世界の漁業 Archive
水産庁のNZレポートを徹底検証する その3
- 2009-03-01 (日)
- ニュージーランド | 水産庁のNZレポート | 資源管理反対派
木島資源管理推進室長
まず、一つ目に、漁獲量を迅速かつ正確に測るためにはたくさんのコストがかかりますよということでございます。これについては、右下の枠を見ていただきたいのですが、仮にまずは水揚げ港に人を張り付けましょうということを考えてた場合に、2種漁港、3種漁港の約600港に人を張り付ける、さらにニュージーランド、オーストラリアがしているような漁船に人を乗せましょうとのことを考えた場合には、今、ミナミマグロでやっているように清水と同じようなことをやった場合には、港の張り付け分が約140億円、それから船に人を乗せるといった場合には、約300億円と合計で少なくとも約440億円もの費用がかかりますよと。
http://www.jfa.maff.go.jp/suisin/yuusiki/dai5kai/giziroku_05.pdf のP11
このように、水産庁サイドはIQを入れると金がかかるぞと脅しているわけだが、
300億円というのは全くのデタラメだ。
少なくともニュージーランドと同じことをやったらこんな金額にはならないですよと。
このときに示していた資料は、
http://www.jfa.maff.go.jp/suisin/yuusiki/dai5kai/siryo_18.pdf のP15だろう。
右下にTAC漁業の漁船数の一覧表がある。
大臣許可漁業の漁船では、小型のイカつり船が3100隻と群を抜いている。
これらの大半は10トン以下の小型船であり、監視員が乗船するスペースは無い。
これらの小型イカ釣り漁船をのぞけば、大臣許可漁船は700隻に過ぎない。
NZと同じ運用をするなら、監視員は全体の10%で70隻となる。
下の水産庁試算の3808隻の部分が70隻に減るので、
全体の額は546000千円(=29702400/3808*70)となる。
NZと同じように監視員を乗船させると300億円かかるというのは、全くの嘘だ。
NZとおなじ運用をするなら、乗船監視員の経費は5億円程度である、
また、この費用はNZでは業界の自己負担である。
ITQをやりたくないから、法外な予算をふっかけたのだろうが、
その前提があまりにもお粗末である。
こんなでたらめが、通るはず無いだろうに・・・
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水産庁のNZレポートを徹底検証する その2
- 2009-02-27 (金)
- VMS | ニュージーランド | 水産庁のNZレポート | 資源管理反対派
水産庁のレポートはことごとくデタラメなんだが、どこがデタラメかを具体的に見てみよう。
漁業省400人のうち約180人が監視員で、大型の漁船には1人ずつ監視員が同乗。
NZに監視員が多いのは確かなんだが、大型漁船には一人ずつ監視員が乗船というのは嘘。現在のNZには70m以上が170隻、10-70mが1070隻存在するので、大型漁船に一人ずつ監視員を常駐するのは、そもそも不可能だ。NZ漁業省に問い合わせたところ、遠洋漁業の大型船の監視員のカバー率は20%程度であり、大型船全体でも10%程度とのこと。 監視員は、必要な漁業に優先的に配置される。過去に違法があった船、投棄の疑いがある船(同じような操業をしている船と比べて、 漁獲組成が大きく異なる船)、海鳥・海獣の混獲のリスクがある漁業が対象になる。問題がありそうな船、将来問題になりそうな漁業に、重点配置をしているのだ。
NZでは、監視員の費用は業界が負担しているのが重要な点だろう。NZでは、「漁業者が、操業を遵守していることを証明する義務を負う」という考え方だ。日本の水産庁は、4000隻の漁船(大半が10トン未満の小型イカつり船)すべてに税金で監視員を配備するとか寝言を言っているが、非常識すぎて頭が痛くなってくる。 監視員は教育・維持に金がかかるから、まずは、コスト対効果の高いVMS(衛星による漁船監視システム)の導入をすべきである。 VMSは機材がUS$1000-US$5800で、ランニングコストも1日US$1-US$5しかからない。まずはVMSを導入し、それでも不十分な場合には、業界自己負担で漁業者負担で監視員を乗船させるというのが、ものの順序だろう。主な漁業国はVMSをすでに導入済みであり、未だに何もしていないのは日本ぐらいじゃないかな。VMSのVの字も出てこないことからも、水産庁の監視員4000人計画の目的は、漁業の監視ではなく、予算のつり上げであることがよくわかる。
現在、指定港以外の水揚げ防止等をはかるため、VMSや監視カメラの船上設置を検討
