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マグロについて語ってみる その2

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1994年に、IUCNが客観的基準を導入した当初は、IUCNの守備範囲は陸上の生物に限られていた。IUCNは、1996年に突如として、海の生物にも一律にこの基準を当てはめることにした。漁業関係者にとっては、寝耳に水であった。日本の漁業関係者が、IUCNの議題がマグロだと言うことを知ったのが、会議の2週間前とかそんな感じ。
IUCNの新基準を当てはめれば、多くの漁獲対象資源がレッドリストに該当する。3世代で5割の減少などは、海産魚類ではよくある話なのだ。IUCNは、予防原則の立場から、5つの基準のどれか一つでも当てはまっていれば、他の基準に合致しなくともリストに掲載することにしていた。マグロを含む多くの魚類が基準Aに引っかかり、絶滅のおそれありと判断された。

IUCNの新基準

(A)個体数の減少
(B)生息面積が減少している
(C・D)成熟個体数が少ない
(E)野生絶滅の可能性を示す定量的リスク分析

さて、上の5つの基準では、絶滅リスクを直接推定した基準Eとそれ以外では意味に差がある。個体数の減少や、生息面積は、個体群にストレスがかかっている間接的な証拠ではあるが、これが必ずしも絶滅リスクにダイレクトに結びつくわけではない。基準Eで絶滅のおそれ無しという結果がでても、他の基準に合致すれば絶滅のおそれありと判断されてしまうのだ。絶滅のおそれが無いのは明らかなのに、レッドリストに載せるのは乱暴だろう。たとえば、ミナミマグロは、現在の減少率が続いても、すぐに絶滅するわけではない。絶滅のおそれがある個体数(500個体)に減るのは90年も先のことだ。これは3世代いないなので、基準Eでは危急(VU)になる。ところが、基準Aの方が厳しい結果が出るのでそちらが優先されてCR(絶滅寸前)になってしまった。

*Threatened – 「危惧」あるいは「絶滅のおそれのある状態」(絶滅危惧)には3種類ある

o Critically Endangered (CR) – 「絶滅寸前」(絶滅危惧IA類)
o Endangered (EN) – 「絶滅危機」(絶滅危惧IB類)
o Vulnerable (VU) – 「危急」(絶滅危惧II類)

素人には、CRだ、VUだと言っても、ピンとこないかもしれないが、VUとCRのイメージをわかりやすく説明すると、こんな感じかな。

VU→このままだとヤバそうなんで、なんかした方がいいんじゃね?
CR→MajiでZetumetsuする5秒前

VUとCRは、人間で言えば、健康診断で引っかかったのと、緊急入院ぐらいの違いがある。

日本サイドは、基準Eを評価できる情報がある種については、基準Eを上位にするように提案した。

日本提案

1)基準Eで絶滅のおそれなしと判断された物は、リストから除外
2)基準Eで絶滅のおそれありなら、即リスト入り
3)情報が少なくて、基準Eでは白黒つかない場合に、基準(A~D)を使う

俺としては、この日本提案は合理的だと思う。「なんでも、かんでも、載せちまえ」というIUCNの姿勢の方がおかしい。俺の聞いた話だと、基準Eを重視する方向で基準の見直しをするという話になっていたような気がするが、どうやらなしのつぶてっぽい。IUCNサイドは、飽食の海という本で、「最初のセッションで日本が立ち上がり、マグロについて抗議した。総じて参加国には悪い態度が目立ちったが、いくつかの漁業国は極端に欺瞞的だった」などと、日本をクレーマー扱いしている。あんまりな対応だろう。IUCNという組織は、なんかおかしいとおもうよ。

マグロについて、語ってみる その1

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CITESとは?

