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過去50年の水産物のストロンチウムのトレンド


全体の傾向

昨日紹介したデータベースを使って、ストロンチウムの濃度を調べてみました。311以降は、水産物からストロンチウムを検査した事例がないので、311より前の長期データを整理しただけです。今後は水産物のストロンチウムの調査を強化するようですから、データの蓄積に期待しましょう。

データベースには、1964-2008までのデータがありました。各年の平均値(Sr-90 Bq/kg)を対数軸で表現するとこんな感じになります。セシウムと同様に、指数関数的な減少傾向を示していますが、汚染濃度がセシウムより低くなっています。また、セシウムと異なり、1986年のチェルノブイリの事故の影響をグラフから読み取ることが出来ません。「ストロンチウムはセシウムほど長距離飛ばない」、「原発事故ではストロンチウムの割合が少ない」といわれていますが、それを支持する結果です。

 

分類群ごとの違い

分類群による違いを見たのが次の図です。他の生物と比較して、淡水魚の値が高くなっています。次に藻類で、魚類(海産)は低ようです。淡水魚と海産魚は、Sr-90の濃度に100倍の差があります。福島近辺の淡水魚を食べるときには、注意が必要です。安全性が確認できるまで、子供にはあたえないことを、強くお勧めします。

 

計測部位による違い

海産魚の計測部位別に図示すると次のようになります。可食部というのは、頭・骨・内蔵を抜いた状態と思われます。おそらく肉も同じでしょう。部位が空白のデータもあったのですが、値から察するに全体と同じような感じです。

 

骨抜き(可食部・肉)と骨あり(全体・空白)でグループわけしてみると明瞭な違いが見られます。骨を取り除くことで、Sr-90を7~8割除去できるようです。逆に言うと、身にも2~3割は含まれるということでもあります。

 

減少率について

指数曲線を当てはめてみると、減少率は年間約10%、半減期は6.5年と推定されました。Sr-90の半減期は28.8年ですから、それよりもずいぶんと早いペースで減っていることになります。おそらく、海水の希釈効果でバックグラウンドの濃度が下がっているものと思われます。

そもそも内部被曝の限界を上げる必要があったのか?


ICRPが定める公衆被曝限界は1年間に1mSvとなっています。3/29日に、緊急事態だからと言うことで、この被曝限界を大幅に超えた暫定基準値が設定されました。ヨウ素2mSv/年、セシウム5mSv/年ですから、ICRPの被曝限界を大幅に上回ることになります。ICRPの基準である1mSv/年を遵守しようとすると、食品の基準値にはどの程度の値になるかが、次の文書に書いてあります。

緊急時における食品の放射能測定マニュアル  (平成14年3月)

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001558e-img/2r98520000015cfn.pdf

このPDFは測定法のマニュアルなんですが、通常時の基準の考え方がわかりやすく説明されています。

事故後 1 ヶ月以降 1 年間での食物摂取による被ばくを実効線量で1mSv/年とする。これを放射性セシウムについて、牛乳・乳製品、野菜類、穀類及び肉・卵・魚・その他の 4 食品群にそれぞれ 0.1 mSv/年を割り当てると、各食品群の Cs(セシウム)-137 濃度はそれぞれ 20、50、50、50(Bq/kg,L)以上となる。

基準値の考え方を解説

目的: 食物摂取による内部被曝を1年間で1mSvに抑える

内部被曝の大半を占めるであろうセシウム137について、牛乳・乳製品、野菜類、穀類及び肉・卵・魚・その他の 4 食品群にそれぞれ 0.1 mSv/年を割り当てる

それぞれの食品群の消費量から、年間の被曝を0.1mSvに抑えるための上限の Cs-137 濃度が計算できる

食品群 基準値
牛乳・乳製品 20Bq/L
野菜類 50Bq/kg
穀類 50Bq/kg
肉・卵・魚・その他 50Bq/kg

このマニュアルは、ICRPが定める公衆被曝限界1mSvに準拠したものになっています。ICRPの公衆被曝限界は、外部被曝を含むので、内部被曝のみで1mSvというのは厳密に言えばアウトです。

現在の暫定基準値は、ここに示された値の10倍に相当します。現在はこれらの食品群ごとにセシウムのみで1mSvの許容水準が割り振られています。さらに、食品安全委員会は、将来的には内部被曝の許容量を倍に増やすことを提案していますが、その場合の基準値は、実に20倍になります。

では、もともとの基準は、実行不可能なのでしょうか。私はそうは思いません。水産物でセシウム(134+137)が50Bq/kgを超えるのは、茨城県と福島県の海産魚(の一部)と関東全域の淡水魚ぐらいです(例外は北海道のカラフトマス1例のみ)。これらを避ければ、十分に達成可能な目標なのです。

福島と茨城の漁獲量は全国の約9%です。漁獲量の中で、大きなウェイトを占めている、大中巻き網とサンマ棒うけ網は、福島周辺海域で操業が限定されません。これらの漁業をのぞくと、日本の漁獲量の3%です。日本の水産物の自給率は半分程度です。我々の食卓に上る水産物の1.5%を止めれば、以前の目標も十分に達成可能なのです。今後、汚染がどれぐらい広がるか、どれぐらい蓄積するかや、回遊魚がどうなるかと言った不確実なファクターはありますが、基準を10倍に上げなければならないような状況だとは思いません。安易に基準値を上げる前に、ICRPが定める公衆被曝限度1mSv守るべく最大限の努力をすべきです。1mSvという限度がどうしても守れない場合にも、少しでも1mSvに近づける努力が必要と考えます。

参考資料

水産庁資料より、セシウムが50Bq/kgを超えるデータを抜粋)

