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研究 Archive
乱獲は現場で起きているんだ!!
ということで、情報収集のため、銚子に行ってきました。
休漁なので、市場はお休み。
食べるのは資源状態が良好なサンマです。うまかったです。
みんなも、マグロやウナギは食べずに、サンマを食べよう。
やっぱり、現場に行かないとわからないことは多いですね。
とても勉強になりました。
銚子で実感したことは、
TACで漁獲が止まると思っている漁業者は居ないということです。
去年、TAC超過が判明した後も、ずるずると獲らせてしまった失態が今後も尾を引きそうです。
去年、TACを超過した後に水産庁から北まきに「操業停止願い」がでました。
(その当たりの詳しい事情は、ここを見てください)
その後も「まじり」とかいってサバをとり続けた漁業者がいるのです。
「操業停止願い」は初めてのことだったので、漁業者もびくびくしながら獲っていたらしい。
でも、結局はお咎め無しと言うことで、水産庁に取り締まる気がないことがバレバレです。
去年は通達のあとにサバを捕りひかえた漁業者も、今年は獲るでしょうね。
マサバの回復の芽を今回も摘みそうだな。
さらに、銚子では、サバの増加を当て込んで、冷蔵庫を拡大しているらしい。
まったく何を考えてるんだが・・・
マサバ回復計画とかいって、17億円も北まきにばらまいているが、
漁業者に乱獲するための油代を与えているだけじゃないの?
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農の戦犯
- 2007-09-27 (木)
- 研究
文芸社 (2007/04)
売り上げランキング: 354909
実に面白い本だった。現在の農業の全体図が俯瞰できる良書。
補助金漬けなはずなのに、米作は儲かっていないと言う。
儲けが出なくても田んぼをつづけるのは、どういうわけかというと、
結局は、農村オヤジのアイデンティティーなんだな。
それを支えるために、税金とセガレの給料がつぎ込まれる。
田んぼが空かないのだから、跡継ぎなど出来るはずがない。
農業をサポートするという役割を放棄して、
総合商社化した農協の実態も紹介されている。
スイシンとかって、まるで、ア○ウェイじゃないか。
にわかには信じがたいほど、悲惨すぎ・・・
ここに書かれている農業の惨状は、かなりの部分漁業にも当てはまる。
この本の著者には、是非、漁の戦犯についても書いて欲しいと思った。
漁村文化の研究者は山ほどいるけど、彼らの文章は読む気にならない。
「古き良き日本の漁村万歳!!」という結論が最初にありきなんだよな。
どんなに非効率な農業をしても、田んぼは残る。
作り手が変われば農業の立て直しは可能だろう。
非効率きわまりない漁業の結果として、資源が枯渇しつつある。
資源を減らしすぎると、元の水準まで戻らなくなることが知られている。
農業も悲惨だが、漁業の方がずっと厳しいな。
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日本のTAC制度はオリンピック方式ではない。それどころか資源管理ですらない。
今まで見てきたように、ダービー方式(オリンピック方式)は問題が多い。
資源を守る代償として、漁業がぼろぼろになってしまうのである。
日本の漁業もぼろぼろだが、それはダービー方式の副作用ではない。
それ以前の問題なのだ。
資源管理には、乱獲を抑制して持続的に漁業をするというゴールがある。
ダービー方式でもきちんと運用をすれば、資源は守れる。
日本のTAC制度には、漁獲量を抑制する効果が全くないので、資源は減り続けている。
これを資源管理と呼ぶのは、まじめに資源管理をしている漁業に失礼だ。
正しい資源管理
生物の生産力を評価して、持続的な漁獲量の上限を推定する。
この持続的な漁獲量の上限が、ABC(Acceptable Biological Catch)である。
生物の持続性を守るためには、漁獲量をABC以下に抑える必要がある。
そのために全体の漁獲枠(TAC: Total Allowable Catch)を設定する。
TACはABCよりも低くないといけない。
乱獲を回避するために設定されたTACを配分する手段として、
