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自主管理には成功例があるが、裾野が全く広がっていない件について

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漁業者による自主管理の成功例としては、
日本海のズワイガニ、秋田のハタハタ、伊勢湾・三河湾のイカナゴが有名である。
これらの成功例に関しては、いろいろな場所で紹介されているので、ご存じの方も多いだろう。
では、それ以外はどうだろうか。実は、それ以外の成功例はほとんど無いのである。
自主管理で守られている沿岸資源はほんの一握りである。例外的に成功している事例を除いて、
自主管理は広がっていないという厳しい現実がある。

自主管理の成功例の共通点を見ていくと、そこには高いハードルがあることがわかる。
そのことに関しては、既に書いてある。
http://kaiseki.ori.u-tokyo.ac.jp/~katukawa/blog/2006/10/6_1.html
http://kaiseki.ori.u-tokyo.ac.jp/~katukawa/blog/2006/10/7_1.html

自主管理の必要条件
1)生産力が高い資源を自分たちだけで囲い込める
2)コミュニティーに個人の利益よりも全体の長期的利益を重んじるリーダーがいる
3)長期的な視点から、漁業者にものが言える現場系研究者がいる
4)資源の壊滅的な減少を経験

資源管理っていうのは、とても手間暇が掛かる。
自主管理の場合は、会合の場所の確保から、すべて手弁当でやらなければいけない。
みんなが手間暇をかけるのに見合うだけの経済的なリターンが期待できないと、そもそも管理をする意味がない。
また、「資源が回復したら、全部余所の漁業者に獲られてしまいました」では、お話にならない。
高い経済性をもった資源を自分たちだけで抱え込めている状況が必要になる。
これが1)の条件だ。

ただ、高い経済性をもった資源は、漁業経営の柱となっており、
資源が悪化したからと言って、簡単に漁獲量を減らせない。
ようするに、経済的に大事な資源ほど、漁獲にブレーキをかけづらいのだ。
1)の条件を満たしている場合にも、やはり、自主管理がすんなりいくわけではない。
そこで、出てくるのが4)の条件なのだ。
資源がとことん悪くなれば、漁業として殆ど利益が出せなくなる。
殆ど獲れなくなれば、たとえ禁漁をしたとしても、経済的には大きな影響がない。
ここまで減らせて、初めて、効力がある措置が導入できる。
3つの成功例は、どれも、こういう状況から資源管理がスタートしている。

高い経済性をもった資源を、獲っても獲らなくても大差がないところまで、
自分たちの手で枯渇させてしまった苦い経験。
過去の儲かっていた時代のバラ色の記憶。
この2つが(機能する)自主管理を始めるための必要条件なのだ。

法的な拘束力がない中で、強制力のある管理をするには、村八分理論による強制力が必要になる。
漁業で怖いのは、海難事故だ。いざというときに助けてくれるのは同業者しか居ない。
遭難したときに、皆が網をあげてまで自分を探してくれるかどうかは死活問題であり、
沿岸漁業には、村八分による強制力を発揮しやすい土壌はある。
ただ、この強制力は良い面にも働くが、悪い面にも働く。
リーダー(もしくは有力な漁業者)が資源管理に後ろ向きなら、自主管理はほぼ不可能だ。
自主管理の拘束力のキーとなるのは、「リーダーを本気にさせられるかどうか」にかかっている。
これが条件3)。

そして、そのためには、「リーダーを口説ける」現場系研究者が必要なのだ。
これが条件4)。
秋田の杉山さんも、三重の冨山さんも話しに、凄く説得力がある。
あれは素人がまねしようとして、出来るレベルじゃない。

以上をまとめてみると
経済性の高い資源を自分たちだけで抱え込んでいるという美味しい条件が必要。
その資源を自分たちの手で、漁業が成り立たないぐらい減らしてしまうという苦い経験が必要。
禁漁をしても、大差がないぐらいのところまで減ったタイミングでのみ、実行力がある管理措置がとれる。
そのタイミングで管理を始めるには、浜のリーダーを本気にさせないといけない。
そのためには、説得力抜群の現場に精通した研究者が必要になる。

これらの条件のうち、1つでも欠けたら自主管理は無理だろう。
自主管理は出来て当たり前のことではなく、出来た浜が凄すぎるのだ。
自主管理の成功例は、イチローのようなものであり、普通の浜の普通の資源では無理だろう。