続きを読む

食品の放射性物質の暫定基準値はどうやって決まったか


注意:このページの内容はβ版です。理解が不十分な点も含まれます。100%信頼するのではなく、理解する参考ぐらいに思ってください。現在、情報を収集中ですので、理解が進んだら、内容的により正しいものを、よりわかりやすく書き直します。


「日本の放射性物質の暫定基準値は甘すぎるっ!!」という非難の声が高まっています。その一方で、じゃあ何ベクレルが良いのかという議論はあまり見かけません。

非難が多い割に、議論が少ない理由の一つは、現在の暫定基準の導出過程が、理解されていないことでしょう。なぜ今の暫定基準値になったかがわからなければ、その妥当性について踏み込んだ議論はできません。批判をするにしても、導出過程の問題点を指摘した方が、効果的です。食品、特に水産物の放射性セシウムの暫定基準値500Bq/kgの妥当性について、建設的な議論/批判を促すために、どうやって今の暫定基準値が決められたかを整理してみます。

放射線防護の基本的な考え方

放射線から国民を守るための基本的な考え方は上の図のようになります。

1)まず国民がさらされる被曝の上限を定めます。この被曝量以上は国として強い措置をとって取り除くことになります。

2)外部被曝と内部被曝の合計が、被曝上限を超えないようにそれぞれの上限を定めます。

3)内部被曝は、セシウム、ヨウ素、プルトニウムなど、様々な核種によってもたらされます。また、被曝源も飲用水、野菜、魚など多岐にわたっています。それぞれの食品別・核種別の許容上限を、合計が内部被曝の上限を超えないように設定します。

4)食品別・核種別の内部被曝上限(mSv)を設定すれば、その内部被曝上限を守るには、食品の汚染がどこまで許容できるかが、年齢別に計算できます。

ここでは、1)から4)のプロセスを検証したいのですが、後述しますが、日本の場合は2)と3)の一部が抜けているように思えるのです。

 

暫定基準値の上限となる被曝量について

日本の暫定基準値の設定基準となる内部被曝の上限について、2011(平成23)年3月25日の第373回 食品安全委員会で議論されました。

http://www.fsc.go.jp/fsciis/meetingMaterial/show/kai20110325sfc

基本は議事録です。日本にとって重要な資料ですから、是非読んでください。資料を印刷して、手元に準備しておくと、読みやすいでしょう。

この手の会議は、役所が準備した筋書き通りに進みます。ゼロから委員が議論をして、暫定基準値が2時間の会議で決められるわけはありませんから、ほぼ予定調和でしょう。この会議の場合は、厚労省がICRPやWHOの勧告を参考に、5mSv/yearが妥当ではないかという原案を説明し、それを委員が質疑をするという流れです。暫定基準値を実質的に決めたのは厚労省といえそうです。

主な意見としては、1)10mSvでも全く問題ないという立場が、津金専門委員、滝澤専門参考人。2) 公衆被曝は1mSvが基本だが、現状を考えると基準をあげるのはやむないというのが中川専門参考人。3)低濃度でもリスクがあると指摘したのが、菅谷専門参考人です。

議事録抜粋(全文読むことを推奨)

○津金専門委員
100mSv以下ではほとんど発がんリスクということは、今のところ明らかになっていない現状で、それよりも低い5mSvとか10mSvとか、そういうレベルを目指してとりあえずやっているわけですから、基本的には発がん影響はないようなレベルの更に1けた下ぐらいのレベルで考えていて、この基準値が今できているんだという共通理解をする必要があるのではないかと思います。

ある意味では健康影響が見えないという状況の中で、どちらかというと厳し目に設定してICRPが決めているわけですね。それの5~50mSvのうちの一番低いところを基準として、今の基準値が決められているということを考えることが重要ですね。今の基準値というのは、5~50mSvのうちの一番下限値を取っている。それで、さっきの資料7の(2)に書いているように「住民集団が重大な混乱に陥りそうな状況では、1年につき10mSvよりもはるかに高い予測線量レベルでのみ介入は正当化されるかもしれない」というようなことで、今、まさにかなり混乱に陥っているという状況だと思うので、今の基準レベルよりも少なくとも低くなることはあり得ないような気がします。

○滝澤専門参考人
私も全く、今の津金先生の御意見と、特にUNSCEARの委員長も、いわゆる事件後の心的外傷後のストレス障害はリスクとすべき課題である。そういった中であれば、いわゆるICRPのPublication40の10mSvでよく、核種については放射性ヨウ素とセシウムです

○中川専門参考人
しかし仮に原発が収まれば、どうも収まらないような兆しがあって、3号機は格納容器が破損しているなどという情報があるようですけれども、そうすればヨウ素にしても年の単位になるでしょうし、セシウムはどの道30年、土壌にはあるわけです

一方、少し共通認識をしたいと思うんですが、今の公衆の被曝限度は1mSvです。その1mSvをどうしようかというのが最終的なゴールになる。この会のものではないかもしれませんが、全体的にはこの公衆の1mSvという被曝限度をどうするかという議論になるはずで、それを考えると、まず確定的影響を考える必要はもちろんないわけですし、胎児の被曝についても50mSvになるということには到底行かないわけです。

今は公衆被曝限度の1mSvを大幅に上げなさいと言っているわけです。このこと自体、この委員会で検討するべきことでないことは私は重々わかっているんですが、最終的にこういった議論をしなければいけない。そうでなければ生きていけない。緊急時でありますので、国民が今、平時と思っているかどうかはともかく、現実にはこれはどう見ても緊急時であります。したがって、ここに書いてあるような、例えば和文の下から2番目のパラグラフに、その場合、委員会は1年間に1~20mSvの範囲の参考レベルを選択し、つまり場合によっては20倍に上げて、そして長期的には元の1mSvに戻せ。これをICRPが言っているわけです。こうせざるを得ないような状況だと思います。そのときに、この委員会としては、この上げ幅に相当する食品の規制値の変更、増加となった場合のリスク評価をするということがよろしいのではないでしょうか。つまり、何倍かに上げたときに一体、人体影響が、発がんの影響がどれだけ出るのか。それはわからないのかという議論をすべきではないかと思っております。

