Home > 桜本文書 | 研究 | 資源管理反対派 > 桜本文書を解読する その6

桜本文書を解読する その6

[`evernote` not found]



TAC設定魚種の早期拡大は必要か?

以上見てきたように、「科学的根拠に基づく資源管理」の厳格化を強調してみたところで、既に述べた様に、その科学的根拠とするABC自体が合意事項であり、決して科学的に決定できるわけではないということに注意する必要がある。さらに、(1)TAC対象8魚種19系群のうち中位または高位水準にある11系群のうちの多くの系群が、TAC制の適用以前から中位または高位水準にあったこと、(2)TACャ対象魚種以外の44魚種71系群のうちの約半数の36系群が我が国の現行の漁業・管理の仕組みによって、中位または高位水準を維持していること、(3)ABCの値は合意事項であり、科学的に一意に決まるわけではないこと。したがって、ABCの値に対する合意形成のプロセスも当然のことながら複雑となること、(4)TACャの決定には社会的・経済的要素を考慮すべきであるが、どの程度、社会的・経済的要因を考慮するべきであるかについて合意を得ることもまたそう簡単ではないこと。すなわち、もともとTAC制は技術的にも難しい管理手法であると言えること、(5)ABCやTACャの値について合意形成を図るためのプロセスや、TACが遵守されているかの監視等々に膨大な労力と費用がかかること(IQ、ITQになればその労力と費用はさらに増大する)等々から考えると、「TACャ設定魚種を早期拡大」しなければならない正当な理由は見当たらない。むしろデメリットの方がはるかに多いといえる。


水産庁は「日本は漁業が複雑で、魚種も多く、コストがかかるから管理ができません」と繰り返してきた。
しかし、漁業が複雑なのは、どこの国も同じである。
漁業が単純で、すんなりと管理ができた国など、一つもない。
他国は、行政官が国益のために、知恵を絞って、日本よりも桁違いに少ない予算で、
資源管理を導入し、成果を出しているのである。
日本で資源管理ができないのは、漁業よりもむしろ、管理をする側の問題だと思う。

漁獲量が日本の10分の1のニュージーランドは、96種628系群をITQで管理をしている。
http://www.fish.govt.nz/en-nz/Fisheries+at+a+glance/default.htm?wbc_purpose=Basic%26WBCMODEs
漁業者から一律に徴収した「管理費用」で全てまかなっている。

日本は、たった7つの漁業をオリンピック制度で、形式的に漁獲枠を設定しているだけ。
漁獲枠の超過も見て見ぬふりで、漁業生産は落ち込むばかりである。

水産庁は二言目には「金がない」と言うけれど、
余所の国は10分の一以下の予算でまともな資源管理をしているのである。
4000億円も予算がありながら、まともなクオータ制度を作れない役所なんて、
世界広しといえども日本の水産庁ぐらいだろう。
燃油が上がれば、従来の予算の枠内で、何百億円も集めてこれる。
本当に金がない役所に、こんな芸当はできるはずがない。
ノルウェーやニュージーランドは、漁業者が資源管理の費用を全て負担しているのに対し、
日本の水産予算は全て、一般国民の負担である。
こういう状況で、「お金がないから、資源管理できません」なんて、良く言えるものだ。

ノルウェーと日本のサバ漁業について、比較してみよう。
水産庁が「漁業が単純だから、日本の参考にはならない」と主張するノルウェーは、
これだけきめ細かい漁獲枠の区分をしている。
Image0811021.png
http://www.sildelaget.no/kvoteoversikt.aspx
さらに、漁具の規制はあるし、稚魚が多く捕れた海域は閉鎖する。
こういった、きめ細かい規制を積み重ねて、漁業の生産性を高めているのだ。
もちろん、管理費用は漁業者の負担だ。

一方、日本のサバの管理は、マサバとゴマサバという別な種を一緒くたに管理している。
異なる種の漁獲枠をまとめて設定するなど、まともな漁業国ではあり得ない話である。
漁獲枠の区分にしても、大臣許可漁業と知事許可漁業の2つの区別しかない。
禁漁区などないし、サイズ規制もないし、漁具の規制もない。
そもそも、非生産的な小さい魚の漁獲を抑制するどころか、奨励している状態だ。

