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Result 16 for イカナゴ

資源回復計画が予想通り破たんして、青森県のイカナゴが禁漁となった

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青森県でイカナゴが禁漁となった。この背景について、考えてみよう。

毎日新聞: イカナゴ:全面禁漁へ 春の味覚、乱獲で激減 陸奥湾6漁協、特定魚では初 /青森
陸奥湾でとれる春の味覚「イカナゴ(コウナゴ)」が乱獲などで激減していることを受け、県と湾内6漁協は今春から、全面禁漁することで合意した。当面、禁漁期間は定めないまま資源量の回復を待つ。
昨年の湾内の資源量は1000万匹以下とみられ、県は3億匹まで回復させることを目指す。

 湾内でのイカナゴの漁獲量は73年の約1万1745トンをピークに減少が続き、昨年は約1トンまで落ち込んだ。漁獲金額も77年の約11億円から昨年は約40万円に減っている。海水温の低下でイカナゴが育ちにくくなったことや乱獲が原因とみられる。
http://mainichi.jp/area/aomori/news/20130214ddlk02040018000c.html

東奥日報: 陸奥湾イカナゴ、今春全面禁漁
禁漁措置について、脇野沢村漁協の千舩五郎参事は「ここ数年、ほとんど漁獲されず、ここまで落ち込めば禁漁はやむを得ない」、三厩漁協の廣津長一参事は「イカナゴの稚魚を餌にする他の魚種の漁獲にも影響するためイカナゴの資源回復は重要」と話した。
http://www.toonippo.co.jp/news_too/nto2013/20130213110002.asp?fsn=eb33f76037153e93cde084f7e7644d6f 

「青森県のイカナゴが減少をしたので、資源回復のために禁漁します」 ということなんだけど、以下の2点に注意してほしい。
1) 親魚量が適正水準の1/30まで減少している
2) 漁獲がほぼ成り立たない水準(県全体の生産金額が40万円) まで落ち込んでいる
ようするに、漁業が成り立たなくなって、禁漁してもしなくても、変わらないぐらい魚が減ってから、ようやく禁漁にしたのである。ノーブレーキで壁に激突してから、ブレーキを踏んでいるようなものです。これをもって、美談とするのは大間違い。むしろ、「なんでここまで減らしたのか」を考えて、再発防止をしないといけない。

イカナゴ資源の減少は、かなり前から問題になっていた。2007年から、 「青森県イカナゴ資源回復計画」が行われていた。行政と漁業者が、資源回復に努めていた(はずの)資源がここまで、減ってしまったのである。

青森県がウスメバルとイカナゴの「資源回復計画」を作成
青森県は日本海、陸奥湾、津軽海峡海域のウスメバルに関する「青森県ウスメバル資源回復計画」、陸奥湾湾口周辺海域、白糠・泊地区周辺海域のイカナゴに関する「青森県イカナゴ資源回復計画」を作成し、2007年3月28日付けでこの2つの計画を公表した。
「資源回復計画」は悪化傾向にある日本周辺水域の水産資源の回復を漁業関係者や行政が一体となって取組むために策定されるもので、複数県にまたがり分布する資源については国が、分布が一都道府県内にとどまる場合は都道府県が計画を作成することになっている
http://www.eic.or.jp/news/?act=view&serial=15742

資源回復計画の概要はここにある。(水産庁は頻繁にURLを変えるので、リンクが切れていた場合は、”青森県” “イカナゴ” “資源回復計画”で検索してください。)

http://www.jfa.maff.go.jp/j/suisin/s_keikaku/pdf/aomori_ikanago.pdf

できれば内容に目を通してほしいのだけど、資源回復計画が策定された当時の状況を見てみよう。

長期的な漁獲量のトレンドは、下図のようになる。1980年代から、1990年代中ごろまでの不漁は、マイワシが増加した影響だろう。1990年代中ごろに、マイワシがいなくなって、イカナゴに努力量がシフトして、すぐにイカナゴの漁獲量が減少を始める。1997年から2006年までに漁獲量は5%程度まで減少をしている。6年前には、すでに、何らかの資源回復措置が必要という共通認識が、行政にも漁業者にもあったのだ。

 

資源回復計画の目的は、産卵量の確保であった。イカナゴの産卵数と新規加入個体数には次のような関係がある。産卵数が5兆粒を下回ると、翌年の加入資源尾数(卵の生き残り)が減少するという傾向が見て取れる。この資源を持続的に有効利用するには、良好な加入が期待できる5兆粒以上の親を残しておくことが望ましいのである。この産卵量を維持するのに必要な親の量は3.5億尾となる。この分析自体は、非常に良いと思う。問題は、そのための措置が取られなかったことである

 

回復計画を作った時点で、「2006 年の親魚数は1.1 億尾であり、漁獲努力量を維持した場合、10 年後の親魚数が0.3 億尾に減少する」ということはわかっていた。資源量は適正水準を下回っているうえに、漁獲圧は非持続的な水準であった。明らかな乱獲状態である。本来は、漁獲圧を下げて、親魚量を回復させなければならなかったのは明白である。

県水産総合研究センターの資源解析のシミュレーションでは、イカナゴ資源を回復するためには少なくとも現在の漁獲努力量から3 割削減する必要があると予測された。しかしながら、このような大幅な削減措置を行った場合、漁業者には多大な負担を強いることとなり、漁業経営を極度に圧迫するおそれがあるため、漁期の短縮や操業統数の制限により漁獲努力量を削減し、産卵親魚を保護することにより、イカナゴ資源の減少傾向に歯止めをかけ、過去3 ヵ年(2004 年~2006 年)の平均漁獲量600 トンを維持することを目標とする。

漁獲圧を削減するときに、普通の先進国では、漁獲枠を削減する。というのも、現在の漁船の性能をもってすれば、少数の漁船で、減少した資源を短期的に獲りきることが可能だからである。漁期の短縮や操業統数の制限は、実質的な効果があまりないというのは、我々の世界の常識である。

こういった実効性の低い緩い措置が日本では主流である。その理由は、実効性が低い措置は、漁業者からの反発もすくないからである。日本では、補償金と引き換えに、こういった緩い措置を導入して、「資源管理をしていることにする」のが一般的だ。

で、どうなったかというと、こうなったわけだ。

一直線に減少し2012年の漁獲量は1トンで、生産金額は40万円。さすがにここまで減ると、市場でも扱いづらい。ということで、実質、漁業は崩壊したといってもよいだろう。「600トンの漁獲量を、400トンまで減らすのは、漁業経営を極度に圧迫する」からといって、10年もしないうちに漁業自体を消滅させてしまったのだ。

資源回復計画は、実効性のない取り組みをして、やっているふりをしているだけ。「資源管理」ではなく、「資源管理ごっこ」だから、効果はない。そんなことは、やる前から、わかりきっていたことだけどね。

資源回復計画はなぜ失敗するのか?(2007年に書いたブログの記事です)
http://katukawa.com/?p=383

日本は、漁業者が困るからと言って、乱獲を放置して、漁業を衰退させている。資源の持続性に対して責任を負うべき行政の無作為が、産業の衰退を招いてきたのである。

海外の資源管理はどうなっているかというのは、こちらを参考にしてほしい。

ノルウェー式の資源管理は日本の水産資源復活に直結するか?
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/2518?page=3

アイスランドのシシャモ漁業は、取り残すべき親の量(赤線)を維持できるように漁獲枠が決まっている。

アイスランドのシシャモは、2008年の漁獲シーズンに、資源量が少ないので禁漁という情報が流れました。しかしこの時も、禁漁になることに対して漁業者が大騒ぎするわけではなく、資源量が少ないので「回復を待たねばならない」という意識が強かったのが印象的でした。日本であれば「魚はいる!獲らせろ!」と大騒ぎになるケースであったことでしょう。