ダービー、IQ、ITQなどがあるわけだ。
配分法によって、漁業の行く末や漁業者の痛みは全然違うが、
TAC<ABCであれば、生物の持続性は守られる。
ダービー制度、IQ,ITQはすべて、乱獲回避というゴールを達成できる。
そのいみで、これらの制度は全て資源管理なのである。
日本のTAC制度は乱獲のお墨付き
日本のABC、TAC、実際の漁獲量の関係はこんなかんじ。
青棒がABC。「これ以上獲ったら乱獲になります」という漁獲量を科学者が推定したものだ。
赤棒が日本国によって実際に設定されたTAC。
白棒が実際に漁獲された量。
本来はABC>TAC>TAC採捕数量となるべきなんだが、
まともなのはサンマぐらいで、軒並みABCを上回るTACが設定されている。
これでは、国として乱獲にお墨付きを与えて推奨しているようなものである。
ただ、日本国が幾ら獲って良いと言っても海に魚が居ないんだから、
漁獲量がTACまで到達することは極めて希である。
この希なことがおこると、漁獲を制限するどころか、TACの方を増やしてしまう。
これで資源が守れるなら、資源管理なんて必要ないだろう。
日本のTAC制度は、ダービー制度ですらない。
資源枠組みを輸入したが、運用の段階で完全に骨抜きになっているのだ。
まっとうな資源管理と日本のTAC制度の違い
まっとうな資源管理では、道筋こそ違えども、乱獲回避というゴールにはたどり着く。
一方、日本のTAC制度は、乱獲状態を容認している時点で、資源管理とは言えない。
日本漁業は、実質的には無管理であり、
時代遅れのオリンピック制度ですらないのである。
日本の資源管理は、スタート地点にすら立てていないのだ。
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米国ですらITQに方向転換
自由競争を国是とする米国では、権利ベースのITQへのアレルギーはすさまじかった。
1990年に最初にITQが導入されたものの、
1996年にITQモラトリアムを決定した。
すでに実施中のものをのぞき新規のITQ導入を見合わせることにしたのだ。
過剰な漁獲能力の削減は、税金による減船で行うことになった。
世界の流れとは、全く逆の方向に進んだのである。
その結果として、米国の漁業管理は難航し、漁業者は苦しんだ。
ダービー制度でちゃんと資源を守ろうと思うと、漁期はどんどん短くなる。
漁期が1月とかは良くある話で、3日とかいうのも少なくない。
俺がカナダで聞いた話では、産卵親魚を対象としたある漁業は、
漁業開始から終漁まで、なんと15分しか無いと言う。
最初は冗談だろうと思ったら、本当の話らしい。
どうやって漁獲量を集計するのかわからないけど、凄い話だ。
よーいドンで、狭い漁場に漁船が一斉に向かうわけだ。
すさまじい場所合戦で、船が転覆したり、死傷者が出たりするらしい。
「今年は、死人が出なくて良かった」とか話してるんだから、呆れてしまったよ。
そんな競争を毎年やらされる側にとっては、溜まったもんじゃないだろう。
北米では、ダービー漁業による魚の奪い合いに明け暮れる中、
自由競争を捨てて権利ベースのIQ・ITQに移行した国々は、着実に漁業収益を伸ばした。
学習能力がある米国は、2002年にITQのモラトリアムを解除した。
そして2006年に、漁業資源保存管理法が改定され、
ITQが政策の中心として推進されることになった。
やると決めたら徹底的にやるお国柄だから、本気でITQに向けてひた走るだろう。
自由競争原理主義の米国ですら、権利ベースのITQへ移行している。
これは、キリスト教原理主義者がコーランを受け入れる様なものである。
ダービー制度の総本山が既に敗北宣言をしているのだから、
全ての資源管理は、権利ベースの配分制度に進んでいると言っても良いだろう。
残された問題は、漁獲枠の譲渡をどこまで許容するかであろう。
日本は何も考えずに、米国の漁業制度の猿まねをしてきた。
現在の日本のTAC制度は、90年代の米国の管理システムを、
そのまま骨抜きししたようなものである。
そして、米国ですら諦めたダービー制度に、未だにしがみついている。
自由競争好きの米国と違って、日本は既得権大好きなんだから、
そもそもダービー制度に固執する理由など無いと思うのだが。
まあ、水産庁の米国好きは筋金入りだから、