○菅谷専門参考人
子どもの甲状腺がんというのは100万人に1人から2人なのでございます。ベラルーシなどでは、爆発事故の前はほぼ同じくあったんです。それが今度は高濃度の汚染地、それから低濃度の汚染地を見ていますと、全体で見ますと、やはり高濃度の汚染地で、ゴメリ州では130倍に増えているわけです。これは単に検査が進んだからとかそういうような状況ではないだろうと思っていますし、また少し低濃度のところでも、やはり世界に比べると高いということが出ておりまして、そういう中でいきますと、今日は別ですけれども、今回はそういうメカニズムは見ていくべきであろうと思っています。それから、甲状腺がんは確かに分化がんと未分化がんとかいろいろ、わかるんですけれども、非常に予後はいいというのは確かで、ところがあの15歳とか5歳とか、あるいは10歳の子どもたちが甲状腺がんの手術を受けた後の気持ちも考えなければいけない。単に予後がいいから甲状腺がんはこうですというのは、やはり私としましては納得できませんし、またあの中には乳頭がん、あるいは濾胞がんでもって肺転移をして、アイソトープの治療もやっている子どももたくさんいるわけです。そういうことが全然オープンになっていませんから、ここでは単に甲状腺がんは予後がいいからという、それは私は、実際に現場でもって5年半やってきた人間からしたら、そのことは別と考えた方がいい。そのように思っております。

この問題につきましては、私、今も継続してチェックしておるのでございますけれども、向こうの産婦人科のドクターの話を聞きますと、やはり低体重の出生児の問題と、早産と、それから未熟児から発生するところの奇形の問題も事故前と比べて増えているというお話がありますが、これもあくまでもきちっとした詳しいデータではないものですから、産婦人科の先生からのデータでは、やはり一番の問題は未熟児の問題、もう一つは子どもたちの免疫機能の低下によって非常に感染しやすいとか、そういう問題は出ております。

津金専門委員・滝澤専門参考人と中川専門参考人では、全く考え方が異なります。

津金専門委員と滝澤専門参考人は、5mSv(10mSv)は健康に問題が無いので妥当であるという立場。10mSvまでの被曝は無害なので、その水準までの被曝に対策は不要という立場です。一方、中川専門参考人は、あくまで 公衆被曝は1mSvが基本だが、現在の危機的状況を考えると基準をあげるのはやむをえないという立場です。中川専門委員の判断の妥当性を、ここでは論じることができません。なぜなら、現状がどれほど危機的な状況かという情報を、我々は知らされていないからです。中川専門委員は、原子炉の状態を始め、我々一般国民が知り得ないレベルの情報を持っています。その上で、高度な専門知識を駆使して、「公衆被曝限度の1mSvを大幅に上げなさい・・・そうでなければ生きていけない」とまで、断言しているのです。この言葉はものすごく重たいです。ぎりぎりの危機対応を迫られている状況にもかかわらず、その情報が国民と共有されていないという点に、私は不満を持ちます。

で、食品安全委員会の結論は、次のように報道されています。

食品安全委員会は、一人が一年間に飲食物からとる放射性ヨウ素と放射性セシウムの上限について「現在、暫定的に使っている基準で安全だ」とする結論をまと めた。ただ、放射性セシウムについては、上限を現在の基準の2倍となる年間10ミリシーベルトにしてもよいことが盛り込まれた。

http://www.news24.jp/articles/2011/03/29/07179717.html

よくわからない点

「放射性ヨウ素と放射性セシウムの上限について5mSv/yearという基準で安全だ」とされているのですが、議事録を読む限り、「公衆被曝の上限の議論で、5mSvを支持した委員が2名いた」というのが私の理解です。全体の上限であった5mSv/yearがいつの間にか各核種グループの上限にすり替えられているような印象をうけます。5mSvをそれぞれの核種グループの上限とするのが適切か否か、ご存じの方は情報提供をお願いします。この点が個人的に違和感が残っています。

基準値を計算してみよう

上限が5mSvと言うのが決まれば、食品の汚染の上限(Bq/kg)は計算できます。具体的な計算方法は、この読みづらい資料(「飲食物摂取制限に関する指標について」 原子力安全委員会 平成10年3月6日をみてください。これが、わかりづらいのなんのって、だいぶ苦戦しました。この計算の説明「基準値の根拠を追う:放射性セシウムの暫定規制値のケース」に助けられましたが、それでも難しい。ということで、考え方を簡単に説明します。

日本の放射性物質暫定基準の計算法について

おもだった核種グループに線量を割り当てます

ヨウ素は甲状腺50mSv/yearなのですが、これは全身だと2mSv/yearに相当するようです。セシウム・ストロンチウムで5mSv/year、ウランが5mSv/year, プルトニウムが5mSv/yearとなっております。それぞれ別腹ですから、この時点で最大で17mSv/yearの内部被曝を許容していることになります。これに外部被曝が加わるわけです。先ほどの会議で、「5mSv/year~10mSv/yearなら問題ない」といっていたのは、被曝量全体だったはず。ならば、5mSvをそれぞれのグループに配分するのが筋だと思うのですが、私の理解不足でしょうか。日本の放射線防護は、被曝上限を定めて、それをトータルで守るような方法になっていないようです。文科省は外部被曝だけで20mSv、厚労省は内部被曝だけで17mSv許容しています。省庁横断的に、国として、国民を被曝から守るためのグランドデザインの作成が急務と感じます。

