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魚種別 Archive

水産庁の国会答弁を徹底検証(その1)

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しばらくブログをお休みしている間にいろんなことがありました。

発端は、Wedgeの4月号にクロマグロに関する記事を執筆したことです。

http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4896

これまでブログに書いてきたことをまとめたような記事で、「絶滅危惧種の太平洋クロマグロには、ちゃんと卵を産ませましょう」というごく当たり前の内容です。

5月21日の参議院農水委員会で、鳥取県の舞立議員が、このWedgeの記事に関する質問を行い、水産庁長官は次のように答弁しています。

○政府参考人(本川一善君) この記事につきましては、大中型巻き網漁業による成魚、産卵をする親の魚の漁獲の一部を殊更にクローズアップをして、これが太平洋クロマグロ資源全体を危機に陥れるとの主張がなされているわけでございますけれども、私どもとしては、率直に言って公平性や科学的根拠を欠くものではないかというふうに考えているところでございます。

「科学的根拠を欠く」とまでいわれてしまったので、しっかりと反論をしていきたいと思います。国会答弁の内容はこちらで見ることができます。水産庁の主張を整理するとこんな感じです。

  1. 日本海産卵場の漁獲がクロマグロの産卵に与える影響は軽微である
  2. クロマグロ幼魚の新規加入が減ったのは海洋環境が原因
  3. クロマグロ幼魚の新規加入は成魚の資源量とは無関係に変動する
  4. 成魚ではなく未成魚を獲り控えることが重要と科学委員会が言っている

これら4つの論点について、個別に反論します。

検証1 日本海産卵場の漁獲がクロマグロの産卵に与える影響は軽微である

国会答弁での発言です。

○舞立昇治君
先ほどの縦二枚の二ページを御覧いただければと思いますけれども、二ページの下の表でございます。太平洋クロマグロの産卵量でございますけれども、日本海で三割弱、南西諸島で七割強と。仮に日本海側で、今自主規制、上限二千トンにしておりますけれども、この産卵量に与える影響は全体の六%程度ということが表で書かれております。こういったようなことで、親魚と稚魚の相関関係は確認されないほか、生存率、先ほども言われましたように海洋環境により大きく影響されるということで、ほとんど関係ないということが分かるかと思います。

舞立議員が根拠として示した円グラフは、水産庁の資料と同じものだそうです。

nazocircle

http://www.jfa.maff.go.jp/j/kanri/other/pdf/3data3-1.pdf

水産庁は、 3-5歳魚は日本海で卵を産み、6歳以上は沖縄で産むと仮定て、過去10年の太平洋での産卵量と日本海の産卵量を求めたそうです。その結果、日本海の産卵は全体の3割に過ぎず、自主規制の二千㌧漁獲をしても産卵量全体の6%に過ぎないので、大した影響は無いということです。

北太平洋まぐろ類国際科学委員会(ISC)のレポートの数値から、年齢別の産卵親魚重量を計算すると次のようになります。

ssbatage

このなかで、3-5歳が日本海、6歳以上が太平洋で産卵すると考えて、2003-2012年の産卵量をまとめてみると、水産庁が出したのと同じような円グラフが書けました。

bft03

水産庁と舞立議員は、その年の産卵量だけをみて、漁獲の影響を議論しているのですが、この考え方は、そもそも間違えています。漁獲によって失われるのは、その年の産卵だけでなく、その先の生涯の産卵機会が全て失われます。特に成熟したての若い親を産卵する場合には、その年の産卵よりむしろ将来の産卵が失われる効果が大きいのです。

境港の水揚げの大半を占める3歳魚を1尾漁獲したときの長期的な影響を考えてみましょう。まず、3歳で産むはずだった26.66kgの親魚が失われます。さらに、約78%が生き残って来年も卵を産むはずでした。翌年の4歳の産卵親魚35.6kgが失われます。失われた未来の産卵を足していくと、448kgの産卵親魚が失われたことになります。

キャプチャ

 

日本海産卵場の漁獲の主体である3歳の親魚を1トン漁獲すると、その先に卵を産むはずだった親魚が17トン失われる計算になります。水産庁は、17年ローンの初年度の返済金額のみを計算して、「「返済金額が少ない」と主張しているのです。

では、産卵場巻き網の長期的な影響を評価してみましょう。境港では、漁獲の体調組成データをとっています。このデータを使って、これらの魚が漁獲されずに生き残ったとしたら、産卵親魚量がどのぐらい増えていたかを試算したのが下の図です。

キャプチャ

 

現実の親魚資源量の推移を青線で示しました。2003年から2012年の間に半減しています。日本海産卵場の巻き網操業が無かったシナリオ(緑線)では、親魚の減少幅は半分以下に緩和され、親魚量は、現在の回復目標水準である歴史的中間値と近い水準になりました。太平洋クロマグロのモデルは、自然死亡が高すぎることが複数の研究者から指摘されています。近縁種である大西洋クロマグロやミナミマグロで使われている自然死亡率を採用すると、漁業を免れた個体が産める卵はさらに増えて、紫線のようになります。

この試算では、獲らなかった魚が生き残るところまでしか考慮していないのですが、生き残った魚が卵を産み、それが未来の加入増加につながっていく効果も期待できます。親魚量はこの試算以上に増えていたはずです。以上の試算から、2004年から巻き網が産卵場での操業を始めたために、クロマグロの親魚量が激減し、未成魚の漁獲半減といった規制が必要になったと言えます。

漁業が再生産に与える長期的な影響を考慮するには、俺がやったように、その漁業が無かった場合の親魚量を試算するのが一般的です。そういった試算をすれば、産卵場の操業が大きな影響を与えていることは明白です。産卵場の漁獲が問題視されてから10年近くの歳月が流れていますが、水産庁は未だに当然やるべき試算をせず、適当な円グラフをかいて「影響はほとんど無い」と言い張っているのです。

次回は、「クロマグロ幼魚の新規加入が減ったのは海洋環境が原因」という二番目の論点の妥当性を検証します。

 

