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勝川俊雄公式サイト

東シナ海における日本の乱獲の歴史


昨日のクローズアップ現代(国境の海で魚が消える ~追跡 中国虎網漁船~)を録画で見ました。内容はこんな感じ。

  • 豊かな資源を求めて、東シナ海に押し寄せる中国漁船。
  • 漁場を追われ急速に衰退する日本漁業。
  • 漁船が担ってきた国境の監視機能も低下しています。
  • 日本は日中共同水域の資源管理を中国に呼びかけたが、中国から拒否されている。
  • 漁業の衰退で中国漁船が国境の中に入りやすくなっている。

中国が虎網というむちゃくちゃな漁法で乱獲をしまくっているので、日本の漁師さんたちが困っているというお話です。中国の虎網漁船を取り締まる水産庁の監視船の乗組員は、「我が国の水産資源を責任もって守る」と熱く語っていました。

NHKのサイトでクローズアップ現代の全文文字おこしがあります。見逃したかたは、こちらをどうぞ。 http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail02_3329_all.html

この番組では、日本漁業が一方的な被害者として描写されていました。視聴者の多くは、中国漁業に対して悪印象を持つと同時に、日本の漁師に同情を覚えたことでしょう。しかし、歴史をひもといてみれば、かつては豊穣の海だった東シナ海の水産資源を破壊したのは、他ならぬ日本なのです。日本の乱獲で、東シナ海で捕れる魚は減少の一途を辿りました。コストが高い日本漁船では利益が出せなくなり撤退をしたところに、コストが安い中国船が入ってきて、日本が乱獲をした絞りかすを、容赦なく絞っているのです。

東シナ海のトロール漁業(以西底引き網漁業)の歴史

日本漁船が東シナ海に進出したのは、1908年に英国から汽船トロールという効率的な技術が導入されてからです。汽船トロールは瞬く間に広がり、沿岸漁民との深刻な対立を生み出しました。1908にトロール漁業排斥期成同盟会が結成され、翌年に「汽船トロール漁業取締規則が」制定されました。沿岸での操業を禁止されたトロールは、外洋へと向かったのです。太平洋戦争が終わって間もない1951年に、東シナ海の漁場を担当する水産庁の西海区水産研究所が「以西底魚資源調査研究報告」という47ページの報告書を発表しました。この報告書には、当時の東シナ海漁業の姿が克明に記されています。

 この広大な海面に操業する漁船は、1910年前後のトロール船による開拓と同時に、決河の勢いをもって此処に進出し、船数は上昇の一途をたどり、次いで、1920年前後において、漁法の改良により発展の途上にあった汽船底曳き漁船がこれに参加し、恰(あたか)も欧州におけるNorth Sea漁場と比肩すべき世界的漁場に迄発展し、将に絢爛(けんらん)たる状態を現出した。
然し、該漁場の資源に就ては、すでに1920年代から減衰の危険が叫ばれていたが、漁業者および当局の資源維持に対する無関心の為、又徒に所謂「赤もの」乃至「上もの」と称せられる「タヒ類」、「ニベ」、「マナガツヲ」等の高級魚類にその目的を置いた為に、本邦における他の多くの漁場の場合と同じく、否更に強度の又急激な荒廃状態を呈し始めた。そこで、従来市価の非常に低かった「グチ類」、「エヒ類」、「エソ類」、或は「フカ類」の如き「潰し物」乃至「下物」を漁獲対象とし、これ等を大量に漁獲することに依って上物不足を補う方向に進んできたのである。

トロール漁業が活発化すると、レンコダイ、マダイといった高級鮮魚は、瞬く間に獲り尽くされました。図の黒線が漁獲量。赤線が一回の操業での漁獲量(単位漁獲努力量あたり漁獲量)です。

高級魚がいなくなると、グチやニベなどのつぶしものと呼ばれる単価が安い魚が漁獲されましたが、これも減少の兆しがみえています。トロールという漁法の効率性の高さがよくわかりますね。こういう漁法で、魚を自由競争で奪い合ったら、魚がいなくなるのは当然でしょう。

東シナ海の魚にとっては幸運なことに、1941年(昭和16年)に太平洋戦争が始まると、漁船は軍に徴用され、東シナ海の漁獲はほぼ停止しました。戦争が終わって、再び漁業が開始されると、水産資源はかなり回復をしていたのです。しかし、戦後も同じことを繰り返しました。1947年に本格的に漁業が再開されたのですが、翌年には資源の減少が顕著になりました。西海区水産研究所のレポートは次のように警鐘をならしています。

一曳網の漁獲量(1回網を引いたときの漁獲量)は、1947年の230貫から、1948年の191貫に低下した。而も1948年は最も違反操業が多く、許可海域外での漁獲が相当の部分を占めると思われるから、許可海域での1網平均漁獲量の低下は、これより著しいと推定される。そして、予想された通り、レンコダイ、エソ、シログチ、フカの資源がすでに減少し始めたことは表2からうかがわれる。又、其他の部類に含まれる価値の少ない雑魚が、著しく大きい部分を占めていることも、戦後のこの漁業の特徴である。

従来の漁業およびその研究は、いかにすれば多量の魚を漁獲できるかに主眼が置かれていた。ある漁場で獲れなくなれば、船足を伸ばして新漁場を開拓し、また新しい漁具、漁法を考案して獲れるだけ獲ったのであり、獲った後がいかなる状況になるかにおいては、一顧も与えなかった。その央にしても獲れる間は良いが、魚は海の中に無限にいるのではない・・・獲り得主義の、そして、将来に対する見通しを持たなかった漁業のあり方の結末は自明であって、乱獲による資源の枯渇現象となって現れ、経営が行き詰まってきたのは、蓋し当然と言わねばならない。

下の図は、戦後の東シナ海漁場の漁獲量です。残念ながら、西海区水研の報告書が警告した通りになってしまいました。

1950年代には、漁場の拡大と漁船の大型化により、漁獲量は増えました。1960代から、漁獲量は直線的に減少しました。1951年の時点で、研究者も、管理当局も、漁業者も、魚を獲りすぎているという自覚はあったにもかかわらず、戦前と同じ失敗を繰り返してしまったのです。漁業規制は現在まで行われていません。1980年代から、日本漁船は採算がとれなくなり、撤退が相次ぎました。撤退していく日本の中古船を買って、中国人が同海域で操業を開始しました。この漁場に中国漁船が進出してくるのは、日本漁船が撤退していく1980年以降の話なのです。その時点で、東シナ海の資源は、日本によって、すでに乱獲をされていたのです。

