日本のサバ漁業は、価格破壊ではなく、価値破壊

魚の消費形態にもいろいろなグレードがある。

  1. 寿司屋、料亭などの高級食材
  2. スーパーや魚屋の一般鮮魚
  3. スーパーの特売用の鮮魚
  4. 缶詰、削り節などの加工品
  5. 養殖のえさ・中国アフリカ輸出

グレードが上の方ほど、値段が高いが、必要な量は少ない。数年前に、80年代に安い大衆魚であったマイワシが資源減少とともに高騰し、1尾1000円になったという報道がでた。マイワシの漁獲減によって、寿司屋や料亭で魚の奪い合いになった結果、こんな値段になったのであり、この値段でスーパーに並んでも誰も買わないだろう。また、寿司屋や料亭にしても個の値段では客に提供しない。寿司屋では、ネタの欠品は客足が減る原因になるので、採算割れを覚悟で、不足しそうなネタを仕入れるのである。

魚が水揚げされると、上の方のグレードから埋まっていく。高級鮮魚市場が満たされると、次に魚は一般鮮魚市場へと向かう。大中捲きが、調子に乗って千トンも水揚げをすると、鮮魚市場もいっぱいになり、鮮魚相場はガタガタになる。鮮魚市場からあぶれた魚が冷凍・加工に向かうことになる。このときに、冷凍設備や加工場がない港の余った魚は文字通り生ゴミになる。

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80年代にマイワシが豊漁の時代は、漁獲が全ての食用市場を見たし、質がよいマイワシが大量に養殖のえさになった。現在はサンマが食用需要を超える水揚げが続き、値崩れを起こしている。こういう魚は、養殖の餌や輸出を考えるべきなのだ。しかし、サンマ業界の足並みがとれず、身動きがとれていない。そうこうしているうちにサンマも減ってしまうだろう。チャンスの女神には前髪しかないのである。

90年代以降のサバ漁業は80年代のマイワシとは根本的に違う。食用のサバが不足した状態で、ほとんどのサバが最低グレードで浪費されているのだ。サバの行き先は、水揚げコンディションと大きさで決まる。

  1. 寿司屋、料亭などの高級食材→600g以上→枯渇
  2. スーパーや魚屋の一般鮮魚→450g以上→ノルウェー
  3. スーパーの特売用の鮮魚→350g以上→ゴマサバ
  4. 缶詰、削り節などの加工品→250g以上→ゴマサバ
  5. 養殖のえさ・中国アフリカ輸出→250g以下→マサバ

一番下のグレードにしかならない0歳1歳でサバを獲り尽くして、中国に輸出しているのだ。頭が痛くなるぐらい、バカな獲り方だ。

img09070307

下の図は、2001年のサバの用途別漁獲量である。みんながみんなそういう獲り方をしているわけではないんだけどね。



(↑詳しくは、https://katukawa.com/2007/07/post_160.html

80年代のマイワシ漁業は、良質のマイワシを安価で豊富に供給していた。消費者にメリットのある価格破壊である。一方、現在の日本のサバ漁業は、価値が出る前に魚を獲り尽くし、まともな魚を供給できていない。これは、価格破壊ではなく、価値破壊である。

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日本のサバ漁業は、価格破壊ではなく、価値破壊 への8件のフィードバック

  1. APAX FBP 原 のコメント:

    勝川先生
    レポート楽しく拝見させて頂いております。私はサバの輸出に
    係わっている者です。

    小サバを獲ることは私も個人的にはあまり賛成できません。
    小サバだけでなく、抱卵期のサバを獲るのもどうかと思っております。

    しかし、小サバ輸出はアフリカ、中国へ、、というのは少し誤りがあります。
    中国でも小サバはたくさん獲れますし、204年に九州から出たのが
    たまたま小サバだったから、たまたまその時だけそういう風に見えただけです。
    実際、輸出の現場から言えば小サバの主な輸出先はインドネシア、タイなどの
    缶詰用です。