Appendix A

3歳魚の1個体の漁獲によって失われる産卵親魚重量の試算

年齢 体重(a) 生残率(b) 失われた産卵親魚重量(a×b)
3 26.66152 1 26.66152
4 45.66521 0.778801 35.5641
5 67.7534 0.606531 41.09451
6 91.52172 0.472367 43.2318
7 115.7943 0.367879 42.59834
8 139.6713 0.286505 40.01649
9 162.5152 0.22313 36.26203
10 183.9116 0.173774 31.95904
11 203.6231 0.135335 27.55739
12 221.5456 0.105399 23.35073
13 237.6705 0.082085 19.50918
14 252.0544 0.063928 16.1133
15 264.7957 0.049787 13.1834
16 276.0169 0.038774 10.70234
17 285.8523 0.030197 8.631992
18 294.4386 0.023518 6.924532
19 301.9095 0.018316 5.529666
20 308.3918 0.014264 4.398972
21 314.0029 0.011109 3.488258
22 318.8505 0.008652 2.758597

大平洋クロマグロについて、みんなに知っておいてほしいこと

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2014年11月17日に、国際自然保護連合がレッドリストを改訂して、新たに太平洋クロマグロ、アメリカウナギ、カラスフグ を絶滅危惧種として指定しました。レッドリストは関係諸国に保全の必要性を示すのが目的であり、掲載されたからといって、ただちに強制的な規制がかかるわけではありません。関係諸国が連携して、保全措置を執ることが強くもとめられています。IUCNのプレスリリースでは、アジアの食品需要がこれらの魚種の減少を引き起こしたと指摘しています。これらの魚種の大半を消費する日本には、世界から厳しい目が向けられています。

1950年代には、4万トンあったクロマグロの漁獲量は、現在は1万5千トンまで落ち込んでいます。国別に見ると、最も漁獲が多いのが日本で、その次にメキシコです。台湾、韓国、アメリカ合衆国も漁獲をしているのですが、その量は比較的少ないです。日本が「韓国のせいでクロマグロが減った」と主張しても、他国の理解は得られないでしょう。クロマグロは、太平洋を横断して長距離回遊することが知られていますが、その主な生息域と産卵場は日本周辺海域です。クロマグロの回復のカギを握っているのは、われわれ日本人なのです。

キャプチャ
クロマグロの国別漁獲量(トン) (http://kokushi.job.affrc.go.jp/H25/H25_04.pdfより作図)

クロマグロ漁業には、未成魚への高い漁獲圧、産卵場での集中漁獲、規制の欠如という、解決すべき3つの問題が存在します(参考記事)。このまま何もしなければ、ワシントン条約でクロマグロの国際取引が規制をされるのは時間の問題です。尻に火がついた関係漁業国は、大慌てで、クロマグロの漁獲規制の準備をしています。今月サモアで開催された国際会議(WCPFC)で、日本を含む各国は、2002-2004年を基準に未成魚の漁獲量を半減させることで合意しました。
これまで漁獲規制が無かった太平洋クロマグロに対して、各国が漁獲量の上限を設定したという点では、意義がある会合でした。では、この規制でクロマグロは回復するのでしょうか。

キャプチャ
クロマグロ未成魚の漁獲量(2008-2012は水産庁調べ、2013,2014は筆者が市場統計から推定)

この図は日本のクロマグロ未成魚の漁獲量を示したものです。水産庁は2012年までのデータしか公開していないので、2013年と2014年は、私が産地の水揚げ情報から推定したものです。赤い点線が今回合意した漁獲上限の4007トンを示しています。ここ数年は漁獲量がこの上限に達していません。未成魚の漁獲量半減というと、とても厳しい措置のように聞こえますが、実際はそうではありません。今よりもずっと多くの未成魚が獲れていた10年以上前の漁獲量を基準に半減しているので、これまで通り、未成魚を獲り続けることができるのです。商品の元値をつり上げ、大幅に割り引いて販売しているように見せかける「二重価格」と同じ仕組みです。実はウナギでも同じことをやっています(参考記事)。ウナギの場合は、2014年が10年に一度の当たり年で、ここ数年のなかでは漁獲が多かったのです。そこで、2014年の漁獲量を基準に3割削減しました。漁獲が例外的に多かった年を基準にすることで、漁獲量を減らしているように見せかけているのです。

クロマグロは10年間に約半分に減少したので、未成魚は『漁獲量半減』ですが、これまで通り漁獲を続けることが出来ます。成魚については、10年前の漁獲量据え置きですから、獲りきれないような漁獲枠になります0。産卵場での集中漁獲は、今後も継続される見通しです。今回合意した規制では漁獲にブレーキがかからないので、価格への影響は軽微ですが、逆に言うと、資源の回復はあまり期待できません。

日本では、漁獲規制は消費者に不利益をもたらすと考える人が多いですが、実はそうではありません。消費の中心である1歳のマグロを、5年後に大きくしてから産卵期以外の時期に漁獲するとどうなるでしょうか。自然死亡で個体数は四分の一に減ります。しかし、体の大きさが3.4キロから91.5キロへと、約30倍に増えるので、漁獲量は7倍に増えます。また、一キロあたりの単価も、500円から、5000円に、10倍に増えるので、生産金額は70倍になります。さらに、6歳で漁獲をすれば、すでに何回も卵を産んでいるので、資源の回復にもつながります。適切な漁獲規制を行うことで、漁業が儲かるようになり、消費者も今よりも多くのマグロを持続的に食べられるのです。

キャプチャ

大西洋には、大西洋クロマグロという別の種のマグロが生息しています。大西洋クロマグロも乱獲で激減したことから、2010年にワシントン条約での貿易規制が検討されました。それを転機として、EU主導で厳しい漁獲規制を導入した結果、資源が順調に回復しています。EUは今回の大平洋クロマグロの規制について、「会議には進歩が見られず、クロマグロ資源再建については、実現への熱意が不足していた」と非難しています。大西洋クロマグロの場合、EUは直近年から漁獲量を4割削減しました。また、30kg未満のクロマグロは漁獲禁止ですから、太平洋の「なんちゃって規制」とは雲泥の差です。水産庁は、「漁業者の生活を守るために急激な規制は避けるべきだ」ともっともらしいことを言いますが、厳しい漁獲規制で資源を回復させたEUと、見かけだけの規制で資源を減少させ続ける日本のどちらが、長い目で漁業者の生活を守れるかは自明です。

