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スケトウダラ

資源管理ごっこと本物の資源管理の違い

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資源管理ごっこ(日本のスケトウダラ漁業の場合)

スケトウダラにはいくつかの独立した産卵群(系群)があり、そのうちのひとつが日本海北部系群だ。この系群は北海道の日本海側に分布しており、沿岸漁業の延縄や、沖合底引き網によって利用されている。下の図は、青い線が資源量。赤い線が漁獲割合である。1997年から、国が漁獲枠を設定して資源管理していたのだが、1997年以降も資源が直線的に減少するに従って、漁獲割合はむしろ上がっている。ブレーキをかけるどころかアクセルを踏んでいるような状態だったのだ。この資源は過去には韓国が漁獲をしていたこともあるのだが、1999年以降は日本の漁獲のみ。つまり、国内漁業の規制に失敗して、自国の貴重な資源を潰してしまったのである。

2510-04

漁獲圧にブレーキがかからなかったのは、2つの理由がある。ひとつは、資源の減少に応じて管理目標が下方修正されたこと。二つ目は科学者の提言を無視した漁獲枠設定である。

日本のTAC制度の枠組みとしては、まず、科学者が資源評価をして、資源の持続性の観点から漁獲枠(Acceptable Biological Catch)を提言することになっている。そのABCを踏まえて、行政が実際の漁獲枠(Total Allowable Catch)を設定するのである。ABCを設定する際の管理目標は毎年のように下方修正されてきた。2008年には緩やかな回復を目指すと言うことで、どこまで減ってもその時点を基準に、漁獲枠が設定できるようになった。これでは資源の減少が下げ止まらないのも当然だろう。

2004 親魚量をBlimit 20.7万㌧へ回復
2005 親魚量をBlimit 14.0万㌧に維持(Blimit変更は資源評価の修正によるもの)
2006 親魚量をBlimit 18.1万㌧に10年で回復
2007 親魚量をBlimit 18.4万㌧に15年で回復
2008 親魚量の緩やかな回復(減った水準を基準に漁獲枠を設定)

ABC(科学者の勧告)よりもさらに問題が大きいのがTAC(国が設定した漁獲枠)である。ABCを遙かに上回るTACが設定され続けているのだ。持続性を無視した漁獲枠を設定し続けたのだから、資源の減少にブレーキがかかるはずが無いのである。2006年ぐらいまでは、多くの魚種でTACがABCを上回っていた。そのことをマスメディアを通じて徹底的に非難し続けたところ、スケトウダラ日本海北部系群以外はABCと等しいTACが設定されるようになった。

キャプチャ

では、この資源に未来が無いかというと、そうでは無い。下の図は、様々な管理シナリオの元での資源の動態だ。たとえば、緑の線(Frec10yr)は、かなり厳しい漁獲圧の削減をすると、10年で目標水準(Blimit)まで回復する可能性があることを示している。現状は赤の線(Fcurrent)である。資源が再生産できないような強い漁獲圧を、今もかけ続けているのである。つまり、乱獲を止めれば、資源は回復するのである。

2510-07

 資源管理(ニュージーランドのホキ漁業)

このような悲劇を二度と繰り返さないために、「資源が減ったときにどうやってブレーキをかけるのか?」について議論をすべきだろう。その前提として、他国の成功事例について学んでおく必要があるだろう。同じように卵の生き残りが悪くて、水産資源が減ったときにニュージーランド政府がどのような対応をしたかを紹介しよう。

ホキは、 タラに似た白身魚であり、ニュージーランドの主力漁業。フィレオフィッシュの原料として、世界中で利用されている。

この資源のレポートはここにある。1990年代後半から、卵の生き残りが悪く、資源が減少した。NZ政府はB0(漁獲が無い場合の資源量)の40%前後を管理目標(Target Zone)、20%B0をソフトリミット(回復措置発動の閾値)、10%B0をハードリミット(強い回復措置の閾値)としている。資源状態が良かった時期を基準に、目標水準とそれ以下には減らさないという閾値が事前に設定されているのである。