ノルウェーと日本では、日本の規制のほうが、よっぽどおおざっぱである。
「日本では利用している魚種が多いから管理が難しい」というが、
日本の方がノルウェーよりも管理をしている魚種が少ないのだ。

せめて、ノルウェーと同数の魚種を、同レベルのきめ細かさで管理した上で、
「日本は、魚種が多く、漁業も複雑だから、これ以上はできません」と言うならわかるけど、
日本の方が管理をしている魚種が少ない上に、個々の管理もまるでザルなのだから、
「日本は漁業が複雑で、魚種も多い」というのは言い訳にもなっていないのである。

Comments:3

県職員 08-11-04 (火) 8:53

日本では県知事許可漁業については,操業できる範囲が多くの県で各県の地先海域にとどまっており,特に広域回遊種については資源そのものの多寡の問題と,来遊による漁場形成の問題の2つを抱えています。
大臣許可だと小型魚が多い海域を避けて操業するなどの管理に関する運用が比較的容易なのですが,
「我慢してても魚は来ないじゃないか」と漁業者に言われかねません。
長い目で見れば資源水準が上がり,海況の変動による漁場の形成はそれほど問題にならなくなるとは思いますし,ITQでしたら,とれないQUATEは売ってしまえばよいのでしょうが。

ノルウェーでは操業海域はどの程度の広さがあるのでしょうか。大まかなイメージがおわかりになれば教えて頂きたいと思います。

勝川 08-11-08 (土) 3:12

実は欧州のサバ資源も同じような状況になっています。
ここ数年はサバの回遊経路が西にずれ込んだ模様です。
以前はほとんど漁獲が無かったために、
漁獲枠を持っていないアイスランドが、サバを景気よく捕っています。
10万トンぐらい獲ったのかな。
資源を回復させようと我慢していたEU諸国&ノルウェーの漁業者は、
大変に頭に来ているようです。

アイスランドは、以前から、サバの管理に加入しようとしてきたのですが、
「お前はサバを捕っていないだろう」ということで、門前払いだったのです。
今後は、アイスランドも入れて管理の枠組みを作り直すことになるでしょう。

今年度のアイスランドの漁獲枠がない漁獲が
どのように扱われるかも興味があります。
管理されている資源を、管理に参加していない国が漁獲した場合に
どうなるのかを考える上で、貴重な例になると思われます。
北海道では、ロシアからきたスケトウダラを「ボーナスだ!!」と
獲りまくっているのですから、人ごとではありません。

>ノルウェーでは操業海域はどの程度の広さがあるのでしょうか。
>大まかなイメージがおわかりになれば教えて頂きたいと思います。

どこで何を獲ったかは、毎日アップデートされますので、
こちらをご覧ください。
http://www.sildelaget.no/Map.aspx
私の印象だと、沿岸域(上のサイトの04から08)がメインですね。

県職員 08-11-10 (月) 11:23

丁寧なご回答ありがとうございます。HP等を見て勉強させて頂きます。
みなと新聞でありましたがTAC有識者懇談会の取りまとめ方向が示されたようですね。愕然とすると言うか,まあよくもでたらめを並べたなあという印象です。個別具体的に検証したわけではなくあくまで印象ですが。コスト440億円ともありますが何をどう試算したらこのような金額が出てくるのでしょうか,今だって,TACには報告義務などがあり,集計も行い,資源評価のお手伝いをしていますけど,そんなにお金はかかってないでしょう。

Comment Form
Remember personal info

Trackbacks:0

Trackback URL for this entry
http://katukawa.com/wp-trackback.php?p=658
Listed below are links to weblogs that reference
桜本文書を解読する その6 from 勝川俊雄公式サイト

Home > 桜本文書 | 研究 | 資源管理反対派 > 桜本文書を解読する その6

Search
Feeds
Meta
Twitter
アクセス
  • オンライン: 2
  • 今日: 513(ユニーク: 196)
  • 昨日: 656
  • トータル: 9519352

from 18 Mar. 2009

Return to page top