筆者の所属する三重大学では、毎年、東シナ海でトロール実習を行っています。何時間も底引き網を曳いても、商業価値のないカニしか獲れません。かつての豊穣の海の面影は、どこにもありません。豊かな漁場を砂漠のような場所に変えてしまったのは、ほかならぬ日本の漁業者です。戦前と戦後に、同じ失敗を繰り返したにもかかわらず、日本の漁業者には、現在も反省の色は見られません。クローズアップ現代は、日本の過去の乱獲は無かったことにして、「中国の最近の乱獲で日本の漁業が衰退している」と主張します。実際は、日本の漁業者が乱獲をして、自滅したのです。中国漁船が日本漁業衰退の主要因ではないことは、中国船が来ていない太平洋側の漁業も、日本海側と同様に廃れていることからも、明らかでしょう。

そのうえ、日本は現在進行形で自国のEEZの乱獲を放置しています(参考その1 参考その2)。日本の漁業関係者は、過去の乱獲を反省せず、同じことを繰り返しているのです。確かに、現在の中国漁船の乱獲操業はほめられたものではありませんが、日本の漁業者に、他人事のように中国漁船を非難する資格は無いでしょう。乱獲を放置して、日本の水産資源の減少に荷担している水産庁が、「我が国の水産資源を責任もって守る(キリッ)」と言っていたのには呆れてしまいました。自国の水産資源を守りたいなら、まず、自国のEEZの資源管理をしてもらいたいものです。

日本の漁業管理について知りたい人は、これでも見てください。

日本の乱獲を知っていながら報道しなかったNHK

実は、NHKはこのブログの記事に書かれた事実を全部知っていました。NHK長崎が俺のところに取材にきたので、こういった背景を説明した上で、西海区水研の報告書のコピーを渡してあります。知らなかったとは言わせない。NHKは、歴史的な経緯をすべて理解した上で、日本の乱獲については一切触れず、「中国の乱獲のせいで、無辜な日本の漁師さんたちが迷惑をしている」という番組をつくったのです。ちなみにゲストの専門家の東海大・山田吉彦教授は、海賊問題がご専門のようですね。この海域の漁業の歴史を少しでも知っていたら、自国の乱獲を棚に上げて、中国を一方的に非難できなかったと思います。

俺が出演した回のさかなTVがYoutubeにアップされました


先週、ニコ生で放映されたものと同じ内容ですが、こちらは、どなたでもごらんになれます。

話の内容はこんな感じです。

  • 日本の漁業は、乱獲で自滅をしている
  • 国の漁獲規制は全く機能していない
  • きちんとした規制をすることで、漁業の生産性は大幅に改善できる

予定通り、北海道日本海側のスケトウダラ資源が減少し、漁業が消滅の危機


北海道日本海側のスケトウダラが激減しています

スケトウダラは、北海道で重要な水産資源の一つであり、ニシンがほぼ消滅した現在は、スケトウダラに依存した漁村も多い。同じスケトウダラでも、産卵場や生育場所が異なる複数の群れが存在し、それを「系群」と呼びます。日本周辺には、

  • 太平洋系群
  • 日本海北部系群
  • 根室海峡系群
  • オホーツク海南部系群

の4つのスケトウダラの系群があります。このうち日本海北部系群の資源が極度に悪化しているのです。

資源量が減って、漁獲割合が上がる?

漁業資源の状態は、独立行政法人 水産総合研究センターによって、まとめられています。

http://abchan.job.affrc.go.jp/digests24/html/2410.html

1990年代後半から資源が直線的に減少し、底引き網、延縄ともに撤退が相次いでいます。1997年から、国によって漁獲枠が設定されて、漁業者がそれを守ってきたにも関わらず、「北海道の日本海側に漁業者がいなくなるかもしれない(漁業者談)」というような事態になっているのだ。

ここで、着目して欲しいのは上の図の漁獲割合(赤丸線)です。1997年から、2007年まで、漁獲割合が増加している。普通に考えれば、漁獲にブレーキをかければ漁獲割合は下がるはずなのに、スケトウダラの場合は、資源が減少するのと並行して、漁獲割合が上がっていったわけです。資源が減ってもブレーキをかけるどころか、アクセルを踏んでいたことになります。

科学者の勧告

詳細な資源評価(アセスメント)はここにあります。このPDFの2ページ目の管理シナリオの一覧を見てください。

重要なポイントは、下から二行目です。親魚量の維持が0.44Fcurrentとあります。これは、現在の親魚水準を維持するには、漁獲圧を現在の44%の水準まで落とす必要があることを意味します。いまだに、資源量を維持できる水準の倍以上の漁獲圧をかけているのだから、資源が減るのは当然でしょう。ちなみに、この年の科学者の勧告した漁獲量は下から3番目の7.7千トンでした。現在の資源量はあまりにも低水準なので、回復の必要がある。かといって、急激な漁獲の削減は現実的に難しい。そういうことで、(わずかでも親魚量を増大)というシナリオを選んだものと思われます。

持続性を無視する漁獲枠設定

これに対して、水産庁がどのような漁獲枠を設定したかという資料がこれ( 水産政策審議会に水産庁が提出した資料) → 24年漁期TAC(漁獲可能量)設定の考え方(PDF:101KB)

科学者が勧告したABC(生物学的許容漁獲量)0.77万トンのところを、水産庁が提案した漁獲枠は1.3万トンですよ。毎年、大勢の研究者が集まって、時間をかけて資源評価をしているのに、まるで無視。

水産庁が示した漁獲枠の根拠は次の通り。

【日本海北部系群】 資源回復計画(努力量削減、小型魚保護等)と組み合わせた資源管理を実施。資源が低位で横ばい傾向にあり、漁業経営におけるスケトウダラへの依存度が高いことを踏まえつつ、TAC(案)は23年漁期と同量の13,000トンとする。(北海道知事管理分の一部(1,000トン)については留保)

「資源が低位で、漁業経営における依存度が高いから、持続性を無視して良い」というロジックが私には理解不能です。審議会に出席している有識者のどなたかに突っ込みを入れてほしいところですが、鰈にスルーされています(第55回資源管理分科会議事録)。唯一、佐藤委員が「前年同期と同じ1万 3,000 トンというような書き方なのですが、基本的には、歯止めをかけるのであれば、もっと少ない方がいいかなとは思うのですけれども、経営のことがございますので、やむなしと思っているのです」と、水産庁の決定に理解を示したのみでした。今年のTACを決める会議は、平成25年2月22日に開催されましたが、ABCが7.6千トンで、TACが1.3万トンでした。状況は何ら変わっていないのです。

