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水産庁のNZレポートを徹底検証する その7

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http://www.jfa.maff.go.jp/suisin/yuusiki/dai5kai/siryo_18.pdfのP8

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なんか、まともに読めないんですけど・・・

○TACの推定値は毎年変わるがTACを変更しようとすると苦情や訴訟が提起されるため、基本的にTACが変更されることは少ない

これはITQ導入当初(86-89年)の話だね。ここにも書いたように、NZは最初は絶対量で漁獲枠を配分していた。TACを減らすときは、漁獲枠を漁業者から買い取るつもりだったんだけど、漁業が儲かることがわかった漁業者は政府に漁獲枠を売らなくなってしまった。困ったNZ政府は強引に漁獲枠を下げようとして訴訟になって負けたのだ。1990年にNZ政府は法改正を行い、漁獲枠をTACCに対する比率で設定することにした。90年以降は、政府の裁量で自由にTACCを変化させるようになった。で、実際に必要な場合には漁獲枠をちゃんと削減している。今年もHOKIやOrange RoughlhyのTACCが削減したが、NZ政府関係者に確認したところ、訴訟は起きていないという話だ。

訴訟によって、漁獲枠が変えられなかったのは過去の話であり、この問題はすでに解決済みなのだ。

○ITQは、経済政策としては成功したが、資源管理としては機能していない。

NZは混獲種も含めてITQを導入しているので、資源評価ができていない(していない)種も多い。情報が少ない非漁業対象種にも予防原則から、漁獲枠を設定しているのである。漁業対象種以外に漁獲枠がないほとんどの国に比べれば、非常に進歩的だ。資源評価ができている種については、85%がMSY水準以上という評価が得られている。ほとんどの資源は持続的に有効利用できる水準に維持されているのである。NZは、もっとも厳格な資源管理としている国の一つです。一方、日本は何もしていないに等しいレベル。NZの資源管理も100%ではないが、少なくとも日本とは比較にならないぐらいちゃんとしている。

NZは環境保護団体が強いから、世界最高水準の保護をしていても、国内では漁業省は厳しい非難にさらされている。こういう外圧があるから、高いスタンダードを維持できるという側面もあるだろう。日本のNGOも頑張ってほしいものだ。

○漁獲量が割当量を超過した場合に賦課される罰金は、浜値等よりも低くなることがあり、結果として過剰漁獲を誘発。

これも解決済みの問題。漁獲量が割当量を超過した場合にはDeemed Valueという罰金を払うことになる。いくつかの魚種でDeemed Valueが浜値よりも安く設定されており、モラルの低い漁業者が漁獲枠を無視して水揚げをして利益を上げた。ただ、これはDeemde Valueが導入された初年度のみであり、翌年にはこの穴はふさがれた。NZ政府は、Deemed Valueの設定には細心の注意を払っており、現在もDeemed Valueが乱獲を誘発するようなレベルに設定されている魚種はない。

解決済みの問題をあたかも現在進行中のように見せかけている。情報が古いのか、故意の印象操作なのかは不明だが、もうちょっとまともな資料を使ってほしいと思う。また、このレベルの資料にはツッコミを入れられるような有識者でなければ、集めて議論をさせる意味がないだろう。

我々、日本人は、NZの漁業関係者が、これらの問題を解決していったプロセスに着目し、そこから自己改革の重要性を学ぶべきだろう。

水産庁のNZレポートを徹底検証する その6

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漁村への影響 漁業のみに依存した村は少なく、漁村への影響は考慮せず

漁業に依存した村は存在し、そのいくつかは衰退している。 ウェリントンの北部の漁村は消滅したとか、 そういう話はちゃんと調べればいくつも出てくる。 これは日本の沿岸漁業にとって重要な問題なので、 きちんと論じておく必要があるだろう。 まず、バックグラウンドとして、ITQを導入した当時のNZの状況をおさえておこう。

戦後のニュージーランドは、イギリスを主な貿易相手国とする農産物輸出国として発展し、世界に先駆け高福祉国家となる。しかし、1970年代にイギリスがECの一員としてヨーロッパ市場と結びつきが強まり、ニュージーランドは伝統的農産物市場を失い経済状況は悪化した。さらに、オイルショックが追い打ちをかけた。国民党政権は農業補助政策を維持する一方、鉱工業開発政策を開始するなど財政政策を行うもいずれも失敗し、財政状態はさらに悪化した。 wikipedia

政府による統制経済・補助金行政によって、国の財政が悪化し、80年代には首が回らなくなった。 その結果、国として、補助金行政からの方向転換を余儀なくされたのである。

