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サバ

小サバの輸出によって得たものと失ったもの

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 小サバの輸出によって短期的な収益は増えるのだが、
その代償として失われたものが2つある。
大きくしてから獲った場合に得られた収益と産卵である。
小サバ輸出の是非を問うために、これらの失われたファクターを定量的に評価してみよう。

2000から2006年までの漁獲を合計すると次のようになる。

漁獲尾数(10^5) 個体単価(円) 漁獲収益(億円)
13026 4.2~6.9 54~90
9381 44.8 420
2004 131.2 263
696 217.4 151
406 410.3 167
106 650.6 69
53 967.1 51

ここから近年の漁獲パターンがわかる。
小サバ(0歳)を輸出すると、輸送量が20円かかるが、
KGあたり70円で売れるので、全体として50円の儲けになる。
一方、国内で餌料になると30円の儲けにしかならない。
国内餌料だと個体単価が4.2円のところが輸出をすれば6.9円に跳ね上がる。
6年間の漁獲金額としては54億円が90億円に増える計算になる。

小サバの輸出で、マサバの生産金額はこんなに増えました!!
saba31.png

もともとタダ同然の0歳魚の値段が少し上がったところで、大した儲けにはならない。
しかも行く先がアフリカと中国では、値段が上がりようがない。
それでも、獲った人と輸出をした人の手元にはなにがしかの金額が残る。
ただ、その代償として何が失われたかを考える必要がある。  

現状と比較するために、次の2つの漁獲パターンを考えてみよう。
0歳禁漁シナリオ:現状の漁獲圧を維持したまま、0歳魚のみを禁漁にした場合
70-80年代シナリオ:70年代、80年代の平均的な漁獲圧をかけた場合

0歳禁漁シナリオは0歳魚の漁獲の影響を評価するためのシナリオであるが、
実際に0歳のみを完全に禁漁するのは技術的に不可能だ。
ということで、70年代、80年代の平均的な漁獲圧をかけたらどうなるかも合わせて計算した。
過去に実際にやっていた獲り方なら技術的にも可能だろう。
結果にはほとんど影響がないので、0歳はすべて中国に輸出するものとして計算をした。
国内で餌料として消費する場合は、0歳の収益が3/5になります。
細かい計算結果は、一番下の続きを読むをクリックしてください。 

漁獲尾数はこんな感じになる。
現状では0歳の漁獲が突出しているが、それを無くすと1歳以降の漁獲尾数がまんべんなく増える。
また、70,80年代は1歳もそれほど獲っていなかったので、2歳以降の漁獲の割合が増える。

saba32.png

この場合の漁獲高はこんな感じになる。
saba33.png
殆ど利益にならない0歳の漁獲を控えると、漁獲高は1211億円から1726億円へと跳ね上がる。
0歳魚を1億円分漁獲すると、漁業全体の利益が5.7億円失われる計算になる。
利益率の低い1歳の漁獲も抑制することで、さらに漁獲高は増加する。
最近の早獲り競争が如何に資源の生産力を無駄にしているかが良くわかる。

次に再生産を見ていこう。
漁獲のタイミングを遅らせると、その分だけ産卵に関与できる個体数が増える。
saba34.png
0歳を獲らなければ、産卵量は1.5倍になる。
また、昔の漁獲だと、産卵量は倍以上に増えたのである。

以上の結果をまとめてみよう。
小サバ(0歳)は、国内で餌料になるとKGあたり30円にしかならない。
これを中国に輸出すれば、送料を引いてもKGあたり50円の売り上げになる。
輸出によって、6年間の売り上げが54億円から90億円へと利益が増える計算になる。

0歳魚の漁獲によって90億円を稼ぐ代償として、全体の利益が515億円失われた。
0歳魚を1億円輸出すると、マサバ漁業全体の利益が5.7億円失われるのだ。
また、0歳を獲らなければ、産卵量は1.5倍に、昔の獲り方をしたら2倍以上に増えたこともわかった。