平成18年から、平成25年までの科学者の勧告(ABC)と日本政府が設定した漁獲枠(TAC)をグラフに示すとこうなります。本来は、科学者が勧告した漁獲量(青い棒)の範囲で、漁獲枠(赤い棒)を設定しないといけないのですが、そうなっていません。みごとに、資源の持続性を無視してきたことが、よくわかります。日本では、資源管理の名の下に、このようなことが行われているのです。

日本では国が漁獲枠を設定しているのはたったの7魚種しかありません。そのうちの一つがこのスケトウダラです。数少ない資源管理対象であっても、国が持続性を無視した漁獲枠を設定したせいで、残念ながら、資源を守ることができませんでした。

魚が減るとわかっている漁獲枠を設定し続けた結果、順調に魚が減ったのだから、「予定通り」です。「漁業経営のため」といって、乱獲を放置して、漁業自体をつぶして、いったい誰の得になるのでしょうか。水産庁という組織が、日本の漁業をどうしたいのか、私には全く理解不能です。

本日、ニコ生で話をします


三重大学准教授 勝川俊雄氏に学ぶ、

日本と世界の資源管理の違い。
さかながなぜ減ってしまうのか、そして海外と日本の資源量の違いはどのくらいで、なぜ違うのか!?

♪  築地市場のマグロ仲卸3代目に学ぶ、日本のさかな事情 JPLIVE.TVにて毎月2回生放送!
準備中配信 15:45〜 番組本番配信 16:00〜
JPLIVE.TV : http://jplive.tv(twitter参加可 (#jplivetv)) ニコニコ生放送:【検索:”jplive.tv”】(コメント参加可)

http://live.nicovideo.jp/watch/lv131760378

資源回復計画が予想通り破たんして、青森県のイカナゴが禁漁となった


青森県でイカナゴが禁漁となった。この背景について、考えてみよう。

毎日新聞: イカナゴ:全面禁漁へ 春の味覚、乱獲で激減 陸奥湾6漁協、特定魚では初 /青森
陸奥湾でとれる春の味覚「イカナゴ(コウナゴ)」が乱獲などで激減していることを受け、県と湾内6漁協は今春から、全面禁漁することで合意した。当面、禁漁期間は定めないまま資源量の回復を待つ。
昨年の湾内の資源量は1000万匹以下とみられ、県は3億匹まで回復させることを目指す。

 湾内でのイカナゴの漁獲量は73年の約1万1745トンをピークに減少が続き、昨年は約1トンまで落ち込んだ。漁獲金額も77年の約11億円から昨年は約40万円に減っている。海水温の低下でイカナゴが育ちにくくなったことや乱獲が原因とみられる。
http://mainichi.jp/area/aomori/news/20130214ddlk02040018000c.html

東奥日報: 陸奥湾イカナゴ、今春全面禁漁
禁漁措置について、脇野沢村漁協の千舩五郎参事は「ここ数年、ほとんど漁獲されず、ここまで落ち込めば禁漁はやむを得ない」、三厩漁協の廣津長一参事は「イカナゴの稚魚を餌にする他の魚種の漁獲にも影響するためイカナゴの資源回復は重要」と話した。
http://www.toonippo.co.jp/news_too/nto2013/20130213110002.asp?fsn=eb33f76037153e93cde084f7e7644d6f 

「青森県のイカナゴが減少をしたので、資源回復のために禁漁します」 ということなんだけど、以下の2点に注意してほしい。
1) 親魚量が適正水準の1/30まで減少している
2) 漁獲がほぼ成り立たない水準(県全体の生産金額が40万円) まで落ち込んでいる
ようするに、漁業が成り立たなくなって、禁漁してもしなくても、変わらないぐらい魚が減ってから、ようやく禁漁にしたのである。ノーブレーキで壁に激突してから、ブレーキを踏んでいるようなものです。これをもって、美談とするのは大間違い。むしろ、「なんでここまで減らしたのか」を考えて、再発防止をしないといけない。

イカナゴ資源の減少は、かなり前から問題になっていた。2007年から、 「青森県イカナゴ資源回復計画」が行われていた。行政と漁業者が、資源回復に努めていた(はずの)資源がここまで、減ってしまったのである。

青森県がウスメバルとイカナゴの「資源回復計画」を作成
青森県は日本海、陸奥湾、津軽海峡海域のウスメバルに関する「青森県ウスメバル資源回復計画」、陸奥湾湾口周辺海域、白糠・泊地区周辺海域のイカナゴに関する「青森県イカナゴ資源回復計画」を作成し、2007年3月28日付けでこの2つの計画を公表した。
「資源回復計画」は悪化傾向にある日本周辺水域の水産資源の回復を漁業関係者や行政が一体となって取組むために策定されるもので、複数県にまたがり分布する資源については国が、分布が一都道府県内にとどまる場合は都道府県が計画を作成することになっている
http://www.eic.or.jp/news/?act=view&serial=15742

資源回復計画の概要はここにある。(水産庁は頻繁にURLを変えるので、リンクが切れていた場合は、”青森県” “イカナゴ” “資源回復計画”で検索してください。)

http://www.jfa.maff.go.jp/j/suisin/s_keikaku/pdf/aomori_ikanago.pdf

できれば内容に目を通してほしいのだけど、資源回復計画が策定された当時の状況を見てみよう。

長期的な漁獲量のトレンドは、下図のようになる。1980年代から、1990年代中ごろまでの不漁は、マイワシが増加した影響だろう。1990年代中ごろに、マイワシがいなくなって、イカナゴに努力量がシフトして、すぐにイカナゴの漁獲量が減少を始める。1997年から2006年までに漁獲量は5%程度まで減少をしている。6年前には、すでに、何らかの資源回復措置が必要という共通認識が、行政にも漁業者にもあったのだ。

 

資源回復計画の目的は、産卵量の確保であった。イカナゴの産卵数と新規加入個体数には次のような関係がある。産卵数が5兆粒を下回ると、翌年の加入資源尾数(卵の生き残り)が減少するという傾向が見て取れる。この資源を持続的に有効利用するには、良好な加入が期待できる5兆粒以上の親を残しておくことが望ましいのである。この産卵量を維持するのに必要な親の量は3.5億尾となる。この分析自体は、非常に良いと思う。問題は、そのための措置が取られなかったことである

 

回復計画を作った時点で、「2006 年の親魚数は1.1 億尾であり、漁獲努力量を維持した場合、10 年後の親魚数が0.3 億尾に減少する」ということはわかっていた。資源量は適正水準を下回っているうえに、漁獲圧は非持続的な水準であった。明らかな乱獲状態である。本来は、漁獲圧を下げて、親魚量を回復させなければならなかったのは明白である。

