要点
太平洋クロマグロの2027年以降の管理方式について、国際合意が成立した。
重要なのは漁獲枠が増えたことではない。資源状態に応じて漁獲枠を自動的に算出するHCR(漁獲制御ルール)を含む管理方式に合意したことである。資源管理を政治的な駆け引きから、あらかじめ定めたルールへ移行させた点に意味がある。
合意までの経緯
7月8〜11日のWCPFC・IATTC合同作業部会では、メキシコが異議を申し立てたため、漁獲枠の合意に至らなかった。
7月30日、山下農水副大臣がメキシコを訪問し、メキシコ側が調整案を支持する姿勢を示したと水産庁が発表した。これを受けて8月18日、臨時合同作業部会がオンラインで開催され、合意に至った。
HCRとは何か
HCRは、資源量に応じて漁獲枠を決定する規則である。この規則に合意しておけば、毎年の協議を経ずとも、資源量の評価さえできれば漁獲枠が自動的に決まる。
漁獲枠の協議で合意が難しいのは、枠を減らすときである。各国が自国の枠を守る交渉を行い、合意が難航し、必要なときに漁獲へブレーキをかけられない事態が起こりうる。HCRに合意していれば、資源が減れば自動的に漁獲枠が削減される。
国際協議の負担が減るだけでなく、資源管理の実効性が高まる。
西部に偏った今回の増枠
今回の漁獲枠は、この新たな管理方式を適用して算出された(2027・2028年)。
| 海域・魚体 | 従来 | 今回 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 中西部太平洋・大型魚(30kg以上) | 11,869トン | 14,836トン | +25% |
| 中西部太平洋・小型魚(30kg未満) | 5,125トン | 4,823トン | −6% |
| 東部太平洋 | 7,581トン | 7,740トン | +2% |
増枠の配分は東西で大きく異なる。中西部太平洋、とりわけ大型魚を漁獲する漁業に大幅な増枠が認められた一方、東部太平洋の枠はほとんど増えていない。
「西80:東20」という配分
その背景にあるのが、太平洋の東西で漁業が資源に与える影響を「西80:東20」とする考え方である。
この比率は、漁獲規制を開始した時点の漁獲実績から決められた。当時は太平洋クロマグロが超低水準にあり、産卵場で漁獲していた日本以外は漁獲実績が低かった。他国と比べて日本に有利な割合で固定したまま漁獲枠を増やしていったため、資源回復のメリットを日本が大きく享受することとなった。
東部の漁業者から見れば、自分たちの枠がほとんど増えない一方で、西側の枠だけが大きく増えることになる。クロマグロが激減する以前は東部への回遊も多く、当時の漁獲比率は東部が30%ほどであった。資源が回復した以上、東の配分は30%に戻すべきだというのが米国とメキシコの主張である。
メキシコの反発は、HCRそのものへの反対というより、HCRに組み込まれた東西の漁業インパクト配分が自国に不利であることに向けられていたと考えられる。
東側への譲歩は6年間で2ポイント
今回の合意では、東部太平洋の割合を段階的に引き上げることになった。
- 2027・2028年:東20%/西80%
- 2029・2030年:東21%/西79%
- 2031・2032年:東22%/西78%
東側への配分は、6年間で2ポイント増えるにすぎない。この程度の譲歩で、日本に有利なHCRへの合意を成立させた。
日本にとっては大きな前進
日本にとって、今回の合意は大きい。自国の権益を守りつつ、資源管理の実効性を高める枠組みを取り付けたからである。
大型魚を中心とする西部の漁獲枠が大幅に増える一方、東部への配分は6年かけて緩やかに増えるにとどまる。今後も資源が回復基調を維持すれば、漁獲枠全体が増える速度が、東側への配分が増える速度を上回る可能性が高い。日本への影響は増枠ペースが多少鈍る程度にとどまり、HCRに合意できたメリットの方が大きいと考えられる。
もっとも、HCRに合意したからといってすべてが自動的に決まるわけではない。HCRに基づく漁獲枠をWCPFCとIATTCが正式に採択する必要があり、各国への具体的な配分も別途決めなければならない。ただし、全体の枠をどうするかから議論を始めるよりも、枠が決まった上でその配分を議論する方がハードルは低い。
残された課題——国内配分をどうするか
国際交渉では上手く立ち回った。しかし、勝ち取った枠を国内でどう運用するかという点で、大きな課題が残されている。
第一に、定置網など受動的漁具への配慮が不足している。定置網は入ってきた魚を獲る漁法であり、「クロマグロだけ獲らない」という選択が難しい。にもかかわらず、枠を超過すれば操業の停止や放流を迫られる。漁獲を能動的に選べるまき網と、選べない定置網を同じルールで縛ることには無理がある。受動的漁具には、混獲枠の別建てや年度間の融通など、漁具特性に応じた制度設計が必要である。
第二に、枠配分が大規模漁業に有利になっている。配分の基礎となったのは規制開始時点の漁獲実績であり、これは国際交渉で日本が「西80:東20」の恩恵を受けた構図と同じである。過去に多く獲っていた者が、その後も多くの枠を持ち続ける。実績主義は、規制開始時点の力関係を将来に固定する仕組みにほかならない。
公平な配分について、国内でも議論を始めるべきである。判断基準は漁獲実績だけではない。同じ1トンの枠から、どれだけの付加価値と雇用が生まれるか。地域経済にどれだけ還元されるか。資源の再生産にどれだけ配慮した獲り方をしているか。こうした観点を配分ルールに組み込むことは可能である。
国際的にはルールベースの管理へ前進した。次は、国内の配分を政治力ではなくルールで決める番である。
まとめ

HCRへの合意成立は、資源管理上の大きな前進である。日本に有利な枠組みを大枠で守りつつ合意を取り付けたという点で、今回の交渉は全体として評価できる。漁獲枠を増やしたこと以上に、資源管理を政治的な駆け引きから、あらかじめ定めたルールへ移行させたことに意味がある。
出典:水産庁「太平洋クロマグロの資源管理に関する共同作業部会の結果」
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