食品カテゴリーに配分

それでは、セシウム、ストロンチウムに配分された5mSvがどのように配分されるかをみてみましょう。食品を5つのカテゴリーに分けて、それぞれに1mSvずつを割り振っています。1年間に、肉・卵・魚介類その他に起因するセシウム・ストロンチウムの内部被曝を1mSvに抑えるような基準が選ばれます。というかこの時点で、すでにICRPの公衆被曝目標なのですから、何かおかしい気がします。

ストロンチウムとセシウムの総量を計算

核種群のトータルの被曝を計算します。このグループには、Sr-89, Sr-90, Cs-134, Cs-137という4種類の放射性物質が含まれます。それぞれの比率をチェルノブイリの降下物の分析結果から、与えます。こんなおおざっぱな方法で良いのだろうかと思ったのですが、福島のデータでも大体同じような感じになります。ここでのポイントは、核種の崩壊による現象を考慮している点です。たとえば、Sr-89の半減期は50.5日ですから、約50日で半分、101日で1/4という具合に減っていくのです。この減って幾分も予め計算に入っています。今ある汚染が崩壊して、消えていくだけという状況を仮定しているのです。単発の事故で、広範囲が汚染されたような場合には、当てはまるかと思います。放出が長期化する場合は、このモデルは当てはめられません。また、捕食魚の汚染は食物連鎖を通じて時間遅れで蓄積していきますので、崩壊で汚染が単調減少するモデルをつかうと、水産物由来の被曝量を過小推定します。

内部被曝を実効線量に換算する

それぞれの核種1Bqの内部被曝が預託実効線量何mSvに相当するかをしめす、実効線量換算係数というパラメータがあります。それぞれの核種の量(Bq/kg)に、1日の摂取量(kg)と実効線量換算係数(mSv/Bq)をかけてやれば預託実効線量(mSv)がでます。これを1年間積分すれば、放射性セシウムが1Bq/kg含まれた食品を1年間食べた場合に、セシウムおよびストロンチウムの内部被曝に由来する預託実効線量を計算できます。基準値としては、実効線量が2mSvになるような初期のセシウムの濃度を求めればよいのです。希釈という概念が出てくるので、1mSVではなくて、2mSvなのです。複雑ですね。読んでて、うんざりしてきましたか? 書いている方はもっとうんざりですよ。でも、もうちょっとなので、がんばりましょう。

希釈(市場希釈)

希釈については、当初は間違えた解釈に従って、間違えた説明をしていました。謹んで訂正いたします

我々の食卓には、国産ばかりでなく、輸入品も含めて、広い地域から食品がやってきます。全ての食品が一律に放射能に汚染されるわけではなく、一部の食品が基準値を超えたとしても、クリーンな食品も口にするわけです。地産地消100%でないかぎり、汚染された食品だけを口にするという仮定は現実的ではありません。汚染されていない食品をたべることで、食品カテゴリ内の汚染が薄められます。これを希釈と呼んでいます。日本では、希釈率0.5を採用しています。日本の食料自給率は60%です。我々が口にする水産物の半分は輸入です。ということは国産魚が全て汚染されたとしても、輸入魚が半分あるわけだから、希釈率は0.5で良いことになります。筆者は、忌諱すべき水産物の汚染は、福島周辺の一部の領域にとどまると見ていますから、希釈率0.5というのは水産物に関して言うと保守的な値と言えそうです。

希釈というのは、学習によって汚染食物を避ける効果のようです。最初は、放射能汚染に気がつかずに食べていても、じきに「やばい」という報道がなされて、食べる人が少なくなります。社会がちゃんと学習することを織り込み済みなのです。この希釈(学習的忌諱行動)によって、トータルの内部被曝が半分にできると、ここでは考えます。学習は時間とともに進行するプロセスですから、下の図のような感じになると思います。

基準値以下の食品をのほほんと食べ続けると、内部被曝は目標の倍になります。半分にしようと思うと、「1年後には、汚染食料はほとんど食べない」ぐらいの勢いで、素早く学習をする必要があります。「基準値以下であっても被曝は極力避ける」「どんな食品が汚染されているかを周知する」という2点を徹底して周知する必要があります。では、我が国の基準値は、消費者が避けるべき危険な値として周知されているでしょうか。農水省は、「基準値以下の食品は安全です」という立場です。むしろ、基準値以下の食品を避けると、風評被害を煽ると非難されそうです。

希釈を入れるかどうかで、基準値の意味が変わってきます。希釈を入れるなら、「基準値以下であっても危険なので、消費者は避けるべき」という前提で、基準値以下であっても汚染食品を消費者が避けられるように行政は最大の努力をしないといけない。逆に、「基準値以下なら安心」というなら、希釈効果を取り除いて、基準値を現在の半分に落とさないといけない。現状は、厚労省は希釈込みで危険な基準値を出しておきながら、農水省は「基準値以下は安全です」と希釈を無視している。各省庁が意思の疎通の無いまま、独自の解釈で行動をして、結果として、国民に目標の倍の内部被曝を強要しているような状態です。国として意思統一を図るべきだと思います。

 

結果

現在の暫定基準値の式に従って計算したの結果が下の表です。実効線量換算係数やそれぞれの食品カテゴリーの摂取量は年齢によって異なるので、基準となる汚染濃度も年齢によって異なります。全てのカテゴリーで、一番値が小さい年齢群の値を採用し、きりの良い数字まで下げていきます。こうして、基準値が計算できたのです。興味深いのが5カテゴリー中、4カテゴリーで成人が一番低くなっています。実は大人は打たれ弱いようです。

成人 幼児 乳児 基準値
飲料水 201 421 228 200
牛乳 1661 843 270 200
野菜 554 1686 1540 500
穀類 1107 3831 2940 500
肉・卵・魚介類・その他 664 4014 3234 500

 

細かい計算については、下のグーグルドキュメントを参考にしてください。数値的にはあっているので、計算的には正しいと思います。

https://spreadsheets.google.com/spreadsheet/ccc?key=0ArN_7X0ibziWdC1jSTJzTm9GZVhyR2psemNKbEtvZnc&hl=ja

