柄。先方からは、沿岸漁業の資源管理の取り組みに関する情報提供があり、こちらからは、資源評価の内容や、今後の管理の方向についての提案を行った。結果から言うと、非常に建設的で、有意義な会合でした。実際に会って、意見交換をするのは重要ですね。
バックグラウンド
一般読者にもわかるようにバックグラウンドを少し説明します(わかっている人は読み飛ばしてください)。スケトウダラは冬に産卵場にやってくる。その産卵群を待ち伏せして刺網で漁獲をするのが沿岸漁業。一方、広範囲で未成魚から漁獲するのが沖合底引きである。今年は、魚が産卵場に来るのが早かったので、沿岸は漁期前半に漁獲枠の大部分を消化してしまった。もともと、初回成熟の親が多いから、来遊が早いというのはわかっていたので、沿岸漁業者は自主規制で網の長さを短くしていた。それでも予想を上回るペースで獲れてしまったのである。
沿岸漁業者は、資源が豊富なので漁獲枠を増やすように11月にデモを行った。また、北海道水産試験所の音響調査で、魚群密度が高いという結果が得られたことから、そのデータを元に漁獲枠を増やすかどうかを検討する会議が、年を越して1月8日に緊急開催された。この会議には、俺は北海道外部委員として出席した。水産庁はその前の月にも、低水準なサバ類の漁獲枠をホイホイ増やしたばかり。今度も増やすのだろうと警戒しつつ、情報を収集したところ、広範囲でそれなりに獲れているし、値段も悪くないことがわかった。「資源量もそれなりに安定しているので、マサバ太平洋のような危機的状況ではない。TACがABCを超えている状態なので、期中改訂による増枠はしないにこしたことはないが、するにしても沿岸・沖底それぞれ3000トンが限度」、というような方針で会議に臨んだのです。ところが、予想に反して、国が毅然とした対応をして、「増枠はできません」ということになりました。増枠しないという結論に異論はないので、会議では特に発言をしませんでした。
結局、期中改訂は見送られ、沿岸は漁獲枠を消化したため、1月中頃に終漁となりました。漁期中にTAC満了で漁獲をやめるのは2007年以来です。
会議が終わった後、ブログに北海道漁業者の資源管理意識について厳しいことを書いたのです。それが北海道の沿岸漁業者の目にとまり「誤解を解きたい」ということで、今回のミーティングになったのです。いろいろと話を伺って、沿岸もTACを軽視していないというのは、良くわかりました。また、ブログでは書きすぎた部分もあったので、その点については、真摯に謝罪をしました。その上で、今後、北海道の沿岸漁業をどのように発展させいていくかという観点から、いくつか提案をしました。
勝川の主張
1) 漁獲枠は増やさない方が沿岸漁業の長期的利益が増える
2) 研究者は増枠に消極的な理由
3) スケトウダラ太平洋系群の資源管理の今後の方向性
私からの提案については、次回以降で、詳しく説明します。
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羅臼漁協14隻にデータ空白【全国・海外ニュース/ 社会】- 大分合同新聞
羅臼漁協14隻にデータ空白【全国・海外ニュース/ 社会】- 大分合同新聞.
羅臼漁協のほかの14隻も位置情報を把握するための衛星通信漁船管理システム(VMS)のデータに2時間以上の空白があることが22日、北海道の調査で分かった。
今度、米国にVMSの話を聞きに行くから、こういう空白が日常的に生じるものなのか質問してみようっと。
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アイスランドの漁業者はなぜ減ったのか?
資源管理反対派は、「資源管理を導入すると、弱小漁業者が淘汰されてしまう」として、ITQ制度の導入に反対している。では、資源管理をしなければ、弱小漁業者は安泰なのかというと、そんなことはない。日本の漁業はベテラン漁師が食っていくのが精一杯であり、とても若者が参入できるような状況ではない。新規加入が途絶え、消滅は時間の問題だろう。
世界に先駆けて、ITQを導入したのはアイスランドとニュージーランドであった。ともに、生活水準の高い、先進国である。ニュージーランドについては、ITQの導入によって、魚を獲る人は減ったが、加工する人が増えいる。ITQ導入後、漁業全体の雇用は増加しているのはデータからも明らかである。また、NZではITQによって、離島の小規模漁業者が生存しているという現実もある。本人たちが言うんだから、間違いない。
アイスランドの漁業就業者の人口をまとめると次のようになる。ITQ導入から、現在までをカバーする統計が見つからなかったので、2種類の異なるデータをまとめて表示した。数値自体は近いのである程度のトレンドはこれで追えるだろう。アイスランドの漁業者は、2000年までほぼ横ばいで、その後激減している。ITQを導入したのは80年代のことであり、ITQが原因であれば、もっと早く漁業者が減ってしかるべきだろう。2000年から近年まで、アイスランドは金融バブルにわいていた。漁業者の減少は、より利益が期待できる金融関係のサービス業に労働力が移動した結果である。
ITQ制度では、自らの漁獲枠を売却して、それを元手に事業を始めることが出来るから、労働力の移転のハードルを下げる効果はあるだろう。本人が望んで漁業を離れたのであり、それによって、過剰な漁獲能力が削減でき、社会の生産性が上がる。社会にとっても、漁業者にとっても、悪くない選択だ。日本の漁業者は、船の借金を抱えながら、生産性の低い漁業に縛り付けられて、最後は夜逃げや首つりを余儀なくされる。政府は、過剰な漁業者を維持するために、現金をばらまくようだが、そんな余力は日本の財政にあるんですか。そんな税金の使い方をして、納税者にいったい何のメリットがあるのかさっぱりわからない。
ITQの方が、漁業者にも納税者にも優しい、合理的な社会システムであると思う。
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