Home > その他 > 研究者タイプ論

研究者タイプ論

[`evernote` not found]

乱獲を支える口利きシステム

漁業者は政治家に陳情する。
政治家は票を集めるために水産庁に圧力をかける。
水産庁は、声の大きな政治家がバックにいる漁業に補助金を配る。
この手の口利きシステムは漁業に限らず、至る所で日常的に目にする。

 Image200712211.png

口利きシステムは、漁業者の意見を政策に反映する手段であり、良い面もある。
これをなくればよいというものではない。
しかし、税金で乱獲を支えている現状は、多くの納税者の利益になるとは思えない。

さて、この乱獲漁業に対して、研究者はどのように対応してきただろうか。
ここでは主に3つのタイプに分類してみよう。

1)パラダイス鎖国系

水産学という肩書きを持つ研究者の多くは、実は漁業には関心がない。
魚の生態だとか、海流だとかに関心があり、漁業を口実に趣味の研究をしている。
パラダイス鎖国系研究者の特徴は、漁業について何も知らないことである。
「この研究は漁業の役に立つ」と口にするが、自らの研究費を確保するための方便に過ぎない。
Image200712212.png

 

2)馬鹿正直系

まあ、中には愚直に水産庁や漁業者に諫言をする研究者もいる。
しかし、諫言をした結果、かえって疎んじられてしまう。
馬鹿殿に仕える忠臣のようなものである。
水産庁に諫言をすれば、「そんないい加減なアセスメントは信用ならぬ。
不確実性を撲滅してから、顔を洗って出直してこい」と怒られてしまう。
研究者が、無理難題に四苦八苦している間に、期中改訂でもなんでもやりたい放題だ。
また、漁業者に諫言すれば「俺たちには生活がかかってるんだ。
顔を洗って出直してこい」と怒られてしまう。
そして、今日も一生懸命、顔を洗っているのである。
聞く耳を持っていない人間に対して何を言っても無駄なのに・・・
Image200712214.png

 

3) 御用学者系

例えば、まともに審議をした試しがない某審議会がある。
国を代表する学識経験者を集めたはずなんだけど、議事録を見ればわかるとおり、
官僚からお勉強させてもらっているようなお寒い状況である。
とても政策につっこみを入れられるようなレベルではない。
日本にはそんな専門家しかいないわけではなく、
身辺調査を念入りにした上で、そういう人を選んでいるのだろう。
研究者はこんな感じだし、漁業者は陳情の場と勘違いしているしで、
唯一まともなのは企業から来ている人だが、
彼らの意見は「今後の検討課題とします」といって、完全にスルーされている。

一般人はこのような審議会システムなど知るよしもない。
そこで、「こういう偉い先生がゴーサインを出したなら大丈夫だろう」とコロッとだまされる。
一般人の専門家への信頼を良いことにやりたい放題だ。
審議会に偉い先生を並べておけば、下っ端研究者が批判できないというメリットもある。
あるシンポジウムで、マイワシのTACが資源量を超えていたことを痛烈に批判したら、
審議会の前委員長が、その後、ずーっと俺の方を睨んでた。
彼は自分の役割が、自分たちが無批判に承認した政策にけちがつかないように、
下っ端研究者に「睨みをきかす」ことだと思ってたんだろうな。
批判を受け止めて、よりよい審議をしていこうなんて姿勢はさらさら無い。

審議会の仕事は、審議をすることではなく、
官僚が出してきた案を審議をせずに了承することだ。
審議会は、外部の研究者を黙らせて、水産政策の実像を納税者から隠すための道具である。
一般人に情報を伝えることではなく、一般人への情報を遮断するのが審議会の機能なのだ。

Image200712215.png

 

 