ストロンチウムについて 追加情報


メールおよびツイッターで、ストロンチウムに関する有益な情報をいただいたので、転載します。医学や化学は私の守備範囲外なので、教えていただけると大変にありがたいです。

いつもブログを読ませてもらっています。医師をしています。放射線科医ではありません。
今日(5月24日)の記事で気になることがあるのでメールさせてもらいます。セシウムとストロンチウムの内部被爆は単に吸収線量だけで比較はできないんじゃないでしょうか。セシウムは体内半減期は約100日といわれていますが、ストロンチウムは約50年ですか??一旦骨に取りこまれると、ほぼ一生そこで放射線を出し続けます。1回食べた吸収線量は少なくても、蓄積されればすごい量になりますよ。また、体内で集積する場所が違います。セシウムは筋肉、ストロンチウムは骨です。放射線は部位によって危険度が違いますから、これもいっしょくたに議論はできないと思います。骨は骨髄を作る場所ですから、白血病の原因になりますし、圧倒的に肉腫よりも発生頻度が高いわけです。(放射線のリスク評価値というものがあります。http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/09/09020804/02.gif)放射線の議論はなかなか一般の人間が扱いにくいもののように思います。放射線の専門家ですら、本当にわかってるの??と思うときもあります。ストロンチウムはなるべく取らないに越したことのない放射性物質です。

骨に取り込まれるのストロンチウムは、避けるにこしたことは無いというご意見です。ごもっともと思います。

内部被曝に関する線量換算係数は、生物学的半減期を考慮しているはずです(http://www.remnet.jp/lecture/b05_01/4_1.html)。それでも、セシウムの方が影響が大きくなるのは、セシウムの量が多いからでしょう。ホテルに50泊する客(ストロンチウム)が一人よりも、1泊する客(セシウム)が100人いた方が、売り上げが大きくなるということですね。ただ、ストロンチウムが骨に集まる→骨が集中的にベータ線を浴びることの影響を正確に考慮しているかは疑問です。

また、ツイッターでは、妊産婦の話がでました。

  • ストロンチウムは授乳中の母親が摂取した場合10%吸収されそのうち20%、すなわち2%が母乳として子に移行するし。血中濃度との比較では10倍近い濃縮が起こるんだよ
  • 妊産婦はカルシウム代謝率が上がる

母乳を通した移動や、母体のカルシウム代謝が上がっていることを考えると、妊産婦も気をつけた方が良いという重要な指摘です。こういった可能性についても頭にとどめておくと良いのではないでしょうか。

肝心のストロンチウムを避ける方法ですが、海水のストロンチウムの観測値自体が少ない(地下水と5/8のみ)ので、細かい議論はできません。このまま、水産物のストロンチウムが検査されない可能性があります。2号機のセシウムと一緒に大量に出たはずなので、セシウムが検出される場合はストロンチウムもあると考えられます。また、骨やキチン質など、ストロンチウムを蓄積しやすい部位を避けるのも有効です。

  • セシウムの値が高い水産物は食べない。
  • ストロンチウムが貯まりやすい、エビ・カニの殻、魚の骨、褐藻は安全な海域のもののみを選んで食べる

ストロンチウムについては、チーム中川のブログが参考になります。「特に検出の難しい、“食品や環境中の放射性ストロンチウム”が観測できる体制を直ちに構築しておくことなどは、大変重要と考えます」と4/8の時点で指摘しておられます。

昨日のブログに書いたように、ストロンチウムは量としては限定的ですが、その影響については注意を払っていく必要がありそうです。

魚を骨ごと食べたときに、心配なのはセシウム。ストロンチウムじゃないよ


内部被曝に占めるセシウムとストロンチウムの比率

海水に大量の放射性物質が流出しましたが、2号炉由来が4700兆ベクレル。3号炉由来が20兆ベクレルなので、海水汚染の主役は2号炉です。2号炉の核種の濃度と半減期を考慮すると、海水中のセシウムとストロンチウムの比は、5/24現在で10:1程度と類推できます。仮に、海水の放射性セシウムが5Bq/Lとすると、ストロンチウムは0.5Bq/Lになります。魚(ほねごと)の濃縮係数はそれぞれ100と3だから、魚の汚染は、セシウムが500Bq/kg、ストロンチウムが1.5Bq/kgまで進むことになります(捕食魚だと飽和するまで半年以上かかる場合もあるので、現段階ではもっと低いはず)。仮に、汚染が進みきった魚(骨ごと)1kgを、乳児にあたえた場合、セシウム由来の内部被曝が0.01mSv, ストロンチウム由来の内部被曝が0.00001mSvとなる。

魚を骨ごと食べたとしても、ストロンチウム由来の内部被曝は、セシウム由来の内部被曝と比べて、圧倒的に少ない。放射線防護は、セシウム対策を中心に行うべきであり、セシウム由来の被曝を低く抑えれば、ストロンチウム由来の被曝も十分低く抑えられる。

核種ごとの影響を評価する

骨ごと魚を乳児にあたえた場合の内部被曝の内訳を示したのが次の図。初期は圧倒的にヨウ素の影響が大きい。ヨウ素は半減期が短いので2ヶ月ぐらいで影を潜める。その後は、セシウムの独壇場。ストロンチウムは存在してはいるけれど、セシウムと比べると被曝量は圧倒的に小さくなる。

それでも乳幼児~成長期は注意をするに超したことはないです

以上は、ストロンチウムの影響が大きな乳児の場合です。ストロンチウムが大人に与える影響はさらに小さくなります。このように数字だけ見るとストロンチウムの影響は軽微と言っても良さそうです。

