Home > スケトウダラ | 研究 | 魚種別 > 北海道ブロック会議の顛末

北海道ブロック会議の顛末

[`evernote` not found]

今回の会議では、これは書かねばなるまいという事件があった。
「今回の会議は公開だから、ブログに書けますよ」とか、
「このことは、是非、ブログに書いてください」とか、
「あの件は、どういう風に書くの?」とか、
会議が終わる前から、複数の方から外堀を埋めて後押しをしてをいただきました。
もともと、書くつもりだったけど、もはや書かないことは許されない情勢。
バッチリ書きます。

今回の会議の争点は、スケトウダラ日本海北部系群。
この資源は、北海道の日本海側の最重要資源。
この資源を守れるかどうかが北海道漁業の生命線となる。

このあたりに書いたような流れで、目標資源量を大幅に低くすることになった。
目標資源量が前年と同じならABCはほぼ半減になるのに、
目標資源量をさげた結果として、ABCはほぼ横ばいになっている。

目標変更に関する記述が評価票案にほとんど無かったので、
これは由々しき事態だと思ったので、パワーポイントファイルをつくって、
次のような話をした。

実現不可能になった目標を捨てて、
新しく下方修正した目標を設定すること自体は理解できる。
しかし、目標を下方修正するにあたって踏むべき手順が無視されている。
資源の減少にあわせて目標資源量をズルズル下げていけるなら、
資源の減少に歯止めをかけることはできない。
うやむやに目標の下方修正ができるなら、ABCは努力目標ですら無くなる。

目標の下方修正に必要な手順

  1. 目標が非現実的になる
  2. 失敗を認める
  3. 原因の究明
  4. 再発防止
  5. 次の目標を設定する

このうち2から4が抜け落ちている。

必要な記述

① 去年と今年の目標の変更を明らかにすること

② 目標の下方修正の原因を検証すること
1)目標の妥当性の検証
目標がそもそも非現実的だったのか
目標は現実的だったが管理に失敗したのか

2)管理の失敗の原因の分析
ABCが過剰 → 科学者の責任 or 科学の限界
TACがABCを超過 → TACを決めた人の責任 
漁獲量がTACを超過 → 漁業者の責任

③ 再発防止について
特定された失敗原因をもとに再発防止策を練る。

ABCの役割

ABCには2つの役割がある。
一つは、乱獲を食い止めるブレーキとしての機能
現在のTAC(漁獲量)はABCを遙かに超えている状況であり、
残念ながら、ブレーキとしては機能していない。

もう一つは、リスクを周知するクラクションとしての機能
「資源が減っているぞ」とか、「このままではまずいぞ」という情報を発することで、
リスクを伝達するのがABCの最低限の役割である。
目標をさりげなく下方修正することが許されるなら、
クラクション機能すら失ってしまう。

ABCがその意義を失うかどうかの瀬戸際なので、
目標を下方修正する経緯について詳しく書かないといけない。
担当者にとって厳しい要求であることは理解しているが、
この部分を曲げてしまえば、もはやABCは完全に形骸化してしまう。

以上が、俺の話の内容。

それに対して、北大の松石さんから
「管理目標の変更は、実現不可能になったからではなく、
前から予定されていたことだ」というコメントがあった。

それに対して、俺はこう返答した。
「予定されていたなら、それはそれで良い。
ただ、目標を変更したことは明記すべきだし、
目標を変更した経緯についても書く必要がある。
資源が減少しているのに、ABC殆ど変わらない。
(目標を下方修正していなければ、ABCはその半分ぐらい)
目標が変更されたことを知らない人には、資源の現状が伝わらない」

その後も細かい議論が続いて、
最終的には、担当者が手直ししたものを翌日提示することになった。
我々が酒を飲んでいる間に、担当者は徹夜をして、
俺の要求を盛り込んだ新バージョンをつくり、翌日の午前中に修正点を説明してくれた。
「これは書けませんでした」という部分もいくつかあったけれど、
全体としては、頑張って書いてもらえたと思う。
読んだ人に目標が下方修正されたことがダイレクトに伝わるような内容になった。