県水産総合研究センターの資源解析のシミュレーションでは、イカナゴ資源を回復するためには少なくとも現在の漁獲努力量から3 割削減する必要があると予測された。しかしながら、このような大幅な削減措置を行った場合、漁業者には多大な負担を強いることとなり、漁業経営を極度に圧迫するおそれがあるため、漁期の短縮や操業統数の制限により漁獲努力量を削減し、産卵親魚を保護することにより、イカナゴ資源の減少傾向に歯止めをかけ、過去3 ヵ年(2004 年~2006 年)の平均漁獲量600 トンを維持することを目標とする。

漁獲圧を削減するときに、普通の先進国では、漁獲枠を削減する。というのも、現在の漁船の性能をもってすれば、少数の漁船で、減少した資源を短期的に獲りきることが可能だからである。漁期の短縮や操業統数の制限は、実質的な効果があまりないというのは、我々の世界の常識である。

こういった実効性の低い緩い措置が日本では主流である。その理由は、実効性が低い措置は、漁業者からの反発もすくないからである。日本では、補償金と引き換えに、こういった緩い措置を導入して、「資源管理をしていることにする」のが一般的だ。

で、どうなったかというと、こうなったわけだ。

一直線に減少し2012年の漁獲量は1トンで、生産金額は40万円。さすがにここまで減ると、市場でも扱いづらい。ということで、実質、漁業は崩壊したといってもよいだろう。「600トンの漁獲量を、400トンまで減らすのは、漁業経営を極度に圧迫する」からといって、10年もしないうちに漁業自体を消滅させてしまったのだ。

資源回復計画は、実効性のない取り組みをして、やっているふりをしているだけ。「資源管理」ではなく、「資源管理ごっこ」だから、効果はない。そんなことは、やる前から、わかりきっていたことだけどね。

資源回復計画はなぜ失敗するのか?(2007年に書いたブログの記事です)
http://katukawa.com/?p=383

日本は、漁業者が困るからと言って、乱獲を放置して、漁業を衰退させている。資源の持続性に対して責任を負うべき行政の無作為が、産業の衰退を招いてきたのである。

海外の資源管理はどうなっているかというのは、こちらを参考にしてほしい。

ノルウェー式の資源管理は日本の水産資源復活に直結するか?
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/2518?page=3

アイスランドのシシャモ漁業は、取り残すべき親の量(赤線)を維持できるように漁獲枠が決まっている。

アイスランドのシシャモは、2008年の漁獲シーズンに、資源量が少ないので禁漁という情報が流れました。しかしこの時も、禁漁になることに対して漁業者が大騒ぎするわけではなく、資源量が少ないので「回復を待たねばならない」という意識が強かったのが印象的でした。日本であれば「魚はいる!獲らせろ!」と大騒ぎになるケースであったことでしょう。

アイスランドの場合は、ちゃんと赤の線が維持できるように漁獲枠の削減をしたから、すぐに資源が回復した。アイスランドは、網を引けば魚がいくらでも獲れる時期に禁漁をしている。ノルウェーもシシャモが減ったらすぐに禁漁だし、ニュージーランドに至っては、漁業者が「資源回復のために漁獲枠を減らせ」と主張して、政府に漁獲枠を削減されせている。魚が獲れなくなってから禁漁をする日本とは根本的に違うのである。

読者の皆さんにも考えてほしい。漁業者がかわいそうだからと言って魚がいなくなるまで規制をしなかった日本と、資源の持続性を守るために魚がいるうちにきちんと規制をしたアイスランドと、どちらの漁業者が本当にかわいそうだろうか。ちなみに、アイスランドの漁業者は、儲かって、儲かって仕方がないようですよ

クロマグロに関する報道の内外格差の検証:クロマグロは増えていて、安くなるのか?


太平洋クロマグロを管理する国際機関WCPFCのレポートのドラフトが公開されました。例によって、例のごとく、国内外で報道の方向が180度違います。

太平洋マグロ、規制継続なら20年で3・6倍に
読売新聞(2013年1月10日09時22分) 

http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20130109-OYT1T00226.htm

日本近海を含む太平洋産のクロマグロ(親魚)が、2030年までに最大で10年の3・6倍に増える可能性があるとの予測を、漁業管理機関「中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)」の科学委員会が8日公表した。
日本で消費されるクロマグロのうち、太平洋産は約7割を占めている。資源量の増加は、将来的な価格下落につながる可能性もあり、日本にとっては朗報といえそうだ。

web魚拓

太平洋のクロマグロは2030年に3・6倍に 国際委員会が予測、現行水準で規制続けば
産経新聞(2013.1.10 18:34)  

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/130110/biz13011018360038-n1.htm

中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)の科学委員会が、太平洋クロマグロの漁獲規制が現行と同水準で続けば、2030年には親魚の資源量が10年水準の約3・6倍に増える可能性があると予測したことが10日、分かった。

日本で消費されるクロマグロの7割弱は太平洋クロマグロ。資源量が増えて漁獲規制が緩和されると、価格下落につながる可能性がある。

科学委員会は8日公表した報告書で、10年の親魚の量が2万3千トン弱と歴史的な低水準にあると指摘した。

web魚拓

どちらも同じような「増えるよ、安くなるかもね」という大変に楽観的な論調。産経新聞が現在の資源量が低いことにさらっと触れているが、読売にはそれすら無い。

一方、同じ報告書を元にした海外発のニュースはこんなかんじ。

太平洋クロマグロの資源量急減、漁獲規制が不十分-環境団体
ブルームバーグ(2013/01/09 13:42 JST)

http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MGCAA86KLVS001.html

太平洋クロマグロの資源量は過剰な漁獲が影響し、漁獲しなかった場合の水準を96.4%下回っているとピュー環境グループが指摘した。

詳しくはリンク先を全文読んでほしいのですが、全く違う論調です。実はこれ同じ報告書を元にしているのだから、驚きですね。どこを抜き出すかによって、読み手に全く異なる印象を与えることができるのです。

 

実際に、報告書を見てみよう

ソースによって内容が大きく違う場合は、一次情報に当たるのが鉄則。ということで、報道の元となった報告書の中身を見てみよう。公開文書ですので、こちらからダウンロードできます。

http://isc.ac.affrc.go.jp/pdf/Stock_assessment/Final_Assessment_Summary_PBF.pdf

英語だし、専門用語が多いので、要点となる部分を説明します。

太平洋クロマグロの資源状態については、3ページ目の 4. Status of Stockに重要な記述があります。

Although no target or limit reference points have been established for the Pacific bluefin tuna stock under the auspices of the WCPFC and IATTC, the current F (average 2007-2009) is above all target and limit biological reference points (BRPs) commonly used by fisheries managers (Table 2), and the ratio of SSB in 2010 relative to unfished SSB is low (Table 3).

