Home > 研究 Archive

研究 Archive

桜本文書を解読する その1

[`evernote` not found]

「科学的根拠に基づく資源管理」は科学的か?

東京海洋大学 海洋科学部教授
桜本和美

 規制改革会議の第3次中間とりまとめが公表された。その中の③「水産業分野」の水産資源管理に関連する部分には、「科学的根拠に基づく資源管理」の重要性が繰り返し強調して述べられている。しかし、その論理展開は極めて非科学的で、基本的な認識と概念において意図的とも思われる重大な誤りがある。紙面の関係もあるので、上記の事項に絞って意見を述べたい。

一部のデータから全体的な結論を導くことの非科学性
第 3次中間とりまとめ60ページ「図表2-(1)-④ 減少が著しい魚種別漁獲量の推移」では、漁獲量の減少が著しい例として、スケトウダラ、キチジ、アマダイ、タチウオ、マサバ、マダラの6種について 1971年から5年ごとの漁獲量の変遷を示し、「我が国の水産資源の状況は危機的状況であるといっても過言ではない。」と断言している。しかし、上記の表の引用元である「我が国周辺水域の漁業資源評価(平成19年度版)、水産庁」には、52魚種90系群にもおよぶ資源状態が記載されている。これをみると、確かに半数近い43系群が低水準にあり、決して好ましい状況ではないが、見方を変えれば、半数以上の系群が中位(32系群)または高位水準(15系群)にあり、決して危機的状況というわけではない。そもそも、高位の資源もあれば、低位の資源もあるという状態が自然界の常態であるともいえるので、すべての資源を中位または高位水準に維持しようとしてもそれは無理というものである。高位・中位・低位にある資源の割合がどの程度であれば、自然な状態かを判定することは容易ではないが、少なくとも、わずか6魚種の極めて低水準にある資源のみを示して「我が国の水産資源の状況は危機的状況である」という結論を導き出すという論法はどう見ても科学的ではないし、意図的な悪意すら感じられる。

昭和27年には、沿岸漁業で250万トンも獲っていたが、現在は150万トンまで落ち込んでる。
昔の統計は精度が低く、数えこぼしがあったことを加味すると、漁獲量はさらに減っているはずだ。
魚群探知機などの発達で、低水準の資源を効率的に獲れるようになったことを考慮すれば、
海の中の魚がどれほど減ってしまったのか想像もつかない。

残念ながら、日本で統計が整備されたのは1980年代以降であり、
それ以前のデータは精度に問題がある。
日本には、本当に魚が多かった時代のデータが無いのだ。

ただ、日本近海の魚が減っていることは、年配の漁師や釣り人を捕まえて、
昔話を聞いてみれば、明らかだろう。
彼らは誇張を交えながら、日本の沿岸がいかに豊かな海だったか、
そして、いかに魚が減ってしまったかを教えてくれるはずだ。
50年前と比べれば、比較しようがないほど、魚は数も減ったし、サイズも小さくなっている。
回復したと言われる京都のズワイガニにしても、
昔はいくらでも獲れたから、つぶして畑の肥料にしていたのである。
資源管理で多少回復したとはいえ、昔の水準にはほど遠いのだ。

水研センターは過去15年間の資源変動をつかって、水準の評価を行っている。
こんな感じで過去15年の資源量推定値の最大値と最小値を3等分し、
最近の資源量が高位、中位、低位のどこにくるかで、水準を判断している。
img08091204.png
15年前と言えば、すでに魚は減った後だ。
すでに魚が減ってからの水準で、高位とか、中位とか言っているのであり、
終戦直後の自然に近い水準と比較すれば、ほとんどの資源が低位といえるだろう。

また、この判断基準で低位が多いと言うことは、
過去15年程度のスケールで減少傾向にある魚が多いことを意味する。
減りきった上に、さらに減り続けているのである。
低位43,中位32,高位15種を図にしてみるとこうなる。

img08091202.png
もし、日本周辺の水産資源が全体として安定ならば、高位と低位は同じ割合になるはずだ。
低位と高位の頻度にこれだけ差があれば、
低位と高位の確率が等しいという仮説は容易に棄却できる。
日本近海資源が全体としての減少傾向にあることは明らかだ。