米国のITQ移行が本格化したら、日本もすぐさまITQに移行するかもしれない。
いや、冗談抜きで、本当に。
米国の漁業制度に関しては、これが参考になります。
水産振興 473号
米国の漁業管理政策について
-マグナソン・スティーブンス漁業資源保存管理法改正からの示唆-
水産庁資源管理部管理課資源管理推進室 課長補佐 大橋 貴則http://www.suisan-shinkou.or.jp/gekkann.htmから申し込むとタダでもらえるので、
興味がある人は是非。
442号の「本音で語る資源回復計画」とセットで読むと、味わい深いです。
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全国評価会議の音声を公開します
全国評価会議は、公開で、録画もOKな会議です。
ということで、録音した音声をそのままアップしますね。
平成19年度 全国資源評価会議 マサバの質疑応答(11.3MB)
マサバの07年級群を巡る攻防です。
威勢が良いのが北巻関係者で、
低い声で淡々と反論をしているのが水研の担当部長です。
TACを超過して不正漁獲をしておきながら、偉そうですねぇ。
ただ、残念なことに前後が切れて居ます。
「あっこれ、おもしろい」と思ってからレコーダーを取り出したので、前半部分がありません。
あと、電池が切れてしまったので、俺の発言が途中で切れてしまいました。
俺の発言についてはここに書いたとおりです。
完全版をお持ちの方がいらっしゃいましたら、提供してください。
ちゃちなカメラで録音したので、音質は良くありません。
来年は、ちゃんとしたマイクを持っていきます。
マサバの07年級群については、ここにまとめてあります。
http://kaiseki.ori.u-tokyo.ac.jp/~katukawa/blog/2007/08/post_175.htmlサバ漁業の様々な課題については、
http://www.jfa.maff.go.jp/suisin/kouiki/t/giji/t_08.pdf
のP14以降を読むと、よくわかります。
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資源管理をすると漁業は滅びるか?
今まで見てきたように、TACの配分方式によって、漁業の方向性は変わってくる。
逆に言うと、現在の漁業の抱える問題点を明らかにした上で、
適切な方式を採用しなくてはならない。
不適切な配分方式を採用すれば、資源は守れても漁業は破綻する。
薬を間違えれば、治療どころか逆効果になるのと同じことだ。
資源管理をすると、魚を守る代償に漁業がつぶれてしまうと言う人がいる。
行政、漁業者、および、勉強不足の研究者だ。
確かにそういった実例はあるものの、そのほとんどが北米に集中している。
北米で用いられてきた資源管理こそが、フリーアクセスのダービー制度なのだ。
北米の資源管理の失敗原因は明白だ。
すでに過剰な努力量が存在する中で、ダービー制度に固執したからである。
すでにぱんぱんに空気が入った風船を小さくしたら、破裂するに決まっている。
空気を抜くための仕組みが必要なのだ。
米国に必要な管理制度は、ITQ(もしくはノルウェーのような譲渡付きIQ)である。
Univ Pr of New England (2005/04)
この本は、ブログのコメント欄で教えてもらったのだけど読み応えがあった。
タイトル通り、資源管理の犠牲として苦しむ漁業者のルポです。
ダービー制度で漁獲枠を制限された米国の漁業者が、
なすすべもなく苦しんでいく様が、克明に示されている。
悲惨の一言に尽きる。
ただ、この本を読んで、「資源管理=漁業の崩壊」と結論づけないで欲しい。
資源管理は漁業に良くないという論調の多くは米国の失敗例に基づいているのだが、
米国の失敗の原因は、ダービー制度固有の悲劇なのだ。
適切な管理手法があるにもかかわらず、それを採用しなかったのが根本原因である。
医療ミスによって、患者が死んでしまったからといって、
医学には害しかないという結論にはならない。
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サイエンス・ゼロ雑感
サイエンス・ゼロは、見ましたか?