NZでは、1994年からVMSを導入していますが? すでに28mよりも大型の船には100%VMSが導入されている。小型の船にも搭載可能な安価なVMSの導入が進められており、 近い将来、全ての船に導入することになっている。VMS以外にも、軍の早期警戒管制機(AWACS機)による漁船の監視なども行われている。AWACSのデータを見せてもらったが、漁船の位置が手に取るようにわかるのはびっくり。軍事機密と言うことで、資料は貰えなかったけど、すごいものですよ。 NZでは、VMSの導入も受益者負担が徹底されている。NZ政府が漁業者から金を集めて、VMSのシステムを開発し、 28m以上の船には有無を言わさずにVMSを購入させた。「政府は、俺たちの金で開発したシステムを、高い値段で売りつけるんだ」と、一部の漁業者は腹を立てているようだ。
虚偽報告や投棄が存在
どこの国にでも、虚偽報告や投棄は多かれ少なかれ存在するだろう。NZでも虚偽報告や投棄はゼロではないだろうが、日本と比較にならないぐらい少ない。 NZでは、漁獲物の海上投棄を一切認めていない。たとえ、商業価値がない魚でも網にかかった以上は持ち帰るのがルールである。 漁業が非対象種に与える影響を評価するためである。NZでは、全ての投棄は違法であり、投棄は非常に厳しいペナルティーの対象となる。軽微な違反で$5000(25万円)、普通の違反で500万円、最大で1250万円の罰金、および、魚、漁船、漁獲枠の没収、刑務所行きまである。
NZでは、漁獲枠保持者が漁船を雇って操業をさせる場合も多い。雇われ漁船が違法操業をすると、漁獲枠保持者にも漁獲枠の没収を含むペナルティーがある。漁業会社は、漁船を雇うときには、その漁船がルールを遵守するかどうかを厳しくチェックする。スポンサーの目が光っていれば、雇われ漁船もうかつなことはできない。 組織的に投棄をしていたら、明らかに漁獲組成が他の漁船とは違ってくるはずだ。
投棄の疑いがある船には、監視員が乗船し、操業を確認する。NZ政府は、監視員がいる場合と、いない場合の漁獲組成の差に着目する。いてもいなくても、同じように獲れていれば、投棄はないものと判断される。監視員がいるときには、小さい魚も大量に捕れるのに、監視員がいない場合には大きな魚しか獲れないといった明瞭な差がある場合は、監視員の乗船頻度をふやして、原因を徹底的に調査する。
NZの不法投棄への対策は、世界でもっとも厳しい部類に入る。一方、日本はどうだろうか。投棄自体を禁止していないので、海に捨て放題だ。まともな規制がないので、「不法投棄」はないだろう。そもそも、国として管理責任を放棄しているのだから、「無法地帯に違法は存在しない」のである。自らの無為を棚に上げて、NZ漁業のことを「虚偽報告や投棄が存在」などと、わざわざ指摘する面の皮の厚さは賞賛に値する。
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水産庁のNZレポートを徹底検証する その1
- 2009-02-26 (木)
- ニュージーランド | 水産庁のNZレポート | 資源管理反対派
これがどれだけデタラメかを見ていこう。
ちゃんとデータをつかって、検証的にね。
ITQは小さな政府を実現するための行政改革の一環として導入
これは本当。
NZ政府は財政破綻をしていたから、そうせざるを得なかったのだ。不要な政府組織を縮小させながら、漁業を発展させるという当初の目的はかなりの部分実現できたと言えるだろう。財政赤字、非効率的な水産庁、漁業の衰退という構図を持つ日本にとって、参考になる事例だろう。
基本的に全ての魚種にITQを導入する予定
これも正しい。
ただ、最初からITQの全面導入が決まっていたわけではない。歴史を振り返ると、段階的にITQを拡大していったことがわかる。83年に業界の反発の少ない遠洋漁業から導入し、効果を確認した上で86年に商業漁業に全面導入。96年の漁業法改正以降は、混獲魚種にも範囲を広めている。現在のNZ政府の方針は、基本的に全ての魚種にITQを導入することであるが、それは20年以上の歴史の中でITQの効果が認められた結果なのだ。
導入に当たっては、漁業者の85%以上の合意が必要
これは全くの嘘。
NZの漁業関係者の誰に聞いても「そんなわけ無いだろう!」とあきれられるぐらい非常識。
この1行からも、水産庁のNZレポートが、全く裏をとっていないことがよくわかる。
NZ政府は漁業者の反対を押し切って、ITQを導入した。
また、漁業者の意向にかかわらず、新しい魚種をITQに加えることができる。
来年からはタコが加わることが決まっているのだが、これも政府の決定。
NZで漁業改革を担当したClothersさんから、