アイスランドの場合は、ちゃんと赤の線が維持できるように漁獲枠の削減をしたから、すぐに資源が回復した。アイスランドは、網を引けば魚がいくらでも獲れる時期に禁漁をしている。ノルウェーもシシャモが減ったらすぐに禁漁だし、ニュージーランドに至っては、漁業者が「資源回復のために漁獲枠を減らせ」と主張して、政府に漁獲枠を削減されせている。魚が獲れなくなってから禁漁をする日本とは根本的に違うのである。

読者の皆さんにも考えてほしい。漁業者がかわいそうだからと言って魚がいなくなるまで規制をしなかった日本と、資源の持続性を守るために魚がいるうちにきちんと規制をしたアイスランドと、どちらの漁業者が本当にかわいそうだろうか。ちなみに、アイスランドの漁業者は、儲かって、儲かって仕方がないようですよ

日本は、なぜ乱獲を放置し続けるのか?水産庁の言い分を検証

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当ブログでは、漁獲規制の不備によって、日本の漁業が衰退していることを繰り返し指摘してきた。多くの読者から、「なんで水産庁は規制をしないのか?」という疑問の声が上がっている。その疑問に対する水産庁の言い分を紹介しよう。

水産庁が資源管理をしない理由をまとめた背景

2007年に安倍内閣によって設置された内閣府の規制改革会議では、経済重視の観点から様々な規制が議論された。水産分野においては、無駄な規制を取り除くというよりも、漁業が産業として成り立つために必要な漁獲規制を要請する内容であった。

規制改革推進のための第3次答申-規制の集中改革プログラム-(平成20年7月2日)

詳しい内容は上のPDFのP60から先に書いてある。

水産業分野についても、農業・林業分野と同様、就業者数の減少や高齢化が進んでいる状況にあるが、それ以前に、水産資源の状態が極めて悪化しており、それ故、生産、加工、流通、販売、消費などあらゆる面の指標から見て悪循環(負のスパイラル)にも陥っている。
これによると、水産資源の減少に何ら歯止めがかかっておらず、我が国の水産資源の状況は危機的状況であると言っても過言ではない。このような状況にまで陥った要因は、我が国の資源管理の在り方にある。

(中略)

他方、海外の漁業国においては、科学的根拠に基づく資源管理を徹底し、また、漁業者においても科学的根拠に基づく漁獲を行うことで、資源回復に成功し、水産業の活性化・自立を実現した国が複数存在している。 我が国の水産業に必要なことは、有効な管理手段として何ら機能しないばかりか、更なる乱獲を促進している我が国の現行の漁業・資源の管理の仕組みを抜本的に改正することである。そのためには、海外の漁業国の成功事例を取入れ、科学的根拠に基づく資源管理を徹底することが必要であり、次のとおり、従来の資源・漁業管理手法の抜本的に改正し、漁業経営の競争環境の整備などを早期に講じるべきである。

これは閣議決定なので、水産庁としても無視はできない。ということで、水産庁は、「科学的根拠に基づく資源管理」について、検討しなければいけなくなった。

水産庁の言い分

水産庁は、「TAC制度等の検討に係る有識者懇談会」という会議を招集し、この議題を検討した。その結論(平成20年12月15日)がこれ。(リンク切れの場合はこちら

とても読みづらい文章なのだけど、要約すると、こんな感じ。

  1. 日本と海外では漁業の事情が違う
  2. 海外は漁獲能力の規制に失敗したので、公的機関による漁獲枠規制が必要になった
  3. 日本の水産資源は自主管理で適切に利用されている

つまり、「日本の漁業は業界の自主規制で適切に管理されているので、海外のような魚を巡る競争状態にはなっておらず、公的機関による規制は不要」と言うことだ。以下は、水産庁木實谷管理課長の説明の抜粋。

日本と海外は事情が違う

我が国のTAC制度導入の状況と、それから諸外国、これは後述いたします諸外国の状況とは基本的に事情が異なるということを認識しておく必要があるわけでございまして、このことについては前回のこの場におきまして、外国と事情が異なるということを明確に書くべきだというふうな御意見があったことも踏まえまして、このように整理をさせていただいております。

海外は漁業管理に失敗

諸外国におきましては、参入制限やそのトン数規制といった能力の調整が十分に行われていない中で、当該漁業における能力が向上して、努力量の増加が顕著になった。このような中で、資源の管理を図るためにいわゆるインプット、テクニカルコントロールが実施されるわけでございますけれども、漁獲能力の上昇に歯止めがかからない、また資源が悪くなったということでTAC制度が導入されたという経緯があるわけでございます。
しかしながら、導入以降もTACと漁獲能力との著しいアンバランスが生じている結果、競争が激化して、過剰投資ですとか、漁期の短縮が発生したということがOECDではまとめられているという状況にございます。

日本は問題がない

一方、我が国の漁獲可能量管理の状況でございますけれども、先ほど申し上げましたように、我が国の資源管理と申しますのは、漁業法等に基づきます隻数、トン数規制、インプットコントロール、さらにはテクニカルコントロールといういわゆるきめ細かい操業規制をベースとして行われているわけでございます。また、漁獲可能量につきましては、漁業種類ごと、また地域ごとに分割し、管理するというやり方が取られているわけで、さらに漁業者の自主的な協定に基づきまして、漁業者団体による漁獲可能量管理が行われている。ですから、いわゆるオリンピック方式とは大きく異なっているわけでございます。
次に、個別割当方式の具体的な方向性についてでございます。先ほど御説明申し上げましたように、TAC管理におきましては、大幅な漁期の短縮をもたらすようないわゆる漁獲競争は発生していないということを踏まえますと、外国のように個別割当方式を導入しなければならないような状況には至っていないということでございます。

水産庁の言い分を検証する

海外は漁業管理に失敗したのか?

「日本は漁獲努力量の管理に成功したが,他国は失敗した」と水産庁は主張しているが、漁船のトン数制限では水産資源を守ることが出来ないのは世界の常識である。漁船の漁獲能力は日進月歩だからだ。一昔前の船と、今の船では、同じトン数であっても、魚を獲る能力は桁違いなのだ。

漁具漁法の規制や、トン数の規制では、資源を守る上で十分な効果が得られない。この構造上の問題に直面した漁業先進国は、漁獲量に上限を設ける方式に移行した。テクノロジーの進化に対応できるように、規制も進化させたのである。その結果として、資源を回復させて、漁業が持続的に利益を伸ばしているのだから、資源管理に失敗したとは言わない。

日本の漁業調整は成功しているのか?

水産庁の言うように、日本の漁業がそれなりに上手くやっているなら、改革のための改革など不要である。しかし、日本の漁業は一人負けで、底が抜けたバケツのごとく公的資金を吸い込みつつ、漁村の限界集落化が進んでいる。

世界銀行レポート FISH TO 2030:世界の漁業は成長し、日本漁業のみが縮小する
予定通り、北海道日本海側のスケトウダラ資源が減少し、漁業が消滅の危機
資源回復計画が予想通り破たんして、青森県のイカナゴが禁漁となった

水産庁が胸を張る「トン数制限などのきめ細かい操業規制」の実態

日本では、実際の届け出よりもトン数を水増しして漁船を作るのが当たり前のように行われている。これは漁業の現場では周知の事実である。漁船の大きさの規制はあまり意味が無いのだが、それすらも守られていないのだ。

 

国土交通省:船舶トン数の適正化の実施

国土交通省は平成24年度、船舶のトン数が適正に維持されていることを確認するため、1,067隻の船舶について地方運輸局等の船舶測度官による立入検査を実施しました。その結果、漁船では25%の47隻、漁船以外の船舶では6%の56隻について、トン数が適正でないことを確認したため、これを是正し、トン数の適正化を図りました。

