前回の記事で紹介した会議は平成20年なので6年も前の話です。「資源管理のあり方検討会」というのが、今年の3月から開かれています。何の風の吹き回しか解らないのですが、水産庁から委員になって欲しいという依頼がありました。「資源管理をやることを前提に、前向きに議論をしたい」という話だったので、委員を引き受けました。
資源管理のあり方検討会 概要
水産資源の適切な保存管理は、国民に対する水産物の安定供給の確保や水産業の健全な発展の基盤となる極めて重要なものです。
しかし、かつて1千万トンを超える水準にあった我が国の漁業生産は、現在は500万トンを下回る水準となっています。こうした状況の中で、水産日本の復活を果たすためには、世界三大漁場と言われる恵まれた漁場環境を活かしながら、水産資源の適切な管理を通じて、水産資源の回復と漁業生産量の維持増大を実現することが喫緊の課題となっています。
このため、現在の水産資源の状況を踏まえ、資源管理施策について検証するとともに、今後の資源管理のあり方について幅広い意見を聞くため、本検討会を開催するものです。
なお、今回の会議資料及び議事録は、後日、農林水産省のホームページで公開します。
http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/kanri/140314.html
1)日本の水産資源に問題は無いという現状認識
会議の最初に確認をしたのですが、水産庁サイドは「日本の水産資源は総じて良好」という認識だそうです。他の委員も、それに追従。おとぎ話の世界の住人と、仮想の世界の話をしているような不思議な感じでした。どこに行っても漁業は末期的な状況で、多くの漁村が消滅の危機に瀕しているのに、霞ヶ関に集まった有識者たちは、「日本型漁業のすばらしさを海外に発信しよう」と意気投合しているのです。もちろん、日本の漁業には固有の長所がたくさんあることに異論はないのですが、多くの漁村が消滅の危機に瀕している現状で、上に立つ人間がやるべきことは、日本の漁業が抱えている問題点を特定して、解決するための方策を探すことのはずです。
「日本の漁業はまずます上手くいっていて、大きな問題は無い」というところがスタート地点なので、委員会の存在意義が不明です。水産庁の言うように「日本の資源管理が成功している」なら、検討することなど無いはずです。会議の進むべき道筋がまるで見えないので、複数の委員から「この会議では、何のために、何を議論するのか」という質問が投げかけられたのですが、水産庁からも、議長からも、明確な答えは得られませんでした。
2)あり得ない会期の短さ
年あけて2月ぐらいに委員の打診がありました。委員会では、3月末から初めて6月中旬には結果をとりまとめる予定だそうです。前回の検討会から6年も塩漬けにしておいて、いきなり「3ヶ月で結論」ですよ? たった3ヶ月で3魚種の資源管理に関する議論をして、とりまとめをするのは、どう見てもスケジュール的に無理があります。
他の委員からも「なぜ6月までに急いで結論を出すのか」という質問がでました。それに対する水産庁の返答は、「今年の予算要求に間に合わせるため」だって。議論の内容よりも、むしろ、予算請求をするために議論をした実績が重要なのでしょう。最初は、「6月からクロマグロの産卵期なので、それまでに産卵場を守る計画をきめたいのかな」と、好意的に考えていたので、がっかりしました。
3)社会的関心の高まり
6年前の会議と、委員の人選もほぼ同じ。危機感の無さも同じ。ということで、あまり前向きな議論は期待できないでしょう。にもかかわらず、今回の会議では、大きな希望を感じました。6年前の会議とは一転して、大勢の傍聴が集まったのです。
この手の会議には業界紙の記者など、ごく少数の傍聴しか集まらないのが普通です。この会議もはじめは水産庁内の小さな会議室で行うはずだったのですが、傍聴希望者があまりに多かったために、農水省の講堂に会場が変更されました。傍聴は120名も集まったという話です。テレビ、一般紙、東スポといったマスメディアも、多数取材にきました。 「やっぱり、日本人は魚が好きで、これからも魚を食べ続けたいと思っているんだ」ということを再確認しました。
クロマグロやウナギの激減によって、水産資源の持続性への関心は高まっています。「水産庁が水産資源の減少を認めるはずがない」というのが漁業村の常識であり、水産庁の会議では資源が減っていないことを前提に議論をするというのが暗黙のルールみたいです。でも、それが漁業村の外部の人間の目にはどう映るか。私の知人はこのように感じたそうです。