ITQ導入当時の状況を詳しく教えてもらったんだけど、大変だったようだ。
ITQの導入当初は、漁業者は、新しい制度に強い拒否反応を示した。
漁業者への説明会では、つるし上げられたり、トマトを投げられたり・・・
また、NZの漁業省の内部にも反対者が多く足並みがそろわなかったらしい。
行革前の漁業省は、ぬるま湯の中で補助金行政をしてきた。
新しいシステムを導入するリスクよりもじり貧を選ぶ役人も少なくなかったという。
漁業者も反対、漁業省も消極的ななかで、行革を進める原動力は国民の声だった。
漁業による海洋環境の破壊が、大きな社会問題になっていた(日本と比べれば、かわいい乱獲だけどね)。
国民の85%が、実効性のある資源管理の導入を求めたのである。
この世論を背景に、与党も、野党も、環境調和型の漁業管理の導入を公約に選挙を戦った。
与党と野党が、ばらまきの金額を競っている日本とは雲泥の差である。
また、政府内部では、財務省が行革を後押しした。
ITQ導入以前の漁業は、補助金を消費するだけのお荷物産業であった。
厳しい国家財政の中で、このようなお荷物を支える余裕はない。
行革によって、漁業を利益の出る産業に変えて、
今までとは逆に税金を納めてもらう必要があったのだ。
国民の声を背景にITQを導入してから、NZの漁業はめざましい発展を遂げた。
導入10年を経ずして、漁獲量は2倍、生産金額は2.5倍に跳ね上がった。
漁業は、お荷物産業から、稼ぎ頭へと変貌したのである。
NZの漁業改革の目的は、十分に達成されたと言えるだろう。
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NZはなぜ自己改革できるのか?
- 2009-02-25 (水)
- ニュージーランド
NZの漁業の歴史は、絶え間ない自己改革の歴史といえるだろう。NZが革新的な漁業システムITQを導入した時には、手本にすべきものがなにもなかった。画期的で、合理的で、機能的な漁業システムを、試行錯誤で構築したニュージーランド人のフロンティア精神には驚かされる。NZの漁業大臣のスピーチを読み返してほしい。「他国が追従できないようなレベルで、世の中の変化に対応し、世界の漁業をリードしよう」という強い意志を読み取ることができる。このフロンティア精神こそが、ニュージーランドの漁業が自己改革していく原動力である。世界の漁業の今後のキーワードは「環境」と「責任」である。NZは、これらの分野で今後も世界をリードし続けるだろう。一方で、古い枠組みを維持するために全力を尽くしている日本漁業は今後も縮小再生産を続けるだろう。すでに再生産は途絶えて、縮小のみかもしれないが・・・
NZ政府が86年に導入したシステムにはいくつかの大きな問題点があった。一つは漁獲枠を重量で与えたこと。もう一つは先住民への配慮のなさである。これらの問題点は、訴訟を通じて、解決へと導かれた。NZの裁判官は、法に照らし合わせた上で、国に不利な判決もどんどんだす。人々の権利を保障し、よりよい社会をつくるために、司法システムが機能している。
ただ、訴訟システムにはいくつかの問題点がある。弁護士等の費用がかかるし、裁判には時間もかかる。スピードが重要な水産業において、致命的な問題である。近年、NZ漁業省は、漁業者との対話を重視して、意志決定の迅速化やトラブル回避に努めている。最近、漁業者と政府の関係は、改善されつつあるようだ。
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ニュージーランド漁業の歴史 その2
1996年 漁業法改正
ITQの導入から10年目の1996年に、Fishries ACT 1996と呼ばれる漁業法の改正があった。詳細はここで確認できる。
http://www.legislation.govt.nz/act/public/1996/0088/latest/DLM394192.html
たったの795ページだから、暇なときにでも目を通して欲しい。
制度運用の細かい部分まで具体的に、年限を区切って計画されている。また、細かい部分に修正を繰り返して、現在に至っていることもわかる。 ここでのポイントは3つある。ACEの導入、Deemed Valueの導入、およびマオリ対応だ。
ACEの導入