地域漁業管理機関WCPFC・IATTCは、太平洋クロマグロ資源の管理目標となる指標を何も示していないのだが、現状の漁獲圧(2007-2009の平均)は一般的に利用される管理指標のすべてを上回っており(Table 2)、漁獲が無かった場合と比較した産卵親魚量(SSB)も減少している(Table 3)。

少しでも専門知識があれば、これを読んだだけで「こりゃ駄目だ」とわかります。それぐらいダメダメなのです。どこがどう駄目かを、3つのポイントに絞って説明しましょう。

1)管理目標を設定していない

目標の設定は資源管理の大前提です。「資源をどういう状態に維持します」という目標があって、「ではどうする?」という議論ができる。

たとえば、大西洋の水産資源を管理するための機関であるICESは、資源量を目標値(Bpa)以上に、漁獲圧を目標値(Fpa)以下にするという明確な方針がある。資源量が目標値を下回った場合、および、漁獲死亡が目標値を上回った場合には、速やかに漁獲圧を削減する。このように、維持すべき目標があって、初めて、迅速な管理措置がとれるのです。「太平洋クロマグロには、管理目標すらない」というのは、管理が体をなしていないことの証です。

2) 現状の漁獲圧は一般的に利用される管理指標のすべてを上回っている

乱獲には、乱獲行為と乱獲状態という2つの形態がある。

乱獲行為: 非持続的な漁獲圧をかけること
乱獲状態: 生物の生産力が損なわれる状態まで資源を減らしてしまうこと

肥満にたとえると、カロリーのとりすぎが乱獲行為。健康に害がでるほど太ってしまうことが乱獲状態ということになる。カロリーを取り過ぎたからといって、必ずしもすぐに肥満になるとは限りません。乱獲行為と乱獲状態は分けて考える必要があります。漁業資源の管理の場合は、漁獲圧を強くしすぎない(乱獲行為の回避)、産卵親魚を減らしすぎない(乱獲状態の回避)、という2点が重要です。

乱獲状態の指標には、いろいろな考え方があるのですが、一般的なものを並べてみるとTable 2のようになります。

FmaxやFmedなどが、一般的に利用されている管理指標です。表の数値はこれらの管理指標と現在の漁獲圧の比を表しています。値が1よりも小さいということは、現在の漁獲圧が管理指標よりも大きいことを意味します。太平洋クロマグロの場合は、一般的に利用されいている管理指標を上回っているので、乱獲状態にあると言えます。管理指標にもいろいろあるのだけど、一般的にはF0.1, F30%, F40%が採用されます。たとえば、F30%のところには0.35という数字があります。これはF30%という管理指標を採用するなら、漁獲圧を現在の35%まで削減する必要があることを意味します。

Table2のなかで、注目してほしいのがFmedです。Fmedというのは、過去の平均的な条件で資源が平衡状態になる漁獲圧なので、現状の漁獲圧がFmedを上回っているということは、過去の平均的な環境のもとで、資源は減少することを意味します

3) 現在の産卵親魚量は、漁獲が無かった時代の3.6%まで減っている

クロマグロがどのぐらい減っているのかというのは、最後のページのTable 3をみるとわかります。

この表の右から2番目のDepletion Ratioというのが、漁獲が無い時代の親の量と2010年の親の量の比です。Run1からRun20まであるのは、シミュレーションの設定による違い。 自然死亡など、正確な値がよくわからないパラメータがたくさんあるので、様々な可能性を検討するために、20のシナリオを作って、シミュレーションをしているのです。20のシナリオの中で、現時点で一番もっともらしいと考えられているのが、ベースケースのRun2です。この場合、資源量は未開発時の3.6%まで減少していることになります。どんなに楽観的なシナリオでも5.4%、悲観的なシナリオだと2.1%まで減っているのです。

一般的な水産資源管理では、産卵親魚量は、未開発時の40%から50%を維持すべきと言われています。その水準を下回ったら漁獲規制を厳しくして、未開発時の20%を下回ったら禁漁にするというのが一般的な考え方です。10%を下回ったら、資源崩壊と見なされます。太平洋クロマグロの場合は、其れを遙かに下回る資源状態で、Fmedを上回る漁獲圧をかけているのだから、あまりにも非常識かつ無責任です。

2030年までに3.6倍に増えるとか言ってますけど、3.6%が3.6倍に増えても、未開発時の13%です。「資源が乱獲状態を脱した」というには、未開発時の40%程度まで回復させる必要があります。今からちゃんと漁獲規制をしたとしても、俺が生きている間にそこまでたどり着けるかどうか・・・。

そもそも、乱獲されていない資源は、短期的に3.6倍には増えません。未開発時の40%までしか減らしていなければ、禁漁をしたところで2.5倍にしか増えないのですから。

日本のメディアは、なぜこのレポートを元に、楽観的な報道をできるのか?

レポートの内容を見ていくと、太平洋クロマグロの悲惨な状態がわかると思います。このレポートをみてもため息しか出ませんでした。レポートでも、資源は乱獲されているという明記されています。

このレポートをもとに「クロマグロが、3.6倍に増える。安くなるかも!」という記事を書ける日本のメディアはなんなんでしょうね。救いようが無いことに、業界紙を含む国内メディアの大半が、足並みをそろえて、同じ論調の報道をしました。「3.6倍に増える可能性が示された」というのは嘘では無いのですが、前提となる悲観的な情報を取り除いて、その部分だけを楽観的に伝えるのは、世論操作と言っても良いと思います。消費者が資源の減少について知らされないまま、持続性を無視した消費活動を続けていけば、食卓から魚が減っていくのはやむを得ないと思います。

産経新聞にツッコミを入れつつ、まぐろ養殖業について、まじめに語ってみた


「近大マグロ」庶民の味になるか 天然と遜色なし「ほとんど区別がつきません」
産経新聞 12月23日(日)12時0分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121223-00000513-san-bus_all

養殖業を否定する気は無いし、マグロ養殖が持続的な産業として、発展してほしいと思っている。マグロ養殖業の現状について、正しく知ってもらうために、情報を整理してみよう。

1)タイトルと記事の内容が一致していない

「庶民の味になるか」というタイトルなのに、本文には、安くなる要素が示されていない。むしろ、高止まりするという内容ばかり。産経新聞的にはどっちだと言いたいのだろうか。