公的な規則すら守れていない現状で、自主管理に多くは期待できない。ある浜では、「みんな生活のために海区違反の違法操業をしている。自分たちの漁場には魚がいないから。獲り過ぎてしまったんだ」という話を聞いた。これが放置国家・日本の漁業の現実である。

「世界中で機能しなかった努力量規制が日本でだけ成功している」という水産庁の主張は事実ではない。他国の政府は従来の規制の限界を認めて、より実行力のある規制に移行した。それに対して、日本では、失敗を認めずに、「成功していることにしている」のである。

日本と海外は事情が違う

水産庁は「日本は状況が違う」、「日本には問題が無い」と言い張って、漁業先進国では30年前に解決積みの問題を放置したまま、今日に至っている。日本と海外の漁業の違いは、産業構造よりも、むしろ、公的機関の姿勢の差に起因する。問題を明らかにして、その解決に取り組んだ諸外国と、「問題は無い」と言い張って何もしていない日本の差が広がるのは当然である。

「都合が悪い事実は無いことにして、出来ていることにすればそれで良い」という態度は、漁業に限ったはなしでは無い。今も、この国の至る所で、同じことが繰り返されている。華々しい報道とは裏腹に、破滅的な敗戦へと突き進んだ太平洋戦争の大本営発表と同じ構図である。この構図を打破していかない限り、閉塞状況は打ち破れないだろう。

戦わなきゃ、現実と

水産庁のストロンチウムの検査が酷すぎる件について

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ようやく水産物のストロンチウムの検査結果が出ました。
東日本大震災について~水産物のストロンチウム測定結果について~

採取日 ストロンチウム-90 セシウム ヨウ素
マイワシ 4月6日 不検出
(検出下限値:0.04)
8.5 4.9
イカナゴ
(コウナゴ)
4月8日 不検出
(検出下限値:0.02)
81 598
イカナゴ
(コウナゴ)
4月12日 不検出
(検出下限値:0.03)
66 397
カタクチイワシ 4月14日 不検出
(検出下限値:0.04)
7.9 不検出

全て不検出なのですが、ストロンチウム汚染がなさそうな魚ばかりを検査しているのだから、手放しでは喜べません。

地図に日付を入れるとこんな感じになります。

これらの場所に汚染水がいつ到達したかを、JAMSTECのシミュレーションでみてみましょう。

犬吠よりも南の黒潮系のエリアには、汚染水はほとんど入れないので、マイワシとカタクチは計測するだけ時間の無駄です(セシウムが若干出ていますが、恐らく大気から落ちてきたものでしょう)。また、コウナゴにしても、4/8は高濃度汚染水がまだきていないし、4/12も汚染水が来るか来ないか、ぎりぎりのタイミングなので、徐々に骨に蓄積されるストロンチウムが出なくても不思議ではありません。汚染水にさらされる前の魚のみを検査しているのだから、ストロンチウムが不検出という結果は当然です。「ストロンチウム不検出」というアリバイを作るための出来レースのような印象を受けます。水産物の安全性を確認するには、汚染水が通過した後の魚を計測すべきなのは言うまでもない話です。なお、サンプルによって、検出限界が異なるのは、そういう物らしいです。

海洋のストロンチウム汚染については4月の早い段階から懸念されていました。実際に海水から、ストロンチウムが検出されたのが4/18なのに、水産庁が日本分析センターに検査を依頼したのが5/25です。そして、6/27に結果発表となったわけです。5/25になって、ようやく検査の依頼をするというのは、動きが遅すぎます。5月下旬にサンプルを送るのであれば、ストロンチウムが蓄積されている可能性がある福島周辺の水産物を測定すべきです。しかし、水産庁が選んだのは4月上旬に獲られた千葉と茨城の魚ばかり。なんで、こういう魚を計測したのか、水産庁に問い合わせたところ、「すぐにストロンチウムを計れという指令が上から来た。検査に十分な量が手元にあったのは、これらのサンプルだけなので、仕方がなかった」という趣旨の説明をされました。次の2点で残念です。

  • 上から指令が降りてこなければ、ストロンチウムを計るつもりが無かった点
  • 計測指令に対して、ストロンチウムが出なさそうな手持ちのサンプルで対応した点

電話したついでに、現在、ストロンチウムを計測中の水産物はあるかを問い合わせたのですが、「現在調査中のものはない」とのことでした。水産物のストロン チウムの情報は、今後1ヶ月は期待できません。その先の調査予定についても問い合わせたのですが、未定とのことでした。どうやら、汚染水が通過するまえの4つのサンプルのみで、ストロンチウムの計測は終わりになりそうな雰囲気です。

何をやるべきか?

俺が国に要求したいのは次の2点

1)福島原発周辺の褐藻のストロンチウム/セシウムの比を調べる

放射線防護の観点から、抑えておくべき最重要な情報は、放射性セシウムと放射性ストロンチウムの比です。汚染源に近い場所の、セシウムとストロンチウムの両方を蓄積する生物を計測するのが合理的です。福島原発に近い場所の褐藻(ワカメ・ひじき)をつかうのが良いと思います。福島県で漁業は行われていないけれども、県の調査漁獲はあるわけですから、サンプルの依頼は可能なはずです。

2)セシウムが暫定基準を超えたサンプルは冷凍保存をして、後日ストロンチウムも必ず調べる

セシウムが残的基準値を超えたサンプルは、ストロンチウムの汚染も懸念されます。これらのサンプルを冷凍保管しておいて、ストロンチウム濃度が想定の範囲に収まっているかどうかを確認すべきです。国内でストロンチウムの計測ができ る機関は限られており、どこも手一杯です。私も個人的に問い合わせたことがあるのですが、「国からの依頼で手一杯で年内は無理」との事でした。日本全体で みても、貴重なストロンチウム測定の機会を、計る必要もないようなサンプルの検査で費やすことは許されません。

水産庁の調査は、国民を放射能から守るのが目的ではなく、低い値を出して「問題はない」と主張するのが目的のようです。こういう姿勢で検査をしている限り、消費者の信頼は得られないでしょう。ちょっとわかる人が見れば、ストロンチウムが検出されそうな魚を検査してないことは、一目瞭然です。「ストロンチウムの汚染を隠すために、福島近辺の魚を避けているのではないか」と、かえって不安を煽りかねません。税金を使って、国民の健康に関わる検査をしているのだから、もっと真摯に取り組んで欲しいと思います。

「国はストロンチウムの検査をきちんとやるべきだ」と思われる方は、水産庁に直接意見を伝えることもできます(連絡先はこのページの一番下)。もちろん、怒ったり、怒鳴ったりは、しないでくださいね。「自分は心配だからストロンチウムをちゃんと測って欲しい」ということを、冷静に伝えれば十分です。国民の多くは水産物のストロンチウム汚染の心配をしており、心配を払拭するには徹底した調査しかないということを、水産庁の中の人にも理解してもらいたいです。

そもそも内部被曝の限界を上げる必要があったのか?

