北海道ブロックの資源評価外部委員をクビになった

水研センターの委託事業である、北海道ブロックの資源評価の外部委員というのを2004年からやっている。北海道の資源評価(スケトウダラ、ホッケなど)について、専門的な視点からアドバイスするのが役目だ。水研センターの上の方の意向で、「今年からは来ないでくれ」ということになった。その背景について説明しよう。

水研センターは、今回の事業仕分けの対象にもなった、水産庁の天下り先である。ただ、一般的な天下り法人とは違い、水研センターには、研究組織としての実態がある。水研センターは、北海道から沖縄まで、日本全国に拠点を持ち、日本の水産研究をリードしてきた由緒正しい組織なのだ。農水省由来の理事たちは、月給80万円で役所に都合が悪い研究をしているものがいないか監視しているわけだ。理事の経歴を一切書いていないのは、やましいからだろうね。(事情により一部削除、詳しくはコメント欄を参照)

研究機関である水研センターでは、水産庁の意向は絶対だ。上司の許可がないと論文も発表できない。中間管理職が水産庁の意向にそぐわない研究はないかと常に目をひかされている。「論文を書いたのだけど、上司に止められて、投稿できなかった」とかいう話を、しばしば耳にするのだけど、同じ研究者として胸が痛む。苦労して論文書いても、発表できないリスクがあるので、もめそうなテーマは誰も選ばなくなる。結果として、養殖だとか、産卵場探しだとか、海洋環境で魚が減っただとかいう研究ばかりに人が集まり、資源のことをやる人間はほとんどいない。社会からは、もめそうなテーマほど、科学が求められているのだけど、社会的要請に背を向けているわけだ(まあ、これは大学も同じだけどね)。

その水研センターが、水産資源の評価業務を一手に引き受けている。日本の大学で、資源をやっているところは、ほとんど無いので、水研センターがやるのは仕方がないのだけど、当然、水産庁の意向が色濃く反映される。マイワシだのサバだのは、TACを設定していること自体が非常識なほど資源が減っているのだけど、あり得ない量の漁獲枠が設定されている。最初に業界の意向ありきの資源評価になっているのだ。資源評価の担当者が、まず、業界と打ち合わせをするって、常識的に考えておかしいだろ。

国が設定する漁獲枠(TAC)は、科学者が推定した生物学的許容漁獲量(ABC)を大幅に超過していた。この問題をメディアでしつこく指摘したので、水産庁は去年からTACとABCを等しくする方針を示した。これ自体は良いことなんだけど、業界の言い値であったTACを本来のABCまで下げるのではなく、資源評価に介入し、業界意向に沿ってABCを上げているのが実情だ。

毎年、決定したABCを報告する全国評価会議というのがある。ちょうど東京にいたから、冷やかしで出席をしたんだけど、酷かったね。マイワシは、普通の国ならとっくに禁漁にしているような低水準なんだけど、資源を回復させようとしていない。「増えた分は根こそぎ獲っちまえ」というスタンスで ABCを決めていた。俺は次のように質問をした。

俺「昔(TACとABCが乖離していた時代)は、資源回復を目標にしてABCを設定し ていたが、なぜ回復させない方針に変わったのか?」
水研担当者「水産庁の中期的管理方針で、資源量を現状維持にせよとあるので、それに従ってABCを決定した」
俺「中期的管理方針でマイワシは回復させなくても良いということだが、それはどのような生物学的根拠に基づいているのか?」
水研担当者「わかりません」
水産庁担当者「この場では即答できないが、水産政策審議会の議事録をみれば解る」

というようなやりとりがあった。ABCを決める方針について、最終的な会議でだれも説明できない。こんなの、資源評価じゃないだろう。でもって、水産政策 審議会の議事録を隅から隅まで探したけど、そんな記述はどこにもない。マイワシのABCはなんの説明責任も果たしていないのである。

