やっぱり、歴史は動かなかった(ショボン

1991年に科学者が苦労をしてRMPを完成させたにも関わらず、
反捕鯨陣営が幅をきかせる本会議ではスルーされてしまった。

反捕鯨陣営は、科学的な不確実性を持ち出していれば、
ずるずると捕鯨中止を引き延ばせると踏んでいたのだろう。
にもかかわらず、科学者がRMPを採択してしまったモノだから、さあ大変。
当然、自国の科学者もRMPに賛成しているのだから、さぞ困っただろう。
「科学・科学」と連呼していた人間が手のひらを返したように、科学委員会を無視したのである。

1993年には、科学委員会を無視する本会議に抗議して、
当時の科学委員会の議長であったフィリップ・ハモンドが
「やってらんねぇよ」と辞任するという事態に発展。
ようやく1994年に本会議もRMPを採択したのだが、
「RMPを実施するために必要な管理システムが不備である。
よって、現段階ではRMPを実施にうつすことはできない」
ということで、なりふり構わずに捕鯨を止めにきた。

反捕鯨陣営は、科学委員が捕獲枠を出せなかった時代には、
「科学的な不確実性を考慮しよう」と言うけれど、
科学者がいざRMPを完成させたとたんに、科学委員会を無視するのである。
IWC本会議には、科学的な不確実性より前に解決すべき課題があることは明白である。
IWCの本会議は、捕鯨に反対するための方便として、
科学者委員会を利用していたに過ぎなかったのである。

科学委員会がRMPを完成させたことで、
IWCの本会議を支配するのが科学的な持続性への配慮ではなく、
特定の文化圏の倫理であったことが明白になった。
これは科学委員会の大きな功績である。
もし、科学委員会が本会議の顔色をうかがって、まともな捕獲枠を出さないような組織だったら、
世界の人はクジラは絶滅のおそれから捕れないと勘違いしたままだっただろう。
ちゃんとRMPをつくった反捕鯨陣営の国の研究者は偉かった。
それに比べて、「厳しい漁獲枠を出すと、漁業者や大本営が反対する」とかいって、
ずるずると管理目標を下げ続ける日本の研究者の態度はいただけない。
IWCの科学委員の爪の垢を煎じて飲むべきだろう。
科学的アセスメントを蔑ろにする今の漁獲が非持続的であるということを、
社会にあまねく知らしめることこそ、資源研究者の役割なのである。

このIWC本会議の態度を、大本営が科学軽視と非難しているが、
まさにお前が言うなである。
IWC本会議は、大本営よりは不確実性に対して理解があった。
反捕鯨陣営の「不確実性があるから、様子を見よう」という意見はまっとうである。
RMPが完成してメッキがはがれてしまったが、まともな主張をしていたわけだ。
一方、大本営は「研究者のいうことはあてにならないから、漁獲枠を増やそう」とか、
「不確実性があるから、漁獲枠を増やそう」とか国内資源に対して言っている。
これは全くの論外であって、メッキがはがれるとかそれ以前の問題。
「あいつ、ズボンのチャックが開いてるぜ」と笑っている本人は全裸でした、みたいなもんだ。

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OM誕生の瞬間、その時歴史が動いた?

IWCの科学者委員会の泥沼から、OM的アプローチが産まれたのである。

NMP時代の泥沼からわかったことは、
何が最良推定かという議論は時間の無駄だということだ。
複数のモデルに白黒つけるだけの情報が無いのである。
生態系というのは反復実験が出来ないし、
また、データは質的にも量的にも限られている。
白黒つくだけの情報が溜まるまで待っていたら、日が暮れてしまう。

科学委員会の役割は、何が正しいかを知ることではなく、
クジラを持続的に有効利用できる捕獲枠を計算することである。
どのモデルが正しいかという不毛な議論の代わりに、
どのモデルでも通用するような捕獲枠の計算方法を探すことにした。
何が真実かはわからないという科学の限界を受け入れたで、
社会の要請に答えようとしたのである。
実学研究者としての本分に忠実だったIWCの科学委員会は偉い。