キャプチャ

1990年代は、資源量がターゲットを大きく上回っていたことから、25万㌧という多めの漁獲枠が設定されていた。2000年に資源量がターゲットゾーンに入ると、NZ政府は徐々に漁獲枠を削減した。ちょうどこのタイミングで卵の生き残りが悪い年が数年続いたために、資源は目標水準を下回って、減少を続けた。漁獲枠の削減を続けた。2007年には、資源回復の兆しが見えてきたことから、政府が12万㌧の漁獲枠を提示したが、業界は資源を素早く回復させるために更なる漁獲枠の削減を要求し、漁獲枠は9万㌧まで削減された。その後は、資源の回復を確認しながら、徐々に漁獲枠を増やしており、現在の漁獲枠は15万㌧まで回復している。 

ニュージーランド政府が設定したホキの漁獲枠(≒漁獲量) 単位㌧

キャプチャ

本物の資源管理と資源管理ごっこの見分け方

資源管理ごっこと本物の資源管理を見分けるには、資源量が減少したときに、漁獲にブレーキがかかったかどうかに着目すれば良い。スケトウダラ日本海北部系群とニュージーランドのホキは、同じように卵の生き残りが悪くなって資源が減少した。日本は産官学が連携して、過剰な漁獲枠を設定し続けて、資源を潰してしまった。どれだけ立派なことを言おうとも、資源が直線的に減少していく中で、漁獲圧にブレーキがかけられなかったという事実が、日本の漁業管理システムの破綻を物語っているのである。それとは対照的に、ニュージーランドでは資源の減少に応じて漁獲圧を大幅に削減して資源回復に結びつけた。

車にたとえると、ニュージーランド漁業は、ちゃんとしたブレーキがついている車。いざというときにはきちんと止まることができる。日本はブレーキっぽい物はついているけど、本物のブレーキがついていない車。いざというときに減速ないのだから、事故が起こるのもやむを得ないだろう。

日本の漁業を守るために我々がやるべきことは、きちんと資源管理をしている諸外国から謙虚に学び、魚が減ったときに漁獲にブレーキがかけられるような仕組みを導入することである。それをやろうとせずに、ブレーキっぽい物を本物のブレーキだと言い張っているから、進歩が無いのである。

スケソウダラの漁獲枠を巡る収賄事件

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北海道で漁獲枠を巡る収賄事件があったようです。
スケソウの漁獲枠を増やした見返りにワイロを自ら要求とは、お盛んですね。

http://www.hokkaido-np.co.jp/news/society/61718.html
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/editorial/61909.html
http://www.stv.ne.jp/news/item/20071121185554/

国がTACをガツンと水増しした後に、道が賄賂をもらってやりたい放題ですか。
研究者がどれだけ苦労してABCを出してると思ってるんだ。
頭に来るなぁ。
漁獲枠なんて金で何とでもなるというのが北海道の現実なのか?

パチンコの借金のために、好き勝手に漁獲枠を割り振られたら、
他の漁業者はたまったもんじゃない。
「漁業者は生活がかかってる」とかこの場長のような奴に限って言うんだよ。
「漁業者の皆さんのためにスケトウダラの漁獲枠を確保します!」とか、
何年か前のブロック会議で宣言してた道の職員がいたが、もしかしてこの人?

それにしても、道警はグッジョブだな。
今後も、こういう不正は、どんどん取り締まってください。

漁獲枠の配分という重要なプロセスが不透明で、
行政の胸先三寸でどうにでもなってしまう現状を放置しておけば、
こういう事件は今後も起きるだろう。
行政は、全体の漁獲枠が生物の持続性の範囲に収まっているかに、
責任を持てばそれでよい。
余剰枠の再配分なんて、漁業者の協議で決めればよい話であり、
そんなところに行政が口を挟むから、おかしくなことになるのである。

スケトウダラの未来のために その7

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俺はトキの保全は、何がやりたいのか全然わからない。
日本のトキは、とっくに絶滅しているのに、
中国から輸入してきたトキに人工繁殖までしているわけだ。
既に絶滅したトキをミイラみたいな状態で維持するために莫大な金が投資されている。
その一方で、ほとんど顧みられることなく、多くの種が絶滅に瀕している。
すでに絶滅したトキよりも、まだ絶滅していない生物の保全が大切だと思う。
トキの絶滅を教訓に、次なる種の絶滅を防ぐ方が大切だろう。

