自主管理には幸運が必要

先に述べたように、非常に厳しい条件がそろって、はじめて、
強制力を実行力をもった資源管理を始めることが出来る。
しかし、資源管理を始めたからと言って、安心するのはまだ早い。

儲けが殆どでないぐらい減らしてしまった資源は、
獲らなくてもそのまま低迷する可能性がある。
減らしすぎると、資源の増加力が失われてしまうのだ。
また、回復するにしても、10年、20年といった時間がかかる場合もある。
自主管理の成功例は、管理開始後、すぐに資源回復という結果が出た。
ある意味、運が良かったのである。
杉山さんは、「ハタハタが回復したのは本当に運が良かった。
やっぱり、ハタハタは神のさなかなのです」と語っていた。
当事者は、そのことを認識しているのである。

たしかに、自主管理の成功例の陰には幸運もあった。
ただ、その運を活かせたのは、きちんとした管理システムをつくった現場の人間の功績である。
人事を尽くしたからこその天命であった。
海洋環境の影響などで、資源の生産力は大きく変動する。
だから、資源管理は出来ないと言う漁業関係者は多い。
適切な管理システムが欠如していたら、自然現象で一時的に資源が増加しても、
資源を枯渇させてしまうのは時間の問題だろう。
マサバ太平洋系群しかり、サワラ瀬戸内海系群しかりである。

自主管理については、いくつかの朗報もある。
自主管理は水平的には広がっていないが、
既に成功例がある場所では垂直的な広がりを見せている。
愛知では、イカナゴに続き、イカの自主管理に取り組んでいるが、これは期待しても良いだろう。
しかし、垂直的な広がりには、限界があるのも、また事実である。
以前、冨山さんに「一人でいくつぐらいの漁業を自主管理できますか?」と質問したら、
「4つぐらいかなあ」という話だった。
ただでさえ、人の数も質も厳しい中で、冨山さんレベルの人間を、
管理が必要な資源の数/4人もそろえることはまず不可能だろう。

いくつかの好条件が重なったときのみ、自主管理は開始できる。
現状では自主管理は資源が枯渇した状態から開始せざるを得ない。
資源が回復するかどうかは、運だのみになってしまう。

今のままでは、厳しい条件をくぐり抜けた幸運な漁業しか生き残れない。
それでは、産業としての漁業は滅びたも同然である。
自主管理を水平的にも垂直的にも広げていこうと思ったら、
自主管理に欠けている条件を、外から強制的に補う必要がある。
資源が枯渇する前に、漁獲にブレーキをかけることを義務づけるのは国や行政機関の仕事だろう。

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自主管理には幸運が必要 への1件のコメント

  1. 匿名で甘えさせてもらっているヒト のコメント:

    直球ストレート,ど真ん中な結論ですな・・・

    昨年から,何度も聞かされている話ではありますが,
    現場的にも,それ以外にはないなぁ,とマジ思います。

    組合では,偉いヒトほど,
    目先の収入にこだわって恫喝的なのは何故だろう・・・
    「漁師に獲らせないわけにはいかない」
    「食っていけない」
    「そんなもん(調査やリスク管理)に金なんかかけられない」
     (カンだけで,昔の経験だけで,できるほど,もう,そんなに甘くないつーの!)
    等々・・・
    そんなにデカイ声で怒鳴るなよぉ・・・
    気弱な私はビビリまくってしまう。。。

    漁師はというと,
    「いないって言ったって,獲れる場所はあるんだ」
    「だいたい誰が行ったか(密漁),音で分かるんだ」
    「昔のヒト達の方が,よっぽど悪かったぞ」
    「それは余所の浜の話だろぅが!」
     (生き物の基本的な特徴は,変わらないつーの!
      海域特性はその次の話なんだから,まず,オレの話を聴け!
      5分だけでもイイ・・・)
    等々・・・
    息子や娘にも自慢出来る話か!?・・・
    ため息。。。

    行政サイドは,
    「その量では漁師は納得しないから,行政的配慮で許容量UP!」
    「増殖場か魚礁でも造るか・・・費用対効果をカキコカキコ」
    「議会から質問が来たけど,なんでそんな事も分からないの!」とのお叱り
     (人工衛星で水深500mの水温・塩分が
      リアルタイムで分かったら,誰も苦労しないっつーの!)
    等々・・・
    どーでもいいけどさ,頼むから,10%と50%とを足して2で割って,
    『ここ2年の平均は30%』って書類に書き込むの,止めてくんない(呆)・・・
    (分母が違うだろーが!って説明したら,彼は怖いってレッテルが張られた)
    科学って,なんだろう。。。

    あっ・・・
    「月夜の晩だけじゃないんだぞ(怒)」
    ってのも,聞いた話だなぁ・・・(怯)。。。

    模範解答はある。
    正解も知っている。
    でも,答案用紙に書くのは,『へのへのもへじ』

    しかも,自分たちはちゃんと資源管理をしているって,
    信じているトコロが怖い・・・
    あるいは,資源管理なんて,適当にやっていれば,
    何とかなると思っているのかも。。。
    (組合+漁師+行政サイドの事務屋さん)

    つくづく,つくづく,難しいの・・・少々お疲れ・・・
    「じゃぁ,知らねぇよ! 勝手にやんな!!!」
    って何度,言いたくなったコトか。。。

    成功例ってのが,軌道に乗るまでの道程が
    生半可なモンじゃないってことは,痛い程,よく分かります。

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