科学者委員会は、漁獲枠を算出するためのアルゴリズム(Catch Limit Algorithm, CLA)の開発に乗り出した。
NMP時代の失敗をふまえて、捕鯨をやれば自動的に得られるであろう情報のみを利用して、
捕獲枠が算出できるようなCLAを目指した。
CLAさえ決めれば、科学的な勧告が出せないという事態は避けられる。

image07120701.png

CLAの選択にはコンピュータ・シミュレーションが活用された。
例えば、候補となるモデルが3つ、候補となるCLAが3つあったとする。
全てのモデルと制御ルールの組み合わせをシミュレーションで検証すれば、
全てのモデルに対して、資源の持続性を守りつつ、捕獲枠も確保できるルールはどれかがわかる。
image07120703.png

個々のシミュレーションはこんな感じになる。
image07120702.png

まず、テストすべきモデルとCLAの組み合わせを決定する。
最初にある捕獲枠を与えてやると、、
1)仮想モデル場での捕鯨データが得られる。
このデータは、多くのランダムな要素が含まれている。
2)採用されたCLAをつかって、このデータから捕獲枠を計算する。
3)その捕獲枠で仮想資源から捕鯨を行うことにする
4)1に戻る
このプロセスを繰り返していくと、そのモデルに対して、そのCLAがどの程度適しているかがわかる。
最低資源量や、平均捕獲枠、捕獲枠の変動などで比較を行う。

IWCで提案されたCLAは以下の5つであった。

  1. Punt and Butterworth 方式 (PB 方式)
  2. Cooke 方式 (C 方式)
  3. de la Mare 方式 (dlM 方式)
  4. Sakuramoto and Tanaka 方式 (ST 方式)
  5. Magnusson and Stefansson 方式 (MS 方式)

これらの5つのCLAと多種多様なモデルの組み合わせをシミュレーションし、
得られた結果を徹底検証し、Cooke方式が全会一致で採択された。
Cooke方式は、プロダクションモデルを用いた単純なCLAで年齢構成すらないのである。
シミュレーションで再現されたクジラの動態モデルは非常に複雑かつ不確実であったが、
このようなシンプルなルールが選ばれたというのは、実に面白い結果である。

主義主張が全く異なり、お互いに妥協をしない研究者達が集まっても、
サイエンスという同じ土俵に載ることで、全会一致で合意できるのである。
これは、科学者による合意形成のポテンシャルを示す事例である。
また、何が真実かではなく、不確実性に頑健な捕獲枠の算出方法を目指した点でも、
科学委員会の真摯な姿勢を感じることが出来る。

実は、この辺の流れは俺はあんまり詳しくないので、
細かい経緯については、この辺を参考にしてください。
http://www.nies.go.jp/social/seminar/H16/pdf/ishii_200406.pdf

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OM誕生前夜

OMによるアプローチは根本的に理解されていないようだ。
まあ、日本の漁業関係者には理解できなくて当然だと思う。
では、OMが何なのかを理解するために、
OM的なアプローチがどのような経緯で発生したかを振り返ってみよう。

一般的な資源管理の枠組みはこんな感じ。
image07120602.png
基準となるモデルをつくり、それに基づいて漁獲枠を計算する。
今後も漁獲量が一定だとして、持続的な漁獲量を計算するのである。
現在の日本の資源管理もこんな感じでやられている。
世界でも一般的にこれが行われている。

このやり方が機能するには、基準となるモデルを決定する必要がある。
研究者があつまって、「ああでもない」「こうでもない」と
議論をしていると、「まあ、こんなもんかな」という線がでてくる。
普通は、基準となるモデル(&そのパラメータ)を決定できる。
次にそのモデルの信頼性を議論して、
どのぐらいの推定幅を考える必要があるかを考慮した上で漁獲枠が決定される。

