Home > その他 | 資源管理反対派 > 無責任発言時代か(岩崎寿男)を読み解く その3

無責任発言時代か(岩崎寿男)を読み解く その3

[`evernote` not found]

4/11日に関しては、論点を整理してみよう。

TAC値の根拠が説明されていることが、審議会の資料を見ればわかる

本当にそうなのか、実物を見てみよう。

それから、マイワシでございます。マイワシの資源は低い水準ながら平成7年以降横ばい傾向にありましたが、本年の加入量水準は再び減少傾向にあるとされていることから、平成14年のTACは削減をしたいと考えております。その削減幅でございますが、今回の削減によりまして過去最低のTAC数量となること、またマイワシは漁獲量の年変動が非常に大きいことから、対前年比1割減にしたいと考えております。この結果、14年のTAC総枠は34万2,000トン、うち大臣管理分の大中まき網漁業につきましては18万1,000トンにしたいと考えております。また、都道府県に対する配分につきましては、島根県で 2,000トン、その他の県で1,000トンの減となります。
http://www.jfa.maff.go.jp/iinkai/suiseisin/gijiroku/kanri/003.html

これが資料のマイワシ関連の部分なのだが、これに対して質問もコメントも無かったわけだ。これで根拠が示されているとはとうてい思えない。委員に資源のことを理解している人間が皆無な時点で、まともな審議などする気がないのは見え見えだけどね。

この議事録でわかるように、水産庁は肝心な情報を隠している。

  1. 資源量がすでに26万トンまで減少していること
  2. 去年の実漁獲がすでに13万トンまで落ち込んでいること。

これらの2つの情報と照らし合わせれば、34万トンというTACが荒唐無稽であることは自明だろう。しかし、「加入が減ったからTACを10%減らします」という説明では、34万トンのTACの非常識さが全く伝わらない。TACが資源量を超えているという情報を委員は誰一人として知らなかったはずだ。また、TACは水産庁がいくらでも大盤振る舞いをできるが、だからといって魚が増えるわけではない。その前の年は、TACが38万トンに対して、実漁獲はたったの13万トンであった。すでに魚がいないことはわかっていたのだ。この期に及んで、実漁獲の3倍もの過剰なTACを10%削減しても何の意味もないことは自明だろう。

この議事録をいくら読んでも、TAC値の根拠は全く見えてこない。俺には、水産庁が都合が悪い情報は隠蔽し、お手盛り審議会でろくな議論もせずにTACを恣意的に決めているようにしか見えない。ここまであからさまな議事録を、堂々と公開できる神経は、流石としか言いようがない。この件に関しては、実物を自分の目で見て判断することをおすすめします。水産政策審議会の資源管理分科会議事録はここにあります。
http://www.jfa.maff.go.jp/iinkai/suiseisin/gijiroku/kanri/
毎年、11月にTAC値の審議が行われますので、そこを重点的に読んでください。

 

TACを前年より若干減らすというフィードバック方式をとっていたから、水産庁の説明はおかしくない

フィードバック方式かなんだか知らないが、資源量を超えるような漁獲枠を出すのは論外。
「フィードバック方式は、かなり有力な手法である」とか自画自賛しているけど、資源量を超えるような漁獲枠を出した時点で、その方法が機能していないのは自明だろう。

実は、フィードバック管理は俺の専門分野だったりするのだが、TACがフィードバック方式なんて初めて聞いた。当時のTACの設定をフィードバック方式の管理と呼ぶのは、全くの論外である。確かにフィードバック制御は使い方次第で効果があるのだが、10%という小さな変動幅では、よほど寿命が長く、変動が小さな資源しか管理できないというのは、我々の間では常識だ。

実際のマイワシの資源を対数で表現すると下のようになる。削減率10%だと、赤線のように漁獲枠が減少していくのだが、実際の減少(青線)はそれよりも急なのだ。毎年、漁獲枠を10%削減し続けても、資源はそれ以上の早さで減ってしまうので、いつまでたっても漁獲にブレーキはかからないのである。10%変動幅でのフィードバック方式で、変動が大きなマイワシを管理できるはずがない。
img08052306.png

さらに、フィードバックをかけているのは、実漁獲ではなく、過剰に設定されたTACであることに注意が必要だ。当時の状況を整理すると、TAC38万トン、漁獲量13万トン、資源量26万トン、ABC2.4万トン(笑)だったわけだ。TACは、資源量の1.5倍、実漁獲量の3倍という、明らかに過剰な状態であった。すでに大幅に過剰なTACを10%削減しても何の効果もないことは明らかだろう。このときの資源量は26万トンしかないのだが、TACが26万トンまで減るのに4年もかかる。4年間も、獲りたいだけ獲れば、さらに資源状態は悪化するだろう。当時の漁獲量の13万トンまでTACが減るのは12年もかかる。12年間も漁獲にブレーキがかからない資源管理など、聞いたことがない。

当時の漁獲のもとで資源が減少していたのだから、実漁獲量を基準に漁獲枠を削減しなければ、フィードバック管理とは呼べない。前年の漁獲量の13万トンの1割減で、TACは11.7万トンにするとかいうなら、まだ話はわかる。漁業経営の観点からも、実際に13万トンしか獲っていないのだから、実漁獲ベースで考えるのが妥当だろう。

結論:当時のTACの算出方法はフィードバック方式とはとうてい呼べない。また、どのような方式であろうと、資源量を上回るような漁獲枠をだすような方法を正当化することはできない。

Comments:0

Comment Form
Remember personal info

Trackbacks:0

Trackback URL for this entry
http://katukawa.com/wp-trackback.php?p=581
Listed below are links to weblogs that reference
無責任発言時代か(岩崎寿男)を読み解く その3 from 勝川俊雄公式サイト

Home > その他 | 資源管理反対派 > 無責任発言時代か(岩崎寿男)を読み解く その3

Search
Feeds
Meta
Twitter
アクセス
  • オンライン: 0
  • 今日: 424(ユニーク: 213)
  • 昨日: 413
  • トータル: 9520327

from 18 Mar. 2009

Return to page top