日本のTAC制度はオリンピック方式ではない。それどころか資源管理ですらない。

今まで見てきたように、ダービー方式(オリンピック方式)は問題が多い。
資源を守る代償として、漁業がぼろぼろになってしまうのである。
日本の漁業もぼろぼろだが、それはダービー方式の副作用ではない。
それ以前の問題なのだ。
資源管理には、乱獲を抑制して持続的に漁業をするというゴールがある。
ダービー方式でもきちんと運用をすれば、資源は守れる。
日本のTAC制度には、漁獲量を抑制する効果が全くないので、資源は減り続けている。
これを資源管理と呼ぶのは、まじめに資源管理をしている漁業に失礼だ。

正しい資源管理
生物の生産力を評価して、持続的な漁獲量の上限を推定する。
この持続的な漁獲量の上限が、ABC(Acceptable Biological Catch)である。
生物の持続性を守るためには、漁獲量をABC以下に抑える必要がある。
そのために全体の漁獲枠(TAC: Total Allowable Catch)を設定する。
TACはABCよりも低くないといけない。
乱獲を回避するために設定されたTACを配分する手段として、
ダービー、IQ、ITQなどがあるわけだ。
配分法によって、漁業の行く末や漁業者の痛みは全然違うが、
TAC<ABCであれば、生物の持続性は守られる。
ダービー制度、IQ,ITQはすべて、乱獲回避というゴールを達成できる。
そのいみで、これらの制度は全て資源管理なのである。

日本のTAC制度は乱獲のお墨付き
日本のABC、TAC、実際の漁獲量の関係はこんなかんじ。
image07092501.png
青棒がABC。「これ以上獲ったら乱獲になります」という漁獲量を科学者が推定したものだ。
赤棒が日本国によって実際に設定されたTAC。
白棒が実際に漁獲された量。
本来はABC>TAC>TAC採捕数量となるべきなんだが、
まともなのはサンマぐらいで、軒並みABCを上回るTACが設定されている。
これでは、国として乱獲にお墨付きを与えて推奨しているようなものである。
ただ、日本国が幾ら獲って良いと言っても海に魚が居ないんだから、
漁獲量がTACまで到達することは極めて希である。
この希なことがおこると、漁獲を制限するどころか、TACの方を増やしてしまう。
これで資源が守れるなら、資源管理なんて必要ないだろう。

日本のTAC制度は、ダービー制度ですらない。
資源枠組みを輸入したが、運用の段階で完全に骨抜きになっているのだ。

まっとうな資源管理と日本のTAC制度の違い

image07092508.png

まっとうな資源管理では、道筋こそ違えども、乱獲回避というゴールにはたどり着く。
一方、日本のTAC制度は、乱獲状態を容認している時点で、資源管理とは言えない。
日本漁業は、実質的には無管理であり、
時代遅れのオリンピック制度ですらないのである。
日本の資源管理は、スタート地点にすら立てていないのだ。

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日本のTAC制度はオリンピック方式ではない。それどころか資源管理ですらない。 への4件のフィードバック

  1. K のコメント:

    >資源枠組みを輸入したが、運用の段階で完全に骨抜きになっている
    これは尤もだと思うのですが

    >日本国が幾ら獲って良いと言っても海に魚が居ないんだから

    というよりは、漁業者がTACを信用せずに自己制限を加え、自己管理をしているからという場合もたくさんあると思います。
    例えばズワイガニなんかがTACに到達しないのは、co-managementがうまく行っている例ではないでしょうか?

    そこに国が入っていないのは当然非難されるべきことだとは思いますが、

    >日本の資源管理は、スタート地点にすら立てていない
    国が旗を振るTAC制度がそうであって、日本古来からの地域漁業管理は必ずしも失敗ばかりではないと思います。
    #失敗が多いですが。

  2. 勝川 のコメント:

    >地域漁業管理は必ずしも失敗ばかりではないと思います。
    たしかに、成功例はありますが、極めて限定的です。
    いくつかの成功例があっても、その後に続くものがない。
    そのことに危機感は感じないのですか?