NZの沿岸漁業は、そもそも生産性が低く、補助金に依存していた。 国が財政破綻した時点で、経済的に成り立たない漁村の運命は決まったのである。 これらの漁村の衰退は、ITQの導入よりむしろ補助金行政の終焉に起因する。

NZでは、ITQの導入に際して、漁獲枠を実績配分した。 今後はオークションに切り替えるようだが、今まで基本的に過去数年の実績ベースで配分してきた。NZの多くの資源を回復させて、それに伴い商業漁獲枠(TACC)が増加した。 NZの漁獲枠は、TACCに対する比率で設定されているので、 TACCの増加に応じて、個々の漁業者の漁獲枠は増加をしたはずだ。 ITQによって、小規模漁業者の権利が剥奪されたという考えは誤りである。 小規模漁業者にも、そこで漁業を続ける権利もあったし、漁獲枠も与えられていた。 にもかかわらず、いくつかの漁村は消滅したのである。 ITQによって小さな漁村がつぶれたのではなく、漁業者が移動をしたのである。いくらITQでもあまりに非経済な漁村を救うことは出来ないのだ。 NZでは国内に魚の需要はあまりない。 国際市場で価値を上げることが、資源の有効利用につながるのである。 交通の便が悪い小規模漁村に水揚げしても、魚に経済価値はつかない。 限られた自然の生産力を、経済的に有効利用するには、 むしろ、空港や加工場へのアクセスが良い場所に水揚げすべきである。 たとえば、サンフォード社の魚市場は、オークランド中央部から車で10分ほどの場所にあり、 空港へのアクセスも良い。この魚市場は、小規模漁業者からも魚を買い取っている。 こういう場所に水揚げすれば、安い国内価格ではなく、適正な国際価格で買い取ってもらえる。 労働力の移動が起こるのは当然だろう。 遠隔地で水揚げされた魚は、移動のコストがかかるので、必然的に地産地消になる。 人が生きていくには、魚以外のものも必要だ。 漁業しか産業がないような場所で、地産地消しかできない漁村は、 輸入だけをする国のようなもので、経済的に成り立たない。 遠隔地の漁村で地産地消というのは、構造的に破綻しているのだ。

例外は、観光地など、地元での水産物消費で外貨が稼げる場合のみだろう。 遠隔地地産地消漁業は経済的に成り立たず、維持するには、公的資金が必要になる。 その価値はどこにあるのだろうか? 地産地消の漁村を維持したところで、外部の人間には何のリターンもない。 むろん、国益上重要な漁村も存在する。離島の漁村は、国防上、実に重要である。 これらの漁村を維持するための離島政策をNZ政府はきちんと実施している。 NZを代表する離島としては、チャタム島がある。 この島は、アワビの名産地で、毎年、シーズンになると大勢の漁業者が飛行機に乗ってやってくる。 この島の漁獲枠は、公的機関が運営していて、漁業の収益は地方自治体に入る。 漁業からの税収で、学校や病院を建てることができたそうである。 離島の魚の利益が、その地域に入る仕組みをつくることで、地域経済を維持しているのだ。 地域コミュニティーを維持する手段として、漁獲枠を地域に与えるのは有効であろう。 では、日本の離島はどうかというと、まるで駄目。 小松さんがいろいろと計算していたのだけど、日本のEEZの8割は離島の存在による。 しかし、離島に水揚げされる水産物はごくわずかに過ぎない。 離島によって得たEEZの漁獲のほとんどは本州の港に水揚げされ、離島の経済に全く寄与しない。 俺には、今の日本の漁業システムが、遠隔地の漁村の維持に適切だとは思わない。 声が大きな地域に、場当たり的にあめ玉を配っているだけじゃないか。 「漁村の存在」を理由に、資源管理に反対する人間は多いのだが、 肝心な「漁村をどのように維持するか」という戦略は皆無であり、 本気で漁村のことを考えているとは思えない。 NZの経験は、実に示唆に富むものである。 まず、漁業の経済性を向上させ、持続的に利益が出せるようにする。 その上で、国益上重要な地域を特定し、その地域を漁業で維持できるような仕組みを導入する。 実に、合理的ではないか。 米国もITQの導入を進めているが、管理システムのなかで「地域への配分」というのが、 かなりのウェイトをしめるものになりそうだ。後だしジャンケンだけに、米国はよく研究している。

水産庁のNZレポートを徹底検証する その5

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漁船の減少

ITQの導入以降、NZの漁船数は4割減少した。
減少の大半は10m未満の小型船である。
一方、40m以上の中型船・大型船の数は倍増していいるので、漁業者の減少は1割であった。
漁船の総トン数は、むしろ増えているかもしれない。