決して好ましい状況ではないが、見方を変えれば、半数以上の系群が中位(32系群)または高位水準(15系群)にあり、決して危機的状況というわけではない。

桜本氏は、「好ましい状況ではないが、危機的ではない」という認識のようだ。
すでに多くの漁業経営体は危機的な状況にある。
さらに資源が減ったら、漁業が産業として成り立たなくなるという可能性が高い。
現在、低水準にある、スケトウダラも、マイワシも、確かに種として絶滅はしないだろう。
しかし、漁業が成り立たなくなれば、水産資源とはもはや呼べないはずだ。
産業として成り立つかどうかの瀬戸際にある漁業がたくさんある。
魚が捕れなくなって、困っている漁業者がたくさんいる。
こういう状況を何とか打破したいと危機感を持つのは、水産研究者として当然だろう。

また、水準の定義から考えれば、高位と低位の比が重要であり、
高位と中位を合わせて半分あるから良いなどという理屈は成り立たない。
低位資源がその3倍もあることを無視して、「高位資源が存在するから問題ない」と主張するのは、
一部の例外から、全体の結論を導きだす非科学的な論法である。

すべての資源を中位または高位水準に維持しようとしてもそれは無理というものである
と指摘をしているが、そんなことは当たり前である。
そもそも、低水準資源を無くせという無茶な主張をしている人間などいない。
規制改革の文書のどこにも、そんなことは書いてないのである。
改革サイドは、低水準に大きく偏った現状に危機感を持っているのである。
改革サイドの発言をねじ曲げた上で反論する、という論旨のすり替えが、この後も繰り返されている。
「改革サイドは無茶な要求をしている」という印象を、読者に植え付けようという意図であろうか。

そろそろ例の文書につっこみを入れてみよう

[`evernote` not found]

いやぁ、最近忙しくて、ブログを書く、暇がないですよ。
8月〆の原稿も終わってないし、15日〆の原稿2つに至っては手つかずだし。
なんだかとってもピンチ、というより、すでにアウトな予感に満ちている。
15日の締め切りの一つは、俺が当初の締め切りでは書けないと断ったら、
発行日をずらして対応しますということになってしまったのだよ。
みなと新聞は、ちょっと遅れるかも。
ここまでされると、さすがに不義理はできない。
授業の準備もしないといけないし、引っ越しはあるし、JABEEは面倒くさいし・・・

と、まあ、いろいろあるのですが、やっぱり、ブログも書かないと駄目だね。
「暇になったら書こう」なんて考えは甘い。絶対に、暇にはならないから。
忙しい中で時間を作って書かないといけないのだ。

最近、水産経済新聞に掲載された桜本先生の文章を手に入れたので、
その内容について検討してみよう。
文章の主な内容は次の通り。

  • 魚が減っているというのは、事実無根な言いがかり
  • 我が国の資源管理は機能している
  • 社会経済的なその他の事情を勘案し、ABCを超過するTACを設定するのは妥当
  • ABCは、科学者の合意事項に過ぎず、科学的ではないので無視して良い
  • 帰省改革会議が、「現行のABCに固執しない」のは変節である
  • TAC魚種は現状7種で十分であり、増やすべきではない

いままで水産庁が主張してきたこと、そのまんま。
一心同体なんですね。流石です。

次回から、原文を読み解きながら、じっくりと吟味をしていくのでお楽しみに。
この件に関しては、ブログのコメント欄でも盛り上がっていたのですが、
そのプロセスで、読者の質問に対する答えも明らかになるとおもいます。

魚が減ってないなら、回復計画はやめるべきだろう

[`evernote` not found]

そういえば、無責任発言の岩崎さんが、みなと新聞に投稿しているらしい。
相変わらず「日本の魚は減っていない!」と繰り返すだけで、ひねりもなにもない。
日本の魚が減ってないなら、なんでこんなに資源回復計画があるのだろうか。 
SKproject01.png
skproject02.png
skproject03.png