なかなか良い仕上がりでしたね。
見損ねた方は、是非、再放送をご覧ください。
大きく3つの話題がありました。
1)マサバの乱獲
2)エコラベル
3)海洋環境を調べることから、魚の保護につなげようという研究
マサバに関しては、クロ現と重なる部分も多かったですね。
俺の画像も使い回しだし(笑
新たに撮った神奈川水試の調査風景はグッドでした。
一般の人にも調査の現場の雰囲気が伝わったのではないでしょうか。
そこで、マサバの年級群が単純化しているという話から、
ノルウェー→俺とつないで、最後にスタジオの渡邊先生という流れ。
俺の登場は一瞬でしたね。まさに、チラッとでただけ。
「ちゃんと獲り残せば、回復するという期待はある。」
「大切なことは、充分な親を確保すること」
という2点は俺が言いたいポイントであり、
良い部分を抜粋してもらったと思う。
渡邊良朗先生が、番組のわかりやすさに大きく貢献していた。
渡邊先生のコメントは、説得力があるんだよね。
テレビにむかって、「うんうん」とうなずいてしまったよ。
メッセージは明確だし、立ち位置もぶれないし、
一般の視聴者にもわかりやすかったと思います。
スタジオは渡邊先生と聞いたときに、グッドな人選だと思ったのだが、
予想を上回るグッドコメンテーターぶりでした。
マサバ漁業の危機的状況がお茶の間に伝わったことでしょう。
エコラベルについても良かった。
MSCは認証費用がバカ高いので、営利目的などという批判もあるが、
世界的には着々と進みつつある。
それだけ需要があるということだろう。
さて、日本初のMSC申請ということで、京都府のズワイガニが紹介された。
京都のズワイガニは個人的に応援している漁業です。
俺が修士の学生の時に、松宮先生のところに、京都の水試の人が会いに来た。
「とにかく資源管理の効果を評価して欲しい。厳しい結果が出ても構わない。
必要なデータは出来るだけ集める。」と言う話だった。
俺は「まじめに資源管理をしようという人が日本にもいるんだ」と感銘を受けたのだ。
その流れで書かれた論文がこれ。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110003144786/
松宮先生が亡くなられてから、接点はとぎれてしまったが、
陰ながら、京都府の取り組みは応援をしています。
番組でも、資源管理の取り組みが詳しく紹介されていて嬉しかったです。
こういう漁業こそ紹介すべきだと、前々から思っていました。
目の付け所が良いですね。
最後の海洋環境に関するプロジェクトは、ちと微妙かな。
こういったプロジェクトが、魚の保護につながるかは疑問です。
海洋環境によって、魚の生産力は変わるけれど、現在の乱獲はそれ以前の問題。
未成熟のうちに獲り尽くすような漁業は、
どのような環境条件であっても正当化されません。
そういう明らかな不合理漁獲を放置したまま、
海洋環境と資源変動の関係に多額の予算をつかっても、
「資源減少は地球温暖化が原因である」というアリバイ作りにしかならない。
海洋環境と資源変動の研究例はすでに山ほどあるけれど、
実際の資源管理には殆ど使われていないという現実がある。
本気で海洋環境の情報を資源管理に役立てようと思ったら、
現在までに得られた情報をどうやってつかうかを考えるのが先でしょう。
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管理方式のまとめ
それぞれの管理方式によって、漁業を異なる方向に導くことを延々と説明してきた。
今までの内容をまとめてみよう
ダービー方式は、漁業者間の早どり競争を引き起こす。
漁業者はスタートダッシュでより多く獲るために設備投資を行うので、漁獲能力は更に過剰になる。
IQ方式は、早どり競争を緩和するので、漁業者は魚価をあげるために設備投資が出来る。
ただ、IQ方式には、過剰な漁獲能力を削減する機能はないので、
すでに漁船が過剰な状態では「みんなで貧乏」な漁業しか実現できない。
過剰な漁獲能力を削減するためには、漁獲量を譲渡して減船をする制度を導入する必要がある。
ノルウェー型の譲渡可能IQ方式なら、漁獲枠に見合った規模まで自動的に漁獲能力を削減できる。