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ICRPが定める公衆被曝限界は1年間に1mSvとなっています。3/29日に、緊急事態だからと言うことで、この被曝限界を大幅に超えた暫定基準値が設定されました。ヨウ素2mSv/年、セシウム5mSv/年ですから、ICRPの被曝限界を大幅に上回ることになります。ICRPの基準である1mSv/年を遵守しようとすると、食品の基準値にはどの程度の値になるかが、次の文書に書いてあります。

緊急時における食品の放射能測定マニュアル  (平成14年3月)

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001558e-img/2r98520000015cfn.pdf

このPDFは測定法のマニュアルなんですが、通常時の基準の考え方がわかりやすく説明されています。

事故後 1 ヶ月以降 1 年間での食物摂取による被ばくを実効線量で1mSv/年とする。これを放射性セシウムについて、牛乳・乳製品、野菜類、穀類及び肉・卵・魚・その他の 4 食品群にそれぞれ 0.1 mSv/年を割り当てると、各食品群の Cs(セシウム)-137 濃度はそれぞれ 20、50、50、50(Bq/kg,L)以上となる。

基準値の考え方を解説

目的: 食物摂取による内部被曝を1年間で1mSvに抑える

内部被曝の大半を占めるであろうセシウム137について、牛乳・乳製品、野菜類、穀類及び肉・卵・魚・その他の 4 食品群にそれぞれ 0.1 mSv/年を割り当てる

それぞれの食品群の消費量から、年間の被曝を0.1mSvに抑えるための上限の Cs-137 濃度が計算できる

食品群 基準値
牛乳・乳製品 20Bq/L
野菜類 50Bq/kg
穀類 50Bq/kg
肉・卵・魚・その他 50Bq/kg

このマニュアルは、ICRPが定める公衆被曝限界1mSvに準拠したものになっています。ICRPの公衆被曝限界は、外部被曝を含むので、内部被曝のみで1mSvというのは厳密に言えばアウトです。

現在の暫定基準値は、ここに示された値の10倍に相当します。現在はこれらの食品群ごとにセシウムのみで1mSvの許容水準が割り振られています。さらに、食品安全委員会は、将来的には内部被曝の許容量を倍に増やすことを提案していますが、その場合の基準値は、実に20倍になります。

では、もともとの基準は、実行不可能なのでしょうか。私はそうは思いません。水産物でセシウム(134+137)が50Bq/kgを超えるのは、茨城県と福島県の海産魚(の一部)と関東全域の淡水魚ぐらいです(例外は北海道のカラフトマス1例のみ)。これらを避ければ、十分に達成可能な目標なのです。

福島と茨城の漁獲量は全国の約9%です。漁獲量の中で、大きなウェイトを占めている、大中巻き網とサンマ棒うけ網は、福島周辺海域で操業が限定されません。これらの漁業をのぞくと、日本の漁獲量の3%です。日本の水産物の自給率は半分程度です。我々の食卓に上る水産物の1.5%を止めれば、以前の目標も十分に達成可能なのです。今後、汚染がどれぐらい広がるか、どれぐらい蓄積するかや、回遊魚がどうなるかと言った不確実なファクターはありますが、基準を10倍に上げなければならないような状況だとは思いません。安易に基準値を上げる前に、ICRPが定める公衆被曝限度1mSv守るべく最大限の努力をすべきです。1mSvという限度がどうしても守れない場合にも、少しでも1mSvに近づける努力が必要と考えます。

参考資料

水産庁資料より、セシウムが50Bq/kgを超えるデータを抜粋)

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水産物の放射能汚染から身を守るために、消費者が知っておくべきこと

  • 2011-05-01 (日)
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水産物の放射能汚染が現実のものとなってしまいました。我々の生活に関わることなのに、公的機関や研究者は「安全・安心」と繰り返すだけで、現状がどうなっているかという情報が圧倒的に不足しています。これまでの知見&常識で言える範囲の情報をまとめてみました。現在の情報不足と、その結果の混乱を解消する一助になれば幸いです。

今回のように、大量の高濃度汚染水が、一度に海に流されるのは、これまで例が無いことですから、影響の予測は困難ですから、ここに書いてあることも、鵜呑みにせず、あくまで情報の一つとして活用してください。また、可能な限り、情報源へのリンクを張りましたので、リンク先を確認することをおすすめします。

海に放出された放射性物質はどこに向かうのか?

福島原発からは、大量の放射性物質が海洋投棄されました。海洋に排出された放射性物質の中で、量が多いのはヨウ素とセシウムです。これらは水溶性なので、水に溶けて、海流と一緒に移動します。放射性物質の移動パターンは大きく2つに分けられます。

  1. 外向きの流れに取り込まれ、外洋へと向かいます
  2. 沿岸流に取り込まれ、沿岸伝いに拡散していきます

 

1)外向きの海流

放射性物質を含む海水が、外向きの海流に取り込まれると、太平洋の真ん中へと流されていきます。その過程で周りの海水と混ざって、どんどん 薄まっていきます。福島の原子力発電所の海水がどのように移動するかを文科省のJAMSTECがシミュレーションをしています。

http://www.mext.go.jp/a_menu/saigaijohou/syousai/1304938.htm

発電所前の海水の濃度の実測値を参考に排出された放射能濃度のシナリオを作ります。高濃度汚染水の排出を抑えた4月9日以降、低い値が続いています。

 

これらの汚染水がどのように流れていくかをシミュレーションしたのが、次の図です。

5/1には、福島沖にセシウムが広がっています。放射性セシウムの基準値は90Bq/Lですから、灰色と水色の境目の線は、海水中のセシウムの濃度が9.0Bq/Lになります。海産魚は、環境の100倍ぐらい放射性セシウムを濃縮しますから、魚の汚染は900Bq/kgまで進行することになります。魚の暫定基準値は500Bq/kgですから、この値を超えます。海水の汚染が基準値の10%以下であっても、そこに生息する魚から基準値を超える汚染が検出される可能性があります。海水の放射性物質の計測では、検出限界が10Bq/Lぐらいですから、海水から放射性物質が検出されなくても、魚の汚染が暫定基準値を上回る可能性はあります。水産物の安全性を知るには、海水の汚染を計測するだけでなく、魚の汚染を直接確認する必要があります。

現在、福島沖に対流しているセシウムが、今後は沖に流されていきます。JAMSTECは6/15までのシミュレーション結果を公開しています。5/31の時点での予測はこんな感じです。三陸方面と茨城方面の2つの経路があります。この間で、どこを通るかは、現時点では確定していません。幅広い可能性があると言うことです。ヨウ素は半減期が短いので、この時点で検出不可能になります。魚に取り込まれた放射性ヨウ素も減少しますので、ヨウ素のリスクは大幅に減ります。

6/15になると、セシウムが広域に拡散し、薄まっていきます。水色の領域は、0.9-9.0Bq/Lです。濃縮が100倍として、魚の体内の濃度は90-900Bq/kg程度ですから、完全には安心できないのですが、この先の汚染は少ないと思います。新たに汚染が蓄積することよりも、すでに生態系に取り込まれた放射性物質が食物連鎖を通して、移動をしていくプロセスに注意が必要です。

福島周辺海域は、親潮と黒潮のぶつかり方によって、海流の方向が大きく変わります。シミュレーションの予測の精度は高いとは言えません。5/1以降の結果は、目安程度と考えて下さい。福島と隣接する県が汚染水の通り道となる可能性があります。福島、宮城、茨城の周辺海域は、しばらくは注意が必要です。

 

海域と安全性に関する考察

福島周辺の冷たい水は黒潮の温かい水と混ざりませんので、黒潮が大きく離岸しない限り、犬吠崎よりも南に汚染水が進入するのは難しいと思われます。外向きの流れに取り込まれた放射性物質は、親潮にぶつかって南下した後、黒潮にぶつかって太平洋の真ん中に押し出されます。下の図は、文科省JAMSTECの予測図の一つです。図のオレンジの点線の上が親潮系、下が黒潮系の海水なのですが、汚染水が黒潮系の流れに進入できず横に流されていくのがわかります。南下してくる汚染水に対して、黒潮が壁のように立ちはだかっているのです。点線より上の親潮系は、海流次第で、汚染水の通り道になり得ます。一方、黒潮系の水が汚染水を跳ね返します。ということで、点線の上と下とで、汚染リスクが大きく違うのです。

 

親潮系(茨城以北)→要注意?

  • 汚染水の通り道になる可能性がある
  • 暫定基準値を上回る魚(いかなご)が発見されている→食物連鎖の懸念

黒潮系(千葉以南)→しばらく安心か?