ABCの最低限の役割は守れたことで、ほっと一息入れようとしたその瞬間、
水産庁のTAC班長が立ち上がって、
「俺はこんなやり方は承認しない。
とにかく新しく書き足した部分を全部削れ。
ワードファイルを今すぐ開いて逐一チェックさせろ」と大声を張り上げた。
理由もなにも言わずに、「とにかく削れ、こんなものは認めない」と連呼する。
あげくの果てに、「こんな会議は意味がない」とまで言い出して、場内騒然。

俺は頭に来て、
「俺が書き足すように言った部分を全部削れとのことだけど、
なぜ、こういうものを書く必要があるかは、昨日ちゃんと説明をしました。
あなただって、その場にいて、聴いてたでしょ。
そのときに一言もいわないで、後になって理由も言わずに全部削れというのは無いだろ。
俺は、新しく書き加えた部分が必要な理由を述べたわけだから、
削れっていうなら、削るべき理由を言うのが筋だろう。
この会議に意味がないわけではなくて、あなたがないがしろにしているだ。」
と言い返した。

場内は、静まりかえる。
班長は、下をむいてぶつぶつなんか言ってたけど、
俺には何の反論も返ってこなかった。
結局、俺の意見に沿って修正されたバージョンがそのまま採択された。
こうして、ABCの最低限の機能は守られたのでした。

ブロック会議は公開みたいだから、是非、皆さんも足を運んでください。

Comments:2

匿名で甘えさせてもらっているヒトです。 06-08-25 (金) 21:55

いやぁ~,面白い♪

できれば,TAC担当官の反撃が欲しかったところですね。そうすれば,彼の真意も皆に伝わったのになぁ・・・残念・・・
多分,彼には彼なりの理由があったはずであり,それなしに,怒号はなしえないでしょう。ちゃんと,真摯に対峙すればいいのにな,現実と。

・・・ちなみに,地方公務員の場合は水産省の偉いヒトに怒られるとビビル・・・最近はそーでもないけど,昔話を聞くと,結構,笑える話も多いですょ♪・・・これは余談・・・

さて,TAC班長は,そのまま素直に引き下がるのでしょうか? 東京に帰ってから,水面下での反撃なんかないんですか?
もちろん,氏に対してではなく,ABCの数値に・・・

勝川 06-08-27 (日) 4:28

>多分,彼には彼なりの理由があったはずであり,
>それなしに,怒号はなしえないでしょう。
>ちゃんと,真摯に対峙すればいいのにな,現実と。
回復計画のからみで、書いて欲しくない表現とか合ったんだと思う。
ちゃんと言ってくれれば、水研側も考慮したと思うよ。
でも、理由も言わずに高圧的な行動に出るから、通るものも通らない。

>・・・ちなみに,地方公務員の場合は水産省の偉いヒトに怒られるとビビル・・・
>最近はそーでもないけど,昔話を聞くと,結構,笑える話も多いですょ♪・・・
議論の場で怒鳴るっていうのは最悪のオプションなんだけどね。
怒鳴っても、相手がびびらなかった時点で打つ手が無くなって、負け確定。

>さて,TAC班長は,そのまま素直に引き下がるのでしょうか? 
>東京に帰ってから,水面下での反撃なんかないんですか?
>もちろん,氏に対してではなく,ABCの数値に・・・
ABCの大幅変更はないと信じています。
公開の会議で議論の末に承認されたものを、
大幅に変えるのは、関係者全員に対する裏切り行為です。
そんなことを許すほど腐ってはいないでしょう。
最終的な評価票は細かくチェックして、
大幅な変更点があったらここで取り上げます。

Comment Form
Remember personal info

Trackbacks:0

Trackback URL for this entry
http://katukawa.com/wp-trackback.php?p=65
Listed below are links to weblogs that reference
北海道ブロック会議の顛末 from 勝川俊雄公式サイト

Home > スケトウダラ | 研究 | 魚種別 > 北海道ブロック会議の顛末

Search
Feeds
Meta
Twitter
アクセス
  • オンライン: 0
  • 今日: 404(ユニーク: 204)
  • 昨日: 413
  • トータル: 9520307

from 18 Mar. 2009

Return to page top