CITESというのは国際条約であり、日本ではワシントン条約として広く知られている。CITESでは、絶滅のおそれのある希少生物の取引を制限できる。CITESでは2~3年に1度、締約国会議というのを開いて、規制対象について議論をすることになっている。2010年にドーハで、締約国会議が開かれるのだが、その会議で大西洋クロマグロの取引を規制しようという動きがある。

実は、CITESでマグロの取引を取り締まろうという動きには、長い歴史がある。17年前から、いろいろな議論を繰り返して、今に至っている。何があったかをざっと振り返ってみよう。

1992年 CITES締約国会議で大西洋クロマグロの掲載が提案される
(米国が事前に提案→撤回、スウェーデンが提案→撤回)
1994年 IUCNレッドリストの基準の改訂
1996年 CITES締約国会議でクロマグロとミナミマグロの掲載提案(ケニアが提案→撤回)
IUCNで海洋生物に対する基準の議論
IUCNレッドリストに、マグロが条件付きで掲載される
現在 IUCNレッドリストに、マグロが条件付きで掲載される
大西洋クロマグロをCITESに記載する機運が高まっている。
モナコ提案→付属書Iに記載(スペイン、イタリアの反対で否決)
米国→パブコメを募集中
2010年 15回会議締約国会議(ドーハ)

まず、1992年に、米国が大西洋クロマグロの取引停止を提案する姿勢を示したが、事前に撤回。本会議では、スウェーデンが同様の提案をした。しかし、参加国の賛同が得られず、撤回。この時点から、マグロが標的になっていたが、国際世論から相手にされていなかった。潮目が変わったのが1994年のIUCNのレッドリスト基準の改定である。

IUCNとは?

IUCNは、レッドリストを作っている団体であり、CITESの基準にも大きな影響力を持っている。

IUCN-国際自然保護連合は、1948年に設立されました。84の国々から、111の政府機関、874の非政府機関、35の団体が会員となり(2008 年4月現在)、181ヶ国からの約10,000人の科学者、専門家が、独特の世界規模での協力関係を築いている世界最大の自然保護機関です。IUCNは、 地球的・地域的・国家的プログラムの枠組みの中で、国際条約等の会議の支援を通じて、持続可能な社会を実現し、自然保護および生物多様性に関する国レベル の戦略を準備し、実行するため、75以上の国々を手助けしてきました。IUCNの約1,000人のスタッフは、62の国々に滞在する多文化、多言語の機関 です。本部は、スイスのグランにあります。
日本支部はこちら(http://www.iucn.jp/iucn/index.html)

IUCNでは、1992年より前は、専門家の委員会の総意として、どの種を絶滅危惧かを考慮していた。「それってあまりにも恣意的じゃね?」という批判もあった。そこで、1994年にレッドリストの基準を作成し、より客観的な指標に基づいて、機械的にリストを作れるようにした。たとえば、絶滅危機(Endangered)については次のように定義されている。

絶滅危機「Endangered(EN)」
下記の基準(A~E)に定義されているように、絶滅寸前ではないものの、近い将来、野生絶滅のリスクが高い場合には、その分類群は「絶滅危機」です。

(A)以下のいずれかの形態で、個体群が縮小している

(1) 以下のいずれかの基準に基づいて、過去10年間、若しくは3世代のうち、どちらか長い方の期間で、少なくとも50%の縮小が観察、推定、推論され、あるいは疑われる。

(a)直接の観察
(b)分類群にとって適切な個体数レベルの指標
(c)生息地の面積、分布域の大きさ、あるいは生息地の質の減少
(d)実際のあるいは潜在的な捕獲のレベル
(e)外来種、雑種形成、病原体、汚染物質、競争種、寄生種の影響

(2) 上記の(b),(c),(d),(e)のうち、いずれかに基づいて、次の10年間若しくは3世代、どちらか長い方の期間に、少なくとも50%の縮小が予測あるいは想定される