  • 汚染水の通り道になる可能性が低い
  • 暫定基準値を上回る魚が発見されていない

福島、茨城、宮城は、汚染水の通過経路となる可能性があります。今後、魚の汚染が進行する可能性があります。現在のモニタリング体制では、これらの海域の水産物の安全性を事前に確認することはできません。茨城海域では、以前に検査例が無かったマアジやスズキなどが、見切り発車的に出荷されてしまいました。現時点で安全が確認できているとは思いません。

海水の汚染が収まるであろう6月中旬から、大規模な調査を行って、魚の汚染状況を把握すべきです。その上で、基準値を下回っていることを確認した上で、これらの海域で漁業を再開するのがよいと思います。

 

2)沿岸流 (沿岸の局所的汚染)

放射性物質を含む海水の一部は、外側の流れに乗らずに、沿岸に滞留します。ゆっくりと希釈されながら、沿岸を漂います。大気から陸上に落ちた放射性物質が、雨に流されて、河川から海へ流れ出してきます。原発近傍の沿岸地域では、放射性物質が海底の砂や、海草類に取り込まれて、汚染が長期化する可能性があります。

1970年代に英国のセラフィールド核兵器再処理工場から、大量の放射性物質が海洋投棄されました。30年以上経った現在も、セラフィールド周辺15kmの海底からは、プルトニウムやセシウムなどの放射性物質が蓄積されています。これらが、魚や貝などに取り込まれています。福島原発付近の生態系調査はほとんど行われていません。海底の汚染状況をモニタリングして、汚染状況を把握する必要があるでしょう。茨城や、宮城など汚染水が通過するだけの場所は、長期的な土壌の汚染はないとおもいます。

福島原発周辺の海底土の汚染について

5/3に、福島原発から10km北の小高区沖合い3km地点の海底土の汚染が報告されました。セシウム137が1400Bq/Kgですから、すでにセラフィールドの1980年代の値に匹敵します。今後は、河川を通じて、陸上に落ちたセシウムが沿岸域に流出してくるので、汚染の長期化が懸念されます。また、現在は、ヨウ素とセシウムのみ計測されています。プルトニウム、アメリシウム、ストロンチウムなど他の核種の調査が必要です。

http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu11_j/images/110503m.pdf

 

放射性物質の核種について

放射性物質には、ヨウ素やセシウムなど、様々な種類があります。それぞれ、挙動が違います。

ヨウ素131

ヨウ素は原発事故では大量に発生します。今回の事故でも、ヨウ素が大量に放出されました。ヨウ素は半減期が8日と短いのが特徴です。8日ごとに半分になっていくので、3ヶ月で2000分の1に減少します。新たな流出が収まれば、比較的早期に収まります。

人の体内での挙動

甲状腺に溜まりやすく、小児甲状腺癌の原因になります。事故後、3ヶ月程度は、特に小さい子供に対しては、ヨウ素に注意が必要です。詳しくはリンク先を読んでください。http://tnakagawa.exblog.jp/15214535/

セシウム137

福島原発2号機から、高濃度のセシウムを含む汚染水が流出しており、今後の影響が懸念されます。放射性のセシウムは、半減期が30年と長く、環境汚染が長期化する傾向が見られます。1980年代に、イギリスのセラフィールドの核兵器再生工場から、大量の放射性セシウムが海に廃棄されました。90年代以降、新たな廃棄がほとんど無いにもかかわらず、現在も周辺の魚から、セシウムが検出されています。海底が汚染されたことが原因と考えられています。

人の体内での挙動

セシウムは特定の部位には蓄積されずに、筋肉にまんべんなく分布するようです。詳しくはリンク先を読んでください。http://tnakagawa.exblog.jp/15214540/

ストロンチウム90

ヨウ素やセシウムよりも検査が難しいために、海洋での分布状況は全くの未知数です。ストロンチウムはセシウムと同じく水溶性の物質で、海水中でも同じような挙動をしめします。セシウムが存在する場所には、ストロンチウムも存在するといわれています(link)。

ストロンチウムは魚の体内でも、骨に多く分布します。骨のストロンチウムの密度は、筋肉の50倍にもなるという報告も得られています。ストロンチウムが気になる場合は、骨を除去することである程度の自衛が可能です。詳しくはリンク先を読んでください。http://tnakagawa.exblog.jp/15214540/

人の体内での挙動

ストロンチウムは、カルシウムと似た性質を持ちます。人体に取り込まれると、大部分はそのまま排泄されるのですが、一部が骨に蓄積されます。ひとたび骨に取り込まれると、なかなか外には排出されません。骨が成長中の成長期の子供は、ストロンチウムを取り込まれやすいので、特に注意が必要です。

 

プルトニウム

プルトニウムがどの程度出たかは全く解っていません。プルトニウムの検出には、微量のα線を計測しなくてはならないので、技術的にも時間的にも困難です。海洋では、プルトニウムの調査は行われていません。

セラフィールド再処理工場でもプルトニウムが大量に排出され、現在も周辺住民の内部被爆の主要因となっています。もし、大量に放出されいたなら、相当やっかいなことになりそうです。海洋汚染の主要なソースである二号機は、プルトニウムを含むMox燃料ではないのが救いではあります。

それぞれの各種がどのような生物に、どの程度取り込まれるのかを詳しく知りたい人は、リンク先の海産生物の濃縮係数一覧表をご覧ください。

http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/09/09010402/05.gif

 

生態系における放射性物質の濃縮について

海洋に放出された放射性物質は、プランクトンや魚に取り込まれます。その後、放射性物質は食物連鎖を通じて、海洋生態系を循環します。生物の種類によって、放射性物質の取り込みやすさが異なります。それぞれの生物が、放射性物質を体内に蓄積するかは、濃縮係数というパラメータで表現されます。

濃縮係数=生物の体内の放射性物質の濃度/環境の海水中の濃度

IAEAのレポートに、様々な水生生物の濃縮係数の一覧表があります(リンク)。海洋の生態系汚染の主役の放射性セシウムの濃縮係数は以下の通りです。たとえば、植物プランクトンの濃縮係数は20ですから、海水中のセシウムが10Bq/Lなら、植物プランクトンの体内はその20倍の200Bq/Kgに汚染されます。植物プランクトンから、海産ほ乳類まで、食物段階が上がるほど高くなる傾向があります。イカ・タコは、食物段階のわりに、放射性セシウムを蓄積しづらいようです。

イカタコ 9
植物プランクトン 20
動物プランクトン 40
藻類 50
エビカニ 50
貝類 60
100
イルカ 300
海獣(トド) 400

IAEA のレポート http://www-pub.iaea.org/MTCD/publications/PDF/TRS422_web.pdf

食物連鎖を通じた放射性セシウムの移動(捕食者への時間遅れの汚染蓄積)

チェルノブイリ事故で汚染されたキエフの貯水湖では、餌となる小型魚(上)のセシウムの値は事故の後すぐに上がったのですが、捕食魚(下)のセシウムの値は翌年になって跳ね上がりました。食物連鎖を通じて、上位捕食者に時間遅れで放射性物質が伝わったのです。Chernobyl’s Legacy: Health, Environmental and Socio-Economic Impacts

チェルノブイリの事故後で、日本近海の表層海水の汚染のピークは1月後、スズキの汚染のピークは半年後、マダラの汚染のピークは9ヶ月後でした。(海生研ニュース No.95 p7より引用)。

福島周辺海域では、植物プランクトンを食べるコウナゴがすでに高いレベルで汚染されています。コウナゴは多くの魚の餌になりますから、今後は生態系内での放射性物質の移動に注意する必要があります。現段階で、汚染が検出されなかったとしても、将来の安全は確保できません。

下の図は茨城のヒラメから検出されたセシウム(Bq/kg)です。生態系に取り込まれたセシウムが徐々にヒラメに蓄積されつつあるようです。チェルノブイリの時と同じことがおこるなら、今後も高次捕食者に汚染が蓄積されていき、半年~1年後にピークになるでしょう。継続的に汚染状況を確認し、汚染がどこまで進むのかを見極める必要があります。