  • ブランドの知名度も上がっており、意外と高値のままかもしれない!?
  • 脂の乗り具合もきわめて良いことから高級」とされ、高値で取引される。
  • 業界関係者は「有名になってきたことで取引が活発化すれば、値段は意外と安くならないかも」と推測する。

新聞の報道記事で、タイトルと本文の内容が逆というのは、いただけないですね。

2)天然と養殖の味が違う

気になる養殖クロマグロの味だが、「天然のマグロと食べ比べましたが、遜色(そんしょく)は全くなく、ほとんど区別がつきませんでした」とサントリーHDの担当者は打ち明ける。クロマグロの体長は大きなもので3メートルを超え、重さは400キロにもおよぶ。脂の乗り具合もきわめて良いことから高級」とされ、高値で取引される。

運動不足でメタボな養殖マグロと、常に運動をしている天然マグロは、味的には別物です。天然ものでも、脂ののりは時期によって大きく異なります。境港のクロマグロは産卵場で産卵群を漁獲するので、脂が抜けている。冬に北で獲れるマグロは、腹の部分を中心に一部に脂がのるが、ほとんどが赤み。もともとトロは、ほんの一部だからこそ、珍重されてきたのです。それに対して、畜養は運動不足な状況で、餌を多く与えるので、腹ばかりか背中までトロのようになる。

脂の量: 養殖>>>天然(冬)>天然(産卵期)

 天然よりも脂が多いから養殖はダメかというと、そうではありません。脂が多い方が日本市場で価値が出るから、わざわざそういう育て方をしているわけです。養殖マグロの脂の多さは商品価値なわけです。ただ、味や食感が違うので「遜色が無い」というは無理があるように思います。むしろ、脂がたっぷりと言うことをアピールすれば良いだけの話だと思うのですが。

俺の個人的な感想としては、養殖マグロが天然とはべつものだけど、なかなか美味しいと思う。「養殖マグロはイワシ臭い」と言う人もいるけど、俺はそう感じたことはないな。養殖マグロのトロは脂が多すぎて苦手なのだけど、赤身の部分はほどよい脂で美味しいと思います。技術革新があるので、味は年々向上しているので、今後が楽しみです。

養殖は天然とは、良くも悪くも別物。養殖は天然と比べて様々なコストがかかるのだから、養殖ならではのメリットを明らかにして、差別化をする必要があるわけです。

養殖のメリットとしてはこんな感じ。

1) 時期を選べる(多少しけても出荷できる)
2) 処理の最適化
3) 脂ののりを調整できる

在庫管理とQCが出来ると言うことです。安定供給が重要な取引先からは重宝されるでしょう。

養殖マグロの水揚げを見学したことがあるのですが、なかなか面白いですよ。いつもと同じように餌やるのだけど、餌の中に針をしこんだものを混ぜておく。マグロが針を食べたら、糸を通して針に電気をびりっと流して、感電したマグロを釣り上げる。マグロが気絶しているうちに、神経抜きをして、えらわたを抜いて、氷漬けしてしまう。この作業はほんの一瞬。泳いでいたと思ったら、次の瞬間には処理されてしまうのだから、鮮度は抜群です。天然はなかなかこういう風にはいかない。一本釣りは、釣ってから、船に上がるまで、長時間、魚と格闘をする。その間に、魚は疲れるし、必死で泳ぐから体温が上がる。築地のまぐろ屋いわく、大間のマグロは半分ぐらい焼けているらしい。当たり外れがあるわけだ。また、船によっては魚を冷やし込むスペースが無いので、そのまま船の脇にぶら下げて港に帰ったりする。巻き網の処理はさらに遅くなる。網みの中で大暴れした後、一昼夜かけて港まで帰る。それから慌てて、処理をする。境港のマグロは、港に着く頃はすでに冷凍できる状態では無い。

素早く適切な処理ができるかどうかは、味に大きく関わってくる。まともな処理をされていない天然よりも、ちゃんとした処理がされている養殖の方が、外れは少ない。そのあたりのメリットを出していくと良いと思う。養殖マグロも、天然とは別の価値をもつブランドを築いてほしいし、そうでなければ産業として残れないだろう。

あと、「クロマグロの体長は大きなもので3メートルを超え、重さは400キロにもおよぶ」というのは、天然の話です。養殖クロマグロは30kgぐらいで出荷されます。このサイズを超えると卵を持つようになるので、成長が悪くなるから、非効率だからです。

3)養殖はえさ代がかかるので、庶民の味にはなり得ない

1kgのマグロをつくるのに、20kgのイワシ・サバが必要。これらの餌は1kgが70円として、えさ代だけで1400円になる。必要経費はそれだけでは無い。マグロ養殖の場合は、設備投資、人件費、種苗代など諸々込みで、2500円ぐらいが損益分岐点と言われている。養殖は、網ごと津波で流されたり、病気などのリスクがあるので、キロ3500円では売りたい。現状よりも安くなると経営的に厳しいのである。実は、現状ではマグロ養殖は余り儲かるとは言えない。だいたいがトントンで、経営体によっては赤字だろう。将来的に技術が確立されてくるとコストが下がって、回収できるとふんで、先行投資をしているのである。

値段がどんどん安くなって、庶民の味になったらどうなるだろうか。マダイとハマチの養殖が、現在どうなっているかを見ればわかる。マダイとハマチ(ブリ)は、養殖技術が70年代に確立されて、急激に広がった。その結果、高級魚であったマダイとハマチの値段が安くなった。「めでたしめでたし」というと、そうでは無い。生産現場はかなり末期的な状況だ。

マイワシの不漁と魚粉の国際価格の上昇によって、えさ代が原価の8割以上になってしまった。これに設備投資やワクチン代、種苗代などと入れると、つくる前から赤字確定の場合もあります。マダイやハマチの養殖業者は零細が多いので、夏頃にはえさ代がショートするわけです。そこで、スーパーマーケットに安く前金で販売して、冬場までのえさ代に充てるというような状況になっています。スーパーのために、ただ働きをしているようなものですね。マダイ、ブリの養殖業者はばたばた倒産しています。獲る漁業よりも、むしろ、養殖業の方が経営体の減少率が大きいのです。漁業経営体全体が23/5%減る間に、ブリ養殖業者は34.7%、マダイ養殖業者は40.1%も減っています。

http://nria.fra.affrc.go.jp/kenkyu/sekai/2_3_2.html

獲る漁業は、船を出さないと経費はかからないのですが、養殖は設備投資をしているので、魚をつくらないわけにはいかない。でも、今の餌代と魚価では、つくっても赤字が確定的。結果として、体力が無いところから淘汰されているという状況。養殖マグロの場合も、1kg2500円を割るとこのような事態になります。マグロ養殖業が産業として生き残るには、キロ単価2500円+αを死守する必要があるのです。1kg 2500円ということは、100gで250円。売値は原価の3倍程度になるので、店に並ぶのは、100gで750円ということですね。利益を出すにはもっと高く売らないと駄目。つまり、マグロ養殖業が産業として成り立つためには、豚肉や鶏肉のような値段にはならないのです。

