みなと新聞 0912 自壊するマサバ漁業

今年は太平洋岸でマサバの水揚げが好調であった。500g前後の三歳魚がまとまって漁獲されたのは約20年ぶりである。07年産まれの0歳魚が多いという情報もあり、関係者の間では資源回復への期待が高まっている。しかし、マサバ太平洋系群は回復どころか存続すら危うい状態である。

マサバの資源量は、歴史的にみて低水準である。92年、96年は卵の生き残りがよく、資源量は一時的に回復したが、そのほとんどが0歳、1歳という未成魚の段階で漁獲されてしまった。未成魚の乱獲によって、資源回復の芽を摘んだのである。

今年も同じ失敗を繰り返そうとしている。ここ数年の漁獲を支えてきた04年生まれの3歳魚は、今年の11月までにほぼ獲り尽くされた。1歳魚、2歳魚は漁獲開始前から数が少なく、現在はほとんどいない。唯一のこされた0歳魚は、すでに強い漁獲圧にさらされており、90年代と同じように成熟前に獲り尽くされる可能性が高い。
早急に漁獲枠を削減して0歳魚を保護する必要があるのだが、業界の意向に従って、水産庁は11月にサバ類の漁獲枠を54万トンから75万トンへ増枠した。有識者からなる水産政策審議会は増枠案を承認した。産官学の無責任トライアングルによって、サバ漁業は自壊の道を辿っている。
現在、大量に水揚げされている0歳魚を獲らずに泳がせておけば、3割が3歳まで生き残る。3歳で漁獲すれば、漁獲重量は1.5倍になるし、重量あたり単価も上昇するので、漁業収入は4倍になる。
食糧自給の観点からも、1Kgの小サバを餌にして100gの養殖魚を作るより、1.5Kgの天然マサバを獲る方が好ましい。生鮮向けのサバが供給されれば、加工や流通などにも良い影響を及ぼすし、鮮魚を供給してこそ魚離れは防げるはずだ。また、3歳まで待てば、少なくとも1回は産卵できるので、次世代の増加にもつながる。

資源の持続性と漁業全体の利益を犠牲にして、特定の漁業者が短期的な経済利益を得ている現状は、まさに不合理漁獲の見本である。0歳魚を乱獲をしている大臣許可漁業は税金で手厚く保護されている。回復計画の休漁補償金として公金を17億円も受け取っている。また、税金で新しい漁船を建造する計画もあるという。これでは税金で乱獲を推進しているようなものである。
サバは乱獲に強い魚ではない。北海のサバ資源は乱獲によって85年に漁業が消滅した。その後は漁獲の対象となっていないが、健全だった時代の3%程度の資源量から回復しない。乱獲によって資源の回復力が失われてしまったというのが、欧州のサバ研究者の共通認識である。90年代以降の日本のマサバの高い生産力は、餌であるカタクチイワシが豊富にあったためと考えられている。近年、カタクチイワシの資源量には陰りが見られている。このままカタクチイワシが減少すれば、日本のサバは北海のサバと同じ運命をたどるだろう。

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