Comments:13

K 07-10-09 (火) 18:24

>1)生産力が高い資源を自分たちだけで囲い込める
これがどの程度を高い生産量と呼ぶのか分かりかねるのですが、漁業対象種として成り立つのは一部の高級魚を除いて、高い生産量を持つものでは無いのでしょうか?
で、あるとすれば、2,3は管理者側の啓蒙力や研究者のやる気に関わる事で、4は現在資源管理を必要としている魚種にほぼ共通していることでしょうから、クリアしなくてはいけないのは2と3。
 もちろん簡単ではないのは分かるのですが、前述した腰の重い政治家を動かして頭の固い水産庁に仕組みを作らせ既得権益を持った漁業者から権益を奪うのに比べて、それほど悪い状況だとは思えません。
 あとしょうもない突っ込みで申し訳ありませんが、冨山さんは愛知県だと思うのですが・・・・三重県側は一概には冨山さんの自主管理のうまみを得ているとはいえないと思いますので。

ユウラ 07-10-10 (水) 17:44

>K様
はじめまして。資源管理に興味を持ち、合意形成に重点を置いて研究しているユウラといいます。

今回の発言で気になる点があったのでコメントさせていただきます。

>クリアしなくてはいけないのは2と3。
ここの発言についてです。確かに2と3はクリアしなくちゃいけませんが、4の資源管理を必要としている魚種にほぼ共通している問題という点は違うと思うのです。

確かに今の日本の水産資源はかなりひどい状況にあります。
しかし、それでもまだ漁業者は「資源は少ないけど獲らなきゃお金が入らないから獲らなきゃならね~~」って漁をやめることはないです。

ここでいう壊滅的な減少というのは「やばい、もう網おろしても魚が獲れへん。こりゃ俺らも赤字やけど、漁出るのやめなな~~」というぐらいの減少だと思います。

漁業者に資源管理のやる気を出させるという点でいえば、Kさんのいう啓蒙力に含ます。しかし、その啓蒙力があれば今の資源の状況になってはいないでしょう。

実際に漁業者がやる気を出すには4の資源を壊滅させる、というのがかなり必要となってくるという話ではないのでしょうか??

ユウラ 07-10-10 (水) 18:40

連続で投稿を失礼します。

本文についての感想を書いてなかったです。

自主管理についての4つの条件はとても説得力があり、僕も友達に自主管理の説明をするときに使わせてもらいます。

しかし、資源の壊滅的な減少について、ちょっと意見があります。
先日もお話した兵庫のイカナゴの事例なのですが、兵庫県の漁師はこの条件を満たしていないんですよ。
勝川さんの教えを信仰していた僕にとってはそれは衝撃的でしたww
昭和30年代に兵庫県がイカナゴの産卵場となるじゃりを工事のために採集しようというしたんですよ。しかし、イカナゴ漁師がこれに猛反対し、産卵場を守ったという歴史があるらしいのです。そのため、イカナゴの資源に対する思いが強かった。結果として後の解禁日統一決定の指標となる試験場の資源量調査のデータもかなりスムーズに受け入れられたのでしょう。

まだイカナゴの事例しか存じないのですが、資源が減っていないのに、資源の重要性がわかり、自主的な管理が成功しているのは貴重な事例と言えると思います。

今回の事例で注目していきたいのが、自分達が魚を獲りすぎると、翌年の漁獲量に影響があった点です。漁業者が獲りすぎると、その反動がすぐに実感できる点。
漁がどれだけ影響を与えているかを実感させることができる方法を模索できれば自主管理の成功に近づくのでしょうね。

イチローは努力の人と聴いています。天才も努力は必要なんだよ、とわかるビデオを作った方がいいでしょうかww

それでも才能(自分たちで資源を囲みこめるという条件)は必要になるのですけどね・・。

匿名で甘えさせてもらっているヒト 07-10-11 (木) 0:27

ユウラさん

貴君の仕事は、かなり興味深いですね。論文にしたら(もうしてるのかな?)、是非、雑誌名とVolだけでも教えてください。探して読ませてもらいます・・・楽しみです。

>まだイカナゴの事例しか存じないのですが、資源が減っていないのに、資源の重要性がわかり、自主的な管理が成功しているのは貴重な事例と言えると思います。

私も一例しか知りません。
そういう浜では、後継者もいるし、息子が父親を尊敬しているし、本当に良い状況にあります。
希少なのでしょうけれども、そういう浜に行くと、「まだまだやれるか」という気持ちになります。

あと、老婆心ながら・・・
K氏の言うところの「高級魚」の位置づけですが、世の中に絶対的な「高級魚」も「雑魚」もいないと私は思っています。
資源に増減があるように、志向も変わるし、希少価値が出る場合もあるし、隠れた名産があったりもします。

前に、「タレントが宣伝してくれたおかげで、いい小遣いになったょ」って言っていた漁師がいましたが、それって、今では本体よりも単価の高い状態が、もう10年以上続いています。それまでは自家消費するか捨てていたものなのに・・・『根昆布』です。

そのうちに、厳しい浜の状況も今以上にイヤというほど見せ付けられるようになるかもしれませんが、事実は事実として受け入れ、漁師や組合の人たちが私らに対して下す評価も認識した上で、なんとか、良い方向に持っていくようにしましょう。