漁船の維持に費やされるコストを削減できるので、収益性が増し、競争力が高まる。
売買を自由にしたITQ方式(ニュージーランド型)では、
利益率の高い経営体に漁獲枠が集まり、経済効率を向上できる。
限られた生物の生産力から、最大の収益を得るという観点からは優れているが、
漁業が企業化・大規模化する代償として、社会的平等性は失われる。
ダービー方式からiTQまで、様々な管理方式を比較したが、
これらの管理方式はTACをベースにしている。
生物の持続性を損なわないようにTACを設定することが大前提だ。
TACをABC以下にするという前提があって、これらの資源管理は成り立つのである。
慢性的にABCを遙かに上回るTACを設定している日本のTAC制度は、
ダービー(オリンピック)方式ですらないのである。
日本のTAC制度は資源管理ではなく、乱獲を容認する道具に過ぎないのだ。
乱獲放置状態の日本漁業は、ダービー方式と同じような方向に進んでいる。
過剰な漁獲能力による早獲り競争が、過剰装備と漁獲物の小型化を招く。
単価は下がる中で、少ない魚を我先に奪い合うようになる。
ダービー方式と無管理の違いは、資源の持続性が守られるかどうかである。
ダービー方式では、過剰競争で生産力が低下した漁業が、
産業として成り立たなくなるのは時間の問題である。
漁業はいずれ滅びるだろう。でも、資源は守られるのである。
無管理では、資源を道連れにして漁業が滅びるだろう。
管理方式のまとめ
資源の持続性 | 早獲り競争緩和 | 過剰漁船の削減 | 経済的最適化 | |
無管理(日本) | – | – | – | – |
ダービー方式 | + | – | – | – |
IQ(譲渡無し) | + | + | 0 | 0 |
IQ(譲渡あり) | + | + | + | + |
ITQ | + | + | + | ++ |
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そんなに心配なら、ITQの譲渡に制限すれば良いんジャマイカ?
ITQ制度には次のような効果が期待できる
1)過剰な(無い方がよい)漁獲能力を削減できる
2)収益性の高い経営体に漁獲枠を集めることで、漁業の経済性が向上する
一方で、ITQによる弊害を心配する声も根強い。彼らの描く未来像は、こんな感じだ。
より利益を出せる経営体によるITQの買収が進み、漁獲枠の寡占化を引き起こす。
「漁業者は漁獲枠を売ることが出来るが、漁獲枠を買うことができるのは企業だけ」という事態になる。
大企業化した漁船は、大きな港のみに水揚げをするようになり、地方の港、加工は衰退する。
漁獲枠を寡占した経営者が、従業員に漁業をさせながら、利益だけを得る。
漁村は寂れ、漁業者の小作化が進むことになる。
要するに、古き良き漁業が、利益至上主義の経済行為となってしまうことを心配しているのだ。
確かに、ITQにはそのような側面があることは否定できない。
漁業を投機対象にすることには社会的な懸念があるだろう。
(まあ、今の日本漁業の生産性では、投機の対象外であり、それよりはマシだと思うが・・・)
譲渡を制限することで、この問題はある程度回避可能である。
漁獲枠の所有は漁業従事者に限ることにすれば、漁業の小作化は回避できる。
経済的効率と社会的平等のどちらを重視するかによって、譲渡に対する制限が決まってくる。
経済的効率を重視して、譲渡の制限を少なくしているのが、ニュージーランドとアイスランド。
社会的平等を重視して、譲渡を厳しく制限しているのが、ノルウェーである。
● ニュージーランドのITQ制度
ITQは、TACCに対する割合で設定されている。
例えば、1%の漁獲枠を持っている人間は、商業漁獲枠が100万トンであれば1万トン、
100トンであれば1トンの漁獲が可能となる。
一つの経営体が所有できる漁獲枠には10%~45%の上限が設けられている。
ニュージーランドのITQ制度は、独占の弊害が出ない範囲で、最大限に譲渡を許容している。
寡占化の弊害よりも、経済的な最適化を重視しようという考え方だ。
ニュージーランドのように、漁業は経済行為と割り切ることが日本で出来るはずがない。