Comments:5

ある水産関係者 07-12-23 (日) 0:26

今月初め、大本営の元大物参謀が急遽、大本営と独法Sを退職しました。その参謀とは、このプログでも有名なK氏です。
それと前後して、ある知人から膨大な量の情報を渡され意見を求められました。情報にザッと目を通すと、それがK氏の退職に関わる生々しい内部告発であることを直感し、久々に背筋が寒くなる思いがしました。
詳しい内容は割愛しますが、そこには大本営と独法Sが形振り構わず「組織防衛」に託け、共謀してK氏を葬り去ろうとするプロセスが赤裸々に記録されていました。
「大本営や独法Sに何も話をしないで、独法Sの役員の肩書きをぶら下げて、大本営の政策と異なる見解を展開し、水産行政や業界に混乱をもたらしている・・・」とか・・・。
そして、「独法Sは大本営の行政と緊密な連携を図るべく、独法Sの発足以来、職員一丸となって努力してきたのに、K氏の行動がその阻害要因になっている」とか。
要は、K氏の問題はさておいて、独法Sの職員(研究者)は、大本営の見解と異なる活動等は一切「御法度」で、その掟に背いた場合、K氏と同じ制裁が待ち受けている、ということになると思います。正に、「独立行政法人」研究機関とは名ばかりで、大本営の「傀儡」以外の何者でもないということでしょう。まあ元々大本営から「分離独立」した組織であると言ってしまえばそれまでですが、真理を追究すべき研究機関が「大本営の見解」を第一義的に絶対正義にしてしまうのは重大な問題と考えます。まるで将軍様の政権下のどっかの国と同じレベルのような気がします。
当然ながら、この貴重な情報が腐りきった大本営改革の一助になることを願って止みません。

匿名甘えヒト 07-12-23 (日) 1:36

漁師が好きです。

時期によって値段が変わるのが理解できない消費者・・・でも、分かってもらいたいと思ってます。
旬・・・良い物は高くなる場合のある・・・年末は高い・・・

氏の指摘していることは、科学でもなく、漁家経営の安定でもなく、消費者の利益でもない・・・「漁業者のため」を口実とする、実は自らの利権を目論む輩を指摘しているんでしょ・・・でも、それって、氏が前から言っているように、将来的には漁業者のためにも、消費者のためにもならない・・・

でもでも・・・もしかしたら、だけど
有権者はそれを許容してるんじゃないの?
選挙して、で、こーなってるんだもん・・・

漁師のおっちゃん達が笑ってすごせるよう・・・ママさん達が「ここのお魚、ホント、美味しいのょねぇ♪」って、
そーぃうふうにしたい・・・

私は、浜と消費者との距離を縮めることで、少しは、動かせるんじゃないかなぁって、思って、実行してます・・・かたつむりよりもノロイ歩みかもしれないけど(笑止)

勝川 07-12-23 (日) 3:50

ある水産関係者さん:

貴重な情報は是非とも活用してください。

小松さんが大本営から離脱しましたが、辞めさせられたと言うよりも、
自由をもとめてスピンアウトしたと私は考えています。
今後は共闘する機会も増えるでしょう。

少しでも漁業の未来を考える人間にとって大本営は良い居場所ではありません。
組織の内部からでは様々な制約も多かったと思います。
晴れて脱退と言うことで、今後はさらに好き勝手にやられることでしょう。
実に喜ばしいことです。

組織に中においておけば、多少なりともコントロールできたわけですが、、
辞められてしまえば、全くコントロールがきかなくなるわけです。
多少うるさくても、手元に置いて飼い殺しておけばよいものを、
辞められてしまうのは虎を野に放つようなものです。
「手の内を知っている人間を敵に回すとは、大本営は相変わらず馬鹿だなぁ」
というのが率直な感想ですね。

小松さんは、すでに次の動きを始めているようで、
来年はいろいろと面白いことになりそうです。

匿名甘えヒトさん

>でもでも・・・もしかしたら、だけど
>有権者はそれを許容してるんじゃないの?
>選挙して、で、こーなってるんだもん・・・

戦中同様、大本営が情報を完全にコントロールしているので、
漁業の実態、特に乱獲に関しては、全く情報が流れていません。
有権者は政策の内容を理解した上で許容しているわけではなく、
「よくわかんないけど、ちゃんとやってくれてるんだろう」と考えているでしょう。