日本人は、海外から水産資源の持続性について指摘されると、「われわれの食文化を否定するな」と感情的に反発しがちです。しかし、食文化だからという理由で、非持続的な消費を続けていたら、遅かれ早かれ資源が枯渇して、文化自体が成り立たたなくなってしまいます。子の代、孫の代へとマグロ食文化を伝えていくためにも、絶滅危惧種指定の意味を真摯に受け止めて、漁業者も消費者も一時的な我慢をすることが求められています。

クロマグロの国際合意の総括

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10月末に、米国で「全米熱帯まぐろ類委員会(IATTC)第87回会合(再開会合)」が開催されて、2015年及び2016年の商業漁業の年間漁獲上限について合意が得られました。

日本語プレスリリース
http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/kokusai/141030.html
英文の採択文書
http://www.iattc.org/Meetings/Meetings2014/OCT/PDFs/Proposals/IATTC-87-PROP-I-3A-MEX-JPN-USA-Conservation-of-bluefin-FINAL.pdf

東太平洋全体で、3300㌧。メキシコ以外の国(ようするに米国)の上限は300㌧になりました。また、未成魚の漁獲を漁獲量全体の50%に抑えるという努力目標が設定されました。

漁獲枠をグラフで表したのが次の図です。最近3年の平均からほぼ半減という、かなり厳しい内容です。親マグロが激減している現状を考えると、未成魚を50%に抑える努力目標は、「努力したけどダメだった」となる可能性が高いです。

キャプチャ

 太平洋クロマグロの全体の合意内容

西太平洋の漁獲枠は9月のWCPFC北小委員会で合意していたいので、今回のIATTCの合意によって、太平洋全域で、クロマグロの2015~2016年の漁獲上限が決定したことになります。

02-04 10-12 合意事項 最近年との比
日本 12897 9452 8890 0.94
韓国 655 1096 328 0.30
台湾 1709 313 1709 5.47
メキシコ 4619 5715 3000 0.52
米国 404 467 300 0.64
総計 20285 17043 14227 0.83

最近年から比較すると,国によって削減比がまちまちであることがわかります。削減比が小さい勝ち組は日本と台湾。日本が政治力を使って、自国に都合が良い提案を押し通した結果、漁夫の利を得たのが台湾です。台湾は10年前にマグロを多く捕っていたのですが、現在は漁獲が激減しています。規制が無いときよりも漁獲が増えるとは思えないので、枠があったとしても300㌧程度に収まると思います。

削減比が大きい負け組は韓国とメキシコ。日本の市場を使った圧力に抵抗しきれなかった模様です。そして、米国に関しては事情がちょっと違って、クロマグロに関しては、漁業よりも遊漁が重要な産業となっています。遊漁に関しても記述はあるのですが、具体的な内容に乏しいために、現状と大きく変わらないと思われます。

これで、クロマグロは回復するの?

「自国の漁獲を減らさずに、他国の漁獲を減らす」という交渉結果は、日本の狙い通りといえるでしょう。シェアが多い日本の漁獲量が温存されたために、資源全体の漁獲圧としてはあまり削減されていないことに注意が必要です。2010-2012の平均と比べると、17%の削減に過ぎません。2002-2004年と比べると、漁獲量は3割削減ですが、資源量は当時の半分に減っています。現在合意した漁獲枠では、クロマグロ資源の回復には結びつかないでしょう。

今回の交渉を見ていて疑問に思うのは、「日本は本当にクロマグロ資源を回復させるつもりがあるのか?」ということ。長期的な回復目標を設定せずに、数字を巡る駆け引きをした結果、声が大きい日本に都合がよいシナリオに落ち着きました。「日本の提案はクロマグロに関する自国の権益確保が狙いだ」とメキシコ代表団が指摘しましたが、その通りだと思います。政治力を使って、自国のシェアを増やしたところで、肝心の資源が崩壊してしまったら、元も子もありません。産卵場での巻き網操業の規制は無きに等しい状態が、今後も維持されるのが気がかりです。太平洋クロマグロがこのまま減少して行った場合に、最大の漁業国でありながら、自国の漁獲量を削減しなかった日本の責任が問われることになります。

数字をおっていけば、それほど意味がある漁獲量削減にならないのは明らかなのですが、「日本が率先して厳しい措置をとっているのに、資源保護意識の低い韓国やメキシコが駄々をこねている」といった論調のメディア報道が目立ちました。レクされた内容をそのまま拡散するのでは無く、交渉内容や結果を検証した上で、記事を書いて欲しいものです。

クロマグロの国際交渉を分析:日本のジャイアン外交が韓国とメキシコを力でねじ伏せた

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日本国内では、「日本が率先して厳しい漁獲削減を提案したのに、資源保護に後ろ向きな韓国とメキシコが反対をしている」という内容の報道が目立つのですが、実態は全然違います。日本が自国のみにきわめて都合が良い提案をごり押して、韓国とメキシコが泣き寝入りをさせられたのです。また、日本の提案の方が、メキシコの提案よりも厳しい内容とはいえまえせん。そのあたりのことを、実際に数字で検証してみましょう。

日本の提案
2002-2004年の平均の漁獲から、未成魚は50%削減、成魚は据え置き

メキシコの提案
2010-2012年の平均の漁獲から、成魚も未成魚も一律25%削減

各国のクロマグロの漁獲実績はここにあるので、それをもとにそれぞれ提案の数値を計算してみると下の表のようになる。

未成魚 成魚 合計
02-04実績 13221.3 7911.3 21132.7
日本提案 6610.7 7911.3 14522.0
10-12実績 11849.7 5217.7 17067.3
メキシコ提案 8887.3 3913.3 12800.5

日本の提案が14522㌧に対して、メキシコの提案だと12800㌧になる。

日本の半減提案よりも、メキシコの25%削減提案の方が厳しい内容だったのだ

なんで、こんなおかしなことになるかというと、基準年が違うのと、メキシコの提案は成魚を含むのがポイントです。

次に国別の漁獲量の削減幅を見てみよう。漁獲量が多いのは日本。次にメキシコと韓国。米国と台湾も漁獲をしているが量は微々たるものなので、主要な三国について見ていこう。