つまり、小サバの輸出によって、特定の人間が短期的利益を得る代償として、
マサバ漁業全体の利益が大きく損なわれている。
さらに、未成魚の乱獲で資源の再生産能力を著しく損なうことで、
マサバ資源の回復の芽を摘み、漁業の未来を奪おうとしているのだ。

また、70年代、80年代には、かなりまともな漁業をしていたことがわかる。
後先考えずに獲れるものを獲れるだけ獲り尽くす漁業を続けた結果として、
資源も、漁業もここまで酷くなってしまったのだ。

水産物の輸出が伸びる背景

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水政審の議事録から、水産物の輸出に関する議論を追ってみよう。
http://www.jfa.maff.go.jp/sinseisaku/keikaku_19/minute/180413.htm

○浅川加工流通課長 
漁獲自体は小型が多いということで、産地価格は低いんですが、消費地では中型、大型サイズが求められているということで、高値で推移するということで、こちらも需給のミスマッチが生じています。このようなものを打開するために、サバについては、小型のものについて国内では需要がないということで輸出をするという新たな方向が出てきております

○浅川加工流通課長 
 まず、農林水産省全体の取り組みとして、現在、農林水産物または食品の輸出が平成16年は3000億円あるんですが、5年後に倍増しようという目標のもとに、輸出に取り組む方たちを支援しているところでございます。中でも輸出実績自体、右の方なんですけれども、平成16年から17年に12%近く増えているわけですが、うち水産物は2割近く増えているということで、輸出の品目としてはメインの部類に入るかと考えております。
 次のページですけれども、水産物の輸出の取り組みとして、外国での日本産品の普及ですとか販路開拓といった取り組みに対して農林水産省で支援しております。水産物につきましては、右に書いておりますとおり、H団体というのは北海道の団体なんですけれども、ホタテとかアワビ、サケを出荷したり、下の方は九州の団体になりますけれども、サバの小魚を出荷したり、輸出したりという取り組みが始まっているところです。
 輸出の現状が次のページになります。全体的には、輸出という状況はここに書いてあるとおりなんですが、かつては香港とかアメリカといったところが輸出のメインだったわけですけれども、最近は韓国とか中国というお隣の国への輸出がふえているということ。また、かつては真珠とか貝柱、ホタテといったものがかなり中心だったんですが、最近の動きとして、サケ、マスですとか、サバといったものが少しずつ増えてきているといった動きにございます。
 このような動きは、国内で価格が上がらない場合に外国へ出すことで新しい需要が増えるといったこと、また国内のダブついた市場を少し引き締めるといった効果もございますし、漁業の活性化といった、いい効果もあると考えております。
 次のページが取り組み事例でございます。輸出先にさまざまなニーズがございます。ここに書いてあるとおり、いろいろな魚種によってニーズがございますので、それに応じて輸出をしているという取り組みの事例を書いてありますのが、このページでございます。
 最後に、ただ輸出するときに必要なことということで、これも第2回のときに少し触りを御説明いたしましたけれども、EUとかアメリカといったところが衛生面での管理をきちんとやってくださいということを諸外国に求めておりますので、輸出する業者は、それぞれの輸出先の基準に合致した衛生水準のものを出す必要がある。こういうものに今後、対応していくことが課題となっております。
 以上でございます。

○原田委員 輸出について、現状、日本に入ってくる輸入水産物、輸出されている国々の戦略と、日本が輸出に打って出ようという戦略を比べると、大きな開きがあります。ノルウェー、チリのサケですとか、インドネシア、東南アジアからのエビですとか、どういった魚種をどこに売るかというところまで国がターゲットを決めてつくっているようなところがあります。
 そういう意味で、輸出を増やすということは結構だと思うんですけれども、先ほどからも意見あったような余ったものを出しましょう、輸入が入ったので、はじかれたものを何とか付加価値をつけてって、これでは本当の輸出対策の戦略ではないと感じます。
 国として、輸出を5年後に倍増であれば、もうちょっと明確な戦略を立てて、日本の漁業が活性化するような戦略でもってやっていただけたらというふうに思います。 