4)天然の方が安い場合も多い

24年1月には東京・築地の中央卸売市場で、269キロの青森県大間産のクロマグロが、築地では過去最高値となる5649万円で競り落とされた。1キロあたり21万円。仮に握りずし1貫(2個)分の価格を計算すると、「赤身で1万円以上、大トロで2万~3万円」(市場関係者)で、庶民が気軽に食べられるものではない。

これに対し、今回の料理店では「養殖クロマグロの頭の先から尾ひれまで、あらゆる部位を食材として活用し、少しでもお値打ちな料金で提供したい」(近大担当)。客単価は、昼食時で1千円前後、夕食時で3500~6千円を想定しており、いずれも大阪・梅田付近では平均的な価格となる。

産経の記事のおかしなところは、築地の初セリという例外中の例外のような価格を引き合いにして、近大マグロの割安感を引き出していることだ。1キロ21万円のマグロなんて、誰も食べないよ。すしざんまいも、別に初セリのマグロで利益を出そうとは思っていないので、「初競り 大間産まぐろ 中トロ」だって、1貫 312円で店に並べていたのです。1キロ21万円はマグロの価値では無くて、広告費だから。初セリのマグロを落とせば全国ネットでテレビ取材されて、店の露出になる。たったの5千万円で、NHKから民放までゴールデンタイムに放送してくれるのだから、えらく効率が良いのです。こういう法外な値段がつくのは、メディアが取材をする築地の初セリの1番良いマグロ1本だけ。普通は、大間の本マグロだってキロ1万円とかそれぐらいですよ。この辺の仕組みはメディア関係者なら知っているはずなんだけど。

では、養殖マグロの市場の評価はどんなもんでしょうか。クロマグロの養殖と天然のキロ単価(産地)を図示したのがこの図になる。

養殖まぐろの産地価格(漁業情報サービスセンター)

天然は冬に価格が高いですね。12月から3月ぐらいの脂ののったマグロは実に旨いです。一方、7~8月は天然の相場が急落します。これは、産卵場のやせたマグロを巻き網で集中漁獲しているためです。養殖マグロは1年を通して、価格が安定していますが、市場の評価としては、天然の低ランクと同程度というところでしょうか。注目して欲しいのは、7月、8月には天然の方が養殖よりも安くなっている点です。大量漁獲される産卵期の巻き網のクロマグロは、1kg1200円ぐらいまで落ちるので、養殖の半値ですね。同じく巻き網で漁獲される未成魚(ヨコワ)は1kg500円ですから、養殖マグロの1/5ぐらいの値段なわけです。餌代を考慮すると、こういう値段のクロマグロとは太刀打ちできません。

つまり、天然は高いけど、養殖は安いというような単純な構図ではないのです。天然はピンキリに対して、養殖は品質が安定しているのが特徴です。

築地の初セリ(広告費)>>>>>>冬の一本釣り・延縄のマグロ>普通の天然マグロ>養殖マグロ>境港の巻き網マグロ>巻き網のヨコワ

養殖よりも安い天然はいくらでも存在するのです。例外中の例外である築地の初セリを引き合いに出して、「近大マグロは安い」というのはあまりにも無理がある話。そもそも、養殖マグロは、天然と比較しても、それなりの値段で売らないと利益が出ないわけです。

5)場所の制約があるので、養殖の生産量は増やせない

一般人が誤解しやすいポイントなんだけど、養殖って、いくらでも魚を作れるわけじゃ無いのです。養殖をするにはそれに適した場所が必要。

マグロ養殖.net http://www.yousyokugyojyou.net/index4.htm

ここにマグロ養殖場の地図がある。太平洋側は三重が、日本海は隠岐が北限。これより水温が低くなると、魚の成長が遅くなって、採算がとれないのだ。三重の経営体は、巻き網漁船が、兼業でマグロの養殖もやっている。自前で餌が確保できるという経営上の強みがあるから、この水温でも何とかなっているみたい。餌を外から買ってくる方式だと厳しいのでは無いかな。

水温が暖かくて、マグロ用の大きな生け簀を浮かべられて、それなりに深い湾というのはそう多くない。マグロの養殖適地は、企業の争奪戦でほぼすべてが埋まっている。ということは現状の1万トンから、養殖マグロの生産量を増やす余地は無いのである。日本人が消費するマグロ40万トンのうち、クロマグロ(太平洋・大西洋)は4万トンに過ぎない。日本の養殖で生産できるのはそのうちの1万トンが上限。もちろん、陸上養殖や沖合沈下型養殖といった技術が場所の制約を軽くする可能性はある。これらの技術は、大量生産の目処は立っていないし、生産コストがかかるので、現状以上に割高になるのは避けられない。養殖で安くいくらでも生産できるという甘い話は無い。

まとめ

「養殖による大量生産で本当にクロマグロが手の届く価格になるまでにはもう少し時間がかかるかもしれない」とあるけど、具体的にどういう生産体制になってどこまで値段がさがるのか、まるでビジョンが見えない。どれだけ技術革新をしたところで、漁場の制約や餌のことを考えると、養殖クロマグロを安価にいくらでも食べられる日は、未来永劫こないだろう。養殖技術が完成の域に達しているマダイやハマチはどうなったかというと、現在は採算がとれずに縮小している。

クロマグロ養殖の課題は、採算度外視で公的資金を垂れ流してやってきた事業を、黒字ベースにすることだろう。規模を拡大してスケールメリットでコストを抑えるというのは、養殖適地が限られているので難しい。量で勝負というのは、構造的に出来ないのだから、質で勝負するしか無い。現在の8千~1万トンの生産を維持するには、生産コストに見合った価格で販売することが必須。天然と差別化できるものをつくって、その価値をきちんと消費者に伝える努力が必要だろう。

【書評】道の駅「萩しーまーと」が繁盛しているわけ


 

 