若いうちから浜に入っているのは、とても良いことだと思います。
同世代の浜の関係者と、たくさん話しをしてください。
私もたくさん話をするように心がけます。
遅々たる歩みかもしれませんが、それが、彼らの意識を変える一歩になると、私は信じています。

説教臭くなって、ゴメン・・・
お互い、がんばりませう♪

ユウラ 07-10-11 (木) 11:01

>匿名で甘えさせてもらっているヒト様

はじめまして・・と挨拶するべきでしょうか。
以前からコメント欄でお見かけしておりました。ユウラと申します。
僕の論文に興味をですか。ありがとうございます。しかしながら・・雑誌にまだ投稿する予定はないんです。申し訳ございません。
もしまとめ上げることが出来たらご報告させていただきます。

>私も一例しか知りません。
>そういう浜では、後継者もいるし、息子が父親を尊敬しているし、本当に良い状況にあります。
>希少なのでしょうけれども、そういう浜に行くと、「まだまだやれるか」という気持ちになります。

もしよろしければその事例を紹介していただきたいです。論文の事例でぜひ聞きとりに行ってみたいです。
後継者がいて将来のことを考えて漁を行える環境があるというのは大事な要素でしょうね。
息子さんが父親のどういう部分を尊敬しているのか、ここの部分はリーダーシップにつながる部分もあるかもしれませんね。

匿名で甘えさせてもらっているヒト 07-10-11 (木) 19:40

ユウラさんへ

>もしよろしければその事例を紹介していただきたいです。

その組合のある海域の担当だったのは、ずいぶん昔・・・年賀状のやり取りのある方は2、3人いますが、現状がどうなっているのかは人伝の状態です。

事例の紹介はやぶさかではないのですが、申し訳ありませんが、匿名性が薄れてしまうと、書きづらい面もあって・・・

それに、私はユウラさんのことを知りません。
紹介するのであれば、今でもかすかにつながっている方々に手紙の一つでも書くのがスジだと思うのですが、貴君の人となりが分からないと、少々、つらいものがあります。

直接、やり取りのできる方法があれば良いのだけれども・・・少し時間をください。何か考えて見ます。

ユウラ 07-10-12 (金) 12:29

>匿名で甘えさせてもらっているヒト様

あっ、なるほど・・・匿名性が薄れてしまう可能性があるのですね。
考慮が足らなくてすいませんでした。
どこかの漁協や団体の事例でしたら自分で連絡先を探して調査にいったのですがね。
それをできるのが学生の特権だと思っております。

はぃ、またいつか学会などでお会いできることがあるならばその時は連絡先の交換でもできたらいいですね。

勝川 07-10-12 (金) 14:04

匿名さん:
シンポジウムでお会いしたことがありますが、
ユウラさんは、まじめそうな学生さんでしたよ。
まあ、中身までは、わかりませんが・・(笑

これがきっかけで、ネットワークが広がれば有意義ですので、
直接メールでやりとりをしていただけるなら、私が仲介します。

匿名で甘えさせてもらっているヒト 07-10-12 (金) 22:20

氏へ
ご配慮いただき、痛み入ります。

ユウラさん
勝川氏のせっかくのご厚意ですので、もし、貴君に「否」がないのであれば、甘えませう。

氏は、私のアドレスをご存知のことと思いますが、それをユウラさんにお教え願えますでしょうか。

なにとぞ、よしなに。

勝川 07-10-15 (月) 9:55

ユウラさん:
匿名さんのメールアドレスを
ユウラさんのyahooのアドレスに発信しておきました。
確認してください。

ユウラ 07-10-15 (月) 10:09

お返事遅れて申し訳ないです。
「まじめな学生」はちょっと土日にゼミの資料を読んでおりました。
えぇ、近所の娯楽店のリニューアルに息抜きにいってたなんてことはありませんよ(笑)

>勝川さん
考慮ありがとうございます!!
はい、ぜひともそうしていただくとありがたいです。
以前にメールアドレスを送りました(というか、ここに書き込みましたが)、もう一度書いた方がよろしでしょうか??

>匿名で甘えさせてもらっているヒト様
はい、もちろん、この機会を有意義に活用させていたこうと考えております。
連絡お待ちしておりますね。
いろいろとご教示お願いします。

匿名甘えヒト 07-10-15 (月) 22:37

「名前」が長いので、短縮してみました♪

ユウラさん
私のメアド、勝川氏から受け取ってもらえましたか?
直接、メールして下さい。

氏へ
このブログを「連絡帳」にしてしまい、申し訳ない・・・m(_ _)m

勝川 07-10-16 (火) 14:07

いえいえ、ここがきっかけで有意義な交流が産まれれば、
こちらとしても嬉しいです。

ここも立派な「出会い系ブログ」の仲間入りです。

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