ACE(Annual Catch Entitlement)という権利が毎年の漁獲枠から、発生することになった。このACEの取引を自由化することにより、操業の自由度がグッと増した。これまでは、漁獲枠(ITQ)の永続的な譲渡のみを認めていた。漁獲枠の譲渡では、短期的な漁獲変動に十分に対応できない。たとえば、ある魚種の漁場が例年とは違うところに形成された場合、魚を捕りに行けるけど漁獲枠が無い漁業者と、漁獲枠があるけれど獲りに行けない漁業者が出てきてしまう。来年以降もその漁場にくる保障がないときに、大枚をはたいて「永続的な漁獲枠(ITQ)」を購入するのは難しい。こういう状況に対応するために、「その年の漁獲の権利(ACE)」の売買を認めたのだ。 ACEが導入される前のITQ制度は、賃貸契約が禁止されている不動産市場ような状態であった。ACEの導入によって、漁獲枠を買う資本力がない漁業者も柔軟に操業をできるようになった。その結果、漁獲枠を持たずにACEで操業を行う「ACE漁業者」が誕生した。
ITQの取引による長期的な経済効率の改善と、ACEの導入による短期的な資源・漁場の変動に対する柔軟性が、現在のITQの基本形である。たとえば、燃油が高騰したときに、燃費の悪い船のオーナーは、ACEを燃費が良い船に売ることで、利益を得ることができる。燃費が良い船のオーナーは、ACEを買い集めることで、まとめ取りで利益を高めることができる。ACE取引は、燃費がわるい漁業者にも、燃費が良い漁業者にも利益がある。現在、NZではACE取引は非常に活発である。売る側と買う側の両者に利益が無いとACE取り引きは成立しないことをかんがえると、ACEの導入は、持てるものにも、持たざるものにもメリットがあったといえるだろう。
Deemed Value
ITQの対象資源は順調に増加し、現在は94魚種、384資源がITQで管理している。ほとんど混獲しか無いような種も多く含まれている。NZでは海上投棄はすべて禁止されているので、漁獲物はすべて港に持ち帰らなければならない。漁獲枠を持っていない魚種が網にかかった場合、漁業者はACEをどこかから買ってくることになる。しかし、常にACEが購入可能とは限らない。漁期の最後までにACEを確保できなかった漁業者は、Deemed Value(みなし価格)を政府に払うことになる。
漁獲枠の超過を抑止するには、Deemed Valueは浜値よりも高くなければならない。また、Deemed Valueが高すぎると、今度は不法投棄の問題を引き起こしてしまう。 Deemed Valueの決定は、微妙なさじ加減の上に成り立っている。Deemed Valueが導入された当初は、いくつかの魚種で、低すぎる値が設定されていた。一部の不心得な漁業者が、漁獲枠を超えてこれらの魚種を水揚げした。NZ政府は、翌年にはこれらの魚種のDeemed Valueを引き上げるとともに、Deemed Valueの制度の改変を行った。対象魚種の総漁獲量がTACCを上回ると、Deemed Valueが段階的に値上げするようにした。これによって、浜値に不確実性があったとしても、特定の魚種への過剰漁獲を抑制できるようになった。
Deemed Valueの具体的な運用は次の通りである。漁獲枠を持っていない資源を水揚げすると、その時点でDeemed Valueの基準額を前金として払う。漁期の終わりまでにACEを入手すると、前金は返金される。漁期の終わりまでにACEを入手できなかった場合は、Deemed Valueを支払うことになる。もし、該当魚種への漁獲量がTACCを下回っていれば、前金がそのまま入金される。もし、漁獲量がTACCを上回っていた場合は、Deemed Valueは基準額よりも高くなるので、その分の差額を支払うことになる。Deemed Valueの運用はかなり複雑で、漁業省の担当者から、半日レクチャーを受けて、ようやく全体を理解できた。
Deemed Valueの実際の金額は、漁期が終わらないと確定しない。これは、漁業経営にとって、不確実性となる。特に漁獲枠を持たずにACEを購入して漁業を行っている「ACE漁業者」にとっては、経営上のリスクとなる。また、Deemed ValueがACEの相場に大きな影響を与える。Deemed Valueが下がれば、それだけACEの相場も下がる。ITQ保持者は高いDeemed Valueを希望し、ACE漁業者は低いDeemed Valueを期待する。NZのQMSが機能するためには、Deemed Valueの価格設定が妥当でなくてはならない。様々な圧力がかかる中で、難しい舵取りを要求される。漁業省の担当者から、Deemed Valueの決定方法の分厚いマニュアルももらったのだが、本当にいろんなことを考えているよ。Deemed Valueの設定ミスで、管理に大穴があいてしまったのは、初年度のみなので、まずまずの運用といえるだろう。
Cost Recoveryが漁業省の予算となるのに対し、Deemed Valueは、国に回させる。そのため、漁業者への直接的な還元にならない。漁業省としては、業界に還元できるような方向性を模索しているようである。
マオリ対応