日本の漁船数は3割減少である。
特に大型の漁船ほど、減少率が大きいことがわかる。

NZ
 

<10m
10~40m
40-70m
70m>
total
1988 2137 1060 123 88 3408
2001 940 880 190 166 2176
日本
 

<5t
5-200t
200-500t
500t>
total
1988 131948 28822 1378 57 162205
2001 94976 25037 807 12 120832

NZの漁船数の減少は、漁業の衰退ではなく、大型化・効率化という産業構造の変化である。
ITQ導入当時は、沿岸資源が乱獲により疲弊していたので、
小型漁船の減少はITQが理由とはいえないだろう。
何もしなければ小型船はもっと減っていたはずだ。

一方、日本の漁船は全てのサイズクラスで減少しているが、
特に、大型船ほど減少率が激しい。
日本の漁船の減少は、産業の衰退、弱体化の表れである。
また、日本の小型漁船の減少率が低いのは、
年金生活の60歳以上の人間が漁業にとどまっているからである。
企業だったらとっくに倒産しているような状態である。

漁民であるか否かにかかわらず、経済活動の一環として割当てに対する投資が行われており、割当ての集中が継続

割り当ての集中があるのは事実。また、外部からの投資もある。

トップ10企業による漁獲枠の保持率
 1987:   67%
 1999:   82%

そもそも、ニュージーランドは、政策的にこの方向を目指していたのだ。
ニュージーランドをはじめとする多くの漁業国は、大企業かを国策として進めている。
世界の水産市場で勝負するためには、効率的な経営戦略が要求されるからだ。
大企業化のスケールメリットと、漁獲枠取引の自由化による外部資金調達によって、
国際競争力を高めようという戦略なのだ。

NZの割り当ての集中や、外部からの投資は、制度設計によるものである。
日本はこれらを望まないのであれば、そうならないITQの制度設計をすればよい。
漁獲枠保有の上限を下げるだとか、地域(漁協)に譲渡不可能な枠を一定量を配分しするとか、
いくらでもやり方はあるはずだ。

水産庁のNZレポートを徹底検証する その4

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漁業者数、漁船数ともに減少

水産庁&御用学者は、「ITQをやると漁業者が激減する」と脅しをかけている。
でも、ITQで実際にどの程度漁業者が減ったという具体的なデータは示さない。
「漁業者の数はかなり減少したということでございます」とあたかも資源管理によって漁業者が減ったかのように説明しているが、
実際にITQの導入でNZの漁業者がどれぐらい減ったのかを見てみよう。

下の図は、NZがITQを導入した1986年から2000までの漁業者数を比較すると、
日本が4割減少でNZは1割減少。ITQを導入していない日本の方が明らかに減っているんですが・・・
Image0903012.png

もう一つ、おもしろいデータを示しておこう。
漁業に携わっているのは漁業者だけではない。
加工もまた、漁業による雇用である。
NZの漁業者と加工業者の合計はこんな感じ。
加工も含めれば、NZ漁業の雇用は増えているのだ。

Image0903011.png

人間の漁獲能力が自然の生産力を遙かに超えている現状では、
魚を捕る人間はそれほど必要ではない。
過剰な漁業者は、資源を持続的に利用していく際のリスクでしかないのだ。
漁業を成長させる鍵は、自然の生産力をいかに高く売るかである。
上の図からわかるように、NZの漁業は全体の雇用を増やすと同時に、
過剰な漁獲分野から、必要な加工分野へと労働者が移動することで、
「多く獲る漁業」から、「高く売る漁業」へと、産業構造が変化した。
資源管理は、単に魚を守るというレベルの話ではない。
ITQは漁業者のインセンティブ(動機付け)を変え、
持続的な産業構造への自己改変を可能にするのだ。

乱獲を放置している日本では、漁業生産は下り坂だから、
加工・流通も、漁業者と同じかそれ以上に減少している。
何もしなければ、10年後には流通業者は半分以下になりそうな勢いである。

日本の漁業者は60歳以上が大半で、50代が「若手」という浜もある。
沖合い漁船の乗組員は、インドネシア研修生に置き換わっている。
沿岸も沖合も、新規加入が途絶えて、縮小再生産にすらなっていないのである。
ITQを入れようが何をしようが今後も確実に漁業者は減る。
このまま何もしなければ、あっという間に半分以下になるだろう。

資源管理をしなければ、漁業は産業として成り立たず、雇用が減少する。
漁業者を減らすためにもっとも有効な手段は、資源管理をしないことだ。
逆に、漁業者の減少を食い止めるために必要なことは、
適切な資源管理による漁業生産額の安定である。
そのためにITQが有効な手段であると言うことはNZの事例からも明らかである。