汚染からの回復

魚が放射性セシウムで汚染されたからといって、その魚を未来永劫食べられなくなるわけではありません。チェルノブイリの湖でも、被食魚は事故後2年、捕食魚は事故7年後で、日本の暫定基準値(500Bq/Kg)よりも低い値まで汚染が減少しました。海産魚は、淡水魚よりも、放射性物質の減少が早いと考えられています。その理由は、湖は閉鎖系なので、水中の放射性物質の濃度が下がりづらいことと、淡水魚は浸透圧調節のために、カリウムやセシウムなどのイオンを体内に取り込むのに対して、海産魚は体内の浸透圧調節のために、カリウムやセシウムなどのイオンを積極的に排出するからです。チェルノブイリの事故で、日本近海の海産魚の放射性セシウムの濃度が上昇しました。事故以前の濃度レベルに回復するのに要した時間は、スズキで1.7年,マダラでは2.5年でした(海生研ニュース No.95)。

海産魚の場合、水槽実験では、体内の放射性セシウムの濃度が半分に減るのに50日かかることが解っています。たとえば、基準値の倍のレベルまで汚染された場合には、(餌がクリーンであれば)基準値まで下がるには50日程度かかるいうことです。福島のイカナゴからは、14000ベクレルという高濃度のセシウム汚染が観察されています。基準値の28倍ですから、半減期が50日として計算をすると、1年せずに暫定基準値よりも下がることになります。詳しくは、こちらの説明をご覧ください。排泄の速度は魚の種や、代謝コンディション、餌の汚染度合いなど、様々なファクターが聞いてきますから、あくまで目安程度です。

水産庁の公式見解では、「たとえ放射性セシウムが魚の体内に入っても蓄積しません」となっていますが、楽観的過ぎると思います。放射性セシウムは魚を含む生物に蓄積されて、数ヶ月から数年のオーダーで生態系に残ることが、野外調査および水槽実験から知られています。くれぐれもご注意ください。

ポイント

  • 海水の汚染の流出を食い止めるのが重要→安全性の議論ができるのは、汚染の進行が止まってから
  • 魚は環境の100倍の濃度にセシウムを濃縮する→海水からセシウムが不検出でも安心できない
  • 放射性物質は、食物連鎖を通して循環する→食物連鎖を通じた移動に注意
  • 海水魚に蓄積されたセシウムが半分になるのに50日かかる→数ヶ月~数年オーダーで汚染は残る
  • 汚染の度合いから、浄化に必要な時間の予測は可能

以上を踏まえて、水産物とどうつきあうかという私案をまとめてみました。参考にどうぞ。

海洋の生態系汚染に関するドキュメント

セラフィールド再処理工場周辺の環境汚染のレポート。数少ない放射性物質の海洋への大規模流出の事例。事後調査がなされているので、福島周辺海域の今後の推移を予測する上で参考になる。
http://www.sellafieldsites.com/UserFiles/File/Monitoring%20Our%20Environment%202008.pdf

Nature News「汚染が直ちに海洋生物に害を与えることはないだろうが、寿命が長い同位体は食物連鎖を通事で集積されると考えられており、魚類や海産ほ乳類の死亡を増加させる可能性がある」 と指摘しています。 http://www.nature.com/news/2011/110412/full/472145a.html

National Geographic「放射能汚染水、海洋生態系への影響は?」:  生態系への影響は未知数としながらも、複数の専門家が生物濃縮の可能性を指摘。
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20110404001&expand#title

National Geographic「鳥に現れた異常、チェルノブイリと動物」こんなことが海で起こらなければよいのだけど。
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=2011042603&expand#title

ノルウェーの湖のマス(Brown trout, Atctic char)のセシウムは、チェルノブイリの翌年には1600Bq/Kgに上がり、日本の安全基準の500Bq/kgに下がるまで4年ぐらいかかっている。 http://www.springerlink.com/content/t4000nkp678h0753/

ノルウェーバレンツ海における、セシウム137の生物濃縮に関する論文。オキアミなどの動物プランクトンは海水の10倍、ネズミイルカは海水の165倍に生物濃縮される。この論文のFig.2はとてもわかりやすい。 http://bit.ly/e5r837

北極海に廃棄された核物質の生物濃縮に関する論文(PDFを落とせます)。Table2に、様々な生物の、核種毎の濃縮係数の一覧表がある。 http://bit.ly/i6Z7Np

こちら石巻さかな記者奮闘記

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こちら石巻さかな記者奮闘記―アメリカ総局長の定年チェンジ

この本はなかなかおもしろかった。朝日新聞の経済部の記者が、定年後に石巻支局に赴任し、漁業について書いた本。しっかりと現場の取材をしているし、素人(一般人)目線でかかれているのが良い。一線で活躍してきた新聞記者だけに、現場を伝える能力は抜群だ。この本は、漁業に対して好意的なんだけど、漁業ヨイショ一辺倒ではない。筆者の漁業に対する問題意識を、宴曲に表現している。書くことと、書かないことの区別、そして、書く部分の表現の選び方は絶妙だ。このあたりは、ベテラン新聞記者の技だね。

第二章のメロウド(イカナゴ)漁のレポートは、実に秀逸だ。日本漁業の問題点が透けて見える。

出航してから約二時間、漁場に着いたのだろう。(中略)周りには何隻も同じように舳先から長い棒を突き出した船が見える。(中略)エンジンを切らないのは、カモメの動きからイケ(魚の群れ)を見つけたときに、僚船よりも早くイケに近づくためだ。(P38)

イケに向かうときは、周りの僚船との競争になる。早くイケに近づいた方が最初に網を入れることができるというのが漁師仲間の昔からのルールだそうで、イケを見つけて、早くイケに近づくのも船頭の腕と言うことになる。僚船と鉢合わせする機会が数回あったが、賢一さんはいつも最初だった。(P40)

石巻漁港で水揚げを終えたところで、水揚げだかを尋ねたら約12万円とのことだった。ここから燃料代などを差し引くと、手元にはそれほど残らない計算だ。(P41)

私が乗ったメロウド漁は好漁だったので、(P49)

この情報を総合すると、こうなる。

  1. 少ない魚群を大量の船で奪い合っている
  2. 早取り競争に勝つために、常にアイドリング→大量の燃油の浪費
  3. 好漁日に、成績上位の船ですら、利益が出ない

多すぎる漁業者が、少ない魚群を奪い合う。早取り競争に勝つために、船体に不釣り合いな馬力のエンジンを搭載し、一日中、アイドリングをして、群れを見つければ全速で走る。燃油を湯水のように使い、資源を枯渇させながら、利益が出ない。沿岸漁業の実像が、克明に描写されているではないか。俺が常々書いている通りなのだ。でも、この漁業はマシな方だと思うよ。

では、どうすればよいのだろう。多すぎる漁船を適正規模まで縮小するのが最善だが、それがままならない場合も多いだろう。現在の隻数を維持しながらでも、競争による無駄なコストを削減することはできる。この漁場に対する適正な隻数なんてたかがしれているのだから、ローテーションを組んで、適正な隻数だけ出漁するようにする。また、群れの奪い合いを防ぐために、全ての船の漁獲金額をプールして、均等に再配分するプール制も有効だ。やり方は、いくらでもある。

燃油高騰は、現在の非効率的な競争操業を改める絶好のチャンスだったはずだ。しかし、安易な補填によって、その芽はつまれてしまった。何も考えずに、皆で漁場に出かけて、我先に群れを奪い合っているうちは、産業としては成り立たないだろう。この状態を維持するために公的資金をつかっても、長い目で見て漁業者を救うことにはならない。

「第三章 漁業を考える」では、地域捕鯨と遠洋捕鯨の摩擦、燃油問題など、日本漁業の問題について整理している。昨年暮れの東大のシンポジウムについてもふれている。議論のかみあわなさについて、率直な意見が書かれており、よく観察していると思った。