キャプチャ

ここ十年で、日本は漁獲を減らし、韓国とメキシコが漁獲量を増やしている。昔を基準に持ってくることは、日本にとって好都合なのだ。最近の漁獲量(赤)と日本提案(緑)を比較したときに、日本はほぼ横ばいだが、韓国とメキシコは激減している。日本提案は、ここ10年で、未成魚の漁獲量が増えた国に厳しい内容なのだ。

2010-2012年の平均漁獲量を1とした場合の、日本提案とメキシコ提案の漁獲量を示したのが次の図である。

キャプチャ

日本提案だと日本の漁獲量削減はたったの6%。それに対して、韓国は7割削減、メキシコは5割削減という不平等な内容になっている。つまり、日本提案は「俺たちは今までどおり獲るけど、メキシコと韓国に漁獲を削減させて、クロマグロを回復させよう」という内容だったわけ。韓国とメキシコがこれに反発をするのは、当然だろう。メキシコは「みんなで一律に減らそう」と主張したわけで、日本のように自国のみに都合が良い提案をしたわけではありません。自国の漁獲量を6%しか減らさない日本が、25%の削減を提案したメキシコを「資源回復に後ろ向き」と非難するのはおかしいと思います。IATTCでは4割削減で合意したので、最終的な漁獲削減は、日本6%、韓国70%、メキシコ40%となりました。

普通に考えれば、日本よりもメキシコの提案の方が妥当です。「産卵親魚が漁獲がない時代の4%まで減ってしまって大変だ」と騒いでいるのだから、未成魚のみならず成魚も保護するのが当然。また、漁獲量の削減を議論するにも、10年以上前の水準ではなくて、最近年を基準にするのがごく普通の考え方だ。なぜ、メキシコと韓国が日本にだけ都合がよい提案を飲んだかというと、水産庁が商社に圧力をかけて、韓国とメキシコのマグロを輸入させないと脅したからである。民間の環境NGOが圧力をかけるのはまだしも、政府機関が法令によらずに貿易規制をするのはWTOなどに違反すると思うのですが、どうなんでしょう?

日本人は、「日本は交渉が下手なお人好しで、いつも損をしている被害者」という意識があるのですが、とてもそうは見えません。日本のやっていることは、ジャイアンそのものです。

さて、自国のジャイアン外交を日本のメディアはどのように伝えたかというと…

日本は資源保護の観点からより大きな削減を主張していたが、メキシコの反対で後退した。
すでに中西部の太平洋海域では今秋の「中西部太平洋まぐろ類委員会」の小委員会で日本提案に基づいて漁獲半減で合意している。同じ太平洋で基準が異なれば資源管理の実効性がなくなる可能性がある
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS30H2F_Q4A031C1EE8000/

日本は「重さ三十キロ未満の未成魚の漁獲量を一五年以降に50%減らす」などとメキシコ案より厳しい内容を提案しているが、メキシコは「日本の主なクロマグロ漁場である中西部海域の漁獲量削減が不十分」と主張。「日本の提案はクロマグロに関する自国の権益確保が狙いだ」と反発している。
日本は七月に開かれたIATTC会合でも「未成魚50%削減」を提案したが、メキシコなどの反対で合意に至らなかった
http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2014102702000127.html
http://www.at-s.com/news/detail/1174136000.html

絶滅まっしぐらの状況を変えるには、本委員会の争点である、2015年以降の未成魚(30kg未満)の漁獲量半減(2002-2004年比)がとても重要です。しかし、メキシコが反対の意を示しているため、採択されないかもしれないのです。
もし、メキシコが合意しなかった場合、せっかく西側で未成魚漁獲量を半分に減らしても、東側で獲り放題だったら意味がありません
http://www.greenpeace.org/japan/ja/news/blog/staff/blog/51113/

「せっかく日本が素晴らしい提案をしたのに、資源保護に後ろ向きなメキシコが反対して、話がまとまらない」という論調です。メキシコが反対したのは、日本提案があまりにも不平等だったからだと思うのですが、そのことをちゃんと伝えたのは共同通信の井田さんぐらいでした。日本政府が、きわめて不平等な提案を突きつけていることには触れずに、反対する国を悪者扱いするのはいかがなものでしょうか。メディアのみならず、グリンピースまで水産庁の主張を右から左に伝えて、メキシコを非難。グリンピースブログの「合意が得られない場合には、輸入禁止などの強制的な措置をとらざるを得ません」って、まるで水産庁の中の人の発言ですね。

ジャイアン外交が悪いとは言いませんが、そのことを正しく国民に伝えるべきだと思います。

日本にとっては大勝利とも言える交渉結果なのですが、問題はあるのでしょうか。相手が納得していない状態で力で押し切った場合に、実効性の面で問題が生じるというのは往々にして起こりうることです。たとえば、捕鯨モラトリアムの後に日本がとった行動などがまさにその典型です。合意した内容が守られず、クロマグロ資源の回復に失敗した場合には、誰も得をしないことになります。また、日本の産卵場での漁獲規制がないのも問題です。いくら未成魚を守っても、産卵場に集まったマグロを一網打尽にしていたら、資源は回復しません。韓国、メキシコの漁獲に上限を設定するという意味では成功ですが、クロマグロ資源が回復するかどうかは、現段階ではわかりません。

クロマグロの幼魚が空前の不漁です

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クロマグロの幼魚(ヨコワ)が全然捕れません。親が減っているから、子供が減るのも当たり前なのですが、かなり危機的な状況です。

太平洋クロマグロ加入量モニタリング速報(2014年9月末)
太平洋南(※1)及び九州西(※2)において設定した曳縄モニタリング船の、7~8月(南西諸島海域で生まれたものと推定)における漁獲状況をもとに分
析。
• 太平洋南における2014年のCPUE(漁獲努力量当たり漁獲量)は、2013年の40%、2012年の71%。
• 九州西における2014年CPUEは、 2013年の20%、2012年の35%。
• 2011~2012年の加入量水準は歴史的な平均値より低く、2012年は過去61年で下位8位の低加入と評価されている。太平洋南と九州西における曳縄モニタリング船の2014年のCPUEは、2012年よりも低い。

http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/sigen/pdf/140930-03.pdf