(B)分布域の大きさが、5000km2 未満、あるいは生息地の面積が500km2 未満と推定され、以下の2つのうちのいずれかに該当する。

(1)強度の分断がある、若しくは知られている生息地が5ヶ所以下の場合。
(2)以下のいずれかにおいて、連続的減少が観察、推論、予期された場合。

(a)分布域の大きさ
(b)生息地の面積
(c)生息地の面積、大きさ、質
(d)地点あるいは下位個体群の数
(e)成熟個体の数

(3) 以下のいずれかにおける、極端な変動

(a)分布域の大きさ
(b)生息地の面積
(c)地点あるいは下位個体群の数
(d)成熟個体の数

(C)成熟個体数が少なくとも2500未満と推定され、かつ、下記に該当する。

(1) 過去5年間若しくは2世代、どちらか長い方の期間に少なくとも20%の連続的
減少が推定される。
(2) 以下のいずれかにおいて、成熟個体数や、個体群の構造において、連続的減少が
観察、良き、推論される。
(a)強度の分断(どの下位個体群も250以上の成熟個体を含まない)
(b)全ての個体群が単一の下位個体群にある

(D)成熟個体数が250未満と推定される。

(E)野生絶滅の可能性を示す定量的分析が、20年間若しくは3世代、どちらか長い方で、少なくとも20%である。

IUCNは、A-Eまでの5つの基準のうちどれか一つでも該当したら、機械的にレッドリストに載せることにした。

(つづく)


クロマグロ取引禁止を否決 EU、漁業国が反対

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U.S. FrontLine:アメリカ・日本・世界の政治・社会・経済情報速報ニュースサイト.

クロマグロ取引禁止を否決 EU、漁業国が反対


欧州連合(EU)欧州委員会は21日、乱獲で個体数の減少が指摘される大西洋と地中海のクロマグロの国際取引を一時禁止するよう求めた欧州委の提案が、同日のEU加盟27カ国の会合で否決されたことを明らかにした。


関係者によると、イタリアやスペインなど漁業国がそろって反対した。

フランスが「いきなり付属書Iはあれだから、付属書IIからでいいんじゃね?」という妥協案を出したのを、英独が「この軟弱者!」と切って捨てた時点で、EUは分裂の可能性ありと見ていたが、否決されたようですね。鼻息が荒かった、英・独・保護団体は収まりがつくのだろうか。あとは、米国がどう動くか。まだ目が離せませんね。しばらく、チャンネルはそのままで、お願いします。

欧州の勢力図

付属書I 英独モナコ

付属書II 仏

反対 伊西

北水試だより77 「ヒラメのさいばい漁業の可能性をさぐる」

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北水試だより77 「ヒラメのさいばい漁業の可能性をさぐる」は、なかなかおもしろかった。

ここから、PDFを落とせます。

なぜ、鮭やホタテは事業化できて、ヒラメは事業化できないかというのが、よくわかる。ただ、回収率が損益分岐点を上回っても、自分のところで獲れる確信がないと、事業化は難しいんじゃないかな。まあ、ヒラメは移動性が低いから、大丈夫なのかもしれんが。

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さて、ヒラメは全国で二千五百万尾ほど、放流をされているわけですが、正直なところ、全体の回収率はどのぐらいなんでしょうね。局所的なデータは探せばいろいろあるんだけど、数字がまちまちで全体図が見えてきません。知っている人がいたら教えてください。

栽培漁業はもともと埋め立ての補償事業として、採算度外視で始められた。その後も、採算が問われずに、今まできてしまった。今の世の中、存在意義をしっかりと示していかないと生き残れないわけで、鮭、ホタテ、昆布のようにドル箱になっているものはさておき、それ以外の事業は大変ですね。

マグロの国際規制に関する予習資料

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マグロの輸出規制は、1992年からの歴史的経緯を追っていくと、「ああ、ついにきちゃったね」ということになるんだけど、国内ではそういう歴史を追えるような情報がない。マグロ保全問題について知りたければ、とりあえず読んでおくべき本をまとめておこう。


マグロは絶滅危惧種か (ベルソーブックス)