日本の水産物の輸出には構造的な問題があることがわかる。
漁業者の早どり競争の結果、消費者の需要が低いような小型の魚が多獲されている。
その結果、需要が高い中型大型の供給が減少し、高値で推移することになる。
ここに輸入魚が殺到するのは自明の理だろう。

需給のミスマッチは、小型乱獲の結果である。
小型のものは国内で価値がないから、輸出します、というのはおかしい。
それを大きくしてから国内で売るという選択肢もあるはずだし、
それこそが需給のミスマッチを解消し、食糧自給率を上げる道だろう。
また、輸出についても、かつては水産物を高く買う香港やアメリカがメインだったのだが、
最近は韓国、中国と言った、水産物の値段が安い国にしか相手にしてもらえなくなっている。
世界の水産物の値段が上がる中で、日本の輸出単価が減少している。
日本の水産物が先進国から相手にされない理由はいくつかある。

1) 衛生管理基準
EUや米国は独自の衛生基準をもっているが、日本の水産物のほとんどはその基準をクリアしていない。
今のままでは門前払いをされてしまうので、衛生基準を国際水準まで引き上げる努力が必要である。

2) 品質の問題
輸出をするには良い状態の冷凍品が必要になる。
日本で魚と言えばまず生鮮であり、余ったものが冷凍になるという頭がある。
港で余った魚を冷凍させても、既に品質の劣化は進んでいる。
水産物の輸出を振興している国は、獲ってすぐの新鮮な状態で冷凍できるように、
船上冷凍設備が充実している。
今の日本の冷凍技術では、漁業先進国とは戦えない。 

3) 資源の持続性の問題
日本の漁業は資源の持続性の配慮がまるでない。 
水産資源は軒並み低水準であり、ある資源が増え出すと、
「豊漁だ!豊漁だ!」といって、すぐに増加の芽を摘んでしまう。
その結果、漁獲のサイズも量も安定しない。
安定供給が出来なければ、大口の小売りからは相手にされない。
また、EUや米国では、「持続的でない漁業で獲られた魚」は高く売れない。
たとえば、ウォールマートやマクドナルドは持続的に獲られた魚しか店頭に並べない。
そうしないと消費者からそっぽを向かれるからである。
国際的な基準では日本の殆どの漁業は管理されていないと見なされる。
これでは、意識が高い消費者からは相手にされないのである。

今のままでは、日本の水産物は途上国に買いたたかれるしか無いのである。
原田委員の発言にあるように、今の日本の水産物の輸出には戦略も糞もない。
乱獲によって市場価値が無いような小魚しか供給できない。
国内では相手にされないから、二束三文でも買ってくれるところに輸出するしかない。
最近の輸出の伸びは、乱獲のつじつま合わせであり、日本漁業の断末魔なのだ。
現在の水産物の輸出は、海の幸を切り売りしているのであり、国が進めるようなものではない。
このような末期的な状態を避けるための政策が必要なのだ。

代替案としては、次の2つがある。
1)国内で消費する
2)欧米など水産物を高く買う国に輸出する

要求される品質のハードルは、
欧米>>日本>途上国
となっており、現在の日本漁業はいきなり欧米の市場をねらえる状態にはない。
まずは国内市場を狙うべきである。

輸出が全て悪いとは思わない。
次のような条件を満たしていれば、輸出を促進すべきだと思う。
1)国内市場へ充分に供給できている
2)資源状態が良い
たとえば、サンマのように豊漁貧乏で国内市場が飽和している資源は、積極的に輸出をすべきだ。
そのためには、衛生基準をクリアできるようにすると同時に、船上冷凍設備への投資も必要になる。
国は、こういう漁業の輸出を補助すべきである。
サンマが輸出できるようになれば、豊漁貧乏で泣いているサンマ漁業はかなり救われるだろう。
原田委員が指摘するように、もうちょっと明確な戦略を立てて、
日本漁業が活性化するような方向で輸出促進をすべきである。