マオリの権利を保障するために、新規に設定される漁獲枠の20%をマオリに優先配分をすることにした。マオリは大規模な漁業を行っていないので、評議会がマオリ所有の漁獲枠を企業に貸し出して利益をえている。
これまで漁獲枠保持者から、資源利用料(Resource Rent)を徴収していたのだが、資源がマオリのものということであれば、利用料はマオリに納めるのが筋である。そこで、NZ政府は、資源利用料を廃止し、代わりに、資源回復費用(Cost Recovery)を徴収することにした。水産資源の管理責任を持つ国に対して、資源管理の費用を負担するという考え方である。まあ、要するに看板を変えただけで、実質的な変化はありません。
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ニュージーランド漁業の歴史 その1
NZは70年代から80年代にかけて、国家財政が破綻し、小さな政府を目指した。財政破綻以前は、漁業振興のため漁船建造の補助金などが整備されていたが、全て廃止された。それまでお荷物であった水産業の立て直しの切り札としてITQ制度を世界に先駆けて導入した。革新的な制度を導入したNZ漁業の歴史は、試行錯誤の連続であった。彼らが、どのような困難に直面し、それをどのように打開してきたかを紹介しよう。
ニュージーランド漁業制度年表
1983 沖合漁業に割当制度が導入される
1986 商業漁業に全面的にITQ制度を導入
1990 割当が固定従量制から変動制に変更
1992 ワイタンギ条約に基づくマオリへの補償が確定
1996 漁業法の改正:割当配分方式を変更、調査費用の徴収、年間漁獲権(ACE)導入の決定
最初の割当制度(1983年)
1983年に沖合漁業の7魚種に割当制度を導入した。当時の沖合漁業は、外国船のみであり、政治的に導入がしやすかった。EEZから外国船を排除して、国内の漁業会社に漁獲枠を販売した。漁獲枠を取得できるのは、漁船と加工場を保有している企業に限られた。
ITQを全面的に導入(1986年)
沖合漁業でノウハウを蓄積した後、1986年に沿岸も含む国内漁業全般にITQ制度を導入した。このときは既存の漁業者から、猛反発があった。しかし、環境にうるさい国民の声を背景に、与党も野党も、ITQの導入を公約に選挙を戦った。最初は主要29種に対して、漁獲重量を固定した漁獲枠を設定した。トン数固定漁獲枠だと、配分した漁獲枠の上限がTACとなる。資源が減少して、漁獲枠を減らす必要が生じた場合には、政府が漁業者から漁獲枠を買い上げることで調整をすることにした。
相次ぐ訴訟で、漁獲枠削減が困難に
ITQの導入後、漁業が儲かる産業になると、漁獲枠の価格が高騰した。漁獲枠が金の卵であることに気がついた漁業者は、政府に漁獲枠を売らなくなった。漁獲枠の買い上げは難航し、TACの削減ができなくなった。そこで、政府は、漁獲枠の一律削減を試みたが、漁業者は猛反発をした。「10tの権利を国から買ったのに、それを勝手に8tにするのは怪しからん」ということで訴訟をして、国が敗北した。
割当を変動制に切り替え(1990年)
漁獲量一定では資源管理が成り立たないので、NZ政府は苦労して、1990年に漁獲枠を重量固定制から、割合固定制(重量変動制)へと変更した。漁獲枠は、商業漁業漁獲枠(TACC)に対する割合で設定される。10%の漁獲枠を持っている人間は、TACCが変動しても常にその10%の権利を有することになる。この制度改革によって、NZ政府は訴訟のリスクを負わずに、TACCを自由に変えられるようになった。
先住民(マオリ)との法廷闘争
NZ政府が抱えたもう一つの訴訟が、先住民である。マオリの伝統漁業は、漁獲枠の取得要件を満たしていなかったので、マオリには漁獲枠が配分されなかった。新しい法律を知らないマオリは今まで通り、魚を捕りに行き、逮捕された。マオリは自分たちの権利が侵害されたと感じたマオリは、NZ政府を訴えた。
ニュージーランドでは、先住民と移住者の間にワイタンギ条約という取り決めがある。これは1840年に、イギリス王冠と先住民の間で交わされたもので、先住民の土地に関する主権を認める内容になっている。この内容に照らし合わせれば、マオリの漁獲を白人が規制する権利は無いことになる。この裁判は、イギリスの連邦最高裁判所まで行き、「王冠の契約は絶対である」ということで、マオリが勝ったのである。これにより、NZ政府は莫大な賠償金をマオリに支払うことになった。結果として、漁獲枠を売却して得た政府の利益は吹っ飛んでしまった。マオリへの敗訴はNZ政府にとって大きな痛手となった。その後も対応に苦慮することになる。
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なぜ、ノルウェー漁業は、自己改革できるのか?