まずは、遠洋水研の魚住さんの本。この本に目を通すと、大体の状況と、日本の業界サイドの言い分がわかる。ただ、この本が出てから状況はだいぶ動いていることには注意が必要。


飽食の海―世界からSUSHIが消える日

逆の視点から理解するには、この本がおすすめ。日本ではさっぱりだったけど、原著『 The end of the line』は、欧米で大ヒットし、世論に大きな影響力を与えた。賛成する、しないは、べつとして、こういう本が受け入れられて、世の中を動かしつつあると いう現実は知っておくべきだろう。

飽食の海の212ページから、IUCNマグロ問題に関する記述がある。

日本は、会合の場でこそ抗議しなかったが、国に帰るや否や、猛攻を開始した。”漁業”は世界的な産業だから、それに悪影響を及ぼすようなことなど認められないのだった

最初のセッションで日本が立ち上がり、マグロについて抗議した。総じて参加国には悪い態度が目立ちったが、いくつかの漁業国は「極端に欺瞞的だった」ことを覚えている、と博士は言う。

と、日本に手厳しいです。日本人は、消費者としての責任を問われている。


IUCNの日本代表の松田裕之さん(横浜国立大学教授)は、本書を「一貫性を欠く非理論的主張」と一刀両断。こちらも必読です。

漁業と魚食を批判する欧米世論 : チャールズ・クローバー「飽食の海」を読んで
日本水産学会誌 72(5)  pp.995-998 2006
http://ci.nii.ac.jp/Detail/detail.do?LOCALID=ART0007920925&lang=ja


それから、俺もちょっと書いているんだが、こんな本もあります。IUCNの基準や計算方法など、詳しいことも書いてあります。残念ながら、非売品。

ワシントン条約附属書掲載基準と水産資源の持続可能な利用
http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2004/CITESbook.html

まだ、余部があるので、欲しい人にはあげます。ただし、三重大まで取りに来れる人限定(笑
三重まで来るのが面倒な人は、発行元の自然保護協会に問い合わせてみると良いでしょう。

Rebuilding Global Fisheries 要約

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サイエンスに重要な論文が掲載されたので紹介しよう。

Worm B, Hilborn R, Baum JK, Branch TA, Collie JS, Costello C, Fogarty MJ, Fulton EA, Hutchings JA, Jennings S, Jensen OP, Lotze HK, Mace PM, McClanahan TR, Minto C, Palumbi SR, Parma AM, Ricard D, Rosenberg AA, Watson R, Zeller D (2009) Rebuilding Global Fisheries. Science 325: 578-585.

背景

この論文の背景から少し説明をしよう。まず、Wormらが次の論文で、「このままだと世界の漁業は2048年に消滅する」と述べ、世界中のメディアにこぞって取り上げられた。

Worm B, Barbier EB, Beaumont N, Duffy JE, Folke C, Halpern BS, Jackson JBC, Lotze HK, Micheli F, Palumbi SR, Sala E, Selkoe KA, Stachowicz JJ, Watson R (2006) Impacts of biodiversity loss on ocean ecosystem services. Science 314: 787-790.

それに対して、俺たちのHilborn先生が、「ちゃんと管理されている漁業は、大丈夫」と主張したのがこれ。さらに、「NatureやScienceの査読者は、漁業が破滅に向かっているという先入観に基づき、研究の質ではなく話題性で論文を選んでいる」と痛烈に批判をしたのだ。

Hilborn R (2006) Faith-based fisheries. Fisheries 31: 554-555.