近年増加する小サバの輸出

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ノルウェーのサバに関しては、ロシアウクライナへの買い負けが続いている。
値段が上がっている中で消費が伸びているので、今後もこの傾向は続くだろう。
また、中国も日本と同じ程度の購買力がありそうなので、
1990年代のようにノルウェーのサバを日本が独り占めできない状況だ

買い負け現象は、国内のサバ漁業が日本のサバ市場を取り返すための絶好のチャンスである。
しかし、サバは0歳1歳といった未成熟なうちに乱獲されているせいで、
日本の生鮮市場に十分な個体を提供できる状況にない。
このまま買い負けと国内資源の乱獲がつづけば、日本人はサバを食べられなくなる。
サバの供給がとぎれて、サバ食文化の壊滅するという最悪のシナリオは避けないといけない。
今後、中長期的な時間スケールで日本のサバ市場の空白化が進むはずであり、
この空白を日本のサバで埋められるように関係者は準備を始める必要があるのだが、
現状では正反対の方向に走っている。

この図は、日本のサバの輸出量である。近年、急速に伸びていることがわかる。
2006年には18万トン。これは国内の漁獲量の1/3程度を占める。

saba31.png

一方、Kg単価は次のようになる。
saba32.png
2002年までは、ノルウェーと大差がない単価がついていたが、
2003年以降は、小サバの輸出の増加により70円程度に低迷している。
世界的な値上がり傾向とは逆に、日本のサバの値段は下がっているのだ。
小型個体の価値は世界市場でも低く、飼料よりはましという値段しか付かないからだ。

現在低水準にある資源の未成魚を二束三文で輸出してよいのだろうか?

マサバ貿易戦線異常あり

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近年、世界のマサバ市場に変化が起こっている。

下の図はノルウェーから日本に輸出されたサバの重量だ。
saba26.png

1990-2004まで15万トン程度で安定して輸入されてきたのが、
ここ2年間で激減しているのがわかる。
2006年は5万トンを割っており、今年度もさらに低下しそうな見通しだ。

何でこんなに減ったかというと、値段が上がったからだ。
saba27.png
Kgあたり130円程度であった単価が、2005年から倍以上に跳ね上がっている。

値段が上昇したのは、日本以外の国もノルウェーのサバを輸入しだしたからだ。
90年代はほぼ全てが日本に輸出されていたのが、最近は中国や東欧諸国への輸出が増えている。
いわゆる買い負け現象である。
下の図はノルウェーの輸出統計。

saba25.png

日本と中国の輸出が半減しているのに対して、ウクライナとロシアの輸出が急激に増加している。
つまり、日本と中国がウクライナとロシアに買い負けているのだ。

サバの貿易をまとめると次のようになる。
1990年から2004年までは、ノルウェーから日本に年間15万トンのサバが安定して輸出されていた。
saba23.png

それが2006になると次のように様変わりをしている。
saba24.png
日本に流れていたサバが、中国や欧州に輸出されるようになった。
その一方で、日本のサバが大量に安い値段で中国・アフリカに輸出されている。

おいしいサバ鮨を食べたい

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連日、サバのことばかり考えていたら、サバを無性に食べたくなったので、今日の昼ご飯はこれ。

saba21.jpg

ノルウェー産でした。

saba22.jpg

ノルウェーのサバは、サバ鮨にするには脂っこすぎる。
最初の2きれはおいしく感じたが、終盤、少しつらかったです。
サバと酢飯の間にショウガや大葉を入れて、すっきりとした食感にしようという工夫は見られたのだが、
どうにもこうにもサバの脂が多すぎる。
やっぱり、ノルウェーのサバは塩焼きが合うと思う。
サバ鮨に関しては、日本のしまったサバの方が絶対に合うと思うのだが、
一定の品質のものを安定供給できるからノルウェー産になってしまうのだろうか?