ちょっと見ないうちに、大幅に増えている。
21インチモニターで2画面に納まらないのは、いくら何でもやり過ぎだろう。

日本の魚は減っていないなら、これらはすべて税金の無駄遣いだ。
魚が減ってないというなら、俺じゃなくて、自分の後輩にかみつくべきだろう。
えっ?かみついているけど、相手にしてくれないって?
それは、自業自得でしょう。

岩崎さんが天下った北部巻き網組合だって、資源回復計画がらみで、
多額の補償金をもらってきたじゃないか。
公的資金を、もらうだけ、もらっておいて、
「資源は減ってないから、管理は不要」なんて、よく言えたもんだ。
サバが減っていないなら、資源回復計画で今まで貰った補助金を返すのが筋だろう。

無責任発言男は、「サバを漁獲枠で管理しているのは日本だけだ」と豪語していたが、
無知にもほどがあるよな。
商業価値がある魚に漁獲枠がないなんて、先進国ではあり得ない話だ。
下のはNZの資源評価表なんだけど、サバはITQで管理されている。
漁獲量は1万トンぐらいで、ほぼ全て輸出されている。
NZは、こういうマイナーな資源まで、枠を設定することで、
値段を維持しながら、持続的に資源を利用しているのだ。

燃油の補てんをしなくても、漁業から利益を出しているのはNZ,
資源を維持しているから、漁業に未来があるのはNZ、
一方、日本は、60万トンも獲っている主要魚種を、
過剰漁獲枠&超過漁獲放任でみすみすつぶしているのだ。

NZの漁業省は良い仕事をしているから、NZ国民は幸せですな。
資源管理ができない理屈をこねるだけで、何も行動をしない、日本の水産庁とはえらい違いだ。
NZの漁業省の役人を今の倍の給料で引き抜いてきて、資源管理を担当させれば、
日本の漁業も良くなるんじゃないか?
nzmackerel.png

ヨーロッパのタラ資源 その4 アイスランド

[`evernote` not found]

アイスランドのタラ資源も歴史的に見て低水準である。
ただ、ITQに移行した80年代以降、25年にわたり資源量が安定している。
資源の減少傾向に歯止めをかけたという意味では、資源管理の効果はあったのだろう。

Image0809041.png

漁獲量はこんな感じで微減傾向。
現在の水準より、もう少し漁獲量を減らすと、資源が回復するのだろう。
Image0809042.png

Image0809043.png

赤枠がICESがアドバイスした漁獲量、緑枠が合意されたTAC、青枠が実際の漁獲量。
科学者のアドバイスを遵守する方向で、TACを設定している。
資源をよりよい状態にするために、07/08シーズンからぐんぐんと漁獲枠を絞っている。
資源が低水準ながらも安定している状況で、漁獲枠の引き締めが実施に移されるのだろうか。icecodcatch.gif

海洋研究所(Marine Reserch Institute)は、資源の動向にかかわらず、
向こう4~5年は漁獲枠を増やさないという方針を明らかにしている。
歴史的な低水準の資源を回復させようという考えだろう。

資源が目に見えて減っていない、むしろ、増加傾向にもかかわらず、
漁獲枠の厳しく削減しようとする科学者に対して、
アイスランドの漁業者からは不満の声が上がっている。
これは漁業者の立場に立てば、わからない話ではない。
現在の水準を妥当と見るかどうかは、難しい判断である。
俺としては、20年以上資源量を維持してきたのだから、
今までの漁獲枠20万トン程度を維持しながら、
卓越年級群が発生したら、それを資源回復に回すぐらいでも良いと思う。

絶好調だったアイスランド経済にもかげりが出てきている。
アイスランドにとって、タラ漁業は外貨を稼ぐ主要な産業であることから、
社会経済的な考慮から、漁獲枠が拡大される可能性はあるだろう。
また、ITQ制度自体を見直すような動きも出ているようであり、
今後も引き続き情報を集めていく必要があるだろう。
野党は、政府が選挙対策で漁獲枠を抑えていると見ているようである。
あらかじめ漁獲を過小に設定しておき、
選挙前に漁獲枠を引き上げて、人気取りをするつもりだと言うのだ。
選挙対策に関しては、事の真偽は不明だが、
資源回復をしながら選挙対策をしようというアイスランド政治家は、 
乱獲を続けるために税金をばらまく政治家よりは良心的だろう。