筆者は、思いやり予算をストレートに配るべきと言う立場である。水産庁が、燃油補填に対して、5人以上のグループ化を求めたことを、「結果的には使いづらい補助制度になった」と批判しているが、そうだろうか。個人の取り組みによる省エネには限界があるが、グループ化で無駄な競争を省けば、燃油は大幅に節約できる。公的資金を使う以上、無駄を省く努力をするのが当たり前である。補償金の要件として、グループ化を求めるのは、納税者に対する最低限の筋だとおもう。問題は、グループ化による操業合理化に全く向かっていないことだろう。

いろいろと書きたくなってしまうのは、ネタがよいからだろう。ただ、漁業という観点から書かれている、2章と3章は読み応え十分。ただ、4章と6章は、地方の話がとりとめもなくつづく。新聞社の地方支所の日常を垣間見ることが出来るが、漁業にはあまり関係がない。5章では魚の食べ方を説明しているのだが、俺的には目新しい情報はなかった。一般の読者にはこういうコーナーも必要だろう。

結論

読む価値がある本だった。当ブログ読者は、買って読むべし。文章が読みやすいので、さくっと読めるはずだ。消費者目線を維持しながら、漁業の現状がうまく記述されている。たった1年で、ここまで書けるのは、流石である。

石巻の漁業だけをいくら見ていても、漁業を発展させるための知恵は浮かんでこないかもしれない。石巻の現場を知った上で、海外の持続的に利益を出している漁業(たとえば、ノルウェー)を見れば、石巻にも使える知恵が数多く見つかるだろう。そういう情報を、地方に還元することこそ、地方魚記者の役目だと思う。国際的な視点と、経済的な視点をもつ、魚記者はまさに適任と言える。魚記者の今後の活躍に期待をしたい。

日本型の意志決定の長所と短所と限界

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日本型の意志決定の欠点は、方向性と実効性に欠けるということだ。「方向性の欠如→非合理的な努力→無駄な痛み」となりやすい。たとえば、多大な手間・暇・金を費やして種苗放流をしても、その効果が一切検証されていないような場合も多い。また、日本の資源管理型漁業の実効性は、漁業者の都合次第である。一般的に、日本の漁業には余裕は全くない。乱獲をしても採算がとれないような経営体が多い中で、自己満足的な全く不十分な取り組みで終わっている場合がほとんどだ。乱獲の度合いが多少軽減されたからといって、「管理している」とはいえないだろう。「やらないよりマシ」かもしれないが、それで満足していては話にならない。

では、管理を機能させるには、何が必要だろう。方向性を与えるのが研究者、実効性を与えるのがタイミングだと思う。成功事例に共通するのは、現場に根を下ろした研究者の存在である。非合理的になりやすい日本型意志決定に方向性を与える人間が必要なのだ。また、漁業者が努力できる範囲は一定ではなく、資源管理を始めやすいタイミングが明確に存在する。たとえば、秋田のハタハタは、資源が枯渇し、収入としてあまり期待できなくなった段階で管理が導入された。また、三河湾のイカナゴはマイワシバブルの時代に管理を開始した。対象となる資源に依存する度合いが少なくなったタイミングこそ、資源管理を開始するのに適しているのだ。こういったタイミングをとらえるには、その現場に長期的に接する人間が必要だ。たとえば、5年で水産系の職員を異動させる県もあるようだが、そういった県の職員がうまくタイミングをつかむのは困難だろう。

自主管理の成功には、資源管理の基礎を理解した上で漁業者と同じ目線で会話ができる人間を、長期的に常駐させる必要がある。これは、国にはできない。また、できていない県も多い。研究者ではなく、漁協の職員に資源管理普及員としての機能を期待するのも一つの方向だとおもう。どこの漁協も内部はガタガタで統廃合が続いている。資源管理に対して主体的な役割を果たすことで、漁協の必要性をアピールすれば、今後の生き残り有利になるだろう。

漁業者の相互監視は確かに有効な手段である。たとえば、京都府のズワイガニ管理では、禁漁区の効果を確認するため、県の職員が漁船をチャーターし禁漁区で定期的に試験操業をしている。ある時、連絡に不備があって、一部の漁業者に試験操業のことが伝わっていなかった。試験操業のことを知らない漁師から、試験操業をしていた漁師に、無線で「そこは禁漁区だろう」というつっこみが入ったという。こういう状況なら、行政がコストをかけて監視しなくてもよいだろう。ただ、自主管理の強制力の範囲は、顔が見える範囲に限られる。村社会の掟の適用範囲は、村社会に限られてしまうのだ。魚の分布が、いくつかの県をまたいでいることもよくある話である。また、大臣許可の沖合漁業の多くは会社経営であり、村社会の理論ではなく、中小企業の理論で動いている。自主管理がうまく機能するのは、利用者が限定された沿岸資源に限られるだろう。これは、漁業者の相互監視に頼る自主管理の構造的な限界である。

次のTAC魚種は、ずばり、これだ!

  • 2008-01-09 (水)
  • ITQ
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規制改革会議から出された今年の宿題に「TAC対象魚種の拡大の検討」というのがある。
水産庁もいろいろ忙しくて大変だろうから、宿題を手伝ってあげよう。

評価票に漁獲量の記載があった79系群の漁獲量をどんどん足していくと、次ような図になる。

Image200801091.png

最初の立ち上がりは急だが、20を超えた当たりからほぼ頭打ちになっている。
上位20系群で260万トンに対して、全79系群で280万トンである。
21位から79位までを足しても20万トンにしかならない。
確かに、日本沿岸の水産資源の種類は多いが、漁獲量として重要な種は限定的である。
日本沿岸が南北に長く、黒潮・親潮が混ざる複雑な海洋環境だから、地域によって魚が違う。
結果として、地域色豊かな海洋生態系がはぐくまれ、地域色豊かな多様な食文化が生まれたのである。
利用している魚の種類は多いけれど、漁獲量として重要なものは限られているのである。

2005年の漁獲量の上位20のランキングは、つぎのようになる。

魚種
系群
2005漁獲量
合計
1 サンマ 太平洋北西部系群 469479 469479
2 カタクチイワシ 太平洋系群 250974 720453
3 マサバ 太平洋系群 226493 946946
4 スルメイカ 秋季発生系群 223640 1170586
5 マサバ 対馬暖流系群 207000 1377586
6 マアジ 対馬暖流系群 183000 1560586
7 スルメイカ 冬季発生系群 178213 1738799
8 ゴマサバ 太平洋系群 160000 1898799
9 スケトウダラ 太平洋系群 159868 2058667
10 ホッケ 道北系群 121769 2180436
11 ゴマサバ 東シナ海系群 86000 2266436
12 カタクチイワシ 対馬暖流系群 74143 2340579
13 カタクチイワシ 瀬戸内海系群 57100 2397679
14 ブリ 55591 2453270
15 マアジ 太平洋系群 48000 2501270
16 マダラ 太平洋北部系群 26604 2527874
17 スケトウダラ 日本海北部系群 25910 2553784
18 マイワシ 太平洋系群 24877 2578661
19 ウルメイワシ 対馬暖流系群 20240 2598901
20 イカナゴ類 宗谷海峡 19777 2618678

上位20種の中でTAC対象資源を青で塗ってみた。
なんだかんだ言って、重要資源は既に資源管理の対象になっているのである。
誰が選んだか知らないが、TAC魚種というのはなかなかよく考えられている。
ただ、その管理の内容に問題が大ありだ。
TAC対象種の数を増やすよりも、現在のTAC制度をまともな資源管理に改良していくのが先決だろう。