ただ、乳幼児に対する放射性ストロンチウムの影響が、十分に解明できているかは疑問です。放射性ヨウ素が幼児の甲状腺癌の原因になることは、チェルノブイリで初めてわかったのです。チェルノブイリ以前は、放射性ヨウ素の危険性を大幅に過小評価していました。今後、放射性ストロンチウムが乳幼児にあたえる影響が明らかになる可能性も否定できません。放射性ストロンチウムが骨に取り込まれると、まず出てきません。骨髄が生涯β線にさらされる可能性もあります。安全な代替品が手に入るなら、避けるに超したことはないでしょう。一方、ストロンチウムを取り込みづらい上に余命も短い大人は、セシウムが基準値以下なら、ストロンチウムは気にする必要がないと思います。

ストロンチウムが気になる生物

セシウムとストロンチウムの濃縮係数をまとめると次のようになります。ストロンチウムの濃縮係数は一般的にセシウムよりも低くなっているので、セシウムの濃度が低ければ、ストロンチウムはさらに低くなるでしょう。ストロンチウムの比が高くなる褐藻、棘皮動物、甲殻類については、セシウムが検出された場合は、ストロンチウムの存在も考慮する必要があるでしょう。

紅藻 褐藻 棘皮 甲殻 頭足類 魚(骨ごと)
セシウム 27 27 22 9.7 8.9 100
ストロンチウム 1.9 17 21 55 0.3 3
Sr/Cs 0.070 0.63 0.95 5.7 0.034 0.030

海洋の放射性ストロンチウムの放出について


ストロンチウムは、ヨウ素、セシウムと並ぶ主要な被曝源です。海洋に排出されたストロンチウムは、主に魚の骨や貝殻に吸収されます。ひとたび吸収されたストロンチウムは、なかなか排出されません。成長期の子供が食べると骨に取り込まれるので、注意を払う必要があります。

福島から放出されたストロンチウムの量は?

海洋にどの程度のストロンチウムが流れたかを知るのは重要なことです。そのために必要な情報は2号炉の地下の高濃度汚染水です。海洋中の放射性セシウムと、放射性ストロンチウムの主な汚染源は2号炉の地下溜まり水と考えられています。2号炉の地下溜まり水のセシウム(Cs)とストロンチウム(Sr)の比がわかれば、ストロンチウムがどのぐらい海に放出されたかを類推することができます。

5/22の夜になって、ようやく東電が地下溜まり水のストロンチウムの情報を出しました。ストロンチウムはγ線を出さないので、化学処理でストロンチウムだけを分離した上で、β線を計測する必要があります。これらの処理に1~2週間の時間が必要になります。水のサンプルを取ったのが3/24、測定を開始したのが4/13ですから、計測にかかる時間を考慮しても、ストロンチウムの値が出てくるのが遅すぎます。

東電が発表した核種の情報はこちらです。

放射性ストロンチウムは、Sr-89とSr-90の2種類が検出されていますが、検出されたこと自体は大きな問題ではありません。セシウムが高濃度ならばストロンチウムが検出されるのは自明であり、検出出来なかったらそっちの方が問題です。問題は濃度の比です。ストロンチウムの合計8.4E+5(Bq/ml)は、セシウムの合計5.4E+6(Bq/ml)の15%程度ですが、ストロンチウムは半減期が短いSr-89が多いのが救いです。

それぞれの核種には半減期という物があります。ヨウ素131の半減期は8日です。これは、8日後には1/2、16日後には1/4に放射性ヨウ素131が減少することを示しています。Sr-90, Cs137の半減期は30年と長くなっています。それぞれの核種の半減期を考慮して、減少を図示すると次のようになります。ヨウ素(I131)、バリウム、ランタンのような半減期が短い核種は最初の1月でほぼ姿を消します。その後、Cs134とSr-89が徐々に減少していきます。半減期の長いCs137とCs90は、ほぼ横ばいです。

 


放射性物質の総量を年単位で図示してみました。最初の1年で短命の核種は姿を消すので、放射性物質の量は半分になります。その後は、残った長寿命の核種がなだらかに減少していきます。着目してほしいのがSr90とCs137の比です。Sr90/Cs137はおおむね5%で安定しています。

 

放射性ストロンチウムの生物濃縮について

IAEAの魚のストロンチウムの濃縮係数は3です。海水の3倍程度に濃縮されると言うことです。この3倍というのは、骨を含めて丸ごと測定した場合であり、筋肉中の濃度は1を下回るとされています。日本の調査でも同様の結果が得られています。魚の濃縮係数は、軟組織(筋肉内蔵)で0.4倍、骨部で25倍となっています。濃縮係数をざっとまとめてみるとこんな感じです。

魚丸ごと 3.0
魚の身 0.4
魚の骨 25
イカタコ 0.3
二枚貝の身 0.4
貝殻 130
エビカニ 55
棘皮類 21
褐藻 17

ストロンチウムは特定の生物の、特定の部位に濃縮される傾向があるので、そういった部位を食べるのを避ければ、内部被曝のリスクは大幅におさえられそうで す。ストロンチウムはカルシウムと同じような挙動を示すので、「カルシウムたっぷり」な食品は、「放射性ストロンチウムたっぷり」になりやすいと思われま す。シラスのように代謝が早くカルシウムの吸収が早い魚では、素早く、蓄積される可能性があります。IAEAの推奨値では、魚は丸ごとでも海水の3倍程度の濃縮ですし、骨だけみても25倍ですから、むしろ、甲殻類(エビ、カニ)の方が濃縮されるようです。甲殻類のカルシウム(およびストロンチウム)はおそらく殻に多く分布すると思いますので、殻ごと食べる場合は要注意。地味に濃縮係数が大きいのが、褐藻(昆布、わかめ、ひじきなど)です。貝殻もストロンチウムが濃縮されるのですが、直接食べる機会はあまりないと思います。

放射性ストロンチウムの人体への影響について

緊急時における食品の放射能測定マニュアルの36ページに「経口摂取による実効線量及び甲状腺等価線量への換算係数」があります。それぞれの放射性物質を含む食品を食べた場合の内部被曝の影響を、我々に馴染みの深いSvに変換するときの係数です。

長期的な影響が大きなSr-90とCs-137について、1Bqあたりの実効線量をまとめたのが下の図です。Sr-90の影響は、骨が形成される乳児および成長期の子供に大きな影響を与えることがわかります。小さい子供が口にする食べ物については、ストロンチウムについて注意を払う必要があります。

魚を丸ごと食べる場合、ストロンチウムの影響は、セシウムよりも深刻?

