TAC制度に強制力を持たせるのは非常識
水産庁は形ばかりのTACを設定しておきながら、超過漁獲を取り締まらない。そして、TACの超過は日常茶飯事だ。これでは管理とは呼べないだろう。昨年度のマイワシを獲っていた沿岸漁業者のなかには、自分たちがTACを超過していることを知らない人も少なくないだろう。要するに、はなからやる気がないのである。
世界に目を向けると、漁獲枠のごまかしには厳罰が当たりまえになりつつある。ノルウェーなどの資源管理先進国では、違反をする気も失せるほど、徹底した監視体制が導入されている。そして、同じシステムがイギリスやスコットランドなどの周辺国にも広がっている。国際的に見れば、非常識なのは日本の水産庁である。
資源管理のルール違反にお目こぼしをすると、ルールを守った正直者だけが馬鹿をみることになる。これでは、ルールを守るものなどいなくなるだろう。資源管理に対して日本の漁業者が消極的な原因の一つは、「自分が獲らなくても、他の誰かが獲ってしまうのでは?」という心配である。「自分が獲り残した魚は、後でちゃんと獲れる」という安心感を植え付けるためにも強制力をもったルールが必要なのだ。たとえば、ノルウェーは非常に厳しい監視をしているが、実際には違法者はほとんどいない。違法者を罰するためと言うよりは、むしろ、安心して漁業者がルールを守れるように、強制力が必要なのだ。
パトカーのたとえ話は意味不明なのだけど、おそらく「漁業者は自主的にルールを守っているので、強制力は不要」と言いたいのだろう。TAC制度の規制が無視されていることについては、3月21日の記事で説明済みだ。
昨年2月に大中巻きのサバ類の漁獲量がTACを超過したが、水産庁は自主的な停止を要請したのみであった。その後も、「アジなど」、「混じり」という名前のサバが水揚げされ続けた。
意図的なTAC超過の部分には、岩崎氏は何の異論もないようだ。まあ、当事者だけに、反論するだけやぶ蛇だとわかっているんだろう。「TAC?知ったこっちゃねーよ。俺たちは巻きたいだけ魚を巻くだけだ」という無法集団がいる以上、性善説ではだめなのだ。
法律論についても、何が言いたいのかわからない。そもそも水産庁自身が穴だらけのTAC法を作っておいて、「取り締まるのは法律違反」と開き直るのは論外だ。それに納得する納税者はいないだろう。そもそも法律を作る時点で確信犯的にやる気がないというのが、根本的な問題なのだ。また、法の下の平等というなら、北海道のスケトウダラ漁業者はTACによる操業停止を義務づけられたにもかかわらず、マサバやマイワシはTAC超過を野放しという方が、不平等だろう。一律できちんとやるべきである。
マイワシ、サバをTACで管理しているのは、日本と韓国のみ
これは爆笑してしまった。あまりにも世間を知らなすぎる。岩崎氏は、日本とせいぜい韓国のことしか知らないのだろう。自分が知らないことを無いと言い切れる自信は流石だな。
米国は漁獲枠のことをHarvesting Guidelineと呼んでいる。岩崎氏は、「ガイドライン=強制力がない」と勘違いしているようだが、日本のTAC制度と違って米国のHarvesting Guidelineには強制力がある。サバの場合も、EEZでの漁獲量がHarvesting Guidelineに達したら、漁業が閉鎖されることになっている。
http://www.fishtheisland.com/National_fish_news.htm#11
EU・ロシア・ノルウェーの共同管理については、ここで紹介している。
http://kaiseki.ori.u-tokyo.ac.jp/~katukawa/blog/2008/02/post_301.html
また、ネットで検索すれば、オーストラリアをはじめとする多くの国が漁獲枠を設定していることがわかるだろう。
サバは世界中に生息する広域分布種である。たとえば、マサバ(Scomber japonicus)の分布はこんなに広い。
http://fishbase.sinica.edu.tw/tools/aquamaps/receive.php
世界中にローカルなサバ漁業は無数にある。一部の先進国をのぞいて資源管理の文書はあまり整備されていないので、サバを漁獲枠で管理している国がないことを示すのは不可能だ。少しでも国際的な資源管理について調べた経験がある人間なら、「特定の魚種が、特定の方法で管理されていない」などと不用意なことは言わないはずだ。
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