ただ、今のような非効率的な漁業システムを多額の税金を投入して支えていくのも無理だろう。
幾ら漁業者に補助金をばらまいたところで、漁業を支える資源がもたないことは明白だ。
そこで参考になるのがノルウェーのITQ(もしくは、譲渡可能IQ)制度だ。
● ノルウェーのITQ(もしくは譲渡可能なIQ)制度
高木委員への反論材料として水産庁が「ノルウェーの漁業と漁業政策」という資料をまとめている。
これを読めば、ノルウェーの漁業政策がいかに合理的かが一目瞭然なのだが、
いまのところ水産庁のサイトにアップされているのを発見できない。
これをネタに、いろいろと書きたいことがあるから、早くアップして欲しいものだ。
ノルウェーでは、漁獲枠を船に割り振っている。
IVQ(Individual Vessel Quota)というシステムだ。
これによって、漁業者間の早取り競争を回避している。
また、制限付きの漁獲枠の譲渡を認めることで、過剰漁獲能力の削減にも成功している。
ノルウェーで許容されている譲渡は以下の3つである。
UQS(Unit Quota System)
2隻の漁船を所有する漁業者が、一方の漁船を漁業から撤退させる場合、
当該漁船を売却する場合には13年間、スクラップにする場合には18年間、
創業を継続する漁船により2席分の割当量を漁獲できる制度。SQS(Structual Quota System)
2004年より沿岸漁業を対象に導入。
2005年からは、沖合・遠洋漁業の対象(UQSから移行)。
同種の許可を受けた2隻以上の漁船を所有する会社が、
1隻を漁業から撤退される場合(撤退する漁船のスクラップ処分が要件)、
当該漁船が受けてた漁獲割り当てを、操業を継続する同社の漁船にうつすことが出来る制度。QES(Quota Exchange System)
2004年より沿岸漁業を対象に導入。
2人の漁業者が協力して操業する場合に、特定の期間に限り、
1隻の漁船により二入の行啓の割当量を漁獲できる制度。
ノルウェーでは、沿岸漁業から、大規模漁業までこれらの譲渡制度が完備されている。
その結果として、過剰な漁獲能力の削減をすることができた。
現在の人間の漁獲能力は生物の生産力を遙かに凌駕している。
例えば、かつてのアラスカのオヒョウ漁は1年間の割り当てを24時間で消化していた。
このような状態では、のこりの364日間は漁船が遊んでいることになる。
漁船を維持するには莫大なコストがかかるので、それだけ無駄が生じることになる。
二人の船主が共同で操業をすることにして、1隻を廃船にすれば、船の維持費は半分で済む。
船を減らして、漁獲枠を集めれば、それだけ手取りは増えるのである。
もちろん、共同経営をするかどうかは、個人の自由である。
貧乏でも船の主でありたい経営者は、そのまま漁業を続ければよい。
ノルウェーの場合は、多くの漁業者は経済性を高める道を選んだのである。
この譲渡制度の素晴らしいところは、
借金漬けの赤字経営体が、漁獲枠を譲渡して漁業から撤退できることだ。
日本の漁業は、かつて右肩上がりであった。
儲けがでても税金でとられてしまうので、漁業の利益は設備投資に回すのが常識だった。
それどころか、漁業者は借金をしてでも設備投資をしてきたし、国もどんどん融資をした。
この拡張主義の漁業は、右肩上がりで漁業生産が伸びることが前提であった。
しかし、70年代に入って、EEZが設定されて漁場が狭くなると、漁業生産が減少に転じる。
資源が減ったとしても、漁船を維持するために漁獲量を確保しなくてはならない。
借金をして設備投資をしてしまったので、「魚が捕れないから辞めます」という選択肢はない。
借金を抱えて撤退もままならない経営体が、赤字を減らすために獲って獲って獲りまくる。
その結果、資源が枯渇すれば、健全な経営体はどんどん減っていく。
借金漬けの赤字経営体は、補助金による水産振興という誤った漁業政策のツケである。
小サバを初めとする小型個体の乱獲は、どう見ても経済的な価値を産み出さない。
将来の収入減を考えたら、明らかな赤字である。そんなことは、獲っている人間は百も承知だろう。
