コッドの崩壊も環境変動が原因?

北西大西洋のコッド(以下コッド)の崩壊を乱獲の事例としていろんな場所で紹介してきたので、
俺の話を聴いた人も多いだろう。
先日、水産系の新聞に「コッドの崩壊の原因は乱獲ではなく、海洋環境だ」という記事がでて、
「なんだ、勝川の言ってることと、全然違うじゃないか」と一部で話題になっていたらしい。
そういうことは、本人に直接言ってくれればいいのに・・・

この話はすっかり忘れていたんだが、先ほどそれらしきページを見つけてピンと来た。
http://blog.livedoor.jp/kamewa/archives/50768923.html
たぶん、この記事のことでしょう。

サイエンスの最近の号を探してみると、それっぽいものがありましたよ!
OCEANS: Climate Drives Sea Change
    Charles H. Greene and Andrew J. Pershing
    Science 23 February 2007: 1084-1085.

http://www.sciencemag.org/cgi/content/summary/315/5815/1084

北極から低温・低塩分の水が流入して、
北西大西洋の生態系に影響を及ぼしたっていうそのものずばりの内容。
ほかに類似する論文は無いのでビンゴだと思う。

この論文を読んでびっくり。
コッドの崩壊が海洋環境のせいだなんて一言も書いていない。
北極水が最初にコッドの生息域に来たのが1991年。
その年に、わずかに残ったコッド資源を漁業で一掃してしまったわけで、
時系列的にもコッドの崩壊を北極水のせいにするのはどう考えても無理だ。

この論文の内容をフランクに要約するとこんな感じ。

北西大西洋の生態系はこんな感じに遷移した。コッドが減ったら、残りの奴らが皆増えたのだ。
生態系の図だよん
コッドが減ったのは乱獲でファイナルアンサーなんだけど、
10年以上禁漁をしても資源量が回復しないのは北極水の影響かもよ?(根拠は書いてない)
あと、Frankたちが、生態系の変化を全部コッドのせいにしているけど、そいつはどうかな。
直接捕食されるエビやカニが増えたのは、たぶんコッドの減少が原因だろうけど、
植物プランクトンや動物プランクトンの増加は北極水の影響が大きいかもよ?
つまり、コッドの乱獲でエビが増えて、北極水のおかげで植物プランクトンが増えたってわけ。
上からは乱獲、下からは北極水で、この生態系がこれからどうなるかは見物ですぜ、旦那。

2ページの短い論文だから、サイエンスにアクセスできる人は読んでほしい。
わかりやすいので、あっという間に読めるはずだ。

これをどう読めば「地球温暖化が”犯人”~大西洋のマダラ枯渇」という記事になるのか全くわからない。
別の論文かもしれないと思って、目次をみたけど他にそれらしい論文はないし。
納得がいかないので、水産経済新聞に、「サイエンス」の論文の正体を問い合わせ中です。
(問い合わせたところビンゴでした。4/25 追記

おまけ 最後のカラムの全訳
 商業漁獲の対象となる魚類・甲殻類の個体群は、1990年以降大きな変化を示した。特に重要な変化は90年代最初のコッドの崩壊である。この資源崩壊の主要因は乱獲だと考えられているが、カナダのMaritime州(Newfoundland and Labrador)で10年も漁業を停止しても資源が回復しないのは、北極由来の冷たい水が資源の回復を邪魔しているのかもしれない。90年以降、コッド以外の魚類・甲殻類の資源量は増加している。ズワイガニやエビが増加したのは、コッドによる捕食圧の減少によるものだいう説明はとても妥当に見える。生態系のレジームシフトの論文の中で、Frankらは底魚、底生甲殻類、動物プランクトン、植物プランクトンの変動について報告している。彼らはそれらの変動をコッドの乱獲に起因する食物連鎖で説明しようとした。餌生物のいくつかは、コッドの捕食圧が弱まったために増加したのだろう。しかし、特に食物連鎖の下位に位置する植物プランクトンや動物プランクトンの増加をどの程度までコッドの捕食圧の減少で説明できるかは明らかではない。コッドが崩壊していなくても、1990年代の北西大西洋に物理環境の変動に起因するボトムアップのレジームシフトが起こったと我々は考えている。北西大西洋の大陸棚生態系は、物理環境によるボトムアップの外圧と、捕食者の乱獲によるトップダウンの外圧に晒されている。これらの生態系の命運を予測することが、21世紀の海洋学の重要な使命である。 