ノルウェー産のサバ鮨は1000円だったが、隣にあった関サバのサバ鮨は2000円でした。
国産もない訳じゃないんだけど、高すぎて手が出ないですな。

ノルウェーに日本のサバ市場を奪われた理由

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日本のサバ市場は、完全にノルウェーに奪われたのだが、これには理由がある。

ノルウェーは、石油などの豊富な資源を持っているけれど、
エネルギー資源が無くなるのは時間の問題である。
そこで、国を挙げて、持続的な産業を育てようと考えた。
その一つの柱が漁業だった。
先日、このプロジェクトに関わった人から話を聞く機会があったのだが、とても勉強になった。
プロジェクトの根底には、合理的かつ、大局的な戦略があるのだ。

限りある生物資源を持続的に有効利用するためには、
一番高く売れる場所に、一番高く売れるものを計画的に出荷すべきである。
ノルウェーは、(当時は)世界で最も魚を高く買う日本人をターゲットに、
欧州ではあまり消費されていなかったサバを輸出することにした。
ノルウェーのサバ漁業は、最初から日本のサバ市場に最適化されているのだ。
サバの漁獲が日本人が好んで食べるサイズに集中しているのは、そういう訳。
日本市場での価値を高めるために、ポンプで漁獲をし、良い品質で輸出をする体制を整えた。

ノルウェーは、国を挙げて、日本のサバ市場を取りに来た。
そして、日本のサバ市場は、完全にもっていかれてしまった。
日本のサバ市場を巡る競争は、グランドデザインの部分で勝負は決まっていた。
日本市場に最適化されたノルウェー漁業と、行き当たりばったりの日本漁業の差は、
漁業者個人の努力でどうこうというレベルではない。
日本漁業は、負けるべくして、負けたのだ。

日本の漁業関係者は、ノルウェーに自国市場を奪われた理由を真剣に考える必要がある。

日本も、限られた生物資源の生産力を持続的に有効利用するためのグランドデザインを持たなくてはならない。
サバだったら、サバ漁業全体を長期的,総合的に見わたした構想を練るべきである。
獲る前に「どの大きさで獲って、どこに売るのが一番儲かるのか?」という視点を持たないといけない。
とにかく獲れるものを早い者勝ちで獲って、その後で「どうやって売ろう?」と悩んでいる現状が続く限り、
日本漁業は衰退の一途だろう。

儲かる漁業はどっちかな?

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サバの漁獲物の年齢組成を比較してみよう。

saba14.png

ノルウェーは、ICES各区IVのデータ
http://www.ices.dk/marineworld/fishmap/ices/pdf/mackerel.pdf

2歳以上が生鮮用として高価になるのだが、
ノルウェーは2歳以上が81%に対し、日本はたったの13%。
日本人が食べるサバの生産はノルウェー頼みなのだ。

マサバは何歳で獲るべきか?

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0歳の漁獲は資源の無駄遣いであり、絶対に辞めるべきだ。
では、何歳で獲るのがよいだろうか?
獲り方を変えたら、どのぐらい儲かるのだろうか?
今日は、これらの疑問に答えてみよう。

昨日のエントリーに書いたように、大きな魚ほど、高く売れる。
待てば待つほど、個体の価値は増加する。
しかし、自然死亡によって、個体数が減ってしまうので、
あんまり待ちすぎると獲るべき魚が居なくなるかもしれない。
どの年齢で獲るべきかは、「価値の上昇率」と「自然死亡率」のかねあいで決まる。
個体数の減少を補うだけの価値の上昇があれば待つべきだし、
そうでなければ早く獲った方がよい。

マサバの場合は、自然死亡係数は0.4と推定されている。
0歳で加入した個体は、漁業がなければ下の図のように減耗していく。
saba12.png

生残率と単価をかけると次のようになる。
saba13.png
自然死亡の減耗を考えても、成長させてから獲った方が儲かることがわかる。
4歳まではコンスタントに価値が上昇し、その後は頭打ちになる。
0歳から5歳まで生き残る確率は14%だが、個体の値段は235倍になる。
0歳、1歳の漁獲を辞めて、大型個体を獲った方が格段に儲かるのだ。