資源管理もそれと同じ。
日本海北部系群は、もうどうすることもできないので、
スケトウダラの太平洋系群へと俺の関心は移っている。
この資源は、今がまさに勝負所だと思う。

これが太平洋系群の資源量。90年代中頃からコンスタントに減少している。
image07110201.png

RPSは低水準で安定している。
現在の漁獲圧は、90年代前半なら問題ないのだが、90年代後半以降の水準では資源を維持できない。
近年のRPSで資源を維持できる見合った水準まで、早急に漁獲圧を減らす必要がある。
image07110202.png

RPS(卵の生残率)が低迷し、漁獲圧がそれに対応できず、資源がズルズル減っている。
この状況は、日本海北部系群の10年前と酷似している。
この資源は今がまさに勝負所であり、これから5年の間に行く末が決まると思う。

この資源のBlimitとしては、過去最低の親魚量154000トンが設定されている。
現在、Blimitに徐々に近づきつつあり、
10%の確率で2013年度にはBlimitを下回るというシミュレーション結果が得られている。
絶対に、絶対に、このBlimitは死守しなくてはならない。

そのためには、Blimitまで達したら、abcをどこまで減らすかを研究者で決めておき、
予め漁業者に周知しないといけない

そうすることで、Blimitに近づいた時点で、漁業者に注意を促すことが出来る。
北海道の関係者であれば、Blimitに達してから「どうしましょう?」では、お話にならないことは、
日本海北部系群の経験から痛いほどわかっているはずである。
資源量推定値がBlimitを下回ったら、何があろうともABCを予告通り削減する。

資源量には、過小推定の可能性ばかりでなく、過大推定の危険性もあるので、
資源評価の不確実性を理由に先延ばしは許されない。

Blimitを防衛ラインと位置づけて、そこで頑張るのは当然のことであるが、
ベストを尽くしたとしてもBlimitを下回っても漁獲にブレーキがかからずに、
資源がズルズル減っていく可能性はある。だから、それに対する備えも必要だ。
今のうちにBbanも決めておき、Bbanまで資源量推定値が下がったら、
必ずABC=0にすると宣言すべきである。
Bbanは、我々の管理能力が無い場合の保険として必要なのである。
今までBlimit以下に減らしたことは無いわけで、Blimit以下になったとき時に資源がどうなるかはわからない。
よって、Bbanを科学的見地から一意的に決めることは不可能である。
ただ、資源が減らしすぎると増加能力が失われて、元の水準に回復しない事例が多数知られている以上、
ずるずると減らさないための閾値は必要である。

現在、俺が太平洋系群に対して、要求していることは以下の3つ。
1) Blimit以下になったら、ABCをどこまで削減するかを予め決めておくこと
2) 資源の減少に歯止めがかからない場合を想定し、予めBban決めておくこと
3) 水研、水試で1)および2)に対して合意形成をした上で、漁業者に周知すること

Blimitが近づいている現状では、残された時間はわずかであることを、肝に銘じて欲しい。

スケトウダラのおもひ出 その6

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卓越年級群を未成熟のうちに取り尽くしたことがわかって、
「まあ大変」という状況で、俺が北海道に呼ばれたのだった。
その時点では、資源的にはまだ間に合ったが、漁業的には手遅れだったと思う。

この資源は90年代から減り始めたが、
漁獲量の削減が真剣に議論されるのは、ほんの数年前。
誰の目から見ても資源の枯渇が明らかになってからである。
この状態になると、漁業経営は苦しくなっており、
漁獲を控えめに減らすのはすでにできない相談である。
年収800万が400万になるのと、
年収400万が200万になるのでは、話がぜんぜん違う。
すでに厳しい状況でさらに減らすというのは無理だろう。
資源が減れば減るほど、漁業者から漁獲枠を上げるようにプレッシャーが強まり、
TACはABCから乖離していく。

研究者もまた、ABCを増やすことで、漁業者に迎合してきた。
スケトウダラ日本海北部系群の管理目標は、毎年、下方修正されている。

平16年度:2014年度の親魚量が184千トンを上回る
平17年度:2021年度の親魚量が184千トンを上回る
平18年度:2026年度の親魚量が 85千トンを上回る
平19年度:2027年度の親魚量が 55千トンを上回る