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コッドの崩壊も環境変動が原因? への5件のフィードバック

  1. beachmollusc のコメント:

    一昔前には、海で何か変なことが起こればすべてエルニーニョのせいでしたが、今は地球温暖化が交代してすべての問題のキャッチフレーズになりました。特にぶんやサン達はこのキーワードがくっつく情報ならば何でもあるある、の世界でしょうね。面白いエントリーでした。

  2. ある水産関係者 のコメント:

    新水産基本計画の案(と言ってもほぼ完成品でしょうが)が水産庁のHPで公開されていました。ちょっと場違いかも知れませんがお許し下さい。
     これからの10年間の水産施策の基本方針となるだけに、大変興味深く読みましたが、読み終わった後のむなしい失望感もひとしおです。まあ予想通りと言えば予想通りですが・・・。

     まず、10年後(2017年)の生産目標だけは、相変わらず気前がいい。568万トンと2005年の511万トンから約1割もアップしている。前の基本計画でも大きな目標を掲げておいて、実際は当時の漁獲量さえ下回ったばっかりなのに、その時の教訓が全く生かされていない。「賢者は歴史に学ぶ、愚者は経験に学ぶ」というが、歴史にも経験にも学べない人達は何と表現すればよいのでしょうか?(←厄人?)

     どうして資源が悪いのかわかっている中、その真の原因を頑として認めようとしない。「(7頁)漁業生産量が増大していない要因としては、我が国周辺水域の水産資源が、藻場・干潟の減少等による漁場環境の悪化も背景として、一部には回復の動きがあるものの全体としては依然低位水準にとどまっていること、漁業就業者の減少・高齢化など生産構造の脆弱化が進んでいること等が挙げられる。」と言ったくだりなど、国民が素人だと思って馬鹿にしているとしか思えませんね。基本計画を策定した審議会は、きっと役所が用意した作為的な案をオーソライズするために利用されただけでしょうが、それにしてもこの案を了承する際、高名な委員の人達に良心ってやっぱり(?)なかったんですね。せめて一人ぐらい、気骨のある人がいても良さそうな気もするけど、そう言う人は委員に選ばれないのでしょう。

     国際資源に関するくだりについても、「(18頁)我が国が世界の漁業生産及び水産物の消費に於いて大きな地位を占めていることを十分に踏まえ、我が国のリーダーシップを発揮しつつ、国際的な水産資源の評価や過剰漁獲能力の削減、IUU(違法、無報告、無規制)漁業の取り締まりをはじめとする取り組みを強化する。特に、資源状態の悪化が懸念されているマグロ類について地域漁業管理期間の連携を強化する。・・・・」、だって。もちろん、ここでいう過剰漁獲能力とかIUU漁業の取り締まりなど、日本漁船を対象にしているわけではなく、いかにも「悪いのは全て外国漁船ですよ」と言いたげだ。ただし、19頁の「責任ある漁業国としての適正な操業の実践」では、「漁獲量の個別割当て方式の導入や衛星船位測定送信機の設置義務付けの対象となる魚種・漁業種類の拡大について検討を行い、資源管理に必要な規制や取り締まり体制の強化を図ることにより、責任ある漁業国として我が国漁船の国際取り決めの遵守に万全を期する。」とあり、いかにもまともそうなことが書かれてあるが、そもそもこんなことは全てやって当然の話である。未だに「・・・ついて検討を行い、・・・」と言っているあたり、やる気に疑問を感じてしまう(多分、この基本計画の10年間は「検討」だけで終わるのでしょう)。

     是非、勝川さんほか、これを読まれた方は新しい水産基本計画に目を通されると良いと思います。今後10年間の水産施策の基本指針だけに、日本の漁業が如何なる方向に進もうとしているのか、よく理解できると思います。当然、読後の感想もある程度予想が出来ますが、私など、政府も有識者もこのように利害に縛られて身動きできないような惨状では、日本の漁業を再生させるためには、どこかの過激な環境団体か外圧によって思いっきり叩いてもらうほかない、と考えるようになりました(←自浄能力のない日本の漁業界にとって最も効果的で現実的な方法でしょう)。

    新水産基本計画原案:http://www.jfa.maff.go.jp/release/19/022001-06.pdf

  3. kato のコメント:

    擁護という訳ではありませんが、水産庁の中の人はかなり正確に現状を把握していますし、また近年その姿勢も明らかに変化しています。マグロでの反応にしろサバの対応にしろ、おそらく10年前(沿振法の時代)であればもっと生産者寄りの動きをしていたはずです。

    もちろん役所なので担当者による当たりハズレは大きいですが。

    こういった計画案は結果よりその作成過程が重要なこともあります。タイムラグはあるにせよそれら議事録も公開されてきたので、最終案にあれこれ言うのはナンセンスというようにも思えます。

    また外向け(対大蔵)という視点で見ると、大きすぎる数字を作ることも変化のない(見えにくい)表現をすることも「有り」だと個人的には思います。要はこれを基に水産庁が今後どう具体的な動きをするか?という方が重要なのでは。と思うのです。

  4. ある水産関係者 のコメント:

    サバのTAC超過についてコメントがありましたので、御存知ない方もいらっしゃるかと思いますので一言。
     3月14日付で、水産庁のHP(http://www.jfa.maff.go.jp/release/19/031401.htm)に、以下のプレスリリースがありました。

     「大中型まき網漁業によるサバ類を目的とした採捕の停止について
     今般、大中型まき網漁業によるサバ類の採捕数量が、同漁業に配分している平成18年漁期の漁獲可能量(TAC)を超過した事実が判明した。このため、3月14日付けでサバ類のTAC管理団体である(社)全国まき網漁業協会に対し、サバ類の採捕を目的とする操業を自主的に停止するとともに、今後、このような事態が生じないよう改善措置計画を策定するよう求めた。
    (参考)
     1 平成18年漁期(平成18年7月~平成19年6月)のサバ類TACは58.8万トンであり、このうち大中型まき網漁業に29.6万トンを配分。
     2 サバ類の総漁獲量は、現時点において、平成18年漁期のTACの総量(58.8万トン)を超えていないが、大中型まき網漁業による採捕量は、北部太平洋水域での漁獲が高水準であったことから、2月末時点で36.2万トンに達しており、前述のTAC数量を6.6万トン超過。」

     まず、「やっぱりか」と言うのが最初の感想でした。特に、サバについては、昨年秋の豊漁の際、あれほどTACの超過懸念が取り沙汰されていたのに・・・。
     TACを超える漁獲をした当事者は言うにおよびませんが、問題は、このような事態に至った原因の究明と対策がキッチリ出来るかどうか、にあると思います。
     折しも時を同じくして、気象庁がサクラの開花予想ミスについて、原因の分析と謝罪を行ったばかりでした。今回のTAC超過の問題と類似点がある気がしてなりません。
     気象庁も水産庁も同じお役所ですが、注目度の違いはあるにしろ、問題の本質はこのような対応の違いにあるのかも知れませんね。

  5. 勝川 のコメント:

    beachmolluscさん
    注目度が高く、予算が付きやすいので、猫も杓子も温暖化ですね。
    この前、海洋工学の人からきいたのですが、
    二酸化炭素を海中に沈める技術があるらしいです。
    海に鉄をまいて吸収させるという話もあるし。
    皆さん、いろいろ考えますね。

    ある水産関係者さん
    事前に委員の素行調査をしっかりやっているという噂です。
    基本計画に関しては、我々外野が公開後につっこみを入れつづけるしか無いですね。

    サバの超過漁獲に関して
    漁業者は期中改定することを前提にしていたのでしょう。
    業界と水産庁の間で、いろいろあったらしいです。
    期中改定をしなかったことに関しては、水産庁Good Jobですね。
    期中改定の問題点を指摘し続けた甲斐がありました。

    katoさん
    >水産庁の中の人はかなり正確に現状を把握していますし、
    うーん、それはどうでしょうね。
    人間社会の利害関係は熟知していると思いますが、
    海の中の資源については全く理解できていないです。

    >また近年その姿勢も明らかに変化しています。
    >マグロでの反応にしろサバの対応にしろ、
    >おそらく10年前(沿振法の時代)であれば
    >もっと生産者寄りの動きをしていたはずです。
    たしかに10年前とは対応は違いますね。
    サバに関しては、数年前なら迷わず期中改定していたでしょう。
    ただ、それは水産庁が変わったというより、
    むしろ、外部の状況がそれを許さなくなっただけです。

    大蔵向けにバラ色の計画を作る必要があるのはわかるのですが、
    あまりに目標と中身がかみ合っていないと言うか・・・

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