ヨコワの単位努力量あたり漁獲量はこんな感じで減少中。大不漁と言われた2012年を下回る公算が高くなっています。

キャプチャ

水産庁は、クロマグロの未成魚の漁獲量を半減して、この先10年で、産卵魚の資源量を現在の倍の水準に増やす計画を立てています。来シーズンから、ヨコワに4007トンという自主規制枠を設定するそうです。ヨコワが不漁だった2012年は規制がなかったにもかかわらず、未成魚の漁獲量は3800トンでした。ということで、今年はがんばってヨコワを獲っても、自主規制枠に届かない可能性が高いです。

来シーズンからの規制は、「クロマグロ幼魚の漁獲半減」と、メディアには大々的に取り上げられました。半減という言葉が一人歩きをしていますが、実は「クロマグロが今の倍近くいた2002-2004年の漁獲量からの半減」なので、これまで通りに獲っても達成可能な目標なのです。しかも、親魚については、2002-2004年水準の漁獲量を据え置きですから、実質的には漁獲率の倍増を許すことになっています。

クロマグロ資源が直線的に減少しているなかで、これまで通りに漁獲ができる形式的な規制を導入して、資源がV字回復をするという見通しは、いくらなんでも甘すぎるのではないでしょうか。

あまり意味の無いウナギの池入れ上限

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平成26年9月16日(火曜日)から17日(水曜日)まで、東京都内において、「ウナギの国際的資源保護・管理に係る第7回非公式協議」が開催され、日本、中国、韓国及びチャイニーズ・タイペイの4者間で、ウナギ資源の管理の枠組み設立及び養鰻生産量の制限等を内容とした共同声明を発出しました。

日本、中国、韓国及びチャイニーズ・タイペイの4者間で、以下を内容とする共同声明を発出することで一致しました。
(1)各国・地域はニホンウナギの池入れ量を直近の数量から20%削減し、異種ウナギについては近年(直近3カ年)の水準より増やさないための全ての可能な措置をとる。
(2)各国・地域は保存管理措置の効果的な実施を確保するため、各1つの養鰻管理団体を設立する。それぞれの養鰻管理団体が集まり、国際的な養鰻管理組織を設立する。
(3)各国・地域は、法的拘束力のある枠組みの設立の可能性について検討する。

http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/sigen/140917.html

この規制の実効性について質問されることが多いので、私見をまとめます。

まず、これまで何の規制も無かったところに、生産量の上限を設けることが出来たのは一歩前進と言えます。漁獲を規制するための制度が無い漁業は、ブレーキが無い車と同じですから。日本のみならず、中国、台湾、韓国も含めた枠組みで合意を出来たのも大きいです。

漁獲量では無く,池入れ量で制限をするというのも良いと思います。シラスウナギは密漁が多くて、漁獲の段階での規制は現時点では難しいです。漁獲の部分を締め付けても、正直者が馬鹿を見て、ゲリラ的な密漁が増える可能性があります。養殖のいけすは移動できないし、生産量を確認することも出来ます。ウナギの生産量を規制するには、池入れ量の制限がもっとも効果的でしょう。今後は、シラスウナギ漁のライセンス制や、漁業者と養殖業者の取引の透明化など、過大は山積みです。

池入れ上限を設けるのは良いことなのですが、合意した水準には問題があります。当初は「過去4年の平均から3割削減(13.6㌧)」という話だったのですが、合意した数値は「直近の数量から20%削減(21.6㌧)」と大幅に増えていました。過去五年の池入れ実績の数値をまとめると次のようになります。去年は10年に一度の当たり年だったので、そこから漁獲量を微減しても、実際には漁獲量を削減する効果は期待できません。

キャプチャ

2010 2011 2012 2013 2014
池入れ量(㌧) 19.9 22 15.9 12.6 27

21.6㌧という漁獲制限は「達成できたらラッキー」というような水準です。数量規制を導入したとしても、当たり年である2014年以外はほとんど削減効果が無いことがわかります。平年は今まで通りにシラスウナギを採り続けて、大当たりの年にはわずかに獲り残すということでは、資源の回復は見込めません。しかも、「法的拘束力のある枠組みの設立の可能性について検討する」とあるように、この合意には現状では法的拘束力がありません。

ニホンウナギの絶滅危惧種指定で、ワシントン条約の俎上に載る可能性が高まってきたので、慌てて体裁を整えているようですが、内容が伴っていません。がんばっても獲りきれない漁獲枠を設定して、資源管理をやっているふりをするのは、日本のお家芸です。実効性の無い規制しか合意できないのであれば、ワシントン条約で厳しく規制をしてもらった方が、ウナギ資源の未来のためには良いかもしれませんね。

WCPFCで合意をしたクロマグロの規制について

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先ほど終了したWCPFC北小委員会に関する情報を整理しました。

クロマグロ資源の概要

漁獲が無かった時代の4%という危機的な低水準→回復措置を獲る必要がある。

科学委員の資源評価レポートの概要

http://isc.ac.affrc.go.jp/pdf/Stock_assessment/PBF_2014_Exec_Summary_4-28-2014_gtd.pdf

その和訳  http://katukawa.com/?p=5746

 

漁業の概要

未成魚・成魚ともに日本が漁獲の大半をしめる。次いで、メキシコと韓国の未成魚の漁獲が多い。乱獲行為が継続し、資源は乱獲状態に陥っている。

乱獲行為 → 非持続的な漁獲圧をかけている → 漁獲圧削減が必要
乱獲状態 → 非持続的な漁獲で、資源がすでに減少している → 資源回復が必要

クロマグロ漁業の3つの問題点 
① 卵を産む前に95%以上の個体をとってしまう
② 産卵場で待ち伏せして、卵を産みに来た親を一網打尽
③ 非持続的な漁業を規制するルールが存在しない
参考リンク→   http://katukawa.com/?p=5753

今回の会議の意義

クロマグロ資源を回復させるには、未成魚への高い漁獲圧を削減が不可欠である。日本が提案した未成魚の漁獲量半減措置が今回の会議で合意されたので、加盟国である日本と韓国は、未成魚の漁獲量に上限が設けられることになった。クロマグロの資源回復に向けて、一歩前進。日本代表は、難しい交渉を良くまとめたと思う。