「TACとABCの乖離を無くしました」と水産庁は威張っているけど、そんなのそもそも当たり前。さらに、近年は、ABCへの行政の介入が増えているので、実態は何一つ変わっていないどころか、悪くなっているかもしれない。そんななかで、現在もTACがABCを大幅に上回っている魚種が一つだけある。スケトウダラだ。その理由は、北海道にはうるさい外部委員がいて、水産庁資源管理課の思い通りにABCを操作できなかったからである。
https://katukawa.com/2006/08/post_29.html
https://katukawa.com/2006/08/post_30.html
役所にとって、外部委員というのは、自分たちの方針にお墨付きをあたえて、素人を黙らせるための道具にすぎない。その道具に、自分たちの方針をひっくり返されたら、おもしろくないわけだ。理由を付けて排除をしようとするのは当然だろう。以前も「勝川を辞めさせろ」と上から圧力がかかったことがあった。そのときは、俺も必死だったし、いろいろあって続投をすることになった。当時の北海道ブロック会議では、俺一人が突っ張っている状況だったから、俺が抜けたら資源評価が骨抜きにされるという危機感があった。

今は、かなり状況が違う。漁業とは独立した音響資源調査も軌道に乗り、魚がいないということは漁業者も納得済みだ。研究者にも、資源評価の場として、ちゃんとした数字を出そうという意識が育っている。他の外部委員も、俺以上にびしっと言ってくれるようになった。俺がいなくなっても、北海道ブロックの資源評価はグダグダにならないと信じているので、今回は、安心して、辞めさせられることができる。

今後は、北海道ブロック以外のABCを批判していくつもりなので、外部委員を辞めるタイミングとしては悪くない。そもそも、外部委員なんて不名誉職であり、解任された方がかえってハクがつくというものだ。

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北海道ブロックの資源評価外部委員をクビになった への5件のフィードバック

  1. 沿岸漁業の一漁師 のコメント:

    外部に向けては『資源管理について考えています』というポーズをとりたかったけど。
    実は考えたくなかったということですねw。

    >5人の理事は、オール農水省。理事の経歴を一切書いていないのは、やましいからだろうね。理事たちは、月給80万円で役所に都合が悪い研究をしているものがいないか監視しているわけだ。

    でしょうねw。祭られたら都合が悪いですし。
    うちの地元にも職員の振る舞いが『如何なものか?』という県の外郭団体の(財)がありますが、ホムペなんてありませんし、当然、会計報告を検索しても出てきませんw。
    行動解析すると疑念を抱かざるを得ないですね。

  2. 勝川 のコメント:

    考えたくなかったではなく、考え抜いた上の選択です。
    外部に向けては『資源管理について考えています』というポーズをとりつつ、
    規制を骨抜きにすることで漁業者に恩を売るというシステムなのです。

    なんとか、このシステムを維持しようと、必死ですよ。
    サバ類は、未だに、ABCを水増しすることで、外部の目をごまかして、
    獲りたい放題をさせています。

  3. 沿岸漁業の一漁師 のコメント:

    固執する理由はなんだろうかね?
    『握らせたり』、『抱かせたり』というのかもしれないなw。

  4. とある関係者 のコメント:

    理事長を研究者に分類するのなら、理事のうち石塚・井上の2氏も研究者でしょう。
    経歴も似たり寄ったりです。
    研究員からまっとうに出世(?)して役員になったのだと思います。
    その過程で水産庁に選抜・洗脳はされているでしょうが。
    ただ、皆、本庁勤務や国時代の管理職の経験があるのでこれをもって天下りに分類する人もいます。この場合は理事長も天下りです。
    これだと国研時代から勤めている人の多くが該当しちゃうんですけどね。

    批判をするときほど、データは正確に。個人の情報に関わるものは特に。
    公開されていないなら情報を入手するまで憶測で書かないことです。
    そうしないとつまらない揚げ足取りで本質の議論がごまかされちゃいますよ。
    (水産学会の「勉強会」でもそんな場面がありましたよね。)

    ここでは、こんなことの議論したいんじゃないですよね。

  5. 勝川 のコメント:

    とある関係者さん

    アドバイスをありがとうございます。言いたいことはこんなかんじですね。

    予算と人事という、タマを二つとも握られていたら、研究機関としての独立性が保てない。
    現状追従的なテーマ以外の研究をしづらくなり、結果として、国益に反することになる。
    だから、予算と人事の独立性を高めるべき。

    理事の経歴をさっと検索して、在籍記録があるかどうかだけで、
    天下りかどうかを判断したのですが、確かに、荒いやりかたでした。
    理事個人について論じたいわけではないので、該当箇所は削除しました。

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