ヨーロッパのタラ資源 その3 北東大西洋系群(ノルウェー、ロシア)

[`evernote` not found]

北東大西洋系群は、下の図の(せ)に相当する。
ノルウェーとロシアにまたがって分布する、
規模が大きく、安定した漁獲が期待できる数少ない資源である。

codmap.jpg

産卵親魚はこんな感じで推移してきた。
img08090313.png
第二次世界大戦が終わると、漁船漁業が拡大し、資源が枯渇。
その後も長期低迷をしていたが、1970年代後半から、ノルウェーが資源管理に本腰を入れる。
しばらくは卵の生残率が低く、中々資源は回復しなかった。
80年代に、資源が再び減少傾向に入ったことから、厳しい漁獲制限を実施。
時を同じくして、卵の生残率が高い「当たり年」がきて、一気に資源が回復した。
その後も、漁獲圧を増やさぬように規制を行い、資源の安定利用を心がけている。

Blimは、Blimitの略で、これを下回ったら乱獲状態を定義する資源量。
Bpaは、予防的措置として、維持すべき資源量。
この資源は、Bpaを上回っているので、資源評価の不確実性を考慮しても安全だと考えられている。
ICESも資源評価において、”生物の生産力を最大に利用できる親魚水準(Fully reproductive capacity)”と考えている。
 

漁獲圧はこんな感じ。
img08090401.png
80年代に資源が回復した後も、漁獲圧を増やさないように細心の注意を払っている。
漁獲圧はやや高めであり、予防的措置をとるなら、Fpaまでさらなる削減が望ましい。

ICESの研究者は、持続性の観点から、その資源をどこまで利用して良いかをアドバイスする
とりかたを決めれば、漁獲量は自動的に計算できる。
赤で囲んだ部分が、ICESのアドバイスに従った場合の漁獲量をしめす。
このアドバイスは生物の持続性を考えた場合の上限の漁獲量であり、
これを上回るのは問題だが、下回る分には何の問題もない。
緑で囲んだ部分は、実際に合意されたTACである。
青が実際の漁獲量の推定値である。
ここには、報告されない水揚げ(報告漏れ、混獲死亡など)の推定値も含まれている。
codarccatch.jpg

2000年にバイオマスが予防的原則から維持すべき水準(Bpa)を下回ると、
科学者は漁獲枠の75%削減という厳しい提言をした。
この削減案は、結局採用されず、漁獲枠の20%削減にとどまった。
現在は再びBpaを上回っているが、沿岸漁業の混獲などを考慮し、
引き続き漁獲枠を控えめに設定し続けているようである。

40万トンは欲しい漁業者と、持続性の観点からより漁獲圧を減らしたい科学者のせめぎ合いが見て取れる。
資源としては健全な状態であり、漁業も現状維持できるかどうかというレベルであるが、
こうしてせめぎ合うことで、漁業が良い状態に維持されているのだ。
日本だったら間違いなくTACを漁業者の言い値で高く設定し、資源を再び枯渇させただろう。

ことごとく資源管理に失敗している大西洋のタラの中で、
この系群が例外的に持続的に利用できているのは、ノルウェーの存在が大きい。
漁獲量が多いノルウェーが「俺も漁獲量を減らすから、おまえらも減らしてくれ」と言えば、
ロシアも従わざるを得ないだろう。
率先して、資源管理のイニシアチブをとっていくことが、漁業大国の責任であり、
その責任を果たしているノルウェー人は立派だと思う。
そして、資源管理の責任を果たすことが、資源の維持や漁業の持続的発展につながり、
結局は、自分たちに利益が戻ってくるのである。

因果応報とはこのことだ。
俺は、日本が、東アジアにおけるノルウェーの役割を果たすべきだと思う。
それが、漁業国日本の責任であり、結局は、日本および日本の漁業者のためなのだ。

ヨーロッパのタラ資源 その2 北海編

[`evernote` not found]

鱈は歴史的に利用されてきた資源だけに、既得権が絡み合い、資源管理が非常に難しい。
世界でもっとも有名な資源崩壊はグランドバンクの鱈であり、
現在、もっとも心配されている資源が北海の鱈だろう。