- 2009-02-09 (月)
- ノルウェー漁業
自己改革と言っても、ほとんどの日本人にはピンとこないだろう。
そこで、ノルウェーがどのように自己改革をしてきたかを、構造的に解説しよう。
ノルウェーの漁業管理の意志決定
ノルウェーでは、年に1回、漁業省主催の漁業者代表ミーティングが開かれる。
この会議で、来年の漁業管理の意志決定がなされるのである。
代表ミーティングには、漁業関係者(代表)、科学者、環境NGO、行政などが参加をするが、
純粋に漁業者の話し合いの場であり、行政と環境NGOは傍聴、科学者は助言をするのみである。
この漁業者ミーティングが、ノルウェーの漁業政策を決定する。
たとえば、漁獲枠の配分も、漁業者の話し合いで決まるのである。
ノルウェーはほとんど全ての水産資源をEUと共有しているので、
国としての漁獲枠はEUとの交渉により、外向的に決定する。
そこで得た漁獲枠を、国内でどう配分するかは、このミーティングで決まる。
たとえば、コッドの場合は、次のように細かく配分されている。
2007年のノルウェー全体の漁獲枠は199500トン。このうち30%がトロール漁船に割り当てられた。
トロール漁船は船毎に漁獲枠が比率で配分されているので、56903トンを比例配分していく。
1%の権利を持っている漁船には、569トン配分される。
70%が伝統的な漁業に配分されるのだが、北の小規模漁業者に優先的に漁獲枠が配分されている。
それらの配分は、漁業者の話し合いで決まっており、行政や研究者は口出しをしない。
ここで決定された配分を遵守するように、法的な手続きをおこない、
監視・取り締まりをするのが行政の役目である。
ノルウェーでは、日本よりもきめ細かな漁具・漁法の規制が行われている。
この漁具・漁法の規制についても、決定権は漁業者にある。
漁業者が予め提案した素案の管理効果を科学者が評価し、レポートを作成する。
そのレポートを参考にして、漁業者が話し合い、どういう規制をするかを決定する。
操業規制に関しても、政府は基本的に介入しない。
漁業者が決めたルールが守られているかを監視し、
違反を取り締まるのが国の役割だ。
読者の多くは、「漁業者の話し合いで、本当に漁獲枠の配分が決定できるのか?」と疑問を持つことだろう。
俺もそう思ったので、決定に至るまでのプロセスを根掘り葉掘り、質問してみた。
今でこそスムーズに配分できるようになったが、70年代に資源管理を開始した当初は、
大もめにもめたそうだ。
いくつかの漁業では、漁獲枠が決まらなかった。しかし、その後のノルウェー政府の対応が凄い。
何もせずに、放置しておいたというのだ。「漁業者は、自分たちで決定することが出来る。2年待ったら、
お互いに納得の上で、漁獲枠の配分をすることが出来た」ということだ。
ノルウェー政府は、漁業者の自主性を信じて待ったのである。
漁獲枠の決定が少し遅れただけで、自分の出世に響くからと言って、
安易に漁獲枠を増やして話をまとめようとするどこかの国の役人とは大違いだ。
ノルウェーの漁業政策の決定プロセス
この意志決定過程を理解すれば、ノルウェーが自己改革できた理由は自明だろう。
漁業者自らがルールを決定するから、理不尽なルールや無駄なルールは改善される。
科学者が助言を与えることで、政策に合理性をもたせている。
そして、行政が漁業者の決定を尊重し、その取り締まりをしっかりするから、
漁業者は納得の上、安心して、規制を守ることが出来るのだ。
これらのプロセス全てが、環境NGOに公開されている。
彼らの目を通して、一般市民は漁業が国益に適うやり方で行われていることを確認できる。
漁業者の決定に問題があれば、すぐに外からプレッシャーがかかる。
ノルウェーの漁業組合の人間によると、「外部の目は業界にとってはプレッシャーだが、
漁業の健全化に不可欠」とのことである。
ノルウェーの漁業制度は実に合理的なのだが、
はじめから、洗練された制度が導入されたわけではなく、
30年間、議論と試行錯誤を通じて、現在に至ったのである。
結論
ノルウェー漁業は、民主化によって、自己改革・効率化を成し遂げている。
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改革のゴールについて
漁業先進国の政策は、明確な戦略に基づいている。
EEZ時代の漁業戦略を単純化すると次の2点である。
1)資源の持続性を最優先し、生産力を維持する
2)個別割当によって、早どり競争を抑制して、単価を上げる
ノルウェーもニュージーランドも上の2点を高いレベルで実現しているが、
実装のディテールをみると、方法論には大きな差があることがわかる。
他国の制度は、その国の漁業・政治価値観と不可分に結びついている。
ノルウェーのやり方をニュージーランドにもっていってもうまくいかないだろうし、
逆もまたしかりである。
日本にも、日本漁業に適したスタイルで、上の2点を実装する政策設計が必要だ。
EEZ時代に入って、30年以上、何もしてこなかった日本の漁業関係者が、
零から制作設計をできるとは思えない。
他国の政策を参考にする必要があるだろう。
新自由主義のニュージーランドよりも、
既得権重視の社会的価値観をもつノルウェーの方が、まだ日本に近い。
ノルウェーの漁業政策をたたき台に、日本独自の方法論を模索すべきである。
俺の頭の中には、ノルウェーの資源管理を日本向けにカスタマイズしたものの青写真がある。
そう遠くない将来に、この青写真と近い制度が日本にも導入されると思う。
ただ、それは改革のゴールではない。むしろスタート地点である。
EEZ時代に適応した漁業国のシステムを輸入することで、日本漁業は当面延命できる。
しかし、それでは一時しのぎに過ぎない。
世界の漁業を取り巻く状況は日進月歩である。
ノルウェーやニュージーランドは、今日も漁業制度についての議論を重ねている。
来年はよりよいシステムに改善するだろう。
現在のノルウェーやニュージーランドのスナップショットに追いついたところで、
彼らは常に先に進んでいるのである。
日本漁業が再び沈没するのは時間の問題だろう。
日本の漁業改革の最終目的は、日本の漁業を自己改革できる組織にすることだ。
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NZのITQは資源管理として機能していない? その3