普通は、この方法で上手くいくのだが、
科学者の間に厳しい意見の対立がある場合には、このシステムは破綻する。
IWCのNMPは、最良推定値を元に捕獲枠を計算する方法を採用していた。
図1のような古典的な枠組みである。
日本の研究者は個体数が多く推定されるモデルを支持し、
英米の研究者は個体数が少なく推定されるモデルを支持した。
そして、お互いが自分たちが正しいと主張して譲らなかった。
NMPでは、個体数の最良推定値が決まらなければ、捕獲枠を決定できない。
モデルを決める段階で躓いて、全く身動きがとれなくなってしまった。
こうなると、図1のような古典的な管理システムは完全に機能しなくなる。

これをより一般化すると次のようになる。
研究者AはモデルAを使って、漁獲枠Aを主張する。
研究者BはモデルBを使って、漁獲枠Bを主張する。
お互いに自分のモデルが正しいといって譲らないとしよう。
image07120604.png

もしモデルAとモデルBのどちらが正しいかがわかれば、問題は解決する。
しかし、どちらのモデルがより妥当であるかを判断するのは至難の業である。
どのモデルが正しいかというのは不可知の命題であり、
我々研究者には白黒をつけることが出来ない場合が殆どだ。
白黒つけられ無いものに対して、不毛な議論が展開され、
結果として科学者委員会は捕獲枠を勧告できなかったのである。
これは、科学委員会としての存在意義が問われる事態である。

この事態を収拾するために考案されたのがOM的なアプローチである。
OM的はアプローチを採用した結果、
全会一致で一つの管理方式を科学者委員会は採択することが出来た。
NMPの枠組みに固執していたら、今でも不毛な議論をしていたはずである。
OMというのは対立する科学者間の合意形成に絶大な力を発揮するのである。
その秘密を次号で探っていくことにしよう。
(つづく)

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引きこもってる場合じゃないだろうに・・・

DSが髙木総裁を招いて懇親会を予定していた。
「日本の魚食は守れるか」という演題で、質疑応答も予定されていた。
もちろんDSが髙木委員提言に前面賛成というわけではないだろうが、
話を聞いて内容を理解した上で、反対意見を出してくれれば有益である。
一つのテーブルについて、議論をすることで、漁業の問題点を整理して、
業界にとって痛みが少なく、メリットが多い改革案を提案することも可能だろう。
この懇親会は日本漁業にとって画期的なイベントになるはずだった。
俺は参加する気満々で、楽しみにしていたのだが、
DSから延期になったという連絡が入ってガッカリした。

DSからは「こちらの都合で延期します」としか説明が無かったが、
ZGRが大本営経由で中止にするように働きかけたらしい。
DSがようやく重たいコシをあげたと思えば、こういうオチですか。
こういう理由であれば、延期と言うより、中止になる可能性が高いだろう。
文句があるなら、堂々と対案を示せばよいのに、
議論の場をつぶすというやり方は最低だな。

DSだって、漁業がこのままで良いと思っていないから、この会を企画したはずだ。
だったら、もう少し頑張って欲しかった。
ZGRと大本営が良い顔をしないのは、やる前からわかっていただろうに・・・
このことからわかるように、衰退していく日本漁業には自浄能力はないようだ。
そもそも自浄能力があったら、ここまで酷くなっていないわな。

ZGRは、自分たちから引きこもっておいて、
「この改革案は、漁業関係者の意向を無視している」と被害者面するのである。
文句があるなら、「改革など必要なくて現状でも問題がない」ことを示すか、
「漁業関係者の意向を取り入れた対案」を出すべきである。
自分からは何も出さないで「あれがダメ、これがダメ」と改革案にケチをつけるだけ。
とても、当事者とは思えない無責任な態度である。
「部外者は口を出すな」と言うなら、当事者としての最低限の責任を果たすべきだろう。