管理目標を下方修正すれば、当面のABCを水増しできる。
その年の合意形成はやりやすくなるかもしれないが、
資源状態が悪化するほど、高い漁獲率を許すのは資源管理ではない。
平成17年から平成18年にかけて大幅な目標修正があった。
管理目標が資源回復ではなく現状維持に変わったのだ。
資源が良い状態に回復したなら、現状維持に目標を変えても良いかもしれないが、
資源が減っている中で目標を現状維持に変えるのは好ましくない。
また、資源管理に一貫性をもたせるためには、平成19年度の管理目標は、
平成18年度の目標(2026年度当初のSSBが85千トンを上回る)をそのまま利用すべきである。

資源が減ればそれだけ目標水準を減らしていたら、いつまでたっても漁獲にブレーキはかからない。
このように資源が減るたびに目標を下方修正していけば、
一見、管理をしているように見えて、資源はどこまでもずるずる減っていく。
前に進んでいるように見えて、後ろに進むムーンウォークのようなものである。
(やっぱり、マイケルの動きはキレがちがうね!)

この資源を持続的に利用するうえでの本当の勝負所は、90年代中頃だっただろう。
卓越がでなくて、資源が減ってきたことは実感としてあったと思う。
この時代には、まだがんばれば獲れたが、ここで漁獲量を減らすべきだった。
がんばっても獲れなくなってからでは遅いのだ。
そして、1998年級群を未成熟で獲らずに産卵をさせていたら、
今頃、全く違う展開になっていただろう。

スケトウダラ北部日本海系群は獲らなくても減るような資源ではない。
適切な時期に適切な漁獲量まで減らしていたら、今後も持続的に利用できたはずだ。
産・官・学が強固なスクラムを組んで、問題を先送りすることで、
雪だるま式に問題を深刻化させて、
ついには解決不可能にしてしまったのである。

スケトウダラのおもひ出 その5

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卓越年級群の過大推定に関して、水研を責めるつもりはない。
誰がやっても不可避であっただろう。
資源評価など全く無視して、獲りたい放題の現状では、実質的な影響は軽微である。
たとえ、資源評価が正確であったとしても、同じように獲っただろう。

ただ、資源評価の問題点が明らかになった以上、
同じ過ちを犯さないように対策を練る必要がある。
大切なことは、失敗を認めて、原因を解明し、対策を練ることである。
平成18年の評価票には、次のように明記されている。

2003~2004年度の評価においては、資源動向が横ばいあるいは増加と、他の年とは異なる判断をしており、またこの期間に算出されたABCおよび過去の再評価結果の全てが、その後の資源状態の好転を予想した上で非常に高いABCを提示している(八吹 2003、2004)。これらの数値は、結果的に実漁獲量を上回った。これは、当時の1998年級群の好漁の結果、同年級豊度の評価を実際よりもかなり高く見積もり、その後の資源を支え、回復させる効果を過大に期待したことが原因であった。一方、2005年度以降の評価では、1998年級群の好漁が続かなくなり、当初想定したほど年級豊度が高くないと予想が修正されたこと、および2002年度漁期に、先の楽観的な資源予測の下で1998年級群を中心に獲り減らしてしまったことに伴い、資源状況およびABCの見積もり(過去の再評価、再々評価を含む)は大きく減少し、ABCは1万トン台で推移している(八吹 2005、本田ほか 2006)。なお、2005年度の実漁獲量はABCを上回った。

もちろん2003~2004年度の評価においても、当時使用しうる全ての情報を用いた上で、当時としては最適な評価を実施しており、1998年級群が当時想定したほど大きな年級群では無かったことは、当時の調査、研究技術の下では予見することが出来ず、当時の評価技術の限界によるものであった。これらを踏まえ、出来るだけ早い(若い)段階で年級豊度を正確に把握し、早急かつ適切に資源解析・評価に反映させることが必要となる。現在それを目的として、仔稚魚・若齢魚を対象とした計量魚探調査など、漁業情報と独立した調査の実施と情報の収集に取り組んでいるところである。