    それは、貧しい国にはジットニーというタイプの小型缶が良く売れまして、
    (と、いうか所得が低いから小型缶しか買えない。)その缶に合うのが
    200G以下の小サバなのです。

    産業界からの意見などももっと収集されて材料に使われても良いかと思います。

    日本とノルウエーでは原則は同じでも、実際比較する土台というかバックグランド
    には大きな違いがありますから。

  2. same のコメント:

    APAX FBP 原 様

    初めまして。サメ屋のsameともうします。

    私が知っている限りでも、ノルウェーは燃料費・電気料金が信じられないくらい安いと聞きました。
    大規模化・工業化がスムーズに行きやすい環境ではあると思います。

    しかし、違いはあれども勝川さんがテーマにしている、資源とビジネスの考え方は大事だと思います。

    正しいかどうかは別として、リカードの比較優位説は貿易ビジネス分野を正当化させるための理論で、自国の貧しい人たちの生活物資を奪っているという考え方があります。
    ・・・皮肉ですが、日本はその方々のために資源を枯渇させていると(人道にのっとった行為を行っている?)・・
    私見ですが、潤った資金は国内に還流させるのが筋と考えます。

    また、漁獲規制についてですが、地域社会とか、文化とか、そういったものを我々が感傷的に引きずっているために話が複雑になっているような気がします。
    官僚で地方出身者は少なくありません。
    意味があまりあるとは感じられない沿岸整備などは、故郷を思う気持ちが補助金といった形になっている場合もあるでしょう。
    しかし、それが本当に地方のためになっているかどうかは別です。

  3. 勝川 のコメント:

    原様

    貴重な情報をありがとうございます。

    >産業界からの意見などももっと収集されて材料に使われても良いかと思います。

    元々は資源の研究者なのですが、漁業の未来を考えていくと、
    生物だけ見ていればよいわけではないので、漁業の現状も知らないといけない。
    また、獲るだけではなく、流通、加工、消費も勉強もしないといけない。
    さらに、国際化のなかで、世界市場の動向も重要、といった具合に、
    やることが雪だるま式に増えていき、手が回っていないのが実情です。

    輸出については、興味があるところなので、情報をいただけると大変ありがたいです。
    特に、何グラムのサバが、どこにいくらで売れるかを知りたいところです。

    日本漁業が生き残るためには、輸出は重要なファクターと考えています。
    ただ、今のように、日本で売れない低価値魚を輸出するというスタイルでは、
    漁業の衰退を加速するだけでしょう。
    長い目で見れば、輸出業者も漁師と共倒れです。
    今のとりかたを続ければ、サバは、10年も持たないと思います。
    どの大きさの魚を、どう獲れば、どこに、いくらで売れるのかを
    しっかり調査した上で、適切なサイズで漁獲をして、良い値段で売ってほしい。
    個別漁獲枠制度を導入し、適正なサイズを安定供給することが前提です。

    どちらにせよ、200gのサバは値段がつかないですよね。
    もう少し待てば、高くなるので、もったいない限りです。

    >日本とノルウエーでは原則は同じでも、実際比較する土台というかバックグランド
    >には大きな違いがありますから。

    どのサイズで獲ってどこに売るかを予め決めてから、魚を獲りにいくノルウェーと、
    手当たり次第にとって、売れるところに売る日本では、根っこの部分が違いますね。
    個別漁獲枠でしっかりと管理されている国と、早い者勝ちの国の違いです。

    日本近海は宝の山なので、持続的・合理的に利用して、しっかりと利益を出してほしいと思います。

    sameさん
    >・・・皮肉ですが、日本はその方々のために資源を枯渇させていると
    >(人道にのっとった行為を行っている?)・・
    >私見ですが、潤った資金は国内に還流させるのが筋と考えます。