「漁業者の数はかなり減少したということでございます」などと印象操作をせずに、
日本漁業の危機的状況を認めた上で、漁業の雇用を増加させたNZから謙虚に学ぶべきである。

水産庁のNZレポートを徹底検証する その3

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木島資源管理推進室長
まず、一つ目に、漁獲量を迅速かつ正確に測るためにはたくさんのコストがかかりますよということでございます。これについては、右下の枠を見ていただきたいのですが、仮にまずは水揚げ港に人を張り付けましょうということを考えてた場合に、2種漁港、3種漁港の約600港に人を張り付ける、さらにニュージーランド、オーストラリアがしているような漁船に人を乗せましょうとのことを考えた場合には、今、ミナミマグロでやっているように清水と同じようなことをやった場合には、港の張り付け分が約140億円、それから船に人を乗せるといった場合には、約300億円と合計で少なくとも約440億円もの費用がかかりますよと。
http://www.jfa.maff.go.jp/suisin/yuusiki/dai5kai/giziroku_05.pdf のP11

このように、水産庁サイドはIQを入れると金がかかるぞと脅しているわけだが、
300億円というのは全くのデタラメだ。
少なくともニュージーランドと同じことをやったらこんな金額にはならないですよと。

このときに示していた資料は、
http://www.jfa.maff.go.jp/suisin/yuusiki/dai5kai/siryo_18.pdf のP15だろう。

右下にTAC漁業の漁船数の一覧表がある。

Image0903018.png

大臣許可漁業の漁船では、小型のイカつり船が3100隻と群を抜いている。
これらの大半は10トン以下の小型船であり、監視員が乗船するスペースは無い。
これらの小型イカ釣り漁船をのぞけば、大臣許可漁船は700隻に過ぎない。
NZと同じ運用をするなら、監視員は全体の10%で70隻となる。
下の水産庁試算の3808隻の部分が70隻に減るので、
全体の額は546000千円(=29702400/3808*70)となる。

Image0903017.png

NZと同じように監視員を乗船させると300億円かかるというのは、全くの嘘だ。
NZとおなじ運用をするなら、乗船監視員の経費は5億円程度である、
また、この費用はNZでは業界の自己負担である。

ITQをやりたくないから、法外な予算をふっかけたのだろうが、
その前提があまりにもお粗末である。
こんなでたらめが、通るはず無いだろうに・・・

水産庁のNZレポートを徹底検証する その2

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水産庁のレポートはことごとくデタラメなんだが、どこがデタラメかを具体的に見てみよう。

漁業省400人のうち約180人が監視員で、大型の漁船には1人ずつ監視員が同乗。

NZに監視員が多いのは確かなんだが、大型漁船には一人ずつ監視員が乗船というのは嘘。現在のNZには70m以上が170隻、10-70mが1070隻存在するので、大型漁船に一人ずつ監視員を常駐するのは、そもそも不可能だ。NZ漁業省に問い合わせたところ、遠洋漁業の大型船の監視員のカバー率は20%程度であり、大型船全体でも10%程度とのこと。 監視員は、必要な漁業に優先的に配置される。過去に違法があった船、投棄の疑いがある船(同じような操業をしている船と比べて、 漁獲組成が大きく異なる船)、海鳥・海獣の混獲のリスクがある漁業が対象になる。問題がありそうな船、将来問題になりそうな漁業に、重点配置をしているのだ。

NZでは、監視員の費用は業界が負担しているのが重要な点だろう。NZでは、「漁業者が、操業を遵守していることを証明する義務を負う」という考え方だ。日本の水産庁は、4000隻の漁船(大半が10トン未満の小型イカつり船)すべてに税金で監視員を配備するとか寝言を言っているが、非常識すぎて頭が痛くなってくる。 監視員は教育・維持に金がかかるから、まずは、コスト対効果の高いVMS(衛星による漁船監視システム)の導入をすべきである。 VMSは機材がUS$1000-US$5800で、ランニングコストも1日US$1-US$5しかからない。まずはVMSを導入し、それでも不十分な場合には、業界自己負担で漁業者負担で監視員を乗船させるというのが、ものの順序だろう。主な漁業国はVMSをすでに導入済みであり、未だに何もしていないのは日本ぐらいじゃないかな。VMSのVの字も出てこないことからも、水産庁の監視員4000人計画の目的は、漁業の監視ではなく、予算のつり上げであることがよくわかる。