現在の日本の漁業制度では、これらの債務超過の経営体には他の選択肢は無いのである。
漁獲量を減らせば、即破産→夜逃げコンボが待っていたら、獲るしか無いだろう。
今の漁業政策を続ける限り、この問題は解決しない。それどころか、酷くなる一方だろう。
もし、ノルウェーのような個別漁獲枠譲渡制度が完備していたらどうだろうか。
船自体に価値が無くとも、船に付随する漁獲枠には借金をチャラにする価値は生じる。
債務超過の経営体は漁獲枠ごと船を売却して、借金を清算して、漁業から撤退できるのだ。
漁獲枠を譲渡した船を確実にスクラップ処分する制度があれば、過剰漁獲能力の整理は進むだろう。
漁獲枠譲渡制度は、去る漁業者にも、残る漁業者にも、メリットがある。
こういう制度を整えた上で、漁獲枠を絞っていく必要があるのだ。
今の状態で、漁獲枠の総量を絞っても、漁業は成り立たないだろう。
中の空気はそのままで風船を小さくするようなものであり、風船が破裂するだけだ。
早急に空気が抜ける道を整えてた上で、漁獲枠の総量を絞っていくべきだろう。
日本漁業に残された時間はそれほど無い。
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ITQ(譲渡可能個別割り当て)方式
ITQは、IQ同様に個別に配分した漁獲枠を金銭による譲渡可能にした方式である。
この譲渡可能性が経済的な最適化、特に過剰漁獲能力の削減に大きな役割を果たす。
個々の漁業者で、経済性は大きく異なる。
船を出しても赤字の漁業者もいれば、確実に利益を出す漁業者もいる。
同じ量の漁獲枠であっても、得られる利益は漁業者によって大きく異なるのだ。
例えば、1トンの漁獲枠から100万円の利益を出せる漁業者Aと、
同じ漁獲枠から10万円利益しか出せない漁業者Bが居るとしよう。
漁獲枠が譲渡不可能であれば、漁業全体で2トンの漁獲量から110万円の利益となる。
もし、漁獲枠が譲渡可能であったらどうなるだろうか?
1トンの漁獲枠は漁業者Aには100万円の価値がある。
一方、漁業者Bには10万円の価値しかないので、
漁業者Aは、漁業者Bの漁獲枠を10~100万円の価格で買い取るだろう。
例えば、50万円でBの漁獲枠をAに売却したとしよう。
この譲渡によってAが得た利益は、売り上げ増から漁獲枠購入費用を引いた50万円
この譲渡によってBが得た利益は、漁獲枠売却益から、本来の売り上げを引いた40万円
漁業全体の利益が110万円から200万円に増えるのである。
ITQでは、漁獲枠当たりに利益が高い経営体に漁獲枠を集めることで、
資源の経済的有効利用をはかることができる。
さて、漁業者Bの立場になってみよう。
漁獲枠を漁業者Aに売った方が、自分が獲るよりも利益が出る。
ということは、船をもっていても無駄になるわけだ。
船の維持費はバカにならない。現に船の維持費を稼げない経営体も多数存在する。
漁獲枠を譲渡した方が利益になるような経済的に劣った経営体は、
漁獲枠を永久に譲渡して、船を処分するだろう。
こうして、利益率の高い経営体に漁獲枠が集まる一方で、
利益率の低い経営体は撤退をすることが可能である。
儲かる部分を残して、漁獲能力の削減が可能なのだ。
ITQのまとめ
1) 漁獲枠を個別に配分することで早捕り競争を緩和する(IQと共通)
2) 利益率が異なる経営体の間で漁獲枠の譲渡が発生する
i) 譲渡によって、双方が利益を得る
ii) 譲渡によって、漁業全体の利益が増える
3) 利益率の低い経営体は、漁獲枠を譲渡して漁業から撤退する
i) 過剰な漁獲能力が自動的に削減される
ii) 利益率の高い経営体のみ残るので、合理化が進む
書いてて、思ったけど、やっぱりITQは良い。
過剰な漁獲能力と枯渇した資源の日本漁業が生き残るためには、
消去法的にコレしかないんじゃないかな。
オリンピック方式(笑)は論外として、IQでも漁業全体が共倒れになる可能性が高い。
ということで、今後もITQのすばらしさを伝導していこうと思う。
さあ、みなさん、ご一緒に
ITQ!! ITQ!!
ITQ!! ITQ!!
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