資源評価はここにある。これを参考に資源と漁業の現状を見てみよう。

資源は減少中で、かなり末期的。
img08090317.png


漁獲圧も減少中だが、もう一がんばりしないと駄目だろう。
img08090318.png

1996ー2000年までは、ICESのアドバイス通りの漁獲を行ってきたが、
資源の減少に歯止めがかからず、2001年からICESが禁漁を勧告。
いきなりTACをゼロにはできないが、翌年にはTACをほぼ半減、
その後もTACの削減を続けている。
漁獲枠は守られており、TAC制度はそれなりに機能していると言えるだろう。
img08090315.png

各国の漁獲量はこんな感じで推移している。
img08090316.png

狭い北海に、ごちゃごちゃと多くの船が出て行っている。
こういう状況では、なかなか合意形成は難しいだろう。
厳しい状況で各国とも、努力をして漁獲量を減らしているのが見て取れる。
漁獲枠が多いUKとデンマークのリーダーシップに期待をしたい。

今後の展望なんだが、2005年産まれが卓越年級であり、
成魚の自然死亡も低くなっているようなので、とりあえずは何とかなりそうだ。
しかし、ICESは強硬な姿勢を崩していない。

North Sea cod population recovering, scientists say
資源は増加しているが、さらなる回復を目指して、鱈の漁獲量を2006年の半分以下に下げることを研究者は勧告した。

ところが、EUは漁獲枠を11%も増やしてしまったので、非難囂々です。

NewScientist Environment: North Sea cod quotas raised against scientific advice
BBC: Minister criticised on cod quotas
Guardian: Increased cod quotas ‘disastrous’, campaigners warn
WWF: No justice, chance for cod recovery is lost
 

確かに、資源管理はうまくいっていないのだけど、日本と比べればずいぶんマシだと思う。
1) (TAC自体が過剰という問題はあるが、)TACが守られている
2) 研究者が漁獲枠の削減の必要性について、責任ある提言をしている
3) マスメディアによって、乱獲の問題が社会に伝えられている
4) EU各国は減船に取り組んでいる

研究者がしっかりとしているから、社会が乱獲の問題を正しく認識している。
科学者の勧告を無視していることにたいして、非難にさらされているし、
それに対して、政治家も見苦しいわけはしてない。
EUも、過剰努力量の解消の必要性を認めており、
EUの燃油高騰対策補助金の多くは、減船に費やされるだろう。
直接補償をして、税金で乱獲を助長する日本のような無茶は、欧州では通らない。
徐々にではあるが、良い方向に向かっていると思う。
ただ、資源は予断を許さない状況であり、間に合うかどうかは微妙なところだ。

ヨーロッパのタラ資源 その1

[`evernote` not found]

ヨーロッパのタラ(cod)のことを調べてと頼まれて、調べてみた。
忙しいのに、せっかく調べたのだから、資料として残しておこう。
と思ったら、予想以上に時間がかかっている。
まずい・・・

タラは、北大西洋に広く分布している。
実はタラの分布は、バイキングが広がっていった道筋でもある。
大航海時代以前には、食べ物の問題で長期航海ができなかった。
タラは、塩干しすると、非常に良質な保存食になるため、
当時の船は、タラがいる場所を伝って、北米まで行ったのだ。
というようなことが、この本に書いてある。これおもしろいよ。

鱈―世界を変えた魚の歴史
マーク カーランスキー
飛鳥新社
売り上げランキング: 244236
おすすめ度の平均: 3.5

3 鱈を窓にして読む西欧近代史
4 お腹が減りました・・
4 単なる魚の本ではない

 その鱈はICESでは次のように細分化をして、資源評価・漁獲枠の勧告を行っている。

codmap.jpg

あ:グランドバンク
い:Greenland ICES Subarea XIV and NAFO Sub-area I
う:Icelandic Division Va
え:Faroe Plateau Cod (Subdivision Vb1)
お:Faroe Bank (Subdivision Vb2)
か:Division VIa (West of Scotland)
き:Division Vib (Rockall)
く:Division VIIa (Irish Sea)
け:Divisions VIIe-k
こ:Subarea IV (North Sea), Division VIId (Eastern Channel) and Division IIIa (Skagerrak)
さ:Subdivisions 22-24
し:Subdivisions 25-32
す:the Kattegat
せ:North-East Arctic cod
そ:Norwegian Coastal Cod (Subareas I and II)