現在、指定港以外の水揚げ防止等をはかるため、VMSや監視カメラの船上設置を検討

NZでは、1994年からVMSを導入していますが? すでに28mよりも大型の船には100%VMSが導入されている。小型の船にも搭載可能な安価なVMSの導入が進められており、 近い将来、全ての船に導入することになっている。VMS以外にも、軍の早期警戒管制機(AWACS機)による漁船の監視なども行われている。AWACSのデータを見せてもらったが、漁船の位置が手に取るようにわかるのはびっくり。軍事機密と言うことで、資料は貰えなかったけど、すごいものですよ。 NZでは、VMSの導入も受益者負担が徹底されている。NZ政府が漁業者から金を集めて、VMSのシステムを開発し、 28m以上の船には有無を言わさずにVMSを購入させた。「政府は、俺たちの金で開発したシステムを、高い値段で売りつけるんだ」と、一部の漁業者は腹を立てているようだ。

虚偽報告や投棄が存在

どこの国にでも、虚偽報告や投棄は多かれ少なかれ存在するだろう。NZでも虚偽報告や投棄はゼロではないだろうが、日本と比較にならないぐらい少ない。 NZでは、漁獲物の海上投棄を一切認めていない。たとえ、商業価値がない魚でも網にかかった以上は持ち帰るのがルールである。 漁業が非対象種に与える影響を評価するためである。NZでは、全ての投棄は違法であり、投棄は非常に厳しいペナルティーの対象となる。軽微な違反で$5000(25万円)、普通の違反で500万円、最大で1250万円の罰金、および、魚、漁船、漁獲枠の没収、刑務所行きまである。

NZでは、漁獲枠保持者が漁船を雇って操業をさせる場合も多い。雇われ漁船が違法操業をすると、漁獲枠保持者にも漁獲枠の没収を含むペナルティーがある。漁業会社は、漁船を雇うときには、その漁船がルールを遵守するかどうかを厳しくチェックする。スポンサーの目が光っていれば、雇われ漁船もうかつなことはできない。 組織的に投棄をしていたら、明らかに漁獲組成が他の漁船とは違ってくるはずだ。

投棄の疑いがある船には、監視員が乗船し、操業を確認する。NZ政府は、監視員がいる場合と、いない場合の漁獲組成の差に着目する。いてもいなくても、同じように獲れていれば、投棄はないものと判断される。監視員がいるときには、小さい魚も大量に捕れるのに、監視員がいない場合には大きな魚しか獲れないといった明瞭な差がある場合は、監視員の乗船頻度をふやして、原因を徹底的に調査する。

NZの不法投棄への対策は、世界でもっとも厳しい部類に入る。一方、日本はどうだろうか。投棄自体を禁止していないので、海に捨て放題だ。まともな規制がないので、「不法投棄」はないだろう。そもそも、国として管理責任を放棄しているのだから、「無法地帯に違法は存在しない」のである。自らの無為を棚に上げて、NZ漁業のことを「虚偽報告や投棄が存在」などと、わざわざ指摘する面の皮の厚さは賞賛に値する。

水産庁のNZレポートを徹底検証する その1

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これがどれだけデタラメかを見ていこう。
ちゃんとデータをつかって、検証的にね。

ITQは小さな政府を実現するための行政改革の一環として導入

これは本当。
NZ政府は財政破綻をしていたから、そうせざるを得なかったのだ。不要な政府組織を縮小させながら、漁業を発展させるという当初の目的はかなりの部分実現できたと言えるだろう。財政赤字、非効率的な水産庁、漁業の衰退という構図を持つ日本にとって、参考になる事例だろう。

基本的に全ての魚種にITQを導入する予定

これも正しい。
ただ、最初からITQの全面導入が決まっていたわけではない。歴史を振り返ると、段階的にITQを拡大していったことがわかる。83年に業界の反発の少ない遠洋漁業から導入し、効果を確認した上で86年に商業漁業に全面導入。96年の漁業法改正以降は、混獲魚種にも範囲を広めている。現在のNZ政府の方針は、基本的に全ての魚種にITQを導入することであるが、それは20年以上の歴史の中でITQの効果が認められた結果なのだ。

導入に当たっては、漁業者の85%以上の合意が必要

これは全くの嘘。
NZの漁業関係者の誰に聞いても「そんなわけ無いだろう!」とあきれられるぐらい非常識。
この1行からも、水産庁のNZレポートが、全く裏をとっていないことがよくわかる。