漁業への規制改革が政府によって検討されている。
DSやZGRが幾ら引きこもったところで、否応なしに事態は進むだろう。
誰が見ても今の日本の漁業は放置しておける状態ではないのだから当然だ。
やがて出てくるであろう改革案に、漁業関係者の意向が反映されないとしたら、
話し合いを拒否して、何の対案も出さなかったDSやZGRの責任である。
このまま漁業関係者が不在のまま話が進み、
漁業者にとって受け入れがたい改革案が出てきたら、
漁業者の皆様はDSやZGRを恨んでください。 

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今度はラジオですよ~

○番組    ラジオあさいちばん(NHKラジオ第1放送)5時~8時30分
○コーナー  ニュースアップ(当番組のメインコーナー)
○放送日時 12月7日(金) 朝7時20分頃からおよそ8分間
○聞き手   木村知義キャスター
○編集    インタビューを約7分に編集して放送

ついにラジオですよ。ラジオは初です。
プレゼンは、視覚情報があるから楽だけど、
ラジオは声だけだから、難しそう。 
しかも7分と言えば、それなりの長さですよ、姉さん。
ということで、ちょっとドキドキしたのだが、無事に収録が終わりました。

収録はNHKのスタジオまで行ってきました。
自転車で15分なので、楽でよいですな。
少し早く着いたので、NHKの側のカフェでちょっと一息。
カプチーノを頼んだら、えらく時間がかかるので、何か思えばラスカルでした。
こういうサービスは嬉しいですね。
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はるばる来ましたNHK。
中にはいるのは初めてだったりする。
07120503.jpg

テレビは長時間録画してほんの一部を使うので、
ラジオもそうかと思いきや収録時間は短かったです。
10分ぐらいだったでしょうか。
とちった部分、空白の部分を抜かせば殆ど全部が放送されそうです。
個人的には、日本独自のエコラベルを痛烈にDISる前に終わってしまって残念でした。

木村知義キャスターと収録後の一コマです。
インタビューを受ける場合、聞き手によって話し易さが違うのですが、
木村さんは抜群に話しやすかったです。人柄と経験のなせる技でしょうか。
07120502.jpg


月曜日にいきなり電話がかかってきて、
MSCと日本の水産の現状について教えて欲しいと言うから、
ブログに書いているようなことを話したのです。
そうしたら、この話題をラジオで話してくれということになりました。
あの電話は、俺がラジオに使えそうかのチェックも兼ねてたんだろうな。

ラジオの日程は凄くタイトです。
月曜日に「放送予定が金曜だから、収録は水曜か木曜でどうでしょう」と依頼されました。
いつもこんなにタイトなスケジュールなんですか?と聞くと、
これは例外的にゆとりがある方で、
前日に収録をするのが普通で、当日生と言うことも良くあるそうです。

質問リストが来たのが、昨日の夜で、
あまりいい加減なことも話せないので、昨晩は遅くまで調べ物でした。
MSCについては、伊沢あらたさんがWWFに着任した当時に話を聞いたきりで、
その後の進展をフォローしていなかったのです。
日本にいるとMSCは対岸の話というような感じだけれど、
欧米ではかなり広まっているようですね。
「世界の水産物の7%がMSC認証を受けている」という話です。
つい最近、MSC認証製品が1000件に達しました。
最初の500件の認証には7年かかったが、
そのあとわずか9ヶ月で倍の1000件に達したというのも驚きですね。
エコラベルは、世界的には大きな動きになっているようです。
ラジオのために調べ物をしたおかげで、いろいろと勉強になりました。
今回調べ物をした内容も近いうちにアップしたいが、OMの話もまだだし、
ノルウェーの話もまだだしで、もう、ぐちゃぐちゃですね。

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取材ばかりでゴワス

今週は珍しく取材の予定がないから、研究時間を潤沢に確保できると思いきや、
いきなり収録予定が入ってしまった。
今度は、少し目先が変わっていて面白そうです。
さて、どうなることやら。

それにしても、取材の申し込みは多いですなぁ。
ネタを提供したら入れ食いというようなレベルではなく、
蜜にたかるアリのごとく、向こうからワラワラ寄ってくる感じです。
消費者は魚に関心があり、情報発信者が他にいない以上、
こうなるのは必然なのだろう。

一般人への情報提供は研究者の重要な使命なので、
基本的に来るものは拒まずの姿勢で、
時間の許す限り今後も情報発信に努めていきますYO!