0歳のサバは、最近中国への輸出が伸びている。
国内で飼料だとkgあたり20円のところが、
中国輸出なら輸送費を引いて50円程度の値段がつく。
まあ、20円も50円も大差がないぐらい、0歳の漁獲は非効率的だ。

現在、体重200gの小サバが漁獲の中心である。
この小サバの漁獲を控えて、4歳で漁獲をするとどうなるかを試算してみた。

4歳まで待つと個体数は1/5になる。
しかし、体重が3倍以上になるので、トータルの重量は約2/3になる。
小サバ3箱が、4歳の大サバ2箱分に相当することになる。
小サバのkg単価は飼料で20円、中国に輸出で50円なので、
それぞれ3箱で900円と2250円になる。
一方、4歳のKg単価は600円なので、2箱で18000円になる。

体重

15Kg箱

個体数

重量

値段

小サバ

200g

3箱

225尾

45kg

900円~2250円

4歳

684g

2箱

45.4尾

31kg

18640円

つまり、小サバの漁獲をやめて、4歳で獲れば、9~20倍も儲かる。
現在の小サバの漁獲は経済的にみて実に非合理的なのだ。

獲り方を変えれば、魚の値段は上がる

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1992、1996、2003と3回の当たり年があった。
にもかかわらず、未成魚の乱獲で資源増加の芽を摘んでしまい、
マサバ太平洋系群の資源量は今も地を這うような低水準だ。

普通に考えたら、大きくしてから獲った方が儲かるような気がするが、
なんで、未成魚で獲りきってしまうのだろう?
マサバの未成魚はそれほど儲かるものなのだろうか?

マサバの年齢別の体重はこんな感じ。
資源評価票に数値が記載されていなかったので、90年代のデータを引っ張り出してきた。
(図だけじゃなくて、数値も載せてください>担当者殿)
saba08.png

サバは大きさによって、名称と用途が違う。
200g以下は、ジャミと呼ばれて、飼料になる。
200~400gは、塩干し・節・缶詰になる。
400~600gは、生鮮、しめさば、フィーレになる。
600g以上の大サバは、生鮮の高級品だ。

年齢別の個体の値段はこんな感じになる。
小サバは1尾3円だが、6歳になれば1尾1000円になる。
saba09.png

 

マサバをどういう段階で利用しているかを見てみよう。
2000から2005年の漁獲量を年齢別にまとめると、次のようになる。
saba10.png


飼料・缶詰にしかならない小さいサイズで獲りすぎて、
値段が上がってくる3歳以上は殆ど居ないのだ。

さて、漁獲個体数に個体単価をかけると、年齢別の漁業収益を計算できる。
漁獲尾数と漁業収益を基準化して比較してみよう。
saba11.png

0歳は漁獲尾数はべらぼうだが、収益には殆ど結びついていない。
一方、尾数としては少ない大型個体が収益の大きな割合を占めている。

たとえ、天の恵みで、小サバが大量に発生しても、
食用として需要があるサイズになる前に獲られてしまう。
「サバが豊漁」なはずなのに、スーパーの鮮魚コーナーは
ノルウェー産のサバに席巻されている理由はここにある。
日本の漁業者は、生鮮用として価値が上がるまでの数年を待てないで、
飼料にしかならないような小型のサバを我先にと獲ってしまう。
結果として、消費者が高く買う大型個体は国内では供給できない。
魚離れ?冗談じゃない。
漁業者が乱獲で資源をつぶした結果として、消費者には輸入品に頼らざるを得ないのだ。

また、サバは2歳で一部が成熟し、完全に成熟するのは3歳からだ。
ということで、0歳、1歳で大半を獲り尽くしてしまう漁業をしている限り、
永遠に資源量は低水準のままだ。