NZ政府は漁業者の反対を押し切って、ITQを導入した。
また、漁業者の意向にかかわらず、新しい魚種をITQに加えることができる。

来年からはタコが加わることが決まっているのだが、これも政府の決定。

NZで漁業改革を担当したClothersさんから、
ITQ導入当時の状況を詳しく教えてもらったんだけど、大変だったようだ。
ITQの導入当初は、漁業者は、新しい制度に強い拒否反応を示した。
漁業者への説明会では、つるし上げられたり、トマトを投げられたり・・・
また、NZの漁業省の内部にも反対者が多く足並みがそろわなかったらしい。
行革前の漁業省は、ぬるま湯の中で補助金行政をしてきた。
新しいシステムを導入するリスクよりもじり貧を選ぶ役人も少なくなかったという。

漁業者も反対、漁業省も消極的ななかで、行革を進める原動力は国民の声だった。
漁業による海洋環境の破壊が、大きな社会問題になっていた(日本と比べれば、かわいい乱獲だけどね)。
国民の85%が、実効性のある資源管理の導入を求めたのである。
この世論を背景に、与党も、野党も、環境調和型の漁業管理の導入を公約に選挙を戦った。
与党と野党が、ばらまきの金額を競っている日本とは雲泥の差である。

また、政府内部では、財務省が行革を後押しした。
ITQ導入以前の漁業は、補助金を消費するだけのお荷物産業であった。
厳しい国家財政の中で、このようなお荷物を支える余裕はない。
行革によって、漁業を利益の出る産業に変えて、
今までとは逆に税金を納めてもらう必要があったのだ。

国民の声を背景にITQを導入してから、NZの漁業はめざましい発展を遂げた。
導入10年を経ずして、漁獲量は2倍、生産金額は2.5倍に跳ね上がった。
漁業は、お荷物産業から、稼ぎ頭へと変貌したのである。
NZの漁業改革の目的は、十分に達成されたと言えるだろう。

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NZはなぜ自己改革できるのか?

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NZの漁業の歴史は、絶え間ない自己改革の歴史といえるだろう。NZが革新的な漁業システムITQを導入した時には、手本にすべきものがなにもなかった。画期的で、合理的で、機能的な漁業システムを、試行錯誤で構築したニュージーランド人のフロンティア精神には驚かされる。NZの漁業大臣のスピーチを読み返してほしい。「他国が追従できないようなレベルで、世の中の変化に対応し、世界の漁業をリードしよう」という強い意志を読み取ることができる。このフロンティア精神こそが、ニュージーランドの漁業が自己改革していく原動力である。世界の漁業の今後のキーワードは「環境」と「責任」である。NZは、これらの分野で今後も世界をリードし続けるだろう。一方で、古い枠組みを維持するために全力を尽くしている日本漁業は今後も縮小再生産を続けるだろう。すでに再生産は途絶えて、縮小のみかもしれないが・・・
NZ政府が86年に導入したシステムにはいくつかの大きな問題点があった。一つは漁獲枠を重量で与えたこと。もう一つは先住民への配慮のなさである。これらの問題点は、訴訟を通じて、解決へと導かれた。NZの裁判官は、法に照らし合わせた上で、国に不利な判決もどんどんだす。人々の権利を保障し、よりよい社会をつくるために、司法システムが機能している。
ただ、訴訟システムにはいくつかの問題点がある。弁護士等の費用がかかるし、裁判には時間もかかる。スピードが重要な水産業において、致命的な問題である。近年、NZ漁業省は、漁業者との対話を重視して、意志決定の迅速化やトラブル回避に努めている。最近、漁業者と政府の関係は、改善されつつあるようだ。

 

ニュージーランド漁業の歴史 その2

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1996年 漁業法改正

ITQの導入から10年目の1996年に、Fishries ACT 1996と呼ばれる漁業法の改正があった。詳細はここで確認できる。
http://www.legislation.govt.nz/act/public/1996/0088/latest/DLM394192.html
たったの795ページだから、暇なときにでも目を通して欲しい。

制度運用の細かい部分まで具体的に、年限を区切って計画されている。また、細かい部分に修正を繰り返して、現在に至っていることもわかる。 ここでのポイントは3つある。ACEの導入、Deemed Valueの導入、およびマオリ対応だ。