    乱獲を正当化する屁理屈は、いくらでも出てきますね。
    その知恵を少しは漁業を良くすることに使えばよいのに・・・

    まず、再生産に必要な親を充分に取り残すのは大前提ですね。
    その上で、国内よりも値がつくなら、輸出はどんどんすべきだと思います。
    日本は今までさんざん輸入をしておきながら、「自分たちの魚は売りません」では、
    アンフェアです。
    ただ、どういうサイズで獲って、どこに売るかは、戦略的に考えないといけない。
    限りある自然の生産力ですから、持続的に、
    価値が出るようなとりかたをする義務があります。
    また、得られた利益は、漁業関係者に公平に配分すべきです。
    (これはノルウェーもできていません)

    >ノルウェーは燃料費・電気料金が信じられないくらい安いと聞きました。
    >大規模化・工業化がスムーズに行きやすい環境ではあると思います。

    ノルウェーに限らず、多くの漁業国は、政策的に漁業の大規模化をしています。
    世界で闘って行くには規模が必要だからです。
    例えば、サントリーとアサヒビールが提携をしたのと同じ構図です。
    一方、日本は、採算を度外視して、小規模な漁業を政策的に維持しています。
    日本だって、政治的な小規模優遇をやめれば、自然と大規模化に向かうとおもわれます。

  4. 沿岸漁業の一漁師 のコメント:

    >ノルウェーに限らず、多くの漁業国は、政策的に漁業の大規模化をしています。

    日本は組合事業、部会、協業体での生産を推進していますね。補助金が取りやすいということもありますが。
    ソビエトの『コルホーズ』というか、中国共産党の『人民公社』というかwwwwww。

    倫理観が高く、内部統制が機能すればそれでも良いんでしょうが、個人が手がけていることを税金を投入して劣化コピーすると厄介ですね。

  5. 原 亮一 のコメント:

    勝川先生

    コメントを頂きありがとうございます。

    輸出を生業としている人間にとって持続的漁業はまさに望むところです。
    ただ漁業者も浜の生産者もあまり長期的視点では残念ながら考える
    素地がありません。 とにかく今は漁業者は獲ってくる、獲ってきたら
    それを浜の業者が”またこんなの獲ってきてー”と言いながらも買わないと
    次が買えないから、、みたいな理由で買ってしまう、買ってからどうしようか
    と考えるーという悪循環です。

    ただわからせる戦法としてノルウエーはグッド, 日本はバツという方程式
    を全面に出してしまうと、開き直りに近い拒絶反応を生理的に示す人も
    いるでしょうから、実務、商業的な部分で彼らがもっと身近なものとして
    考えるように誘導できたらもっと良いかなと考えています。

    はっきり言って毎年10万トン以上もサバが世界に輸出されている現在でも
    (今年は10万トン割れそうですが)、実際輸出先でどのように消費されている
    か、または日本産サバが評価されていることを詳しく知る漁業者は皆無とは
    言わずともごくごく少ないでしょう。

    日本の場合、サバが輸出されるまでの一般的なルートは

    ①漁業者→②浜のセリ→③凍結業者→④浜のブローカー→⑤大手水産会社
    や商社→⑥海外の会社

    となるのが最も一般的です。簡単に言えば海外のバイヤーや消費者に渡るまでの
    仲介者が多く、とても漁業者が自分が漁獲したサバの評価を検討したり、その後の
    漁業に生かしたりする術が無いのです。

    これでは浜の情報も海外には正確には伝わらず、海外の消費地の情報も漁業者に
    は伝わらない(あえて伝えない?)のです。

    海外、とくに欧米の場合は最短の場合ですが、

    ①漁業者(=生産者=輸出者)→②向け地のバイヤーとなっているケースもあり、
    お互いの通信距離が短いのです。

    これは単に大きな魚を獲っているとか、管理しているとかの話とは別の次元のもので、
    語学力の問題やら昔からの商習慣の問題なども関係してきてます。

    ややこしいですね、日本って小さな国の割には。

    ちなみに最近は4、5月に獲れた300-500gサイズのマサバが輸出市場では
    余り気味、なんせ卵を抱いていますから、脂は無いし、サイズが大きめでも加工
    にも向きませんのでこの時期のは。(なんで獲るんですかね、そもそも?)