1998年級群の過大推定と資源評価の限界を認めた上で、
漁業情報と独立した調査の実施と情報の収集に取り組みを始めたのだ。

下の図は水試が行っている稚魚の調査結果である。
上が計量魚群探知機の調査で、下がトロールによる採取量を示したものである。
水研も時期をずらして同様の調査を行い、その結果を共有している。 *1
これらの調査によって、分布域のほとんどを網羅しているので、
漁業開始前に年級群の情報が得られるようになった。
現在、これらの調査結果は漁業者からも評価されているようである。

Image071027.png

1998年級群の過大推定という失敗を経て、北海道の資源評価は進歩した。
再び同じ失敗を起こさないような体制が整いつつある。
最近、じりじりと減少しているスケトウダラ太平洋系群に卓越が発生したとしても、
北部日本海系群の1998年級群のような過ちは犯さないであろう。
これはきちんと失敗に向き合ったからである。

日本における資源評価の歴史は短いし、十分なノウハウはない。
だから、不可避な失敗は山ほどあるだろう。
失敗に向き合う姿勢があれば、それをヒントに資源評価を改善していくことができる。
失敗事例というのは、貴重な財産なのである。

日本の水産業界には、失敗に向き合う姿勢が欠如している。
現在の日本の水産業はすごい勢いで衰退しており、問題があることは明らかである。
役所も漁業者も、何でもかんでも鯨や海洋環境のせいにして、
自分たちの責任をうやむやにすることしか考えていない。
この無責任体質によって、漁業がどこまでも廃れていくのである。


*1 公開当時は、「これは水研の調査だが、水試も同様の調査を独自に行い、結果を共有している」
と記述しておりましたが、上の図は水試の調査の結果でした。
メールにて指摘をいただいたので、10月30日に訂正しました。

スケトウダラのおもひで その4

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先のエントリで、卓越年級群を過大評価するプロセスについて説明したが、
平成15年と平成18年の評価表を元に、どれぐらい過大評価したかを検証しよう。

平15評価

平18評価

過去5年

2歳

0.029

0.059

0.020

3歳

0.090

0.200

0.082

4歳

0.121

0.513

0.137

平成15年と平成18年の評価表より、卓越年級群が2~4歳で経験した漁獲係数(F)を抜粋した。
平成15年の時点では、Fをかなり過小推定していたことがわかる。
最後のカラムに、平18の評価表の卓越年級群より前の5年のFの平均値を示した。
これは平成15年の評価でのFの推定値と近い。
平成15年の時点で、卓越発生前のFはそれなりの精度で推定できていたのだ。
そして、卓越を漁業者が選択的に利用するということが織り込まずに、
そのFを資源評価に使ってしまった。

Fが過小推定されると、資源量は過大推定される。
大まかに言って、Fが半分になると、資源量は倍程度に推定される。

平成14年の資源評価では、

2歳魚で9.1億尾、2001年度には3歳魚で6.6億尾

平成15年の評価表には、

1998年級群が、2000~2002年度に2~4歳で、それぞれ8.4億尾、6.1億尾、4.3億尾と算定され、

とあるが、実際は4.1億尾、2.9億尾、1.8億尾であったことがわかってる。

平14評価

平15評価

平18評価

2歳

9.1億尾

8.4億尾

4.1億尾

3歳

6.6億尾

6.1億尾

2.9億尾

4歳

4.3億尾

1.8億尾

これが現在の資源評価の限界である。
だから、低水準資源の卓越年級群は細心の注意を持って、
成熟年齢まで保護しないといけない。
これは鉄則なので、ルールとして明記しておくべきだろう。

アンチ資源管理陣営は、資源評価が不確実だから、
資源管理などやめて漁業者は好きなだけ獲って良いと主張するが、
それがとんでもない暴論であることはいうまでもない。
不確実な段階で利用しなければ良いだけの話である。

スケトウダラ北部日本海系群のおもひ出 その3

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スケトウダラ日本海北部系群に関しては、研究者側にも大チョンボがあった。
そのことはきちんと書き示しておくべきだろう。