2) Do you have any alternative idea other than ITQ?
There are some specific elements that I think need to be in any system. These include:a) A public process for considering the areas that should remain unfished and for avoidance of and protection of these and vulnerable marine ecosystems as per the UN General Assembly resolutions on the impacts of damaging fishing techniques;
b) A presumption of closed to fishing until open after due consideration of ecosystem values and that the opening to fishing should consider fishing impacts and methods, areas, vulnerabilities and sustainability considerations;
c) Management within an ecosystem based framework;
d) Strong institutions and processes for environmental and stock assessment, with commissioning and conduct of research open to public discussion and review and independent of the fishing industry;
e) Minimum stock rules that do not allow stocks to fall below agreed benchmarks. With our stocks they are often less than 30% of Bmsy, often much less, and it is a battle to get fisheries closed. Some of our Orange roughy stocks have been allowed to decline to 7% and 3% before there has been closure.
f) Provisions for the protection of bycatch and incidental mortality.
g) Public good science available to interested community groups and support for their involvement in decision making.
h) Some form of clawback or retirement of quota if any quota management system is instituted.There are many other provisions.
質問2) ITQ以外にどのような管理方法がありますか?
ITQにかぎらず、どのようなシステムにでも次の要素が必要でしょう。
a) 漁業の生態系破壊に関する国連総会決議に則り、大衆参加の下で、傷つきやすい海洋生態系を保全するために、漁業を禁止にする保護区を検討すべきです。
b) 漁業を当面中止して、生態系の価値について熟慮をする。漁獲の影響、方法、漁区、(生態系の)傷つきやすさ、持続性について十分に考慮した上で、漁業を再開する。
c) 生態系ベースの枠組みで管理を行う
d) 環境および資源評価を行う強力な組織、プロセスが必要。漁業から独立した議論・レビューを促すために、大衆への公開を前提に、調査を遂行する。
e) (それ以下だと禁漁になる)最低資源量は、MSY水準の30%と決まっているが、この水準は多くの魚種にとって低すぎる上に、漁業を閉鎖するための交渉に時間がかかります。オレンジラフィーの資源では、漁業閉鎖の前に7%や3%に減少したものもあります。
f) 混獲と水揚げされない漁獲死亡(ゴーストフィッシングとか)に対する規制
g) 科学的な知見を関心をもつコミュニティーグループに公開し、彼らが意志決定に加わることを促進する
h) 漁獲枠による資源管理を行う場合、何らかの形で漁獲枠を回収できるようにするか、漁獲枠利用権に有効期限をもうけておくべきです。これ以外にも多くの規定が必要でしょう。
NZは、エコ系の人間が大変な力を持っている。Cathさんは、その典型だろう。
彼らが要求するのは、漁業の影響を受けない大規模保護区と、
生態系に対する十分な考慮ができるまで、漁業を一時中断することである。
こういった価値観にたてば、NZのQMSなど不十分にもほどがあるとなるわけだ。
俺的には、既存の漁業を続けながら、生態系への考慮を高めていく方が良いと思う。
これは価値観の違いであり、どちらがより長期的な利益にかなうかをみていくべきだろう。
日本がすでにCathさんのaからhの提言を実行しているなら、Cathさんの言葉を引用し、
今更NZの資源管理から学ぶことなどないといってもよいだろう。
しかし、日本には生態系への配慮はおろか、まともな資源管理制度がないのが実情だ。
NZのQMSでも不満のCathさんに、日本のTAC制度を紹介したら、卒倒しかねない。
水産庁には、Cathさんの言葉を引用し「NZの資源管理は機能していない」と主張する資格はない。
また、Cathさんは、QMSをやめて漁業者任せにすればよいと言う意見の持ち主ではない。
寿命が長く、低水準な資源には、現状よりも厳しい漁獲枠の削減が必要だと考えている。
また、本来は国民の財産である水産物の利用権を漁業者に永続的に与えるのではなく、
短期的なリースによって、レンタル費用を回収し、国民に還元すべきという意見のようだ。