ストロンチウムを単独で計測するのは難しいので、計測が容易なセシウムとの比で考えていくのが良いと思います。では、セシウムと比べてどれぐらいの影響が予測されるかを考えてみましょう。長期的に残るSr-90とCs-137の比は1:20です。魚(骨ごと)の濃縮係数はそれぞれ3と100なので、Cs137が100Bq/kgの魚のSr90は0.15Bq/kg程度となります。それぞれの実効線量への換算係数をかけると、内部被曝の影響評価が出来ます。

最も影響が大きな乳児に魚を骨ごと与えた場合でも、ストロンチウムの内部被曝の実効線量は、セシウムの2%に満たない水準です。成人については、セシウムと比較すればほぼ無視できる水準と言えるでしょう。幸いにして、ストロンチウムが突出して危険ということはなさそうです。内部被曝の防護は、量が多く、計測が容易なセシウムを対象にしっかりやれば良さそうです。高濃度の放射性セシウムで汚染された魚をしっかりと避けていれば、放射性ストロンチウムについても避けることができます。成人については魚の骨を過度に恐れる必要はなさそうです。俺的には、むしろ骨粗鬆症の方が心配かも。

影響が(比較的)大きな乳児~青年(第二次成長期が終わるまで)について、高濃度の放射性セシウムが検出されている場所の、カルシウムが豊富な水産物を予防的に避ければ、ストロンチウムの被曝リスクを大幅に削減できます。

関連記事:「魚を骨ごと食べたときに、心配なのはセシウム。ストロンチウムじゃないよ」も読んでください。

注意:このページの情報は現在までの断片的な情報を整理したものに過ぎません。新しい情報が出てきたら、内容が変わる可能性はあります。また、個々に書かれているのは一個人の見解ですので、過度に信頼せず、様々なところから情報を収集して、自己責任で判断をしてください。

海水が「不検出」でも、魚の汚染は進みます


文科省の沖合の海水調査では、海水から放射性物質がほとんど検出されなくなりました。5月以降は、ヨウ素だけでなく、セシウムもほとんどが「不検出」です。しかし、魚の汚染がすぐに収まるかというと、そうではありません。

水産物の検査データから福島のヒラメとマコガレイのセシウム濃度をまとめたのが次の図です。データが少ないのですが、上昇傾向を見て取ることが出来ます。

正確な捕獲場所は不明ですが、いわき市沖、四倉沖ということは、下の図のJAMSTECの定点8,9,10の周と思われます。定点9は最初のヒラメが捕獲されたと思われる4/22の段階で、既に海水からの放射性物質は不検出でした。その後も、時々、セシウムが検出されたりしますが、基準値以下の低い値です。

海水がクリーンになっても、捕食魚の汚染が進行しているは、餌が汚染されていると考えるのが自然です。食物連鎖を通して、捕食魚の汚染が時間遅れで進行するという現象は、日本を含む世界中の海域で観察されています。海水が綺麗になれば、すぐに放射性セシウムは排出されて、魚がクリーンになるというような単純な話ではないのです。

多くの魚の餌と成るコウナゴやシラスに、既に放射性物質が取り込まれています。ヒラメやスズキのような捕食魚は、これから放射性セシウム汚染が蓄積されていくことを前提に、しっかりとしたモニタリング体制を整えていく必要があります。

No. 魚種 捕獲場所 公開日 セシウム(Bq/kg)
141 ヒラメ いわき市沖 2011/4/23 82
217 ヒラメ いわき市沖 2011/5/5 134
218 ヒラメ いわき市沖 2011/5/5 116
257 ヒラメ 四倉沖 2011/5/13 350
258 ヒラメ 四倉沖 2011/5/13 207
259 ヒラメ 四倉沖 2011/5/13 197
260 マコガレイ 四倉沖 2011/5/13 330

茨城県のヒラメのセシウム濃度に関する考察


放射性セシウムの汚染は、食物連鎖を通じて、高次捕食者に時間遅れで伝わることが世界中で観察されています。たとえば、チェルノブイリの事故の後、日本近海でも、スズキやマダラのような捕食魚の汚染のピークは半年から1年ほど遅れました。次の図は実測データから導かれたモデルです(海生研ニュース No.95 p7より引用)。

3月末から、4月にかけて、福島原発から超高濃度汚染水が漏れ出しました。福島周辺海域でも、チェルノブイリの時と同じことがおこるなら、今後も高次捕食者に汚染が蓄積されていき、半年~1年後にピークになると思われます。水産物の放射能検査から、茨城県のヒラメのセシウムの濃度を抜き出したのが下の図です。

http://www.jfa.maff.go.jp/j/kakou/Q_A/pdf/20110508_data_sheet_jp.pdf

 

