自由競争を国是とする米国では、権利ベースのITQへのアレルギーはすさまじかった。
1990年に最初にITQが導入されたものの、
1996年にITQモラトリアムを決定した。
すでに実施中のものをのぞき新規のITQ導入を見合わせることにしたのだ。
過剰な漁獲能力の削減は、税金による減船で行うことになった。
世界の流れとは、全く逆の方向に進んだのである。
その結果として、米国の漁業管理は難航し、漁業者は苦しんだ。
ダービー制度でちゃんと資源を守ろうと思うと、漁期はどんどん短くなる。
漁期が1月とかは良くある話で、3日とかいうのも少なくない。
俺がカナダで聞いた話では、産卵親魚を対象としたある漁業は、
漁業開始から終漁まで、なんと15分しか無いと言う。
最初は冗談だろうと思ったら、本当の話らしい。
どうやって漁獲量を集計するのかわからないけど、凄い話だ。
よーいドンで、狭い漁場に漁船が一斉に向かうわけだ。
すさまじい場所合戦で、船が転覆したり、死傷者が出たりするらしい。
「今年は、死人が出なくて良かった」とか話してるんだから、呆れてしまったよ。
そんな競争を毎年やらされる側にとっては、溜まったもんじゃないだろう。
北米では、ダービー漁業による魚の奪い合いに明け暮れる中、
自由競争を捨てて権利ベースのIQ・ITQに移行した国々は、着実に漁業収益を伸ばした。
学習能力がある米国は、2002年にITQのモラトリアムを解除した。
そして2006年に、漁業資源保存管理法が改定され、
ITQが政策の中心として推進されることになった。
やると決めたら徹底的にやるお国柄だから、本気でITQに向けてひた走るだろう。
自由競争原理主義の米国ですら、権利ベースのITQへ移行している。
これは、キリスト教原理主義者がコーランを受け入れる様なものである。
ダービー制度の総本山が既に敗北宣言をしているのだから、
全ての資源管理は、権利ベースの配分制度に進んでいると言っても良いだろう。
残された問題は、漁獲枠の譲渡をどこまで許容するかであろう。
日本は何も考えずに、米国の漁業制度の猿まねをしてきた。
現在の日本のTAC制度は、90年代の米国の管理システムを、
そのまま骨抜きししたようなものである。
そして、米国ですら諦めたダービー制度に、未だにしがみついている。
自由競争好きの米国と違って、日本は既得権大好きなんだから、
そもそもダービー制度に固執する理由など無いと思うのだが。
まあ、水産庁の米国好きは筋金入りだから、
米国のITQ移行が本格化したら、日本もすぐさまITQに移行するかもしれない。
いや、冗談抜きで、本当に。
米国の漁業制度に関しては、これが参考になります。
水産振興 473号
米国の漁業管理政策について
-マグナソン・スティーブンス漁業資源保存管理法改正からの示唆-
水産庁資源管理部管理課資源管理推進室 課長補佐 大橋 貴則http://www.suisan-shinkou.or.jp/gekkann.htmから申し込むとタダでもらえるので、
興味がある人は是非。
442号の「本音で語る資源回復計画」とセットで読むと、味わい深いです。
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Comments:2
- ある水産関係者 07-09-30 (日) 9:23
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お久しぶりです。
水産庁をはじめ、米国の漁業制度の解説は様々出てますが、皆さん、肝心な部分が抜け落ちています。
それは制度維持のための経費を、単に、日本みたいに税金(国家予算)から確保するのではなく、受益者負担(漁業者、消費者、流通業者等々)の仕組みが確立されていること。
それはそうだろう、何でもかんでも税金で面倒をみていたら国家財政が破綻するのは当然。
そこのところを抜きにして、米国やノルウェーの制度が良いとか悪いとか、ITQ制度がどうだ、とか語って欲しくない。
資源管理も重要だが、わが日本国の税金の使い道には、それよりももっとプライオリティの高いものは山ほどある。
政府(役所)が受益者負担に触れないのは、何だかんだ言っても無知なのと制度を作るのが面倒くさいだけ。もちろん、政治家は票が減る、というのもある。
興味のある人は、是非、ここ(http://www.fakr.noaa.gov/cdq/fees/051806agendahandouts.pdf)を読んでみて下さい。基本的には、OPRT:責任あるまぐろ漁業推進機構が実施している徴収方法と同じですが、集めたお金の使途が違います(OPRTは台湾漁船の減船費用に使っていて、試験研究、行政経費等の直接経費を賄っている訳ではない)。貧乏ヒマなし状態になってなかなか書き込みが出来ませんが、読むのはしっかり読んでますので、今後ともよろしく!
- 勝川 07-10-02 (火) 17:31
-
ある水産関係者さん、こんにちは。
こちらもいろいろと忙しくなりそうで、暇無しです。おっしゃるように受益者負担は重要なポイントですね。
漁業関係者は「農家の方が優遇されているから、
漁業者にももっとばらまけ」と思っているようですが、
既に過剰な漁獲能力を持っている日本漁業にばらまきによる振興は不要です。
資源を利用する者の義務として、管理費用は漁業者から集めるべきでしょう。
実際に、世界の漁業はその方向に向かっています。資源管理を進める上で、必要なものは、
「不合理漁獲の抑制のための透明性の高いルール」と
「厳格な取り締まり」です。
そのために必要な組織は以下の2つです。
1)政治的圧力から隔離されて、オープンな議論が出来る海洋生物研究所。
2)しっかりとした取り締まり体制。
これだけあれば、事足ります。
1)は、今の水研センターを完全に独立させると良いでしょう。
2)は、海上保安庁に漁船の取り締まりを委託するのが適当かと思います。
資源管理を進めていけば、水産予算は大幅に削減され、
今の水産庁のような組織は不要になります。
納税者には良いことずくめですが、役所はもちろん反対するでしょう。政治家の方向転換は時間の問題だと思います。
先の選挙でも明らかなように、水産票では選挙に勝てなくなりました。
今まで、漁業の行く末など無視して、漁業者の機嫌取りばかりしてきたツケです。
今後は、漁業従事者以外の意見も政策に反映されることを期待しています。
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