勝川委員の最初の問題提起「現状をどうとらえるかという共通認識を持つ必要がある」ということにしごくもっともだと思いました。それがないと話は平行線のままですからね。それにしても、「資源はおおむね安定している」という水産庁の見解には愕然としました。資源評価をしている魚種だけでも40%が「低位」なのに、よくも「おおむね安定」などと言えるものです。聞いていて恥ずかしくなりました。
漁業者の9割が「魚は減っている」と答えたというアンケート結果に対する八木委員の発言もひどかったですね。「アンケートのやり方が悪い」で一蹴してしまいました。景気についてのアンケートの例を出していましたが、もし仮に国民の9割が景気回復を感じておらず、景気回復を感じているのが0.6%だったとして、それでも日本の景気は回復していると言い張るならば、それは指標が間違っているのだと思います。
下半分の部分について説明をすると、「農水省の調査では、漁業者の9割が水産資源は減少していると回答している。増加していると答えたのは0.6%。資源は総じて良好という水産庁の見解は、漁業の現場の感覚と乖離しているのではないか」と、俺が指摘をしたのです。俺の経験から言うと、漁師は本当に魚がいなくなるまで、水産資源の減少を認めません。また、減少を認めたとしても、漁業の責任だとは認めたがりません。そういうバイアスがかかったうえで、この結果です。
それに対して水産庁OBの八木委員が、「アンケートのやり方が悪かったから、おかしな結果になったのだろう」と言って、次の話題に移ってしまいました。ちなみに、アンケートの設問はこんな感じ。どこが悪いのかサッパリわかりません。
水産資源の持続性は、魚を獲る人だけの問題では無く、消費者の日常生活とも密接に関わってくる問題。一人でも多くの国民に関心を持ってもらいたいです。社会の関心が高まれば、それだけ漁業村の身内の理論は通用しなくなります。その意味では、第一回目の会議は成功と言えるのではないでしょうか。ということで、第二回会議の傍聴のお知らせです。
「第2回 資源管理のあり方検討会」の開催及び一般傍聴について
開催日時及び場所
日時:平成26年4月18日(金曜日)13時30分~16時30分(予定)
会場:農林水産省 本館 7階 講堂
所在地:東京都 千代田区 霞が関1-2-1
議題
- 第1回検討会の結果等について
- IQ・ITQ*に関するフリートーキング
- スケトウダラ、マサバの資源管理について
- その他
http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/kanri/140408.html
平成26年4月15日(火曜日)18時00分必着なので、まだ間に合います。水産資源に関心のある方は、傍聴してみてはいかがでしょうか?
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Comments:2
- 通りすがりの役人 14-04-13 (日) 22:11
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委員頑張ってください、期待しています。
役人は学問的な理屈ではなく、政治的な理屈で動きます。
6月に結論を出そうとしている理由は上でも触れられている予算の関係と、
夏前に出る予定の成長戦略に何かを盛り込むためでしょう。安倍政権は「岩盤規制」としていくつかの分野を問題視しています。
農業もこれに含まれているのですが、漁業もこれに入れることができれば改革圧力はかなり強まります。
勝川先生のような行政批判の学者を委員として招聘したということは、
もしかすると水産庁内部でも成長戦略になにか漁業関連で弾を打ち込もうとしているのかもしれません。
この検討会のとりまとめで水産資源管理を変えれば日本の漁業は復活するというような文言が盛り込めれば、
それが成長戦略にも盛り込まれ、以降、その方向性で水産行政も動いていくことになります。大変だとは思いますが、ここは正念場だと思いますので日本の漁業のために頑張ってください。
- katukawa 14-04-14 (月) 8:15
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アドバイスをありがとうございます。
地元漁業の現状に危機感を持っている政治家は多くいます。
資源管理を中心とした成長戦略を打ち出せれば、大きな流れが作れるかもしれませんね。
この流れを上手く利用して、予算を得つつ、水産政策の方向転換を図っていくことが、
日本漁業の長期的利益にかなうと思います。(水産庁的にもそっちの方が得だと思うのですが・・・)多少なりともその方向に向かうように努力をしてみます。
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