ACEの導入

ACE(Annual Catch Entitlement)という権利が毎年の漁獲枠から、発生することになった。このACEの取引を自由化することにより、操業の自由度がグッと増した。これまでは、漁獲枠(ITQ)の永続的な譲渡のみを認めていた。漁獲枠の譲渡では、短期的な漁獲変動に十分に対応できない。たとえば、ある魚種の漁場が例年とは違うところに形成された場合、魚を捕りに行けるけど漁獲枠が無い漁業者と、漁獲枠があるけれど獲りに行けない漁業者が出てきてしまう。来年以降もその漁場にくる保障がないときに、大枚をはたいて「永続的な漁獲枠(ITQ)」を購入するのは難しい。こういう状況に対応するために、「その年の漁獲の権利(ACE)」の売買を認めたのだ。 ACEが導入される前のITQ制度は、賃貸契約が禁止されている不動産市場ような状態であった。ACEの導入によって、漁獲枠を買う資本力がない漁業者も柔軟に操業をできるようになった。その結果、漁獲枠を持たずにACEで操業を行う「ACE漁業者」が誕生した。

ITQの取引による長期的な経済効率の改善と、ACEの導入による短期的な資源・漁場の変動に対する柔軟性が、現在のITQの基本形である。たとえば、燃油が高騰したときに、燃費の悪い船のオーナーは、ACEを燃費が良い船に売ることで、利益を得ることができる。燃費が良い船のオーナーは、ACEを買い集めることで、まとめ取りで利益を高めることができる。ACE取引は、燃費がわるい漁業者にも、燃費が良い漁業者にも利益がある。現在、NZではACE取引は非常に活発である。売る側と買う側の両者に利益が無いとACE取り引きは成立しないことをかんがえると、ACEの導入は、持てるものにも、持たざるものにもメリットがあったといえるだろう。

Deemed Value

ITQの対象資源は順調に増加し、現在は94魚種、384資源がITQで管理している。ほとんど混獲しか無いような種も多く含まれている。NZでは海上投棄はすべて禁止されているので、漁獲物はすべて港に持ち帰らなければならない。漁獲枠を持っていない魚種が網にかかった場合、漁業者はACEをどこかから買ってくることになる。しかし、常にACEが購入可能とは限らない。漁期の最後までにACEを確保できなかった漁業者は、Deemed Value(みなし価格)を政府に払うことになる。

漁獲枠の超過を抑止するには、Deemed Valueは浜値よりも高くなければならない。また、Deemed Valueが高すぎると、今度は不法投棄の問題を引き起こしてしまう。 Deemed Valueの決定は、微妙なさじ加減の上に成り立っている。Deemed Valueが導入された当初は、いくつかの魚種で、低すぎる値が設定されていた。一部の不心得な漁業者が、漁獲枠を超えてこれらの魚種を水揚げした。NZ政府は、翌年にはこれらの魚種のDeemed Valueを引き上げるとともに、Deemed Valueの制度の改変を行った。対象魚種の総漁獲量がTACCを上回ると、Deemed Valueが段階的に値上げするようにした。これによって、浜値に不確実性があったとしても、特定の魚種への過剰漁獲を抑制できるようになった。

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Deemed Valueの具体的な運用は次の通りである。漁獲枠を持っていない資源を水揚げすると、その時点でDeemed Valueの基準額を前金として払う。漁期の終わりまでにACEを入手すると、前金は返金される。漁期の終わりまでにACEを入手できなかった場合は、Deemed Valueを支払うことになる。もし、該当魚種への漁獲量がTACCを下回っていれば、前金がそのまま入金される。もし、漁獲量がTACCを上回っていた場合は、Deemed Valueは基準額よりも高くなるので、その分の差額を支払うことになる。Deemed Valueの運用はかなり複雑で、漁業省の担当者から、半日レクチャーを受けて、ようやく全体を理解できた。

Deemed Valueの実際の金額は、漁期が終わらないと確定しない。これは、漁業経営にとって、不確実性となる。特に漁獲枠を持たずにACEを購入して漁業を行っている「ACE漁業者」にとっては、経営上のリスクとなる。また、Deemed ValueがACEの相場に大きな影響を与える。Deemed Valueが下がれば、それだけACEの相場も下がる。ITQ保持者は高いDeemed Valueを希望し、ACE漁業者は低いDeemed Valueを期待する。NZのQMSが機能するためには、Deemed Valueの価格設定が妥当でなくてはならない。様々な圧力がかかる中で、難しい舵取りを要求される。漁業省の担当者から、Deemed Valueの決定方法の分厚いマニュアルももらったのだが、本当にいろんなことを考えているよ。Deemed Valueの設定ミスで、管理に大穴があいてしまったのは、初年度のみなので、まずまずの運用といえるだろう。

Cost Recoveryが漁業省の予算となるのに対し、Deemed Valueは、国に回させる。そのため、漁業者への直接的な還元にならない。漁業省としては、業界に還元できるような方向性を模索しているようである。

マオリ対応

マオリの権利を保障するために、新規に設定される漁獲枠の20%をマオリに優先配分をすることにした。マオリは大規模な漁業を行っていないので、評議会がマオリ所有の漁獲枠を企業に貸し出して利益をえている。