「で、本当のところどうなのよ?」というのが、みんなの関心があるところだと思う。そこで、WormとHilbornを中心に、21人の大御所が集まって、出してきた結論が、この”Rebuilding Global Fisheries”という論文なのだ。おもしろそうでしょ?いろいろと議論をしても、最後は、データに基づいて、白黒つけようという姿勢が素晴らしい。

適当に、要約をしてみたのだけど、興味がある人は、原文を読んで欲しい。そんな長い論文じゃないし、さくっと読めるはずだ。


イントロ

乱獲が、海洋における最大の環境・社会経済問題と考えられている。漁業が、種の多様性と生態系機能に悪影響を与えてきたことに疑問の余地はない。しかし、現在も乱獲が進行しているかについては、議論が分かれている。本研究では、世界中の資源評価研究(生態系モデル、資源評価、調査漁獲)の結果をまとめて、世界の水産資源・生態系が回復に向かっているかを議論する。

資源評価

世界の166の資源評価結果を集計したところ、63%の資源量がMSY水準を下回っていた。(俺注:MSY水準というのは、持続的な生産量を最大にするような資源量のこと。MSY水準を下回ると「資源が健全ではない」→「回復が必要」ということになる)そのうち約半分(全体の28%)の資源は、最近、漁獲圧が減少傾向にあり、資源はMSY水準に向かっている。残り(全体の35%)は、現在も乱獲行為が継続している。

資源量の推定値が得られた144例について、1977年と2007年の資源量を比較すると、全体のバイオマスは11%減少していた。この減少は、主に中層の浮魚類の減少に起因する。北大西洋の底魚の減少は、北太平洋の底魚の増加によって相殺され、底魚バイオマスは全体としては安定だった。

 

トロール調査(俺注:主に底に住む魚を漁獲する)

タラとサメ・エイが顕著に減少していた。全体のバイオマスは32%減少。大型底魚(最大体長90cm以上)は56%減少、中型底魚(30~90cm)は8%減少、小型底魚は1%減少していた。一方、無脊椎動物は23%増加、浮き魚は143%増加していた。底魚が減少したことによって、余った餌を消費して、増えたのだろう。また、1959年と比較して、最大体長は22%減少していた。

漁獲量

1950年から4倍に増加した。80年代終盤に、8千万トンに達した後、安定的に推移している。大型底魚類が漁獲に占める割合は、1950年の23%から、現在は10%へと減少した。

種の崩壊

バイオマスが、漁獲がない場合の1割以下に減少すると「崩壊状態」と定義をする。資源評価で得られたバイオマスに着目すると、全体の14%の資源が崩壊状態であった。ベーリング海は崩壊率がほぼゼロなのに対し、カナダ東海岸では、6割が崩壊、米国の北東は25%が崩壊状態であった。

情報が得られている10の生態系のうち、7つの生態系で、近年、漁獲圧が減少していた。しかし、個々の資源は十分に回復していない。全体の漁獲圧の削減は、漁業の影響を受けやすい種にとっては、まだ不十分なのだろう。漁獲の影響を受けやすい種については、さらに取り組みを強化する必要があるだろう。

小規模漁業

この研究では、117の科学的資源評価と、1309のトロール調査の結果を解析した。これらの調査が行われているのは、主に先進国である。先進国の50万人の大規模漁業者にたいして、1200万人の小規模漁業者が存在する。これらの小規模伝統漁業の漁獲量は、2000年に2100万トンと推定されているが、漁獲統計が取られていない場合も多く、よくわかっていないのが現状である。小規模漁業は、データが少なく、地理的にも分散している。そして、漁業者は、漁業以外の食糧源や雇用を持たない場合が多く、これらの管理は難航している。

回復の手段

乱獲を抑制した生態系はどのような手法が使われていたか。重要性を含めて加点をすると次のようになる。

TAC 18
禁漁区 15
漁具規制 14
個別枠 13
漁獲能力削減 10
コミュニティーベース 8
努力量削減 5

それぞれの方法の効果は、漁業、生態系、行政システムの特性によって、大きく異なる。

魚が激減し、乱獲が明白になってから、資源回復の試みが始まる場合が多い。漁業の不確実性を考えると、そうなる前に毅然とした対応をとる必要がある。特に地球規模での海洋変動を考慮すると、早い行動が必要になる。