    >というよりは、漁業者がTACを信用せずに自己制限を加え、
    >自己管理をしているからという場合もたくさんあると思います。
    たくさんあるというなら、具体例を挙げてください。
    マイワシ、サバ、マアジ、スケトウダラ、スルメイカは明らかに違います。
    ズワイガニだって、ちゃんと管理されているのは、京都近辺の系群だけでしょう。
    あとは、サンマの出荷調整ぐらいでしょうか。

    >日本古来からの地域漁業管理は必ずしも失敗ばかりではないと思います。
    >#失敗が多いですが。

    はっきり言って、打率が低すぎです。
    それに対しては研究者にも責任はあります。
    研究者は数少ない成功例を繰り返しヨイショするだけで、
    失敗例や、問題点に対して取り組んでいない。
    だから、成功例が増えていかないのです。
    ● なぜ失敗が多いのか。
    ● 成功例と失敗例では何が違うのか。
    ● 成功例を増やすにはどうしたらよいのか。
    ● このアプローチで管理しうる資源の範囲は?
    観念的にco-managementを賞賛するだけでなく、
    こういった現実的な問題にも取り組んでほしいですね。

    地域漁業管理があるから、日本漁業は安泰ですか?
    私にはそうは思えません。

  3. K のコメント:

    ズワイガニ京都周辺は当然のことながら、太平洋系群も自己管理の範疇に入るでしょう。
    同じくズワイガニの北海道日本海区系群も、地元管理によって、取らないことを決めているだけで、いないから取れないわけではありません。
    #値段が安くて売れないから取らない

    スルメイカに関しても冬季系群は取れないから取らないではなく値段の問題で取らないと聞いています。

    サンマも値崩れ前に(TACより前に)漁獲を止める漁師も多く居ます。
    #これは勝川さんもまともな例とされていますね。

    地域管理でうまく行くという話ではなく、そもそもTAC自体が必要ない種にTACを当てはめて居るケースがあり、それでもってTACではうまく行かないと言われても、説得力が少ないと思うということです。

    更に、日本には現在多くの魚種がTAC対象種となっていません。
    例えば、伊勢湾のイカナゴにしてもTAC対象種でなく、努力量制限による管理が行われています。
    #で、現在のところは一応成功している
    TAC対象種が軒並み失敗しているのであるならば、TAC制度自体が日本の漁業管理に向いていないのではないでしょうか?

    #そもそもの成功例が少ないので、どちらが良いというような明確な証拠は出せませんが。

    ただ、TACでの失敗例だけをもって、
    >日本の資源管理は、スタート地点にすら立てていないのだ。
    というのは、合点ができないということです。

    ただ、だからといって日本の資源管理がうまく行っているとは思っていません。勝川さんがおっしゃるノルウェーの成功例も、ノルウェーの漁業の中の極一部の例ですよね?
    例えばノルウェーの遠洋トロールは北海の資源を食いつぶしている元凶とされており、必ずしもうまく言っていない例もあります。

    本当にITQで十分なのか?
    ITQという制度が日本の中でうまく機能するのか?

    日本の資源管理としてどのような手段が最も安泰となるのか?

    これが、最も興味のあるところだと思っています。

    日本で成功していると断言できるのは、恐らくホタテとシロザケ・カラフトマスくらいのものでしょう。
    どちらも養殖メインの農業的な漁業だけです。
    ITQにしたら本当に日本の漁業は安泰なのでしょうか?
    前述との逆説的にもなりますが、そもそも日本では資源管理は無理なんじゃないかと悲観もします。
    少なくとも総漁獲量制限は向いていないんではないか?
    現実として船があり、ごまかす手段があるならば、厳然とごまかしの効かない出漁日数制限や禁漁期をメインに使った漁獲努力量制限に主たる管理手法を動かしたほうが良いのではないか?とも考えます。

    そういった、TAC制度だけにとどまらない勝川さんの考察を今後も期待いたしております。

  4. 勝川 のコメント:

    >ズワイガニ京都周辺は当然のことながら、太平洋系群も自己管理の範疇に入るでしょう。
    >同じくズワイガニの北海道日本海区系群も、地元管理によって、
    >取らないことを決めているだけで、いないから取れないわけではありません。
    >#値段が安くて売れないから取らない
    >
    >スルメイカに関しても冬季系群は取れないから取らないではなく
    >値段の問題で取らないと聞いています。