韓国の漁獲量は多くないのだけれど、韓国が例外措置と言うことになると、「何で韓国が獲っているのに、日本は我慢しないといけないんだ」と日本の漁師から不満の声が上がり、国内の規制がやりづらくなるのは目に見えていた。国内の規制を潤滑に進める上で、韓国も含めた合意が出来たのは大きい。

残る未成魚の主要漁業国はメキシコのみである。メキシコの漁獲規制については10月に開催されるIATTCで決定する。未成魚の規制に難色を示しているメキシコにプレッシャーをかける上でも、今回、西太平洋での未成魚漁獲量削減の合意ができたことは大きい。

今後の課題

これまでと比べれば、クロマグロの規制は前進したが、今回の措置のみでは資源は回復しないだろう。今回合意した措置は、実はそれほど大幅な漁獲量の削減にはならないし、国内の漁獲規制の制度設計と、産卵場の保護という大きな問題が残っているからだ。

漁獲量半減でも、漁獲圧はそれほど下がらない
漁獲率を2002-2004の半分に削減すれば資源量は回復する」というシミュレーション結果が得られているが、今回の決定は「漁獲量を2002-2004の半分に削減する」という内容。資源量はすでに2002-2004年の水準の半分に減っているので、漁獲量を当時の水準から半減したところで、漁獲率としては2002-2004年レベルと大差が無いのである。この漁獲枠だと資源の回復に結びつかず、近い将来に、漁獲枠を更に削減することになるだろう。

漁獲量を制限するための日本国内の体制が整っていない
水産庁は、漁区を6つのブロックに区切って、ブロックごとに、早い者勝ちで未成魚を奪い合わせる計画である。競争のための無駄な燃油が浪費されるうえに、漁期の前半しか魚が供給されない可能性もある。早獲り競争を抑制するには、漁獲枠を更に細かく分けて配分していく必要があるだろう。

産卵場の保護
産卵親魚の減少が問題視されているにも関わらず、大型まき網船による産卵場での集中漁獲が継続している。産卵場での漁獲規制は、未成魚と比べて、きわめて緩い。2002-2004年の漁獲量が1000㌧弱であったにも関わらず、業界団体が2000㌧という過剰な枠を自主規制で運用している。がんばって未成魚を獲り控えても、産卵場に集まったところを一網打尽にしていたら、何の意味もない。産卵場の漁獲規制が急務である。

日本が提案しているクロマグロの漁獲規制について解説

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クロマグロの漁獲は、次の3つの問題点があることを先の記事で書いた。

① 卵を産む前に95%以上の個体をとってしまう
② 産卵場で待ち伏せして、卵を産みに来た親を一網打尽
③ 非持続的な漁業を規制するルールが存在しない

9月1日から4日まで、福岡でクロマグロの資源管理について議論をするための国際会議が開かれている(現在、その会議を傍聴しながら、ブログを書いている)。ここで日本代表が提案したクロマグロの規制について検討してみよう。

日本の提案はここにある。
http://www.wcpfc.int/node/19348

日本提案の概要

Management measures
2. CCMs shall take measures necessary to ensure that:
(1) Total fishing effort by their vessel fishing for Pacific bluefin tuna in the area north of the 20 degrees north shall stay below the 2002-2004 annual average levels.
(2) All catches of Pacific bluefin tuna less than 30kg shall be reduced to 50% of the 2002-2004 annual average levels. Any overage of the catch limit shall be deducted from the catch limit for the following year.

3. CCMs shall endeavor to take measures not to increase catches of Pacific bluefin tuna over 30kg from the 2002-2004 annual average levels.

6. The CCMs shall cooperate to establish Catch Documentation Scheme (CDS) to be applied to Pacific bluefin tuna as a matter of priority.

 

管理措置
2. 各国は以下を実現するために必要な措置を執る

(1) 20度以北でクロマグロを漁獲する船の漁獲努力量を2002-2004年の平均値から下げること。

(2) 30kg未満の太平洋クロマグロの漁獲量を2002-2004年の平均レベルの半分に減らすこと。漁獲枠を超えた漁獲は、翌年の漁獲枠から削減をする。

3. 各国は、30kgを超える太平洋クロマグロの漁獲が2002-2004年の平均レベルから増えないように努力をする。

6. 各国は協力して、漁獲報告システム(CDS)を優先事項として確立する。

日本提案の内容について解説

日本提案の骨子は以下の通り。

2002-2004年を基準年として、
1)基準年よりも漁獲努力量を増やさないようにする
2)30kg未満のクロマグロ(未成魚)の漁獲を基準年の半分に減らす
3)30kg以上の成魚については、基準年の水準を超えないようにする

1)については、努力量が定義されていないので何とも言えない。船の数だとか、出漁日数の規制は、資源の枯渇を食い止める上で、それほど大きな意味が無い。低水準の資源を産卵場で獲っている場合などは、少ない出漁日数でも、魚を取り切れてしまうからだ。現在の漁獲テクノロジーを駆使すれば、低水準の資源でも効率的に創業することが出来るので、資源を確実に守るには、漁獲量に適切な上限を設定する必要がある。努力量の定義が、漁獲死亡率であるなら、漁獲量に上限が設けられることになるので意味がある。

2)未成魚の漁獲圧削減は、クロマグロ資源の回復のために、必要不可欠だ。漁獲の中心は0-2歳の未成魚であり、ここを削らなければ大幅な資源回復があり得ないことは明白だろう。未成魚の漁獲圧を削減しない限り、3歳以上を禁漁にしたとしても、資源の回復は望めない。下の図は、クロマグロの漁獲の年齢組成なのだが、この図の青、赤、緑(未成魚)をそのままにして、紫より上(成魚)を削減しても、大きな効果は期待できない。

キャプチャ

3)成魚の漁獲規制が未成魚よりも緩くする意味がよくわからない。産卵親魚量の減少が問題になっているのだから、未成魚と同様に成魚の漁獲も削減すべきだと思う。とくに産卵場での操業は、少なくなった親魚に致命的なダメージを与える危険性がある。産卵場は日本にしかないのだから、日本のイニシアチブで産卵場の漁獲規制を行うべきである。