1998年は10年ぶりの卓越年級群であり、世紀末救世主と目されていた。
漁業者は、この年級群が漁獲対象になるのを指折り数えて待っていたわけだ。
主に沖合底引きと沿岸延縄の2つのグループがこの資源を利用している。
沖底は、大陸棚でえさを食べている群れを狙うので、未成熟も成熟も獲れる。
沿岸は産卵場に戻ってきた成熟個体をターゲットにするので、未成魚はとれない。
まずは、2000年に未成魚の段階で沖底が漁獲を開始した。
期待された卓越年級群だけあり、当初は調な水揚げであった。
「次は俺たちの番だ」と、沿岸漁業者の期待も高まった。
しかし、ふたを開けてみれば成熟までにとりつくしてしまい、
資源の回復には全く寄与しなかったのである。
日本ではありがちなパターンである。

資源評価の精度が悪いというのは、まあ、皆さんご存じの通りだが、
特に精度が悪いのが最近年の若齢魚である。
一般的な資源評価では、過去の年齢別の漁獲尾数を元に資源量を推定する。
漁獲を繰り返すうちに、推定精度は上がっていくが、
若齢魚は肝心な漁獲のデータが少ないので、推定値は大きくぶれることになる。
さらに、これが卓越年級群だったりすると、推定精度はさらに悲惨になる。

他の年級群との漁獲量の比から、それぞれの年級群の大きさを推定するのだが、
資源が低水準で卓越が出た場合、周りの年級とは桁が違うので比較が困難である。
周りに低い家ばかりのところに高いビルが1つだけあるようなものである。
推定精度はさらに落ちることになる。

また、コホート解析では過去の平均的な漁獲パターンを仮定して最近年の計算をする。
実際には、漁業者は卓越年級群を狙って操業するため、
卓越年級群は普通の年級群よりも強い漁獲圧にさらされる傾向がある。
結果として、卓越年級群は過大推定をされることになる。
後からわかった年齢別の漁獲死亡係数はこのようになる。
Image071025.png
赤で囲んだ部分が1998年生まれが2~4歳で経験した漁獲圧である。
漁業者が狙うので、他の年級群より高い漁獲圧にさらされていたことがわかる。
1998年級群は、2000~2002年度に2~4歳で多く獲れた。
確かに、年級群として多かったこともあるが、
それ以上に漁業者ががんばって獲った効果が大きかったのである。
当時の資源評価は、漁獲量だけをみていたので、
たくさん獲れる→たくさんいる→もっと獲ってOK
となってしまった。
2002年には、わざわざ期中改訂をして、未成魚の漁獲を促したのである。
で、ふたを開けてみたら、例年並みにしか残っていなかったのである。
待望の卓越年級群が、自分たちの漁場に来る前に獲り尽くされてしまった
沿岸漁業者の心境は察するにあまりある。

資源が低水準のときに発生した卓越年級群は、
推定精度が低い上に、過大推定しやすい。
これは現在の資源評価手法の構造的な問題点である。
低水準資源に卓越が発生した場合、若齢から積極的に獲るべきではない。
獲らなかった魚は後で捕ればよいが、捕った魚はもう戻せないのだ。
1日でも早く獲りたいのは漁業者の常であるが、
ほとんどの場合、大きくしてから獲った方が儲かる。
また、低水準資源を回復させるためには、資源を回復させなくてはならない。
長い目で見て、未成熟の段階から利用するメリットはほとんどないのである。
低水準資源の場合は、卓越が発生しても、
未成魚の漁獲は例年並みの漁獲量にとどめるべきである。
最低でも1回は産卵をさせてから、積極的な利用を開始すべきである。
こういう獲り方をしていれば、
1998年級群を次世代に結びつけられたはずだ。
また、卓越年級群を、沿岸と沖合で公平に利用できたはずである。

現在の資源評価の精度は決して高くはないが、
そのことを肝に銘じた上でリスクを回避するように心がければ、
資源管理は十分に可能である。
2000-2002年に、研究者が犯した過ちは、資源量の過大推定よりもむしろ、
過大推定をする可能性を考慮せずに、安易に高い漁獲圧を認めたことである。
不確実性を勘定に入れた上で、リスクを回避しなかったことが失敗の本質である。
不確実性ではなく、リスク管理に失敗したのである。
資源管理ができないことを資源評価誤差のせいにしているかぎり、
同じ失敗を繰り返すだろう。