    鮮魚市場向けの600g-700g Upも、サンマとバッティングするとサンマの方が
    人気があるのか全然だめ、つまり今のサバ市況はちょっと八方塞がり的なのです。

    先週は脂質が30%もある大き目のゴマサバが続けて銚子で水揚げされましたが、
    海外、国内ともに吸い込み悪く、また話をややこしくしてしまっています。

    要は小型サバを積極的に獲ってはいけないというのは正しいと思うのですが、
    大型になるほど価値が上がるのではなく、そのサイズがが市場で呼んでいる
    (需要がある)場合は値が上がるという感じが実務者としての認識なのです。

    個人的には一番売りにくいのは200-400gというサイズです。通常アジア市場での
    端売りでは300g以下のサイズは評価が低いので、上下どっちも入っている200-400g
    というサイズが一番中途半端、結局最近日本産サバを一番買っているエジプトあたりに安値
    で叩き売られています。 獲り方も下手だけど売り方も下手なのですね。

  6. 原 亮一 のコメント:

    忘れてました。サイズ別輸出先を補足します。私の知る限りでは、
    サイズ    輸出先
    マサバ、ゴマサバ
    100-200g  アジア(タイ、インドネシア、フィリピン)缶詰原料用
           (缶詰の最終消費地はアフリカなど途上国)
    200-300g/400g 最近のトレンドではエジプト向け!(一部アジア缶詰用有り)
    300-500g アジア(タイ、ベトナム、他)端売り(Wet Market用)最もなポピュラーサイズ
    400-600g  同上 
    * 600gより大きいサイズは日本国内鮮魚用に向けられます。

    但し、マサバで秋から冬にかけて獲れた脂のあるものは
    300-500g, 400-600g共に中国(日本向け加工用)
                   韓国(端売り用、加工用)

    と脂のある、無しとかの品質で向け地や出す時期が変わります。

    一方、食用ではないですが、マグロの釣り餌用として

    10kg40尾、45尾、50尾、55尾、、、、、70尾、、、、100尾
    とか尾建てにして台湾などマグロ漁業国に輸出される小サバも
    あります。これは養殖の餌用とは全くの別物で価格も倍高いです。

    ご参考まで。

  7. 勝川 のコメント:

    サバの輸出についての情報をありがとうございます。大変ためになりました。輸出も含めて、持続的有効利用を考えていきたいと思います。

    >とにかく今は漁業者は獲ってくる、獲ってきたら
    >それを浜の業者が”またこんなの獲ってきてー”と言いながらも買わないと
    >次が買えないから、みたいな理由で買ってしまう、買ってからどうしようか
    >と考えるーという悪循環です。

    この悪循環を解消するには、市場の状態を見て、漁業者が魚を獲りに行くようになればよい。資源管理をちゃんとやれば、必然的にそうなるのです。まあ、その辺はおいおい、ブログで説明をします。

    流通についても、問題点がいろいろ言われていますが、魚の獲り方と魚の売り方は、コインの裏と表です。両者をまとめて、総合的に考える必要があるでしょう。

    >ただわからせる戦法としてノルウエーはグッド, 日本はバツという方程式
    >を全面に出してしまうと、開き直りに近い拒絶反応を生理的に示す人も
    >いるでしょうから、実務、商業的な部分で彼らがもっと身近なものとして
    >考えるように誘導できたらもっと良いかなと考えています。

    そういう面もなきにしもあらずですね。一般人の理解を得る方が大切だと考えて、わかりやすさを最優先した結果ですが、ちょっと、考えてみますね。

    >4、5月に獲れた300-500gサイズのマサバが輸出市場では
    >余り気味、卵を抱いていますから、脂は無いし、サイズが大きめでも加工
    >にも向きませんのでこの時期のは。(なんで獲るんですかね、そもそも?)

    時季外れのサバを、「ずいぶん」と南の方まで、獲りに行ったという話です。うっかり獲れちゃったという感じではないですね。期中改訂で増やした漁獲枠を、きっちりと獲りきっておくと、漁獲枠を増やすように要求しやすいとでも思ったのでしょう。もったいない話です。

  8. ピンバック: あじさい文庫だより

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