それぞれの資源評価はこちら

資源として大きかったのは、あ(グランドバンク)と北海(こ)だ。
グランドバンクは乱獲で1991年に資源が崩壊し今も復活していない。
北海も資源が枯渇中で、かなりやばい状態。ICESとしては禁漁の勧告をしている。
それ以外のちまちました資源も、たいてい、悪い。
現在も、安定して漁獲を続けているのは、アイスランド(う)、
北東大西洋(せ、ノルウェー、ロシア)ぐらいだろうか。

img08090201.png

上の図からも、EU,北米の漁獲が減少しているのに対し、
ノルウェー、アイスランドの漁獲量が安定していることが読み取れる。
ITQをいち早く導入したアイスランドとノルウェーのみが、安定した水揚げを続けている。

北海や北米では、多国の既得権が絡み合い、交渉は決別し、有効な手だてが打てなかった。
オリンピック制度の下では、漁業者は常により多くの漁獲枠を求める。
政治家は漁業者の票を得るために、漁獲枠を増やすように働きかける。
国際間交渉では、どの国もより多くの漁獲枠を主張し、決別。
結果として、過剰な漁獲枠が設定され、資源は枯渇し、産業自体は滅んでしまう。
漁業者は、漁獲枠拡張のために政治力をつかい、結果として、失業するのである。
その結果を、社会全体が被らされているというのが、ヨーロッパの現状だろう。

次回以降、管理に失敗している北海と、
それなりに成功をしているアイスランドとノルウェーの現状について、まとめてみよう。

(つづく)

ABCの複数化について

[`evernote` not found]

今年の最大の変更点は「ABCの複数化」だろう。
これがどういう意味を持つのか考えてみよう。

ABCとTACの現状

研究者が、生物の持続性の観点からABCの上限と下限を推定してきた。
一方で、水産庁は、ABCを無視して、過剰なTACを設定してきた。

Image0808221.png

幅があるABCはなぜ必要か?

最近、ABCとTACの乖離をネタに水産行政が叩かれている。
ABCについて、行政官はまともな反論はできない。
自分たちがいい加減なことをしているのが、一目瞭然になってしまうので、
水産庁の少なからぬ人間は、ABCを目の上のたんこぶだと思っている。

彼らが以下にABCを憎んでいるかは、この辺を読むと理解できるだろう。
http://www.jfa.maff.go.jp/suisin/yuusiki/dai2kai/giziroku_02.pdf

彼らがしつこく要求してきたのが、、「ABCに幅を持たせろ」という意見だ。
不確実性を理由にABCの幅を増やし、幅の上限を採用することで、
過剰な漁獲枠を維持しつつ、ABCとの乖離をなくそうという考えだ。
Image0808222.png

幅をもつABC派の思惑
1) 水研センターに、幅を持ったABCを出させる。
2) 自分たちの意のままに操れる某審議会で、都合の良いABCを選ぶ
3) 漁獲圧を下げずに、ABCとTACの乖離を解消できて、ラッキー

さてさて、思惑通りにことが運ぶのでしょうか?

今年の北海道ブロックのABCはどうだったか?

北海道ブロックに関しては、明らかに漁獲量が過剰になるような選択肢はとくに見あたらなかった。
そもそも不確実性を考慮して、ABCTargetとABCLimitの2つを決定していたわけだ。
別に今までだって、点推定をしてきたわけではなく、ABCは幅を持っていた。
従来のABCTargetとABCLimitの幅の範囲でいくつかのシナリオが有るような感じかな。

今回のスケトウダラの場合も、いろんなシナリオを作ったが、
ABCとして挙げられたのは、従来のABCLimitの範囲内であった。
下の図で行くと、S1からS3がABCとして提案され、S4、S5は参考値であった。
FSUSを入れるかどうかは微妙なところだが、従来の考え方を逸脱するものではない。
復計画がらみで、管理課の都合もあることだろうから、俺も強くは反対はしなかった。