>漁師のおっちゃん達が笑ってすごせるよう・・・
>ママさん達が「ここのお魚、ホント、美味しいのょねぇ♪」って、
>そーぃうふうにしたい・・・

まさにその通りです。
漁業従事者が漁業収入で安定した生活が送れること、
そして、それによって良質な水産物が市場に供給されること。
この2つの目的を長期的に実現するためには何をしたらよいかを考えています。
今の補助金行政は、漁業者の目先の困難を和らげる代償として、
乱獲を助長し、未来の漁業収入と水産物供給の芽をつみ取っています。

>私は、浜と消費者との距離を縮めることで、少しは、
>動かせるんじゃないかなぁって、思って、実行してます・・・

それは実に重要なので、がんばってください。
消費者の目がなければ、漁業は確実に悪い方向に向かうでしょう。

beachmollusc 08-01-09 (水) 9:20

文字通り僻地の元パラダイス系研究者と馬鹿正直系御用学者を経験してから卒業した体験に照らして、勝川さんの分析にほぼ100%同意します。内部から改革しましょうというナイーブな道筋は到底実現できそうにないほど、行政府、中央では大本営、の自己組織化は完璧ですね。田舎でも同様です。

マスゴミの利用の点ですが、某公共放送などは大本営の直轄かと思えるくらい、見事な統制下に置かれていると思えます。本物のマスコミはいずこにありや?

竹のカーテンの向こう側のことがよくわかりませんが、貝類資源の大陸方面からの供給が止まるのは時間の問題でしょうね。そして、国内資源は生産環境の根本から崩壊したままで、どうするのです。その実情を誰も客観的に見えるようにしてくれないようなので、サンゴ礁の海のパラダイスから抜け出て今の作業をやっています。

暮れから作り始めたホームページを暫定的に公開してみました。これを、後に続く研究者や良心的な行政関係者の情報源としておきましょう。

勝川 08-01-12 (土) 2:05

beachmolluscさん

>マスゴミの利用の点ですが、某公共放送などは大本営の直轄かと思えるくらい、
>見事な統制下に置かれていると思えます。本物のマスコミはいずこにありや?

マスコミは玉石混淆ですね。彼らも転換期にあるのだと思います。
去年までは、水産資源に関する報道はほとんどありませんでした。
「自分の発言を多少いじられたとしても、問題提起ができるなら
何も出ないよりはマシだろう」という心境で取材を受けてきましたが、
こちらの意図を理解した上で、正確で良い記事を書こうとしてくれる記者も多いです。
まあ、私がラッキーなのかもしれません。

>竹のカーテンの向こう側のことがよくわかりませんが、
>貝類資源の大陸方面からの供給が止まるのは時間の問題でしょうね。
>そして、国内資源は生産環境の根本から崩壊したままで、どうするのです。
>その実情を誰も客観的に見えるようにしてくれないようなので、
>サンゴ礁の海のパラダイスから抜け出て今の作業をやっています。

海外からの供給が減ることは、国内資源に目を向ける転機になると思います。
そのときに備えて、情報をためておくのが重要でしょうね。

>暮れから作り始めたホームページを暫定的に公開してみました。
>これを、後に続く研究者や良心的な行政関係者の情報源としておきましょう。

サイトを拝見しました。
自ら学ぼうという人に、役に立つと思います。
当ブログも、自分ができることを地道に積み重ねていけば、
いつかは大きな意味を持つと信じて、執筆しています。

Comment Form
Remember personal info

Trackbacks:0

Trackback URL for this entry
http://katukawa.com/wp-trackback.php?p=470
Listed below are links to weblogs that reference
研究者タイプ論 from 勝川俊雄公式サイト

Home > その他 > 研究者タイプ論

Search
Feeds
Meta
Twitter
アクセス
  • オンライン: 0
  • 今日: 696(ユニーク: 289)
  • 昨日: 656
  • トータル: 9519535

from 18 Mar. 2009

Return to page top