資源が低水準なときに、虎の子の卓越年級群を
未成熟なうちにがんがん獲るような愚行は絶対に避けないといけない。
今、まさにこれと同じことをしようとしているのがマサバ太平洋系群だ。
現在のマサバ太平洋系群は、当時のスケトウダラと非常に近い状況にある。
資源量は低水準で、2007年級群は卓越である可能性が高い。
北まき&茨城水試は、0歳が卓越だから、TACを増やせと声高に主張している
はっきり言って、今の段階で0歳魚の絶対量などわかるはずがない。
それを担保に漁獲を増やすのは危険すぎる。
もし、思ったよりも0歳魚がいなかったら、
もし、思った以上に獲りすぎてしまったら、
せっかく回復しつつある資源をもとの水準までたたき落とすことになる。
92年、96年と2回も卓越を未成熟のうちに取り尽くし、資源回復の芽を摘んできた。
それでも、なお、卓越が発生したとわかると同時に0歳から巻こうとする。
北まきと茨城水試は90年代の失敗から何も学んでいないのである。
もし、小サバの中国輸出で07年級群をつぶしたら、
「日本の海の幸を中国に切り売りする売国漁業」として後ろ指を指されるだろう。

マサバ太平洋系群はいまだに低水準なのだから、
卓越が発生したとしても未成魚の多獲は控えるべきである。
少なくとも1度は卵を産ませてから利用すべきだ。
スケトウダラの失敗を経験した人間の一人として、
マサバ太平洋系群の07年級の未成魚の漁獲を諫めないといけない。
それが、見殺しにされたスケトウダラ日本海北部系群へのせめてもの供養である。

スケトウダラ北部日本海系群のおもひ出 その2

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04年当時を振り返ると、全体的に危機感が無かったと思う。
本気でやばいと思っていたのは、魚種担当者と俺ぐらいだろう。
ほとんどの関係者は、漁業者が望むようなABCを出す事が自らの使命だと考えており、
「漁業者には生活がかかっているのに、
空気の読めない研究者が悲観的な数字を出してきて迷惑だ」という雰囲気だった。
俺が「この魚を捕るべきではない」といくら力説しても、
なんの反論もないまま、なし崩し的にABCが増えてしまった。
道の役人が「我々は漁業者の生活のためにTACを増やすよう働きかけます」とか
宣言していたのには、呆れかえってしまった。
この手のホワイトナイトたちが、「漁業者を救うため」にTACを水増していった。

漁業者のいうままにTACを増やしても、「漁業者を救う」ことにはならない。
このままでは、漁業者の生活が失われる可能性が濃厚なのだが、
その原因は、資源の持続性を蔑ろにして、過剰なTACを設定したせいである。
目先の利益を確保するために非持続的な漁獲を続けた漁業者と、
漁業者に言われるままにTACを増やした役人が、
資源をつぶし、漁業をつぶし、地域コミュニティーを破壊したのである。

北海道に限った話ではないが、漁業者は常に被害者意識が強い。
自分たちが利用した資源を、次世代にちゃんと残すのは漁業従事者の最低限の義務である。
その当然の義務を果たせと言われただけで、被害者面して大騒ぎをする。
自分たちは、理不尽な規制に苦しめられる哀れな存在だと声だかに主張し、
俺のような、いたいけな研究者を「漁業の敵」としてやり玉に挙げるのである。
たしかに、世界には、厳しい管理の犠牲となった漁業者が存在するのだが、
日本は資源管理に極めて消極的な国である。
国内に、資源管理が不必要に厳しすぎて漁業が滅びた事例など、無いだろう。
日本の場合は、乱獲で資源が枯渇した結果として、漁業が自滅しているのである。
自らの短期的な利益の代償として、共有財産の水産資源をつぶしたのだから、
漁業者は被害者ではなく、加害者である。

スケトウダラ北部日本海系群のおもひ出

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俺が北海道の資源評価に参戦したのは2004年、
期待されていた卓越年級群を未成熟のうちに獲りきっていたことが判明した年である。
水研担当者が出したabcは、業界には到底受け入れられない厳しい値だった。
abcの値を巡って、壮絶な戦いが繰り広げられた。

おれは、前年の評価票に目を通して、この資源は非常にやばいと直感した。
過去の資源崩壊の事例とかなり近いのだ。
産卵場の漁場が縮小しているが、中央部でしか獲れていない。
これは親魚の減少を示唆するものである。
縁辺部の産卵場の久遠は消滅、上の国は半減。
一方、産卵場中心の乙部ではそれなりに獲れている。
sukex01.png
「乙部で獲れているから、この資源は減ってない」というのが沿岸漁業者のより所であった。