総評

クロマグロ漁業の一番の問題は、未成魚への高い漁獲圧である。未成魚の漁獲の大幅な削減を、日本が率先をして提案しているというのは、高く評価できる。日本はこれまで自国の漁獲を減らしたくないから、規制に反対することが多かったのだが、今回は資源の持続的な利用に向けて主体的な役割を果たしている。クロマグロの成魚の漁獲はほとんどが日本のEEZ内で行われているので、未成魚の漁獲圧を下げて、成魚中心の漁獲に切り替えることができれば、日本漁業に大きな利益が期待できる。また、日本政府は、漁獲報告制度(Catch Documentation Scheme)やデータ収集についても、提案している。これらは、不正漁獲を削減し、資源管理措置を実行するために必要な措置と言える。

CDSの説明

日本以外で、クロマグロのみ成魚を漁獲しているのは、韓国とメキシコの2国のみ。他の国には、反対をする理由があまりない。ということで、 韓国・メキシコが合意をするかどうかが、カギになるだろう。今回の会議は西太平洋なので、韓国が含まれる。おそらく今日の午後に、喧々がくがくの議論をすることになるだろう。そして、メキシコについては、10月に予定されているIATTCの臨時総会で議論をすることになる。メキシコは、「漁獲へのインパクトが大きい西太平洋から明確な漁獲削減案を示すべきである」という立場をとっているので、WCPFCでの合意が出来なかった場合は、未成魚の削減に同意しない可能性がある。逆にWCPFCで未成魚の削減の合意が出来た場合に、メキシコも厳しい立場に追い込まれるだろう。

国際交渉は相手があることだから、合意が得られるかどうかは不透明である。もし、韓国やメキシコの合意が得られなかった場合にはどうなるだろうか。俺は、国際的な合意が得られなかったとしても、日本は単独で未成魚の削減をおこなうべきだと思う。韓国、メキシコの漁獲量は日本よりも少ないし、北米に回遊するクロマグロは資源の一部であることを考慮すると、日本単独の漁獲削減でも、大きな効果が期待できるのだ。日本が国内の漁獲規制をしたうえで、引き続き韓国とメキシコに圧力をかけていくべきだ。

キャプチャ

 

日本政府提案は、方向性としては正しいので、全面的に応援したいと思う。現状では、成魚の漁獲規制の不足しており、問題点②は解決できない。また、国内で未成魚削減のための方策などには様々な問題がある。未成魚の漁獲削減を進めながら、産卵場の漁獲規制と、国内の規制のあり方については、引き続き議論をしていく必要があるだろう。

クロマグロは減っていないと主張してきた研究者たち

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6年ぐらい前から、日本海の一本釣り漁師たちが「クロマグロの群れが激減している」と危機感を抱いていた。漁業者からのSOSをキャッチした俺は、現場を回って、クロマグロ資源の危機的な状況についての情報を集めて、警鐘を鳴らしてきた。

2009年に撮影した一本釣り漁業者のインタビュー → https://www.youtube.com/watch?v=HCzqRpRDTJk&list=UU5QxUOmfdtctWClAK4DWsYA
2010年に書いたブログです⇒ http://katukawa.com/?p=3762

その当時、水産総合研究センター(日本の研究機関)は、「資源量は中位」で、2002-2004の漁獲圧を続ければ問題なしと主張していた。漁業の現場の危機感は、国の研究者によって、否定されてきたのだ。楽観的な資源評価は、産卵場でのまき網操業が無規制に拡大していく口実として利用された。

学術雑誌 nature でも、2010年に太平洋クロマグロの論争が取り上げられた。

http://www.nature.com/news/2010/100519/full/465280b.html

こちらが、WCPFCおよび日本政府の見解

Pacific bluefin (Thunnus orientalis) populations had been thought to be stable, with enough young fish maturing each year to replace those caught. In July 2009, a working group of the International Scientific Committee for Tuna and Tuna-like Species in the North Pacific Ocean (ISC) concluded that recruitment of juveniles to the population “does not appear to have been adversely affected by the relatively high rate of exploitation”. But the working group admitted that a lack of data meant recruitment since 2005 is highly uncertain.

太平洋クロマグロ資源は、十分な新規加入があり、安定して推移していると考えられてきた。2009年7月のWCPFCの科学委員会は、「比較的高い漁獲圧によって、悪影響がでているようには見えない」と結論づけた。しかし、ワーキングループは2005年以降の新規加入のデータの不確実性が大きいことを認めた。

それに対して、俺はこのように主張していた

And the belief that the stock is stable is based on a false assumption that fishing practices have not changed, says Toshio Katsukawa, a fisheries expert at Mie University in Tsu City, Japan. From speaking to fishermen, Katsukawa is most concerned that, in the past few years, boats have begun targeting the tuna’s spawning grounds.  This tactic increases catches, simultaneously making the stock seem bigger but damaging the fish’s breeding capacity.

「資源が安定しているという思い込みは、漁業の操業形態が変わっていないという誤った仮定に基づく」と、日本の津市の三重大学の漁業の専門家の勝川俊雄は語った。漁業者との情報交換によって、勝川は過去数年の間に漁船がマグロの産卵場で操業を開始したことを懸念していた。操業形態が変わることによって、漁獲量が増大し、資源量の過大推定をまねくとともに、資源の再生産能力が損なわれてしまう。

このどちらが正しかったかは、歴史が証明することになる。当時と今の資源評価をみると、水研センターは産卵親魚についてかなり楽観的な評価をしていたことがわかる。

http://kokushi.job.affrc.go.jp/H22/H22_04S.html

2010年当時の楽観的な資源評価(産卵親魚量)を下図に示した。最近の資源水準は歴史的に見ればそれほど低くないし、資源は安定的に推移しているように見える。
キャプチャ

最新の資源評価はこんな感じ。1990年代中頃から、資源が直線的に減少している。過去にさかのぼって結果が変わっているのだ。
キャプチャ

natureのニュースでは、「2011年4月までに、漁船ごとに漁獲枠を設定する、大型のまき網漁業の規制、畜養のための稚魚の漁獲を認証性にして報告義務をつける」という水産庁の方針が紹介されている。

Responding to concerns about the health of the stock, Japan’s Fisheries Agency last week outlined new measures to monitor and manage the tuna populations. These specify limits on the weight of fish that each boat can catch, restrictions for the large boats using encircling nets that account for most tuna fishing, along with new requirements for other boats to report their catches. And fish farmers, who collect an increasing but unknown number of juveniles and raise them in pens, will be required to register and report their activities. The agency plans to implement the restrictions by April 2011.