(この件に関してはNZ全体で議論が続いている)
俺個人としては、Cathさんの意見には賛成しかねる部分も多い。
しかし、彼のような人物は必要だ。
Cathさんのような勢力が、業界と綱引きをすることで、NZの漁業はよりよい方向に向かうだろう。
出来レースのぐだぐだ検討会で、権力者が予め決めたコースを進むより、よほど良い。
NZ漁業と日本漁業の根本的な違いはここだろう。
Cathさんの主張については、次の文献をよむとよくわかるだろう。
Wallace, Cath and Barry Weeber. (2005) The devil and the deep sea – economics, institutions and incentives: the theory and the New Zealand quota management experience in the deep sea. Shotton, Ross ed (2005) Deep Sea 2003 : Conference on the Governance and Management of Deep-sea Fisheries, Part 1: Conference Reports, Queenstown, New Zealand, 1-5 December 2003. FAO Fisheries Proceedings. No 3/1. Rome, FOA.2005. 718p. ISBN 92-5-105402-9, 511-543
http://www.fao.org/docrep/009/a0210e/a0210e0s.htm
NZの資源管理のことを知らない人間を集めて、
NZの資源管理の悪い点だけを意図的に集めた資料をくばり、
「だから、ITQをやめましょう」という結論を導く。
こんな茶番を税金を使ってやっているのだから、あきれてしまう。
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NZのITQは資源管理として機能していない? その2
- 2008-12-17 (水)
- ニュージーランド | 水産庁のNZレポート
1b) and give fishermen the right to catch as many fish as they want?
No, that would be a disaster. But our system where too often the catch limits simply follow the decline of fish stocks, rather than controlling it, is just not adequate. Further, our system gives no incentive for fishers to find less damaging ways of fishing.
From an economic point of view, the problem remains for long lived, low productivity species that the rate of growth of the biomass and its value continues to be less than the interest rate or available return from mining the resource and investing the proceeds in other industries. This is a discount rate v net rate of increase in the capital value of the resource problem.
A problem with the NZ system is that the industry now has so much clout, so many unrecovered resource rents, that they bully officials, use money and other techniques to pressure politicians ( and possibly others) and so the setting of catch limits is influenced heavily their way.
1b) 漁業者に自由に魚を捕る権利を与えるべきでしょうか?
絶対に反対です。破滅が待っているでしょう。しかし、NZの漁獲枠は、資源の減少に追従して減少する場合が多く、資源をコントロールしているとはいえず、現状では不十分です。さらに、NZの資源管理システムは、漁業者が環境への負荷の少ない漁法を開発する動機付けがありません。
経済的な観点から言うと、寿命が長く、生産力が低い種、すなわち、バイオマスの増加率が割引率よりも低い種では問題があります。魚を獲れるだけ獲って、その利益を他の産業に投資した方が、経済的になるでしょう。これは、割引率と資源の固定資本の成長率の問題です。
業界の発言力が資源使用料が大きくなったため、金やその他の方法で政治家(おそらくそれ以外も)に圧力を与えています。業界の意向によって漁獲枠が大きく影響されるというのがNZの資源管理システムの問題です。
NZはサブプライムまで経済成長率が7%程度あったので、割引率を考慮する必要はあるでしょうね。オレンジラフィーのような深海性の種では特に問題だと思われます。
“unrecovered resource rents”の訳はすこし迷いました。NZでは資源利用代金(resource rent)のことをCost Recovery(資源回復コスト)という名目で徴収している。Cathさんは、資源が回復していないことから、unrecovered resource rents (全然回復しない利用料)と揶揄したものと考えました。
日本語訳はオマケです。丁寧に訳している暇などないので、あしからず。
英語がわかる人は原文を読んで下さい。
訳について問題があればコメント欄で指摘してください。
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