回復の問題点

漁業を回復さえるための短期的なコストが問題になる。乱獲状態からの回復には、10年から数十年かかることも少なくない。その期間は、漁獲量を低く抑えることになる。

世界規模で見ると、先進国から、途上国への漁獲努力量の移動が問題である。先進国の船が、途上国で漁獲を行っている。これらの外国船によって、漁獲される魚のほぼ全てが先進国で消費される。漁獲の南北問題が、途上国の食糧安全、生物多様性への脅威と成っている。

結論

海洋生態系が、直面している漁獲圧は、場所によって大きく異なる。漁業資源・生態系も、安定、減少、崩壊、回復など様々な状態が入り交じっている。資源管理によって、漁獲圧が削減された場所もあるが、現状のままでは、多くの資源が枯渇へと向かうだろう。

この論文は、漁業が比較的管理されているエリアのみを扱った。これは、海全体の25%をカバーしているに過ぎない。しかし、漁獲規制を行ったいくつかの生態系で、回復が観察されたことから、漁獲圧を十分に下げれば、他の海域でも生態系が回復すると考えることが出来る。水産学研究者の間では、MSYを実現する漁獲圧を、管理目標ではなく、上限にすべきだというコンセンサスが広がっている。他の管理手法も併用しつつ、大幅に漁獲圧を下げる必要があるだろう。

また、水産学の研究者と、保全生態学の研究者が、データを共有し、異なる学問領域の橋渡しをすることで、生態系の管理を発展することができる。生態系の回復は、短期的なコストを必要とする、険しい道のりである。しかし、それ以外に、漁業と海洋生態系の衰退を食い止める方法は無いのである。


資源研究不毛の地の研究者の独り言

この論文で注目して欲しいのは、図1の調査・研究を行った場所の分布。

北米東海岸 16
欧州 15
北米西海岸 14
オセアニア 8
中南米 5
アフリカ 3
東南アジア 2
東アジア 0

 

日本周辺は全くの空白地帯。この論文に使われた調査・研究がゼロです。漁業大国、ニッポンを擁する東アジアが、アフリカよりも、東南アジアよりも、資源研究で遅れているのです。

「サバカレー」の信田罐詰、民事再生法申請、負債約37億円

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「サバカレー」の信田罐詰、民事再生法申請、負債約37億円 | 企業・経営:ニュース・解説 | nikkei BPnet 〈日経BPネット〉.

「サバカレー缶詰」などのヒット商品で知られる缶詰製造の信田罐詰が、8月28日に千葉地裁に民事再生法の適用を申請したことが分かった。負債額は約37億3400万円。

主力得意先の統合により取引が縮小したほか、原料価格の高騰から仕入れ量を制限したため生産量が低下。また、新工場建設にともなう 資金負担が拡大し、収益を圧迫していた。2008年8月期の年間売上高は約34億8000万円に減少し、約1億8000万円の純損失を計上した。

ヒット商品は持っていた会社なんだけど、ダメだったか。加工もかなり苦しいみたいだね。銚子はくずのような魚ばかり水揚げをして、単価を下げているけど、まともな加工に使えるようなイワシやサバの仕入単価はむしろ上がっている。

さらに、場当たり的な漁獲枠の増大が、経営のリスクなっている。水産庁OBの北部巻網組合理事の圧力なのかどうなのかはよくわからないが、ここ数年は、サバの漁獲枠が毎年のように漁期中に増枠されている。漁期中の増枠の後は単価がぐっと下がる。一気に相場が下がることになれば、期中改訂前の高い魚をつかんだ加工屋は大赤字である。加工屋的には、いつ値下がりするか解らない魚を高くは買いたくない。しかし、工場は動かさないといけない。更に、作れば作ったで、スーパーからは買いたたかれる。といった具合に、とても厳しい状況である。