90年代のマサバ資源を振り返る

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漁業がマサバ資源の増加の芽をどのように摘んだかを見ていこう。

下の図は、マサバの卵の生残率だ。
90年代以降、それまでよりも高い水準で推移している。
さらに、1992, 1996, 2004年と、加入に成功していることがわかる。
90年代以降、マサバの生産性は極めて高かったのだ。
saba04.png

下の図が毎年の加入資源量(1000トン)である。
加入の成功が起こった年は、周囲よりも飛び抜けているが、
親の量が少ないために、過去のピークには及ばない。
saba05.png

92年や96年のような加入の成功があっても、
未成熟のうちに獲りきっているから、資源の回復に結びつかない。
では、未成熟個体の漁獲を控えて、
92年の卓越年級群が96年の産卵に参加できたらどうなっていただろうか?
この試算を我々のグループが行い、論文として、公開している(俺はそんなに関わってないけど)。

Kawai H., Yatsu A., Watanabe C., Mitani T., Katsukawa T. and Matsuda H. (2002) Recovery policy for chub mackerel stock using recruitment-per-spawning. Fish. Sci. 68: 961-969.

この論文では以下の4つの漁獲シナリオを比較している。
シナリオ0:現状の漁獲
シナリオ1:加入の成功した年の未成魚を保護
シナリオ2:70年代と80年代の平均的な漁獲圧を維持
シナリオ3:シナリオ2より更に55%漁獲率を下げる

91年以降、それぞれのシナリオで漁獲をしていたら、下図のように資源は変動した。
saba06.png
資源管理シナリオ(1-3)は、全て増加している。
92年のまとまった加入(卓越年級群)を、次に加入が成功する96年まで残しておけば、
マサバ資源はかなり回復したのだ。
また、80年代以前の漁獲圧を続けるシナリオ2でも資源はかなり回復した。
90年代以降の早獲り競争を抑えておけば、マサバは高水準に回復している可能性が高い。
90年代以降の未成魚への高い漁獲圧が、資源増加の芽を摘み、資源を低迷させているのだ。

下の図は、資源管理をしたら、漁獲量がどうなったかを示している。
シナリオ0では、1992年のまとまった加入を1993年に獲り尽くした。
資源管理シナリオではここで未成魚を保護するので、漁獲量は上がらない。
その代わり、94年以降に成長させながら徐々に利用していくことが出来る。
そして、96年の加入の成功で、資源が増えると漁獲量は更に増える。

saba07.png

近年は、コンスタントに加入の成功が起こっている。
卓越年級群を次の加入の成功まで残しておけば、マサバ資源は回復するはずだ。

この論文が出る以前は、マサバの減少も全て海洋環境のせいにされていた。
「マサバが増えないのは、自然減少だからしょうがない」というわけだ。
要するに、今のマイワシと同じような状況だったわけだ。
この論文が漁業が資源回復の芽を摘んだことを示したことで、マサバ回復計画へと繋がっていった。
しかし、資源回復のためと称して、漁業者に給料補償金がばらまかれただけで、
現在まで、未成魚獲りきり漁法は以前として続いており、乱獲に歯止めはかかっていない。

マサバの増加に関して面白い現象がわかった。
加入の成功が連続することで、資源は階段状に増加していく。
現在の低水準から、高水準まで増やすには、3回の加入の成功が必要になる。
これをホップ・ステップ・ジャンプ仮説と呼ぶ(今思いついた)。
現在の漁業は、「ホップ」の段階で増加の芽を摘んでいるから、資源はいつまでも低水準だ。
マサバがホップできるうちに、ステップジャンプへとつなげていく必要があるだろう。

1996年は、黒潮が特異的に蛇行した年で、マイワシも大発生した。
マサバ、マイワシとダブルで、大発生したにもかかわらず、
どちらも未成魚のうちに獲ってしまった。
まき網の漁獲能力は驚異的だ。
高い漁獲能力をもつまき網は、しっかりとした管理が必要だろう。

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