それに対する俺のコメントは「きちんと実行すれば効果があるけど、ぐずぐずして手遅れになることが心配」

Katsukawa says that the new measures, “if done effectively”, could have a major impact. But he fears they will be implemented too slowly to head off an irrecoverable drop.

2014年現在、漁船ごとの漁獲枠は設定されておらず、大型まき網漁業の規制はきわめて不十分な状態だ。残念ながら、こちらも予想通り。

2010年の段階で、規制を導入して、段階的に漁獲圧を下げていれば、資源は回復に向かっただろう。一昨年まで、水研センターの担当者は「クロマグロは豊富で、現在の漁獲圧に問題は無い」と言い続けてきた。その結果として資源の枯渇を招き、漁獲量の半減というきわめて社会的にも影響が大きな手段を執らざるを得なくなった。漁業の現場の声を無視した楽観的な資源評価によって、国益が大きく損なわれたのである。楽観的な資源評価は、クロマグロに限った話では無い。ウナギの場合も、シラスウナギが捕れなくなって鰻屋がばたばたと閉店しているにも関わらず、一昨年まで「特に減っていない」という立場であったし、カツオも近海の漁獲量が直線的に減っているにも関わらず、「資源は豊富で、現在の漁獲に問題はない」という立場をとっている。

クロマグロ漁業の3つの問題点

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現在、国内外で関心が高まっている太平洋クロマグロの現状について整理してみよう。

このエントリで用いる図はすべて、WCPFCのISCレポートからの引用である。

http://isc.ac.affrc.go.jp/pdf/2014_Intercessional/Annex4_Pacific%20Bluefin%20Assmt%20Report%202014-%20June1-Final-Posting.pdf

日本が主人公

太平洋クロマグロは、長距離の回遊をする高度回遊性魚類の代表である。しかし、その産卵場および主な生息域は日本のEEZにあり、漁獲および消費の大半は日本人によるものである。「ほぼ日本の水産資源」といってもよいだろう。

日本の次に漁獲が多いのはメキシコ。東太平洋に餌を求めて回遊した10~20kgぐらいの未成魚を捕まえて、餌を与えて太らせて、日本に出荷している。それ以外の国、韓国、台湾、米国の漁獲は誤差のようなレベルである。下のグラフを見て、「韓国のせいでマグロが減っている」と主張するのは難しいことが一目瞭然だろう。

キャプチャ

問題点 その1 未成魚への高い漁獲圧

下の図は漁獲されたクロマグロの年齢組成である。0歳、1歳、2歳でほぼすべての個体を漁獲していることがわかる。クロマグロは3歳で2割の個体が成熟し、5歳でほぼすべての個体が成熟すると考えられている。つまり、卵を産む前の未成魚の段階で獲りきっているのである。

キャプチャ

問題点 その2 産卵場での集中漁獲

未成魚に高い漁獲圧をかけ続けた結果として、大型の産卵群が減少している。6-8月の産卵期になると、日本海と沖縄沖にある産卵場に集まってくる。普段は広範囲に分布しているクロマグロもこの時期だけは一カ所に集まるのである。2004年までは、産卵場での巻き網操業は行われていなかったので、未成魚の漁獲を逃れた大型のマグロが日本海に存在し、資源の再生産を支えていた。しかし、2004年から、日本海の産卵場に集まってくる産卵群をまき網で一網打尽にするようになった。

下の図はまき網による大型魚の漁獲である。2003年までは、まき網は太平洋で餌を食べている群れを漁獲していて、産卵場がある日本海ではほとんどマグロを捕っていなかった。50Kg以上のマグロを釣ることができる沿岸漁業者はごく少数であり、日本海のマグロは、ある程度の大きさになってしまえば、その後は生き残り卵を産むことが出来たのだ。

2004年から、まき網が産卵期に集まるマグロを集中漁獲するようになった。それ以降、太平洋での大型マグロの漁獲は激減し、日本海での水揚げも直線的に減少している。長年蓄えられてきた産卵親魚をあっという間に切り崩してしまったのだ。

キャプチャ

すべての親魚が集まる産卵場での操業は、資源に致命的な打撃を与えかねない。たとえば、カナダのニューファンドランドのタラ資源が崩壊したのも産卵期に集まった群れを漁獲していたからである。産卵場で魚が捕れなくなったら、その資源はいよいよ終わりということだ。

 

問題点 その3 規制の欠如

幼魚と産卵親魚を獲りまくれば、資源が崩壊するのは、誰にだってわかる当たり前の話だろう。問題はこうした問題の多い漁獲が、何の規制もされずに野放しにされてきたことである。

沿岸の釣りや定置網は、クロマグロを捕るための許可は不要で、誰でも獲りたいだけ獲れた。大型まき網船は、許可魚種に「その他」という項目があり、国が規制していない好きな魚種を、好きなだけ漁獲をすることができる。一番規制をしないといけない漁法が、一番規制がゆるくなっている。小型のまき網は、「その他」の抜け道がないので、クロマグロを捕ることができない。

沿岸の釣り漁業、定置網、沖合の大型まき網は、クロマグロを獲れるだけ獲れたのである。釣り漁業の漁獲量はたかがしれているのだが、最も効率的な漁法である大型まき網漁船が何も規制されないというのは、普通に考えてあり得ない話である。水産庁は常々、「日本では漁業者が自主的な取り組みで資源管理をしているので、国が規制をする必要がない」と言っているのだが、県をまたいで回遊する魚種については、漁業者がまとまって話し合う場すら無いのだから、自主管理など出来るはずが無い。

太平洋クロマグロ資源の持続的な利用のためには、日本が幼魚の漁獲と産卵場の漁獲という二つの国内問題にしっかりと取り組んだ上で、国際的な規制を進めていくことが必要である。

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