TAC対象ではないのは、カタクチ、ホッケ、ブリ、マダラ、ウルメ、イカナゴがランキングした。
これらも将来的にはTACの対象にした方が良いとは思うが、難点も多い。
カタクチイワシは、単価がべらぼうにやすくて、漁業としての重要度は低い。
また、ホッケは親は岩場に入ってしまうので、まとまってとれるのは未成魚だけ。
親はつりでしかとれないので、資源量の推定が非常に難しい。
未成魚だけをみて資源全体を把握するのは至難の業である。
ただ、難しいからといって、放置しておいて良いわけではない。
カタクチイワシは最近減少が顕著であり、要注意資源になりつつある。
日本海のスケトウダラの崩壊が確実な北海道では、ホッケに崩壊フラグが立っており、
ホッケの管理体制を整えるのが急務である。
十分な情報が無いのはわかるけど、関係者で知恵を絞って何とかしないとまずい。

ランキングには入らなかった系群でも、漁獲枠で管理すべきものはいくつかある。
ロシアが大量に利用しているイトヒキダラ 太平洋系群は早急に管理を始めるべきである。
沿岸国の権利をしっかりと主張して、守るべきものは守らないといけない。
ベニズワイやアカガレイなどの底もの重要種も管理をした方がよいだろう。
この辺を重点的に検討してください>中の人


過去の最大漁獲量をつかって、同じような図をかいてみた。

Image200801092.png

こちらも20系群で頭打ち傾向が顕著である。
歴史的にみても重要種は限られているのである。
こちらの上位20位は次の通り。

魚種
系群
Max
合計
1 マイワシ 太平洋系群 2915763 2915763
2 マサバ 太平洋系群 1474434 4390197
3 マイワシ 対馬暖流系群 1283914 5674111
4 マサバ 対馬暖流系群 821000 6495111
5 サンマ 太平洋北西部系群 469479 6964590
6 カタクチイワシ 太平洋系群 415437 7380027
7 スルメイカ 冬季発生系群 379422 7759449
8 スルメイカ 秋季発生系群 317385 8076834
9 スケトウダラ 太平洋系群 294765 8371599
10 スケトウダラ オホーツク海南部 279135 8650734
11 マアジ 対馬暖流系群 277000 8927734
12 ホッケ 道北系群 205086 9132820
13 スケトウダラ 日本海北部系群 162898 9295718
14 ゴマサバ 太平洋系群 160000 9455718
15 カタクチイワシ 瀬戸内海系群 149900 9605618
16 カタクチイワシ 対馬暖流系群 128250 9733868
17 ゴマサバ 東シナ海系群 116000 9849868
18 スケトウダラ 根室海峡 111406 9961274
19 マアジ 太平洋系群 83000 10044274
20 ムロアジ類 東シナ海 80698 10124972


トップ4はマイワシとマサバが独占だが、どちらも巻き網に乱獲されて激減中。
巻き網はとても効率的に小さい魚からとれてしまう漁法だから、
日本のように補助金をばらまくだけで、まともな漁獲規制をしなければ必ずこうなる。
巻き網業界が困るのは自業自得なんだけど、
他の沿岸漁業者や加工や流通や消費者にとって、迷惑この上なしだ。

サンマは業界が強いので、巻き網に魚をとらせていない。
これがサンマ豊漁の秘訣だろう。
また、小型魚を投棄する選別機の使用を止めた英断も、資源に良い影響を与えたはずだ。
ただ、資源状態が良くなっても、それが収入につながっていない現状がある。
鮮魚にこだわらずに利益が出るような取り方を模索して欲しい。
工夫次第で、いろいろなやり方があると思う。

ここにかかれていないものとしては、ニシンの100万トンというものあるんだが、
完全に今は昔の夢物語になってしまった。
マサバ、マイワシをニシンの二の舞にしてはいけない。

AFCフォーラムの10月号は必読!

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農林漁業金融公庫の月報誌にAFCフォーラムというのがある。
PDFで全文を読むことができるのだが、実に、内容が濃厚。
10月号は、こんな感じです。

10月号(特集:守れるか日本の魚食文化)
特集  日本の水産業と魚食文化を守るには  坂井 真樹
負のスパイラルに陥っている水産業を建て直すには  黒倉 寿
日経調、漁業者と意見交換  日本経済調査協議会
活性化に成功したノルウェーの漁業制度と資源管理  丹羽 弘吉
水産業を取り巻く環境は劇的に変わった  垣添 直也
伊勢・三河湾のイカナゴ資源管理(愛知県)  船越 茂雄
いま現場では 宮古漁業協同組合 大井 誠治  調査室
コメント  小松 正之

髙木総裁が率いる農林漁業金融公庫だけに、高木委員提言に関連するものが多いです。
黒倉先生のところを読むと、高木委員提言が出てきた背景がよくわかります。
丹羽さんのノルウェーの漁業制度と資源管理も必読ですね。
丹羽さんには今回のノルウェー訪問でも大変お世話になりました。

ここで、目次のチェック&ダウンロードが出来ます。
http://www.afc.jfc.go.jp/information/publish/afc-month/2008/0810.html

PDFの存在に気づかずに、本を送付してもらたので、代金を振り込まねば・・・

資源管理でも「防火に勝る消火無し」なのだ

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読者から貴重な情報をゲットした。
俺が提唱した自主管理に必要な4つの条件のうち一つを欠いても、
自主管理がちゃんとできている例があるという。
この事例は、俺も初めて知ったが、実に興味深い。

自主管理についての4つの条件はとても説得力があり、僕も友達に自主管理の説明をするときに使わせてもらいます。

しかし、資源の壊滅的な減少について、ちょっと意見があります。
先日もお話した兵庫のイカナゴの事例なのですが、兵庫県の漁師はこの条件を満たしていないんですよ。
勝川さんの教えを信仰していた僕にとってはそれは衝撃的でしたww
昭和30年代に兵庫県がイカナゴの産卵場となるじゃりを工事のために採集しようというしたんですよ。しかし、イカナゴ漁師がこれに猛反対し、産卵場を守ったという歴史があるらしいのです。そのため、イカナゴの資源に対する思いが強かった。結果として後の解禁日統一決定の指標となる試験場の資源量調査のデータもかなりスムーズに受け入れられたのでしょう。

まだイカナゴの事例しか存じないのですが、資源が減っていないのに、資源の重要性がわかり、自主的な管理が成功しているのは貴重な事例と言えると思います。

今回の事例で注目していきたいのが、自分達が魚を獲りすぎると、翌年の漁獲量に影響があった点です。漁業者が獲りすぎると、その反動がすぐに実感できる点。
漁がどれだけ影響を与えているかを実感させることができる方法を模索できれば自主管理の成功に近づくのでしょうね。

この資源が俺があげた4つの条件のうちの一つを欠いているにもかかわらず、
ちゃんとした管理ができている理由を考察してみよう。
欠けているのは、 条件4の「資源の壊滅的な減少を経験」だ。
この条件が必要な理由は2つある。
a)漁業者全員の危機感を高めて、管理に強制力を持たせることが出来る。
b)すでに経済に成り立ってないので、禁漁などのきびしい措置がとれる。
上のイカナゴの場合、開発により資源が存続の危機にあり、漁業者自らの手でそれを守った。
漁業者の意識を高めるためのイベントのおかげで、上のa)については満たされたのだろう。
補償金を蹴って、資源を守った漁業者の心意気はすばらしい。
で、資源が減る前に管理を開始したのがポイントだ。
資源が枯渇した状態なら、禁漁レベルの措置が必要になるが、
資源状態が良い段階なら、そこまで厳しい措置は必要ない。
減らさないように予防的に振る舞えば、b)は必要ないのだ。

資源を回復させるより、資源を減らさない方がずっと楽だし、痛みも少ない。
「禁漁したら、資源が劇的に回復しました」というような派手さはないが、
予防原則で資源を減らさなかった、この事例の方が資源管理として洗練されている。
これは、今後の沿岸資源の管理を考えていく上で、極めて重要な事例だと思う。

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from 18 Mar. 2009

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