- 2009-11-30 (月) 15:17
- 日記
長期的な国益に適うかどうかと言う視点で、事業を仕分けしなくてはならない。それはどういうことか。簡単に私見を述べよう。
漁業が存続するには、まず、資源(魚)が必要である。その上で、魚を獲っている人たちが生計を立てていく必要がある。資源の持続性と漁業経営の2つが産業が成り立つための最低条件であり、その最低条件が満たされて初めて、雇用の創出や食糧の安定供給などの効果が期待できる。基本効果が成り立って初めて、地域経済や食文化などの多面的機能が期待できる。
魚が安定して獲れて初めて、漁業経営が成り立つし、漁業が多面的機能を発揮できるのである。にもかかわらず、水産庁は、これまで多面的機能を口実に、過剰な漁獲活動を維持するために税金を使ってきた。枝葉を口実に幹を切り落としてきたのである。世界最高額の補助金を漁業に注入しながら、日本漁業が衰退する理由はここにある。
現在は、日本近海の資源が壊滅的に減少している。漁業者は少なくなった魚を奪い合い、自滅をしている。スーパーに行けば、小さな魚ばかりが並んでいる。乱 獲・早獲り競争の主役は巻き網という極めて効率的な漁法だ。本来は効率的な漁法ほど、適切に規制をしなくては、ならないのだが、残念ながら、日本漁業は無 規制に近い状態であり、巻き網船の無秩序な魚の奪い合いで、日本の漁業全体が傾いてしまった。ここでも指摘したように、波崎の計画は、値段がつく前の未成魚を乱獲しているような船を、わざわざ税金で増強する計画。高付加価値化と言いつつ、魚の単価はkgあたり54.6円から54.8円になるだけ。獲り方を変えるつもりはさらさら無いのである。これが「食糧安定供給」という名目で進行中なのだから、まさに本末転倒で、開いた口がふさがらない。税金を使って、漁業を衰退させているようなものである。
一方、石巻の計画は、波崎とは対照的に、資源の持続性を考慮している。船団全体の規模を、現行の755tを415tに削減する。船が小さくなるだけでなく、フィッシュポンプや冷凍設備の導入など、高付加価値化のための設備を導入し、もともと100円以上あった単価を、今後は123円まで増やす計画になっている。少なくなった魚を価値がある獲り方をすることで、漁獲圧を削減しながら利益を出していく考えだ。また、居住スペースの改善による労働環境の改善も計画に含まれている点も、大いに評価したい。石巻の計画は、漁業をより良い産業にするための投資としての価値が十分にある。残す価値があったと思う。
仕分け人は、長期的国益という視点で、水産関連の事業を仕分けすべきである。波崎の計画と、石巻の計画の違いを理解した上で、それぞれの事業が漁業の持続的発展に寄与するかどうかを判断しなければならない。残念ながら、現段階では、仕分け人はそのレベルに達していない。まあ、国内でこのレベルの政策判断が出来る人間は、専門家でもほとんどいないので、事業仕分けにも最初からそのレベルは期待できないのだけれど。事業仕分けが、現状で満足して、今のレベルにとどまるのなら、単なるパフォーマンスと批判されても仕方がないだろう。今年の経験を糧に、上を目指すつもりがあるならば、とても意義のある一歩と言える。どちらなのかは、現段階では判断がつかないのだが、政治家と官僚が予算について協議をする場を作ったこと自体は高く評価できる。世論の声も考慮しながら、この「場」を育てていって欲しいものである。
今のやり方が乱暴だという批判はその通りだと思う。現状では、議論がかみ合っていないので、最初は慣らし運転の方が良かっただろう。水産分野はまだまだ削れるけど、国防、外交が絡む部分は、しっかりとした調査をもとに慎重に議論をしてほしい。俺も直撃弾を食らって、来年の予定が立てづらい状況ではあるけれど、まあ、仕方がないのかなとあきらめ気味です。
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