No 魚種等 都道府県名等 採取地 公表日 セシウム ヨウ素 分析機関名
23 ヒラメ 茨城県 神栖市沖 4/2 0 0 茨城県環境放射線監視センター
33 ヒラメ 茨城県 日立市沖 4/4 0 13 民間分析機関
43 ヒラメ 茨城県 鉾田市沖 4/5 4 0 茨城県環境放射線監視センター
60 ヒラメ 茨城県 ひたちなか市沖 4/8 2 2 (独)水産総合研究センター
80 ヒラメ 茨城県 鹿島市沖 4/12 0 0 茨城県環境放射線監視センター
83 ヒラメ 茨城県 ひたちなか市沖 4/12 2 2 (独)水産総合研究センター
110 ヒラメ 茨城県 北茨城市沖 4/16 19 0 茨城県環境放射線監視センター
119 ヒラメ 茨城県 鹿島市沖 4/19 0 0 茨城県環境放射線監視センター
142 ヒラメ 茨城県 日立市沖 4/23 23 0 茨城県環境放射線監視センター
145 ヒラメ 茨城県 ひたちなか市沖 4/23 7 0 茨城県環境放射線監視センター
208 ヒラメ 茨城県 ひたちなか市沖 4/30 10 0 茨城県環境放射線監視センター
210 ヒラメ 茨城県 鹿嶋市沖 4/30 16 0 茨城県環境放射線監視センター
226 ヒラメ 茨城県 日立市沖 5/8 15 0 茨城県環境放射線監視センター
227 ヒラメ 茨城県 ひたちなか市沖 5/8 26 0 茨城県環境放射線監視センター
229 ヒラメ 茨城県 鹿嶋市沖 5/8 7 0 茨城県環境放射線監視センター

注:上のグラフおよび表では、不検出の場合は、ゼロを代入しています。

4月中旬以降、徐々に上がりつつあるように見えます。今後はじわじわと汚染が進んでいく可能性がありますので、今後の推移を注意深く見守りたいとおもいます。

茨城のヒラメ・カレイをエリアべつに分けてみると次のようになります。全体的に上昇傾向ですが、北部(日立市以北)の方が傾きが大きいです。中部(ひたちなか周辺)と南部(鹿島市周辺)はそれほど変わらない感じですね。

 

5/9から、小型船の漁業が再開されたようです。

茨城県の鹿島灘漁港では、原発事故の影響で、コウナゴなどの漁を行っている小型船での漁を自粛していたが、コウナゴ漁の時期が終了したうえ、ヒラメやマコガレイからは放射性物資が検出されていないことなどから、小型船での漁を再開した。(05/09 12:41)
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00199028.html

鹿島灘のヒラメからも、暫定基準値以下の放射性物質は検出されているので、記事の表現は不正確だと思われます。

日本の魚を【比較的】安全に食べるための私案


注意: 水産物の放射能汚染から身を守るために、消費者が知っておくべきことの補足ですので、必ず元記事を読んでください

ツイッター等の反応を見ていると、元記事を読んで、日本の水産物は食べられないと結論づける人が多かったようですが、「ゼロリスクではないから、水産物は一切食べない」というのは、もったいない話です。日本はすでに放射性物質の汚染が起こってしまった以上、絶対の安全・安心はありません。情報を集めて、危険な部分を上手に避けて、リスクコントロールをする必要があります。最終的に、どうするかは各自が考えて決めることです。専門家はそのための材料は提供できますが、結論を出すことはできません。こちらの記事では、あえて結論は書きませんでした。ただ、必要以上に怖がっている人が多そうなので、参考までに自分がどうする予定かを書きます。もちろん、参考にするかどうかの判断は、くれぐれも自己責任でお願いします。真似をしたからといって、責任は持てませんよ。

潜在的なリスクは、海域によって三段階に区分できる

まず、理解しておいてほしいことは、海域によってリスクが全然違うということです。日本の水産物すべてを一緒くたにして、安全か危険かを判断するのはナンセンス。私的は、こんな感じで捉えています(理由はここ)。

危険度A: 福島原発周辺:底土汚染の可能性 → 汚染が長期化が懸念される(数年~数十年)
危険度B: 福島周辺の県:汚染水通り道 → 汚染水通過後、安全確認 → 海は広いので、数ヶ月~1年でたぶん収束と思う
危険度C: 八戸以北、千葉以南:現状では問題なさそう。魚の移動が有ったとしても、生態系全体が汚染されるようなことはないと思う。

許容するリスク水準の設定

つぎに許容できるリスクの水準を決めます。自分の場合は、子作りをする予定もないし、長生きをしたいとも思わないので、多少の被弾は覚悟で、うまい魚を食いまくります。一方、子供の被曝は取り返しがつかないので、できるだけ予防的に処置したいと思います。

自分が食べる場合

中年&子作り予定無しなので、危険度Cの魚は気にせず食べます。といっても、現状では、危険度A, Bの魚はほとんど流通していないので、普通に買い物してもそれほど目にする機会は無いです。

汚染水の通過経路を外れた魚は、現状では汚染の確率は低いです。移動があるから、確率はゼロではないけど、交通事故みたいなもの。また、汚染されているとしても、数百ベクレル程度だろうから、少しぐらい食べても、大人なら発がんリスクがほんの少し上がるだけ(この根拠は時間があれば、後日書きます)。特に長生きしたいとも思わないので、気にしない。むしろ、神経質になったり、魚を食べずにバランスの偏った食生活を送る方が、健康に悪いと思います。

子供に食べさせる場合

子供の健康リスクはわからない部分も多いし、短期的にはヨウ素、長期的にはストロンチウムが心配なので、予防的に避けます。

1.茨城・福島・宮城→放射能流出終了後、安全が確認されるまで徹底して避けます
2.6月ぐらいまでは、大気経由のヨウ素が心配なので、念のため関東の浮魚は避けます
3.生態系全体の汚染状況が把握できるまでは、日本海の魚、神奈川以西の定住魚(プランクトン食ならなお安心)、輸入魚、イカを中心のシフト。

「水産物の放射能汚染から身を守るために、消費者が知っておくべきこと 」を更新しました


生態系での放射性物質の循環について加筆しました。

http://katukawa.com/?page_id=4304

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from 18 Mar. 2009

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