国内の鮮魚需要は限られているし、日本の魚を輸出しても、途上国が捨て値で買うのが落ちである。となると、鮮魚からあぶれた魚に価値をつけるのは加工しかない。加工業をしっかりと支えることが、日本漁業の安定につながるのである。

過去の出版物を整理します

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大きな仕事を抱えて、時間がとれないです。仕事が順調なのはよいけれど、時間が無い。更新しないのも何なので、この機会に、過去の書き物を整理していこうとおもいます。

時代は温故知新ですよ

しばらくは、こちらのページに順次アップをしていくので、よろしく。

まずは、2年前のみなと新聞の集中連載から。かなりの評判を呼んだようで、みなと新聞から月一の連載依頼があり、今日に至っているのです。

ただ、今読み返すと、ちょっと恥ずかしい部分が多いです。2年前と今とでは、持っている情報の量も質も違うから、いろいろとアラが見えたりもします。「今なら、別の表現をするなぁ」という箇所も多々あるのだけれど、基本的な方向性はまったく正しい。これを書いたときは、まだ、ノルウェーにも、ニュージーランドにも行ってなかったんだよね。その後、現地を何回も訪問し、理解を格段に深めたのだが、それによって、資源管理をちゃんとやれば漁業の未来は明るいという確信は深まるばかりだ。


世界漁業は成長産業 その3

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主要な輸入国の輸入量は次のようになる。

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ここでも日本のみが減少傾向、他が増加傾向である。特に2002年以降の日本の輸入量の減少が顕著である。その理由は、輸入単価のトレンドから明らかである。

Image2009081503


不況の影響で、日本の輸出単価は1990年代中頃から下降傾向にあった。2002年に、輸入単価が上昇中の欧州に追いつかれたのである。その後は、欧州との魚の奪い合いにより、同調して単価が上がっている。2002年以降に日本の輸入単価が上昇しているのは、この価格以下なら、日本市場が要求する水準の水産物が確保できないからだ。不景気の中で、値段が上がれば、当然のことながら、量が減る。日本の輸入量の減少は、消費者の魚離れではなく、国際価格の高騰による買い負けである。水産庁は「自給率が上がった」などと、大々的に宣伝をしているが、日本が貧乏になって魚を輸入できなくなっただけである。

先日訪れたチャタム島でも、80年代は、ロブスターの9割が日本に輸出されていたが、現在は5%しか日本に行かないそうだ。

世界漁業は成長産業 その2

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世界の漁業生産が、過去最高水準で安定的に推移しているのは、各種統計から明らかである。ただ、漁獲量の統計のみでは、世界の漁業の現状を把握するのは難しいだろう。近年の世界漁業の発展は、量よりも質の向上によるところが大きい。

漁業を取り巻く状況が近年大きく変わってきた。50年前の水産物は、地産地消が基本であった。漁獲物は、比較的短期間のうちに、水揚げ地周辺で消費されてきた。冷凍技術と輸送技術の発達により、水産物が世界中を移動する時代になった。

世界の水産物の貿易量と金額を次の図に示した。漁業生産が頭打ちになった90年代以降も、水産物の貿易は順調に増加していることから、地産地消から、地産他消へのシフトが進んでいることがわかる。水産物の貿易の重量はコンスタントに増加しているが、値段はそれ以上に増加している。

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重量ベースで見ても、金額ベースで見ても、水産物の貿易は伸びているが、特に金額ベースでの伸びが著しい。これは輸出単価の上昇を意味する。水産物の輸出平均単価を図にすると次のようになる。

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長期的な上昇傾向にあることがわかる。近年、日本国内では魚の値段が低迷しているが、世界市場では2000年以降、急速に単価が上がっているのだ。90年代以前であれば、日本の価格の低下は、そのまま世界市場の価格の低下につながったが、現在はそうではない。日本が買わなくても、世界の魚の値段は上がっているのである。水産物国際市場は、急激な日本離れが進んでいるのだ。

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from 18 Mar. 2009

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