先日訪問した萩しーまーとの中澤さかな店長が成功の秘訣をまとめた本を出版されました。とても良い本なので、紹介します。

魚ビジネスは、あまり景気が良い話がありません。『売れない→仕方がないから値段を下げる→売り上げが落ちる』というのが、ほとんどの魚売り場の共通する悩みではないでしょうか。量販店では、質と品質(サイズ)の安定供給が重視されるので、多種多様な四季折々の地魚は売りづらい状態です。「本当は美味しいのに、扱ってもらえない」という声が、全国の漁港できかれます。

地魚が売れる道の駅が、山口県にあるときいて、取材に行きました。

ブログ記事はこちら。

店長インタビューはこちら

実際に、萩しーまーとを訪問し、中澤店長の話をうかがって痛感したのは、「セオリーに忠実に、ちゃんとした売り方をすれば、ちゃんと魚は売れる」ということ。しーまーとの店舗は昔懐かしの魚屋スタイル。生きの良い多種多様な地魚がならんでいる。店内にはレジが17個もあり、それぞれの売り場を熟知した店員が対面販売を行っている。おすすめは何か、食べ方はどうすればよいのか、といったことも親切丁寧に教えてくれる。「そういえば、昔は、魚屋さんが、魚の食べ方を教えてくれていたよなぁ。スーパーではだれも魚の食べ方を教えてくれないから、魚食のハードルが高くなったよなぁ」と実感。水産庁のファストフィッシュのように、何も知らなくても、何も考えなくても、魚を消費できるようにするというのも一つのやり方かもしれないけど、俺として、萩しーまーとのようにきっちりと消費者教育ができるような売り場を応援したい。

魚屋自体が全国的に淘汰される中で、ただ、先祖返りをしても明るい未来は無い。そこは、元リクルートの中澤店長の腕の見せ所というわけだ。NHKテレビ山口放送局、FM萩、萩ケーブルネットワークなど、多様なメディアに毎週5分間、お魚情報を流すレギュラー番組を持ち、週刊誌、月刊誌でも連載をする。こういう露出を行うことで、消費者の関心を旬の地魚に引きつけ、ちゃんと対面販売をすることで、顧客満足度を高める。結果として、地元のリピーターの獲得に結びついた。さかなさんご本人が「奇抜なアイデアなどなにもない。当たり前のことを、やっただけです」と言われるように、本当に基本に忠実。「当たり前に考えれば、そうなるなるよなぁ」と思うようなことを、一つ一つカタチにしていったのが萩しーまーとだ。マーケティングとマーチャンダイジングをきちんとやることで、道の駅は、水産業活性化の多機能拠点施設になり得るということです。

最初、萩では、観光客目当ての道の駅ビジネスを予定していた。しかし、中澤店長は、全国100店舗以上の道の駅を視察して、観光客相手の商売は不安定でリスクが大きいことを実感。当初の予定通りの出店をすれば、数年後には店をたたむことになると危機感をもち、地元客に魚を売るという方針を180度方向転換。「近き者悦び、遠き者来る」、つまり、地元客を呼び込むことが、結果として、観光客も呼び寄せることに成功しました。

これまでの魚ビジネスは、業界の慣習に忠実であった。業界全体が沈没しているときに前例踏襲では先が無い。これからの魚ビジネスは、モノを売ることの基本に忠実になり、消費者に価値を届けることを使命とすべきである。消費者が価値を感じれば、必ずリピーターになり、長期的な売り上げは確保できる。そう確信させてくれる一冊です。

全国漁業者高齢化ランキング


1 山形県 0.673333
2 新潟県 0.661165
3 山口県 0.636174
4 秋田県 0.60966
5 三重県 0.602393
6 千葉県 0.593813
7 岡山県 0.591625
8 広島県 0.585289
9 島根県 0.569531
10 石川県 0.568657
11 徳島県 0.553184
12 和歌山県 0.550484
13 香川県 0.532007
14 福井県 0.519345
15 京都府 0.519273
16 大分県 0.512747
17 岩手県 0.512666
18 熊本県 0.511809
19 高知県 0.504179
20 神奈川県 0.496394
21 静岡県 0.495619
22 愛知県 0.495165
23 全国 0.467978
24 宮城県 0.464678
25 富山県 0.460459
26 愛媛県 0.447804
27 長崎県 0.446811
28 青森県 0.445636
29 福岡県 0.439585
30 鹿児島県 0.435761
31 鳥取県 0.425383
32 大阪府 0.416896
33 兵庫県 0.415076
34 東京都 0.391794
35 茨城県 0.357834
36 宮崎県 0.356845
37 福島県 0.354561
38 沖縄県 0.335963
39 北海道 0.334724
40 佐賀県 0.315153

漁業センサス2008より、各都道府県の漁業者のなかで、60歳以上の割合を計算

なぜ、道の駅「萩しーまーと」では、地魚が飛ぶように売れるのか?


スーパーマーケットの鮮魚コーナーは、おなじみの魚が並ぶ。日本全国、どこでも似たような品揃えだ。多種多様な魚を扱っていた魚屋は、全国的に衰退し、四季折々の地魚はどんどん売れなくなっている。

そんな中、山口県の道の駅「萩しーまーと」では、地魚が売れて売れてしかたが無いという噂をキャッチした。どうして、よそでは売れない地魚が、萩しーまーとでは売れるのだろうか? 先日、水産学会が下関で開催されたので、萩まで足を伸ばして取材をしてきました。

萩のシーマートはここ。

萩漁港のすぐ隣です。萩の市場に水揚げされた魚をリアカーで裏の店まで運んでくる。朝の競りの後に、魚をすぐに並べられるという絶好のロケーションになっている。

訪問した日は、大型の台風が九州を直撃していた。電車は普通になって、萩は陸の孤島になっていた。そんな中でも9時の開店前から、お客さんが続々とやってきた。自家用車で、地元のナンバーが多い。観光地の道の駅というと、観光客向けというイメージがあるのだが、ここは地元に支持されている。

道の駅の中には、昔ながらの魚屋さんが軒を並べている。それぞれに店員がいて、いろいろ教えてくれる。道の駅と言うより、魚屋が集まった市場のような感じ。

色とりどりの地魚が並んでいます。見たことが無い魚でも、店の人が食べたかを教えてくれるので、安心です。昔はどこの町にもあったこういう光景は、今ではすっかり消えてしまいましたね。

 

萩しーまーとは全国に1000近くある道の駅において、売り上げおよびビジネスモデルの卓越性で有名になっている。全国的に魚屋が廃れる中で、魚屋スタイルの道の駅が繁盛している。そのポイントを中澤店長に直撃しました。

 

 

↓ 萩しーまーとのビジネスモデルに興味を持った人は、こちらをご覧ください。

http://www.shokosoken.or.jp/jyosei/soshiki/s19nen/s19-5.pdf

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