    まず、値段がつかないから獲らないのは、資源管理ではありません。

    北海道日本海区は漁業者が3人しか居ないし、
    太平洋系群だって小さな漁業です。
    そういう細々とやっているところで、全員が顔見知りなら、
    話し合いで協定ぐらいはするでしょう。
    ただその取り決めが資源管理として機能するかは疑問です。
    資源が悪化して漁獲量を減らさなくてはならなくなった時に、
    漁獲量を減らせないでしょう。

    >サンマも値崩れ前に(TACより前に)漁獲を止める漁師も多く居ます。
    >#これは勝川さんもまともな例とされていますね。

    元の文章が理解できていないようですね。
    ABC, TAC, 漁獲量の大小関係のパターンがまともなだけで、
    資源管理としてまともだなんて一言も言ってません。
    今は資源状態がよくて、値崩れラインがABCを下回っているから、ABCまで獲らないだけ。
    資源状態が悪くなり、ABCが値崩れラインを下回れば、すぐに漁獲がABCを超えるでしょう。

    >地域管理でうまく行くという話ではなく、
    >そもそもTAC自体が必要ない種にTACを当てはめて居るケースがあり、
    >それでもってTACではうまく行かないと言われても、
    >説得力が少ないと思うということです。

    ようするに、「俺が例外的なケースを持ち出してTACを非難しているだけで、
    TAC制度は全体として上手くいっている」と言いたいのですね。
    なんか、段落ごとに主張が変わってないですか?

    「そもそもTAC自体が必要ない種」は、具体的にはズワイですよね。
    たしかに漁業者が3人しか居ないズワイ北海道日本海区をTACで管理する必要はないでしょう。
    そのことについては同感です。
    でも、このサイトでは、ズワイガニを根拠にTACがダメだとは、一言も書いていない。
    当サイトで取り上げたのは、サバ、マイワシ、スケトウなど沖合・沿岸で利用される広域分布種です。
    沖合漁業は中小企業の集合体だから、地域管理はむりでしょう。
    ズワイガニの一部の系群を除いて、TAC魚種の選定は妥当だと思います。
    特殊なケースを持ち出して、揚げ足取りをしているのはあなたでしょう。

    あと、同業者に「説得力が少ない」とまで言う以上、
    説得力がある対案を示してくださいね。

    >TAC対象種が軒並み失敗しているのであるならば、
    >TAC制度自体が日本の漁業管理に向いていないのではないでしょうか?

    だから、日本のTAC制度は資源管理ではないと言っているだろうに・・・

    >ただ、だからといって日本の資源管理がうまく行っているとは思っていません。
    >勝川さんがおっしゃるノルウェーの成功例も、
    >ノルウェーの漁業の中の極一部の例ですよね?
    >例えばノルウェーの遠洋トロールは北海の資源を食いつぶしている
    >元凶とされており、必ずしもうまく言っていない例もあります。

    北海の遠洋漁業については、国際的な管理の枠組みがないことが問題の本質であり、
    ノルウェーが獲らなくても、他国の漁業で資源は減るでしょう。
    国際的な管理の枠組みの欠如を、ノルウェーのせいにするのはおかしい。
    あと、今話をしているのは国内資源の問題であって、
    次元が違う国際資源を持ち出すのは論旨のすり替えでしょう。

    ノルウェーの国内資源は、ほとんどが良好な状態ですよ。
    ノルウェーの国内資源で、日本のマサバのような獲られ方をしているものがあるなら
    教えてください。

    >本当にITQで十分なのか?
    >ITQという制度が日本の中でうまく機能するのか?

    それを考えていくのが我々の本来の仕事です。
    資源管理が出来ない言い訳を探すだけの人間は不要です。

    >前述との逆説的にもなりますが、
    >そもそも日本では資源管理は無理なんじゃないかと悲観もします。

    対案も示さずに、そう逃げるのは狡いだろう。

    >少なくとも総漁獲量制限は向いていないんではないか?
    >現実として船があり、ごまかす手段があるならば、
    >厳然とごまかしの効かない出漁日数制限や禁漁期をメインに使った
    >漁獲努力量制限に主たる管理手法を動かしたほうが良いのではないか?
    >とも考えます。

    じゃあ、こんなところで他人の揚げ足をとってないで、
    努力量規制が日本に適しているという持論を反証可能な形で文章にまとめてください。

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