しかし、産卵場の縁辺部が消失していくのは資源低下の典型的な症状なのだ。
繁殖を行う際には、ある程度の密度が必要になる。
そこで、資源が減少をしても、産卵場中央での密度は減少しない。
そのかわり、縁辺部での産卵が無くなるのである。
sukex02.png

実際に、ニューファンドランドのコッドでは、崩壊前年まで産卵場の中心では良く獲れた。
みんなが産卵場の中心に取りに行くから、量としてはそれなりに獲れてしまう。
だから、漁獲量だけ見ていると、資源の減少は把握できなかった。
産卵場を対象とする漁業で、資源の状態を把握するには、漁場の分布を見るべきなのである。
当時の資源評価はCPUEに全面的に依存していた。
スケトウダラの資源評価はニューファンドランドのコッドと似たような事をやっており、
資源状態はもっと酷い可能性が高い(ふたを開けてみれば、実際にそうだった)。

この話をした後で、今の資源評価は甘過ぎで、
最悪の場合、数年後にいなくなるかも知れないと力説した。
産卵場の縁辺部が消滅しているというのは漁業者の実感としてあったのだろう。
通夜状態になってしまった。

俺の意見は、ABCLimit(=tac)8千トン。
その前日に、ある漁業者に「生活がぎりぎり成り立つ漁獲量はどの程度か?」ときいたところ、
「8千トンは必要」という返事が返ってきた。
俺的にはこの水準まで、実際の漁獲を減らすべきだと思った。
その上で、次の漁期に産卵場周辺の分布調査を綿密にやるべきだと主張した。
もし、中心部にしかいなければ、禁漁に近い措置を執るべきだし、
漁業者が主張するように沢山いるなら期中改定をすればよい。
獲らなかった魚は後で獲ればよいが、獲った魚は戻せないのである。
スケトウダラのような寿命の長い魚は、獲るのが1年遅れたぐらいでいなくなることはない。

実際にどうなったかというと、ABCLimit 15千トン、ABCTarget12千トンに対し、
TAC 36千トン、実際の漁獲量14.8千トンであった。
せめてABCを8千トンまで減らせればとも思ったが、どうせTACは2万トンぐらいになり、
実質的な漁獲量の抑制には繋がらなかっただろう。

この段階で8千トンまで漁獲量を減らせていたら、資源も漁業も生き残れたと思う。
残念なことに、骨抜きTAC制度のもとで、漁獲量にブレーキをかけるのは無理だった。

失敗を次に活かすのが敗者の義務

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スケトウダラ日本海系群については、漁業を緊急停止して、
資源だけでも次世代に残すべきだと思う。
しかし、それは出来ない相談のようだ。
漁業者だってカスミをくって生きていけるわけではないし、北海道も金なさげ。
資源回復計画で、禁漁に近い措置がとれるかどうかが最後の期待だったが、
でてきたのが努力量の1割削減という時点で、アウトだろう。

俺が北海道の資源評価に参加した2004年が、
この漁業を存続させるための最後の勝負所だったとおもう。
すったもんだの議論をした上で、なぜか大甘なABCになり、
さらに輪をかけてダメなtacが設定された時点で負けだった。
俺としても、所詮はABC止まりという、研究者の限界を思い知らされた。
資源管理という意味では、完全な失敗。
これ以上ないぐらいの惨敗だ。

時計の針を戻すことはできないし、この漁業を守る手段は俺にはない。
だからといって、クジラだとか、海洋環境だとか、予算不足だとか、
そういう外部要因に責任転嫁して溜飲を下げればよいというものではない。
歴史を遡って、管理の失敗点を明らかに下上で、
スケトウダラ日本海系群の失敗を教訓を他の漁業へ活かすべきだ。
これがスケトウダラ日本海系群に関わった研究者の義務である。

俺が最も骨身にしみた教訓は、
「減ってからだと、何もできない」
「平常時(減る前)の準備で勝負は決まる」
「卓越年級群に過度な期待は禁物」

ということだ。

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from 18 Mar. 2009

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