Image0808223.png

ABCの幅を広げて、なし崩しにしようと思っていた人たちは肩すかしだろう。
俺の方は、「あれもABCに入れろ、これもABCに入れろ」と言ってくるのではないかと
心配をしていたが、逆の意味で肩すかしでした。

資源評価の最終決定はブロック会議にすべきである

俺が漁獲枠を考える上で、最重要視しているのはブロック会議に参加する研究者の集合知だ。
研究者同士で、ああでもない、こうでもないと、議論をしているとだんだん落としどころが見えてくる。
この資源だったら、今年の漁獲はこれぐらいという共通認識ができてくるのだ。
たとえば、スケトウダラ日本海北部系群なら、1万トン弱とかそれぐらいだろう。
数理モデルがどうとか、そう言う問題よりも、集合知として出てくる会議の合意の方が重要。

資源の状態、資源評価の精度、数字に表れていない様々な情報を考慮した上で、
最も適切な漁獲量を決定できるのはブロック会議だろう。
その資源の専門家が一堂に会したブロック会議での集合知以上の判断は国内では無理。
だから、ブロック会議で一つの値を出せばよい。
水産政策審議会の議事録を見れば、大した議論などできないことは明らかである。
現場のことも、資源のことも、ブロック会議の出席者の方が100倍わかっている。
最終決定権を、現場の事情など何も知らない、某審議会に持っていく意味など無い。

それほど害はなさそうだとはいえ、今回の変更は良いことだとは思わない。
1) そもそも幅を持っていたABCを複数化する意味がわからない。
2) ABCについては、最もよくわかっているブロック会議が最終決定をすべきである。

北海道はこんな感じだったけど、余所のブロックはどうだったのだろう?
ABC複数化については、今後の経緯を注意深く見守ろうと思う。

北海道ブロック会議に来たよ

[`evernote` not found]

今、釧路です。
北海道のブロック会議に来ています。
朝、ホテルの部屋を出たら、海洋研の伊藤がいてびっくり。
どうやら、白鳳が来ているらしい。
同じホテルで階まで一緒というのは、世の中狭いものだ。

ブロック会議は公開なので、内容をレポートしてみよう。

今回は東シナ海の航海実習により、事前検討会をスキップした。
ブロック会議までに、だいたいの議論は終わっているから、後の祭りという感じがする。

今日の検討事項は、いきなりスケトウダラ北部日本海系群です。
当初の資源評価では、親魚量が禁漁の閾値Bban3万トンを割っていたらしい。
その後、魚探データでチューニングすることになり、
親魚量の推定値が4.2万トンと上方修正され、禁漁勧告はしないですんだらしい。

ただ、魚群探知機の調査によると、05年・06年生まれの未成魚が、それなりにいるようなので、
今後、2~3年は、資源は一時的に回復の見込み。 というような状況だ。

今までは、ABCTargetとABCLimitの2つを提案していたが、
水産庁の決定で、今年から、ABCを複数提案することになった。
沢山出させて、その中で一番高い数字を選ぼうという作戦だろう。 

シナリオ

ABC

目的

30年後の回復率

1.8千トン

親魚量の増大(10年)

99.9%

3.1千トン

親魚量の増大(制御ルール)

26.9%

5.9千トン

親魚量の増大(20年)

79.8%

7.4千トン

親魚量の増大(30年)

46.8%

9.3千トン

親魚量の増大(微増)

8.4%

10.3千トン

親魚量の現状維持

2.5%

12.7千トン

漁獲圧の半減

0%

24.1千トン

漁獲圧の維持

0%

担当者は次のようなシナリオを準備して、1~5をABCとして選択をした。
この資源は、超低水準で、回復が必要な状態だから、親魚量を増大させないと話にならない。
シナリオ5だと実質的に資源は回復しないので、ABCとして適当だとはおもえない。
つっこみを入れようと思っていたら、先に管理課から意見がでた。
「水産庁が定めた中期的管理方針では、資源回復計画に基づき資源の減少委に歯止めをかけることを
目指して管理を行うこととされている。だから、シナリオ6の現状維持もABCにしよう」 という提案があった。

