- 2008-06-24 (火) 17:55
- 研究
水産海洋の和文誌におもしろいシンポジウム記録があった。
東北ブロック水産海洋地域研究集会
資源変動と流通加工の変化に対応した多獲性魚類の漁業生産のこれから
水産海洋 72(2) 113-143, 2008
示唆に富む内容で、「聴きに行かなくて、残念だったな」と思った。
漁業をなんとかしたいという意志を持った人たちばかり、よく集めたと思う。
これ以上の人材は、国内にはあまりいないだろう。
逆にいうと、日本の漁業界の発想の限界が示されたということだ。
漁業が衰退していく中で、どう立ち回るかばかり議論していて、
漁業という産業の構造的な問題に誰も切り込まない。
なんの政策もなく、政局ばかり見ている政治家と同じ構図だ。
獲るところで終わりにせずに、加工・流通までつなげようという意図はすばらしい。
ただ、流通・加工に関しても、獲る側からの視点が強く、
最終的な消費者が頭に無いのは残念だ。
産業を考える起点は、魚を捕りたい漁業者ではなく、消費者であるべきだ。
日本の漁業を、消費者が求める魚を獲るための産業にしないといけない。
物事を考える方向が逆だと思う。
また、「経費削減で採算割れを防ごう」というのが主な関心のようだが、
この考えをいくら進めても、漁業の衰退を止めることはできないだろう。
日本近海の魚は、急激に減り続けている。
資源管理をしないで、今まで通り魚をとり続けようというのは非現実的だ。
補助金で省エネ漁船を新造し、瞬間的に採算を合わせたところで、
赤字に転落するのは時間の問題だろう。漁船を新造する費用が稼げるとは思えない。
今後も、今と同じだけ魚が捕れるように資源管理をしないと駄目だろう。
1)資源管理をしかりやる
2)マーケティングを徹底し、消費者が求める魚を持続的に安定供給する
この2つの視点から、利益が出るような漁業のあり方を考えないといけない。
漁業者が獲れるものを獲れるだけ獲ってくる現状を変えないといけない。
消費者無視の漁業の現状に手を入れず、漁船の構造を多少効率化したぐらいで、
漁業の方向は変わるはずがない。
Comments:1
- 業界紙速報 08-06-25 (水) 18:50
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今週月曜のみなと新聞、日本漁業「責任」時代へ、は、なかなか立派なご託宣でした。
「規制改革の主点は、個別漁獲枠制度の導入である。あらかじめ個々の経営体に漁獲枠を配分するのは、枠の既得権益化であり、自由競争の対極に位置している。」
自明なようで理解され難く、守旧派にしてみれば既得権益化するのは新規参入する大資本だから見過ごせない措置だ、と攻撃されるのですかねえ。ちなみに、先週の「市場原理主義」は有効か?は、東京海洋大学の馬場氏のものでしたが、最後の結論は「現在の日本漁業が抱える問題の解決は、単に効率的な漁業経営体を外部から導入することで実現されるのではなく、その問題の本質に関する分析を通じて、現在ある漁業経営体の進むべき方向を明らかにすることによって図られるべきである。」ということで、前に登場された東大の先生同様、精神論に終わっています。未だ分析しなければ進むべき方向を明らかにできないのでしょうか?
たとえば、馬場氏が「上」で、漁業権の優先順位付与制度は有効に機能しているとして、限られた漁場内の資源に依存して暮らさなければならない多くの漁業者の生活を保障するものである、と述べておられるが、今後この制度の下でどれほどの漁業者の生活を保障していけるのでしょうか?このまま状況を放置しておいて大丈夫?
これとは別に、「下」で具体例を3つ挙げておられますが、①では漁場利用体制を改めるきっかけとなったのは『それまで好調であった沿岸部での漁船漁業が1970年代に低迷し、』たからではなかったか?漁船漁業が低迷したのは、地球温暖化による海況の変化であったのでしょうか?(みっともない後出しジャンケンで失礼しました。)
②は『漁業では従来はマダラ底建網収入を中心として地域経済を築いてきた地域』の事例で、やはり『マダラの来遊減少、定置網の漁獲不振』等により変革を求められた結果、『沿岸漁業については、漁協が中心となり漁業権を点数化し、個人の所持できる点数に上限を設け、漁業者間の漁場利用配分の適正化と所得均衡を図る対応をとってきた』とのことです。これは、拠って立つところは違い形態は異なるけれども、個別漁獲枠の導入と同じことではないのか?そして、マダラやカタクチの漁獲が減少した原因には目を瞑るのですか?馬場氏は、これらの事例のように地域で漁場利用の適正化が図られると考えておられるのでしょうけれども、ここで指摘させてもらったとおり、地域で適正化を図るきっかけとなったのは漁獲の減少であったのではないのか?既に乱獲レベルにある資源に対するに、これらの事例に倣って適正化を図っていて間に合うのでしょうか?
投稿が遅れて氏の記事が先に出てしまったんだけど、氏が描くとおりの規制改革であるならば、馬場氏の挙げた事例とはまったく矛盾しないものではないでしょうか?そもそも、事例②のような漁獲が減少してしまった『典型的な出稼ぎ地帯』に出張っていく外部資本があるとは思えません。そのような地域では、規制改革の下でも漁業主体となるのは従来の漁業者になるのではないでしょうか?小子も小泉流改革には辟易していますが、東大の先生や北大、海洋大の方々には改革アレルギーでもあるんじゃないでしょうか?小子は、馬場氏が挙げている事例のように漁獲が減少してからいろいろ策を講じるのは泥縄ではないかと感じており、漁業者の漁獲能力が向上しているうえに多くの資源が乱獲に陥っている現状では、予防的な手法が必要ではないかと思います。そのためにも、「現在の日本漁業が抱える問題の本質に関する分析」を明確に説明していただき、具体的な処方箋(あるいは、改善の方向性、でもいいですから)を提示していただきたいものです。JF研究会に大いに期待しているとおっしゃる氏には、本当に頭が下がります。
そして、「日本の漁業を、消費者が求める魚を獲るための産業にしないといけない」とは。素晴らしい視点。なんという慧眼。凄みが出てきましたねえ。褒め過ぎですかね、昇進祝いということにしましょう。
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