これまで漁獲枠保持者から、資源利用料(Resource Rent)を徴収していたのだが、資源がマオリのものということであれば、利用料はマオリに納めるのが筋である。そこで、NZ政府は、資源利用料を廃止し、代わりに、資源回復費用(Cost Recovery)を徴収することにした。水産資源の管理責任を持つ国に対して、資源管理の費用を負担するという考え方である。まあ、要するに看板を変えただけで、実質的な変化はありません。

ニュージーランド漁業の歴史 その1

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NZは70年代から80年代にかけて、国家財政が破綻し、小さな政府を目指した。財政破綻以前は、漁業振興のため漁船建造の補助金などが整備されていたが、全て廃止された。それまでお荷物であった水産業の立て直しの切り札としてITQ制度を世界に先駆けて導入した。革新的な制度を導入したNZ漁業の歴史は、試行錯誤の連続であった。彼らが、どのような困難に直面し、それをどのように打開してきたかを紹介しよう。

ニュージーランド漁業制度年表
1983 沖合漁業に割当制度が導入される
1986 商業漁業に全面的にITQ制度を導入
1990 割当が固定従量制から変動制に変更
1992 ワイタンギ条約に基づくマオリへの補償が確定
1996 漁業法の改正:割当配分方式を変更、調査費用の徴収、年間漁獲権(ACE)導入の決定

最初の割当制度(1983年)

1983年に沖合漁業の7魚種に割当制度を導入した。当時の沖合漁業は、外国船のみであり、政治的に導入がしやすかった。EEZから外国船を排除して、国内の漁業会社に漁獲枠を販売した。漁獲枠を取得できるのは、漁船と加工場を保有している企業に限られた。

ITQを全面的に導入(1986年)

沖合漁業でノウハウを蓄積した後、1986年に沿岸も含む国内漁業全般にITQ制度を導入した。このときは既存の漁業者から、猛反発があった。しかし、環境にうるさい国民の声を背景に、与党も野党も、ITQの導入を公約に選挙を戦った。最初は主要29種に対して、漁獲重量を固定した漁獲枠を設定した。トン数固定漁獲枠だと、配分した漁獲枠の上限がTACとなる。資源が減少して、漁獲枠を減らす必要が生じた場合には、政府が漁業者から漁獲枠を買い上げることで調整をすることにした。

相次ぐ訴訟で、漁獲枠削減が困難に

ITQの導入後、漁業が儲かる産業になると、漁獲枠の価格が高騰した。漁獲枠が金の卵であることに気がついた漁業者は、政府に漁獲枠を売らなくなった。漁獲枠の買い上げは難航し、TACの削減ができなくなった。そこで、政府は、漁獲枠の一律削減を試みたが、漁業者は猛反発をした。「10tの権利を国から買ったのに、それを勝手に8tにするのは怪しからん」ということで訴訟をして、国が敗北した。

割当を変動制に切り替え(1990年)

漁獲量一定では資源管理が成り立たないので、NZ政府は苦労して、1990年に漁獲枠を重量固定制から、割合固定制(重量変動制)へと変更した。漁獲枠は、商業漁業漁獲枠(TACC)に対する割合で設定される。10%の漁獲枠を持っている人間は、TACCが変動しても常にその10%の権利を有することになる。この制度改革によって、NZ政府は訴訟のリスクを負わずに、TACCを自由に変えられるようになった。

先住民(マオリ)との法廷闘争

NZ政府が抱えたもう一つの訴訟が、先住民である。マオリの伝統漁業は、漁獲枠の取得要件を満たしていなかったので、マオリには漁獲枠が配分されなかった。新しい法律を知らないマオリは今まで通り、魚を捕りに行き、逮捕された。マオリは自分たちの権利が侵害されたと感じたマオリは、NZ政府を訴えた。

ニュージーランドでは、先住民と移住者の間にワイタンギ条約という取り決めがある。これは1840年に、イギリス王冠と先住民の間で交わされたもので、先住民の土地に関する主権を認める内容になっている。この内容に照らし合わせれば、マオリの漁獲を白人が規制する権利は無いことになる。この裁判は、イギリスの連邦最高裁判所まで行き、「王冠の契約は絶対である」ということで、マオリが勝ったのである。これにより、NZ政府は莫大な賠償金をマオリに支払うことになった。結果として、漁獲枠を売却して得た政府の利益は吹っ飛んでしまった。マオリへの敗訴はNZ政府にとって大きな痛手となった。その後も対応に苦慮することになる。

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from 18 Mar. 2009

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