資源回復計画があるから、管理目的を「資源回復」から「現状維持」に下方修正しようというのだ。
さすがの俺もこれにはびっくり。
「現状維持では資源は回復しないが、それで資源回復計画と言えるのか?」とつっこみを入れた。
それに対しては、要領を得た回答は得られなかった。
結局、シナリオ6はABCとして盛り込まれることになった。
資源回復計画なるものを税金を使ってやる以上、
なんとしても資源を回復させるという姿勢を見せるべきだと思う。

ただ、ABCを千トン水増ししたところで、焼け石に水だ。
去年のABC11.0~8.9千トンに対して、漁獲量は18.0千トン。
ABCを無視した過剰なTACが設定され、ABCの倍も実漁獲がある状態で、
ABCの重箱をつついても時間の無駄だろう。
これだけ大勢の人間が、これだけ時間をかけて、資源評価を出して、それが何にも使われない。
なんか、俺はむなしくなってきたよ。
現在の過剰漁獲をどうやって適正水準に近づけていくかを議論すべきだろう。
そのためには権利ベースの漁獲枠配分と、ちゃんとした取り締まりの2つが必要だ。
ABCの精度を上げるより、規制改革をするほうが、よっぽど漁業の役に立つ。

スケトウダラ日本海北部系群は、05年、06年生まれが多いようなので、
ブロック会議全体として、楽観的な雰囲気があったようにおもう。
しかし、安心するのは、実際に資源が回復してからにすべきだろう。
俺は5年以内にBbanを割る可能性もかなりあると踏んでいる。
今回、05年、06年を成熟まで残せるかどうか、この先1~2年が正念場だ。
98年生まれの卓越級群は、「豊漁だ!!豊漁だ!!」と言って、獲りまくり、
蓋を開けてみたら、資源が回復するどころかむしろ減らしていたわけだ。
「まだ獲れる」という状況で漁業を止めるのは、漁業者的には凄く難しいことだと思うが、
同じ失敗を犯さないように、北海道の漁業関係者の学習能力に期待をしたい。

亀和商店の和田社長の話を聞いてきた

[`evernote` not found]

亀和商店というのは、築地の仲卸で、
日本におけるMSC認証製品の販売の草分け的存在だ。
和田社長とは、今回初めてお会いしたのだが、
みなと新聞の連載を読んでくださっているとのこと。
俺のことは前から、亀和水産のことは知っていたのだが、
社長がこんなに若い人だとは思わなかった。

和田社長がMSCの販売に取り組む切っ掛けは、アラスカでの経験らしい。
1959年にアラスカが州となる以前は、乱獲で資源は危機的状況。
このままでは漁業が壊滅するとの危機感から、
独自の水産資源管理をするために、州として独立した。
こういう歴史的経緯が有るだけに、アラスカの資源管理は米国でも独自であり、
たとえば個別漁獲枠もいち早く導入している。

アラスカのサーモンも厳しい規制のもとで操業が行われている。
漁獲量が限られていれば、獲った魚をいかに高く売るかが重要になる。
和田社長が見学をした漁船では、
獲ってすぐ、頭を落として、腹を開いて、毛細血管までしっかり血抜きをし、
2時間以内に船上冷凍しているとのこと。
品質は抜群だが、入れ食いでも1日250本の生産が限度。
完全に、量ではなく質で勝負する漁業だ。
こういう経営スタイルは、資源管理がしっかりしていて初めて可能になる。
社長は、このサーモンに惚れ込んで、日本に輸入することにした。
「こんなに良い魚を扱えないのは魚屋としてみっともない」とのこと。
魚に惚れると、採算度外視になってしまって儲からないと笑うが、
穏やかな外見の内に秘めた、熱い水産魂を感じることができた。
流通、消費者も含めて、漁業全体を変えていくためには、
こういう人と連携をする必要があると確信した。

とりあえず、近いうちに築地に見学に行かねば。

Home > 研究 Archive

Search
Feeds
Meta
Twitter
アクセス
  • オンライン: 2
  • 今日: 208(ユニーク: 99)
  • 昨日: 651
  • トータル: 9519698

from 18 Mar. 2009

Return to page top