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マサバ太平洋系群終了のお知らせ

500g前後の個体の水揚げが落ちてきました。
どうやら、04年級群をほぼ獲り尽くしたようです。
みなと新聞の12月3日版の5面に「サバは11月中旬からペースダウンし、
散発的になっています」という記述があります。

1歳魚(06年級)、2歳魚(05年級)が殆ど居ないことは確定的なので、
来年、再来年のサバ供給は、輸入に頼ることになりそうです。
来年、再来年の産卵量は近年最低水準になると考えられるので、
08年級、09年級は期待薄ですな。

こうなると、唯一の好材料の07年級群も風前の灯火だろう。
期中改定で大盤振る舞いした漁獲枠は、0歳魚で消化されることになる。
虎の子の07年級もローソクで中国にたたき売られて終了の見通しです。
こういうときこそ、期中改定で漁獲枠を下げるべきなんだが、
大本営がそんなことをするはずがないですね。

年級群のまとめ
3歳(04年生まれ):多かったけど、ほぼ終了ようだ
2歳(05年生まれ):ほとんどいない
1歳(06年生まれ):ほとんどいない
0歳(07年生まれ):多いようだが、0歳から獲られて終了しそう

「07年級が成熟する2年後まで04年級で凌がなくてはならない」と、
ことあるごとに言い続けたのだが、
漁業者は、毎日1000トンとか水揚げして、値崩れさせて、獲り尽くすし、
大本営は、ほいほい期中改定して漁獲枠を激増するしで、終わってるよ。
先のことなんて何も考えていない。
ただ目先の収益が確保できれば満足なのだろう。
明らかに非持続的・非合理的な漁業が野放しな時点で、
日本の漁業にとって資源評価の不確実性が本質的な問題でないことは明白だろう。

脂ののった日本のサバを食べたいのだが、
芽が出た端から摘むような漁業を続ける限り、マサバ資源の復活は無いだろう。

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日本で資源管理ができないのは不確実性以前の問題

現在のABCは十分に不確実性を考慮していない。
では、不確実性を考慮して、乱獲リスクをコントロールするというのはどういうことだろうか。

現在の資源評価では、まず基準となるモデルを作る。
そのモデルをつかって、持続的な漁獲量の上限を見積もっていく。
現在、ほとんどの魚種のABCは単一のモデルから推定したABCをそのままつかっているが、
そのモデルが正確とは限らない。
乱獲になる水準は推定されたABCよりも、多いかもしれないし、少ないかもしれない。
もし、基準となるモデルに偏りがないとすると、過大推定と過小推定の確率は等しいだろう。
この場合、現在の決定論ABCを採用すると2回に1回は乱獲になってしまうのである。
これはリスク管理という観点からは、とんでもない話である。

たとえば、自然死亡率は推定が難しいパラメータである。
マイワシの場合は、年間の死亡率を33%としているが、
もしかすると25%かもしれないし、あるいは40%かもしれない。
それぞれの場合で、持続的に取り得る漁獲量は変わってくる。
25%でも33%でも40%でも資源が持続するような捕り方をしないといけない。
より多くの不確実性を考慮していけば、必ず漁獲枠は減るのである。

「現在のABCは不確実性を考慮していなくてけしからん」という主張はまさにその通りなのだ。
不確実性を考慮して漁獲枠を現在のABCより控えめにしなくてはならないのである。

では、どこまで控えめにするかというのは、社会的な価値観も絡んでくる問題である。
乱獲のリスクを50%許容しているような現在のABCが危険すぎることは明白だが、
乱獲のリスクを抑制しようとしても、なかなかゼロにはできない。
乱獲のリスクを20%許容するのか、5%を許容するのかでABCの水準は変わってくる。
意識が高い国・漁業ほど、許容するリスクは少ないはずである。

071203.png

さて、日本の現状はというと、軒並みABC<TACという惨状である。
たった一つのモデルから計算された危険なABCすら守られていないのである。
ABCをないがしろにする理由が「不確実性」だから、へそが茶を沸かす。

不確実性を持ち出してくる漁業者・行政官は、
例外なく科学者の勧告よりも多い漁獲枠を要求する。
要するに「科学者の言うことは当てにならないから、好きなだけ獲らせろ」ということだ。
これは不確実性についてまじめに考えている人間の発想ではない。
車の運転だって、視界が悪いときはスピードを落とす。
「見通しが悪いから、アクセルを踏もう」なんて無茶をしていたら事故を起こすのは時間の問題だろう。
資源管理もそれと同じで、将来予測や現状把握が難しい場合には、漁獲枠を控えめにするのが常識だ。
「資源評価に誤差があるから、好きなだけ獲らせろ」なんてことをしていたら、
魚がいなくなって、産業が廃れるのは自明の理である。
日本の漁業が軒並み赤字なのは、当たり前の自業自得だろう。

現在の日本漁業は決定論ABCすら無視している状況であり、
不確実性より前に深刻な問題があることは明らかである。
「よくわからないから獲って良い」という発想が根本的に間違えているので、
そこをたださない限り、研究者ががんばって不確実性を減らしても意味が無いのである。
「不確実性への挑戦」の前に「科学軽視への挑戦」が先だと、シンポジウムで言ったのはそういう意味。

不確実性をネタに漁獲枠を増やせという主張は根っこの部分がそもそも間違えているし、
そんなむちゃくちゃは主張に迎合するようでは、研究者として無責任である。
北巻きや管理課が、不確実うんぬんを言い出したら、
ニヤリと笑って「仰るように、このABCは不確実性を十分に考慮していません。
不確実性を考慮して、安全のためABCを半分にしましょう」と答えれば良いだろう。
「こんなABCでは漁業者が納得しない」と言われたら、
「魚がいることがわかったら、すぐにABCを増やすから、調査に予算をつけろ」と答えればよろしい。
それが研究者として正しい姿勢なのである。

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シンポジウム雑感 その1

シンポジウムはお疲れ様でした。

OMなんてマニアックなネタだから、
発表者+20人ぐらいと踏んでいたのに、
参加者が大勢でビックリしました。

「日本でもOMへの関心がこんなに高まっていたのか!」
と感動したのですが、
実は、昨日行われた秘密会議のついでに皆さん出席と言うことでした(笑
まあ、そうでしょうね。

シンポジウムは「不確実性への挑戦」というタイトル。
「数値シミュレーションを活用して、
不確実性に頑健な資源管理システムを構築しましょう」
というのが主題で、そういう演題が並んでいた。
資源評価の担当者達は、ことあるごとに北巻や行政官から、
「資源評価はあてにならん」「また、予測が外れた」などと、
いぢめられているので、かなり切実な問題なのだろう。

ただ、俺に言わせれば、不確実性なんて優先順位が低い話であって、
不確実性の前に考えるべき事は山ほど有ると思う。
実際のところ、漁業者も行政も不確実性なんてどうでも良いと思っている。
研究者が業界の都合の悪い数字を出してきたときに、
それを無視する口実として、不確実性を持ち出しているだけだろう。

(続く)

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発表準備をしております

明日のシンポの準備をしてます。
OMなんて微妙なネタだから、人数および客層が全く読めない。
実に準備をしづらい。

結局は出たとこ勝負ですな。

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